【1.格闘姉妹の対決】  
 
とっぷりと闇に包まれた午後10時ごろ。  
既に練習時間が終わって、練習生も引き上げて締め切られた後のジムに蛍光灯の明かりが灯り、  
二人のリングコスチュームを着た女の子が入ってきた。  
二人は髪型こそショートカットとロングヘアの違いはあるが、その他は体型から顔まで瓜二つ  
だった。女の子の名前は理緒と美緒。身長170cm、体重52kg。B85W61H90。  
全てが同じサイズ。理緒の方は黒い大きな瞳と黒髪が印象的な美少女レスラーとの評判だから、  
まあ、私も同じなのだろう――あ、私は美緒。一卵性双生児の妹でロングヘアの方です。  
 
私たちは高校二年生で、学校に通いながらある格闘団体の練習生として日夜訓練に励んでいる。  
姉の理緒はプロレス、妹の私は総合格闘。分野は違うけど、ジムは共用なので一緒に練習する  
事が多い。私たちの区別は髪型を見れば一目瞭然で、ロングヘアの方が私――本当はショート  
の方が格闘に向いていると思うけど、理緒と違って女の子っぽいアピールが出来ない私は、  
少しでもそう見えるように髪を伸ばして――まあ、こんな事はどうでもいいか。  
ちなみに姓は柊(ひいらぎ)。柊理緒と柊美緒と言います。  
 
ジムの中では理緒が楽しそうに体を動かしている。  
「待ちに待った美緒との再対決……! う〜ん、燃えるなぁ〜!」  
ピンクのレオタードタイプのプロレス用コスチュームに身を包んだ理緒が大きく伸びをする。  
私はその様子を見て困った表情を浮かべ、ジムの全身鏡に映っている自分の姿を見て、大きく  
溜め息をついた。はっきりと、内心を吐露するような溜め息を。  
 
「なぁに、美緒。そのあからさまな溜め息は」  
理緒が拗ねる真似をしながら悪戯っぽく笑いかける。あまり男の子っぽくない、可愛らしい  
ショートヘアが揺れる。  
その小悪魔の様に可愛い笑顔を私はジト目で見つめた。もう隠すつもりもなかった。  
 
本心はこの対決に乗り気ではない。私はプロレスラーじゃなく格闘家なのだから――と、鏡に  
映る自分の姿を見ながら思った。白のセパレートタイプのレオタードと同色のリングシューズ。  
……どこからどう見てもプロレスのリングコスチュームです。はい……。  
通常よりちょっとだけエッチっぽい衣装だけど、これは理緒の所属する団体の主旨が反映されて  
いる。強く、華麗に、女らしく――男の真似事ではない、女性らしい強さと美しさを前面に  
出したプロレス――それが理緒の所属団体のモットーだった。  
 
この試合形式も、このコスチュームも理緒の指示によるものだ。乗り気ではないとは言え、  
私にはこの形式で理緒と対決する義務があった。先日、ある『賭け』に負けたからだ。  
(あれって、絶対理緒にはめられたよぉ……)  
私はどうしても納得できなかったが、この対決をする事自体はそんなに拒否する気持ちは  
無かった。むしろ、進んでする理由もあったのだが――それはまた後で話そうと思う。  
 
(せめてこの髪だけでも結びたいなぁ……)  
そう思ったが、理緒の指示でそれは却下された。この黒髪が乱れる所を見たいらしいのだ。  
鏡を見ながらガックリと肩を落とす私を背後から包み込むように理緒が抱きついてきた。  
「とっても似合ってるよ、美緒。この姿をうちの社長に見せたらすぐさま契約書を持ってくるん  
じゃない?」  
理緒は耳元で囁くように言う。熱い息をうなじに吹きかけられ、私は背筋がゾクッと震えた。  
理緒はそんな私の様子を逃さずに見つめている……。  
 
「だ、だから着ないの。私はプロレスラーになるつもりはないもん……」  
今日は理緒に迫られて着せられたのだ。私はやはり馴染んだ格闘技用のストレッチ素材のタンク  
トップとショートスパッツの方がいい。少し厚手で色気には欠けるだろうけど、ちゃんと身を  
包んでくれる安心感がある。だけど、この理緒が用意したレオタードは生地も薄いし、露出度も  
高くて何もつけていないような不安感に襲われる。多分、プロレスの衣装全部がこんなのでは  
無いだろう。理緒が自分の持っているコスチューム群からわざわざ選んだのだ。こういうエッチ  
っぽいのを。理緒自身もそれに近いものを着ていた。  
理緒が着れる物は私も着れる。こういう時、一卵性双生児であることが怨めしい。  
 
