―― 1日目・昼 ――  
 
 
日差しが強かった。  
冬の冷え込みなど既に跡形も無く、暑さすら感じる陽気の中で桜の花びらが散っていく。  
それを眺めながら、佐野拓海(さのたくみ)は漠然とした危機感を抱いていた。  
高校二年の春。  
取り立ててまずい状況にある訳でもなく、家庭環境にも人間関係にも恵まれてはいる。  
しかし一度きりの貴重な青春を、級友……木嶋瑛太(きしまえいた)と横並びになってカフェで浪費するのは、如何なものか。  
 
「なんかさぁ、こう、パーッとすげぇ事起こんねぇかなあ」  
拓海の心情とリンクしたかの如く、瑛太がぼやいた。  
退屈そうにスマートフォンの表面をなぞるその姿は、まさに若さの浪費そのものだ。  
「何か、目新しいニュースでもないの?」  
拓海が尋ねると、瑛太は指を滑らせながら退屈そうに首を振る。  
「いんや、新着の殆どがいつもの通りだ。お隣の国がどうとか、北陸でデカめの余震がとか、  
 あとは……『Blow Up Pumpkin』関連ばっかだなぁ」  
その言葉に、拓海もまた嘆息する。  
 
『Blow Up Pumpkin』。  
カボチャの殻のごとくに閉塞的な現実を打ち壊し、世間に風穴を開ける。  
それを標榜して過激な行為を繰り返す、不特定多数の犯罪組織の通称だ。  
今までに大小80件あまりの事件を起こし、300名を超える逮捕者が出ている。  
ここ数年、それらの不穏な行動がニュースサイトで報道されぬ日はない。  
 
「また怪我人が出たらしいぜ。いくら暇してるっつっても、こういう奴らには関わりたくねーよな」  
瑛太は首を振りながらスマートフォンを置き、店内を見回し始めた。拓海もつられて周囲を眺める。  
店内に人影は見当たらなかった。  
この時間帯なら、主婦やスーツ姿のサラリーマンが居座っているのが常だが、今日に限っては誰もいない。  
たまたま学校が早く終わった拓海達の貸切状態といえる。  
 
しかし、周囲を眺め回していた瑛太がふと一点を見つめ、拓海の耳に唇を寄せた。  
「……おい拓海、見ろよ。あれ、伊崎柚芽(いざきゆめ)じゃね?」  
拓海が瑛太の視線を追うと、拓海からは死角にあたる柱の影に、見慣れた高校指定のスカートが覗いている。  
    
伊崎柚芽は、拓海達が通う高校でも特に男子人気の高い女生徒だ。  
肩まで伸びた癖のない黒髪に、やや薄幸そうなきらいはあるが男の目を引く瞳。  
まろみを残す顎のため、どちらかといえば童顔に見えるが、とても整った貌立ちをしていた。  
ウェストラインや脚線などは今時の女子高生の平均といった所だが、ただ一つ、胸の膨らみだけは非凡といえる。  
制服を着用してなお外にせり出すその乳房は、いやが上にも思春期の少年の心をくすぐる。  
そうした男好きのする容姿のみならず、学業面でも優秀で、内気ではあるが性格も良いとあっては、  
学年のアイドルと化すのも無理からぬ事といえた。  
 
「ほんっと可愛いよなー、伊崎柚芽。ああいう子が彼女なら、バラ色の高校生活なのに……」  
「うん、確かに」  
瑛太の漏らした言葉に、珍しく拓海も便乗する。  
あまり『可愛い女子』談義に混じらず、クール気取りと揶揄される拓海にさえ、柚芽という少女は魅力的に映った。  
 
普段は別の女子生徒と居ることの多い柚芽だが、今は一人で音楽を聴きながら本を読んでいる。  
時おり手首の腕時計に視線が落とされ、待ち合わせか時間潰しが目的と思われた。  
「あの子が一人なんて珍しいな。  
 ……なぁ、これってチャンスじゃね?俺、ちょっと告ってこようかな」  
瑛太は椅子の背に腕を乗せ、露骨なまでに柚芽を凝視しながら告げる。  
とはいえ、それも口だけの勢いであると拓海には解っていた。  
瑛太は言葉の上でこそ調子が良いが、いざとなれば腰の引けるタイプだ。  
仮に彼ら二人の前で老婆が不良に脅されていたなら、止めに入るのは平素は悠揚としている拓海だろう。  
そういう意味では、二人は良い相棒同士といえる。  
 
瑛太がなおも言葉だけの虚勢を張る中で、拓海は前方に視線を戻した。  
そして半ば氷の解けたアイスティーを手に取った、次の瞬間。  
突如、店内の照明が落ちた。  
「おわっ!?」  
瑛太が驚きに声を上げる。  
窓からの光で視界こそ確保できているが、急激な明度の低下で拓海の世界はモノクロに変わっていた。  
「きゃあっ!」  
遠くで少女の叫び声がする。状況からして柚芽のものに違いない。  
それと平行して複数の足音が木床を踏み鳴らし、拓海達を取り囲むのが解った。  
「な、何だアンタら!?何を…………っ!…………」  
叫びかけた瑛太が言葉を詰まらせ、床に倒れこむのが見える。  
拓海はそれら一連の事態に当惑しながらも、素早く振り返って正面を見上げた。  
喪服を思わせる黒装束に身を包んだ、数名の男女がいた。  
その手には青白い電流の迸るスタンガンが握られ、そして……鋭い衝撃が拓海の身体を貫く。  
 
意識を失うまでには、一秒と掛からなかった。  
 
 
※  
 
 
「…………う、ん…………」  
拓海は意識を取り戻す。  
左半身にごわついたマットレスの感触がある。  
それは服に緩和されてはおらず、そこで初めて、彼は自分が裸である事に気がついた。  
 
「三人とも、気がついたようだな」  
情報から渋みのある、重々しい声が振ってくる。  
見上げると、そこには意識を失う直前に見た、喪服のような黒装束の男達がいる。  
「っ!!」  
立ち上がろうとして、拓海は違和感を覚えた。  
両腕が身体の後ろに回され、手首部分に手錠が繋がれているようだ。  
もがく中で、視界に二つの人影が見えた。  
一人は瑛太だ。やはり裸であり、線の細い身体を晒している。  
 
その後ろには……柚芽がいた。残酷な事に、少女である彼女もまた服がない。  
後ろ手に拘束されて身を隠す術も無く、零れるような、しかし張りのある美乳が露わとなっていた。  
肌は極上の桜色で、腿はほどよく引き締まり、茂みはやや薄い。  
拓海は、不謹慎ながら生唾を呑む思いだった。  
なぜ柚芽が学年のアイドルたりえるかを思い知らされるようだ。  
この特長を目敏く見つけだした男子共の眼力には、ただ感服する他ない。  
 
「……な、何なんだよ、アンタら…………っ!!」  
かろうじて振り絞ったという声色で、瑛太が問う。  
黒装束の男達は顔を見合わせ、確認するように頷いてから顔を戻す。  
「正式な組織名ではないが、『Blow Up Pumpkin』と言えば通じるだろう?」  
一人が発したその言葉に、拓海達は表情を強張らせた。  
その反応を愉しむかのように間を置いてから、その一人は続ける。  
 
「知っての通り、我々はこの閉塞的な世に風穴を開ける事をその存在意義としている。  
 世間に衝撃を与え、癒着や旧態依然の体質に塗れた、このぬるま湯の治世を改めさせる。  
 その為ならば手段は選ばない」  
「……それで一体、何をしようって言うんですか。僕達はただの学生だ!」  
拓海が非難の声を上げると、男は黙って室内を指し示した。  
拓海はそこで、改めて今いる場所を確認する。  
 
妙な部屋だ。ほぼ真四角になった壁面は白いコンクリートで塗り固められ、窓がない。  
しかし代わりに、普通の部屋にはない磔台のようなものや、何かを吊るすための拘束帯が天井から下がっていた。  
部屋の片隅にはベッド、逆側には簡素なタンス、さらに中央には小さな机がある。  
机の上にはノートパソコンが開いた状態で置かれていた。  
明らかに生活空間ではなく、監禁部屋といった風だ。  
もっとも、服を取り去られて手錠を掛けられた現状がすでに、監禁以外の何物でもないのだが。  
 
「お前達には一週間の間、この部屋で即興のアダルトビデオを作成してもらう。  
 ビデオに出演するのは、他ならぬお前達自身だ」  
 
男が続けた言葉に、三人は再び声をなくした。意味はすぐに理解できたが、受け入れられない。  
男は拓海の前に一台のハンディカメラを置いた。  
 
「お前達のようにありふれた平凡な学生同士が、突然閉じ込められた部屋で作ったアダルトビデオ。  
 それがこの建物の中で、8つ同時に作成される。  
 この部屋の隣にも、またその隣にも、同じような境遇の連中がいるからな。  
 それら8本のビデオは同志専用のWEBページで公開され、悪意ある“視聴者”からの反応を募る。  
 視聴者の反応はポイントとして加算され、その結果として最終日にトップを飾っていれば、ここから開放してやろう」  
 
その言葉を耳にしても、拓海にはそれが現実のものと思えなかった。  
春の眠気の中、夢から覚醒しきらないままに聴く言葉のようだった。  
しかし、一点だけ気になることがある。  
 
「……ま、待ってください。もしも最終日にトップじゃなかったら、どうなるんですか?」  
そう問いを発したのは、柚芽だ。  
声こそ震えていたが、どこか憂いを帯びたような瞳を見開き、疑念の意思を伝えている。  
「そうなれば、どこかに売り飛ばすだけだ。お前のようにルックスのいい娘なら、マカオか上海に。  
 男は男で、男娼にするなり、臓器を売り捌くなり、スナッフムービーに出すなり……用途は色々とある。  
 いずれにせよ、人間としての意識を保ったまま世間を出歩くことは出来んがな」  
黒装束の男は、好色そうな瞳で柚芽を見下ろしながら答えた。  
他の人間達も同じくだ。まるで、三人の不幸を蜜の味として愉しむかのように。  
 
    
 ―― 1日目・夜 ――  
 
 
拓海達三人は、手錠を外されてから部屋に取り残された。  
部屋の扉は外側からロックされているらしく、開く気配はない。  
窓すらないこの部屋から脱出する事はまず不可能だろう。  
三段になったタンスにも状況を打開できる道具はなかった。  
下段にはシーツや毛布、中段には縄や各種マニュアル本、上段にはローションボトルと電池などの小物がある。  
いわゆるジョークグッズの類も、一通り揃っているようだ。  
 
拓海はとりあえずシーツを取り出した。柚芽の為だ。  
思春期の娘が、同級生とはいえ殆ど他人に等しい男に裸を見せるなど耐え難いだろう。  
柚芽はへたり込んだまま脚を内股に閉じ、手で必死に乳房を隠していた。  
「……あ、ありがとう」  
差し出されたシーツに気付くと、受け取りながら小さく礼を述べる。  
瑛太は解りやすいほど顔を赤らめ、柚芽に背を向ける格好で縮こまっていた。  
口では威勢のいい事を言うが、こういう状況下ではすぐに女の方を向けない性質なのだ。  
 
