カモシカ族と落ち物のあいだでは、たとえ性交を行ったとしても子は生まれない。
……いちおう、そういうことになっている。
確かに、性交では子は生まれない。
だが、体外受精で、かついくつかの条件を満たし、そして最後に特殊な放射線を与えることで、双方の遺伝子を引き継いだ「かけあわせ」が誕生することは一部では知られている。
そして、かけあわせる種族ごとに微妙な差異はあるが、似たような条件をクリアさせることで「かけあわせ」が誕生する種族は何種類かいる。
そしてさらに「かけあわせ」同士を同様に掛け合わせることで、さらなる複雑な「かけあわせ」が可能となる。
三種族以上の特徴をかね持ち、かつ短所は各種族の長所で相殺する合成人。それをヒポグリフ種と呼ぶ。
最低でも三世代を必要とする、なんとも気の長い……それ以上に非人道的な人体実験の歴史が、この国の裏には存在する。
何百年前からその実験が繰り返されているのか、よくはわからない。
ただ、地球で例えれば中世レベルの知識しかないカモシカ族の知識では到底作りえないほどの複雑な配合・合成システムである。
他の先進種族からの闇での援助・協力があったことは想像に難くはない。
「難しいわね……」
広げられた一枚の紙をじっとみつめながら、そう呟く女性。
カモシカ族特有の角はあるが、カモシカ族ではない。背中にはコウモリのような羽根、そして長くしなやかな尾がある。ヒポグリフである。
「どっちに転んでも、最終的にはこっちが大損害をこうむるような気がするわ」
「たぶん、その勘は間違っていないだろう」
と、リュナが答える。屋敷での快活な笑顔とは異なり、暗く沈んだ表情をしている。
「我々は危険な恩を売られている。しかもそれを、危険とも気づかずに喜んで買っている層が我々の上層部だ」
「私たちが勝つと、彼らはその恩を最大限に利用して、鉱山の採掘権を手に入れにかかるはず。そして、それだけではすまない……」
「ああ。どうせなら、採掘権なんかよりこの国の支配権をごっそり手に入れたほうが便利だ。そして……それを行うに十分な力を、彼らは持っている」
「だからと言って、私たちが敗れ、女王派が勝ったとしたら……彼らは、本格的に軍事侵攻をかけてこないともいえないわ」
「この国は山岳地だ。征服するメリットは薄い上に遠征費も馬鹿にはならない。攻める価値がない……それが、この国が生き延びてきた唯一の理由といってもいい。
だが……遠征費の負担を補って余りある魅力があれば、話は別だ」
「それが、アンセニウム……ね」
そういって、ヒポグリフの女性はため息をついた。
少し前に、遥かかなたの国で軍事転用可能な新エネルギーの存在が確認された。
発見当初は拡散が激しく、とても制御不能と思われたエネルギーだったが、ある鉱物で作られたケーブルを通すと拡散せずに十分なエネルギー量のまま伝導するとわかった。
そのケーブルを作る鉱物こそが、アンセニウムである。
希少金属のアンセニウムだが、それがカモシカの国の山岳地帯に大量にあるということが、一人の旅の科学者によって確認され、彼の祖国に伝えられた。
そのため、鉱山の採掘許可がその国の強大な武力を盾に何度も行われたが、亡き前国王は民間信仰を理由に決して首を縦に振らなかった。
その後、王は謎の死をとげ、そしてその直後に随分と手回しのいい内乱が起こっている。
……まるで、何者かが操っているかのように。
「とりあえず、女王派との裏パイプはまだ、つないでおいたほうがいいでしょうね」
「……そうだな。我々も、黒幕がある程度表立った動きをしてくれないと動けない。だが表立った動きをしてきた頃にはこちらはすでにタイトロープだ。
綱渡りでこの国の命運を支えることになる」
「……大変ね」
「お互い様だ」
「じゃあ、大変な者同士、少し向こうで休まない?」
「……一応、これでも妻帯者なんだが」
「……いいじゃない。リシェルちゃんと私だって、知らない仲じゃないわ」
「……それもそうか。だが、体力を必要以上に浪費しては身が持たない。一度だけにしよう」
「それでいいわ」
翌日。
リュナの屋敷では、いつものような光景が繰り広げられている。
台所ではリシェルが召使の少女たちと一緒に料理の下ごしらえに余念がない。
「うーん……スパイスが少し効きすぎちゃったみたいね。ジャガイモとトウモロコシの量を少し増やして、あとスープを少し薄めればいい感じになるはずよ」
中庭では、アンシェルがレーマに剣の稽古をつけている。
「レーマ。技術や読みも確かに大切だが、それも基礎となる肉体の力があって初めて使い物になる。下半身の力はついてきている。後は上半身の力だ」
そんな中、リュナとヒポグリフの女性は屋敷に戻ってきた。
「……ここは、いつきても幸せな光景ね」
「ああ。ここに戻ってくるといつもほっとする。そして、ここを守るためなら何でもできるって気になる」
「それが、あなたの動く力なのね」
