鴉の濡れ羽のようなそれに、指を入れる。  
 皮膚を伝わり感じるのは、艶やかな触感。梳く手指の動きも滑らかに。  
「……くろーど?」  
 きょとんとして、彼女――東雲・薙がこちらを見るが、動きは止めない。  
 ただ撫で梳く。薙がこちらを見る目付きが、怪訝そうなものから次第に  
心地良さそうなものへと変わっていく。  
「んー……」  
 薙が目を閉じ、ねだるように身体を摺り寄せて来た。  
 そこで『くろーど』と呼ばれた彼、鈴木・蔵人は顔に笑みを浮かべて、  
「――起きろ」  
 彼女の頬をつねった。  
 
 
 吉野屋に入り、二人仲良く牛丼を注文する。  
 品が運ばれてきたところで、薙が口を開いた。  
「酷いではないか、蔵人」  
 むすっとした表情の薙を前に、蔵人は渋面をつくる。  
「酷いのはお前だ。寝坊なんぞしおって。今日の朝飯はお前の  
当番だったはずだが?」  
「う」  
 言葉に詰まり、薙はしばし視線を彷徨わせて、おもむろに牛丼  
に箸をつけた。  
「うむ。たまの牛丼も味なものだな」  
「何が悲しくて休みの日にまで吉牛……、俺の昼飯は毎日コレだぞ」  
「い、いいではないか! 牛丼は不味くないぞっ」  
「俺は薙がつくるメシが食いたかったんだけどなあ」  
「う……」  
 しゅん、と肩を落とす薙を見て、蔵人は内心で笑みを浮かべる。  
 彼女とは長い付き合いだ。子供の頃に家が近かっただけの繋がり  
だが、地元の学校に通って地元で就職した場合、「幼馴染」という  
縁は中々途切れない。しかも幼稚園から高校まで同じクラスで席が  
隣、就職先も一緒となれば、もはや夫婦だ。  
 今では親公認の半同棲状態であるのだが――  
(そーいや告白とかしてなかったな……どっちからも)  
 どうにも奇特な関係だと、蔵人は思う。  
 ふとすると崩れ去ってしまいそうな……  
「――人、蔵人……くろーど?」  
「ん、あ、ああ……なんだ?」  
 名前を呼ばれた事に気付き、蔵人は薙に視線を戻した。  
 薙は上目遣いでこちらを見て、おずおずと問う。  
 

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