「しかし、参ったな」  
拓海は自分もシーツを羽織ながら、部屋の中をさらに探索する。  
手狭ながら、洋式便器付属のシャワールームが備え付けられているようだ。  
タンス脇の壁にはダストシュートを思わせる開閉口が2つあり、小さな説明文が添えられていた。  
一つは食料が配給されるボックス、もう一つは汚れたシーツや道具を返却するためのボックスらしい。  
試しにタンスからローターを取り出して返却ボックスに入れると、中で駆動音がし始める。  
しばらくすると開閉口が開き、真新しくラッピングされたローターが姿を現した。  
しかしそれだけで、脱出の手がかりにはならない。  
 
その時だ。部屋の中央に置かれたノートパソコンからメールの着信音が響いた。  
「そういや、これで助けを呼べるんじゃ……」  
瑛太が振り向き、極力柚芽を視界に入れないようにしつつパソコンに向かう。  
そこには新たなメッセージが届いていた。  
メールというよりはチャットの言葉のようだ。  
 
『オイ、何やってんだよ!さっきから壁しか映ってねえじゃねぇか!  
 せっかく可愛い子がいるんだから、ハダカ映せよ!!』  
 
メッセージにはそうある。  
拓海にはすぐにそれが、黒装束の男が言っていた“視聴者”からの反応なのだと気付いた。  
    
「壁しか映ってないって、何が……」  
瑛太はそう言いながら、視線を巡らせる。そしてその視線が、床に置かれたままのハンディカメラで止まる。  
そのカメラは、確かに白い壁の方を向いていた。  
「…………お、おい……マジかよ。まさかこのカメラの映像って、リアルタイムで流れてんのか?」  
瑛太は震える声で言いながら、カメラのレンズを覗き込む。  
すぐに新しいメッセージの着信音が響いた。  
 
『お、キター!って、男かよ……』  
『だからヤロウとか要らないんだよ。さっさと女映せ』  
 
もはや疑念を挟む余地もなく、カメラの映像は第三者に視られている。  
しかし瑛太がノートパソコンでのネット接続を試みても、繋がる気配はない。  
どうやら受信専用の設定にされているようだ。  
その代わり、チャット部分以外に一つだけ選べるアイコンがある。  
メディアプレイヤー。ここを含めた8つの部屋のビデオ映像を、切り替え式で鑑賞できるようだ。  
そして一番目の部屋を選択した瞬間、パソコンのスピーカーから大音量が響き渡る。  
 
 ――い、いやああああっ!!!!やめて、やめてぇえっ!!!!』  
それは若い女の叫び声だった。  
その叫びを聴き、遠くで縮こまっていた柚芽が怯えたように顔を上げる。  
映像の中では、柚芽と変わらない歳の少女が、他の二人の男に押さえつけられて犯されている。  
 ――ジタバタすんな、しょうがねぇだろ!お前も聞いただろ、AV撮らなきゃ死ぬんだよ!  
  ――そうだ、これはお前の為でもある!ヤらなきゃどうしようもねぇんだ!  
男二人は女を押さえつけながら叫ぶ。しかしその顔は色欲に歪んでいた。  
生き残る為に仕方なくというよりは、状況を盾に欲望を満たそうとしているのが明らかだ。  
 
チャンネルを切り替えても同じだった。  
実に8つの部屋のうち6つで、凄惨なレイプが始まっている。  
残る二つのうち一つは、話し合いで事に及ぼうとしているが、女は耳を塞いで半狂乱になっている。  
そのうち他の部屋と同じ道を辿るのは明らかだった。  
メッセージが届く。  
    
『おい、他の部屋覗いてる場合かよ。今お前ら、ポイントで他の部屋にぶっちぎりで負けてんぞ。  
 俺はあの娘が中々気に入ったからこうしてコメントしてるけど、今のままじゃそのうち見捨てんぞ。  
 結構気ィ弱そうな娘じゃん、一気に行っちまえって』  
 
その文面を見て、拓海と瑛太は無意識に柚芽へと視線を向けた。  
柚芽はおおよその状況を把握したのか、シーツに身を包んだまま後ずさりする。  
そして後退がベッドによって遮られた時、歯を打ち鳴らし始めた。  
人によっては、かえって嗜虐心を煽る子ウサギのような行動だ。  
ルックスの良さも合わさり、こういう状況下では真っ先に犯されてしまうタイプだろう。  
部屋にいるのが、拓海と瑛太でなければ。  
 
「…………怯えなくていいよ」  
拓海はできるだけ相手を刺激しないよう、柔らかな口調で告げた。  
「え?」  
柚芽が鈴を揺らすような声を漏らす。  
拓海がちらりと横を見ると、その意図を汲んで瑛太が続けた。  
「あ、ああ。俺達別に、伊崎さんをムリヤリどうこうしようとか思ってないから。  
 どっちもキライなんだよ、そういうの」  
真っ直ぐには柚芽を見られず、視線を横向けながら告げる瑛太。  
一方の拓海は柚芽を正視してこそいるが、その涼やかな瞳には邪な心は見られない。  
 
柚芽はその二人を見上げながら、記憶を探っていた。  
何度か廊下ですれ違った事のある、いつも二人でつるんでいる男子だ。  
長身でクールな雰囲気を持つ一人と、陽気で調子のいいもう一人。  
その連れ合いは、見ていて微笑ましいものだった。  
確かにそんな彼らが、自分を悪くするとは思えない。理屈ではなく感覚として、柚芽はそう悟った。  
「…………うん」  
柚芽は小さく頷き、心を許した証として、身に固く巻きつけていたシーツをやや緩める。  
豊かな乳房は、ただそれだけで白い上半分を覗かせた。  
思春期の男には悩ましいまでに扇情的な光景だったが、拓海と瑛太は必死に欲望を押さえつける。  
 
その日はそのままシーツに包まり、眠りに落ちる事にした。  
次に目が覚めれば、いつもの日常に戻れるのではという希望を抱いていた。  
しかし次の朝。彼らは、ここでの現実を知らされることとなる。  
 
    
 ―― 2日目・朝 ――  
 
 
「…………う、嘘、だろ…………? メシって、これが、か…………!?」  
 
配給ボックスを覗き込み、三人は愕然としていた。  
ボックスの中にあったのは、500mlペットボトルの水が一本と、キャラメル一かけら。それだけだ。  
パソコンにメッセージが届く。普段のチャットとは違う、メールだ。  
 
『おはよう、いい朝だ。俺はルーム8、お前達に与えた部屋のマネージャーだ、宜しくな。  
 早速だが、配給の品は確認したようだな。それがお前達の、今朝の食事だ。  
 乏しかろうが仕方がない。それは、お前達自身が選択した結果だからな。  
 何しろ、お前達が昨日得たポイントはたったの12。  
 食事の配給は、時間帯で得たポイントに10を掛けた金額内で賄う事となる。  
 お前達の昨日の働きは、三人合わせて120円という事だ。  
 勿論、これからも制度は変わらない。飢え死にしたくなければ、早めに現状を受け入れる事だ。  
 ……では、健闘を祈る』  
 
三人は、呆然とメールの文面を眺めていた。  
デスクトップには変わらずチャットも開いており、いくつかの新着コメントが見える。  
 
『なんだこの部屋、何もせず寝てやがんの。体力ある内にやらねーと、ドベ決定なのにな』  
『あーあー、駄目だこりゃ。でもこの部屋、女は一番可愛いんだよなぁ。勿体ねー』  
『ホント可愛いよなぁ、即アイドルになれそう』  
 
それらのコメントを見ながら、柚芽は表情を固くしていた。  
「とりあえず、伊崎さん食べなよ」  
拓海はボックスから取り出したキャラメルを柚芽に差し出す。  
しかし柚芽は、それまでで一番と思えるほどに強い否定の意思を示した。  
「いいよ。私の…………せいだから」  
罪悪感を色濃く漂わせながら、唯一の配給品に暗い視線を落とす柚芽。  
 
拓海は一旦キャラメルを戻し、代わりにペットボトルの水を差し出す。  
「ならせめて、水だけでも!」  
柚芽は拓海を見上げた。  
その額といい首筋といい、至る所に汗が浮いている。  
この状況に精神的圧迫を感じての発汗である事は明らかだった。  
そのままでは、脱水症状になる可能性が高い。  
再び断ろうとする柚芽だが、身を案じる拓海の強い視線に押される形でペットボトルを受け取る。  
「じゃあ、ちょっとだけ……」  
柚芽は細い指で蓋を開け、ボトルを頭上に翳す。  
飲み口を唇につけず、あふれる水を直に喉で受けるようにして。  
 
たった一本しかないペットボトルなら、当然ながら三人で回し飲みする事になる。  
柚芽の飲み方は、後から飲む人間が遠慮しないよう気を遣ってのものだろう。  
自分よりも、他人の心配ばかりしてしまう子。  
柚芽にはそのような噂があった事を、拓海と瑛太は思い出した。  
そしてその柚芽の性格が、彼女に行動を決断させることとなる。  
 
    
 ―― 2日目・昼 ――  
 
 
空腹から来る腹鳴りが、部屋に響き続けてていた。  
昨晩から通して数えても、三人がそれぞれ僅かな水しか腹に入れていない。  
 
「なぁ拓海。ローションって食えるんだったよな、確か」  
「海草が原料だから、害はないらしいね」  
拓海と瑛太は、タンスから取り出したローションのボトルから少量を手に取り、舐め始めていた。  
ぬめらかな舌触りに、若干の生臭さ。けして美味しいものではない。  
しかし腹が締め付けられるほどに飢えている今は、その生臭さですら苦痛を緩和してくれる。  
ローションで空腹を紛らわせる少年達を、柚芽は膝を抱えて見つめていた。  
その表情は、誰かの腹部が鳴るたびに強張り、次第に思いつめたものに変わっていく。  
そして、数時間後。柚芽は唐突に立ち上がった。  
それまで華奢な身体を覆っていたシーツが床に落ち、柚芽の裸体が露わになる。  
 
『ついに脱いだ!』  
『お、こっちも動きあったか。へぇー、うまそうなカラダしてんな』  
『つか、おっぱいでけぇーー!』  
 
すぐに一つのコメントが付き、それに釣られたように他のコメントも出はじめる。  
コメントの着信音で事態を把握した拓海達は、目を丸くした。  
「い、伊崎さん!シーツ、落ちちゃってる!!」  
「そ、そうだよ!裸、丸見えになってるって!!」  
慌てて駆け寄る2人を、柚芽は視線で制する。  
そしてハンディカメラを拾い上げ、固まっている瑛太に手渡した。  
瑛太は間近に迫った柚芽の乳房に動揺し、震えるような動作でハンディカメラを受け取る。  
柚芽はしっかりとカメラのレンズを見ながら口を開いた。  
 
「……この映像を見ている皆さんに、お願いします……。私達に、ポイントを下さい。  
 私達は今、とても、とても、お腹が空いています。  
 皆さんからのポイントが無いと、私と……他の二人は、何も食べられないのです」  
 
心なしかやつれたような表情で訴えかけるその言葉は、拓海と瑛太の心に深く響いた。  
しかし“視聴者”はそれで心動く人間ばかりではないらしい。  
 
『うわぁ、露骨なお涙頂戴で来た。最低な女。なら飢え死にすればいいじゃんブス』  
『コメントが欲しかったら、言葉よりパフォーマンス。これ基本な』  
『そうそう。いくら可愛いっつっても、裸とか見飽きてるから。せめてフェラぐらいしろよ』  
 
