「行くよ! ヒロト!」  
赤いワンピース水着に黄色のTシャツを重ね着したリングコスチュームのアカネが迫ってくる。  
ブラウンの髪をツインテールに靡かせるその姿は、美少女プロレスラーとして人気上昇中の彼女の  
ブラウン管越しに見た姿と同じである。たぁ〜〜あ〜〜! と雄叫びを上げ、ジャンピングニール  
キックが飛んできた。  
「うぉっ!?」  
相手をしているのはアカネの幼馴染のヒロトだった。共に16歳なので、男女の体格差は出ている。  
160cmそこそこのアカネは170cmを越えるヒロトにパワーで劣るはずだが、ゴム毬の様に  
リング内を縦横無尽に跳ね回り、ヒロトにつけいる隙を与えない。そして、抜群の脚力を生かした  
ジャンピングニールキックがヒロトの胸板を直撃し、豪快に吹っ飛ばす!  
 
「やったぁ〜〜!」  
満面の笑顔で どうだ! とばかりに倒れているヒロトを見ると、まだ呻いているヒロトに近寄り、  
次の技を仕掛けるべく、髪を掴んで引き起こす。しかし、その時…。  
「はぅ…! うっ……!!」  
顔をしかめ、ビクリ!と腰を引いたのはアカネだった。一歩、二歩と後じさり、体を「く」の字に  
折って、崩れるように膝をついた。  
 
「う……うう……」  
額から冷たい汗が流れる。彼女が両手で押さえているのは、ややハイレグ気味の水着が覆っている  
股間だった。両膝をついて内股になり、その太股は小刻みに震えている。  
「フフン、手ごたえあり、だな」  
ゆっくりと立ち上がったのは黒のレスラーパンツに同じ色のTシャツを着たヒロトだった。手をグーの  
形にしている。どうやら、引き起こされた時に、これでアカネの股間を殴ったらしい。  
「さて…。ここからじっくり反撃させてもらおうか? さっきまでの攻撃、痛かったんだぜ?」  
顔や腕についた痣を指差しながらねちっこい口調でアカネに迫る。なかなか整った顔立ちなのだが、  
今はいやらしく歪んで台無しになっている。そのヒロトを不安げに見上げるアカネはまだダメージが  
抜け切れず、動けないままだった。そして、ヒロトの手がアカネの髪を無慈悲に掴んだ。  
 
 
これより、数時間前の話。  
 
「ねぇ、私の練習相手になってよ」  
突然アカネに言われ、目をパチクリするヒロト。練習相手? プロレスのだろうか?  
「そう。実戦練習して欲しいの。あ、うちのリングは本来男子禁制だから時間外で…」  
 
アカネは先島プロレスジム所属の女子プロレスラーだ。彼女の母親がジムのオーナーで、母親自身  
現役のプロレスラーである。幼い頃から母に憧れていたアカネは中学に入ると、ジムで大人に混じって  
練習を始めていた。才能は母親譲りで、中学生ながらメキメキ頭角を現し、高校生になった今年、  
プロレスにデビューした。ヒロトは彼女の幼馴染で、子供の頃はジムでアカネと一緒に練習して  
いたが、ここが男子禁制であることもあり、中学生になってからは一緒にトレーニングなどした事は  
無かった。それが、なぜ今頃?  
 
「私の対戦相手、いつも私より大きいの。だから、パワーで押されちゃって…。このジムには  
私より大きい人が少ないから、ヒロトならいいかな、と思って」  
「けど、俺、レスラーじゃないぜ? それに……一応、男だし」  
子供の頃はエッチなことをしあった仲だ。今更と言う気もするが、高校生になるとやはり  
流石にお互い意識しあってしまうのではないか…?  
「そ、それはそうだけど…。だけど、こんな事、頼めるのはヒロトしかいないの。お願い…」  
顔を赤らめながら懇願する。その仕草を見て、ヒロトはちょっとドキッとしてしまった。こいつ、  
こんなに可愛かったっけ?  
 
「や、やってもいいけど…条件がある」  
ちょっとドギマギしながらヒロトがソファーから身を起こす。寝転んだままだと、アカネのミニ  
スカートの中が見えて話しにくいからだ。こいつ、俺には結構無防備なんだよな…。  
「いいの!? やった! ……条件?」  
無邪気に喜びかけたが、ヒロトの口調が気になって問い返す。にんまりとずるそうにアカネを見る  
ヒロト。  
「女子とは言え現役のプロレスラーと戦うんだから、俺にもお楽しみをくれよ」  
「お楽しみ? …どんな?」  
「そうだな……例えば」  
そう言ってヒロトはアカネのミニスカートのある部分を見た。  
「女の子だけ急所攻撃あり、とかな…」  
 
「……! そ、そんなの、だめよ!」  
真っ赤になって慌てて内股になり、股間を守る仕草をするアカネ。その慌てぶりの可愛らしさに、  
逆に欲情が吹っ飛んで冷静になったヒロト。  
「どうして? だって、ちょうどいいハンデだぜ? 俺は素人なんだから」  
ニヤニヤとアカネをからかう様に笑っている。  
「だ、だからと言って、そんな……ここ打たれたら女の子でも痛いんだよ?」  
「打つのが目的じゃないさ。アカネの綺麗な足を見てると久しぶりに電気アンマをしてみたく  
なってさ……。プロレスで電気アンマは急所攻撃になるだろ?」  
「そ、そんなルール知らないけど…。と、とにかく、だめ。他の事にして!」  
「じゃあ、男の急所攻撃もありにしようか?」  
「そういう事じゃなく!」  
「そうだよな。電気アンマは女の子専用の責め技だからな。男にしてもしょうがない」  
「それは、そうだけど……じゃなくて! その…!」  
言葉に詰まりながら赤くなったり青くなったり、アカネの可愛いリアクションを楽しむヒロト。  
そして決定的な言葉を吐く。  
 
「もし嫌ならいいさ。別に俺でなくても俺ぐらいの体格のやつ、いっぱいいるだろうし」  
再びソファにごろりと寝転ぶ。アカネに背を向けて。そこからは無言。すると…。  
「わかった…。そのルールでいいよ」  
しぶしぶ小さな声で承諾する。にやっと笑って振り向くヒロト。  
「別に無理しなくてもいいんだぜ? 他にいくらでも…」  
「ヒ、ヒロトじゃなきゃだめなの! わかったから、その…思い切り叩いたりしちゃだめだよ……」  
上目遣いで不安そうな表情を見せるアカネ。女子レスラーとしてめちゃくちゃ強いはずの  
彼女のそんな姿を見てヒロトは、なにかこみ上げてくる衝動を押さえるのに懸命になった。  
 
 
話はリングに戻る。  
 
「うう……お、思い切り叩いちゃだめだって、言ったじゃない……」  
ヒロトを非難する目で見るアカネ。まあ、当然である。  
「思い切りじゃないさ。ちゃんと手加減したよ。しっかり当たるようにはしたけどな」  
極悪な事をしながら平然と答えるヒロト。  
「それじゃ、仕返しタイムといこうか。そ〜〜れ!」  
「うっ…!? きゃああ!?」  
そこからヒロトはアカネを持ち上げボディスラムでマットに叩きつけた。高角度から容赦なく  
叩きつけ、しかも3連発で放つ。さっきまで押しに押された仕返しを女の子相手に数倍に  
して返すヒロト。  
「う…。うう……。ま、まだまだ…」  
しかし、アカネは全然まいったする様子はない。素人技とは言え、男に抱えあげられて  
叩きつけられるのだから、ダメージは結構あるはずだが、受身はしっかり取ってるし、何より  
鍛え上げられた根性が違う。ヒロトのような男の風上に置けないやつには決して屈したりしない  
だろう。  
 
