「ミユリさんはどうした?」  
ヒロトがシノンの姿を見て頬を染めながら言う。シノンの方も顔を赤らめた。背後にいる  
アカネはちょっと意識しあう二人が面白くなかったが、仕方が無い。3人とも裸だからだ。  
 
深夜の決戦の時が訪れ、アカネとヒロトがジムの地下にある練習用リングに行くと、シノン  
一人がリングのロープにもたれ掛っていた。約束どおり、裸にリングシューズと格闘技用の  
小さなグラブだけをつけて。レフェリーの一人であるミユリの姿がない。  
 
「そっちのロッカーから出てこないのよ。ヒロトに裸を見られるのは恥ずかしいみたいね」  
シノンが首だけ向けて指し示す。さっきまで恥ずかしがりながらリングにいたのだが、  
ヒロト達が入ってくる気配を察すると、ササッ!と控え室に逃げ込んだらしい。  
その気持ちはアカネにもよく分かる。そもそもシノンがこんな恥ずかしいシチュエーションを  
自ら提案する事が異様なのだ。  
(だからと言って羞恥心が無い人でもなさそうだし…)  
チラッとシノンを見ると、アカネの視線に気がついたのか、ニコッと微笑みかける。悪意が  
なさそうな微笑だ。不思議な人……とアカネは思う。これからカレシを賭けて戦う相手に  
笑顔を向けられるなんて……。  
 
「どうする? 無理に引っ張り出すのは逆効果だろうし、そもそも、彼女にそんな義理は  
ないだろう?」  
「それは、そうだけど……」  
シノンは何か言いたそうだが、口ごもった。しかし、決心したように言う。  
「ヒロト、聞いてくれる?」  
シノンがヒロトの耳に口を寄せ、何か囁いた。途中、少し恥ずかしそうな顔をしながら…。  
アカネには聞かれたくなさそうだが、特に意地悪でそうしてるのではなさそうだ。  
 
「……わかった。俺が行くよ。ミユリさんを連れてくるから待ってな」  
話を聞くとヒロトはロッカーの方に消えていった。シノンがホッとした表情でその姿を  
見送る。状況が良く飲み込めてないアカネの視線に気がつくと、微笑みかける。  
「ゴメンね、アカネちゃんに内緒でヒロトに耳打ちしたりして……その、悪気は無いん  
だけど…」  
「あ、はい……」  
シノンの意外な態度に少し戸惑ったが、アカネもそれ以上は追求せず、ヒロトを待った。  
 
 
「ミユリさん、入るよ」  
カーテンの向こう側のヒロトの声を聞いてミユリは更に体を固くした。今自分はスポーツ  
タオル一枚の姿。ヒロトはおそらく全裸だろう。返事をしたいが、体が震えて声がうまく  
出せない。  
「タオルを腰に巻いたから安心して。そちらも何か身につけて、ちょっと話そうよ」  
優しげなヒロトの声に、少しだけ安心したのか、カーテンを開けるミユリ。そこには  
腰にタオルを巻いただけのヒロトが立っていた。ミユリがいるのは不測の怪我などの  
応急処置用ベッド。ヒロトがその気ならば、押し倒せる状況だが、そこまでは心配は  
していなかった。アカネやシノンがいるヒロトが自分のような冴えない女の子に手を出す  
とは考えにくいからだ。  
 
(おっ…?)  
バスタオル一枚のミユリの姿はヒロトの心を少しときめかせた。ミユリのボディラインは  
練習やTVでいつも見ているはずだが、やはりタオル一枚となると少し印象が違う。  
(それに、TVじゃこんなに恥ずかしそうな表情はしないしな…)  
内心、クスクスと笑う。ミユリはそんなヒロトの様子には気づかない。と言うか、そこに  
いるだけで一杯一杯なのだ。お互いにタオルを巻いただけの男の子と同じ部屋にいる。男性  
経験は手を握った事すら殆ど無いミユリは、そのシチュエーションを考えただけで頭が  
くらくらする。  
 
