真琴と琴音 
 
「兄上様、起きてください。兄上様。」 
声がする。自分を起こしているのだとは解るがそれに反応できないくらい眠かった。 
「兄上様、兄上様。もう、兄上様ったら・・・兄上様!学校に遅れますよ?」 
大きな枕を抱き枕の代わりのように抱きながらゆっくりと声の向くほうへ顔を向ける。 
でもその眼は閉じたままだ。 
「・・・んあ・・・いまなんじ?」 
1週間くらい前に目覚まし時計を文字盤が漢字で書いてある時計に変えた。 
アラビア数字(1,2,3←アラビア数字)が苦手な琴音にも読みやすい様にするためだ。 
「ええと、8時25分ですよ。兄上様。」 
一瞬にして目が覚めた真琴は布団を跳ね上げて寝間着を脱ぎ始めた。 
「きゃっ!」 
いきなり目の前で寝間着を脱ぎ始めた真琴をみて琴音がびっくりして背を向けるが 
真琴には琴音を気遣う時間的余裕がなかった。 
「ごめん!琴音さん!」 
あわてて学生服に着替えると机の上の鞄をひったくって部屋を出る。 
朝ご飯は無理、とあきらめ家を飛び出した。 
「いってきます!」 
朝の早い祖父が丁度外で朝の体操をしている所へ挨拶して、 
庭の一角に屋根をつけただけの駐輪場から自転車を引き出し乗り込むと 
全速力で学校へむけてペダルをこぐ。 
真琴の自転車を引っ張り出して走り出すまでの動きにはまったく無駄がなかったはずだが 
しかしその自転車の後ろの荷台には、いつの間にか着物を着た琴音がちょこんとお嬢さん座りをしていた。 
 
「はぁ〜・・・」 
「どうした?真琴。なんか浮かない顔だな。」 
オカルト研究部の部室で肘を突いてため息をしつつ、ぼーっと前しか見ていなかった真琴に 
真琴の同級生でオカルト研究部の『岡崎英司』が声をかけた。手には茶封筒を持っている。 
「英司さん。兄上様は最近、夜あまりお休みになれないらしくて・・・」 
声をかけられた真琴よりも先に、近くに居た琴音の方が先に英司に答える。 
学校の生徒ではない琴音は校内でも着物のままだ。 
「なるほど。例の不眠症か?まったく健康な男子とは思えん悩みだな。」 
(やかましい。健康な男子だからなんだよ。) 
そう言ってしまいたいが、琴音の目の前で言ってしまうわけにもいかなかった。 
もっとも、ここ最近で琴音が目の前に居なかったことなどまったくなかったのだが。 
「最近は成人病にかかる若年層は多いんだぞ?」 
適当にごまかしつつ英司の手元から大きな茶封筒を引き抜く。 
「そいつは大変だな。ああ、それ。写真部に現像してもらってきた奴だ。」 
オカルト研究部の活動にはあまり部費が割り当てられていない。備品のほとんどは 
自分たちで持ち寄ったものか、卒業していった先輩たちが残していった財産だ。 
だから写真の現像にも金がかからないように同じ部活の写真部に現像を依頼していた。 
オカルト研究部らしく、心霊写真を撮るのが主な写真の目的なので 
あまり歓迎はされてはいないが、ちゃんとした心霊写真が取れることはこれまでほとんどない。 
「あ、見せて見せて。今回の成果はどうかな?」 
そのやり取りを聞いていた同じくオカルト研究部の部員『陸原美香』が 
書いていた日誌を中断して寄ってきた。 
真琴はあまり期待することもなく茶封筒の中の写真を机の上に広げた。 
「はぁ〜・・・」 
出てきた写真を見ての真琴の第一感想は、そのため息だった。 
 
そこに心霊写真は、あった。しかしだ。 
「なあ英司。こういうのは心霊写真って言うのか?」 
机の上に広げられた写真に写っているのは、どれもこれも琴音ばかりだ。 
あまつさえカメラに向かってピースサインをしている写真すらある。 
「何を言う。琴音さんは間違いなく幽霊。ならば琴音さんを写した写真は心霊写真だ。」 
そうなのだ。 
朝から始まり、自転車をこいでいるときも、昼間の授業中も、こうしてオカ研の部室に居る今も、 
真琴のそばをぴったりと離れないで寄り添っている琴音は、幽霊なのだ。 
オカルト研究部のみんなとも普通に馴染んでいるとしてもだ。 
 