「流石だな。じゃあ、今度は寝技で行くか」  
半ば感心しながらまったく自分に許しを請う気配の無いアカネに少々ムッとしたヒロトは、  
仰向けに倒れたアカネの足を取って捻ろうとする。足4の字か、アキレス腱ホールドに持っていく  
つもりか?  
「さ、させない!」  
慌ててアカネは体を捩り、自由な足でヒロトを蹴って逃げようとする。しかし、それこそが  
ヒロトの罠であった。アカネが蹴ってきた足を狙い済ましてホールドすると、両脇にそれぞれの  
足を抱え込んだ。これは…、そう、電気アンマの体勢だ。  
 
「あっ……! だ、だめ〜〜!!」  
ヒロトの意図を察したアカネは慌てて股間を両手で守る。しかし…、  
「女の子が股間を守るのは反則だったよな?」  
ヒロトが非情に宣告する。実は試合前の打ち合わせで突如ヒロトがそう提案し、猛反対する  
アカネに無理矢理承諾させたのだ。無論、「嫌ならやめる」と言って。  
「でも…! でもぉ…!!」  
アカネもその事は覚えているが、本能的に手を離せない。半泣きになってガードをしている。  
「だ・め・だ。二人で決めたルールなんだぞ? それを守れないのか?」  
強引に押し通したルールなのに、それがさも正当かの様に傲然と言い放つヒロト。  
「わ、わかったよぉ……」  
涙を零しながらゆっくりと手を外すアカネ。無防備になった股間や内股はこれからされる事の  
恐怖で小刻みに震えている。  
 
「いい子だ。大丈夫、優しくしてやるからさ。子供の時みたいに」  
自分の言う事を聞いたアカネに対し上機嫌になる。  
「う、うん……ヒロト、さっきのトコ、まだ少し痛いの……」  
真っ赤になるアカネ。子供のときの事を思い出し、なにか甘酸っぱい不思議な気持ちになる。  
小学生ぐらいのときは毎日やられたっけ。お風呂の中でもされたし、お部屋でもされたし。  
ヒロトは電気アンマが好きで他の女の子にも良くやっていた。それを見た時、自分の胸が  
キュンと締め付けられるようになったのを覚えている。その晩は自分からわざとされるように  
誘ったり……。懐かしい思い出に浸っていると…!  
 
「ひゃあん…!」  
突然、体の中心からブルッ!と震えるものを感じた。ヒロトの電気あんまが始まったらしい。  
「ああ…ん……だ、だめ……」  
ヒロトのつま先を押さえて退けようとする仕草。本気で退けようとしているのではなく、ここで  
力を入れて気持ちよくなるまでの切なさを誤魔化そうとしているのだ。  
(小学校の時は、くすぐったかったな…)  
小さい頃掛けられた電気アンマはとてもくすぐったくて、それを堪えるのが大変だった。  
まるでくすぐり責めの様に体を捩ってくすぐったさに耐える。しかし、その後がくすぐりと  
違っていた。  
(変な気持ちになっちゃうんだよね……おしっこしたい時みたいな)  
何かが自分の中から湧き出してくる、そんな感じ。これはきっと男の子にはわからないだろうな、  
と今でも思う。それは明らかに女の子のところから湧き出してくるものだから。  
 
「う……あっ……」  
現実にされている電気アンマが頭の中でクロスオーバーする。している男の子は同じ、岬ヒロト君。  
だけど、あの頃のヒロトと今のヒロトでは……と、思った瞬間、快感の中で思わずくすっと  
笑いそうになった。なぜなら、ヒロトはあの頃と殆ど変わってないからだ。乱暴で、生意気で  
女の子をすぐいじめて、でも、優しいところもあって、外見はカッコよくて、可愛いところも  
あって……。その外見に騙されちゃってるのかな、私『たち』は……、と思う。ヒロトに好意を  
抱いてる物好きな子は実は一人や二人ではないのだ。ライバルは多い……って、私は別に……。  
 
「どうした? あんまり気持ち良くないの?」  
ヒロトの声が聞こえた。はっと気がつくとまだ電気アンマされている最中。それに気がつくと、  
体の心から再びこみ上げてくるものがあり、「あっ!」と呻いてしまう。  
「さっきから真っ赤になったり笑ったり怒ったり…変なやつだな」  
電気あんまを続けながらヒロトが不思議そうに言う。誰のせいよ!?と思わず言いそうになる。  
 
「ま…、まだまだ。この程度じゃギブアップなんてしないもん……」  
はぁ…はぁ…、と息を荒くしながら懸命に抵抗するアカネ。しかし、ヒロトは平然としている。  
と言うより、笑ってる?  
「いいよ、別に。俺はただ電気アンマがしたいからやってるだけさ。勝負なんてどうでもいいし、  
むしろ……」  
そこでアカネににやっと笑いかける。まるで蛇のような陰湿な笑顔……。  
「抵抗しないと、俺が満足するまでアカネは電気アンマされっぱなしになるけど、いいの?」  
忍び笑いしながら電気アンマのペースを変える。さっきまで優しいバイブレーションだったが、  
今度は一転して踵でグリグリと押し付ける電気アンマに。アカネの水着とサポーターだけで  
守られた股間に深く食い込んでいく。  
 
「あうう…!! ヒ、ヒロト…。ちょっと痛い……」  
顔をしかめるアカネ。しかし、ヒロトは少しもやめてくれない。むしろ押し付ける力はだんだん  
強くなってきている。男の子の力で女の子の一番大事な柔らかい部分を踏まれる、この屈辱感と  
敗北感が入り混じった感覚……これはやられたものにしか絶対わからない。  
「がまんしろ。またすぐに気持ちよくなるさ」  
「だ、だめだよ…。も、もう耐えられない……許して」  
アカネは懇願するが、ヒロトは聞いてすらいないそぶりだ。  
「さっきも言っただろ? 俺が満足するまで続けるって。アカネが辛いのとか、ギブアップする  
のとかは全然関係ないのさ」  
非情な宣告。アカネを絶望に追い落とす冷たい言葉。しかし、何故かそれがアカネには嫌では  
なかった。  
「ヒロトがしたいなら……我慢する……」  
頬を真っ赤に紅潮させながら健気にヒロトのしたいようにさせてあげようとするアカネ。  
その表情を見て今度はヒロトのほうが胸をときめかせた。こいつ…なんて健気に……。  
 
アカネをいとおしく感じ、思わず電気アンマをやめて『次の行為』に移ろうとした時だった。  
「何をしてるのかな、君たち?」  
ぎょっとして二人が声のするほう、リング部屋の入り口のほうを見る。そこにすらりと背の高い  
女の人が立っているのが見えた。この位置では誰かは即座にはわかりにくいが、アカネには  
誰かがわかっていた。  
「シ……シノンさん。どうしてこんな時間に……?」  
練習後、ジムの練習生たちも全員引き上げた後に始めた対決であった。誰もいるはずが無いと  
思っていたが、よりによって一番見られたくない人に見られてしまった……アカネの顔は  
真っ赤になる。  
ヒロトもようやくそこにいるのが誰か、わかった。柊シノン。先島ジムのエースで将来の  
女子プロレスチャンピオン候補である。確か、19歳。腰まである長い髪を掻き分け、二人の  
猥らな姿を面白そうに見ていた。  
 
「さっきまで雑誌のインタビューを受けてたのよ。それで少しだけでも汗を流しておこうと  
思ったら、まさかリングでこんな事になってるとは、ねぇ?」  
クスクスクス…と楽しげに笑うのは先島女子プロレスジムのエース、柊シノン。その前で  
恥ずかしそうに座っているのは同じく先島ジム所属の美少女レスラー、先島アカネ。その隣に  
いるのが彼女の幼馴染、岬ヒロトだ。二人はまだリンコス姿で、勿論、アカネは電気アンマ  
からは開放されている。  
 
