Happy Valentine
「はい」
俺の目の前に可愛い包装に包まれた箱が差し出される。
「おっ?そーいえば今日バレンタインデーか。ありがと」
箱を突き出した真琴は恥ずかしそうに、
「ふ、ふん。勘違いしないでよね。幼馴染みの義理であげるんだから、駅前の店でいっぱい売ってたやつなんだから、深い意味なんてないんだからね!」
と言って顔をぷいっと背けてしまった。
「まあとにかくサンキュー」
受け取って、包装に手をかける。
「食っていいんだよな」
「す、好きにすれば」
丁寧に包装を剥がし箱を開ける。綺麗なデコレーションが施されたハート型のチョコ。中央にはLOVEの文字と俺の名前が筆記体で書かれている。最近の店はサービスがいいな。
「じゃあ食うぞ」
パキッ!ポリ、ポリ………
「うん!うまい」
俺の感想を聞くと、真琴は幼い頃から全く変わらない無邪気な笑顔を見せた。この笑顔を見せられると俺はいつも弱い。なんつーかもうたまらなくなる。
「本当においしい?」
「ああ……ほら」
チョコをひとかけら噛り、俺は真琴にキスをした。ひさしぶりだなこの柔らかい感触。
「!!」
驚く真琴の唇を舌でこじ開け口移しでチョコを渡した。
「ほらおいしいだろ?」
「なっ!な、なん、なんてことすんのよ!」
顔を耳まで真っ赤にして怒鳴る真琴。
「そんな怒るなよ、初めてじゃあるまいし……チョコうまいだろ」
「チ、チョコはおいしいけど……」
「んっ?そういえば味見しなかったのか?」
「だって固まったのが登校する寸前だったから……あっ!」
自分の失策に気付き再び顔を真っ赤に染める真琴。
「ははっ。やっぱり手づくりだったな。これ本命なんだろ?」
十五年も付き合っていて、真琴の気持ちに気付かないほど俺は鈍感じゃないさ。
「ち、違うわよ!私はただ、その、あの」
「なんだ真琴は俺のことなんとも想ってないのか?」
「いや、違っ、そんなんじゃなくて、それは……」
俯いてもじもじとした様子がものすごく可愛い。
「俺は大好きだけどな」
「えっ!」
「俺は真琴のこと大好きだよ」
「…………」
「俺は真琴のこと大好きだよ」
「……二回も言わなくてもいいわよ」
「真琴が答えてくれるまで何回でも言うよ。俺は真琴の……」
俺の三度目の告白を聞く前に真琴は俺に抱き着いてきた。チョコの匂いより甘い、いい香りがした。
「好きだよ、私も直也こと大好き!」
気持ちを確認しあった俺達は再び唇を重ねる。こうして俺達は甘い、甘い、チョコより甘いキスの味を暫くの間味わった。
バレンタインデー。その日俺達は幼馴染みから恋人になった。