それにしても……人の姿が他にないとは言え、やっぱり意識してしまう。  
(特に……下の所が――)  
意識するとつい、レオタードの股間の部分を守りたくなってしまう。  
何となく、スースーした感じが馴染めない。風の強い日に街中でミニスカートを穿いて歩く、  
無防備で心もとない不安感――。  
格闘技用のスパッツと違って生地が薄いだけでなく、股の所が切れ上がっていて、取っ組み合いを  
した時にズレたりしないか不安になる。  
 
それに……。  
理緒と対決する時には、『下』の方にはもう一つ不安がある。かなり大きな不安が。  
私は前回『弄ばれた』経験を思い出し、理緒に確認しておきたい事があった。  
 
「ねぇ、理緒――」  
「なぁに?」  
「あの……。プロレスルールで闘うのはいいけど……反則はちゃんと取るよね?」  
理緒は私のうなじに息を吹きかけて私が身悶えするのを楽しんでいたが、私がその質問をすると  
キュッと抱きついてきた。背中に理緒の柔らかいおっぱいが押し付けられる感覚に私は思わず  
声を上げそうになった。  
 
「うん。反則は取るよ。目潰し・噛みつき・チョーク攻撃・凶器攻撃――あと指を一本だけ  
握って捻るのも反則だね」  
一つ足りない。忘れているのか、或いは意図的にか――。私が一番聞きたい事を言ってくれない。  
「その……きゅ……。きゅ、急所攻撃……は?」  
思わずどもりながらも、意を決して聞くと、理緒は『あ、忘れてた』と言うように目を見開く。  
「勿論反則だよ。女の子だってアソコ蹴られると痛いもん。当然だよね――美緒も経験あるから  
分かるでしょ?」  
「そ、そうだよね! ……え? 蹴られた事? ……う、うん……ある……けど……」  
 
急所攻撃が反則と聞き、思わずホッと安堵の息をついた後、理緒の質問に答えた。ちょっと  
恥かしかったけど、本当の事だから何の気なしに普通に。  
 
しかし、理緒は――。  
 
「へぇ……。美緒、アソコを蹴られた事、あるんだ――」  
一言一言を噛み締めるように区切りながら、ギュッと背中から抱きついたまま、理緒は私の顔を  
覗き込んだ。その表情に私は寒気に似たものを覚える。戦慄――に近いかもしれない。  
理緒の瞳は興味津々で私を見つめている。その答に食い下がるような理緒の興味の向け方は、  
私を当惑させた。……けど、一方で何となくそうなる予感もしていた――。  
 
「それって、試合で蹴られたの? どんな感じだった? ……アソコ押さえてのた打ち回って  
悶えたり苦しんだりとか……した?」  
返答に困る私を追及するように幾つもの質問を浴びせながら、蛇の様なねっとりとしたタチの  
悪い期待に溢れた表情で私の返事を待っている。もちろん、答えるまで視線を離さないだろう。  
 
「う、うん……。試合で……。相手の人の蹴りと私の蹴りが交差して……内側に入った相手の  
蹴りが……あ、当たったの……」  
「そう……カウンターで当たったんだ……痛かったよね、きっと……」  
理緒は私を抱きしめたまま物思いに耽る――まるで、私の言葉の一つ一つを吟味するように。  
「それで? その後どうなったの?」  
恥かしそうにやっと答えた私に、更に続けざまに次の質問を畳み込んでくる。  
いつもの明るい理緒とは全然違う執拗な追求に私は辟易する。理緒の視線がねっとりと絡みつく  
――そんな気がした。  
 
「その……まともに当たっちゃって……あんまり覚えてないの。蹴られた瞬間に頭が真っ白に  
なって……あんまり痛かったからアソコを押さえてその場に崩れたんだけど、次に気がついた時は  
リング上で介抱されてたから……」  
「そんなに痛かったんだ――アソコは両手で押さえたの? それとも、片手で?」  
「そ……そんな細かい事まで覚えてないよ……」  
私は検察官の様に細部まで状況説明を求める理緒から思わず体を引こうとした。  
それを知って理緒はどうするつもりなのか――? 流石に聞く気にはなれなかった……。  
 
