【11.美緒の意外な面】  
 
 
リング中央で、犬がつんのめった格好で股間を押さえながらピクピクと痙攣している美緒。  
目は大きく見開き、口からは泡を吹いている。やばい……完璧に決まりすぎたかも。  
祐一も、いやブラック仮面もオロオロしている。慌てて介抱しようと美緒を抱きかかえた時、  
「う……うん……」  
と美緒の声が聞こえた。うん、大丈夫大丈夫♪ 女の子だもん、あのぐらいなら平気だよね  
――私は食らいたくないけれど。どう見ても死ぬほど痛そう……。  
 
「だ、大丈夫……?」  
自分がやった事だというのに、心配そうな表情で美緒を覗き込むブラック仮面。  
あ〜あ、そんな事をしても無駄なのに。今の一撃で(つか、もっと前からだけど)愛しの  
美緒ちゃんはあなたを最大の敵だと思ってますよ。あなたの事だから、私に唆されてやって  
しまったとか、流れ上やってしまったとか言い訳するだろうけど――。  
 
「ごめん……つい、理緒に乗せられて……」  
……テンプレート思考の現代の若者ですか、あんたは。  
 
「…………」  
美緒はぷいっと横を向き、ブラック仮面を押しのけるようにして離れる。  
そりゃそうでしょ。気まずそうに美緒を見るブラック仮面が実に情けない。  
 
「いたたた……」  
美緒はブラック仮面から離れても構える事が出来ず、股間を押さえて内股になったままだ。  
なんとか股間から手を離し、軽く飛び跳ねたり、太股を叩いたりして痛みから気を逸らそうと  
しているが、そんなものはほんの――本当にほんの僅かの――ごまかしにしかならない。  
恥骨の痺れと子宮がキュッと締まるような鈍痛が同居する女の子の急所強打の痛さは、  
経験した女の子だけがわかるのだ。それがわからない祐一が慰めたって何の効果もない。  
私たちが男のタマの痛さに同情したって仕方がないように。  
 
流石に、このまま痛い攻撃を続けちゃ可哀想かな――そう思った私は股間の痛みに苦しむ  
美緒を捕まえて押し倒した。殆ど抵抗らしいものもなく美緒はマットに倒れる。  
額から苦悶の汗を滲ませ、苦痛に歪む表情と喘ぎ声――荒い息使いと共に形の良い胸を  
上下させながらぐったりとマットに横たわる美緒の姿は、祐一をドギマギさせ、私の  
嗜虐心を煽り立てる。  
美緒をもっと苛めたい――その気持ちに支配された私は彼女の足元に座り込んで両足を取った。  
そしてリングシューズの足を白の水着に覆われた股間にしっかりとあてがう。  
 
「ま、またそこを責めるのか?」  
祐一が私を咎めるが、唾を飲み込むような表情だ。本当は自分がやりたいくせに。  
「電気アンマは快感技だよ。祐一も美緒が気持ちよくなるように手伝ってよ」  
私はニコニコと微笑みながら言う。祐一は困ったように右往左往するが、  
「その形のいい胸を揉んであげたらどうかな? 美緒ってオッパイも感じやすいんだよ♪」  
私がウィンクすると、祐一は「あ、ああ……」とすぐさま美緒の上半身を起こし、背後に  
座り込んで腕を前に回し、たわわに実った果実を揉みしだく。  
「あっ……」  
美緒は無抵抗に揉みしだかれている。祐一は抵抗されない事に勇気を得て、胸を揉む力を  
だんだんと強め、そのスピードも上げていく。  
 
その時――。  
 
「……自分じゃ何をしたいか、決められないんですね」  
美緒の冷たい口調の言葉がリングに響いた。  
 
「えっ……!?」  
思わぬ言葉に祐一は絶句する。その表情は凍り付いていた。手はしっかりと胸を揉んだまま  
だったけど。美緒は祐一の愛撫に「あう……ん……」と呻きながらもしっかりと言った。  
「理緒に逆らえないで、理緒の言いなりになって……自分のやりたい事も自分で決められ  
ないなんて…………いくじなし……」  
目を閉じて荒く熱い吐息をつきながらも、美緒はハッキリとそう言った。祐一の表情が更に  
強張る。  
「フフフ……手厳しいね、美緒は」  
私は電気アンマする足にグリグリと力を込めた。リングシューズは普通のシューズより底が  
薄く柔らかいので力のコントロールはしやすい。素足と同じぐらい微妙なコントロールまでは  
出来ないが、その分強くあんまする事も出来るし、振動の効果は高い。ブルブルと細かめの  
振動を与えればそれは美緒の女の子の急所に力強く直撃し、苦痛とは明らかに違う、甘い  
悲鳴を上げさせる。  
 