「レフェリーを引き受けてくれたんじゃないの? シノンが困ってるよ」  
優しく、落ち着いた声と子供に諭すようなしゃべり方で年上のミユリに話しかける。  
(年上には、全然見えないな)  
体型も、ミユリには失礼だがやや幼児体型気味であることもあるだろう。だが、胸の  
ボリュームなどはシノンやアカネの様な筋肉質と違いふっくらと女性らしい。  
(柔らかそうだな……)  
アカネやシノンが柔らかくないわけではないが、外見の比較だけならミユリの方が柔らかに  
見える……そう思っていた時、ミユリが自分を見ている視線に気がついた。  
 
「あ、ゴメン……つい」  
「……」  
謝るヒロトに対し、物も言わず、サッと身を固くするミユリ。……少し傷ついたぞ。  
(困ったなぁ……)  
この手の子は一番落としにくい。少しでも会話してくれるならそれを糸口に説得も  
出来るが、反応が返ってこないと手の打ちようがない。強引に引っ張りこむという手は  
あるが……と、一瞬思ったが、さっきのシノンの表情を思い出すとそれもしたくない。  
 
「ごめんなさい……」  
ミユリがポツリと呟く。  
「私……その、恥ずかしくて……。ヒロト君が嫌いとかじゃないんだけど、男の人に  
裸を見られるのは、やっぱり……」  
真っ赤になって俯きながら謝るミユリ。良かった、嫌われてるんじゃなかった……と、  
違う理由でホッとするヒロト。  
 
「そ、そうだねぇ…ミユリさんには災難みたいなものだもんな、アハハ……」  
笑いが乾いてしまう。じっくり時間をかければ説得も出来るだろうが、そうなると  
いつまで経っても試合を始められない。  
(どうしたものか……)  
と思いながらミユリの体を見ると、あちこちに痣が出来ていた。白い滑らかな肌だけに、  
余計にそれが目立つ。痣は腕や、肩や胸にもあったが、集中しているのは下半身だった。  
それも脛から下よりも圧倒的に太股から上が多い。内股からタオルに隠れているあたりは  
真っ赤であった。  
 
「練習、したんだ。昼間、シノンと……」  
「え…? あ…は、はい!」  
慌ててぎゅっと股を閉じ、手を挟み込むようにして股間を守るように隠す。その姿の方が  
余計にそそるのだが。  
「そのあたり、真っ赤じゃないか。大丈夫?」  
「は、はい…! ちょっと、痛むけど、今は平気……」  
「蹴られたの? それとも、電気アンマ?」  
ヒロトの目が注意深くなる、が。  
「そ、それは……言えません……」  
ミユリが視線を逸らす。ふ〜ん……、と思わずヒロトは感心する。これだけ、テンパった  
状態でも親友の不利になる情報は与えない。だからこそ、シノンはこの人に絶対の信頼を  
置いているのだろう。  
 
「ねぇ……」  
「は、はい…?」  
「俺も、ミユリさんに電気アンマしていい?」  
「……はぁ!?」  
メガネの奥でミユリの大きな瞳がぱちくりする。突然、何の前触れもなく電気アンマさせろ、  
と目の前の男に言われたのだから当然であるが。  
 
「その方がミユリさんの緊張を解くのにいいと思うんだ。勿論、タオルはつけたままで。  
なんあらショーツを穿いてもいいし」  
「あ、あの……」  
「経験のない人は視覚からの刺激が強いとどうしても身構えちゃうからね……だから、  
目を閉じて身を任せてもらえれば、ミユリも落ち着けるし、体がほぐれれば、少しぐらい  
大胆な事でも平気になれる」  
「は……はい。いえ! その……」  
ヒロトの一方的なペースにオタオタと目を白黒させるミユリ。体がほぐれれば少しぐらい  
大胆にって、電気アンマはかなり大胆な事なんですけど……それに『ミユリ』って……  
その、ヒロト君の事は嫌いじゃないけど、だからと言って呼び捨てにされるのは……嫌じゃ  
ないけど、年上の立場ってものが……と、全部頭の中では浮かぶが、一切声に出して言えて  
いない。「あわわ……」と意味のない言葉だけが口に出る。  
 