シノンは今年中にタイトル戦を迎えそうな美人レスラーとして有名だった。まだ着替え前  
なので今は白のタンガリーシャツとデニムジーンズ姿。男っぽい姿だが、流線型のボディ  
ラインはきっちりと伺えて、リングコスチュームが良く映えそうなのがわかる。  
「それにしても、一体なんだってあんな事になってたの? 興味あるわね……」  
まるで弟妹の悪戯を見つけたお姉さんの様に悪戯っぽく二人を見る。  
「プロレスルールでスパーリングをしていたんですよ。ちょっと特別なルールですけど」  
両腕を後頭部に回し、ぬけぬけと言うのはヒロトだった。アカネがオロオロする。  
「特別なルール? 一体どんなルールにすればさっきのような光景になるのかしら?」  
「アカネ、説明してやれ」  
「ええ〜!? どうしてあたしが!」  
思わず飛び上がりそうになる。しかし、ヒロトは答える気がなさそう。仕方なく語り始めるアカネ。  
「実は……」  
 
「女の子だけ急所攻撃ありで、しかも股間を守ってはいけないルール? よくもそんな非道い  
ルールを思いつくわね〜」  
半ば呆れ顔でヒロトを見る。ヒロトは知らん顔。アカネは恥ずかしそうに俯いたままだ。  
「まあ、思いつくヒロト君もヒロト君だけど、それを受けちゃうアカネちゃんもアカネちゃんね」  
またしてもクスクスと笑われる。  
「え? でも……練習を頼んだのは私ですから……」  
「いくら頼んだからって、そんな極悪ルールで受ける事無いでしょ? それとも……そこまで  
してヒロト君としたい理由があったのかな?」  
ますます二人に興味がわいた様子のシノン。その時、黙っていたヒロトが口を開いた。  
 
「俺にはわかるよ、その理由。……と言うか、シノンさんを見て始めてわかった」  
「え? なに、それ?」  
「要するに」  
ヒロトはアカネを見つめる。見つめられたアカネは一瞬、ドキッとする。シノンはそれを目の隅で  
捉える。  
「アカネはあんたと戦いたいらしい。俺の体格はちょうどあんたと同じぐらいだからね」  
確かにシノンは175cmぐらいはありそうだ。体格もしっかりしていて、成長過程とは言え  
男の子であるヒロトと同じぐらいの体重もあるだろう。対シノン戦のシミュレーションとしては  
ヒロトは良い相手だと言える。  
「最初からそう言えばよかったのに。そうしたら別にあんな事しなかったのにさ」  
ヒロトが今度はアカネから目を逸らして言った。気のせいか言葉尻が冷たい気がする。  
 
「ち、違うよ! 確かに、ヒロトはシノンさんと同じ体格だから、理由にしたけど……でも、  
本当は……」  
アカネがうろたえて懸命にヒロトに言い訳しようとする。ヒロトはそっぽを向いたままだ。  
「本当に? 誰でも良かったんじゃないの?」  
からかう様にシノンが口を挟むとアカネは真っ赤になって怒った。  
「違います!! わ、私だって女の子ですよ! いくら練習でも男の子なら誰とでも組み合える  
はずなんて無いじゃないですか!!」  
「じゃあ、ヒロト君が良かったのね? むしろ、ヒロト君じゃなきゃ嫌だったとか……」  
「そ、それはそうですよ。だって……あっ!!」  
簡単な誘導尋問に乗せられてしまった事に気がついたが、既に手遅れだった。シノンは面白そうに  
笑っているし、そっぽを向いているはずのヒロトの頬は赤みが差している。明らかに聞いていた  
様子……。思わず咳払いをするヒロトと恐縮するように小さくなるアカネ。  
 
「いいな〜、私もそんなになんでもしてあげたい彼氏、いないかな〜」  
シノンが面白くなさそうに大声で言う。聞いている二人はどんどん小さくなっていく。  
「でも……さっき言った極悪ルール、私もやってみたいかな……」  
ボソリととんでもない事を言う美人レスラーのシノン。思わずヒロトが身を乗り出す。  
「そ、そうなの? だって、テレビで見るあんたは男相手にプロレスで叩きのめしたり、発言も  
いつも強気で、どっちかって言うと女王様みたいな……」  
「あんなの、マスコミが作り上げた偶像よ。まあ、こちらからそういうプロモーションを  
したからなんだけどね〜。本当の私は、私に蹴られたくて寄ってくる蛆虫みたいな男は大嫌い。  
それならばヒロト君みたいに女の子にも容赦せずに卑劣な手を平気で使う男の人に叩きのめされ  
たいな〜」  
夢見る乙女のようなポーズで過激な事を言う。思わず、ヒロトとアカネは顔を見合わせた。  
 
「ねぇ、ヒロト君はどんなリンコスが萌える? こんなのはどう?」  
そう言ってシノンがバッグから取り出したのは白のツーピースのリンコスだった。下はハイレグで、  
上はタンクトップのセクシーなコスチュームだ。長いソックスは膝の上まであり、二の腕まで  
ある長い手袋とセットになっている。  
「まだこれを使うかどうかは決めてないけど、ちょっとセクシーでしょ? 撮影用にするかも  
しれないし、私の偶像イメージとは少し違うから没にするかもしれないんだけど……私が  
この衣装に着替えたら戦ってくれる?」  
楽しそうにヒロトに聞く。ヒロトは少し困りながらも、  
「俺は別にいいけど……」  
と言いながらアカネを見る。アカネの顔は……冷静だ。しかし……「バキッ!」と何かが壊れた  
音がした。  
「あ、ごめんなさい…。衣装ケースの柄が『取れちゃった』」  
シノンの手伝いで持っていた衣装ケースの柄が粉々に……。買ったばかりなのに……と心の中で  
嘆くシノン。ヒロトは心の中で有名なアスキーアートを思い出していた。ガクガクブルブル…。  
 
「じゃあ、着替えてくるから待っててね」  
そう言って一旦奥に引っ込むシノン。ヒロトとしては正直、アカネと二人っきりにはして欲しく  
なかったが、この場を離れる理由も見つからない。  
「…………」  
何も言わず、柔軟体操をするアカネ。だが、あれだけ動き回ったのにウォームアップなんて  
いるのか?  
「あのさ、アカネ……」  
沈黙に耐え切れず口を出すヒロト。アカネは「なあに?」と抑揚の無い生返事を返す。思わず、  
はぁ〜〜とため息をつくと、小さく「うわきもの」と言う声が聞こえた。  
 
「な、なんだよ! 浮気者って!」  
流石にカチンと来たヒロトが言い返す。  
「浮気者じゃない! そっちこそなによ、シノンさんの胸を見ながらデレデレしちゃって。  
どうせ私は幼児体形ですよ!」  
つーん、と横を向く。  
「そんなことしてねぇし、言ってねぇだろ! 大体、浮気とかって…」  
「ああ、そうですね! 私と『ヒロト君』とはお付き合いしてるわけじゃないし、浮気って  
言い方は変でしたね! ……なにさ、このスケベ・変態・エロオヤジ!」  
「誰がオヤジだ! ……あっ!」  
ふと気がつくと先ほどの衣装に着替えたシノンが二人を見てクスクスと笑っている。こうして  
着ている姿を見ると、背の高いシノンにとてもよく似合っていた。セクシーなハイレグラインと  
扇情的な長めのソックスと手袋。白い衣装に黒髪のコントラストも美しい。ヒロトが目を離せない  
様子を見て、アカネは不機嫌になるより意気消沈した様子になった。  
 