ごく少数の同情的なコメントと共に、そうした冷ややかな言葉が次々と浴びせられる。  
それでも、柚芽は退かなかった。  
 
「…………わ、解りました。フェ、フェラ……チオを、…………します。」  
声を震わせて柚芽が告げる。  
そして立ち竦む拓海の傍らまで歩を進め、その足元に膝をついた。  
「伊、伊崎さん!? 駄目だよ、こんな…………!!」  
拓海は拒絶を口にする。  
しかし思春期の逸物は、その豊かな血流によってか、あるいは柚芽の裸体を目の当たりにしか興奮からか、  
見るからに固く勃起しきっている。  
 
「っ……!!!」  
柚芽は凶器ともいえる屹立を、見開いた瞳に収めながら息を呑んでいた。  
しかしゆっくりと手を伸ばして逸物に触れる。  
「伊崎さんっ!!」  
なおも止めようとする拓海の腕を、瑛太が掴んだ。  
「よせよ。お前なら解んだろ。これ以上、女の子にハジ掻かせんじゃねぇ」  
その表情はいつになく険しく、手に構えたハンディカメラが震えている。  
これほどに肝の据わった瑛太を見るのは、初めてかもしれない。  
そう思うと、拓海も自分だけが浮き足立っているのが情けなく思えた。  
 
数度喉を鳴らし、怒張の先端を怯えたような舌遣いで舐め始める柚芽。  
しかしやがて、意を決したように大口を開ける。  
その紅色の口内の暖かさが、先端から徐々に拓海自身を包み込んでいく。  
「うっ……!!」  
拓海は声を上げた。彼にすれば初めての経験だ。  
かなりの深くまで口の中に収まったところで、柚芽は小さく肩を震わせた。  
常に女子集団の中にあり、男子と親しくしている所を見かけない学年のアイドルだ。  
フェラチオというものの知識はあれど、やはり実践経験などないのだろう。  
それでも彼女は、健気に唇をすぼめ、ゆっくりと頭を前後に揺らしはじめる。  
奉仕しながらも時には動きを止め、横目でコメントを追うのも忘れない。  
 
『おー、フェラの横顔すっげぇ可愛い!俺もぶち込みたくなるわ』  
『ほら、吸ってるだけじゃ彼気持ち良くないよー。舌動かさないと』  
『そうそう、唾もたっぷり絡ませてね。そのちっちゃい口から零れる位にはね』  
 
そうしたコメントを認識し、口戯に反映する。  
拓海にすれば、意図的に唾をまぶし、舌まで遣うその奉仕は堪らない。  
強い射精感を覚えながらも、スパートが無いために今ひとつ極まれず、怪しい感覚の中を彷徨う。  
    
濃厚な水音が室内に繰り返された。  
柚芽は視聴者の要望により、水商売さながらに派手な音でのフェラチオを強いられている。  
今また新たなコメントが付いた。  
 
『せっかくそんなでかいチチしてるんだから、パイズリしてよ。  
 パイズリ知ってる? 両胸でアレを挟んで扱くアレ。』  
 
柚芽はコメントを横目に見ながら、両手で自らの乳房を掴む。  
そしてその豊かな柔肉で、今まで咥えていた唾液塗れの逸物を挟み込んだ。  
「うわ、あぁぁっ、すごいよ、伊崎さん……!」  
まるで人肌に暖めたマシュマロだ。  
拓海は、どこまでも柔らかく暖かいその感触に歓喜の声を抑えられない。  
すでにフェラチオで性感の極みを漂っていた彼にとって、その心地よさが最後の一押しとなった。  
「あ、ああっ!!」  
柚芽が乳房を使って数度扱き上げるや否や、拓海の逸物が激しく震える。  
そして汗に塗れた柚芽の顔へと、勢い良く射精を始めた。  
「っ!!」  
柚芽は片目を閉じ、降り注ぐ白濁に耐える。  
 
柚芽はその後、瑛太に大しても同じ事を繰り返し、瞼の上から鼻頭までを白濁に塗れさせた。  
美貌も台無しではあったが、内心では安堵してもいた。  
純情な柚芽がそうまでしたのだから、それなりのポイントは付与されている筈だ、と。  
そして事実、付与されたのは前日とは比にならないポイントではあった。  
しかし一大決心をしたにしては、余りにも割に合わない。  
120ポイント、1200円。  
3人の頭数で割れば、実に400円にしかならない。  
前日の夜から碌なものを食べていない空き腹には、残酷に過ぎる金額だ。  
3人なりに心を殺し、禁忌へ踏み出した結果がこの様なのだから。  
 
夕食として出された握り飯2つと高菜漬けを貪りながら、3人は一言も口を利かなかった。  
このままではまずい。言葉にはせずとも、全員がそう思っていた事だろう。  
 
    
 ―― 3日目・朝 ――  
 
 
恨めしげにすら思える間隔を置いて、腹鳴りの音が響く。  
それに混じり、着信音が響いた。  
一通のメールが届いている。何かのファイルが添付されているようだ。  
 
『おはよう、いい朝だ。随分と憔悴しているようだな。貧しい食事が続いては、無理もない。  
 しかし、お前達は今朝の体調よりも、さらに致命的な事実を認識する必要がある。  
 お前達の現状、累計132ポイントは、8組の中で『最下位』だという事実をな。  
 詳しくは、パソコンのデータで確認してみると良い。愕然とするぞ。  
 俺の経験上、2日目時点でこうも差を付けられたチームが、その後トップに躍り出た例はない』  
 
ここまでを読み進め、3人は誰からとも知れず喉を鳴らした。  
視線を交わす。互いの蒼白な面持ちが見える。  
しかし拓海に促され、ひとまずは文面の更なる続きに意識を戻した。  
 
『とはいえ……お前達も生きたいだろう。  
 俺としても、ルーム8のマネージャーとしてお前達が負けることは好ましくない。  
 そこで特別に、ポイントを稼ぐ方法を伝授してやろう。  
 
 幸いというべきか、他の部屋の人間は現状、猿のようにセックスを繰り返しているだけだ。  
 しかし動画の視聴者連中は、ありふれたセックスなど見飽きている。  
 今でこそレイプ好きの連中がポイントを振込んでいるが、後半へ差し掛かる頃には失速するだろう。  
 追い上げるお前達は、その同じ轍を踏むな。“普通ではないプレイ”に徹しろ。  
 
 “視聴者”のお前達への評価は今、つまらない事しかしない、見る価値のない部屋として一致している。  
 昨日動きを見せたにもかかわらずポイントが伸び悩んだのは、“視聴者”の大半から見捨てられている証拠だ。  
 信頼を失うのは容易いが、再び得ることは難しい。  
 徐々に過激に……というやり口では、抜きん出ることなど不可能だ。  
 だからこそ、自分達は過激な事もできるんだと訴えろ。“視聴者”の度肝を抜け。  
 
 具体的には……女。お前は今日、浣腸でもして脱糞を晒せ。それもできるだけ品なく、惨めたらしくだ。  
 添付ファイルにやり方を記す。  
 あくまでこの案を拒絶する、それで死んでも悔いがないというなら、止めはしないがな。  
 …………ルーム8、健闘を祈る。』  
    
メールの文を読み終わった時、誰一人として言葉が出せなかった。  
特に名指しで行為を指定された柚芽などは、今にも倒れそうなほど青ざめた顔をしている。  
「伊崎さん、大丈夫……?」  
瑛太は堪らず声を掛けたが、柚芽は返事をしない。首すら動かさない。  
ただ震える手でパソコンを操作し、他の部屋にチャンネルを合わせる。  
スピーカーから喘ぎ声が漏れ始めた。  
昨日のような叫び声はなく、すすり泣くような声や、絶望を含む女の声色が繰り返される。  
幾度も暴れ、押さえつけてを繰り返したのだろう。  
映像の中の男も女も、身体の随所に青痣や擦り傷が見える。  
抵抗する気力すら失った女に圧し掛かり、機械的に腰を振る様は悪夢のようですらあった。  
 
しかし、それだけに溜まったポイント数は並ではない。  
794、902、1004、668……。  
各部屋ごとにばらつきはあるものの、拓海達の132ポイントに大きく水をあける点では共通している。  
わずか2日目でだ。  
マネージャーを名乗る男の文面にもあった通り、愕然とする事実だった。  
このままでは1位など望むべくもない。1位を逃せばどうなるのだったか。  
 
 ――そうなれば、どこかに売り飛ばすだけだ。お前のようにルックスのいい娘なら、マカオか上海に。  
  野郎は野郎で、男娼にするなり、臓器を売り捌くなり、スナッフムービーに出すなり……  
 
この部屋へ押し込められて程なく耳にした言葉が、脳裏に甦る。  
拓海は、まるで背骨へ氷柱を入れられたように寒気が走るのを感じていた。  
これは遊びではない。尋常ではない飢えからも解るとおり、どうしようもない現実だ。  
マネージャーの文面はけして大袈裟ではないと、脳が理解し始めている。  
だが……それに従うならば、今横で同じように震えている華奢な少女に、恥辱の行為をさせる事になる。  
 
拓海は、恐る恐る柚芽を見やった。  
今ここで視線を向ける事が、あるいは悪魔の如く残酷な行為に思えた。  
柚芽は俯いている。  
豊かな乳房を挟み込むように手指を組み、絶望的な面持ちで。  
その悲壮な横顔に、同じく柚芽を見つめていた瑛太の顔が歪む。  
拓海は堪らず、柚芽を励まそうとした。打開案など何もなく、ただ一時の安らぎの為に、無責任に。  
しかし、まさに拓海が声を発そうとした瞬間、それに先んじて柚芽が口を開いた。  
    
「マネージャーって人のメール、あれ、その通りだよね……」  
 
一言が呟かれる。  
その言葉に、拓海も瑛太も表情を強張らせた。否定は出来ない。  
一拍を置いて柚芽が続ける。  
 
「私も、最初の夜からずっと考えてたの。今のままじゃ駄目なんだって。  
 他の部屋で女の子がレイプされてるのは……吐きそうなぐらい嫌だけど、ポイントは稼げると思う。  
 ここって、そういう場所なんだよ。普通じゃない事を愉しむ人達の為の……。  
 そしてそういう人達に、私達は、もう完全に見捨てられかけてる。  
 今朝だって、もう一件もメッセージ届いてないもん。  
 だから、私、何でもする。  
 ……ただ2人には、できれば見て欲しくないの。嫌な思い、させちゃうから」  
 
柚芽は、静かな瞳で告げた。  
前日に裸を晒した時よりも、さらに深い覚悟を覗かせる瞳だ。  
あるいはこの時彼女は、全てのプライドを捨て去る決意を固めたのかもしれない。  
生き残りたいが為に。  
他ならぬ少女自身の覚悟を前に、拓海も瑛太も、反論の言葉を持たない。  
 
 
『お、ルーム8が何かやってんぞ』  
『んー何、ポイント稼ぎにオナニーでも始めた?』  
『……あれ。浣腸?』  
『え、えマジで? あの真面目組の娘だろ、いきなり浣腸!?』  
『何があった?』  
 
反応はすぐに表れた。  
各部屋を順番に監視している人間でもいるのか、行動を始めて間もなく数人がコメントをつける。  
それに釣られて人数が増えていくのも、昨日の通りだ。  
その視線に晒されながら、柚芽は恥辱を晒す。  
タンスにあったイチジク浣腸を一つずつ摘み上げ、自らの慎ましやかな蕾に注ぎいれる。  
電池を入れ替えたばかりのハンディカメラの前で。  
元が清楚を絵に描いたような娘であるため、その情景は人の目を惹くに十分だった。  
    
