【9.ふたりがかり?】  
 
 
「くぅう〜〜……いたた……☆!」  
私は蹴られた股間を両手で押さえて、前かがみの状態で内股になってピョンピョンと飛び  
跳ねる。そうしたところで痛みが消えるわけではないが、少しでも気を紛らせたい。  
しかめた顔からは痛さと情けなさで涙が滲んできた。  
(理緒ったら……もう許さないから!!)  
今や私も完全に頭に血が上っている。急所攻撃と電気アンマの応酬で試合は完全に泥沼の  
様相を呈していた。しかし、理緒のほうはそれほど熱くなっていないようだ。むしろこの  
展開は想定の範囲内なのだろうか? 電気アンマされ続けていた彼女はしばらく腰が  
抜けたように立てなかったが、ようやくそれも納まったのか、自分の股間を撫でながら  
ゆっくりと立ち上がる。  
 
「フフフ……やっぱり、美緒もやるよね。流石新進気鋭のファイターと言われるだけは  
あるじゃない。……祐一、見てた? あなたの美緒はちゃんとこんな泥沼ファイトでも  
対応できるよ?」  
理緒が祐一さんを見て楽しそうに言う。『あなたの』……だなんて、そんな――理緒の  
戯言と分かっていても、思わず頬が熱くなる。理緒が私を見て笑ってるのを見ると、  
おそらく顔を赤らめてるに違いない。  
 
「あ……うん……」  
急に話題を振られた祐一さんは困った表情で私たちを見比べている。彼から見れば私達は  
凄い格好をしているだろう。私のセパレートの水着は上は下乳まで捲れ上がってるし、  
長時間電気アンマされていた理緒の水着は股間にしっかりと食い込んでいる。  
それに二人ともさっきから恥ずかしい所を撫でてるし……祐一さんからすれば嬉しいけど  
言葉には出せないで困っているのだろう。……エッチなんだから。  
 
「このまま続けてもいいけど、美緒だってきっと引かないよ。ねぇ、祐一……私たちが  
泥沼の戦いでボロボロになっちゃうのは忍びないでしょ? だから……さっき言った  
作戦、やろうよ♪」  
理緒が楽しそうに祐一さんに誘いかける。  
作戦――? いや、それ以前に祐一さんが何故……?  
 
「あ、あの……。祐一さんはレフェリー……じゃないんですか?」  
私は祐一さんの方だけを見て言った。理緒の悪巧みににんまりする笑顔など見たくはない。  
それに、祐一さん自身にそれがどう言う事か、彼の口から訊いておきたい。  
祐一さんは私の視線に気がついたようだが、バツが悪そうに視線を逸らす。こんな時だが、  
私は浮気がバレた男の人は、きっとこんな表情をするんだろうな、と思った。  
 
「よくぞ訊いてくれました、美緒ちゃん♪」  
嬉しそうに返事したのは、勿論、祐一さんではなく理緒だった。……無視無視。  
「じゃ〜〜ん! そこにいるのは私たちの試合を裁く正義のプロレスラー・金藤祐一  
ではありません……彼の正体は……」  
♪だだだだだだだだだだだだだだだ…………と、口でティンパニ・ロールの真似を  
するアホな姉は完璧に無視してやったが、祐一さんがそれに合わせてコーナーに戻り、  
そこに置いてあったバッグを開けて何かを取り出したのは無視できなかった。  
そこから取り出したのは――小さなサテン地の黒色の布……?  
「マスク……?」  
私が思わず口にすると理緒がにんまりと笑い、じゃ〜〜ん!! と脳天気な効果音を  
発すると、それに合わせたかのように祐一さんが振り返った。私はその顔を見て一瞬、  
呆気に取られる。  
 