「仲がいいのね。ホント、うらやましい」  
どうにもいたたまれなくなる二人。真っ赤になって俯いてしまう。その二人の横を抜け、リングに  
あがるシノン。何度か受身をすると、「よし」と頷いてヒロトを見る。  
「じゃあ、はじめましょうか」  
にっこりと微笑んでヒロトを手招きする。リングに上がって来いと要求しているらしい。  
「はじめるって……なにを?」  
「決まってるじゃない。さっきヒロト君とアカネちゃんがやってたルールで私と戦うの。女の子に  
だけ急所攻撃ありなんでしょ?」  
きょとんとしているヒロトに対戦を要求するシノン。確かにそう言ってシノンは着替えてきたの  
だが……。  
 
「うん……でも……」  
「アカネちゃんのこと気にしてるの? 大丈夫、アカネちゃんはヒロト君とは付き合ってないん  
でしょ? だったら、私とヒロト君が『えっちプロレス』したっていいんだよね?」  
シノンの大胆な発言に知らん振りをしていたアカネもぎょっとして振り返る。ヒロトも自分の方を  
見ていた。一瞬、言葉に詰まったが……。  
「え…ええ。そんなやつ、何の関係もないです……」  
心にもないことを言ってしまった! とすぐに後悔した。しかし、ヒロトはそれを聞くなりスタスタと  
リングに向かって歩き、あっという間にリングインする。無表情だった。  
「あ……」  
ヒロトを止めたそうにしたが後の祭りだった。面白そうにシノンが二人を見比べる。  
「じゃあ、はじめましょう、ヒロト君。あ、アカネちゃんは帰っちゃだめだよ。この試合の後、  
私たちは勝負するんだから」  
え? とヒロトとアカネは同時に声を上げた。しかし、シノンはそれには答えなかった。  
 
ヒロトはシノンの実力を図るように上から下までじっくり見つめた。外見だけを見れば、レスラーと  
いうよりモデルのような体形だった。すらりと長い足、長い髪、端整な顔立ち。しかし、ひ弱くは  
見えなかった。筋肉の部分はしっかりと鍛え上げられているのはわかる。  
(胸は柔らかそうだけどな……)  
戦うときに狙う部分を吟味する。胸は狙えそうだ。お腹はよほどツボを捉えないと効かないかも  
しれない。あと狙うのは……。  
「やっぱり、ココを狙っちゃう?」  
シノンが両手で股間をカバーするように押さえる。表情は悪戯っぽくからかうような笑顔だ。  
「あ……ああ。だって、俺、素人だもん。シノンさんはプロなんだから当然じゃない?」  
悪ぶって答えるヒロト。リングサイドでしょぼんとしているアカネが気になるか?  
「シノンでいいよ。私もヒロトって呼ぶし……まったく、ヒロトは男の子で、私は女の子なんだよ。  
まだ高校出たての。それだけでハンデなんて必要ないはずなんだけどな〜。それに、このルール  
だと、もしヒロトが私の急所を狙い続けたら、私、一方的に急所攻撃を受け続ける事になるんじゃ  
ないの?」  
わざと非難がましい口調で言う。しかし、目は笑っている様子。  
 
「もちろん、そうなるな。嫌だったらやめれば?」  
ずいぶん強気のヒロト。とんでもない卑劣漢ぶりだが、シノンはそんなヒロトに目を輝かせる。  
「ひどいなぁ……。ヒロトって女の子の敵ね」  
楽しそうに言うと、何故かリング中央でしゃがみこんだ。そしてVの字に足を広げる。手は後ろに  
ついているのでハイレグの股間は無防備だ。一体どういうつもりか……ヒロトもアカネもシノンの  
行動に見入ってしまう。  
 
「ヒロトは戦ったばかりだからね。これはハンデ」  
座り状態でヒロトを見つめるシノン。無論、この体勢からかける技は一つしかない。電気アンマだ。  
「それに、私、電気アンマをされるのは初めてなの。だからちょっとやられてみたいかな、なんて」  
その状態でウィンクする。ヒロトもアカネもあっけに取られる。  
「急所攻撃なら何回か受けた事はあるけどね。それも女の人相手だからヒロトが男の子で初めての  
人……なんだよ」  
クスクスと忍び笑いする。シノンのペースに巻き込まれながらヒロトは開かれた足の間に座り込んだ。  
これから責め立てる部分が目の前に開かれている。ヒロトがそこを見つめているので流石に少し  
恥ずかしそうなシノン。  
 
「打った事、あるんだ?」  
「うん……何度か。アクシデントだけどね。女子プロレスラーの宿命だよね、アカネちゃん」  
話を振られたアカネは真っ赤になる。どうやら彼女も打った事はあるらしい。  
「でもテレビとかではそんなシーンはあまり見ないけど?」  
「だって、そこを打ったなんて知られると恥ずかしいもん。だから懸命に隠すの。太股を叩いて  
誤魔化したり、お腹を打った振りをしたり……隠してると余計に辛いんだけどね」  
悪戯っぽく舌を出しながらあっけらかんと告白するシノン。アカネもそれを肯定するかのように  
ますます真っ赤になる。  
「あんまりまともに打っちゃうと、流石に隠し切れないでアソコを押さえてのたうっちゃうけど…  
さっきのアカネちゃんみたいにね」  
「……って! あんた、さっきの俺たちの戦いを……!?」  
「あ、ばれちゃった。ウフフ、そうだよ、一部始終、全部見てました」  
シノンの告白に、全身が真っ赤になるアカネと唖然とするヒロト。悪戯っぽく二人を見つめながら  
シノンが言った。  
「だから、このイケナイお姉さんに罰を与えなきゃね。フフフ……ゾクゾクしちゃう」  
頬を上気させたシノンのヒロトを見る瞳は妖しく煌いていた。  
 
 
「それじゃあ、いくよ」  
「う、うん……来て」  
シノンの怪しい雰囲気に呑まれながらも、ヒロトは座った電気アンマの状態で右足をシノンの股間に  
セットする。ごくり……と緊張感で唾を飲むシノン。そして、自分の股間にヒロトの踵が当たった時、  
小さく呻いた。  
「あ……ん……」  
その声は悩ましくヒロトの淫猥な心を高ぶらせたが、冷静に振動をゆっくりと与えていく。グリグリ  
グリ……と。すると……。  
「クッ……クスクスッ……クククッ……キャハハハ!!」  
いきなり笑い出して仰け反るシノン。端で見ていたアカネがあっけに取られる。  
「あはは…ヒ、ヒロト……くすぐったい……だめ、アハハ……」  
まるでくすぐり攻撃を受けたの様に体を捩り、笑いながら震えている。くすぐったい……? もしかして  
感じないのかな? とアカネが疑問に思ってヒロトを見るとヒロトは冷静だった。快感技を仕掛けて  
いる時にくすぐったがられているのに…?  
「な……なにこれ! で、でんきあんまって……くすぐったいものなの? アハハ……キャハハ!」  
涙を流さんばかりにくすぐったいリアクションのシノン。しかし、そのシノンを見て何故かにやり  
と笑うヒロト。その表情は何を意味するのか?  
 
(そう言えば、シノンさん、電気アンマは初体験って言ってたっけ?)  
小学校のときから散々ヒロトにされてきたアカネとは感じ方が違うのか。そう言えば自分はどうだった  
だろう……と初めて電気アンマされた日のことを思い出す。  
(あの時、私は……そうだ、やっぱりくすぐったかったんだ。ヒロトにされて。それでその後……)  
その後のことを思い出し、真っ赤になるアカネ。リングではまだシノンが電気アンマのくすぐったさに  
懸命に耐えている。しかし、段々動きが鈍ってきてはいないか?  
 