『神無月琴音』は戦国時代のある武家の娘だった。 
そしてその武家とは『神無月真琴』の家、神無月家の先祖なのだ。 
少し複雑だが、簡単に言えば琴音は真琴の先祖の妹に当たるらしい。 
当時、神無月家に仇をなす者達に殺されてしまったらしいが、死んだ後も 
真琴の先祖にあたる兄の安否を思い、それが元で成仏できなかったのだそうだ。 
琴音の兄、『神無月眞琴』の子孫である真琴がここに居ることでわかるように 
幸いにも兄、眞琴は何とか無事に生き延びていた。兄の無事を知った琴音は 
自縛から解かれたのだが・・・兄と同じ姿とほとんど同じ名前を持つ真琴のことが気になり、 
今は真琴の守護霊を買って出て、今もここに居る。 
 
「おー。結構可愛く撮れてるじゃない?これ貰いね。」 
美香が自分と琴音のツーショットの写真を上機嫌で手にとる。 
「陸原、お前もそっち側か。」 
「硬いこと言うなよ。ストレスは成人病が増える元だ。ほら、真琴の分もちゃんとある。」 
英司が真琴と琴音のツーショット写真と琴音だけの写真を何枚かを真琴の手に持たせる。 
しかしちゃっかり琴音の写真の中でもっとも写りの良い写真は自分で確保しているようだ。 
「こっちのは部室に飾っとこうか?」 
美香は琴音を中心にしてオカルト研究部の部員全員で撮った写真を拾って言う。 
真琴は別にこのオカルト研究部が嫌いではない。 
部員もみんな気さくだし性格が暗いなんてこともない。だが、 
このオカルト研究部は何か間違っている。そう思わずにはいられなかった。 
 
ほとんど遊びのような部活動の後、みんなで学校からの帰り道。 
英司が徒歩通学なので自転車通学の真琴と美香は自転車を押して歩いていた。 
「でも兄上様。やっぱり何かお悩みのことでもありますの?」 
「・・・」 
悩みの原因に話を持ちかけられて、真琴には何も言えなかった。 
「おいおい真琴、そこで黙ったら「あります。」っと言っているようなものだぞ?」 
いつも大仰な言い回しをする英司だが、確かにその通りだ。 
すぐに否定しなかったのは失敗だったと真琴は思った。 
「わたしたちで良かったら、相談に乗るよ?」 
琴音と美香は心底心配そうな表情をして真琴を見ている。 
「あ、いや・・・その・・・」 
心配してくれるのはうれしいが女の子に話せる内容でもない。 
そういう意味では、英司にならば相談できそうな気もしたが、 
この場で英司だけに相談と言う訳にも行かない。 
「・・・今はもう少し考えさせてもらえないかな。どうしてもって言うときには相談するからさ。」 
今は逃げるしかなかった。 
「まあ、真琴がそういうなら仕方がないが、あまり思いつめるなよ。」 
英司がそうフォローしてくれるが美香は少し残念そうな顔を、 
琴音は見てわかるほど、しょぼーんとしていた。 
 
その夜、風呂から出た真琴は自室で暇をつぶしていた。手には携帯ゲーム機。 
つい先日買った発売されたばかりの新作ソフトSRWOG2がセットされている。 
英司に聞いた話だと前作よりもだいぶ難易度が上がっているらしい。 
「あの、兄上様・・・」 
その後ろから、おずおずと琴音が声をかけた。 
「ん?何?琴音さん」 
ゲーム機から目を離して後ろを振り向くと、琴音さんが改まって正座をしてこちらを見ていた。 
「・・・差し出がましいとは思いますが兄上様。どうか兄上様のお悩み、聞かせてはいただけませんか?」 
帰りに聞けなかった話を琴音がもう一度持ち出してきた。 
琴音ならばいずれはもう一度聞いてくると真琴も思っていたが、それは思ったよりも早くやってきた。 
「琴音さん。さっきも言ったけど、もう少し整理がついたら話すから・・・」 
携帯ゲーム機へと戻ろうとする真琴だが、今度の琴音は引くつもりは無いようだった。 
「ですが!・・・このままでは遅かれ早かれ、兄上様はお身体を害してしまいます!」 
確かにここ最近、真琴はほとんど寝ていなかった。このまま身体を壊すのも時間の問題だろう。 
琴音の表情は真剣、いや悲痛のそれだった。 
「どうか、どうかお聞かせください。兄上様!」 
琴音は手を畳について頭を垂れる。 
琴音にとっても、こうも早く同じ話を切り出すのは一大決心だった。 
くどいと言われるかもしれないとも思ったが、それにもまして真琴が心配だったのだ。 
そんな琴音を見て、さすがに真琴にはそのままゲームに興じることはできなかった。 
 
