クラスへの謝罪。
この伝統がいつから始まったかわからないが、
生徒の揉め事は生徒間で解決し学校生活の平穏を保つために行われるようになったと言われている。
夕暮れのグラウンド。男女2人の生徒たちがトラックを回っている。
健康的に引き締まっている足を見せながら軽く走る女子。
女子とは裏腹に五十メートル付近でバテてしまい息も絶え絶えな男子。
背の高い女の子が余裕を持ってゴールイン。
「隆二。今日も私の勝ち。男のくせに遅いよ」
女の子はトレードマークであるポニーテールを風になびかせながら、
片手を上げて余裕のガッツポーズを見せる。
彼女の名前は三浦瑞穂。
中学二年生にしては女らしい膨らみや肢体を持ちながらも、
運動神経は抜群で性格も男勝りと一見相反する雰囲気を漂わせた隆二の幼馴染だ。
「はぁはぁ。うるっさいな。瑞穂が早すぎるんだ。本当に女かよ」
隆二はグラウンドの上でひっくり返りながら瑞穂を眺めた。
いくら運動神経が良いといっても所詮は女の子。
男が負けるはずはないと言いながらも何度も挑戦するが、
この頃は連戦連敗だった。
「ほらほら、文句を言わない。約束どおりに私のカバンを持って」
「くそ、今日もカバン持ちかよ。昔は普通に勝てたのになぁ」
「小学生の頃は半分ぐらいの勝率だったのにね。やはり隆二が衰えただけでしょ」
「なぜ男の俺が衰えるんだよ。普通は年齢とともに体格の差が出るだろうに」
隆二が走りで勝てなくなったのは瑞穂の女らしく育ってきた体つきも理由の一つだ。
眩い太もも、そこから伸びる長く白い脚はいつも隆二の心を惑わせていた。
「あー、今いやらしいこと考えたでしょ」
「ないない。いくら幼馴染だからってお前をそういう目で見れない(本当は見ているけど)」
「そう断言されるとなんか悔しいな。まあいいや、早く帰ろ」
瑞穂と隆二はいかにも仲がいい雰囲気を漂わせながらグラウンドから去っていった。
その様子を2階の教室から見ている数人の生徒たち。
「この頃、瑞穂が生意気だよな。周りからもてはやされてさ」
「女子にも人気あるから嫌がらせも出来ないだよね。下手にやると私のグループが孤立しそう」
「なら、罠にかけてクラス裁判に掛けようよ。俺たち2人のグループが賛成すれば多数決で有罪に出来るだろ」
「クラス裁判ねぇ。有罪にしてもトイレ掃除一ヶ月とかでしょ。つまんなそー」
「いやいや、そうではなくてさ。脱衣の義務を背負わせて……」
一ヶ月後、放課後の教室。男女10人ぐらいの生徒が瑞穂に詰め寄っていた。
「瑞穂、お前のせいでクラスの何ヶ月の苦労が無駄になったんだぞ。責任を取れ」
この騒動の仕切り役と思われる男子の高村が謝罪を求める。
「私は悪くないし。そもそもコンクールが失敗したのはみんなの責任でしょう」
男の子たちに詰め寄られながらも強気に反論する。
瑞穂は女子にしては体も大きく普段は女子の守り役として男子相手に喧嘩をすることも珍しくはなかったが
今日は複数のクラスメートから批判される立場であり分が悪かった。
「瑞穂さん、貴方があそこで転ばなければ問題なかったんだからそんな言い方ないんじゃない」
男子に同意する小柄な女子生徒の恵。
恵は瑞穂がずっと嫌いだった。成績では勝てず体力でもスポーツマンの瑞穂にはもちろん勝てない。
全てに置いて上に立つ瑞穂をいつか貶めてやると思ってきた。
その恵にとって今回の騒動はまさに千載一遇のチャンスであった。
「わかったわよ。謝るから私は何をすればいいの。皆から叩かれれば満足してくれるの?」
瑞穂は手を少し上げて降参と言わんばかりのポーズをして言う。
心の底では今でも自分は悪くないと思ったがこのままでは立場が悪くなるばかりなので
暴力というありえない仮定を出して妥協を引き出そうとする。
「暴力なんて駄目だ。俺たちは体の痛みを感じたわけではないからな。
クラスの恥は自分の恥で返してもらうという意味でも裸を見せる。脱衣の義務とかいいんじゃね」
高村は中3といっても通用しそうな瑞穂の体を舐め回しながら、
いやらしい顔つきをしながら提案を出す。
戸惑う他の男子。それもそのはず。
胸も膨らんでいる思春期のクラスメートを裸にするなんてあまりにありえない案だった。
「バカなこと言わないでよ。なぜ脱がなくてはいけないのよ!」
瑞穂は椅子から立ち上がりあまりにふざけた案を言う高村に怒鳴りつけた。
「ルールを作ろう。これはあくまでもクラスへの謝罪だ。
だから瑞穂の裸を見る権利はあるのはこのクラスの生徒のみ。
瑞穂はクラスメイトが命じたらいつでも服を脱がなくてはいけないが、
部外者に見られる可能性がある時は命令してはいけない。