「それで? その後試合は出来たの?」  
「うん……レフェリーが3分休憩くれたから。痛かったけど、なんとか……」  
「ちゃんとキックとか出来た?」  
「……少し鈍くなった。蹴ろうとして下半身に力入れると痛むんだもん……」  
「手当てはどうしたの? お医者さんには行ったの?」  
「う……行ってない。自分で手当てしたけど大丈夫だったし……恥かしい所だったし……」  
「ダメだよ」  
理緒が突然口調を改めたので俯きながら答えてた私も頭を上げる。理緒は真剣な眼差しで  
私を見つめていた。  
「女の子だって股間は鍛えられない急所なんだよ? そこを強打したんだからちゃんと誰かに  
見てもらわなきゃダメ――怪我してたら大変でしょ?」  
「う……うん……」  
強い口調で言う理緒の迫力に私は押され気味になった。あれ? でも……。誰かに……と言う  
のはもしや――。  
 
「お医者さんに見せるのが恥かしかったら私に見せなさい。自分じゃ見れない所なんだからね?」  
やっぱり。そう来ると思った。私は今度は態度には見せず、内心で溜め息をつく。  
「……ま、いいか。今日の対決でもし急所を打ったら私にちゃんと言わなきゃダメだからね。  
あ、言わなくてもわかるか。目の前にいるんだし――クスクスクス……」  
 
え……?  
私は理緒の言葉に目をパチクリさせた。理緒は楽しそうに忍び笑いしている。  
 
「り、理緒……」  
「なぁに、美緒ちゃん♪」  
「うっ……」  
理緒が私の事を「ちゃん」づけで呼ぶ時――それはいつも良くない事を企んでいる証拠だった。  
子供の時からこの小悪魔的な笑顔に私はいつも悩まされてきた。  
「今日の対決で打ったらって……急所攻撃は反則だってさっき――」  
「うん。反則だよ。でも――」  
理緒が私から視線を逸らす。何か嫌な予感が――。  
「プロレスって5秒以内の反則は認められるんだよね――知ってた?」  
理緒がにんまりと笑いかける。ここぞとばかりの会心の笑顔だ。  
 
やっぱり――。ガックリと私は肩を落とす。そんな事だろうと思っていた。  
私はプロレスに対して納得のいかない事が一杯あるが、この『5秒ルール』はその最たる物だ。  
チョーク攻撃など長くやられたら危険な反則ならルールとしてありだと思うが、急所攻撃などの  
反則打撃の場合、インパクトした瞬間が一番重要で5秒後の規制などに何の意味もない。  
私は子供の頃、理緒が床に落としたキャンディを素早く拾って「3秒ルールだからセーフ♪」  
と言って口に放り込んでいたのを思い出した。着地した瞬間に雑菌がついたキャンディを舐めて  
お腹を壊すのは理緒の勝手だが、急所攻撃を受けて苦しむのは対戦相手の私なのだ。  
 
(それでもショービジネスに徹するとかなら、まだ納得がいくけど――)  
元々急所攻撃は、強いベビーフェイスと対戦した時に弱いヒールが起死回生の逆転技として使う  
もののはずであった。だから一試合の中で使う数はそう多くないはずだ。  
(だけど――)  
私は理緒を怨めしげな目でじ〜っと見つめた。理緒のあの表情はきっと意地悪な事を私にする  
つもりに違いなかった。おそらく悪意を持って『5秒ルール』をフル活用し、とりわけ必要が  
ない時でもエッチな急所を狙ってくるだろう。  
そして私はそれを防ぐ事が出来ない。1,2回ならともかく、試合中ずっと股間を意識して  
闘うのは不可能だから――双子で能力が同じであっても、相手は本職のプロレスラーとして  
修練を積んでいるし、総合格闘が本職の私の付け焼刃のプロレス技など、隙を突いて急所攻撃を  
食らわせるなど、楽勝で出来てしまうだろう。  
 
だが、理緒の悪企みはこれだけではなかった。  
 
「あ、そうそう。先に言っておくけど、この対決はエッチ技ありだからね♪」  
「う……」  
やっぱり、そうなの――? 私は怨めしげな目のまま理緒に問いかけるように見つめる。  
理緒は私の表情を理解したらしく、笑顔でコクリと頷いた。  
こういう時ばかり、そんなステキな笑顔を返されても――。  
 
前回の私は理緒に技を極められながら散々に体中を弄ばれた。スリーパーホールドで首筋に  
熱い息を吹きかけられたり、コブラツイストで胸を揉んだりされるのは当たり前。背後から  
乳首をつままれたり、油断している時に『カンチョー』されたり、あらゆる性的な辱めを  
受けたのだ。あの屈辱は一生忘れられそうにない。  
 