「う……くっ! ……あああっ!!」  
美緒は上半身に祐一の縛めを受けたまま悶えている。密着している祐一にはその反応は  
如実に伝わるだろう。美緒は更にもう一つの女の子だけの急所である胸を揉みしだかれて  
いる。上と下、同時に責められて切なげに体を捩らせている姿が艶めかしい。  
胸に気をやれば股間の電気アンマに貫かれ、電気アンマに抵抗すれば胸が無防備に揉み  
しだかれる。  
結局はどっちつかずになって、胸もアソコもたっぷりと責め立てられる事になるのだ。  
 
「ここ……いいでしょ? 私の弱点は美緒の弱点……こういう時、双子って便利だよね  
――クスクスクス」  
私が責め立てているポイントは私が先輩にされたあの電気アンマと同じポイントだった。  
偶然に見つけられた私の急所中の急所――クリトリスのやや下、割れ目から少し上の辺りを  
下からグリグリされる電気アンマ。これをされると私達姉妹は全く動けなくなってしまう。  
美緒は私が割れ目を不規則に刺激するたびに祐一の中で髪を振り乱して悶え、彼の鼻先に  
いい匂いを撒き散らしている。  
 
「はぅあ……! ああッ……!!」  
美緒のソプラノボイスがリング上に響き渡り、生贄である彼女を駆り立てる陵辱の嗜虐心を  
そそりたてる。電気アンマを担当する私も女の身ながらゾクゾクと込み上げてくる震えを  
押さえきれない。柔肌に密着して美緒の体温を感じながらマシュマロの様な胸を揉んでいる  
男の祐一はたまらないだろう。私も見た事がある祐一の男の器官が美緒の白い背中に  
熱く密着する様子を想像し、自分の下半身が熱くなってくる。  
 
「ねぇ、祐一。愛しの美緒ちゃんの乱れた姿を見て悲鳴を聞いてたら、アソコがたまらない  
でしょ?」  
私は興奮で上ずりそうな声を押さえ気味に祐一を煽り立てる。祐一はビクッ!と大きく  
体を震わせた。美緒の胸を責めるのに夢中になってたらしい。祐一の反応を感じたのか  
美緒がうっすらと目を開け、祐一を振り返る。  
「なんなら……そのまま前に回ってフェラチオさせてみる? 立ちっぱなしじゃ辛い  
でしょ、そこ?」  
クスクスと低く笑いながら更に煽ってやる。私が祐一がしたそうな事を言ってやれば、  
祐一はそれを命令と受け取って実行に移す。しかし、今度は流石に戸惑っていた。  
「えっ……?」と呟いたまま動こうともしない。  
私は大笑いしそうになった。ここまでやってまだ祐一は躊躇ってるんだ、と。  
まあ、決心がつかないならしょうがないので冗談に紛らせてやろうと思ったその時、  
 
「そんな事したら……噛み切ってやるから……」  
美緒の静かな怒り声が荒い息の合間にハッキリと聞こえた。祐一に対する敬愛のない  
冷たい声――こちらからは見えないが、振り向いた美緒の瞳も冷たかったのだろう。  
祐一は傷ついたように俯き、視線を逸らせる。美緒の胸を揉む手も弱々しくなった。  
どうやらかなりショックを受けたようだ。  
美緒は祐一のされるがままになってはいるが、心を開こうとはしない。  
 
(おやおや……)  
私は心の中で祐一と美緒の心理状態を想像し、もっと意地悪してやりたくなった。  
一応、祐一は私の元カレシ。その元彼が他の女の子と仲良くやっている姿を見るのは  
やはりなんとなく面白くない。例えそれが双子の妹であってもだ。  
(だからもうちょっと波風立たせちゃおう〜〜っと♪)  
私は小悪魔の様にぺロッと舌を出すと、電気アンマを強めながら美緒にこう言った。  
 