「ここにいるレフェリーの正体……なんとそれは悪のヒールレスラー『ブラック仮面』  
だったので〜〜す!!」  
理緒がマイク持った振りをして高らかに宣言したが、私はそちらの方を一度たりとも見て  
やらなかった。  
「ブラック……仮面?」  
私はじっ……と祐一さんの、いえ、ブラック仮面の顔を見つめてやる。  
ブラック仮面は私がシャレをわかってくれそうに無いので、動揺しているようだ。  
強く何かを問い詰める視線に耐え切れないかのように、目線を外して決まり悪そうに  
キョロキョロしている。  
 
「美緒ちゃん、ブラック仮面はね、只のヒールじゃなくて、女子供にも容赦のない、  
最凶最悪のレスラーなんだよ。得意技は女の子が苦手としているパワー技で、エッチな  
事が大好きなの。ブラック仮面の黒は悪の象徴なんだって♪」  
アホ姉が即興で思いついたプロフィールをしたり顔で解説する。私はそれを聞きながら  
ブラック仮面に近寄って行った。視線を逸らしたぐらいじゃ私を視界から追い払えない  
ぐらいの距離まで。  
ブラック仮面は理緒のほうに助けを求めるように視線を漂わせた。かなり動揺している  
らしい。  
 
「ふ〜〜ん……そうなんですか、ブラック仮面さん? 美緒の言うとおり、あなたは  
悪の道に身を落としたのですね?」  
私が強い意志を湛えた瞳で見つめてやると、ブラック仮面はぶわっと汗をかく。私の  
方を見ながら何か言いかけようとしたが、その度に言い止めて咳払いをした。  
そう言えば『今ここにはいない』祐一さんも都合が悪くなると咳払いを繰り返す人  
だった様に思う。  
 
「クスクス、どうしたの、ブラック仮面? 目の前にいるのはあなたの大好物の美少女  
アイドルレスラーだよ? そんな生意気な目つきをする娘は得意の急所攻撃でやっつけ  
ちゃいなさいよ♪」  
理緒の冷やかしに、滅相も無い、と言った表情で首を振るブラック仮面。  
「ふ〜〜ん……大好物なんですか、私って。それに、急所攻撃は得意な技じゃなくて  
好きな技なんですよね、きっと……」  
私がジト目で睨んで嫌味を言うとブラック仮面は「あぅあぅあ……」と幼児の様な  
言葉使いになり、身の置き場が無さそうに、私よりも20cmは大きな体を小さくした。  
 
その情けない様子に私は溜め息をつくと、ブラック仮面に問いかける。  
仮にも、ほんの少し前までは、私がこの人の事を考えただけで胸がときめいた人だ。  
最後のチャンスぐらいはあげたい。……無駄だろうけど。  
 
「ブラック仮面さん……あなたはもう、悪の道から戻れないのですか? 更正する事も、  
あんなに優しかった祐一さんを返してくれる事も出来ないのですか?」  
私はじっと涙を溜めた目でブラック仮面を見つめた。自分では分からないが、多分、  
円らな瞳はキラキラと純心な煌きを湛えていただろう。もしかしたら、その涙を見て  
ブラック仮面は正義の道に目覚めてくれるかもしれない。  
いや、私の大好きな祐一さんなら――ちょっぴりエッチだけど優しくて純心で強い心を  
持った祐一さんなら、きっと改心してくれるはずだ。私はそういう『圧力』を目一杯  
掛けるようにブラック仮面のマスクを通してその隠された素顔を直視した。  
 
「う……うう……」  
ブラック仮面はしばらくの間、自分の良心の呵責に悩むように身悶えしていた。そして  
私の方を一瞬見たが、すぐに視線を逸らせてしまった。どうやら、金藤祐一の正義の  
心はブラック仮面の悪の誘惑に完敗してしまったらしい。  
勿論、私は誘惑を克服するなんて、はなっから期待してなかったけれど。  
それに、いかにも『俺は悩みました』とばかりに、形ばかりの逡巡するを見せるのが  
祐一さんらしい。  
 