中でも最悪なのが――『電気アンマ』だった。  
(電気アンマ――)  
その技名を思い浮かべただけで私は股間を守りたくなる。と、同時に体が熱くなるのも感じて  
しまった。思わず太股を捩り合わせ、おしっこをしたいかのようにもじもじしてしまう。  
理緒がその様子をじっと見つめているのにはすぐに気がついた。けど、一旦その電気アンマの  
経験を思い出してしまうと、もう体が言う事を聞かなくなるのだ。  
 
それは……最悪で最高の体験だった――。  
 
 
【2.『でんきあんま』初体験】  
 
 
前回の対決時――。  
 
私は理緒の誘いに乗り、プロレス対総合格闘で対決する事になった。今回と同じく深夜の誰も  
いないジムのリングを無断で借り切って?の対決だった。  
その時は今回と違い、コスチュームもお互いの用意するものを着用した。ルールもお互いの  
分野の共通ルールを用意し、比較的リアルファイトに近い物になった。  
その意味では娯楽性を廃した分、総合格闘の私の方が有利に思えた。  
 
「……ファイッ!」  
レフェリーの掛け声と共に試合が始まり、私たちは真っ向から組み合った。  
理緒はリアルファイトの経験が無いので不利かと思ったが、闘っていくうちに意外にその才能が  
ある事がわかってきた。まだ十代で経験が浅いとは言え、総合格闘のプロである私とほぼ互角に  
闘っていた。時折、エッチな攻撃を混ぜられたりしてごまかされはしたけれど――。  
 
「理緒、やるじゃない……!」  
対決中でも思わず笑顔になってしまう。私と理緒は生まれ持った才能は同じ。私の長所である  
俊敏さと運動神経の良さは理緒にも確実に備わっていた。だから当たり前といえば当たり前だが、  
彼女も総合格闘に向いている。  
こんな近くに絶好のライバルがいるなんて――私は思わず嬉しくなったのだ。  
 
「当然――! 私を舐めてちゃ足元掬われるよ、美緒ちゃん♪」  
今から考えてみれば――この時にちゃん付けで呼ばれた事に疑問を抱くべきだったかもしれない。  
理緒がそうする時、彼女はとんでもない悪戯を思いつくのだから――。  
「ねぇ、美緒……この試合、このまま決着をつけるのってつまんなくない?」  
リング外に落ちかけた仕切りなおしで、お互い中央で構えた時に、理緒が私に言った。  
「え……? そ、そうかな?」  
私は理緒とこのまま良い勝負が出来ればそれで良かった。勝ちたいけど、勝てなくてもこのまま  
続ければ内容が濃くて実りの多い試合になりそうだからだ。だけど、理緒は少し違うらしい。  
 
「この試合で勝った方が――次の試合のルールを決められる、ってのはどうかな?」  
理緒はプロレスの力比べをするように両手を突き出した状態で私に迫りながらそう言った。  
私は両手で受け止めながら、そのアイデアは悪くない、と思った。この時、既に理緒の術中に  
嵌っていると気がつかずに――。  
「いいよ、その条件受けた」  
私は両手に力を込めて押し込みながら条件を承諾する。  
「……本当に? 女に二言はないよね?」  
うっ……!? と呻いて下がりながら、理緒も懸命に堪える。  
「勿論。仮に負けてプロレス対決でもそれはそれで面白そうだし」  
「……その言葉、確かに聞いたからね……!」  
理緒はニヤリと笑うと急に両手の力を抜いた。姿勢もいきなり低くする。  
「きゃ……!? な、なにを……!?」  
精一杯の力を込めていた私はその対象が無くなり、勢い余ってつんのめるように理緒に覆い  
かぶさる形になった。  
 
「もらったよ、美緒!」  
理緒はその私の体に潜り込むと私が前のめりになった体勢を利用して肩と股間に手を通し、  
そのまま肩越しに投げ飛ばした。  
「きゃああ……!? ……あうんっ!!」  
ズダン! と見事に一回転して私はお尻からマットに落ちる。強烈な衝撃で一瞬、動きが  
止まった。その間に理緒は俊敏な動きで私の足元に回りこむ。  
「う……。あっ……」  
私は足を取られるのを警戒したが、叩きつけられた衝撃が残っていて、その攻防の主導権を握れ  
なかった。理緒は巧みに私の右足首を脇に抱え込むと自分もグランディングする。  
「だ、だめ……!」  
私はジタバタともがき、理緒の自由にさせまいとした。そのまま放って置くとヒールホールドや  
アキレス腱固めを極められる。そうなってはギブアップしか道は無い。  
 