「じゃあ、軽く始めようか」  
ヒロトがベッドに腰を下ろし、ミユリを押し倒した! ミユリは慌てて助けを求めようと  
したが、勿論、誰もいないし、それに、声すら出ない。  
「じゃあ、足の力を抜いて……そうそう。こうやって両足を固定して……」  
「あ…あのう……その……」  
「今、手を外すと俺に丸見えになっちゃうけど、いいの?」  
「……!! だ、ダメです……!」  
慌てて手で股間を隠したが実はヒロトには、その少し赤く腫れているがピンクの綺麗な  
ミユリの秘裂がしっかりと見えていた。指摘してやったらどんな反応するかな?、と  
意地悪な気持ちが湧くが、ここは抑える。  
 
「よし、固定完了。あとは俺の右足を股間にガシッとあてがえばOKかな……ミユリ、  
上手に手を抜かないと見えちゃうよ?」  
「は……はい……」  
パニック状態のミユリは言われるままゆっくりと股間をガードしている手を抜く。すぐさま、  
ヒロトの右足が股間にセットされた。「あ……」とミユリが我に返ったとき、これ以上ない、  
完璧な電気アンマポジションが出来上がっていた。  
「では、これから鷺沢ミユリさんの説得を始めます……覚悟はいいかい、ミユリ?」  
にやりとここで初めてヒロトはいやらしく笑った。ミユリは罠にはまった事を悟ったが、  
ここからではどうする術もなかった。  
 
「あ……あのう……」  
ミユリが何か言いかける。少しでも動けばグリッと股間に刺激を受け、思わず仰け反りそうに  
なる状態。それでも黙ってやられてるわけにはいかない。  
「なんだい?」  
何の気もなさそうな返事をするヒロト。股間に当てた右足は少しずつ……ホンの少しずつ震わ  
せている。その度にミユリのうめき声が上がるのを聞き逃さない。  
「こ、こんな事をしなくても、話し合えばいいと…思うの……うう……お願い、少し止めて、  
ヒロト君……」  
「『ヒロト様』って呼べよ」  
「え?」  
いきなり言われ、電気アンマよりそちらの事の驚きに目を丸くさせる。年下の男の子に、  
服従を強要されたのだろうか?  
「それって……その……」  
「呼ぶのか? 呼ばないのか?」  
「だ、だって……はうぅ!!」  
ヒロトがグリッ!と右足を捻った。昼間腫らしたミユリの股間にはこれは効いたはずだ。  
「や…やめて! やめて…ください……ヒロト様……」  
体を震わせて必死に耐えながらミユリは服従の言葉を言った。ヒロトはにやりと笑いながら、  
すぐにはやめてやらなかった。「ああああ〜〜!!」ミユリは絶叫し、白いおとがいを仰け  
反らせて悶える。  
 
 
 
「ミユリ、これでお前は俺の奴隷だな?」  
「え……? は、はい……」  
「だったら、もう説得の必要もないな? シノンの頼みどおり、立会人とレフェリーを務め  
るな? 勿論、裸でだ」  
「はい。ヒロト様……」  
ミユリは自分の人生が立った数分で激変した事を感じていた。数分前まで、ヒロトと自分の  
関係は何もなかったのだ。だが、自分が裸になるのを嫌がって駄々をこねたばっかりに、  
ヒロトの奴隷にされてしまった。  
自分がどうしてそれを受け入れてしまったのかはわからない。だが、全く、その下地がない  
わけではないのは自覚していた。自分は明らかに受け体質だ。たとえいじめられても、可愛  
がって構ってくれる人を好きになる。シノンもそうだし、ヒロトもそうだった。  
特にヒロトには奴隷にされてしまった。だが、後悔は全くない。  
 