「ねぇ、美緒――私、これから意地悪な事をしてあげる」  
「ハァ……ハァ…………えっ?」  
電気アンマに耐えながら美緒は「何を今更?」といった表情で私を見た。まあ、それは  
仕方が無いか。今までやってきた事が意地悪でなくてなんなのか、私自身ですらそう思う。  
「フフフ……私の言うのはね、これからやる事じゃなくて、これからどういう風に美緒を  
いじめるかなの。ここからの美緒イジメの担当だけど、私が電気アンマ担当で、祐一が  
急所攻撃担当にするね」  
クスクスクス……と忍び笑いする私を見たのは祐一だけだった。美緒の方は内容を聞くと  
さほど興味なさげにまた目を閉じて電気アンマが与える苦悶と快感に身を任せる。  
熱い吐息と悶え声と電気アンマに耐える太股のプルプルした動きが相変わらず悩ましい。  
 
「どうしたの? ホントは逆の方がいいんじゃないの? 祐一にはどうせなら、さっき  
みたいに急所攻撃で痛くされるより電気アンマで気持ちよくして欲しいでしょ?」  
私は更に電気アンマのストロークを短くし、股間への振動を細かく速いものに変えながら言う。  
堪えきれなくなったように、美緒の体が白い蛇の様にくねくねと蠢いた。  
「あああぁ……! 理緒……それいい……」  
美緒が初めて電気アンマを受け入れる声を上げる。祐一がどうこうと言う私の問い掛けには  
何も答えない。  
「気持ちいいでしょ、これ? 祐一がやるともっと気持ちがいいよ、きっと♪」  
電気アンマの快感に悶えていた美緒はそれにまた体をくねらせながら、背後を軽く振り返る。  
祐一は相変わらず美緒から視線を外したままだ。それを確認した美緒の口から出た言葉は  
意外なものだった。  
 
 
「別に。こんな自分の意志で何も出来ない、ウジウジした男のクズにされたって……  
何も感じないもん――」  
 
 
(うわぁ〜〜……)  
私は思わずサァーッと血の気が引く気がした。美緒の口調は痛烈で、その内容は祐一に  
とってあまりにも辛辣だったからだ。美緒は電気アンマに悶えながらも祐一の方は全く  
見ようともしない。そして、祐一は――。  
「祐一……?」  
祐一は俯いたままだ。今の美緒の言葉が祐一に聞こえなかったはずがない。それが証拠に  
美緒の胸を揉んでいる手は止まっていた。  
「イタタ……強く掴まないで下さい……」  
美緒が痛そうに訴える。よく見ると祐一の手は止まっているのではなく、小刻みに震えて  
いるのだ。その節が隆々とした指で美緒の胸をぎゅ〜〜っと鷲掴みにしている。  
 
「痛い……痛いですってば……。もう……女の子の扱い方、本当に知らないんですね?  
そんなデリカシーのない掴まれ方したって……なにも……感じないです……」  
電気アンマに喘いでいるせいか、美緒の言葉は静かだった。しかし、その中にはありありと  
侮蔑の色が混じっていた。祐一を敬愛する色は全くない。  
 
「それとも……これもお得意の急所攻撃……ですか? 祐一さん……好きですものね……  
女の子の弱い所をいじめるの…………それも自分の意志でやるんじゃなく……て……理緒の  
せいに……して……。……ああ、そうでしたね……今私を苛めてるのは……ブラック仮面  
…………卑怯で、卑劣で、……陰湿で、執拗な……悪の化身…………だから、仕方がないん  
でした……ね……」  
うっすらと意地悪な微笑を浮かべて祐一を振り返る美緒。私はこんな意地悪な美緒を見る  
のは勿論初めてだった。陰湿で執拗――それは今の美緒にも言えることだった。祐一が  
何も言い返さないのをいい事にいつまでもネチネチと言葉で苛めている――電気アンマされ  
て悶えながら恨み言を言う美緒の表情は汗に張り付いた髪の効果もあって凄絶だった。  
 
祐一は何も言い返さない。しかし――。  
「痛ッ――! イタタタ……痛いったら!!」  
美緒が急に暴れだした。上半身を振りほどこうと懸命である。今までと明らかに違う苦悶の  
表情――胸元を見ると祐一の両手は美緒の乳房を思いっきり握り締めていた。その痛みで  
顔をしかめているらしい。  
「止めて……離して……」  
美緒が更に暴れる。しかし、祐一は無言で胸を離さない。食い入るように鷲掴みにされ、  
形が歪む乳房――思わず、痛そう……と同じ女の子の私は思ってしまう。  
「イタタ……!! ……もう……離してってば!!」  
たまらなくなった美緒が肘を振り上げ、背後にいる祐一の顔面に叩き込もうとする。  
しかし、祐一は間一髪で避け、最後にもう一度ギュ〜〜ッ!と胸を掴むと、そこから  
手を離してゆっくり立ち上がった。  
 
