「不公平だ・・・。」  
「そんなこと言われてもね・・・。」  
俺―達也と香澄は同時にため息をつく。  
原因の物は目の前の机の上を占領していた。  
「なんで女のお前がこんなにもらえて俺には一個もこないんだー!」  
「私に言わないでよ・・・。」  
心底迷惑そうに香澄がため息をつく。  
目の前に山積みにされたチョコ―これらは全て香澄宛のものなのだ。  
嫌なら断れば良いのに・・・。  
まあ昔から頼まれるとNOとはいえない性格だったけど。  
昔はいじめられっ子だったはずの彼女だが今ではスポーツ万能  
(勉強は全然駄目だが)で男女ともにモテモテなカッコイイ女になるとは・・・。  
「お父さんは嬉しいぞ・・・。」  
「誰がお父さんよ。」  
鳴き真似を始めた俺に少々不機嫌なツッコミを返す香澄。  
・・・相当イラついてるな・・・。  
火に油注いだのは俺だが。  
「それはそうと達也。これいくつか食べてくれない?」  
と、香澄は顎で目の前のチョコの山を指す。  
行儀悪い、と思ったが口には出さないでおく。  
香澄、怒ると恐いし。  
「じゃあ半分もらうな。」  
「いや、そんなにもらわなくても良いんだけど・・・。」  
「じゃあこれだけでももらってくぞ。」  
そう言って俺は綺麗に包装された包みをチョコ山の中から取り出した。  
 
「あ・・・。」  
「これ、お前の手作りだろ?」  
香澄は悪戯っぽく手にしたチョコを掲げる俺に驚きの表情を向けた。  
「なんで分かったの?」  
「これだけ店でやってもらったようなぴっちりした包装じゃないし。  
それにこの可愛らしいリボン、お前が毎年チョコに付けてる奴だしな。」  
言って俺は包みの―クマさんの顔が結び目についてある―リボンを  
指で軽くはじく。  
「・・・悪かったわね・・・。」  
香澄は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。  
むう。その仕草がなかなか可愛い。  
とりあえずは機嫌を直すために彼女の頭を撫でてやる。  
「・・・!?」  
「そう怒るなって。そういうとこが可愛いって言ってるだけだ。」  
言いながら俺は彼女の顔を覗き込む。  
そこにはほのかに顔を赤くしつつ幸せそうな香澄の顔があった。  
どうやら機嫌は直ったようだ。  
彼女が不機嫌になったときは俺が頭を撫でてやるといつでもこの表情になるのだ。  
・・・相変わらずいい顔だ。ガキの頃からこの表情は変わらないな・・・。  
そんなことを思ってると流石に恥ずかしいのか香澄が自分を撫でる手をゆっくりと退かせた。  
せっかく香澄のニヤケ顔を堪能してたのに・・・。  
俺のそんな心の内を知ってか知らずか香澄は俺にビシリと指を突きつけていった。  
「ちゃんと味わって食べてよ?」  
「言われるまでもない。毎年の楽しみだしな。」  
苦笑して答える俺。  
そんな俺に香澄は少し照れたような笑顔を向けるのだった。  
 

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