(その後……大変だったんだ。むず痒い、自分ではどうにもならない切ない気持ちになって……)  
リング上のシノンの口数が段々減ってきた。涙を流して笑っていた顔から笑みが消え、その代わり、  
浮き出てきたのは切なげな、救いを求める表情……。ヒロトはそのシノンの視線を微妙にずらし、  
機械的に電気アンマを続けるだけだ。シノンは辛そうに今度はアカネのほうを見た。さっきのような  
挑発的な視線でなく、か弱い女の子が助けを求めるような視線で。アカネはシノンの気持ちは痛いほど  
わかったが、見ない振りをした。シノンの瞳が更に不安そうに瞬いた。  
(ヒロトは残酷だよ……。きっと許してくれない……)  
ライバル?でありながら、同じ女の子としてシノンに同情するアカネ。ヒロトは女の子が辛そうにしていたら  
やめてくれる優しい子ではなかった。むしろ、そこに付け込み、執拗に同じことを繰り返して意地悪  
するタイプなのだ。多分、シノンはこのまま苦痛と快感の狭間を彷徨わせられるのだろう……、と  
思った瞬間、ヒロトがシノンを電気アンマから解放するのが見えた! なぜ……? アカネはリング内の  
出来事を食い入るように見つめる。  
 
「一回目はこんなものでいいかな。じゃあ、戦おうよ」  
ヒロトが立ち上がるが、シノンは立ち上がれない。ヒロトを非難がましい目で見上げている。ちょっと  
不満そうに、拗ねたような表情だ。  
「なんか不満そうだけど、どうしたの? さあ、立って」  
「あっ……!」  
無理やり立たされて、よろめくシノン。かろうじてロープにつかまって立ち上がる。  
「非道い人ね……」  
シノンが切なげな表情でヒロトを見る。アカネにはそれがどういう意味か、わかった。ヒロトは、  
シノンを登りつめさせながらイかせず、中途半端な状態に置いているのだ。この責めはアカネも  
何度かされたことがあった。  
(女の子は一度登りつめると簡単に鎮められないのに……非道いわ)  
自分がやられたのでもないのにヒロトに怒りを覚える。が、それはすぐに消えてしまう。逆に  
その責めに遭っているシノンが羨ましくさえ感じてしまうのだ。  
(私も、もっとされてみたい……)  
さっきはシノンが入ってきたので満足いくまでは責めてもらえなかった。今、ヒロトの邪悪な欲望は  
シノンに向けられている。出来れば今から乱入してシノンを跳ね飛ばし、その代わりに自分を  
虐めて欲しい気持ちで一杯になった。  
 
「はうっ!!」  
またしてもシノンが股間を押さえて膝をつく。さっきと同じく急所攻撃を受けたのだ。今はオクトパス  
ホールドに移行しようとして足を上げた時を狙われた。さっきはブレーンバスターで叩きつけた後、  
引き起こそうとした時に真下から打たれた。ヒロトは手加減したというが、いい感じできっちりと  
パンチが入っている。シノンはリング中央で内股になって足を捩り、股間を押さえて左右にのたうって  
いる。頬は上気し、荒い吐息が漏れる様子は自分で慰めている姿を連想させ、扇情的な光景であった。  
 
オープニングの電気アンマを終えてプロレスを始めた後は、シノンの一方的な展開だった。  
男女の差があっても素人のヒロトと女子プロレス界の若きスターでは勝負にならないのは当たり前  
なのだ。それでも同じ女子レスラーのアカネとの闘いのときは体格差を利用する事も出来たが、  
175cmのシノンとでは体格は互角でパワーはシノンのほうが上であった。勿論技術はないに等しい  
ヒロトが何かを仕掛けることなど不可能と言えた。シノンの「男の人に叩きのめされたい」発言は  
どこへやら、ロープに振ってラリアットを胸元に叩きつけ、組しだいてコブラツイストで腰を痛めつけ、  
ドロップキックで跳ね飛ばす。ヒロトの体はたちまち痣だらけになった。もしかしたらシノンには先ほど  
電気アンマを中途半端に放棄された恨みもあったのかもしれない。  
 
しかし、ヒロトはじっと隙をうかがっていたのだ。ドロップキックで倒された後、シノンは無防備に  
近寄ってきた。アカネが「危ない」と思った時にはヒロトのパンチがシノンの股間にめり込んでいた。  
悪役の常套手段、急所攻撃。女子プロレス最強クラスの美女レスラーがこの一撃でマットに膝をついた。  
悲鳴も出せず、「うぐっ……」と息を漏らすように呻いただけである。  
「はぁ……はぁ……ちょ、調子に乗りやがって……」  
ヒロトも息絶え絶えの状態で立ち上がる。一方的な攻撃で受けたダメージはやはり大きいようだ。  
「俺は優しいからな。ダメージが残らないように手加減しておいてやったよ。さあ、立て!」  
シノンの長い髪の毛を掴んで引き起こし、ヘッドバットを額に叩き込んだ。非道な行為に見えたが、  
痛がったのはヒロトだった。シノンは股間を打たれて悶絶しながらも攻撃に本能的に打点をずらして  
逆にヒロトの頭が痛くなるように反応したのだ。再び膝をついたのはヒロト。しかし、そこでさっきの  
オクトパスホールドに移行するシーンの展開になったのだ。短い間隔で二度も急所攻撃を受けては  
流石のシノンもたまらない。  
 
「フフフ……。どうだ、中途半端に電気あんまで高められて急所攻撃を受けた感想は? なかなか  
いい感じだろ?」  
股間を押さえて悶絶状態のシノンの両足を再びヒロトが掴んだ。切なげな表情でヒロトを見るシノン。  
「さっきの続きをやってやる。その手をどけて少し足の力を緩めろ」  
痛めつけて感じさせる。どうやらそれを繰り返すつもりらしい。アカネはこの非道い有様を目を  
離さずに見つめていた。  
(ひどいよ、ヒロト……。わたし、シノンさんが羨ましい……)  
本当は自分がこうされたかったのに……と悲しい気持ちになる。同時にそれを邪魔したシノンに怒りの  
気持ちも涌いて来た。その当人は今ヒロトに電気アンマを再開されようとしている。形だけの抵抗を  
示すが、勿論、本意ではないのだろう。きっと気持ちの中では期待に溢れている筈だ。  
(後で勝負、って言ってたわね。いいよ。私、シノンさんの事、叩きのめしてやるから!)  
アカネはシノンに対し静かに闘志を燃やしていた。  
 
一方シノンとしては、アカネが思っているよりは少し辛かった。  
何しろ股間攻撃を二回も受けた直後である。同じところを責める電気アンマに移行されるのには  
もう少し痛みが治まるまでの時間が欲しかった。  
「ヒロト……少し待って」  
思わずそう言って、すぐに後悔した。そう言えばヒロトは待ってくれるか? いや、きっとその逆の  
行動に出るだろう。ヒロトは生贄の女の子が一番やられたくない事を的確に見抜く才能があるのだ。  
もしかしたら足をもたれたまま蹴られるかもしれない……その恐怖に一瞬、体が硬くなる。  
「まだ痛む? まあ、そうだろうな。でも、心配するな。少しの間優しくあんましてやるからさ」  
意外にも笑顔で答えるヒロト。そう言うと、本当に優しくシノンの股間に右足を宛がった。そして、  
すぐに送られた振動も小刻みの優しい振動だった。シノンの意表をついた行動である。  
「あ……う…ん…」  
シノンの形のいいおとがいが仰け反り、忽ち下から溢れて来る感覚に溺れる。形のいい胸が反り返り、  
電気アンマの振動と同期して上下する。  
(気持ちいい……こんな感覚初めて……)  
二度打たれてじんじんと熱く、そして敏感になった股間を優しくなぶられる。それがこんなに気持ちが  
いいなんて……。シノンは3つも年下の男の子にいいように嬲られている事実に体が火照ってしまっ  
ていた。  
(きっと、こんなのは序の口なんだろうな……)  
ヒロトの電気アンマに溺れながらシノンはこれから自分がされる数々の陵辱的行為に思いを馳せていた。  
 