真琴の悩み・・・それは非常に単純明快だった。 
性的欲求不満。つまり溜まっているのだ。 
琴音が守護霊として憑いてから、真琴はまともに自慰も出来ないでいた。 
それはそうだろう。幽霊とはいえ女の子が寝ているときも起きているときも、 
学校に居るときでさえ傍に居るのだ。授業中は姿こそ見えないが、いつでもその気配を感じていた。 
風呂やトイレの時までもそれは一緒だった。風呂やトイレだからといって傍を離れる守護霊は居ない。 
そう言って琴音は退室を拒否してきた。とはいえ本人も恥ずかしいらしく背を向けていてくれたが。 
こんな状況ではとてもではないが自慰など出来るわけがない。 
琴音に悪気はない。ただただ自分の本分を通そうとしているだけだった。 
真琴にはそれがわかっていただけに無理に拒絶することができなかった。 
琴音は無邪気で一途で、そして不器用なだけなのだ。 
 
それに自分が琴音に惹かれているのも解っていた。 
琴音と生活するようになってからの1ヶ月以上にも及ぶ断食ならぬ断自慰の所為で 
最近の真琴は、考えることと言えばエロ妄想ばかりで、普段でもちょっとしたことで起ってしまっていた。 
そしてその妄想には、ほとんどの場合琴音が中心にいた。 
妄想の相手がすぐ傍に居て、かといってそれを発散することも出来ず、 
夜、布団の中に入ってもそのことばかり考えて眠れなかったのだ。 
 
「琴音さん・・・」 
「はい。」 
琴音はそっと顔を上げる。 
その目には涙が溢れ、頬伝って流れ落ちていた。 
しかし、その涙は畳に落ちる前に消えてなくなる。 
言ってしまっていいのか、真琴にはわからなかった。 
言うとしてもなんと言えばいい?素直に溜まっているのだと言うのは憚られる。 
もっと柔らかく、好きだと告白でも・・・しかし琴音は・・・幽霊なのだ。 
どんなに琴音が自分を慕ってくれているとしてもそれは兄としてで、と言うこともある。 
そのときの真琴にはどう言葉を続けていいのかわからず言葉に詰まっていた。 
だが、こんな時に。 
真琴は見てしまった。 
正座のまま身体を伏せ、頭だけを上げた状態の琴音の着物の襟の間から、小ぶりな胸が・・・ 
(やばいっ!) 
とっさに真琴は座った姿勢のまま、両手を使って身体を反転し琴音へ背中を向ける。 
琴音がこれだけ真剣に話を聞いてくれている最中だと言うのに、起ってしまったのだ。 
「兄上様!」 
しかし、真実を知らない琴音はそんな真琴の行動を拒否と受け取ったのか声を上げる。 
(お、おさまれっ!) 
念じてどうなるものでもなかったが、真琴にはそうするしか出来ることがなかった。 
「こ、琴音さん。俺はただ・・・そのっ!」 
背中越しに琴音へ声をかけようとした真琴はそこで声を切った。ぶるっと身体が震えた。 
真琴の両肩に琴音の手が乗っていた。 
 
