ブシュッ・・・ザシュッ 
 
「グォォォオオオ」 
「無様ね・・・それでも、この世界で最も強いと言われてる種族の端くれ?」 
 
トカゲを大きくして、コウモリの翼を背負ったような生き物・・・ドラゴンである。 
それも、野生のそれではなく、人間達が自分たちの兵器として利用するために鎧を着けさせた上、 
ブレスや魔法に長け、気性が大人しい種族を掛け合わせた竜騎兵用のドラゴン。 
 
普通なら、こんな若い魔法使い一人に到底倒せた生き物ではないそれが、無残にも一方的に肉塊に変えらていた。 
肉が霧のごとく四散し、血が飛び散る中にその少女は冷たい笑顔で佇んでいた。 
 
「・・・・・・やっぱり、トカゲの血は荒々しくて美味しくないわ。 
 けれど、断末魔の悲鳴は、きっと万物の長たるものを聞かせてもらえるわよね」 
 
ピピッ 
 
彼女がそう言って、小剣を横に払った瞬間だった。 
切っ先が触れてはいない間合いにあったドラゴンの首に、血の色をした細い線が現れる。 
 
「ゴフッ」 
 
ドラゴンの持つ竜特有の鋭い犬歯の隙間から一斉に噴出す赤黒い血。 
 
ブシャ・・・・・・ビクンッビクンッ 
 
剃刀のような鋭い切り口をさらけ出した首が地面に落ちて、 
思考と生命維持を司る部位を失った肉体が、それがあった場所から噴水のように血を吹き上げ、 
行動を統括できなくなった全身の筋肉がてんでバラバラに痙攣をはじめる。 
 
「もっと咆哮のような悲鳴聞かせてくれると思っていたのに 
 遊びすぎちゃったかしら…」 
 
 
「ただいま・・・いい子で待ってた?レオン」 
「"食事"終わったのか?」 
「うん、終わったわ」 
「相変わらず、難儀な体だな・・・」 
 
普通のニュアンスの食事とは、明らかに意味が違うその言葉。 
何がそうさせるかといえば忌々しい、この体である。 
魂や精気を外から吸って補充せねば生きていけない、生きる屍とも言っても差し支えないもの。 
"一方通行な世界と世界のつながりを捻じ曲げた大呪"へ支払った代償だとは思っていても、時々胸が苦しくなる。 
 
これでは、迷宮に巣食うグールやスケルトンと変わらない体と思ったときも何度かある。 
だがそれには限りなく近いが遠い存在である今の自分の体。 
 
今は私がいないとダメ男になると思っているからレオンと一緒にいるが、最初はその活気溢れる目に引かれていた。 
そういう人物といると、自然とそういったモノが体に流れ込んできて、わざわざ狩って食べる必要はない。 
勿論、普通の食事が美味しいのも、私がレオンの屋敷に留まった理由ではあるのだけれど。 
 
「風邪か?震えてるけど」 
「・・・・・・発作、ただの・・・」 
 
時々、何が怖いのかわからないくらい、様々なことが怖くなって震えが止まらなくなる。 
 
できるだけ人前では見せないように、気を使って来たつもりだったけど、それがレオンにはあっさり見つかってしまった。 
それがきっかけで、やっと甘えられるようになった。 
あの日、レオンが見つけてくれなかったら、ずっと一人でいたと思うとぞっとする。 
 
ポスッ 
 
「・・・胸、貸して・・・」 
 
胸に飛び込んでから承諾を取ろうとする。 
断れない状況に追い込んでから聞くのは、末っ子だった私の悪い癖。 
 
 
「・・・・・・・・・」 
何か、暖かい言葉をかけてやらねばならない。 
それなのに、出る言葉は何もなく―――不器用過ぎる自分に、自己嫌悪してしまう。 
 
こんな自分との"絆"が欲しいと求めてきた、(当時は)可愛い子羊・・・。 
お互いあまり表に出さない、静かな想い。 
 
彼女の方に手をかけ、顔をこちらに向けさせる。 
唇が触れ合う程度の軽い口付け。 
それだけで彼女の体から伝わってくる震えが、そしてそれが随分収まったのが分る。 
抱きしめている腕で軽く背中を叩くと、自分に抱きついている彼女の腕に篭る力が強くなる。 
 