「…………!! いったぁ〜〜……」  
最後の一掴みの痛さに涙目になりながら美緒は胸を押さえて痛がる。まだ下半身は私に  
電気アンマされっぱなしだが、それよりも胸の痛さのほうが勝っているようだ。よほど  
強い力で掴まれたに違いない。  
「美緒……大丈夫? ……あっ!」  
私が美緒を気遣おうとした時、祐一が私の肩を掴んで美緒にしている電気アンマを外さ  
せた。上半身、下半身とも解放された美緒は体を縮込めるようにして蹲り、身悶えする。  
胸の痛さと電気アンマの快感と苦悶――その余韻は解放されてもすぐには消えないらしい。  
 
「祐一……さん?」  
祐一はその美緒の肩を抱えて引き起こした。強引にリング中央に引っ張っていき、立たせる。  
物も言わないその暗い表情に私は一抹の不安を覚える。美緒は引っ張られるたびに軽く  
悲鳴を上げていたが、リング中央に立たされて祐一と対峙すると、さっきの皮肉な微笑で  
見下したように見つめた。  
 
「フン……珍しいじゃないですか。理緒に逆らうなんて……」  
ほとんど驕慢と言ってよい態度で、美緒は髪をかきあげる。数々の責めで疲労が積み重な  
っている筈だが、目の前の男に弱みは見せられないとばかり、背筋はしゃんとして、見事な  
プロポーションを際立たせるように少し挑発的に構えて立つ。  
(こうしてみると美緒はやっぱり人目を引くよね〜)  
私は思わず溜め息をつきながら美緒を見る。祐一もまじろぎもせず、その美緒を見ている。  
 
「……で、今度は私をどうしたいんですか、ブラック仮面さん? 言いなりになってた  
理緒を引き剥がしてまでやりたい事といったら、よっぽど……」  
美緒が挑発そのものの言葉で祐一をなじろうとした時――その答えはすぐさま返ってきた。  
 
――ぱぁん!  
 
「なっ……!!」  
悲鳴を上げたのは私だった。平手で頬を打たれた美緒はその格好のまま俯いている。  
しばらくそのままで固まっていたが、ビンタで揺れていた長い髪の動きが納まった頃、  
美緒は顔を上げてキッと祐一をにらみ返す。涙目で。  
 
「何するのよ!!」  
 
――ぱぁん!  
 
今度は美緒のビンタが祐一の頬に炸裂した。しかし、美緒と違って祐一はそれを頬で  
受け止めその手を掴む。そしてそのまま自分の方に美緒を引き寄せた。  
男の力で強引に引っ張られた美緒は軽々と祐一と密着する。しかし、その瞳は怒りに  
燃えていた。いきなりビンタを食らった悔しさか、それとも、今までの祐一が美緒に  
してきた仕打ちの恨みか――。  
 
しかし、私が驚いたのは美緒の怒りよりも祐一の次の言葉だった。  
「誰が男のクズだと? お前がネンネだからこっちは困って色々手を拱いてたんじゃ  
ないか――小便臭い色気で調子に乗ってんじゃねぇよ」  
「な……! な、な、な……!!」  
男のあまりの言い草に面罵された美緒は顔色を失い、言葉が出ない。  
祐一は動きが固まった美緒をがっちりと掴むとおもいきり振り回してロープに叩き  
つけた。  
 
「……きゃっ!? ……あうッ!!」  
物凄い力でロープに叩きつけられた美緒は反動でリング中央に戻ってくる。  
私とは段違いの力で振られ、全く抵抗できない。その美緒が戻ってくるタイミングを  
見計らって祐一は強靭なラリアートを叩き込んだ。女の急所である胸に――。  
「げふっ……!!」  
その凄まじい威力に美緒はマットに叩きつけられた。ばぁん!とマットが震えるのが  
私の位置からでもわかる。祐一が叩き込んだのは男子選手にするそれと同じだった。  
全く手加減も容赦もない。  
 
「ゲホッ! ……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!! 」  
女の急所の胸を打たれ、息を詰まらせてマットにのたうつ美緒。その回復を待たず、  
祐一は彼女の髪を掴み、容赦なく引き起こした。  
「そんなに言うんだったら、見せてやるよ。男の本当の力というものをな」  
祐一は美緒の顎を掴むとその顔を自分の方に向けさせ、凄む様な目でねめつけた。  
いつもの祐一の優しさの欠片もない冷酷な瞳――しかし、美緒はその目をキッと  
見返していた。  
 