「兄上様・・・どうか・・・どうかこの琴音を信用してください。」 
(さ、触ってる?) 
初めて琴音と出会った頃、真琴の方から琴音に触れてみようした事があった。 
しかしその時はあっさりと透けてしまったのだ。だが、今は確かに琴音の手の感触を肩で感じている。 
(・・・そうか・・・琴音さん次第では・・・触れるんだ・・・) 
もはや行き場を無くした真琴の思考は、関係ないことまで考え始めていた。 
「兄上様、兄上様が仰るのでしたら、私はほかの誰にも言ったりはしません。でも・・・」 
琴音の声は泣き声に近く、震えていた。 
「琴音のことだけは信用してください。言って楽になることもあります・・・」 
まるで時代劇の1シーンみたいだ。と思った。自分の状態を考えなければ、だが。 
そう考えていると力なく、震える琴音の身体が背中にあたり、体重を預けてくる。 
(柔らかい・・・) 
真琴はゆっくりと自分の肩に置かれている琴音の手に触れた。 
「兄上様・・・」 
少し冷たいが、柔らかい手の感触が伝わってくる。確かに触れている。 
ゆっくりと振り向くと、少し見下ろす位置に琴音の上目遣いの顔があった。 
落ちた涙が真琴の背中を濡らすことはなかったが、その顔には幾線もの涙の後があった。 
「琴音さん・・・」 
琴音の身体を受け止めるようにしてゆっくりと身体を向き直らせる。 
「琴音さん。」 
もう一度名前を呼んでみる。 
「はい。兄上様・・・」 
琴音は今、確かに真琴の腕の中にあった。 
琴音の震えが伝わるように、真琴の身体も震え、心臓が早鐘を打った。 
「し、信用・・・するよ。」 
唇も振るえ、声が上擦る。 
琴音がゆっくりとうなづく。 
「琴音さん。好きです!」 
そう言うと、思い切って琴音を抱き寄せた。 
「あ、兄上様!?」 
「好きだ。琴音さん!ずっと、ずっと悩んでいたけど・・・もう・・・」 
 
実際に悩んでいたのは欲求不満についてだったはずだが、 
真琴にはすでに好意と欲求不満の区別がついていなかった。 
それに、琴音の事が好きなのも決して嘘ではない。 
「兄上様・・・で、でも・・・私は兄上様の・・・」 
「本当の兄妹じゃない!それに、もしも本当の兄妹だって関係ない! 
琴音さんが・・・好きだ!」 
「兄上様・・・」 
ゆっくりと体重をかけると琴音はあっさりと畳に転がった。 
その上に身体を重ねるようにしてそして唇も同じように重ねる。 
キスの瞬間、琴音の身体が震えた。 
「琴音さん。」 
唇を少し離し真琴が尋ねるように名を呼ぶと、はにかんだ琴音はゆっくりと頷く。 
血が通っている訳でもないのに琴音の顔は耳まで赤くなっていた。 
真琴はもう一度唇を重ね、舌で琴音の唇を舐める。 
真琴の身体の下で、琴音は時々身体を振るわせるだけで無抵抗でいた。 
今度は唇を離さないまま、着物に手をかける。 
しかし帯がうまく外せない。 
「兄上様・・・」 
琴音から唇を離し、しゃくりあげる様な声がして帯にかけた手に琴音の手が重なると 
ふっと帯の感触が消える。ついさっきまでなかなか外れなかった帯がいつの間にか消えていた。 
帯がなくなった着物は、かすかな動きで簡単に乱れていった。 
着物の中から小ぶりの胸が、綺麗な足が、細い肩が露になる。 
帯の下にあるはずの胸紐も腰紐なくなっていた。 
着物の前がはだけ袖に腕を通しただけの琴音の裸体が蛍光灯の下に曝け出されていた。 
真琴もまた、少し身体を持ち上げシャツを脱ぎ去る。 
そしてジーンズのジッパーを下ろして琴音の胸を見たときから起ちっぱなしのペニスを引き出した。 
 
「あ、兄上様っ・・・」 
真琴が全裸になると琴音はぎゅっと目を閉じる。 
真琴は琴音にもう一度覆いかぶさり二人の頬を合わせる。 
真琴のペニスが二人のおなかに挟まれ、その感触に琴音は再び身体を震わせる。 
小さな刺激にも敏感に反応する琴音を、真琴は心底可愛いと思った。 
「怖い?・・・」 
そう聞くのは真琴にっても怖かった。 
琴音がもしも嫌だと言うのなら無理強いはしたくはない。 
だが、本当に琴音が嫌だと言ったときに、自分を抑えられるかどうか不安だった。 
暫くの間をおき、琴音はゆっくりと頷く。 
「死んだことを理解したときに、もう怖いものなどこの世にはないと思っていました・・・」 
真琴の耳元で、か細い声が続ける。 
「でも・・・やっぱり怖いです・・・」 
「琴音さん・・・もし、嫌だったら」 
しかし真琴には先を続けることが出来なかった。 
今まで完全に受身でいた琴音が、袖を通したままの腕で真琴を抱きしめたのだ。 
「・・・怖いです・・・でも、決心はできています・・・」 
琴音のか細い声は、それでも真琴の耳にしっかりと届いてきた。 
二人は頬を離し、互いを見ていた。 
「兄上様の・・・したい事を私にしてください。」 
琴音は震えたままだったが、その表情は朗らかだった。 
 