私は『予定』通りに侮蔑の眼差しをたっぷりと祐一さんに向けて彼を更に追い詰めた後、  
「……フン、だ」  
と、ツンとソッポを向き、髪をかき上げてリング中央に戻った。祐一さんに背を向けた  
まま水着のお尻の脇からに左右の親指を入れ、見せつける様に直してやる。こう言うの  
が好きなんでしょ? と、言わんばかりに。  
あ、そうだ。祐一さんはもういないんだ――私の後ろで、でかい図体の癖に小娘の私を  
オドオドしながら見ている男は、悪の心に支配されたマスクマン・ブラック仮面だ。  
断じて私の敬愛する金藤祐一さんとは違う。祐一さんなら、理緒の口車なんかに乗って  
私にエッチなプロレス技をしようと思うはずが無い。もし、そうしたいのなら、自分で  
はっきりと「そうしたい」と言う人のはずだ。  
 
(それだったら……全然良かったのにぃ〜!)  
思わず握った拳がワナワナと震える。祐一さんが男らしく「エッチな技を掛けたい」と  
言ってくれれば、私はどんな要求でも応じただろう。オッパイを揉まれたり、お尻を触り  
まくられたりなんて、全然OK♪ 急所攻撃だって電気アンマだって頑張って耐える事  
が出来る――手加減はして欲しいけど。  
なのに、祐一さんは男らしさの欠片も無く、馬鹿姉の手先となって私を苛める道を選んだ  
――あ、違う違う。祐一さんじゃなくて、ブラック仮面だった……。  
 
「理緒、ルールは同じなんだね? 1対1が1対2になっただけで」  
私は冷ややかに理緒に問いかける。もうブラック仮面の事なんか、眼中になかった。  
あんな情けない、男のクズみたいなレスラーなんかには。  
「そうねぇ……」  
クスクスと理緒が面白そうに忍び笑いする。どうせ、私の心の中など、全部お見通し  
なのだろう。私が意識をしないように努めている事こそ、本当に私が気にしている事  
であることなどは。  
 
「ルールは同じでいいかな――でも、ブラック仮面は男の子だから急所攻撃とかは  
手加減してあげてね。女の子よりか弱いんだもん♪」  
「うん、そうする。一発で気絶させたらつまらないもん。あの男の腐った性根を叩き  
直してやるんだから!」  
「そうだね。アハハハ……!」  
私の過激な言葉に理緒は楽しそうに笑った。私がブラック仮面をキッと睨むと、彼は  
気まずそうに横を向いた。  
 
こうして――私と理緒の双子姉妹シングルマッチは、私一人対理緒とブラック仮面の  
タッグの、変則マッチに途中変更された。  
 
 
【10.VSブラック仮面 with ……】  
 
 
くすくすくす……。  
私は笑いを堪え切れなかった。  
一応、これも予定の範疇だ。祐一には形ばかりの脅迫ネタをチラつかせて(『あなたが  
どんなサイトを見ていたか、知ってるよ♪』程度のものだが)、ブラック仮面に変身させる  
オプションを用意していたけど、まあ、脅迫ネタがなくても彼は変身していただろう。  
私に脅されたのなんて、逆に絶好の理由付けになって、内心で喜んでいると思う。  
祐一はそういう男なのだ。  
 
だから美緒が怖がるどころか、むしろ自分に対する怒りの目を向けてくる事に慌てふた  
めいている。彼女を人形の様に可愛い程度にしか認識していなかった証拠だ。元カレシ  
ながら、祐一の考えは総じて浅い。  
だけど、結果として私から見れば面白い展開になった。ただ震えているだけの獲物も  
悪くは無いけど、懸命に角で抵抗する羚羊を囲んで狩るのはもっと楽しそうだ。  
 
「覚悟はいいですね、ブラック仮面! あなたは……全力で倒してあげます!」  
憧れの人の情けない姿を見て怒りに燃える美緒が、祐一に向かって突っ込んでいった。  
私はしばらくフォローに回ろうかな……? この二人の対決を見るのは楽しみだった。  
 