 
【12.祐一の豹変】  
 
 
「そぉ〜〜りゃ!!」  
祐一が美緒の肩と股を掴んで高々と持ち上げ、直下に落とすようにマットに叩きつける。  
どぉん……!! と地響きを立てる強烈な威力。  
「はぁう……!!」  
ハイアングルボディスラムをまともに食らった美緒はマットでバウンドし、その衝撃に  
動けない。  
「うぐぐ……くっ……! ま、まだまだ……」  
美緒も負けじと強気だ。しかし――、  
「当たり前だ。この程度で許してやるものか」  
祐一は冷酷に言うと苦痛に悶える美緒を引き起こし、その首を両手で掴んで吊り上げた。  
美緒の足が宙に浮き、バタバタと苦悶に喘ぐ。ネックハンギングツリーだ。  
「ぐぐぐぐっ……!! あぐぐ……!!」  
投げ技とは違う、首絞めの苦悶――美緒は懸命に祐一の腕を掴んで引き離そうとするが  
男と女では力が違いすぎる。祐一の腕は全くビクともしなかった。  
 
「この……はなせ……! はなし……て!!」  
美緒は辛うじて動く足を祐一の腹に蹴り込むが、鍛えられた男の腹筋を宙に浮いた足で  
蹴ってもほとんど効果がない。  
(どうせなら効果がある所を狙わなきゃ――男にはちゃんとあるんだから)  
軽い威力で多大なダメージを与えられる場所――勿論、金玉の事だ。私は祐一とのスパー  
リングの時、何度も金玉を蹴ったり掴んだりして優位に立っている。男にしかないこの  
急所を打って苦しめるのは私の密かな楽しみでもあった。ハンサムな祐一の顔が苦痛に  
歪むのを、その苦悶がわからない女の私が興奮で上気した顔で微笑みながら覗き込む――。  
この倒錯したシチュエーションはたまらなく私の子宮をキュッと熱くなるぐらいに刺激  
した。ただ残念な事に、私はその後に祐一が同じところに復讐してくれるのを毎回期待  
したのだが、祐一はそれはあまりやってくれなかった。  
本当はそれをして欲しかったのに――。  
 
 
「この……えい! ……ええい!!」  
「…………!!」  
偶然か狙ったのか。何度目かの美緒の蹴りが祐一の金玉に命中した。「ぐっ……!」と  
呻いて祐一がネックハンギングツリーを外し、美緒を放り出して膝をついた。  
支えられてた力を失った美緒はマットに叩きつけられた。  
「う……ぐっ……!」  
マットで胸を打って息が詰まった後、ハァ……ハァ……と首絞めで奪われていた酸素を  
取り戻そうと意気を荒げる美緒に、祐一はゆっくりと近づいて、美緒の髪を掴む。  
(力加減しちゃったんだね――)  
美緒は確かに祐一の金玉を狙ったようだが、思いっきり蹴ったのでは無さそうだ。  
でなければ男の急所を蹴られて膝をつく程度で立ち直れるはずがない。  
(やっぱり、口ではああいったものの、祐一を見限る事なんて出来ないんだね――)  
クスクス……と私は美緒の真情を思って忍び笑いした。あのキツイ口調は逆に好きな男に  
対する気持ちの表れ――本当に何とも思ってないならあんなに執拗に意地悪な事を言ったり  
しない。自分が大事に思ってる男の金玉を力一杯蹴るなんて、女には出来ないもんね――  
それは自分にとっても大切なタマタマなんだもん(私は結構強めに蹴ってやったけど♪)  
 
(けど、それが祐一にはちゃんと伝わってるのかな?)  
逆に祐一の変わり身には女に捨てられた男が逆ギレするパターンに近いものを感じていた。  
悔しくて悲しくて辛くて、ついその愛する対象に当たってしまう、男の子供じみた自分本位  
な性(さが)。祐一は美緒に見切られたと思っていないだろうか? どうせ嫌われるなら  
思い切って自分のやりたい事をぶつけてやろう、と。  
 
(最初からそうすればいいのにね――)  
美緒の時と同じように祐一の真情を思い浮かべるとやはり私は忍び笑いするのを禁じえない。  
私と同様、美緒は好きな人にエッチな事や酷い事をされるのはイヤではない。  
むしろ、私が仕返しして欲しかった時と同様、美緒だって本当は祐一に苛められたいのだ。  
美緒は『祐一なら苛められてもいい』と言うだろうけど、心の奥の本心は違う。祐一なら、  
ではなく彼女自身がそれを望んでいるのだ。本人は否定するだろうけど。  
 