「なあ・・・不器用同士のカップルって、どう思う?」 
「・・・・・・どうしたの、急に・・・」 
「アヤメが、こうやっているのどう思ってるか不安になってさ」 
 
「・・・・・・不器用じゃないわよ、あなた。こうやって抱きしめてくれてるし。 
 それとも何?私が、料理もろくにできないし、寂しがりやの割に、 
 あまりあなたに甘えないから不器用だとでも言いたいわけ?」 
 
「いや・・・その・・・」 
「煮え切らない男には、粛清が必要ね・・・」 
「・・・・・・」 
「今夜付き合ってくれたら、許してあげる」 
「・・・・・・謀ったな」 
「なんとでも言いなさい、どうせ断れないんだから」 
 
ペチッ 
 
つま先立ちしたアヤメの手が、顔の前に来たかと思うと、目から軽く火花が散る。 
デコピンされたらしかった。 
 
ポスッ 
 
アヤメが身を投げたベッドが音を立てて、その肢体を受け止める。 
 
力強いなどという言葉とは、無縁なほどほっそりしている手足。 
帽子もなしに毎日歩いてるのに日焼け知らずの砂糖のように白い肌。 
煮え滾る溶岩のように強い意志を感じさせる紅い目とは対称的に、血の気の薄そうな薄い色の唇。 
 
いつも一緒にいても、何度体を重ねても、やはりいざこういう時になると意識してしまう。 
そして、胸が高鳴るのを感じながらも彼女の横に、腰を下ろす。 
 
すると、彼女は寄ってきて膝の上に乗っかるわけで・・・・・・猫族の自分より、よほど猫らしい。 
「・・・やっぱり、この姿勢が一番落ち着く」 
膝に柔らかい重みが走り、腕が引っ張られ、その腕の中からそんな声が聞こる。 
「こっちは、めいっぱいドキドキなんだが・・・」 
柔らかい肌の感触と、伝わってくる体温で心臓が飛び出そうだった。 
「そのうち慣れるわよ」 
鼻に触れるリンスの香りが、一層胸の高鳴りを速くする。 
「あ、あのさ・・・・・・」 
魔法の研究に夢中で恋愛なんかほったからしていた自分は、こういう場に余り慣れていない。 
毎度のことながら、何を話そうか迷ってしまう。 
 
「え・・・」 
唇に、暖かくてやわらかいものが触れる。 
 
「下手な言葉より・・・行動で示してくれたほうが・・・嬉しいわ」 
 
猫が、小悪魔に変わる瞬間だった。 
 
彼女が自分の服を脱ぐ音が部屋を支配した。 
ちょうど窓の外には月が昇っていて、月光に照らされるその綺麗な肢体は、 
同性さえも魅了する淫魔のような艶かしさを放っている。 
 
ずっと・・・ずっと・・・こうして・・・ 
 
「いくら月夜が長くても、いつか日は上る・・・」 
 
「・・・・・・あ、そ、その」 
 
考えを読まれているよう。小悪魔になった彼女はいつもそうだった。 
私の心なんて、彼女の前では隅から隅まで見通されている。 
 
「自分で脱ぐ?それとも脱がせてあげましょうか、御主人様」 
 
いつのまにか、私の背後に回った彼女が、息が掛かるほど耳元でそう囁く。 
 
「そ、それじゃあ、ぬ、脱がせてもらえるかな」 
 
甘い誘惑を受け入れる自分。 
断ったほうが威厳を保てたのでないかという思いが、意識の深いところを交錯している。 
反面、浅いところではこれから起こる快楽を心待ちにしていた。 
 