その笑顔は真琴を釘付けにして離さなかった。 
とめる必要は、戻る必要はないとわかった後でも、もう後戻りは出来ないと思った。 
「琴音さんっ!」 
むしゃぶりついた。そう表現するのが一番正しかっただろう。 
琴音の首筋を舌で舐めあげ、両手で肌理細やかな肌を乱暴に撫で回した。 
掌に伝わる感触は今まで触れたどんなものよりも心地よいと感じた。 
琴音の胸を赤子のように吸い、対して太ももを琴音の股座に差込しこみ押し付ける。 
真琴の無遠慮な行為に、それでも琴音は一つ一つ細やかに反応した。 
その反応を見るたびに、真琴の自制は失われていった。 
「くっ!」 
真琴は琴音に何も告げることなく、ついには自分のペニスを琴音に押し付けた。 
告げる余裕もなかったのだ。 
「あっああっ!」 
その反応は今まででも最も激しかった。 
幽霊に処女であるかどうかなどの違いがあるのだろうか? 
ふとそんな疑問も過ぎったが、どちらにしてももう真琴には自分では自分を止められなかった。 
「兄上様っ!兄上さっ、あっ!」 
真琴の左手に組んだ琴音の右手が力いっぱい握り返してくる。 
琴音を貫くたびに琴音の身体は全体が震えた。 
「兄上様っ!もう!たすけっ!」 
「琴音さんっ!琴音さんっ!」 
いつしか真琴も琴音の名前を呼び続けていた。 
所無げな琴音の左手が溺れているように動く。 
その手を真琴が右手で捕まえた時、琴音の深いところまで預けたペニスが力強く締め付けられる。 
「あ、兄上様ぁっ!」 
「琴音さん!」 
二人が同時に呼び合ううと琴音の小さな身体へと完全に埋まったペニスから、 
琴音の身体の奥へと精が放たれた。 
 
暫く二人の身体は固まり、そしてまた同時に力が抜けて崩れていく。 
どちらも同じように肩を動かし空気を求めて荒い息をしていた。 
ゆっくりと近づき、最初の時とは違って、互いに唇を重ねあった。 
ふと気が付き真琴は声に出す。 
「・・・震えがとまってる。」 
それを聞いた琴音は、きょとんとしたがすぐに笑顔を浮かべる。 
「本当・・・でも、ここは・・・」 
琴音は左手を離し、自分の胸にあてる。 
「ここは変わらず、ずっとどきどきしています。私には心の臓などもうないのに・・・」 
真琴の咽がごくりと鳴る。 
「・・・聞いても、いいかな?」 
幽霊に鼓動を聞かせてもらうなんて嫌がられるかもしれないと思ったが 
琴音はクスリと笑って頷く。何度もみたこの笑顔に真琴は心底安心させられる。 
そっと頭を胸にあて、耳を胸の間にあてる。 
そこからは何も聞こえなかった。心臓の鼓動も、呼吸の音も、 
生きている人間なら何かしらするはずの生命の音が何も聞こえなかった。 
それでも、脈動だけは伝わってきた。 
心臓が動くときの振動。呼吸をするときの胸の動きがそこにあった。 
そして予想に反して、今の琴音は暖かかった。 
真琴にはそれだけでも良かった。触れることが出来るだけでもうれしかった。 
「ありがとう。琴音さん。」 
そうつぶやいた真琴を、琴音はやさしく抱いた。 
「お、お礼を言うのは私の方です。兄上様。」 
真琴は頭を琴音の胸につけたまま琴音の方へ顔を上げる。 
「え?」 
「いま、私はとても幸せです。兄上様のおかげです。 
あまり幸せすぎて、間違って成仏してしまいそうなくらいに・・・」 
 