だけど――理緒の狙いは私の予想外の『技』だった。  
 
「フフ……そう来ると思った♪」  
理緒は私が左足で蹴りを放ってくるのを予想したように、蹴り出した所を捕んで、私の両足を  
自分の両脇でがっちり捉える形になった。  
私はしまった、と思いながらもこの体勢から掛けられる技が想像できなかった。スタンド状態  
ならこのままステップオーバーして逆海老固めもあるだろうけど、グランド状態でこの体勢から  
派生する技が見当たらない。  
 
「な、何をする……つもり?」  
私は次の理緒の技を警戒しながら理緒に問いかけてみる。理緒は私の不安げな表情に満足した  
かの様ににっこりと微笑んだ。  
「何って……ウフフ、こうするんだよ〜♪」  
理緒はなんと自分の右足を私の股間に割りいれてきた。太股を通る時、内股に触れ、ビクン!  
と背筋に電流が流れた気がする。不意を突かれたので私は防御する事が出来ず、理緒の右足は  
私の股間にあてがわれた。  
「あ……」  
思わず、声が漏れてしまう。厚手のショートスパッツを穿いているとは言え、急所である股間  
に蹴り足があてがわれている状態なのだ。私の内心は不安で一杯になる。  
 
「こ、こんなの……きゅ、急所蹴りは反則だよ!? れ、レフェリー!?」  
私はレフェリーを見たが、どうやら彼は止めるつもりが無さそうだ。私達の方をじっと固唾を  
飲んで見つめているのだから、気がついていないはずが無い。  
(そ、そんなぁ〜〜!? 反則なのにぃ〜〜!!)  
私は慌てて理緒の足を掴んでやや遅い防御を試みた。手と足では足のほうが圧倒的に力が強い  
ので、理緒が思いっきり蹴りを入れてきたら防ぐのは無理だろう。私が出来るのは理緒がそう  
考えて実行に移した時に、ほんの僅かでも急所直撃を避けてダメージを軽減する事だけだ。  
かなり空しい抵抗になるだろうけど――。  
 
「急所蹴りかぁ……それも面白いかもね♪」  
理緒がにんまりと微笑む。それは新しい思いつきを得て悦に入った微笑だった。  
「えっ……?」  
それじゃあ、いったい何をするつもりだったのか――?  
「美緒が女の子の急所を蹴られて悶える姿――見てみたいかもね……」  
理緒は舌なめずりするような表情で私を見る。今から思えば、サディスティン特有の瞳の煌かせ  
方をしていたかもしれない。理緒の意図は分からなかったが戦慄を感じ、体が竦んだ。  
 
「だ、だめだよぉ……」  
猛烈な不安に襲われた私は懸命に対抗しようとした。両手は股間にあてがわれている右足を  
掴み、太股をキュッと内股にしてその間を無抵抗で抜けないようにした。  
ここまですれば、なんとか――急所蹴りを放たれた時も少しぐらいは痛くなくなるだろう――。  
淡い望みを託し、体の力を入れる。  
 
「でも――それはまた別の機会にしようかな。今日のルールでそれをやるとレフェリーに反則  
負けを宣告されちゃうかもしれないしね♪」  
『今日のルール』と言う言い様が気になったが、どうやら股間を蹴飛ばすのは諦めてくれた  
らしい。相当ホッとした私だが、、理緒の言葉に私は再び当惑させられる。  
急所蹴りと違うならなんなのか。明らかに理緒の右足は攻撃姿勢になっている。どんな技にせよ、  
股間近辺を狙っているのは間違いなかった。  
 
それに、この対決のレフェリーははっきり言って頼りない。私が股間を狙われそうになって  
いるのに、理緒を止めようとせずオロオロしているだけ――でも、私にはこの人を非難する気は  
全くおきないのだけど……。  
 
「美緒は……『でんきあんま』――って、知ってる?」  
 
私がレフェリーに考えを寄せている時、不意に理緒の声がした。  
それは、いやにクリアな声質で理緒の話が聞こえた――様な気がした。  
「でんき……あんま……?」  
電気と言うのは勿論あの電気だろう。テレビや冷蔵庫、電子レンジなどで使われる電気だ。  
そしてアンマは、マッサージの事だろうか? その意味を知っている現在、私はこの脳天気な  
想像をしている当時の自分を思わず恨んだ。分かっていれば逃げようもあったかもしれない  
からだ。  
 