『うひひ、すげぇ数入れたな』  
『大人しそうな顔して、痴女の本性表したとか?』  
『すげ、アナルヒクヒクしてる。未開の蕾って感じだったのに、エロいなー』  
 
10個の空になった容器を前に、柚芽は大きく脚を開いて秘所を晒していた。  
細い指先は排泄の穴を押し開き、刻一刻と高まる便意に開閉する様を見せ付けるようにしている。  
まだ幾分の幼さを感じさせる顔は、汗に塗れ始めていた。  
はぁ、はぁ、と荒い息も吐き出されている。  
その苦悶の様子がまた、“視聴者”を悦ばせているようだ。  
 
拓海と瑛太は、拳を握り締めながらその様子を見守っていた。  
そして柚芽の華奢な背が震えるほどになると、メールの添付ファイルにあった通りの行動に移る。  
天井から下がった、何かを吊るすための拘束帯。  
柚芽の身体を2人がかりで持ち上げながら、その膝裏に拘束帯を食い込ませる。  
180度近くに開脚したまま、膝で天井から吊られる格好だ。  
「本当、ごめん……」  
拓海が思わず呟くと、強い排泄欲に苛まれる柚芽の瞳が瞬きを見せた。  
言わないで。そう訴えるかのように。  
しかしその反応が予想できても、拓海は謝らずにはおれなかった。  
柚芽をあられもない格好で吊るした後、彼らはタンスの下段から取り出した金盥を直下に置く。  
そしてその真正面にあたる場所にハンディカメラを設置し、静かに距離を取った。  
 
もはや、柚芽はどうやっても逃れられない。  
どれほど身を捩った所で、両膝を支点に吊るされた格好から脱することは不可能だ。  
今からどれほどの後悔の念に苛まれても、便意の限界を迎えた彼女が辿る道はひとつ。  
そしてその全ては、彼女の正面に据えられたカメラに余すところなく映し出される。  
何十とも知れない、悪意の視線をその向こうに回して。  
 
拓海と瑛太は、再び謝罪を口にした。  
そして柚芽自身が唯一望んだ通り、彼女に背を向けて耳を塞ぐ。  
手の平に阻まれ、耳の中に重苦しい空気の音が充満する。  
そして、数秒後。その決死の栓をすら越え、おぞましい汚辱の音が2人の鼓膜を震わせた。  
    
『お、おおおおおすげぇぇえええ!!!出てる、マジで出てるわ!!』  
『すっげ、マジかよ。確実にクラスで一番可愛いレベルだろ、この子。いやこれはスゲーわ』  
『うっひょおお、最高!!!勃起度ハンパねーぞ!?』  
『典型的なアイドル系なのに、うんこしちゃうのな。しかもバッチリ茶色いし、確実にマジもん、と』  
『確実にマジもんって言葉、解るわー。顔がこういうのと無縁っぽすぎて、信じられないんだよな』  
『覚悟決めたって感じで目ぇ閉じてんのがいいわー。天使の顔だな』  
『いやいや、神格化しすぎでしょ。冷静に、お尻の穴らへんとか盥の周りとか見てみなよ。  
 所詮はウチらとなーんも変わらないんだって、アレも』  
『そうそう、ウンコひり出すたびに犬みたいな荒い息してるし、顔も身体中も汗でテッカテカ。  
 女の恥もいいとこじゃん』  
 
様々なコメントが怒涛の勢いで流れていく。  
コインを弾く音で示されるポイントが、次々と付与されている。  
拓海達はいけないと思いつつも、それらを視界の端に捉えずにはおれなかった。  
柚芽という類稀な美少女が、恥も外聞もかなぐり捨ててもぎ取ったポイントなのだ。  
490ポイント、円換算で4900円。  
それに基づいて供された『晩餐』は、その質量以上に重みのあるものだ。  
魚介の風味豊かなスープを啜るたび、香ばしいパンを食むたび、小さく唇を震わせる柚芽。  
それを横目に見ては、拓海達も自然と、いま喉を通っているものの価値を考えさせられた。  
 
    
―― 4日目・朝 ――  
 
 
メールが届く。今日もファイルが添付されている。  
的確な指摘をし、昨夜の晩餐をもたらしたもの。  
夜が更けてからも長らく、柚芽が両膝に顔を埋める元となったもの。  
 
『おはよう、いい朝だ。昨日は俺の言った通りにしたようだな。  
 その効果の程も、豊かな食事という形で身に染みたろう。  
 しかし、まだお前達が得たのはたったの622ポイント、依然として最下位だ。  
 初めの2日間を丸々無駄にしたに等しいんだから、当然ではあるがな。  
 では、添付ファイルに目を通し、実行するように。  
 健闘を祈る。』  
 
いつになく短い本文を読み終えた後、一拍を置いて添付ファイルを開く。  
 
『今日も引き続き“視聴者”の好奇心に訴えるやり方だ。  
 男2人で協力し、女の尿道を徹底的に開発しろ。  
 
 初めは画像1に示した、尿道用バルーンカテーテルを用いて。  
 それに抵抗がなくなれば、綿棒を用いて。  
 そして最後には専用の極細ディルドウを用いてだ。  
 画像2には、女の膀胱のつくりを示してある。  
 膀胱には、陰核……いわゆるクリトリスの根元と接する部分があると解るだろう。  
 尿道を開発する過程で、同時にクリトリスも刺激されて充血していく。  
 そのクリトリスへの甘い刺激を適時織り交ぜる事で、本筋である尿道開発も捗るだろう。  
 画像3のローターでもいいし、やや過激だが画像4のマッサージ器でもいい。  
 上手くやれば、さらに多くの人間の関心を惹くはずだ。  
 ……本気で生き残りたければ、観察し、工夫し、その上で果断しろ』  
 
拓海と瑛太は息を呑んだ。  
彼らの性知識を、常識をはるかに超えた異常がそこには記されていた。  
ただし、その異常はそれゆえに、点数差を覆す切り札たりえる事が本能的に理解できる。  
あとは、被検体たる柚芽次第だ。  
添付ファイルを読み終えたとき、柚芽もまた泣き腫らした顔を強張らせていた。  
しかし2人の少年が恐る恐る振り向いた時には、ぎこちない笑みさえ浮かべてみせる。  
 
「また、凄いのが来ちゃった……。ごめんね。今日も、お願い」  
 
気丈にそう告げる声は、かすかに怯えを孕んでいたが。  
 
    
 ―― 4日目・昼 ――  
 
 
「んひっ、いいぃ、いッ……い、いいっ…………!!!」  
 
柚芽は食い縛った歯を覗かせ、眉を垂れ下げて呻くしかなかった。  
キシロカインゼリーを充分に塗布したとはいえ、尿道にカテーテルという異物が入り込むのだ。  
瑛太が片手の二本指で尿道口を割りひらき、もう片手で少しずつ管を押し込んでいく。  
「ご、ごめんっ、痛いよね。慣れてなくて、ほんとゴメン……!」  
瑛太から謝罪の言葉が漏れた。その額の脂汗と手の震えから、只事でない緊張が見て取れた。  
彼の性格からすれば当然だ。  
柚芽は薄目を開き、安心させるように首を振って見えるが、その直後にまた瞳を凍りつかせる。  
拓海はその2人の努力を無駄にせぬよう、見栄えに細心の注意を払ってカメラを構えていた。  
 
『すげー、あれマジで尿道に入ってってんだよな。あんな可愛い子の』  
『情けないグシャグシャ顔がたまんねーな。レイプされるより悲惨な面してんじゃね?』  
『なるほど尿道レイプか、新しくていいな』  
 
コメントが着々と流れていく。  
その中で、ついにカテーテルの先端は少女の膀胱へと至ったようだ。  
瑛太は一旦額の汗を拭うと、カテーテルの端を洗面器に浅く張った水へ漬ける。  
そして目線で柚芽の確認を取った後に、バルーンを握り始めた。  
カテーテルが洗面器の水を吸い上げ、管を通って柚芽の膀胱へと注ぎ込まれていく。  
「くぅっ……!!」  
普段であればありえない膀胱の感覚に、柚芽は動揺を隠せずにいた。  
抜けるように白い内腿が強張り、少女の緊張を代弁する。  
 
しばらくして、瑛太はバルーンを握る手を止めた。  
洗面器の水はすでに無く、少女の膀胱を充分に満たすだけの容量が入り込んだ事を示す。  
人間の尿意は、500mlの膀胱容量のうち、半分近くまで尿が溜まった時点で知覚されはじめるという。  
今注ぎ込んだ量は、少なく見積もっても400ml以上はあった。  
すなわち柚芽は今、尿を出したくて堪らないという、限界に晒されているはずだ。  
 
「う、う、っふ、くううぅんんっ……!!!」  
実際のところ、柚芽の様子は今にも尿を漏らすという人間のそれだった。  
額に汗を滲ませ、瞳を泳がせ、下唇を噛みしめる。  
息は次第に荒くなり、怒りにすら思える余裕のない表情と共に、肩で息をするようになる。  
腰がぶるぶると痙攣をはじめ、膝頭を擦り付けて内股で堪える。  
「んんん、うんっむうううううんんんーーーっ!!!」  
足の裏をカーペットに打ち付けて極限を訴える。  
それらの反応全てが、“視聴者”をたいそう悦ばせているようだった。  
 
やがて瑛太がバルーン脇のスイッチを押すと、カテーテルを逆流する形で水が流れ出ていく。  
それは洗面器の中に、やや黄色く染まった水として叩きつけられていった。  
「あ、ああああ……っ」  
荒い息を吐きながら、背筋を震わせて開放感に浸る柚芽。  
その様子は余すところなく、拓海が頭上から翳すハンディカメラに映されている。  
 
『おー、いい失禁シーンだわ。かわいいー』  
『いかにも内気って感じの娘なのがポイント高いな。もっかいやってくれ』  
 
それらのコメントを見ながら、瑛太は再び洗面器の中にカテーテルを浸し、バルーンを握る。  
それは数度に渡って繰り返され、その度に満足げなコメントの数を増やした。  
 
数度の放尿で開いた尿道を、ローションに塗れた綿棒が通り抜ける。  
指先で綿棒を端を摘み、ゆっくりと上下させているのは拓海だ。  
今度は瑛太がハンディカメラを構えていた。  
「あっ、あ、あっ…………」  
綿棒が動くたびに、柚芽は声を上げる。  
後ろに手を付いて半身を起こし、自らの尿道を凝視しながら。  
「痛いの?」  
身を案じて拓海が問うと、髪の擦れる音をさせながら首を振る。  
「……ううん、大丈夫、ありがとう」  
そう言いこそするが、見開いたままほとんど瞬きもしない瞳は異常だった。  
尿道に異物が出入りする感覚に、本音では震えて逃げ出したいところなのだろう。  
しかし、今は耐えるしかない。  
 
幾度も幾度も、綿棒は抜き差しを繰り返した。  
小人の口のような尿道口を尖らせ、白い棒が抜き出ていく。沈み込ませて入り込む。  
やがてローションとは明らかに異なる液がその小さな口から溢れ出し、ピンクの小陰唇を濡れ光らせる。  
そうして際限なく抽迭が繰り返されるうちに、ある一点に変化が生じていた。  
 
『あれ……なんか、クリでかくなってきてねぇ?』  
『なってるな。最初米粒以下だったのに、だんだん勃起してきてる。ま、こんだけ尿道責められりゃあな』  
『そういや、さりげなくもう何十分か経ってるもんね。気持ちいいはずだ』  
『男の子の抜き差しする手つき、すんごい優しーもんね。奉仕って感じ。あれは女として濡れるわ』  
 