「タオルを取れよ」  
乱暴にヒロトが言う。そして自分の腰に巻いたタオルも取った。生まれて初めて男性器を  
見たミユリは真っ赤になるが、「はい……」と言って自分が唯一身に着けていたタオルを  
取った。白い肌が晒され、ピンク色の可愛い乳首も、下半身の薄い草叢も露になる。  
想像していた通り、胸は大きかった。全体的に痣があるが、やはり、股間近辺が一番赤く  
腫れている。  
 
「随分、正確に痣が集中しているな……狙って蹴られたのか?」  
電気アンマを再開し、ミユリを悶えさせながら訊く。奴隷への尋問が始まったのだ。  
「そ……それは……言えません……」  
「俺はお前の何だ?」  
グリリ…!!とちょっと強めに股間をいたぶる。ミユリは悲鳴を上げるが、気丈にも堪える。  
「ご……ご主人様です。でも……言えません……」  
はぁ…はぁ…、と苦悶の荒い吐息をつきながらもはっきりと拒絶の意思を伝える。  
「どうしてだ?」  
「シノンは……私の親友だから……です。私は……シノンと一生親友だって誓ったから…」  
「俺との主従関係よりも優先されるのか?」  
さらに電気アンマの力を強めた。今度は振動を大きく深くする。急所を責め立てられる  
ミユリにはかなり辛そうな攻撃だが……。  
「……ごめんなさい。はうう……!! う……ああっ!」  
堪えきれずに頭を振り、トレードマークのポニーテールを揺らし、メガネを振り落としても  
ミユリは白状するつもりはないらしい。アカネに有利になるようにシノンの特訓状態を  
暴露させるつもりだったが、それは当てが外れた。しかし、ヒロトはますますミユリが  
好きになった。  
 
「シノンもそう言ってたぞ。ミユリを今日の戦いに呼んだのは、もし負けた時に、ミユリに  
全てを知った上で慰めて欲しいから、だってさ……自信はあるけど、勝つかどうかは分から  
ない、だからミユリでなければダメなんだと。でないと、負けた時に私は胸が張り裂けちゃう  
かもしれないからって……」  
最後の所はヒロトも少しはにかんでしまう。シノンの自分への思いが間接的に伝わったからだ。  
しかし、ミユリに与えた衝撃はその比ではなかったようだ。  
「シノン……。シノン……。ごめんなさい……」  
電気アンマされながらミユリは泣き出した。  
「どうした?」  
ヒロトが少しだけ優しく聞く。牝奴隷に対して必要以上に優しくするのは奴隷教育に  
良くないからだ。  
 
「私、シノンとの特訓、何度も途中で嫌がったの……だって、とっても辛くて……だけど、  
シノンがそんな気持ちでいると分かってたら……」  
電気アンマを耐えながら嗚咽をもらすミユリ。まるでその罰の様に、むしろヒロトの  
電気アンマを享受している。そこに……。  
 
「ミユリは良く頑張ってくれたよ。だから、私も今日の戦いに自信を持って臨めるの」  
ヒロトがぎょっとしてみると、いつの間にかシノンとアカネがベッドの脇に立っていた。  
シノンは目を赤くしてミユリを見つめ、アカネは冷静にヒロトを見つめている。  
いや、冷静ではなさそうだ……降ろされた握りこぶしがプルプルと震えている……。  
必死に色々ないいわけを頭に巡らせるヒロト。とりあえず、慌ててミユリを解放した。  
そのミユリをシノンは優しく抱きしめる。  
 
「それに秘密を守ってくれたんだね。ありがと」  
シノンはミユリのおでこにキスをする。ミユリはビクッ!と反応したが、シノンに身を  
預けた。彼女にとってやはり一番安心できる場所らしい。  
 
「ふ〜〜〜ん……。奴隷ですか。いいご身分ですね、『ご主人様』」  
ジト目でヒロトを見下ろしてるのは勿論アカネである。ヒロトは面目なさそうに、  
ベッドの上で正座状態。もしかすると日本で一番情けない『ご主人様』かもしれない。  
 