あと触れるのも禁止。あくまでも瑞穂が命令された通りに動いて体を見せるだけだ」
高村は瑞穂の抗議なんて関係ないと言わんばかりにトンデモ案を次々と言う。
ドン引きしていた男子もクラスでも体の成長が早い瑞穂を、
いつでも裸に出来るという話を聞いて「いいんじゃね」の声が出始める。
「賛成。それなら瑞穂さんも肌を見せるたびに、
自分の罪の重さを理解してくれるだろうし反省を促すにも効果的な罰だよ」
最初戸惑いを見せた男子とは違い速攻で賛成する恵。タイミングを合わせたように同意する女子グループたち。
恵は明らかにザマーミロと言わんばかりの冷たい視線で瑞穂を見ながら追い詰める。
「そ、そんな」
瑞穂は男子の提案より恵の同意を聞いて絶句する。
同じ女子なら成長期の裸を見せる辛さは理解できるはず。
同性に見せるのすら辛いのに男子に見せるなんて考えられない。
普通なら真っ先に反対するはずなのに……
そこまで恵たちに嫌われていた事実が受け入れられないでいた。
「これはクラスの決定だ。この謝罪を受け入れてくれればこれまでどおりの関係が続く」
つまり高村はここで拒否すればもう卒業するまで、
誰からも相手されない村八分になると言っている。
ここにはたった10人ぐらいしかいないのにクラスの決定と言うのは、
少し考えればおかしい理屈なのに今の瑞穂にはそこまでの余裕はなく、
もう謝罪をやるしか無いのかと追い詰められる。
瑞穂はふらっと立ち上がり一言言った。
「いいわ、それでなにすればいいの」
「クラスメートが命令したら自分から肌を見せるだけでいい。それだけだ。
つまり……最初の命令を言うぞ。上着を一枚脱げ」
高村は少し興奮した言い方で上着の脱衣を命じる
「じゃ瑞穂さん。スパっと脱いで」
女子はこの状況を楽しそうに見ている、逆に男子はどこかソワソワしている。
瑞穂はそんなクラスメートの反応に羞恥と屈辱を思えながら制服のブレザーの上着を一枚脱いだ。
下にはシャツも着ているしブラもつけている。
露出度は殆ど変わっていなくただ白いシャツが見えるようになっただけであったが、
ウブな男子生徒にとっては見てはいけない物を見ている気分になった。
「ふーん。シャツの上からでも胸の大きさがわかるな。うちの高1の姉貴と大して変わらないやん」
瑞穂は直立不動のポーズを取りながら高村のゲスな感想をただ黙って聞いていた。
「シャツは脱がなくていいからブラだけもらおうか」
高村は楽しそうに次の命令を出す。
瑞穂は怒りで唇を噛み締め体を震われながら、シャツの上から器用にブラのホックを探して外す。
シャツの上ボタンを数個外す。
開いた襟から手を入れて外れたブラを取り出そうとしているとなかなか上手くいかない。
手を入れたことにより大きく広がった襟から胸の膨らみが見える。
手が動く。いよいよブラが公開されると思った時に……
「やっぱ俺はいいわ」
顔を真っ赤にして立ち上がる男子の一人。
一人がそう言い出すと他の男子勢も「俺も帰る」といい次々と帰っていく。
中2のまだまだ純粋な心を持つ男の子たちにとっては、
みんなの前でクラスメートが裸になる雰囲気の重みに耐えられなかった
「なんだよ。お前ら、根性ないな」
高村は予想以上の男子グループのヘタレぶりに呆れ果てるが
女子グループも先ほどまでの盛り上がりは何処へやらかなり引いている。
「今日はここまでにしよか」
恵はこれ以上続けたら瑞穂の同情論が広がると判断し皆に帰るように言った。
残っていた生徒も次々と帰っていく。
瑞穂も高村と恵を強く睨みつけてから教室を出ていった。
教室には高村と恵だけが残っている。
「なんだが上手く行かなかったわね」
高村と恵の計画ではここで瑞穂をパンツ一枚まで脱がして明日のクラス会議に繋がるつもりだったが、
予想以上にクラスメートがヘタレで計画が大きく狂ってしまった。
「まぁ今日は脱衣の義務を承諾させただけでもいいだろ。
瑞穂の裸が見たいのはみんなも同じなんだしこの義務が背負っている限り結果はかわらんさ
いずれはクラス中の生徒が瑞穂の裸を隅々まで見ることになる。みていろ」
高村の脳裏には全裸で泣きながら土下座する瑞穂の姿がはっきりと見えていた。
そしてそれが現実になる日が近いことも確信していた。
校門前。
瑞穂はあんな謝罪を承諾してしまったことを後悔していた。
クラスへの謝罪。生徒間の約束であり許しを請う儀式。
実際に謝罪をしている生徒は何度も見ている。
謝罪の仕方はトイレ掃除数週間の義務から教室の雑用義務まで大小あったが、
今回のような脱衣の義務なんて聞いたことがない。
とりあえず隆二に連絡して男子側の情報を集めなくては。
このまま高村や恵の思惑通りに晒し者になってたまるものか。