 
          *          *          *  
 
 
「たぁあああ〜〜!!」  
私は走りこんで大きくジャンプし、ブラック仮面の胸元にドロップキックを叩き込んだ。  
ドン!とかなり威力があった様に自分では思ったのだが、ブラック仮面は一二歩下がった  
だけで、逆に私が大きく跳ね返された。  
「……きゃんん!?」  
辛うじて受身を取ったが少し腰を打つ。  
「いたたた……ど、どうして……?」  
やはりこれが男と女の体格の差なんだろうか? 私は痛む腰を擦りながら立ち上がる。  
すると……。  
 
「蹴りのタイミングと間合いの取り方が甘い。ドロップキックは相手の胸板を蹴るんじゃ  
なく、体を打ち抜く間合いじゃないと威力を発揮できないよ――軸足で支えてないん  
だからね」  
「えっ……?」  
今のは――ブラック仮面のアドバイス? そう思った時、私の体はふわっと浮いた。  
「な、なに……!? ……きゃああ〜!!」  
一瞬の浮遊感があった後、急激で短い降下感があり、次の瞬間には私は背中からマットに  
叩きつけられていた。どぉん……!! と地震の様な揺れがマットに起こり、私の体が  
大きく跳ね上がった。  
 
「ぐはぁ……!!」  
息が詰まる強烈な衝撃だった。しばらく体が硬直してしまう大きなダメージが私を襲う。  
ボディスラムかデッドリードライブか。プロレス技には詳しくないけど、男の人の強靭な  
腕力で叩きつけられたのは確かだ。  
「仮にもプロレスのリングで闘うんだから、技は本気でやらせてもらうよ」  
ブラック仮面の声が何故か爽やかに聞こえる。ダメージを負って苦しみながらも、私は  
女である自分相手に『本気で闘う』と言ってくれるのがちょっと嬉しかった。  
さっきのアドバイスといい、もしかしたら祐一さんは改心してくれたのか? そんな甘い  
期待が胸をよぎる。  
 
しかし、その期待はすぐに裏切られる事になる――。  
 
ブラック仮面は衝撃に苦しむ私に休む暇を与えず、髪を掴んで引き起こすと、胴に手を  
回して持ち上げながら、思いっきり引き絞った。  
ぎゅうう……ッ!! と私の体とブラック仮面の体が密着し、胴体が締め上げられる。  
「ぎゃあああああ……!!」  
私の絶叫がリング上に響き渡っただろう。ジムの室内照明が見えるぐらい、私の上半身は  
大きく仰け反った。  
 
「フフフ……ベアハッグだよ。祐一の――ブラック仮面の得意技の一つ。でも、男の  
レスラーには使わない、対女の子専用の技なんだけどね」  
理緒が微笑んでいるのがチラリと見えたが、その苦しさに構ってる余裕は無かった。  
ブラック仮面は少し首を振る。理緒の言う事が言いがかりだとでも言うように。何となく  
理緒の言っている意味は分かる(女の子と密着できてブラック仮面にとっては気持ちの  
いい技なのかもしれない)が、今の私にとっては技の苦しさでそれどころではない。  
「ああああ……!! くっ……!! ああっ!!」  
私は髪を振り乱して絶叫しながら、ブラック仮面の顔面をポカポカと殴る。しかし、  
この状態で力が入るわけではなく、全くと言っていいほど効果が無かった。  
 
(く……苦しい……)  
私はベアハッグの苦悶に悶えていた。総合格闘でも締め技はある。それに対する耐性にも  
ある程度の自信はあったはずだが、やはり男のレスラーに力一杯体を締め上げられるのとは  
圧倒的に力の掛かり方が違う。  
「はぁ……う! くぁああ……!!!」  
身悶えして暴れてもブラック仮面の締めは全く緩まない。それに足が地面から離れて、  
ブラック仮面の体に乗せられている格好なので、力その物が効果的に使えなかった。  
 