「ほんっとに、あんたって節操ない人……! あれから僅か5分よ? 5分!   
大丈夫かな? って向こうでシノンさんと気を揉んでたらミユリさんの悲鳴が聞こえて  
恐る恐る覗いたら、『ご主人様って呼べ』? 二人してずっこけそうになったんだから!」  
確かにそのシーンを第三者に見られるのはかなり恥ずかしい。憤るアカネと頭をかく  
ヒロトを見てシノンは笑い、当事者の一人であるミユリは真っ赤になる。  
 
「い、言っておきますけど、私はミユリさんが羨ましくて怒ってるわけじゃありません  
からね! あんたのその見境のない浮気心に対して怒ってるんだから! 聞いてるの?」  
「……アカネ、もしかして、奴隷にして欲しかった……」  
「バカ言いなさい!!」  
すぱ〜〜ん☆!とその場にあったスリッパで頭を叩かれるヒロト。「ゲフッ!?」と  
漫画みたいに吹っ飛ばされる。  
 
「あれ、間違いなく、ミユリが奴隷にされたのを怒ってるよ……どうする?」  
二人の様子を見ながらシノンが面白そうにミユリにひそひそ声で聞く。  
「うん……でも、誓ったのは本当だから……」  
ミユリが恥ずかしそうに答える。無効にする気は全くないらしい。  
「なんだ、あんたもライバルだったの? いいな〜、奴隷だなんて。うまくやったね」  
シノンも少し羨ましそうだ。奴隷にされて一方的に電気アンマでヒロトにいじめられる、  
そんなシチュエーションに憧れるらしい。  
「シノンたちが来るのがもう少し遅かったら、もっとしてもらえたのに」  
ミユリが悪戯っぽく舌を出す。シノンが笑って頭を小突いた。アカネの怒声とヒロトの  
情けない言い訳を聞きながら。  
 
 
こうして、全員が揃い、決戦の場を迎える事となった。  
 
 
「ウフフ、いよいよ試合前のお楽しみ〜」  
これから決戦だと言うのに浮かれているシノン。  
「どうしたの、シノン。随分楽しそうだけど?」  
ヒロトの奴隷となったミユリが聞く。彼女は試合前の約束の詳細を知らない。  
「だって、ヒロトにたっぷりと電気アンマして貰えるんだもん! ドキドキしちゃうよぉ」  
そう言ってヒロトをじっと見つめるシノン。ヒロトは思わず、頬を掻く。  
「開始前の電気アンマはそれぞれ一分ずつでいいですよね、シノンさん?」  
頬を染めながら、期待に身震いするシノンに冷や水を掛けるような口調で話しかけるのは  
アカネだ。アカネとしてはヒロトにエッチな事をされるのを喜ぶシノンを見て嬉しいはず  
がない。  
 
「そ、そんなのダメよ! 私がイっちゃうまでやってもらわなきゃ。十分潤さないと  
誰かさんに急所打撃ばっかりされた時、怪我しちゃうもんね」  
「そ、そんなの言いがかりです! 大体、このルールを提案したのはシノンさんじゃない  
ですか?」  
「だから万全な安全対策としてヒロトに可愛がってもらうんでしょ?」  
「安全対策って……急所を攻撃しあうのに今更安全もなにもないでしょ?」  
言い争うシノンとアカネの間でオロオロするヒロト。その時、ミユリが口を開く。  
 
「あの〜〜……、この電気アンマのルール、ヒロト君が決めたんだよね?」  
「そうだけど?」  
「だったら、する事を決めたのがヒロト君なんだから、私がやり方を決めてもいいと  
思うんだけど……レフェリーは同格なんでしょ?」  
遠慮がちに主張するミユリの言葉を聞いて顔を輝かせたのはシノンだった。  
「ミユリ! あんたはエライ!! 大好きだよ〜〜!!」  
「ちょ、ちょっと…!? シノン!?」  
いきなりシノンに抱きしめられて顔中にキスをされ、ミユリは驚く。でも、その表情は  
まんざらでもなさそうだった。  
「……ご自由にしてください」  
アカネはぷいっと自分のコーナーに戻る。ヒロトは追いかけようとしたが、すぐに  
シノンに覆いかぶさられた。その様子をアカネはちらりと見たが、ヒロトが振り切らない  
のを見て頭を振り、屈伸運動でウォーミングアップする。  
 