「それって……なに?」  
「やっぱり知らないか。知ってたらもっと不安そうな顔するはずだもんね」  
十分に不安そうな表情をしている――様に自分には思えるのだけど、もし理緒の言うとおり  
だったら……私はこれまで経験した事の無いような拷問技を受けるのだろうか?  
「拷問技とは違うかもね〜。まあ、使い方によっては十分拷問になるだろうけど♪」  
私の思考を表情から読み取ったように、悪戯っぽい笑顔を返してくる。理緒のこの台詞からは  
激痛を伴う技ではないが、なにかしら私に大きな影響を及ぼす技である事が想像できた。  
 
「百聞は一見に如かず――美緒も一回体験してみなよ。やみつきになっちゃうかもよ♪」  
そう言うと理緒は右足をもぞもぞと動かしてきた。  
「…………! な、何を……うっ……! ……ぅあん?」  
リングシューズを履いた右足が厚手のスパッツを通して股間に感じられるぐらいに、理緒は  
踏む力を込めてくる。そのくすぐったい刺激に私の体はビクン!と反応した。  
「もうちょっと力を入れようかな……? そぉれ、グリグリグリグリ……♪」  
「だ、だめ……そんなの……うっ……! あうぅう……!」  
理緒がアソコを踏みにじるように電気アンマする右足を左右に動かした。股間をスパッツの  
生地で捻るように擦られる刺激に、私は途切れ途切れに息を詰まらせたような呻き声をあげる。  
(な、なんだか……くすぐったい……)  
股間の辺りがもぞもぞする感じ――。くすぐったい、と一瞬思ったがそれだけではなく、何か  
切なく、もどかしい感覚が腰の辺りから脊髄を通して私の脳を刺激した。  
 
(さっきまでの……エッチ技とも……少し違う……)  
この対決の序盤で理緒が悪戯っぽく仕掛けてきたオッパイ責めやお尻責めとも違う、不思議な  
感覚――。  
最初はそれが何か、分からなかった。ただ、腰の辺りから背筋を駆け上るゾクゾクした震えと  
何かがお腹の下の方から湧いて来る感覚は覚えがあった。  
(もしかして……おしっこしたくなる感覚……?)  
その時はそんなばかな、と自分の考えを一蹴しかけたが、全く同じでないにせよ、責められて  
いる股間を中心にじわっと溢れてくるむず痒い刺激がお腹の下の方を刺激するたびに、尿意に  
似たものを自覚してしまうのは否めなかった。  
 
「フフフフフ……」  
理緒の忍び笑いが聞こえる。いつしか彼女のお喋りも止まっていた。私の股間を足の裏で刺激  
するのに集中している。その表情はサディスティックな興奮に紅潮していた。瞳も興奮で潤ん  
でいる。不思議な事に責められている私だけでなく、責めている理緒も同じように何かを  
耐えている様子だった。  
レフェリーもじっと動かず私たちを凝視するばかり。彼ももう、うろたえておらず、私が悶えて  
いる姿から目を離せないようだった。  
理緒は許してくれず、レフェリーも止めてくれない。私がこのもどかしい状態から解放される  
事はしばらくなさそうだった。  
 
「うっ……うっ……。ああっ……んっ……!」  
理緒の足の動きが段々と早く、リズミカルになっていく。理緒の足で股間を強く押されたり、  
或いは縦に何度も往復して擦られるようにされると、さっきまでむず痒かった感覚が一気に  
溢れてくる。そしてそれはもうむず痒い感覚ではなかった。  
(なんだか……蕩けてきそうな……気持ち……)  
アソコを押し込むように踏まれたり、擦られたりするたびに、何か熱いものが体の奥から溢れて  
くる。そしてそれは感覚だけでなく――。  
 
(…………! 私……濡れちゃってる?)  
理緒に責め続けられている股間の割れ目から、熱い蜜がとろりと溢れてくるのを感じていた。  
おしっこではない。それよりももっと熱くねっとりとしたもの――。  
(やだ……ばれちゃう……かも……)  
不意にその熱い蜜の甘い匂いを嗅ぎ、私は内心焦った。その匂いを理緒やレフェリーが嗅ぎ  
つけたら――私はエッチな女の子だって思われてしまう。  
しかし、匂いはごまかしようが無かった。止めようとしても蜜は内側からいくらでも溢れて  
くるのだ。私が……理緒の『でんきあんま』に感じている限り……。  
 
「いい感じになってきた、美緒?」  
理緒の声が聞こえ、私はハッと我に帰る。理緒の声も興奮で上ずっていた。  
彼女も私をいじめて楽しんでいるのだ。  
「も、もうやめて理緒……こんなの……反則だよぉ……」  
「反則? そうかな……? 祐一は止めてないよ?」  
「祐一……さん……」  
『祐一さん』と言うのはこの対決のレフェリーを務めている人だった。男の人にこんな姿を  
見られるなんて……しかも祐一さんに……私は電気アンマ責めで蕩けそうな状態だったが、  
それでも羞恥心で一杯になった。  
 