「離して……! 離せ……!! ぐっ……!? ああぅッ……!!」  
私が両手を組んでハンマーブローを肩口に叩き込むとブラック仮面は強く締めてきた。  
反撃を食らうたびにベアハッグがきつく締められる。その繰り返しは私の体だけでなく、  
反撃しようとする心にもダメージを与えていた。  
 
(こ、このままじゃやられちゃう……祐一さんには悪いけど、奥の手を……)  
私は両手をだらりと下げ、抵抗をやめたように装った。ブラック仮面のベアハッグも少し  
緩む。それでも全く逃げられないが。  
「ハァ……ハァ……。……ううっ……」  
ずっと続く苦しみに息を荒げながら、観念したようにぐったりとブラック仮面の胸元に  
体重を預けて身を任せた。ブラック仮面の瞳から攻撃の意志が消えかかる。その時――。  
 
(今だ――!)  
私はだらんと垂らしていた右手をブラック仮面の股間に持っていった。勿論、狙いは  
金的――男の人の最大の急所だ。あまり使いたくなかったが背に腹は代えられない。  
(ごめんなさい、祐一さん!)  
なるべく手加減するから――と、心の中で謝りながら金的を狙う。武道を経験した時に  
護身術で男の人の金的がどの位置にあるのかは知っている。私は真っ直ぐにその位置に  
手を伸ばし、金的を掴んだ――かに思えた。  
 
しかし――。  
 
「えっ……!? あっ!!」  
私の手は祐一さんの大事な所を掴む事は出来なかった。それどころか、体がまたふわっと  
宙に浮いたのだ。気がつくと私は祐一さんに高々と持ち上げられていた。  
「きゃあ!? な、なに、これ……!!」  
男の人と闘った経験はあるが、こんなに高く腕だけで持ち上げられた記憶は無い。プロ  
レスラーの腕力はやはり凄かった。このまま投げ飛ばされたら――打ち所が悪いと気絶  
してしまうかもしれない。  
 
だが、ブラック仮面の考えている事はもっと酷い事だった――。  
 
「や、やだ……! ダメですッ!!」  
私は暴れるのを止めて攻撃に備えた。受身を取り損ねたら怪我をする。ここは相手の  
攻撃を受けとめて最小限のダメージに押さえるのが重要だった。そう思っていたので、  
私は無警戒だった――あの悪の必殺技に。  
 
「せぇい――やっ……!!」  
ブラック仮面は空中で、掴んでいる所を私の腰に変更した。そして、そのまま前方に  
雪崩れ込むように振り下ろしたのだ。そこには――理緒!?  
「Came On! ブラック仮面!」  
私がチラッと見た時、理緒は膝立ちで待っていた。それが何の意味かはその瞬間は分から  
なかった。しかし、次の瞬間ではその意味をイヤと言うほど思い知らされた――。  
 
☆ズガァン……☆!!!  
 
「☆◆%〇#$●▽★……!! ……くぁあああッ!!」  
声無き悲鳴の後に、声のある悲鳴が出る。  
私は今まで体験した事の無い衝撃を股間に受け、同時に全身で感じていた。  
その時は脳裏が真っ白になり、何が起こったのかは分からなかった。私がやられたのは  
ブラック仮面が腰を掴んで持ち上げ、理緒の膝に私の女の子の急所を叩きつけた事だった。  
私のレオタードの股間が理緒の股間に深々と食い込み、そして、支えを失った体はズルッと  
バランスを崩して横に倒れた。  
 
理緒がハイタッチを求め、ブラック仮面が仕方無さそうに応える。二人はピクピクと  
痙攣するように悶えている私を悠然と見下ろしていた。  
「これがマンハッタンドロップ――今回はサービスでツープラトン・バージョンね♪」  
理緒の小悪魔の様な表情が霞み、楽しげな声が遠くに聞こえる様な感じで、私はリング中央で  
地獄の苦悶に悶えているだけだった。  
 
 

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