一方の祐一は本当は美緒を苛めたいのに、嫌われたくないばかりに表面上は美緒の事を優しく  
扱おうとする。私とつき合ってた頃に金的打ちの仕返しをしなかったのも同じ理由だろう。  
祐一はそういう優柔不断な男だ。  
 
今回は、私の策略に乗ると言う、やや中途半端な名分が出来て、逆に祐一が抱えている  
ジレンマが歪に表面化した。それがブラック仮面の正体だ。  
そのなよなよした考え方が美緒には許せない。美緒はあれで結構意志が強い娘だから、  
相手にも自然と男らしさとかハッキリとした意思表示を求める傾向にある。  
祐一のやり方はその対極だと言ってもよい。だから辛く当たる。  
 
(でも――女の子って本当は自分と反対の性格の男に惹かれたりするんだよね)  
美緒は実はその祐一の優柔不断な性格をひっくるめて好きなのを気づいていない――と、  
私は思っている。  
 
 
「くっ……。男の大事なものを蹴りやがって……覚悟は出来てるんだろうな?」  
祐一はわざと髪だけをつかんで美緒を起こした。美緒の悲鳴がリングに響き渡る。  
「ふ……フン、だ! 次は潰してやるから覚悟したら? イタタ……いつまで髪を掴んで  
るの? 痛いよ……離してよ、馬鹿!」  
疲弊した体に鞭打って気合を入れると、美緒は鳩尾めがけて正拳突きを叩き込んだ。  
空手を経験している美緒の必殺技と言ってよい。ズドォン!!と強烈な打撃音が鳴り、  
流石に祐一の体がくの字に折れ曲がった。  
「ぐ……ハァ……!!」  
だが、祐一は前のめりにたたらを踏んだが、倒れなかった。咄嗟に腹筋を引き締めた  
のだろう。そのあたりは流石である。  
(私なら、こういう時こそ言葉どおり、金玉を一撃! なんだけどね〜)  
そう思いながら美緒を見ていると髪を掴まれた苦痛に呻きながら少し表情が和らいでいる  
気がする。好きな男の人がいい所を見せたのが思わず嬉しかったのだろう。  
自分の必殺技が止められたと言うのに――まったく。  
 
「ハァ……ハァ……」  
一方の祐一は防いだとは言うもののその威力ある拳を食らって、耐えるのに必死だった。  
だから美緒の嬉しそうな顔を見たかどうか――。  
「オラァ〜!!」  
「きゃうん……!!」  
祐一は髪を掴んだまま美緒を投げ飛ばす。ヘアホイップだ。お尻と腰をしたたかに打ち  
つけ、美緒は「クッ……!」と呻いて仰け反った。息が詰まったようだ。  
「まだまだ〜〜!!」  
祐一は動けない美緒の両足を掴むと脇に抱え込んだ。咄嗟に気づいた美緒は慌てて両手で  
股間を防御する。急所蹴りか電気アンマが来ると思ったからだろう。しかし、祐一は  
そのまま体を思い切り回転させる。ジャイアントスイングだ。  
 
「きゃああああああ〜〜〜〜!?」  
美緒の悲鳴がリングにこだまする。1回……2回……3回………10回………20回。  
これは強烈かも、と私は見ていて思う。この技の威力はパワーに比例する。レスラーの  
私でさえここまで強烈なジャイアントスイングは食らった事が無い。美緒は大丈夫だろうか?  
「そぉりゃ!!」  
祐一はスイングしながらコーナー付近まで移動し、最後は反対のコーナーに投げ飛ばした。  
「きゃあうう……ゲフ!!」  
美緒の軽い体がマットを転がり、最後はコーナーポストに激突して止まった。そのまま  
起き上がらない。しかし、私が近づくと何かクスクスと笑い声の様なものが聞こえる。  
 
「……美緒?」  
美緒はハァ……ハァ……と息を荒げてぐったりしていたが、その表情は緩んでいた。  
「……さすがだなぁ、祐一さん……男の人って、やっぱり強いね……理緒」  
私にだけ聞こえるようにそう言う。美緒は苛められながらもちょっと楽しそうだった。  
祐一には見せないようにしているが。勿論、男の力でいたぶられているのだから、本気で  
楽しいわけではないだろうが、少なくともさっきまでのキレていた美緒とは全然違う。  
 