コメントでも、その部分の変化が取り沙汰されている。  
絶え間ない尿道への刺激が、薄皮一枚を隔てて陰核脚を擦り、陰核亀頭を勃起へと至らしめたのだ。  
赤らんで膨らみをみせる陰核を前に、拓海の脳裏にはある一文が浮かんでいた。  
 
 ……本気で生き残りたければ、観察し、工夫し、その上で果断しろ。  
 
メールにはそうあった。そして状況の進んだ今こそ、それに倣う時なのだと理解する。  
拓海は綿棒を操る指とは別の手で、陰核を摘んだ。  
「ひうっ!!」  
驚くほど明らかな反応が、柚芽から漏れる。  
「ご、ごめん!」  
拓海は焦った。知識として持っていたよりも遥かに、そこは敏感な性感帯であるらしい。  
ならば、細心の注意を払って“観察し”、“工夫し”て愛さなければ。  
 
拓海は一旦陰核から指を離し、柚芽の陰唇に触れた。そしてそこからぬめりを掬い取る。  
ローション、小水、そしてかすかな愛液。それを潤滑油に、再び陰核に指を伸ばす。  
まずは慎重に包皮を捲り上げ、触れるか触れないかの強さで表面を撫でた。  
「あ、ふぅっ……!!」  
再び柚芽が声を上げる。しかし今度は、そうとうに快楽の度合いが大きい。  
陰核の周囲には、充分なぬめりがある。拓海はそれを頼りに、丹念に陰核を指の腹で舐り回す。  
「んん、んっあっっ……」  
柚芽の細い腰がうねり、甘い声が漏れる。  
エッチだ……拓海がそう感じたのとほぼ同時に、コメントの着信音が続いた。  
どうやら“視聴者”からも好評を得ているらしい。  
拓海は確信した。  
綿棒をゆっくりと抜き差ししつつ、陰核を圧迫する。それは柚芽にとって、堪らなく心地良いようだ。  
ここに来てから辛い思いばかりさせている彼女に、少しでも快感を与えるのは喜ばしい事だった。  
ならば、もっと悦ばせよう。  
それがポイントにも繋がるならば、言う事はない。  
 
拓海はしばし同じ事を繰り返した後、“果断”した。  
綿棒を一旦抜き去り、極細のディルドウに持ち替える。  
綿棒より若干だけ太く、表面に微細な凹凸のある、明らかに刺激的なフォルムだ。  
それを、わずかに口を開いた柚芽の尿道口へと宛がい、押し込む。  
「ひ、ぃいっ……!?」  
初めてカテーテルを迎え入れた時とほとんど同じ声が漏れた。  
今彼女の尿道では、微細な凹凸がその敏感な粘膜を擦り上げている事だろう。  
しかし……綿棒で充分に慣らした今ならば、それも快感として受け入れられる下地が出来ているはずだ。  
その証拠に、拓海が意を決してディルドウを引き抜いた瞬間、柚芽から漏れた悲鳴は甘かった。  
「くひ、ぃいううんんっ…………!!!」  
鼻にかかったような嬌声。  
それが尾を引き、ディルドウが押し込まれる動きで繰り返される。  
押し込む時には吸気、抜く時には呼気を基準とするという違いはあれ、桃色の息には変わりない。  
 
『うーん……エロいな』  
『ああ、耳元でなら男殺せる息だな』  
 
コメントの反応も上々だ。それは、瑛太のカメラが良い働きをしている証拠でもあった。  
    
刺激的なディルドウと指での嬲りで、柚芽の陰核はいよいよ赤みを増していく。  
拓海はそこで、予め用意しておいたローターを拾い上げる。  
そしてスイッチを入れ、機械的な羽音を立て始めるそれを陰核に優しく触れさせた。  
「あ、、ふゃああっ!!!」  
一瞬の間を置いて、柚芽があられもない声を発する。  
まだ女性経験のない拓海にさえ、それは彼女が小さな極まりに達した声なのだと理解できた。  
そうなれば、もう止まらない。  
拓海は乾いた唇を舐め、ディルドウとローターでの二点責めに心血を注ぐ。  
 
柚芽の陰核は幾度もひくつき、雪のように白い内腿が筋張った。  
ピンクの秘裂も妙な艶光を帯び始め、そこからアンモニアとは違う女性の匂いが立ち上る。  
それらはいとも容易く拓海自身を勃ち上がらせた。  
しかし、拓海は責めの手を緩めない。  
濡れ光るローターをも捨て、ついに電気マッサージ器を手に取る。  
ずしりと手に来る重さ、鼓膜を震えさせる駆動音。  
 
『おお、ついにスライヴ来たか! いよいよクライマックスだな』  
『うっそ、アレ使うの!? あんなギンギンに勃起したクリに……死んじゃうんじゃない?』  
 
“視聴者”達も期待を露わにしはじめている。  
柚芽も重苦しい音で唸る器具に、期待と不安をない交ぜにした視線を送っていた。  
瑛太がカメラを構え直す。  
その渦中で、拓海はマッサージ器を陰核へと押し当てた。  
 
「んんんぁああああああ゛あ゛っ!!ああっ、はぁああああ゛あ゛っっ!!!」  
 
瞬間、柚芽の喉が開いて声が迸る。  
鈴を揺らすような普段の彼女の声とは違う。快感というとろみを塗した濁り声だ。  
それが幾度も、幾度も上がる。  
あまりの快感に、筋張った脚が暴れて逃れようとするが、瑛太がカメラを持たぬ方の手でそれを押さえつけた。  
彼もまた、今が映像として逃してはならない所だと理解しているようだ。  
拓海が膝を使ってさらに柚芽の抵抗を封じ、スライヴを宛がい続ける。  
柚芽は天を仰いだ。  
細い喉を晒しながら歯を食い縛り、やがて開く。  
唾液が喉元を伝い落ちた。  
 
「あぁあああ、あああ! くるっ、くるぅう゛っ、ああ、ああ゛っっ!!  
 あああ゛またっ、またきちゃうううぅうう゛っっ!!!  
 わ、ぁたひ、本当は、くぃとりひす、よわいの゛っ!!  
 1人で、するとき、いつもそこで、してるから……ぅ、んあ、ああああぁ゛っ!!!」  
 
下半身全てを細かに震わせながら、柚芽は絶頂を繰り返していた。  
そこには数日前まで学年のアイドルだった楚々とした彼女は見当たらず、  
女性としての快感に身悶える『伊崎柚芽』がいるだけだ。  
その痙攣は時と共に大きくなり、やがては桜色の秘裂から潮すら噴き零すに至る。  
 
『うひゃあー、凄い凄い。まさにイキまくりだ。なんか新鮮だな』  
『確かに。ここって基本レイプばっかだから、感じまくるパターンって少ないよね』  
『しっかし、初日から印象ガラッと変わりすぎだろ。ダークホースだわこの部屋』  
『計算かもよ。アイドルのAVデビューよろしく、初日はイメージビデオ的な』  
『何にせよ、見ててゾクゾクくるわぁ。じっくり感じさせられてた過程見てるから、余計に。  
 クリの快感って割と局所的なんだけど、あれ見る限り下半身全体で震えてるじゃん?  
 陰核の根元の、ふっかーい所まで覚醒しちゃってる証拠なんだよねぇ』  
『そうそう。もう脚とかピーンと跳ね上がるのが普通なんだけど、ああして男の子2人に押さえ込まれちゃね。  
 あたしマゾじゃないけど、あの子の今の状況考えたら火照るわー。  
 あはははっ、見て見て今の。まさに目が点!』  
『ホントだ、頭真っ白って感じー! 今ので偏差値2は下がったんじゃない、あの優等生ちゃん』  
 
コメントも大いに盛り上がっているようだ。  
濃厚な快感を孕んだ柚芽の喘ぎが、さらにその“視聴者”の声を加速させる。  
稼ぎ出されたポイントは、実に728。  
前日までの累計をも悠に上回り、一気に累計1350ポイントの大台へ乗り上げた、快挙の日だった。  
 
    
―― 5日目・朝 ――  
 
 
『おはよう、いい朝だ。お前達の順位が、8ルーム中4位にまで浮上している事も良い。  
 これは女優の反応と、それを引き出した男優の責め、そしてそれを過不足なく捉えたカメラマンの、  
 一致団結があればこその結果だ。  
 しかし、お前達の躍進は同時に別の事実を示してもいる。  
 すなわち、他のチームのポイントが伸び悩みはじめたという事だ。  
 ようやく価値を得たお前達と、分岐路に立たされた他の7部屋。本当の勝負はここから始まる。  
 各自知恵を絞り、“視聴者”のニーズに応えろ。  
 ……健闘を祈る。』  
 
恒例となった朝のメールには、そう記されていた。  
「この人……ひょっとして俺たちの事、心配してくれてんのかな」  
ふと、瑛太が呟く。  
「心を許しちゃ駄目だ。心配する位なら、ここから出してくれる筈だろ。あくまで向こうの都合だと思うけど」  
拓海はそう言いながらも、このメールの重要性を改めて意識していた。  
添付ファイルによる具体的な指示がない事を、彼は今、どこか不安に感じている。  
「今日は、ファイル……無いんだね」  
柚芽のその言葉で、3人の内なる不安は表層化した。  
 
しばしの沈黙が訪れる。  
3人ともが、今日からどのように振舞うべきかを考える。  
その末に沈黙を破ったのは、柚芽だった。  
 
「…………お、お尻の穴とか、どうかな」  
 
それを耳にし、拓海と瑛太は一斉に学年のアイドルを見やる。  
柚芽はすぐに頬を朱に染めて俯いた。  
「ごっ、ごめんなさい……なんか、ヘンな事言っちゃったね」  
その反応に、男二人は顔を見合わせた。そして慌てて手を振る。  
「あ、いやいや、別に変じゃないよ! ただ、ちょっと驚いたっていうか……」  
「そうそう、変だとは思ってないって!」  
必死に宥めるような口調に、柚芽は深く伏せていた視線を上げる。  
 
「わ、私も詳しいとか、全然そういうのじゃないけど……友達から聞いたことがあるの。  
 普通のセックスに飽きた時に、お尻を使ってセックスする人もいるんだって。  
 勿論、普通には入らないから、尿道の時みたいにちょっとずつ慣らしていくらしいんだけど。  
 はじめてそう聞いた時に、私、ショックで眠れなかったの。  
 だって、普段は、その……大きいほうをするための穴に、男の人のを挿れるんだもん。  
 ……それって、視聴者の人達も驚くんじゃないかな」  
 
柚芽はいつになく早い調子でまくし立てた。  
彼女なりにインパクトのある性行為を模索し、一念発起で提案したのだろう。  
確かに肛門性交は、アブノーマルプレイに属する。  
しかし拓海と瑛太は、それがすでにアダルトビデオ界隈ではありふれた行為だと知っている。  
今やマニア向けのみならず、大手レーベルからもこぞってアナル物が生み出される時代だ。  
 
とはいえ、一考する価値はあった。  
これまでの初心な反応から察するに、柚芽はまず処女だろう。  
17年間大切に守ってきたその純潔を、このような所で失わせるのはあまりに忍びない。  
しかしこの先ビデオ撮影を続けるにあたり、男女の絡みが全くないというのも“視聴者”の不満を買う話だ。  
であれば、アナルセックスという選択肢が俄然存在感を増す。  
幸い、“視聴者”は他の部屋でなされるレイプまがいのセックスを見飽きた状態にある。  
そこへアクセントをつけるという意味でも、後ろを使うのは有効だ。  
 