「かしこまりました、御主人様・・・フフフ」 
 
彼女の手が自分の肌着に伸びる。 
 
ちゅく・・・ちゅく・・・ 
 
早速シャツを捲り上げて、私の乳首を横から舐めたり、指先でこねくり回すアヤメ。 
 
「こういうの初めてだけど・・・気持ち良い?」 
 
彼女の爪が、食い込む。 
 
「くっ・・・とても、初めてとは思えない手つきだよ・・・本当にこういうの初めて?」 
 
甘い痛みに声を漏らしながら、彼女に聞き返す。 
 
「初めてよ、本当に・・・あなたとの逃避行に落ちる前は、プラトニックラブだったもの」 
 
ということは、少なくても自分は彼女にとって一人目ではない・・・のだろう。 
そう思うと、こんな旅に巻き込んでしまったというプレッシャーが、いくらか和らい気がした。 
 
乳首を攻められているうちに、段々とシャツは脱がされて、もう一息で完全に脱げるところまできていた。 
 
「あなたは私のもので、私はあなたのもの。これが今の唯一の真実・・・」 
 
首に彼女の爪が食い込んだと思うと、既に彼女の舌は私の口腔内を蹂躙していた。 
静かであまり動きは多くないのに、すべてが吸い尽くされるような・・・そんな彼女らしいキス。 
 
「・・・・・・ふ・・・ぅうぅ・・・」 
彼女の膝枕に持たれかかるようにして、後ろに倒れる。 
 
「クスクス・・・・・・そんなにキス、気持ちよかった?」 
「だってさ、あんなに積極的で大胆なキスしてくるとは思わないから・・・油断してたよ」 
「じゃ、今のうちにシャツ脱がせちゃうから、少し腕上げて」 
 
もしかすると、彼女にこんなに奉仕されるのは初めてかもしれない。 
 
一応断っておくと、館のメイドたちに奉仕されてた記憶はあるけど、こんな甘い奉仕の思い出はない。 
あくまで事務的に着替えの手伝いだったり、食事の世話だったり・・・夜の御奉仕は範囲外である。 
 
「次は・・・下ね・・・」 
 
彼女の声にふと我に返ると、上半身はすっかり裸で、後ろにいた彼女は私の前に移動していた。 
 
ガチャガチャ・・・・・・シュルシュル・・・ 
 
白い細い腕が、腰のあたりに伸びてきてベルトをはずす。 
 
「・・・ごく・・・・・・大きい・・・」 
「そ、そのこれは・・・」 
 
不慣れな状況もあってか、既にビンビンだった自分の股間のものは、 
抑えていたベルトを失ってはちきれそうなほど、彼女に対して自己主張していた。 
 
「と、とりあえずズボン下ろすわね・・・」 
「嗚呼・・・ごめ・・・あっ・・・」 
 
ズボンを足先に下ろすのと同時に、彼女は脚の線に沿って舌を這わせていた。 
 
「・・・こことかも・・・どうかなぁ・・・」 
「・・・うっ・・・指先は・・・ぐぅ・・・」 
 
ズボンを下ろし終え、足先を舐め始めのか、足の指に柔らかい舌の感覚が・・・。 
 
ちゅぱ・・・・・・れろれろ・・・・・・ぺろぺろ 
 
「も、もういいよ・・・じゅ、十分奉仕されたからさ、今度はアヤメの番だ」 
 
苦し紛れに出た言葉だが、本当に10年分ぐらい夜の奉仕をされた気がした。 
今まで、どちらかというと主従の主なのに奉仕していた分を差し引いても有り余るほど。 
 
「じゃ、そろそろ・・・揉んで大きくして」 
「どうせこの大きさじゃ揉んだってBの後半からCが良いとこなんだし、見栄張らなくても・・・」 
 
彼女が私の膝に乗ってきて、その胸を後ろからマッサージするように撫でる。 
やっと、いつもの私と彼女のパターンだ。 
胸の高鳴りも未知との遭遇な高鳴りから、いつもの営みをしているという安堵感を含んだそれへと変わる。 
 
「女の子にも、意地ってものがあるの・・・胸を大きくしたいのも、そのひと・・・あんっ」 
「やーっぱりアヤメは感じやすいんだね・・・無理しなくても良いよ、後は僕に任せてくれればいい」 
いつものように、胸全体を軽く撫でるように揉んだだけで声をあげるアヤメ。 
やっぱり変わらない、いつもの彼女だ。 
 