(フン、だ。楽しんじゃってさ)  
何となく、私は面白くない気がした。これじゃあいつもの練習よりちょっと過激になった  
程度じゃない。もっといやらしく意地悪に美緒を追い詰めないとつまんないよ――。  
そう思ってた私の目におあつらえ向きの物が目に入った。美緒は今コーナーに寄りかかっ  
て立ち上がり、祐一が近寄ってくるのを待ち構えている。祐一はまだ怒った表情だ。  
好きな女の子に面罵されたのがよっぽど辛かったらしい。  
(よ〜し……)  
私はこっそりとエプロンサイドからリングを降りると、美緒の目に入らないように姿勢を  
低くして、彼女のいるコーナーに向かった。コーナーを見てヒョイっと首を上げると、  
美緒のお尻が見える。その白のセパレート水着の股間は数々の技を受けて少し股間に食い  
込んでいた。美緒自身は祐一に目を向けていて私に全く気づかない。やるなら今だ。  
 
「せ〜の……それっ!!」  
「キャッ……!? な、なに? …………理緒!?」  
私は美緒の両足首を掴んで、それを思い切り自分の方に引き寄せた。美緒はバランスを  
崩してたたらを踏む。  
「ちょ……! あ、危ない! ……ひゃん!?」  
片足を振りほどいた美緒だが、もう片足を私が掴んでたので、半回転して尻餅をつく。  
私の目の前にはM字開脚状態で尻餅をついている美緒の姿が。彼女はお尻を痛そうに  
擦っている。絶好のチャンスだった。  
「な、なにするのよ、理緒……きゃっ!?」  
私は美緒の問いに答えず、その両足をコーナーの鉄柱越しに掴んで自分の方に引き寄せた。  
何をするかって? この体勢からすることなんて、決まってるジャン♪  
 
「ちょ、ちょっと待って、理緒! それは、だめぇ〜〜!!」  
私の目的がわかった美緒は半ばパニック状態で足を閉じようとしたり、体をリング内に  
引き戻そうとしたりした。しかし、両膝が鉄柱を跨いであとは股間まで太股しかない状態  
ではそのどちらも間に合わなかった。せめてなりふり構わず両手で股間を守ってれば間に  
合ったかもしれないのに――内心そう思ってニヤリと笑いながら私は美緒の両足を思いっ  
きり引っ張った。そして――。  
 
ご〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆…………!  
 
「☆&%〇#……$△▽%……!!」  
美緒の高周波の悲鳴がリングに響き渡った。人間の耳に聞こえなかったのに響き渡ったと  
言うのも変だが。声無き叫び――その言葉が似合う悲鳴だった。  
「…………&%#%$!!」  
美緒は大きく目を見張り、体を大きく仰け反らせて、パクパクと酸素不足の魚の様に口を  
動かしていた。言葉が出ない。しかし、彼女の太股や腰は鉄柱に股間をぶつけた余韻で  
震えていた。勿論股間は鉄柱に食い込んだまま――美緒の今の気持ちは文字通り痛いほど  
私にはわかる。  
(すっごく、痺れたでしょうね〜〜……。クスクスクス……)  
私が内心笑っている事を知ったら、美緒は激怒するだろう。同じ女の子で同じ目に遭えば  
どんなに辛いかがわかるはずなのに笑ってる――同じ状況で男に笑われるよりも何倍も  
悔しくなるのに違いない。ましてや双子の姉妹なのだ。どこが一番、打ったりすると辛い  
かを良く知ってるはずなのに――と。  
 
「あ……うう……。理緒…………」  
漸く全身を襲う第一波の痛みが治まったのか、口が利けるようになった美緒が体を起こし、  
足を引き寄せようとする。しかし、体の震えはまだまだ納まってないようだ。額からは  
またしても冷たい汗が噴出し、髪が張り付いている。  
(女の子の急所を打った時の痛さは独特のものがあるもんね……同情するよ、美緒♪)  
そう思いながら私はまた美緒の両足を引っ張る。再び鉄柱が股間に食い込み「うっ!」  
と呻く美緒。しかし、この状態ではどうにも抵抗のしようが無い。  
 