「あ……ふん……」  
シノンは思わず切なげに指を噛む。ヒロトの電気アンマは優しく、気持ちがいいのだが、抑揚がなくて  
なかなか絶頂に達せないのだ。勿論、わざとそうされているのがシノンにもわかっている。  
「ヒロト……もう少し、強く……」  
「強く…? なんだ? 蹴られたいのか?」  
「ち、ちがう! ……今の状態じゃ辛いの。だからもう少し……」  
どうして欲しいのかまではシノンには具体的にはわからなかった。なにしろ、電気アンマされるのは  
今日が初めてなのだ。知識も経験も不足している。もしここで『強くして欲しい』と言えば意地悪な  
ヒロトに蹴られる惧れを感じ、なかなかそうと言い出せない。  
一方経験豊富なヒロトにはシノンがどうされたいのかは十分にわかっていた。ただ、意地悪してして  
あげないだけなのだ。シノンが要求したのは『優しい』電気アンマであって、その結果、シノンの状態  
変化に合わせて強くするかどうかまでは要求されていない。  
 
「してあげてもいいんだけどね」  
「……え?」  
「シノンを気持ちよくしてあげてもいいって事。こんな生殺し状態じゃなく、ね」  
やっぱりわかってたのだ。シノンはヒロトのあまりの意地悪さに少し怒りを覚える。  
「女の敵! ……非道いわ」  
本気でむくれるシノンを見て、可愛いと思うヒロト。3つも年上なのに……とも思う。  
「仰せの通りだけど、そんな事言ったら俺が怒るとか思わないの?」  
「だって……だって……!」  
シノンはあまりの切なさについに泣き出した。女子プロレス界の若きエースが急所攻撃と電気アンマで  
責められ、リング上で泣かされる……このシチュエーションにヒロトは眩暈を感じるくらい、酔ってし  
まう。  
「さっき自分から電気アンマを受けるって言ったとき、ここまでされると思ってた?」  
ヒロトが聞く。シノンは泣いていたがヒロトを見て答える。  
「ううん……。ここまで辛い事をされるとは思わなかった……でも、最初の電気アンマを中途半端に  
止められた時、こうされるかもしれないって思った。それに……」  
「なんだ?」  
「多分、これはまだ、始まりでしかないんだろうな……って」  
シノンの頬が紅潮する。それは彼女の予想なのか、それとも願いなのか、ヒロトにはにわかには判断が  
つきかねた。  
「じゃあ、ご要望どおり、もう少し、強くね」  
なんだかシノンが可愛くなり、一度は絶頂を迎えさせてあげたいと思ったヒロトは、踵にゆっくりと  
力を入れ、急に力を抜く。次は逆に急に力を入れ、ゆっくりと抜いていった。一定だった電気アンマの  
リズムに変化がつき、シノンの性感神経が大きく揺さぶられる。  
「ヒ…ヒロト! あああっ……!!」  
瞳をぎゅっと閉じて仰け反るシノン。十分に波波とたまったダムの決壊直後のようにすさまじい奔流に  
飲まれるようにシノンは溺れ、やがて、失墜していった。  
 
 
それからしばらく後。  
 
アカネは先に風呂を使っていた。練習場の大浴場なので広々としている。10人ぐらいは  
入れそうな大きな浴槽だ。銭湯の湯殿の小さいやつぐらいはあるだろう。体が長々と伸ばせて  
アカネはここのお風呂が好きだったが……今日は複雑な気持ちで入っている。  
(ヒロトったら……ひどいよ)  
あれから結局ヒロトはシノンを責める事に夢中になり、自分を相手にしてくれなかった。  
後で勝負、と言っていたシノンも最後はヒロトの責めに力尽き、そのまま失神してベッドに  
運ばれた。  
 
あの後、ヒロトは電気あんまで悶絶したシノンを起こし、急所攻撃でいじめると言う責めを  
繰り返した。  
髪を掴んで引き起こして、ヒロトはシノンを抱え上げ、トップロープに跨る様にシノンを  
落とす。ワイヤー入りのロープと自分の体重でギリギリ股間を責められたシノンは悲鳴を  
あげるがヒロトは許さず、両足を掴んで引っ張るなどして更に責め立てた。しかし、シノンの  
表情は苦痛に苛まれているにしては艶っぽく上気し、それほど辛くなさそうにも見えた。  
そして、一定時間責められると、降ろされて再び電気アンマ。切なげに指を加えて身悶えする  
シノンを責めるヒロトの踵は何かぐっしょりと濡れていた。汗にしてはねっとりと絡みつき  
すぎている気がした。  
 
その頃にはシノンは通常技でもヒロトの優位に立つ事が出来なくなっていた。二人で正面から  
両手をあわせて力比べに持ち込んでも、ヒロトは急に力を抜き、バランスを崩させる。意識が  
半ばファイトに集中できていないシノンはやすやすとフェイントに引っかかり、ヒロトの方に  
たたらを踏む。ヒロトはシノンが来るタイミングにあわせて膝を突き出した。ちゃんと股間に  
当たるように。ズン!と突き上げられる衝撃がシノンを貫いたとき、ヒロトの膝はシノンの  
股間に食い込んでいた。  
 
しかし、その音はまるで水を一杯に含ませたスポンジが床に叩きつけられるような音だった。  
びしゃ…。事実、ヒロトの膝に水しぶきが掛かった。シノンは股間を押さえて後じさりしながら  
ロープに持たれ、内股になって体を捩った。しかし、悲鳴はなかった。あっ…と言う熱い吐息  
を漏らしただけで、シノンは股間を揉む様に押さえて虚ろな瞳を閉じている。  
そして、随分と長く股間を押さえている……もしや?  
 
「感じているのか?」  
とヒロトが迫る。大きくかぶりを振り、否定するシノン。  
「痛いんだもん……だって、急所攻撃されたんだよ……?」  
「その割には随分指を動かしすぎじゃないか?」  
「だ、だってこれは……揉んでいるだけだから……」  
はぁ……はぁ……と全く説得力のない様子を隠さずに口ごたえするシノン。  
「わかった、手伝ってやる」  
そう言うとヒロトはシノンの足を広げさせ、立っている真下にもぐりこんだ。  
「な、何をするの?」  
不安そうにおびえるシノンの手を退けさせ、立ったままの状態のシノンの足首を掴んだ。  
そして、自分の足を天に突き出すようにする。踵がシノンの股間をギュッ!と踏む。雫が  
こぼれてくる……。  
「はぁん……」  
倒れないよう、ロープに両肩を引っ掛けるシノン。逆さ電気アンマの体勢になる。  
「この体勢でやられると一味違うだろ?」  
ヒロトが微笑むが、シノンは最早答える気力がない。しかし、体のほうがそれに答えるかの  
ように反応し、ワイヤー入りのロープがギシギシ揺れた。  
「ヒロト……お願い……」  
シノンの切なげな瞳が潤んでいる。その姿を見てアカネはその場にいたたまれなくなった。  
アカネが廊下に出たとき、シノンの絶頂を迎えた歓喜の声が背後から聞こえた。耳をふさいで  
アカネはその場を去った。  
 