「優しく・・・してよ・・・」 
少し後ろに体を傾けて、私の瞳を見つめながら、彼女はそう言った。 
お互いの手を握る力が強くなった気がする。 
 
「それは君次第だな・・・もう、ここ濡れちゃってるみたいだし・・・」 
「やぁ・・・あっ・・・だめぇ、そこつねっちゃぁ・・・」 
 
下着の上から軽く引っ張ってみただけなのに、物凄く甘い声。 
 
「良いよ、もう頂戴・・・レオン。焦らしちゃ嫌っ」 
 
すっかり濡れている彼女の下着に手をかけてゆっくり下げていく。 
それが足先に来る頃には、お尻を伝って愛液が自分の足にも滴り落ちてきて・・・ 
「アヤメのエッチな汁、僕の足にも垂れてきたよ・・・」 
「やだぁ・・・そんなこと言わないでよ・・・余計に意識しちゃうじゃない」 
「ここ、すっかりほぐれてるみたいだね・・・」 
 
指を差し込むと響く、淫らな水音。 
 
「指は良いからぁ・・・頂戴よ、レオンの太いのぅ・・・」 
 
言葉使いまで随分淫らになってきたアヤメ。そろそろ耐えるのは精神的に限界なのだろう。 
 
「それじゃ入れ・・・」 
「んんっっ!」 
「あ、ちょっと!?」 
 
いきなり体重をかけられ、バランスを崩す自分。 
そして、股間の上に降りてくるアヤメ・・・強制的に騎乗位にされる。 
 
「うく・・・あ、アヤメ・・・」 
「気持ち良い、気持ち良いのぅ」 
 
プライドの高い彼女としては、自分から入れるなんて。 
しかもかなり恥かしかったはずなのにこの乱れっぷり。 
また彼女のまだ見ていない面を見た気がする。 
 
「もっと突いて、突いてよ、レオン」 
彼女の指示のままに腰を振る自分。やはり最後には勝てない。 
 
「うううっ・・・もう限界・・・」 
「レオン、中に出してっ・・・熱いのをいっぱいっ!」 
 
「うっああああ・・・」 
「あっあっ・・・いっちゃうーーーーっっ!!」 
 
こうしてこの夜も、二人で一緒にベットの上に身を投げ出し、果てた。 
 
 
しばらく、余韻に浸って身を起こす自分。 
 
「アヤメ・・・さん?」 
ボーっと無表情に近いような中にも、気持ちよさそうな・・・そんな余韻に浸っている表情の彼女からは返事がなかった。 
 
とりあえず、ガッチリ腰に回っている足をゆっくりはずして・・・股間のものを抜いて・・・。 
二人の結合部から漏れてきた白濁液をふき取ってから、毛布をかける。 
 
いつも、満足した後の彼女を介抱してやるのは、私の役目だった。 
主従関係とは関わりなく、自分の腕の中でかわいい声をあげてくれる一人の少女へのささやかなお返し。 
私も、自分の体を拭いて彼女と同じベットに入る。 
そして彼女の頭の下に腕を伸ばして・・・腕枕をして・・・旅の途中のささやかな幸せ。 
 
チュンチュン・・・ 
 
そして、いつものように朝がきた。 
「レーオーン、一緒にご飯食べましょう、奢ってあげる」 
「待ってくれよ〜、こっちは君と違ってクタクタ・・・」 
 
ドンッ 
 
あ、向こうからきた人と肩がぶつかって 
「すいません・・・」 
「おい、すまんじゃないやろ、兄ちゃん」 
「え・・・あの、その・・・」 
 
弱気に絡まれている私と大男の間に、戻ってきて割って入るアヤメ。 
 
「邪魔よ、ウドの大木」 
 
ゴキュッ 
 
骨が折れて肉が裂ける鈍い音がした。 
 
「があ!?・・・う、腕がぁああ!」 
 
「さ、行きましょ、レオン。ぐずぐずしてると人気の中華粥が売り切れちゃうわ」 
「す、すいません、連れがちょっと乱暴で・・・ハハハ・・・」 
 
一瞬静かになる周りの人々と冷たい視線の中、飲食店街へ急ぐ自分と彼女。 
やはりした日の次の朝は優しいけど怖い・・・。 
 
 

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