一方、シノンは大はしゃぎだ。大好きなヒロトに電気アンマで責められる。シノンに  
とって今最もされたい事を『彼女公認』でしてもらえるからだ。  
「じゃあ、私がイクまでしてもらうのでいいよね?」  
「あ、ああ…。だけど、試合前なんだし、あんまり体力を使うのは……」  
「大丈夫、大丈夫! スタミナには自信があるもん。……ねえ、お願いがあるんだけど」  
「なんだ?」  
「最初はその……優しくしてもらってもいいかな?」  
頬を染めて照れながらシノンが小さな声で言う。恥ずかしくてたまらない、けど、  
どうしても言わずにおれなかった、そんな表情だ。  
 
「そ、その……これが遊びとかじゃないのは分かってるの。でも、昨日も戦いだった  
からそんなに優しくされなかったし……一度、男の子に優しく電気アンマされたいって  
思ってたから」  
これ以上ないぐらい真っ赤になるシノン。ヒロトがどう答えようか迷ってるとアカネの声が  
聞こえた。  
「蹴っちゃえばいいのよ。遊びじゃないんでしょ? だったら、この戦いがどういうもの  
か、思い出させてあげなさいよ」  
ヒロトはちょっと驚く。今の言葉はアカネの口から出たのか? アカネはこちらを見ようと  
せずウォームアップを続けている。  
 
「……ヒロトがそう思うなら、それでもいいよ」  
シノンが恥じ入るように言った。アカネの言う事も一理ある。これから奪い合いの戦いが  
始まるのに、その当事者のヒロトと楽しもうなどとはやはりずうずうし過ぎるかもしれない。  
(ヒロトに決めてもらおう)  
それでヒロトが優しくするのを拒否しても誰も恨むまい、と心に決める。ヒロトは勿論、  
アカネも……。立場的には彼女の方が辛いのだ。  
 
一方、アカネの心中も穏やかでなかった。  
(私、何であんな事言ったんだろう……)  
自分は嫌な子だ、とアカネは思った。シノンに対する言葉は正当性を主張したいがため  
でなく、単なるあてつけだった。シノンがヒロトに恥らいながらおねだりする姿にむか  
ついたのだ。  
(でも…でも……押さえきれないよぉ……)  
嫉妬の気持ちがあふれて泣きそうになるのを懸命に我慢する。  
 
ヒロトはしばし考えていたが、シノンに足を広げて寝るように命じた。  
シノンはコクリと頷いて、リング中央で足を開く。どうされてもいいように覚悟を決めた  
らしく、目を閉じ、両手を胸の前で組む。ヒロトはゆっくりとその足の間に座り、両足を  
がっちりと脇に抱え、完璧な電気アンマホールドの体勢に入った。シノンは既に覚悟を  
していたが、ヒロトの右足が股間に触れると、体をびくっ!と竦ませてしまう。  
 
「……最初は優しく、だったよな?」  
「え…? は、はい!!」  
ヒロトの言葉にシノンは目を開いた。  
「あ、あの……」  
「なんだ?」  
「本当に……いいの?」  
「……ああ」  
シノンの言外の意味には、アカネに対する配慮もあるのだろう。アカネはウォームアップを  
やめ、リング内に背を向けていた。その表情をヒロトやシノンが窺い知る事は出来ない。  
「シノンが頑張ってお願いしたんだもんな……断れないよ」  
ヒロトが笑顔で言った。アカネちゃんの事、気になるだろうに……と、シノンはヒロトの  
心中を察しながらその心遣いを暖かく感じる。  
「じゃあ、始めるよ?」  
「う……うん! ううん……はい!」  
ドギマギしながら返事を返すシノンを見て、可愛いと思いながらヒロトは電気アンマを  
開始した。シノンの唇から「うっ……!」と小さく呻き声がもれた。  
 