それを聞いて真琴はびっくりして跳ね上がる。 
「そ、そんなっ!それはっ!」 
慌てる真琴をみて、もう一度琴音はクスリと笑う。 
「大丈夫ですよ。兄上様のおかげで未練が増えてしまいましたし・・・」 
「・・・え、それって・・・」 
「私は、琴音はずっと兄上様と一緒に居ます。」 
琴音は自分の存在を誇示するように、跳ね上がった真琴を追いかけて 
上体を起こし真琴に寄り添った。ずっと倒れた姿勢のままで残っていた着物がはらりと落ちる。 
「は、はは・・・びっくりさせないでよ。琴音さん。」 
真琴は追ってきた琴音を受け入れるように抱きとめる。 
抱きとめられた琴音は、はっとしたように頭を上げた。 
「あ、そうです。兄上様。お願いがあります。これから私のことは、琴音と呼んで下さい。」 
「え?でも今でも琴音さんのことは琴音さんって・・・」 
琴音は笑顔のまま首を振る。 
「兄上様には琴音さんではなくて、琴音と呼んで欲しいのです。」 
琴音の言いたいことを理解して真琴は頷く。 
「そ、それじゃあ・・・こ、琴音・・・さん」 
「琴音です。」 
今までずっと「琴音さん」と呼んできたのに急に呼び方を変えるのは少し恥ずかしかった。 
「こと・ね・・・」 
「はい。」 
「琴音。」 
「はい。」 
「琴音!」 
「はい。」 
 
何度か呼んで具合を確かめる。そう呼ぶのは悪くない気がした。 
琴音は呼んだその一つ一つに答えてくれた。 
「それから後もう一つお願いがあります。」 
ずっと笑顔で居た琴音はここで少し表情を曇らせ俯き加減となる。 
「これからはその・・・こういうことは・・・次からはちゃんと床(布団)の上で・・・」 
そう言われて初めて、勢いに任せて畳の上で始めてしまっていた事に気が付いた。 
「あ、ああ。ごめん。そうだね・・・それじゃあ琴音、行こう。」 
真琴は琴音の膝の裏と背中に手を回して抱きかかえて立ち上がる。 
「あっ、え?あぁ!でもその、今日はもう!」 
別に催促したわけではないと否定するが抱きかかえられた琴音の 
腰の下から当たる真琴のそれは、実は先程終ってからもずっと硬いままだった。 
「ごめん、琴音。一回じゃあ俺、収まりそうにないから・・・」 
抱えてすぐそこにあるベッドの上に琴音を下ろし、そのまま琴音に覆い被さる。 
「そんな、兄上様っ!今日はもう!あっあぁっ!」 
「琴音!琴音!」 
・・・二人の行為は、二人が同時に気を失うまで延々と続いていた。 
 
「兄上様、起きてください!兄上様!」 
声がする。自分を起こしているのだとは解るがそれに反応できないくらい眠かった。 
「兄上様!もう、兄上様ったら・・・兄上様!学校に遅れます!」 
大きな枕を抱き枕の代わりのように抱きながらゆっくりと声の向くほうへ顔を向ける。 
でもその眼は閉じたままだ。 
はて?いつもの枕とは感じがちがう。いつもよりずっと触り心地が良くて大きい。 
「・・・んあ・・・いまなんじ?」 
1週間くらい前に目覚まし時計を文字盤が漢字で書いてある時計に変えた。 
アラビア数字が苦手な琴音にも読みやすい様にするためだ。 
「ええと、8時30分です。兄上様。」 
一瞬にして目が覚めた真琴は布団を跳ね上げて寝間着を脱ごうとして・・・何も着ていなかった。 
「きゃっ!」 
いきなり布団を剥ぎ取られた琴音はびっくりして布団を引っ張り裸身を隠す。 
そうだ、昨晩は遅くまで、いや明け方まで二人で交わり合っていたのだ。 
「いや!感傷に浸ってる場合じゃなくて!」 
あわてて学生服に着替えようとしてそれも琴音に止められる。 
「あの、兄上様・・・においが・・・その、昨夜のにおいがします・・・」 
真っ赤になった琴音に言われて気が付く。二人とも全身から汗と精のにおいが漂っていた。 
慌てて風呂場に飛び込み二人でシャワーを浴びて家を出たのはそれからさらに20分も後のことだ。 
「いってきます!」 
家の外に居た祖父へ挨拶すると祖父は真琴に向かって親指を立て不器用なウインクをして見せた。 
少し赤面した顔で歯を出して笑っているが、真琴には祖父にかまっている時間はない。 
庭の一角に屋根をつけただけの駐輪場から自転車を引き出して乗り込むと 
全速力で学校へむけてペダルをこぐ。 
真琴の自転車を引っ張り出して走り出すまでの動きにはまったく無駄がなかったはずだが 
しかしその自転車の後ろの荷台には、いつの間にか着物を着た琴音が幸せそうにお嬢さん座りをしていた。  
 

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