「……よし、やろう。ポイントを稼がないとな!」  
拓海は、あえて荒々しい語気で告げた。  
それを耳にした瞬間、瑛太が何かに気付いた眼を見せる。  
「ああ。実は俺も、前から興味はあったんだよな。伊崎さんみたいな娘のアナル」  
瑛太もまた、ぎらついた瞳で柚芽を見やった。  
「え、えっ? あの」  
柚芽は身を竦ませ、疑問符が浮かぶような挙動で二人の瞳を覗きこむ。  
けれども2人の少年は、威圧的な態度を崩さない。  
 
彼らは付き合いが長いだけあり、瞬時に気持ちを同調させていた。  
あえて憎まれ役を買って出ることにより、肛門の使用は彼らが強制したものとなる。  
柚芽はあくまで被害者であり、アナルセックスを提案した負い目を感じずに済むのだ。  
それは、これからまた恥辱を晒すこととなる柚芽への、せめてもの配慮だった。  
 
    
―― 5日目・昼 ――  
 
 
コメントの受信を示す音が、殺風景な部屋に響く。  
まるで木琴を出鱈目に叩くようなリズムではあるが、コメントの付くペースは速い。  
それもそのはずだ。  
ハンディカメラ越しに撮影されるプレイは、“視聴者”の声を反映しているのだから。  
 
『しかし、すげぇチチだよな。ホルスタインみたいだ』  
『の割にゃ、感度いいみたいだけどな。乳首ビンビンになってるし』  
『アナルが気持ちいいからじゃね?』  
 
ブラウザの内側では、様々なコメントが飛び交っている。  
柚芽はその視線に晒されながら、床にへたり込む姿勢でいた。  
開いたその脚の間には拓海が膝をつき、未熟な蕾へと指を挿し入れている。  
背後には、胸板に柚芽をもたれさせるようにして瑛太が付き、豊かな乳房を揉みしだいていた。  
開始から小一時間ほどが経過している。  
菊輪はローションが馴染んで濡れ光り、乳房はいよいよ膨らんで先端を尖らせはじめていた。  
 
特有の憂いを帯びた瞳で耐える柚芽が、コメント受信の音でパソコンに眼を向ける。  
 
『今の状況、また解説してみて。なるたけ詳しく』  
 
その一行の命令文を認め、小さく口元を強張らせる。  
しかし一呼吸し、静かに桜色の唇を開いた。  
 
「……お尻の穴に、指が2本入っています。抵抗は減りましたが、指の関節が通り抜ける時の違和感は変わりません。  
 それから、皆さんに、あの、お、お……『おまんこ』をずっと晒しているのが……つらいです。  
 胸の方は、とても気持ちよくなってきました。でもホルスタインみたいだと言うのは、やめて下さい。  
 子供の頃から、大きい事をからかわれて……そのたびに嫌な気分に…………んんっ!!」  
 
状況説明の最中、柚芽は小さく身を震わせた。  
ちょうど同時に、拓海の指の関節が菊輪を通り抜け、瑛太の指が胸の尖りを挟み潰しており、どちらの影響かは解らない。  
しかしその瞬間の肛門の蠢きから、拓海はアナル性感による可能性も充分あると判断していた。  
    
常に男子から噂され、学年一彼女にしたい……否、セックスしたい女子と呼ばれていた伊崎柚芽。  
その彼女が、眼前で大きく脚を開いている。  
長らく秘匿されてきた秘裂は、拓海を前にして隠す術もなく、極上の肉のような桜色を晒す。  
その状況に、拓海は思わず夢かと疑うほどだった。  
さらに彼の指は、常識どおりにその秘裂に入り込む訳ではない。  
学生の感覚ではまだまだ禁忌とされる排泄の穴の中に、深々と入り込んでいるのだ。  
 
排泄の穴とはいえ、柚芽のそこは慎ましやかなものだった。  
2本指を挿入されてなお、菊の輪を思わせる皺が隙間なく並んでいる。  
括約筋の締め付けは強かった。小一時間の慣らしを経ても、指のすべてに纏わりつくようだ。  
柚芽の腸は、奥まで一定の強さでしっとりと絡みつくタイプであるようだった。  
菊輪が固すぎるという事はなく、そのぶん開発は順調に進む。アナルセックスすら遠からず可能になる類だ。  
 
そして肝心の感度も、どうやら高いようだった。  
乳房への快感を抜きにしても、肛門だけですでにある程度感じている。  
特に2本指を引き抜く際には、肛門の出口一帯がまるで名残を惜しむように吸い付いた。  
同時に尾骨付近も引き締まり、女子高生らしく丸みを帯びた尻肉がよりいい形に引き締まりもした。  
確実に、快便の感覚を覚えているらしき反応だ。  
 
『そろそろ道具使ってよ。そっちの部屋に、色々リクエストしといたからさ』  
 
そうコメントが表示された直後、配給ボックスの方で音がする。  
拓海が立ち上がってボックスを開くと、そこには様々な淫具が届けられていた。  
ビー玉大の球が複数連なった、ピンク色のアナルビーズ。  
根元に向けて徐々に太さを増す、アナルパール。  
アルカリ水に浮かんだ状態でパッキングされた、15個入りの玉蒟蒻。  
クリトリスに当たる部分のない、縦一本のアナル用バイブにディルドウ……。  
アダルトビデオで目にして用途こそ知れていたが、実際に目にすると息を呑む異形ばかりだ。  
しかし映像を眺める“視聴者”は、その異形に興奮気味なコメントを寄せていた。  
その需要に答えるほか生きる術のない3人は、表情を固めながらも淫具をカーペットの上に広げはじめた。  
    
※  
 
柚芽はベッドの上で這い、両膝を支えに尻を高く持ち上げる格好を取らされていた。  
豊かな乳房は垂れるままになり、ベッドシーツへその先端を溶けるように沈み込ませている。  
尻穴には、アナルビーズが一粒ずつ押し込まれていた。  
菊の花よろしく隙間なく閉じた肛門が、球の入り込む一瞬だけ開き、再び閉じる。  
そして8粒の球がすべて入り込んだ後、ローションを纏いつかせながら一気に抜け出る段になると、今度は火山口のように盛り上がる。  
それが幾度も繰り返されていた。  
 
「勢い良く排泄するような感覚が、断続的に続いていて…………とても不思議な気分です。  
 き、気持ちいい訳ではありません。 だって、その、本来はあくまで用途の違う穴なんですから。  
 ……別に私は、優等生ぶっている訳では……。  
 にょ、尿道は関係ないでしょう! あの時も今も、ぬ、濡れてなんか、いませんっ!!」  
 
柚芽はなおも、現在の状況を解説させられていた。  
そしてベッド付近に移動されたパソコンのメッセージを横目に見やり、震える声で必死に反論する。  
“視聴者”は柚芽がより惨めな思いをするように口々に罵っていた。  
芯から真面目な柚芽は、それらの言葉一つ一つに悲しみ、戸惑い、しかし次第に認めさせられていく。  
肛門で快感を得はじめている事実を。  
 
“視聴者”の指示のもと、ローターで菊輪を丹念になぞり、アナルパールを用い、ディルドウを用いていく。  
そう過程を進めていく中で、柚芽の口からは熱い息が吐かれるようになっていった。  
腸内を前より少し太いもので拡げられるたび、それが肛門を捲り返して引き抜かれるたび、  
あ、あ、という声が唇から漏れた。  
その怯えて震えるような独特の声色は、聴くものの理性を攻撃的に変える。  
当然“視聴者”も、そのさらに先を欲するようになっていった。  
 
「……ほ、本当にもう、腸の中が一杯なんです……。ま、まだ、入れないといけないんですか…………?」  
 
今、柚芽はカーペットの上で洗面器を跨ぎ、自らの手で袋から出した玉蒟蒻を肛門に押し込んでいる。  
無論強要されてのことだ。  
細い指がひどく震えながら蒟蒻の球を摘み、肛門へと宛がって強く押し込む。  
アルカリ水に浸された球が潤滑も充分だが、すでに7つの大玉が入っている肛門には中々入り込まない。  
腹圧による反発に負けて玉蒟蒻がつるりと滑り、床に転がる。  
そうなれば惨めなもので、柚芽は腸の膨らみで明らかに制裁を欠いたまま腰を浮かし、その一粒を拾わなければならない。  
ある意味で妊婦にも似た動きとなる。  
そうしてようやく拾い上げると、それを再びカメラに撮られたまま、肛門の中へ押し込むのだ。  
およそ多感な……それも清純の表れのような女子高生に、許容できる状況ではない。  
    
額に汗を滲ませて15個全てを飲み込んだ頃、蹲踞の姿勢を取る柚芽は脚に震えが来ていた。  
素人の限界を明らかに超えた圧迫感からだ。  
「あ、あの、だ、出したいです。出していい、でしょうか……」  
尻側から回した腕で肛門を押さえ、柚芽が哀願する。しかしコメントはしばし待てと命じた。  
瞳を沈ませ、唇を引き結んだまま柚芽は耐える。耐えるしかない。  
そしてその美しいボディライン全てに震えが伝播し始めたころ、ようやく許可が下りる。  
ひとつの条件をつけて。  
「……ひ、ひり出します。皆様、ど、どうぞご覧下さい!!」  
強制された台詞を口走った後に、とうとう柚芽の指が肛門から外された。  
同時に、溢れ出る。ぬめらかな粘液に塗れた灰色の塊が、怖気のする音を立てて洗面器の中に踊りまわる。  
破裂音も響いていた。  
柳眉を顰め、唇を噛みしめて恥辱に耐える柚芽の姿もあいまって、異様に扇情的だ。  
 
やがて排泄が終わり、息を切らせた柚芽自身の手で洗面器が傾けられた。  
カメラに向けて内容物を見せ付けるためだ。  
一日の初めに浣腸を用いて洗浄を済ませていたため、汚物の類は見当たらない。  
ただ濡れ光る玉蒟蒻が揺れるばかりだ。しかし、その数が足りない。13個しかない。  
 
『あーらら、2個まだ出てきてないな。かなり詰め込んだから、結腸らへんに引っかかってんのか?』  
『ちゃんと全部ひり出せよー。指じゃ届かないだろうから、オモチャとか使ってな』  
 
そのコメントに、柚芽の顔が青ざめる。しかし、今さら逆らえる道理もない。  
彼らの意に背いてポイントを逃せば、3人に待っているのは残酷な未来だけなのだから。  
柚芽はやや腰を浮かせ、指を肛門に差し入れる。  
しかし指で掻ける範囲に異物はなく、渋々とコメントにある通りにディルドウを手にする。  
 
柚芽自らの柔らかそうな指に操られ、紫色のディルドウが肛門の中へと入り込んだ。  
さらに腰を浮かせながら、柚芽は必死に肛門の中を探る。  
片膝をカーペットに突き、もう片膝を大きく開けたあられもない大股開きだ。  
なるべく肛門内部に広がりを持たせ、羞恥を押し殺してディルドウで奥をかき回す。  
しかしその健気な努力が、彼女に想定外の影響をもたらした。  
    
「あっ、う、うくっ!!はぁう、うぐっ!!あうんん、うむううんっ!!!」  
柚芽の唇から呻きが漏れる。  
腸奥深くの異物を取ろうと苦心した結果だ。  
それは異様なほどいやらしく、傍らで見守る拓海達も視線を彷徨わせるしかない。  
 