「それに、今止めちゃったら……美緒の方が大変なんじゃないかなぁ?」  
くすくすくすくす――理緒の忍び笑いが脳裏に響き渡るように聞こえる。  
「こんなにクチュクチュ……って。恥かしい音がここまで聞こえるよ、美緒ちゃん♪」  
理緒の指摘に私はボン!と頭から湯煙を上げそうになった。そう……匂いだけでなく……  
音は明確に私の体の状態をこの場にいる人に伝えているのだ――つまり、理緒だけでなく、  
祐一さんにも――。  
(もう……恥かしいよぉ……!)  
私はいたたまれない気持ちになって顔を覆いながら、チラッと祐一さんの顔を覗き見する。  
祐一さんはもう私の股間に視線が釘付けだった。そして、その下に目を移すと――。  
(やだ……もう……)  
祐一さんの穿いているレスラーパンツには大きなテントが立っていた。それは時折脈打つように  
蠢き、プルプルと震えている。私が悶えて足を内股にしたり、背筋を仰け反らせたり、堪えきれず  
小さな悲鳴を上げたりした時に、脈の打ち方が激しくなるようだ。  
(えっちなんだから……)  
そう思いながら、私は何故か悪い気はしなかった。祐一さんにじっと見られてる――そう思う  
だけで、また体の奥が熱くなり、じゅん……と蜜があふれ出す。  
 
「こういうのどうかな……そ〜れ、うりうりうりうり〜〜♪」  
「……ひゃぁう!? な……だ、だめ…………ああぁん!!」  
グリグリグリグリ……私が祐一さんの反応に思いを馳せていると、理緒が責め方を変えてきた。  
さっきの様に表面的な柔らかい責めだけでなく、今度は内部に振動を送るような力強い責めを  
加えてきたのだ。厚手のスパッツがそれを受け止めて痛すぎない振動に変えてくるので、私は  
悶え狂ってしまう。  
 
「うぁあ……! ふわっ……ああぁああッ……はぁああん!!」  
私は長い髪を振り乱し、両手をマットに押し付けるようにして悶えた。そうしないと耐えられない  
のだ。本当は何かを掴んでいたかったが、この姿勢でそれが出来るものが無かった。  
自制心は半ば飛んで、涎が滴り落ち、全身は汗だくになって震える――おそらく理緒の思惑通り、  
私はのた打ち回らされていた。  
上半身はどんなに動こうとも下半身ががっちり固められてまるで動けないのも辛かった。  
太股は耐え切れなくなったようにぷるぷると震え、お尻はマットを擦るように押し付けて何度も  
背筋を仰け反らせる――今や私の体は理緒の電気アンマに耐えるだけに全ての力を振り搾らされ  
ていた。  
 
「美緒、このまま逝っちゃうとこの試合、負けだよ? それでもいいの?」  
えっ……!? 理緒の言葉に一瞬、私は我に帰る。  
「そ、そんなの……ずるい……うぅぅ! うッ……アッ……! はぁあああぁん……!!」  
私は悶え続けながらも懸命に答える。「負け」と言われて思わず拒否したが、この試合、負け  
たらどうなるんだっけ……? 電気アンマで頭が蕩けている私にはそれを考える余裕は無かった。  
「だって、リアルバウトじゃ失神は負けなんでしょ? それって必ずしもKOとか締め落とす  
だけじゃないはずだよ?」  
確かにそんな規定はない。だけど、格闘技の世界で電気アンマで戦闘不能の状況なんて誰が  
想定するだろう? ――と思ってる私本人が今にも電気アンマで落とされそうなのだが。  
 
「クスクス……。ねぇ、美緒。早く逝っちゃわないとリングが大変かもね?」  
理緒が茶化す通り、リングの中央は私のお尻を中心に洪水となっていた。甘い匂いがリング上を  
満たし、レフェリーの祐一さんは陶然とした表情になっている。勿論、凄く恥かしかったが、  
私はそれどころですらなかった。体力が限界に近づいてきたのだ。  
理緒のほうは余裕で振動を送ってくる。この電気アンマと言う技は掛ける側と掛けられる側で  
大きく力の使い方が違う事が分かった。電気アンマするほうはほんの少し力の配分を変える  
だけでされる方に大きな影響を与えられる。される方はする方が止めてくれるまで全身の力を  
振り絞って耐えなければならない。自分の意志に関係なく、無理矢理そうさせられるのだ。  
 