 
再び、お風呂のアカネ。  
 
ヒロトが柊シノンに夢中になる姿を見るのはアカネには辛かった。と、同時にその責めには  
目が離せなかった。自分もそうされたい、いや、もっとひどい事でも……そう考えると体の  
中心が熱くなる……が、すぐに悲しい気持ちにもなった。ヒロトが夢中なのは自分ではない。  
シノンだ。彼女と比べてみて勝っている所など一つもない、とアカネは感じていた。顔も、  
性格も、人間的魅力も、プロレスも……。せめてプロレスだけは勝ちたい、と昨日までは  
思っていたが、今はそれもどうでも良くなっていた。  
 
その時…。  
 
「アカネ、入るよ」  
え? アカネは思わず身を固くした。入るって……まさか、ヒロト入ってくるつもり!?  
「ちょ、ちょっと待って! あっ!!」  
アカネがタオルで隠すとほぼ同時にヒロトが入ってきた。ヒロトは……なんと、フリチンだ。  
「……!!!」  
慌ててヒロトに背を向ける。見ちゃったじゃない! モロに……。  
「アカネ、お尻見えてる…」  
クスクスとヒロトの忍び笑いが聞こえた。慌ててお尻を触ると、確かにタオルが小さくてお尻は  
半分以上隠れていない。慌てて隠そうとしてタオルを下げようとしたら、タオルそのものが  
外れてしまった!  
「う……あ……」  
意味のない台詞を発しながら泣きそうな目でヒロトを見る。ヒロトはそんなアカネの姿に  
胸を撃たれた様な気分になった。シノンとは全然違う、アカネの可愛らしい魅力……。  
さっきあれだけ女を責めたばかりだと言うのにヒロトの欲望器官は鎌首をもたげた。  
 
「……!!!」  
アカネはヒロトの変化に更に真っ赤になる。しかし、この場を逃げたくてもヒロトが  
入り口側にいるので逃げられない。オロオロするアカネを見て、ついにヒロトがプッと  
噴き出した。アハハ…と小さく笑う。  
「座ろうよ、アカネ。風邪引いちゃうよ」  
「うん……」  
優しげなヒロトの声に頑なだったアカネの心はあっという間に解れてしまった。二人は仲の良い  
恋人の様に全裸で湯船に肩までつかる。アカネの心臓は破裂しそうにどきどきしていた。  
「可愛いなぁ…」  
思わず漏らしたヒロトの声に、はっ!とアカネは我に返った。ぷいっ、とヒロトに背を向ける。  
「どうしたの?」  
訝しげに問うヒロトにアカネはさっきの頑なさをちょっとだけ取り戻す。全部は…戻らなかった。  
ヒロトがいて、その声を聞いたらそれは無理だと思った。  
「どうせ私は、シノンさんの足元にも及ばないもん……」  
「へっ!?」  
何を言っているんだ、こいつは? と、ヒロトは本気で思った。柊シノンと先島アカネは  
先島ジムの「二大」アイドルレスラーとして双璧をなす存在である事はヒロトだけではなく、  
女子プロレスファンや一般の人にまで通じる概念であった。シノンにすべてが劣る、と言うのは  
アカネの思い込みに過ぎず、もし、100人の男に「恋人にしたいなら、どっち?」とアンケートを  
取れば、どちらが勝つにせよ非常に僅差になるだろう。シノンのカッコ良さ、アカネの可愛らしさは  
ほぼ互角、強いてあげるならプロレスの実力だが、それもキャリアを積んでいけばどんどん詰まって  
いくとみんな考えていた。シノンもそう思っているだろう。思っていないのは当のアカネだけだ。  
 
「だって、ヒロトはずっと……」  
不満そうな目でアカネを見る。それについてはヒロトは返す言葉がなかった。アカネの言う  
とおり、シノンの魅力に溺れてしまったのだ。シノンを責め立て、その反応を楽しんでいると  
止まらなくなっていた。だけど……。  
「あれはたまたま流れでそうなっただけで、もしアカネと二人だったら、ずっとアカネをいじめてた  
……と思う」  
ヒロトは確信を持ってそう言った。アカネはドキッとしたが、それでもヒロトを完全に信じるには  
いたらなかった。シノンが悶える姿はそれほど印象に残っていたのだ。  
 
「いたたた……しみる……」  
不意にヒロトが呻きだした。  
「どうしたの?」  
慌てて心配そうに振り向くアカネ。拗ねていてもヒロトが心配になるとすぐに気を使ってくれる。  
こんな健気で可愛い子が他にいるだろうか、とヒロトも改めて思う。  
「いや、さっきシノンにやられたところが…」  
そう言えば。実際にプロレス技を叩き込まれていたのはヒロトのほうであった。よく見ると胸元や  
背中に大きな打撃の痣がある。ラリアットは本気で叩き込まれていたし。  
「腰も痛い…」  
これはコブラツイストか、ボストンクラブか。いずれにしろ、この様子を見てアカネは少し楽しく  
なった。女の敵、ざまあみなさい、などと。  
「えっちで非道い事ばかりした罰だよ。しっかり反省しなさい」  
「てゆうか、お前らプロの癖に素人をいたぶるとはどういうつもりだ?」  
「うるさい、女の子の敵!」  
アハハ、と笑いながらお湯をかけるアカネ。飛沫を避けながらヒロトも仕返しをする。二人の嬌声が  
風呂にこだました時、ガラッ…と扉が開く音が聞こえた。  
「……シノンさん」  
たちまちアカネの表情が曇る。  
「ハァイ。ずるいな〜、二人だけで楽しんじゃって。私も入れてよ」  
シノンは二人に向けてウィンクした。全裸で……。  
 
「はぁ……今日はヒロトのおかげで散々な目にあったわ」  
拗ねたような言い方だが目は笑っていた。湯船に座っているヒロトの前迄行き、そこで立っている。  
つまり…ヒロトの顔の前にシノンの大事なところが10cmも離れずにあるのだ。目のやり場どころか、  
息遣いにも困ってしまう。  
「シ、シノンさん……もう少し離れたほうが……」  
アカネも真っ赤になりながら注意する。いきなりこんな破廉恥な『攻撃』に出るとは。しかし、シノンは  
当然のごとくアカネの注意をスルーした。  
「ね、ヒロト。私の女の子の部分、どうなってる? 散々虐めたんだからちゃんとケアしてね」  
「な……!」  
一瞬、アカネは立ち上がりそうになったが、我に返ってまた座った。シノンが冷ややかな目でそのアカネを  
見る。ムッとするアカネ。  
「だ、大丈夫だよ、ちょっと赤くなってるだけで」  
散々執拗な攻撃を受けたシノンの急所だが、ヒロトの言うとおり手加減していたので、赤くなっている  
だけで問題はなかった。ただ、赤くなって充血している分、感覚が鋭くなって感度が上がっているかも  
しれない。  
 
「そう、良かった。ヒロトは大変だね、あっちこっち痣だらけで」  
十分に女の匂いを振り撒いた後、笑いながら湯船に腰を下ろすシノン。  
「お前のほうは本気でやっただろ? こっちは素人なんだぞ? ちっとは手加減しろよ」  
シノンの色香を感じた事に照れながら、痛む体をさするヒロト。  
「本気なのは当たり前よ。男の子相手だもん。それともヒロトは女の子に手加減されたいの?」  
「男に叩きのめされるのが夢だったんじゃないのか?」  
「それは強い男の人によ。だから願いを込めて本気で打ち込んだの。ヒロトに強くなって欲しくって。  
ねえ、ヒロトもまじめに練習しない? そして私がどんなに歯噛みしても勝てなくなるぐらい強くなって  
一方的に叩きのめして欲しいの」  
とろんとした目でヒロトを見る。どうやら本気でそのシチュエーションに憧れているようだ。  
「ふ〜ん……そうしたら、逆に急所攻撃でいじめてやる。叩きのめせるほど強くなっても、あえて急所を  
狙われて苦しめられるってのはどうだ?」  
「わっ! それ、いいかも。……うん、凄くドキドキしちゃう! そっちの方が、いいな……」  
思わず股間をさすってヒロトに寄りかかるシノン。楽しげな二人を見てアカネの顔はどんどん曇っていった。  
さっきまでの楽しい気持ちは全部吹っ飛んでしまった。  
 