「う……くっ……はぁん!」  
緩やかな振動がクリトリスを刺激し、シノンを快感の渦に溺れさせる。  
(こんなに気持ちがいいなんて……もう、我慢できないよぉ……)  
必死でイキそうになるのを耐えるシノン。イってしまうと、そこでこの電気アンマは終了  
してしまうのだ。この優しい、暖かな電気アンマが。  
「ここを中心に嬲られると気持ちがいいだろ?」  
ヒロトも調子が出てきたのか、持てる技のバリエーションを駆使してシノンを気持ちよく  
させている。ヒロトは素足、シノンも生股間。体温がそのまま伝わる状態に心理的にも二人の  
気持ちは高揚する。  
 
「はぁ……ん。ずっと…されていたいよ…ヒロト……」  
切なげにヒロトの足を掴んで離さないシノン。太股は快感をむさぼるかのようにヒロトの  
足をギュッと挟みこみ、その擦れで更に快感が増幅する。これをイかないように耐えるのは  
肉体的にも精神的にもかなりのスタミナを消費するだろう。  
「大丈夫なのか? 無理せず、イったほうが……」  
「だ、だめ! まだ、終わりたくない!!」  
心配するヒロトの言葉をシノンは拒絶する。  
「体力がなくなってもいい……このままヒロトを感じ続けたいの……。だって私、この試合に  
負けたら、もう二度とヒロトにこんな事して貰えないんだよ!?」  
シノンが切羽詰ったように言う。ミユリはこのシノンの言葉が、ヒロトを騙す嘘でも、  
アカネに対する牽制でもなく、本心から出ている言葉だと分かった。勝つ方法は確立し、  
あとはアカネをどのように嬲るかだけ……口ではそう言いながらも心の奥ではシノンも敗北の  
不安で一杯だったのだ。  
 
「だからヒロト、お願い……今だけ、我侭を聞いて。もしこれが理由で負けても後悔はしない  
から……うくっ!」  
快感に咽びながら懸命に耐えるシノン。そんな彼女の気持ちを無碍にする事はヒロトには  
出来ない事だった。クリトリス近辺を嬲っていた踵を今度は会陰部あたりに移動し、少し  
強めに振動させる。  
「はぁう……! ヒロト、それは……!」  
「同じところばかりを責められるより少しリズムを変えて色々なところを責められるほうが  
気持ちいいだろ?」  
にやっと笑いながらヒロトは強弱のリズムを不規則にした。  
「はぅっ…! あうう……! だ、だめ……いっちゃう!!」  
「これ以上の我慢は苦痛にしかならないよ、シノン。お前はもう十分に我慢したさ。今は力を  
抜いて快感に身を任せるんだ。そうすれば、天国に昇ることが出来る」  
「ううう……わ、わかった……ヒロト……ヒロト……ああああ〜〜〜!!」  
ヒロトの言うとおり、シノンは快感に天まで登りつめ……そして、失墜した。  
 
 
五分後……。  
 
 
「………」  
「………」  
シノンが気絶してから5分間、ヒロトとアカネは自コーナーで言葉を交わさずに立っていた。  
シノンはミユリの膝枕で気を失ったままだ。沈黙がリングを支配し、重苦しい雰囲気が  
あたりに漂う。本当はアカネに電気アンマする番だったが、アカネは何も要求しないし、  
ヒロトもその事を切り出しにくかった。  
 
「私……決めちゃった」  
漸くアカネが重い口を開いた。ヒロトのほうを見ずに。  
「……何を?」  
ヒロトも一瞬アカネを見たがすぐに視線を落とす。  
「私、この戦いに勝って、ヒロトをモノにするの。そして、一生付きまとってやるの。  
ヒロトには迷惑だろうけど。これは私の意地……。シノンさんにはヒロトは渡さない  
……絶対に譲らない!」  
 