『おお、感じて感じてる。これはさすがに言い逃れできないレベルっしょ』  
『完全にアナルオナニーにしか見えねぇな。自分の手で結腸の蒟蒻コリコリ動かしてちゃ、世話ないぜ』  
 
コメントが的確に痴情を指摘する。  
柚芽は羞恥に耳まで赤らめながらも、なお腸を掻き回すしかない。  
そしてある時、ぞくりと身体全体を震え上がらせてディルドウを引き抜いた。  
飛沫が光を反射して煌めいた後に、2つの固形物が洗面器の中に産み落とされる。  
その2つは、他とは比にならないほど艶かしい腸液に塗れていた。  
「はぁ、はぁぁっ……!!」  
荒い息を吐く柚芽の前で、再びコメントが付く。  
 
『さぁ、じゃあもう一回、蒟蒻入れる所からな』  
『そうそう。クソするのが快感に思えるまで、何遍でもさせるぞ』  
 
その言葉を半ば予想していたように、柚芽は洗面器の中に指を差し入れる。  
そしてぬめりを増した玉蒟蒻の一粒を、再び肛門へと宛がった。  
15個を苦心して押し込み、排泄する。排泄しきれない分はディルドウで掻き出す。  
それが繰り返された。  
そして6巡の後には、また別の指示が発せられる。  
 
『じゃあ今度は、全部入れたまま指使ってアナルオナニーな』  
『いいなそれ。どうせなら違う姿勢で……そうだな、壁に手を突いてやれよ』  
 
再び柚芽の顔が青ざめた。  
幾度にも渡って15個の玉蒟蒻を迎え入れた彼女には、その切ないまでの圧迫感が身に染みている。  
ただでさえ膝が震えるほどなのに、その上で指を入れて自慰を行えとは。  
しかし、従うほかはない。  
「……わかりました」  
柚芽は再び蒟蒻を全て飲み込み、今までは栓の役割としていた指を肛門内部にまで押し込む。  
そしてよろめきながら立ち上がると、近くの壁に片手を突いた。  
「うく、くっ…………!!」  
限界を超える圧迫。それも姿勢を変えた事により、内部の相が変わってくる。  
これには柚芽も苦悶の声を上げざるを得ない。  
しかし息を整えた後、その指は健気にも蠢き始めた。性を貪るかの如く、怪しく粘液を纏わせて。  
    
「あ、あ、ああっ……ああ、あう、あ、ああっっ…………!!」  
 
柚芽は今や、はっきりそれと解るほどに官能的な声を上げていた。  
直腸を満たし、結腸にまで至るほどに異物を迎え入れたまま。  
細い指が芋虫のように蠢くたび、水音が起こる。  
その水音が深刻さを増す時には、必ず肛門が強く締まり、窄まりからローションがあふれ出した。  
充分に美脚と呼ばれうる、女子高生らしく伸びやかで肉感的な脚もうち震えた。  
 
「あっあ、あ……お゛っ!!ああああ、おお゛、あっ、ああっ……あ゛!!!!」  
 
普段は可憐さばかりを感じさせる柚芽の声には、次第に『濁り』が混じり始めている。  
清楚さの対極に位置するもの……純粋な快感の呻きだ。  
それがあの柚芽の喉から漏れ始めている。  
しっかりと踏みしめていた両脚がいつしか内股に崩れ、膝を擦りあわせるほどになる。  
しかしながら、肛門の指遣いは衰えない。  
じゅぐじゅぐじゅぐじゅぐと、その音すらも濁ったものに変わっていき、やがて。  
「んうう゛う゛っ!!!!」  
喉を狭めたまま鳴らすような声で、柚芽が呻いた。  
それと一瞬の間を置いて、指を動かし続ける手の平の内から、灰色の固体がはじき出される。  
固体は相当な勢いを持ってカーペットの上を跳ねていく。  
まるでそれを契機としたように、少女の手の平の部分からは次々と同様の固体があふれ出した。  
「あ、ああ゛、くふぁああぁああああ゛っ!!!!」  
柚芽は叫びを上げていた。羞恥からかもしれないが、間違いなく歓喜も含んでいる。  
それが決定的となったのは、彼女が壁沿いに腰を落とした後だった。  
 
「あああだめ゛、でるぅう゛っ!!!っあ、あ……っお゛おおおお゛お゛っっ!!!!!」  
 
白く可憐な喉から迸った呻きは、説明すら不要なほどに色濃い快感を内包していた。  
膣や陰核とは根本から異なる、臓腑を通り抜けて喉から搾り出される呻き。  
柚芽は無意識に蹲踞の姿勢へ戻りつつ、腸内に残留していた数個の玉蒟蒻を残らず排泄する。  
指の嬲りで存分に空気を孕んでいたのか、壮絶な放屁に似た音を立てて。  
 
『うっひゃ、耳がゾクゾクする。気持ち良さそうな声ー!!』  
『いい声だわ、録音して作業用の音楽にするわ俺!』  
『すげぇすげぇ、あんな可愛い子が便器跨ぎのスタイルで、ブリブリひり出してらぁ』  
『あははっ、腰ガクガク。ああいう真面目そうなのほど、アブノーマルに嵌りやすいって本当なんだ』  
 
メッセージは大盛り上がりを見せていた。  
汗に塗れた柚芽は崩れ落ち、壁面に涎の跡を残す。  
その艶姿は、多感な少年達の言葉を奪った。  
勃起は血管の浮くほどになり、すぐにでも挿入しなければ収まりがつかない。  
そして彼らの眼前には今、濡れ光る初々しい『性器』がぽっかりと口を空けている……。  
    
「あっ!?」  
背後から腰を掴まれ、柚芽が驚きを露わにして振り返る。  
拓海は思いつめた表情でその視線を受け止めた。  
「ごめん…………そろそろ、限界なんだ」  
痛々しいほど勃起した逸物から、また先走りの液が伝う。  
その先端を桜色の蕾に触れさせると、柚芽の口が驚愕に開かれた。  
しかし、彼女はすぐにその口を閉じる。  
「ううん。朝の時点で、お尻を使うって決めたんだもんね」  
気丈にもそう笑ってみせ、顔を正面に戻す。  
拓海は心の底から感謝しながら、荒い息と共に彼女の尻肉を掴み、腰を押し進めた。  
 
道具と玉蒟蒻で拡張された肛門は、それでもかなりの抵抗を見せる。  
骨盤が菊輪に沿う形にまで狭まっている……挿入の瞬間、拓海はそう感じたほどだ。  
しかし無理矢理に亀頭を押し付けると、僅かずつだが沈んでいく。  
亀頭の先から、半ば、カリ首へと、ゴムの束で圧迫されるような締め付けが降りてくる。  
まさに今、あの伊崎柚芽の肛門に挿入しているのだ。  
知らずその実感が湧くほどに、強烈な感覚。  
「う、ううう、うっ…………!!」  
しかし陶酔は、柚芽の呻き声によって現実にすり替わる。  
彼女は前を向いたまま呻いていた。  
 
もう何日も共に生活しているからだろうか。  
拓海は、たとえ柚芽の横顔の一部しか見えなくとも、正面から見た時どのような顔なのかが想像できた。  
長い睫毛を閉じ、歯を食い縛っている柚芽の表情が。  
メリメリと音すらしそうな……それも排泄の穴からの挿入を受けているのだ。  
平然としていられる筈がなかった。  
「い、ぎ、ぎ……ぃっ」  
必死に殺そうとしているらしき呻きが漏れ聴こえる。  
普段は澄んだ声の少女だけに、そうした声を上げさせる現状が拓海の心を刺す。  
それでも、性欲には勝てない。  
彼は力任せに腰を押し進め、とうとう逸物の根元までを桜色の蕾に包み込ませた。  
先端から幹の下まで、ぬめりのある腸壁が纏わりついてきている。  
特に根元の部分は、菊輪によって輪ゴムを三重に巻いたほどの圧迫を感じる。  
 
これが……アナルセックス!!  
 
平時にはクールと言われていた少年の理性は、呆気なく弾け飛んだ。  
    
「あっ、あっ、ああ、あうっ、はぁうううっ!!あ、あ、ああ、あんっ、ああああんっ!!!」  
柚芽の喘ぎが、肉の弾ける音から一拍遅れて追随する。  
背筋がら見ても、突きこむたびに豊かな乳房が前後に揺れているのが見えた。  
柚芽の苦悶の表情と、白い裸体、そして乳房の揺れを余さず堪能できる“視聴者”が羨ましいほどだ。  
 
『流石に、フル勃起のチンポが入るとツラそうだねぇ。でも実況は、忘れちゃ駄目だぞ』  
 
コメントが付き、それを薄目で確認した柚芽が口を開く。  
 
「あ、ああ、あっ……ふ、太いです……玩具とは、比べ物にならないくらい、硬くて……熱い!  
 腸の、形を、作り変えられてしまいそうで……声が、我慢でき、ないんですっ……!!  
 ふ、普通に、エッチした事もないのに……ああっ、く、うっ、こんな……お尻で…………。  
 …………で、でも、でもっ…………この人達で…………ほんとうに、良かった…………!!!」  
 
柚芽はそう告げながら、正面で膝立ちのままカメラを構える瑛太に触れる。  
彼もまた、極度の興奮で暴発寸前だった。  
柚芽はその下半身を労わるように撫で、逸物を喘ぐ口で咥えこむ。  
「う、うっ……!!」  
瑛太は心地よさに呻いた。カメラが柚芽を向くように保ちつつ、空いた手で柚芽の髪を撫でる。  
柚芽は鼻から濡れた声を抜けさせ、深々と逸物を咥え込んだ。  
初めてのフェラチオよりも、随分と思い切った動きだ。  
まるで自ら喉奥を苛めるかの如く、瑛太の繊毛が鼻頭をくすぐるまでに深く呑み込む。  
ごえっというえづきが漏れたが、それでも止めない。  
 
「ああ、すごい、すごいよっ…………!!」  
瑛太の理性も、その動きで瞬く間に溶けてなくなる。  
柚芽の質のいい黒髪に指を絡ませ、引き寄せながら、強引に腰を押し付ける。  
「う゛む゛ぅおえ゛っ!!!」  
えづき声が増した。学年一と言われた美貌の、その閉じた目の端に涙が浮かぶ。  
それでも、柚芽は受け入れ続けた。  
背後から未開の蕾を荒々しく蹂躙され、前方から喉奥までを犯され。  
まるで自分の身体が肉棒で貫かれた空洞であるかのように、柚芽は為されるがままに乱れた。  
 
コメントの着信音は、結合に合いの手を打つように、数多く響き渡っていた。  
 
    
―― 6日目・朝 ――  
 
 
『おはよう、いい朝だ。そう言えるのも、もはやこの部屋だけだがな。  
 現状を言おう。お前達は累計5028ポイント。8部屋中2位……首位との差は僅か106だ』  
 
恒例となったメールの文に、3人は目を輝かせた。  
あれほど離されていた差を、充分巻き返せる域にまで持ってこれている。  
 
『よくやったと言う他はない。このまま今日明日と好調に行けば、首位は可能だろう。  
 とはいえ……油断は禁物だ。それは、他のどの部屋にも言えることだからな。  
 例えばお前達に追い上げられている首位のルーム2は、まさしく死に物狂いだ。  
 今も夜も眠らずのプレイ中だから、気になるならば見てみるがいい。  
 奢らず、情けをかけず、自分が生き残るために死力を尽くせ。  
 …………健闘を祈る』  
 
メールはそれを最後に終わっていた。添付ファイルはやはり無い。  
3人は顔を見合わせ、頷きあってメディアプレーヤーを開いた。  
ルーム2にチャンネルを合わせる。部屋中央に、裸の男女三人が映りこんだ。  
男二人に挟まれるようにして、若い女が蠢いている。見た目はごく普通のセックスだ。  
しかし……男の腕に目をやった柚芽が、口元を手で覆った。  
それに気付き、拓海と瑛太も映像の一点を凝視する。  
すると、すぐに理解できた。  
   
 ――ぐぇ、え、ええ……お゛……あ、あ゛…………!!  
 