「私……上がるね」  
アカネが立ち上がる。その場に居たたまれなくなったからだ。  
「ちょっと待ちなさいよ、アカネ」  
挑発的に呼び捨てにしてアカネの手を掴んだのはシノンだった。  
「な、なんですか? 離してください……ヒ、ヒロトと二人で仲良くしてればいいでしょ!」  
目を瞑って振りほどこうとする。しかし、シノンの手は離れなかった。  
「逃げるの? 私にちょっと横槍入れられたからって、すぐに逃げるなんて、根性のない。……これが  
先島ジムの跡取りだなんて、お母さんに顔向けできなくない?」  
「そんなの…! 関係ないです!! どうしてそんな事を言うんですか!」  
怒りの表情でシノンを睨みつける。その目からは涙がこぼれていた。  
「怒る元気があるなら私に掛かってきなよ。『ヒロトに手出ししないで!』ってね。見なさいよ、  
ヒロトの顔を」  
「え? ……あっ!」  
アカネはヒロトの表情を見て口を押さえて驚く。ヒロトは自分に振られて慌てて気をつけたが、アカネに  
一瞬見られたようだ。不安そうにアカネを見つめる表情を。  
 
「ホント、情けない子ね……自分がヒロトにどう思われてるかも知らずに、ちょっとうまく行かなかった  
からって、すぐに逃げ出すなんて。…ねぇ、ヒロト。こんな子と付き合ってるとストレスたまるよね?」  
キツイ表情と辛辣な言葉使い。これがあの優しい柊シノンなのか? ヒロトは思わず息を呑む。  
「だって…! だって……! 私がちょっといい感じになったと思ってもシノンさんが来るとヒロトは…」  
泣きじゃくるアカネ。しかし、次に聞いた言葉はアカネの予想を裏切っていた。  
「当然じゃないかな。だって、私はそのタイミングを見計らって来てるんだもん」  
「……え?」  
「鈍い子ね。だから、わざとそうしたの。あなたとヒロトがいい感じになる所を邪魔するように」  
「な……」  
「言ったでしょ? 私だってヒロトの事が好きだって。だったら、自分の魅力をアピールするのと同時に  
一番のライバルを蹴落とすのが効率がいいと思わない?」  
「蹴落とす……」  
「ま、はっきり言っちゃうと、お子ちゃまのあんたにない魅力でヒロトを誘惑すればうまく行くと思ったの。  
実際うまく行ったけど、その理由はあんたにあるのかもね。あんたが外見だけでなく、中身までお子ちゃま  
だから助かったわ」  
伸びをしながら馬鹿にしたようにアカネを見下すシノン。数々の屈辱的な罵声を浴びせられ、アカネは  
頭が真っ白になる。ここまでの屈辱……生まれて初めて受けた……。  
 
……ぱん!  
浴室に響き渡る平手打ちの音。受けたのは柊シノン。放ったのは勿論、先島アカネだ。  
「これ、宣戦布告って受け取っていいの?」  
シノンはアカネを物騒な眼光で見つめる。しかし、アカネも全く引かない。  
「ええ。それほど大層なものでもないですけど。あなたが言ったとおりの意味です。『ヒロトに手を  
出さないで!』」  
「……いいわ。じゃあ、勝負しましょう。明日の深夜、リングで」  
「勝負方法はどうしますか? 急所攻撃ありでかまいませんよ。それとも過激すぎますか?」  
「そんなの、つまらないよ」  
シノンが馬鹿にしたようにつぶやく。その程度で過激? と言いたげだ。  
「じゃあ、どういう……」  
ムッとしながらアカネが聞いた言葉は更にとんでもないものだった。  
 
「急所攻撃と電気アンマだけの闘い、ってどう?」  
「「な…!」」  
アカネだけでなくヒロトも驚く。  
「勝負の決め方は…そうね、ポイント制にしましょう。急所攻撃1ポイント、電気アンマは1分につき  
1ポイント。時間内あるいは両者戦闘不能になるまでに多く点数を稼いだほうが勝ち」  
淡々とルールを述べるシノンを呆然と見詰める二人。  
「ああ、そうだ。コスチュームはなしがいいかな。シューズと、怪我しないように格闘技用の小さな  
指貫グローブを付けましょう。拳を痛めない様にね。女の子の場合、急所打ちすると恥骨がぶつかるから」  
急所の方は保護しないらしい。プロレス技を使って相手を崩し、隙を見て急所攻撃、ダウンを奪って  
電気アンマの闘いになるのだろうか?  
 
「当然、勝った方はご褒美、負けた方には罰が待ってるの」  
シノンはヒロトを見た。俺? 思わず自分を指差すとシノンがにっこりと肯定する。  
「勝った人はここでヒロトに心ゆくまで電気アンマと勝利のキスをしてもらうの。そして負けたほうは…」  
あなたの事よ、と言うようにアカネを見る。アカネも逃げずにシノンの視線を受け止めた。  
「負けたほうはここでその様子を見てるの。これは絶対義務。さっきの誰かさんみたいに無様な真似は  
許さないからね」  
「お、おい……」  
自分は完全に商品状態だ。それにアカネの気持ちを考え、止めたそうにしたが……。  
「いいわ、その条件で。明日の晩までに今日痛めたところ、治せるんでしょうね?」  
ヒロトの予想に反して、アカネは堂々と受けた。堂々と、と言うより挑発的に、か。  
「勿論よ。手加減してくれたんだもん。明日は手加減しないけどね」  
そう言ってアカネの股間を蹴る真似をする。ぴたっ……と寸止めでシノンの足の甲がアカネの股間に  
当たる直前で止まった。アカネは全く動じない。シノンが脅しで蹴っている事がわかったからだ。  
 
「へぇ……」  
少しアカネを見直したようにつぶやくシノン。二人の間のヒロトはもはや見守るだけであった。  
「じゃあ、明日。楽しみにしてるね」  
シノンは二人を置き去りにして浴室から出て行った。  
 
「アカネ……その……」  
ヒロトがアカネに声をかける。アカネはにこっとヒロトに笑いかける。  
「大丈夫だよ、ヒロト。私、負けないから」  
「そうじゃなくて、俺、どっちが好きかはもう決めて……」  
「それは言わないで」  
ヒロトが思い切って言いそうになるのを、アカネが直前で止めた。  
「今は言わないで……。私、シノンさんの挑戦からは、逃げたくないの。終わったら、聞くよ……」  
アカネはシノンの去ったほうを見つめた。ヒロトはアカネの方しか見なかった。答えは、自ずと  
出ているようだ。  
 
「ふぅ……」  
一人になり、シノンはため息をつく。  
「『ヒロトを誘惑した』か。自分で言ってて恥ずかしかったよ……」  
クスクスと自嘲気味に笑う。自分がそんなに駆け引きに手練れた女の子ではない事は知っている。  
シノンの方も必死だったのだ。もし、ヒロトに拒絶されたら……そう思うと胸が張り裂けそうだった。  
ずっとそうだったのだ。余裕など全くなかった。  
「でも、明日が楽しみなのは変わらないかな…」  
アカネのまだ幼さが残る肢体を思い出すと体の中心が熱くなってくる。自分は男にはMだが女の子には  
Sである事も気づいていた。明日はアカネを散々泣かして奴隷の様にいじめてやる……。  
そう思いながら思わず股間に手を遣って撫でるシノンだった。  
 
(PART1 おわり)  
 
 

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