「な……」  
思いつめたアカネの言葉にヒロトは呆然とする。  
「なんだよ、それ? いつからそんな話になった? 俺がいつアカネが迷惑と……」  
「だって……!」  
アカネがヒロトを見た。その表情を見てヒロトは思わず「うっ……」とたじろぐ。  
アカネの目は真っ赤になり、涙があふれていた。  
「だって……私の前でシノンさんにあんなに優しくして……。私やミユリさんがいて、  
さぞかし邪魔だったでしょ? 言ってくれれば二人っきりにしてあげたのに」  
「ば、馬鹿言うなって! あれはその……シノンが……」  
「シノンさんが何よ? あの人がヒロトに優しくしてって頼んで、ヒロトがそれに答えて  
あげた、それだけじゃない! 二人がそんなに愛し合ってるなんて知らなかったよ……  
ゴメンね、気が利かなくて……」  
「ちょっと、待てったら! あれは愛し合ってるとか、そういうのじゃなくてその……  
なんでそんな思い込むのさ!?」  
「思い込み女で悪かったわね! 仕方ないじゃない! 私……我慢しようとしても、抑え  
きれないんだもん……」  
ボロボロと泣くアカネにヒロトも困惑する。アカネの気持ちは勿論分かる。だが、実際は  
彼女の思い込みとは少しずれているのだ。ヒロトが本当に好きなのはシノンでなく……。  
 
「いいじゃない。そんなお子ちゃまには好きに思い込ませておけば?」  
ヒロトとアカネが思わずリング中央に顔を向ける。声の主はシノンだった。気絶から目覚  
めたようだ。シノンはゆっくり立ち上がる。  
「はん……感情を抑制できずに、ヒロトの気持ちを分かろうとも話をしようともしない、  
なんてね……子供でももうちょっと聞き分けがいいと思うけど? ねぇ、ヒロト……  
そんなストーカーっ子なんか放っておきなよ。どうせ、こ〜いう子って何言ってやっても  
自分が気に入る解釈しかしようとしないんだから。気を使うだけ無駄よ」  
シノンは嘲笑うかのようにアカネを見下している。  
 
「な……な……な……な……」  
あまりの怒りに頭が真っ白になりとっさに言葉が出ない。が……。  
「だ、誰がストーカー女なのよ! さっきまで猫なで声でヒロトを誘惑してた泥棒猫の  
クセに……! 人がましい口を利かないで!」  
バン!とコーナーから飛び出し、シノンに詰め寄る。完全にぶちきれたようだ。  
「誰が泥棒猫だってぇ!? 思い込みが激しくてヒロトに乗り換えられたからって言いがかりは  
やめてよね!?」  
シノンもアカネを睨みつける。あっという間に同レベルの争いになった。  
「乗り換えた!? ふざけないでよ! ヒロトは彼氏イナイ暦19年のあんたに同情した  
だけじゃない! ちょっと優しくされたからって調子に乗らないでよね、オバサン!」  
「だ……だ……誰が彼氏イナイ暦19年だ! あんたに言われる筋合いなんかないよ!」  
図星を突かれ、シノンもぶちきれた。二人は獰猛な雌豹と雌虎の様に鼻面をつき合わさん  
ばかりに睨みあう。ヒロトはオロオロと二人を交互に見るばかり……。  
 
シノンとアカネの激しい応酬や頭を抱えるヒロトの様子を見ながら、ミユリは一人、『泥沼』と  
いう言葉を思い浮かべていた。  
 
 
十分後……。  
 
 
いよいよゴングの時が来た。お互いのコーナーで装備を確認したり、体を動かしたり……。  
赤コーナーではアカネが軽く体を揺すっている。  
「ねぇ、ヒロト……さっき言った事は本当のことなんだよ?」  
「え? ……何が?」  
突然アカネに話しかけられ、ちょっと戸惑うヒロト。  
「この戦いに勝って、ヒロトをモノにして一生付きまとうって話……。だって……」  
そこまで言うとアカネはヒロトを振り返り、そしてニコッと笑った。  
「だって、私……ヒロトの事が好きなんだもん!」  
「え? ……あっ!」  
ヒロトが何か言おうとした時、ゴングが鳴った。いよいよ、アカネとシノンの、ヒロトを  
賭けた戦いが始まるのだ。  
 
 
 

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