(スタミナが完全に切れてのた打ち回る力すらなくなった時、私はどうなるのだろう――)  
その時に理緒が電気アンマを許してくれるとは限らない。いや、むしろ、今も十分にスタミナが  
あり、そしてサディスティックな欲望で瞳を潤ませている理緒ならこのまま続ける可能性の方が  
高いかもしれない。なんとなくだが、電気アンマと言うのはそういう技なのだ、と頭で思った。  
エッチ技でも、攻撃技でも、その中間でもない――むしろそれらが濃く混ざり合ったような  
特殊な技――。何の予備知識も無かった私には、この対決中に対策する術が見つかるはずが  
無かった。  
 
「本当はもっと悶えさせてあげたいけど――今日は勝つことが重要だから、このぐらいにして  
おいてあげるよ――いくよ〜〜!!」  
そう言うと理緒は私の股間にあてがっている足に力を入れるかなり激しい振動で、もしこれを  
普通の状態で食らっていたら殆ど急所攻撃であっただろう強さ――。  
 
ダダダッ……ダダダダダダッ…………ダダダダダダダダダッ……ダダダダダダダダダダッ!!  
 
力強い振動が理緒の踵から私の股間の割れ目に食い込まんばかりに放たれる。  
でも、今の熱い蜜に濡れそぼった私には極上の責め方になっていた。  
「うぁ……あっ……! あああぁ……ああああぁああああぁッ!! ああああ……!!」  
私は最後の力を振り絞って全身で懸命に悶える。太股は痙攣したようにブルブル震え、お尻は  
何度もマットを跳ね上がった。背筋は何度も反り返り、髪は大きくマットに広がっている。  
 
(勝つことが重要って……なんだろう……?)  
激しく悶える脳裏の奥底で私はその事を一瞬考えた。だけど、それは何の事か分からなかった。  
そもそも勝利条件がなんだったか、蕩けた頭脳で思い出すのは不可能だった。  
 
「はぁ……あああッ! 理緒……! 理緒ぉ〜〜!! と……飛んじゃうよぉ〜〜!!」  
私は祐一さんの存在も忘れ、目の前の私を責めている理緒の事だけで頭を満たしていた。  
「美緒……! 私の可愛い美緒……!! いいよ……いっちゃいなさい……昇りつめて……  
飛んじゃいなさい……!」  
理緒も渾身の力を込めて電気アンマしてきた。既に限界を超えていた私はそれに耐える事は  
出来なかった。  
「理緒……! 理緒……! 理緒ぉ〜〜!!! ああああぁ……はぁああああぁあああッ!!!」  
 
プシャァァァアァァッアァァァッァ……!!!  
 
私は自分の泉から蜜を迸らせると、大きく弓反りに仰け反ってガクガクと大きく痙攣し、  
やがて力尽きて果てるように、蜜の海にお尻を落とした。  
そこからの記憶は無い。完全に目の前が真っ白になって真っ黒になって急降下するような  
感覚の後、意識がなくなったのだ。  
 
 
          *          *          *  
 
 
後で祐一さんに聞いた話だけれど――。  
その時の理緒は蜜の海に横たわる私を抱き起こし、熱いキスをしたそうだ。  
そしてこうも言ったらしい。  
 
「次はこの程度じゃ済ませてあげないよ、美緒――私の決めたルールで私の思うとおりにいじめて、  
嬲って、いたぶってあげる。何度も何度も……執拗に、陰湿に――。それがこの対決の勝者の  
権利なんだから――」  
 
その話を聞いて私は思い出した。試合中に私と理緒は賭けをしたのだ。  
『この対決に勝った方が次の対決のルールを決めることが出来る』  
約束を交わした時は単にプロレス寄りか総合格闘寄りかの権利を獲得できるものだと思っていた。  
だが、良く良く考えてみると違うのだ。  
(あれは……私たち二人の間だけの約束なんだから――)  
理緒が勝てば、理緒の好きにルールを変えられる――そこにはプロレスも総合格闘もなかった。  
理緒が望めばどんなエッチで理不尽なルールでも設定可能なのだ。  
 
そして、その対決が今から始まる試合――。  
理緒は急所攻撃――股間攻撃を狙っている事を隠さなかった。勿論、電気アンマもすると言った。  
私の衣装はプロレス用の、その中でもセクシーなものに代えられてしまった。セパレートタイプ  
なのは脱がせやすいからかもしれない。  
 
私にエッチな責め方で急所狙いのプロレスをする――それが今の理緒の目的に他ならなかった。  
 
 

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