女の呻き声が聴こえる。  
女の首には、男の太い腕が巻きついていた。偶然ではなく、明らかに締め上げている。  
必死に男の腕を掴み、真っ青な顔を痙攣させる女。  
その女の下にはもう一人の男が横たわり、騎乗位の形で腰を突き上げている。  
    
「……な、なんだよ、これ…………顔真っ青じゃん、殺す気かよっ!?」  
瑛太が怯えきったような声を上げる。柚芽も口元を押さえたまま小さく震えている。  
「ポイントの為だ……。普通にするだけじゃ、もう飽きられてるんだろう。だから……」  
拓海は分析しながらも、2人と同じく震える想いでいた。  
行為そのものに対する恐ろしさもある。  
しかし本当に恐ろしいのは、その暴力行為の裏にこびりついた必死さだ。  
生き残るために。拓海達3人を抜いて生存権を獲得するために、あの行為は為されている。  
 
「……皆、命賭けなんだよね」  
ぼそりと、柚芽が呟いた。  
「あの人達がトップを取るって事は、私達が死ぬっていうこと。  
 私達が生き残るって事は、他の皆が死ぬっていうこと。  
 そういう……ことなんだよね…………。」  
同意を求めるような口調に対し、拓海も、瑛太も、返事をする事ができない。  
 
3人ともが、心優しい子だと周りから言われてきた。  
自ら言うことはないにせよ、自分でもそうだと思って生きてきた。  
しかしここで生き残る選択をする事は、他の人間全てを死の運命に蹴落とす事と等しい。  
優しさなどとは真逆の行為だ。  
映像の中で必死に生を掴もうとする別の3人。それを前にしては、嫌でも思い悩まざるを得ない。  
 
「…………だけど…………私は、死にたくない。  
 もう一度、お父さんとお母さんに、会いたいよ…………」  
今にも泣き出しそうな声色で、柚芽が呟く。  
「そうだ……まだ人生これからなんだ。死んでたまるか……死んで、たまるかよ!!」  
瑛太もまた、必死に迷いを振り切るように叫ぶ。  
拓海も同じだ。確かに他人は憐れだが、ならば自分が死のうとは思えない。  
 
ゆえに3人は、今日も“視聴者”に媚びるプレイをするべく、黙々と準備を始めた。  
心にどす黒い濁りが広がっていくのを感じながら。  
 
    
―― 6日目・夕刻 ――  
 
 
「あ、ああっ!!! すごいっ、凄いぃぃっ!!!」  
 
柚芽の声が響き渡る。  
彼女は今、大股を開き、その手首足首を一纏めにした状態で天井から吊るされていた。  
空中で自ら足首を掴んでの大開脚を晒すような格好だ。  
いまだ初々しさを残すその肛門を、瑛太の勃起しきった逸物が真下から穿っている。  
太さこそ拓海に劣るが、長さで勝るそれは、柚芽の腸奥でいくども弱い部分を穿っているらしかった。  
「あ、ああっ!そ、そこ、凄いっ……ま、またぁ、い、いっちゃ……あ……ふぅう……っっ!!!」  
身動きの取れない状態で、腸奥の弱点を責め抜かれる。  
これで感じない道理はなく、柚芽はカメラに晒した秘裂をしとどな愛液で濡れ光らせていた。  
 
『おほほっ、もうマンコもドロドロだぁ、すっかり肛門性感が開発されきってんな』  
『あそこには指一本触れてないのにね。アナルだけでイカされまくるのって、かなーりキツいんだけど……  
 鬼気迫る気迫ってのを感じるわね』  
『しかも朝からぶっ通しで、7つ目の体位だぜ。ほーんと、無茶な要求にまでよく応えてくれる部屋だ』  
『それだけ必死なんだろ。他の部屋も、俺達の目ぇ愉しませようと健気にドリョクしてんじゃん。  
 ただまぁ、今はこの部屋が俺の定位置だけどな。何度言ったか解らんが、女が良すぎる。  
 駅で会ったら思わずストーカーしちまうぐらい可愛い女子高生が、アナルだけで逝きまくってんだから。  
 可哀想だけど他所のなんて見てられないね』  
『ああ、ホント他所が可哀想になるくらいの逸品だよな。カラダは細いのにおっぱいデカいし、声もそそるし』  
『お、お、あの顔はまーたイッたぞぉ。くひひ、恥じらいたっぷりのアクメ顔が堪らねぇや!!』  
 
肛門越しに延々と熟れた子宮を擦り上げられ、柚芽が絶頂を迎える。  
尖らせた口からおおおお、と快感の塊のような呻きを漏らし、斜め上へ困惑するような視線を投げ出して。  
白い内腿が筋張り、肛門が飲み込んだ逸物を強烈に締め上げる。  
「くうっ!!」  
その刺激により、堪らず瑛太が今際の時を迎えた。  
最奥まで逸物を叩き込み、力強く己自身を脈打たせながら精液を注ぎ込む。  
妊娠の心配がないため、彼は心行くまで射精の快感に浸ることが出来た。  
やがて肛門から長い逸物が抜き出される。  
やや赤らんだ肛門はその直径と同じだけ開き、白濁を真下に垂らしていく。  
それは腸内に射精された証であり、ひいてはこれほどの美少女が間違いなく肛門性交を行っていた証でもある。  
その事実がまた、“視聴者”達のコメント数を加増させた。  
 
一通り余韻を愉しんだ後は、やはり準備万端に勃起を見せている拓海が柚芽の背後に回る。  
そして太さに勝る怒張を肛門へと抉りこみ、柚芽の美脚を震え上がらせるのだ。  
その繰り返しが、幾度も、幾度も繰り返される。窓のない部屋に夜の気配が満ちる、その時まで……。  
 
 
―― 6日目・夜 ――  
 
 
もはや慣例となった豪奢な食事に混じり、妙なものがボックスに届いていた。  
透明な液体の入った、注射器……それが3つだ。  
翌日が期限として定められた一週間の最終日である事を考えれば、その意図は明らかだった。  
「正気を失ってでも、続けろっていうの……」  
柚芽が顔を歪める。  
確かに最終日、熾烈なポイント争いをする為には必須とも言えるかもしれない。  
しかし、この時点で拓海達『ルーム8』は単独首位、2位にとうとう256点もの差をつけていた。  
“視聴者”も大半がこの部屋の虜となっている様子であり、差が開く事はあっても逆転など有り得そうもない。  
 
「皆、これは使わないでおこう。たとえ生きて出られても、薬物依存症になっているのはまずい」  
拓海は率先して注射器を取り、三段タンスの上段にしまい込む。  
瑛太はシャワーで濡れた髪をタオルで丹念に拭いながら、黙ってパソコンを見つめていた。  
「……他の連中は、これ…………使うのかな」  
短く呟きが漏れる。拓海と柚芽は厳しい表情を見合わせた。  
 
「考えるのはやめよう。もうお互い、嫌になるほど悩んできただろ。  
 でもどれだけ悩んでも、結局は自分が生きたいという結論にしかならなかった。  
 それは他の部屋の皆だってそうなんだ。  
 今日はゆっくり休んで明日に備えよう。そして明後日には、元の世界に帰るんだ……」  
 
元の世界。  
そのワードが出た瞬間、タオルを掴む瑛太の手が止まる。  
「そう、だよな」  
再度短く呟きが漏れ、彼は再び髪を拭いはじめた。  
拓海と柚芽は幾分安堵して溜め息をつき、一足先にベッドへ向かう。  
タオルが邪魔をして、2人は気付けなかった。  
パソコンを……他の部屋の様子を見守る瑛太の瞳が、生半な言葉では癒せないほど暗く沈んでいた事に。  
 
拓海と柚芽が完全に寝静まり、部屋に静寂が訪れた頃。  
瑛太は音もなくベッドを抜け出した。  
そしてタンスの最上段を開き、闇の中でなお鈍い光を放つガラス管を見つめる。  
「……悪ィ」  
何も知らず眠るパートナー達に一瞥をくれながら、瑛太は注射針を腕に押し当てた。  
あどけない顔が、小さく歪んだ。  
 
    
―― 7日目・朝 ――  
 
 
「い、いやっ!!どうしちゃったの、木嶋くんっ!!!」  
柚芽が圧し掛かる瑛太を必死に押しのける。  
「何でっ!なんでだよ、瑛太っ!!!」  
拓海も後ろから羽交い絞めにして瑛太を正気に戻させようとする。  
その2人に押さえつけられながら、瑛太は異様に座った瞳を泳がせていた。  
例の薬を用いたのは疑う余地も無い。  
 
「えへへへへ……らってよ、みぃんな…………きょうれしぬんらぜ。  
 おれらが…………へへっ、おれらが、ころすんだ……。  
 らーれもたすけられあい……らーれもだ。  
 ……もぉしょうきでらんて、いひひっ、……いられあいだろうがよぉッ!!」  
 
まるで呂律の回らない調子でそう言いながら、瑛太はベッドの上に柚芽を組み敷いた。  
その瞬間に拓海が身体を捩ると、羽交い絞めにされた瑛太はバランスを崩して床に落ちる。  
そして座り込んだまま笑い始めた。  
この時改めて、拓海と柚芽は、彼がどれほど心優しい少年であったのかを思い知る。  
他人を見捨てるという行為に良心が耐え切れず、自ら崩壊を選ぶほどに。  
 
『おはよう、いい朝だ。最後の、とてもいい朝だ。  
 そして明日がどうなるかは、すべて今日の行動にかかっている。  
 生き延びろ。死力を尽くせ。体裁を捨てろ。常識を捨てろ。ありとあらゆる殻を破り捨てろ。  
 『Blow Up Pumpkin』……その境地に至った者だけが、この部屋から出ることを許される。  
 願わくば、愛すべきお前達に幸あらん事を。  
 健闘を祈る。』  
 
最後のメールにはそう記されていた。  
瑛太が2人を呼ぶ声がする。  
「…………う、嘘……聞いてないよ、ねぇ、佐野くん?」  
柚芽が弱り果てた声で拓海に縋りついた。  
 
拓海は、足元に転がる注射器のひとつを拾い上げる。  
その注射器を放り捨てるという選択も可能だ。  
薬物の使用が唯一の脱出方法とは限らない。  
安易な『楽』に抗い、素面のままトップを維持すれば約束通り開放される可能性は残っている。  
しかし……彼の心もまた、良心の呵責にいつまで耐え切れるかは自信がない。  
耐え切れなくなれば、柚芽も巻き込んで底無しの性欲地獄に沈んでいくしかないだろう。  
 
その時彼らは間違いなく、一枚の硬い殻を破ることになる……。  
 
 
                              終  
 

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