「クスクス……鉄柱電気アンマの刑で〜す♪」  
私は鉄柱の両サイドからピンと伸びきった美緒の足を左右交互に引っ張った。その度に  
鉄柱に食い込まされた美緒の股間はギシギシと更に押し付けられる。左右の動きで水着も  
さらに深く食い込み、その度に美緒は悲鳴を上げた。  
「はぁん……! あ…うう……!! や、やめて……理緒!」  
美緒は切なげに私を見てイヤイヤするように首を振る。その哀願する瞳が逆に私の嗜虐心を  
そそるとも知らずに。  
「やめてって言われて止められるのなら、とっくに美緒は解放されてるよ♪」  
そう言いながら、今度は美緒の両足を同時に引っ張り、細かい振動を与えるように震わせた。  
本当に電気アンマされているように美緒の両太股は震え、股間は更に鉄柱に食い込んでいく。  
 
「ふわぁぁあああッ……! り、理緒〜〜〜!!」  
美緒は懸命に鉄柱を掴んでいるが、それはこの変則電気アンマから逃れる為ではなかった。  
鉄柱に股間を押し付けられたまま、両足を上下に震わされたり、引っ張られたりして  
弛まない刺激を急所に受け続ける快感と苦悶を耐えるためにそうしているのだ。  
女の子の場合電気アンマを何の拠り所も無く耐えようとすると、精神がおかしくなってしまう。  
「うっ……くっ! はぁぁ……ハァ……ハァ…………り、りお……」  
切なげに吐息をついて私を見る美緒。私の度重なる急所攻撃と電気アンマにもう陥落寸前  
だった。このまま私が勝利宣言すれば、美緒は是も否も無くコクリと頷いただろう。  
 
しかし――。  
 
「どけよ、理緒――」  
そう言って私を突き飛ばしたのは祐一だった。突き飛ばされた拍子に思いっきり美緒の  
両足を引っ張ってしまい、「あうっ!!」と苦悶の声と共に美緒が股間を押さえる。  
「い、いきなり何するのよ、祐一……!」  
私は尻餅をついた状態で抗議した。しかし、祐一は私には眼もくれず、美緒の方を凝視  
している。  
その美緒は急に強く引っ張られたのでアソコを打ってしまったらしい。「いたた……」と  
苦痛に顔をしかめながら股間を押さえて私たちのやり取りを見ていたが、祐一が近づいて  
きたのを見ると、一瞬身を引いてしまう。  
 
「な、なんですか……」  
ブラック仮面さん――と、揶揄して言おうとしただろうか。しかし祐一は何も答えず、  
おもむろに鉄柱を跨いだ状態の美緒の両足首を両手で掴んだ。  
「い……イヤ!」  
慌てて美緒が内股になって股間を両手でがっちりと守る。この状態で祐一に両足首を  
握られているのはかなり危険だ。そのままあの腕力で引っ張られたら――どうなって  
しまうのか、想像もしたくないだろう。  
 
「どうした? 怖いのか?」  
逆に今度は祐一が揶揄するように言う。その言い方にカチンと来たらしく、美緒は  
キッと睨みつけた。  
「あ、当たり前です! あなたの様な卑劣な人にこの状態なんですから……」  
「さっきは金玉蹴って逃げたくせに……あの仕返しをさせろよ」  
「そんな……! イヤです! だ、大体、先にやったのはそっちじゃないですか?」  
祐一の理不尽な言い草に美緒は断固拒絶姿勢だ。確かに、先にやったのは祐一だ。  
私とのツープラトン・マンハッタンドロップ。あんなのをされたら百年の恋も冷めて  
しまって当然だろう。…………普通の女の子なら、だけど。  
 
「ああ、あれか……あれは理緒のせいなんだから仕方ないだろ?」  
「な……!! そ、そんな言い訳……」  
「うるせぇな」  
いきなり開き直った祐一はイケメンを歪ませ、マスク越しにタチの悪い笑顔で美緒を見る。  
美緒は絶句したまま豹変した祐一から目を離せないようにまじまじと見つめている。  
「俺の事、どうでもいいと思ってんだろ、お前は――だったら、好きに弄んでやるよ。  
お前を苛め抜いて、屈服させて、可愛らしい悲鳴を上げさせて――最後はその小さな唇で  
俺のものをしゃぶらせてやる。力づくでな――」  
「な……なんて事を……!」  
祐一のあまりの豹変振りに美緒が目を見張る。  
「いつまで座ってやがる。さっさと立って手伝えよ、理緒」  
その美緒を無視して祐一は私に向けて言った――いや、命令した。私でさえ呆然となる。  
ましてや陵辱を宣言された美緒はどう思ってるだろうか――彼女は怒ることも忘れたように  
じっと祐一を見つめていた。その瞳は怒りのためか興奮のためか、潤んでいるように  
私には見えた。  
 
 

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