高等女学校はもう夏休みが始まって
珠姉さまも瑠璃姉さまも、母様たちと
一緒にメイドたちを引き連れて
別荘に行ってしまった。
運転手の中根さんと、家政の静江さんと
ねえやの佳世と、賄いの竹さん、
そして、父様のよこした留守番の書生の
遠藤さんだけが、ぼくといっしょに
お屋敷に残っている。まだ小学校が
休みじゃないからだ。市電でねえやに
連れられて柳町の附属に通うぼくは、
姉さまたちがいなくてせいせいするかと
思ったけど、火の消えたようなお屋敷で、
お付きに出られる人も少なくて、
あまり外出できず、つまらなく思っていた。
ねえやの佳世はいつもの制服のメイド服と
エプロンドレス、外出は着物だけど、
相変わらず、大雑把な身動きで、
ときどきしでかしてしまう毎日だった。
あ〜あ、今頃姉さまたちと母様は湖で
遊んでるんだろうなあ。夜は涼しいん
だろうなあ。寝苦しく蒸し暑い夜を、
蚊帳の中で、ごろんごろんと、
いつしか12時の時計の音を聞くのだった。