「そうだな」
そんな二人の姿を目ざとく見つけたのはアンシェルだった。
「あ、リュナ卿。それに……」
傍らの女性を見る。アンシェルはまだ彼女を知らない。
「ああ、アンシェルちゃんは彼女とは初対面だったか。彼女は……」
「はじめまして。フィリーヌって呼んでくださいね」
「あ、はじめまして、フィリーヌさん……」
少しぎこちない動作で挨拶を返すアンシェル。年上の大人びた美女に、少し戸惑っているらしい。
「ふふ。この羽根、もしかして気になる?」
「は、羽根? あ、そ、そういえばっ……」
初めてその羽根に気がついたらしい。それだけ、フィリーヌの美貌と雰囲気に飲まれていた。
「あら。ごめんなさい、変なこと言っちゃって。でもね、これ、本物なのよ。ついでに、この尻尾も」
「……」
驚いた表情で少し固まっているアンシェル。そんな彼女に、リュナが言う。
「彼女……フィルは、ヒポグリフって言ってね、カモシカとコウモリと……いろいろな種族の遺伝子を掛け合わせた種族なんだ」
「ひ、ひぽぐりふ……」
よくわからないまま、反芻するアンシェル。
「ま、難しい話になるからその辺は後でゆっくりとベッドの上で」
そういって、リュナはこの屋敷でいつも見せる、やさしげな微笑を見せる。
「り、リュナ卿っ……」
顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせるアンシェル。その表情を見て、リュナが追い討ちをかける。
「それとも、君の夜のお相手はレイマ君の方がいい?」
「れ、レーマっ? よ、夜の……って、その、それは、あのっ……」
ますます顔を赤らめて、早口になるアンシェル。それをみて、くすりと笑うアンシェル。
「ふふ。かわいい子。いっそ、私が相手してもいいかな」
「れ、れーまと、あなたがっっっ! そ、それはその、あのっ……」
何かを勘違いしてさらに慌てふためくアンシェル。とうとう、こらえきれずにリュナが吹き出した。
「冗談だよ、アンシェルちゃん。君の困った顔を見るのが楽しくて、つい、ね」
「……冗談でも……困りますっ」
少しふくれたような仕草をするアンシェル。
色恋の話を振られると、時折、へんに幼い仕草を見せるが、それが年頃の容姿とのギャップで意外とかわいらしい。
「でも……レーマ君ってのは、誰?」
フィリーヌが、リュナに問う。
「ああ、彼さ。アンシェルちゃんとリシェルの昔からのペットなんだけど、まあ二人にとっては、普通のカモシカの男なんかよりずっといい仲だよ」
そういって、中庭でまだ素振りを繰り返している少年を指差す。
「へぇ……でも、そんな感じね、さっきの感じだと」
「幼馴染以上、人間未満。変な言葉だけどね」
「……でも、あんまり仲がよすぎると……見つからないように、気をつけないとね」
少し暗い表情で、フィリーヌが呟く
「え?」
思わず問い返したアンシェルに、フィリーヌは意味深な微笑を浮かべて言った。
「カモシカ族とヒトが、あんまり仲がよすぎたら、わる〜い人さらいに狙われることもあるのよ」
「……」
アンシェルには、正直ピンとこなかった。が、なんとなくフィリーヌ自身の境遇と関係あるのだろうとは思った。
素振りを続けるレーマ。しばらくするとアンシェルが戻ってきた。
「手を抜くなっ! 一撃一撃、戦場で戦っていると思って振れ!」
腕を腰に当てて、そう叱咤する。
何故だか、ずいぷんと機嫌が悪い。そのせいか、角がすこしだけ怖くみえる。
「はいっ!」
まるで体育会のような声で返事して、素振りを続ける。
「いいかっ、間違っても女になど気を取られるな! おまえの主人はこの私だ!」
(……女?)
なんだかよくわからない叱咤が続く。とりあえず、気が落ち着くまで素振りを続けるしかないようだった。
日が傾きかけている。
「ぜい……ぜい……」
いったい、どれだけの回数の素振りを繰り返しただろうか。さすがに疲れ果てて、その場に倒れこんだ。
「……よし、まあこれでいいだろう。だが、限界を超えなくてはより強くはなれん。少しづつでも回数を増やしてゆけ」
「……は、はい……」
荒い息の下で、何とか返事をする。
「……」
しばらく、その表情を見つめていたアンシェル。しばらくして、その隣に腰を下ろした。
「すぐには立てそうにないな」
「……い、いや……このくらいっ……」
無理に立とうとするが、体が言うことをきかない。
「無理をするな。休めといっているのだ」
そういって、レーマのそばに近づく。近くで見ると、汗が湯気になっている。
かつて、自分が騎士を目指していた頃、同じことをしてきただけに、その努力とつらさはよくわかる。まして、レーマはカモシカ族ではないのだ。
「あまり、こういうのは得意ではないのだが……レーマ、少しだけ体を起こせ」
レーマが、よくわからないまま命令に従う。体を起こすのもつらいが、無理に起こした。
すこし、アンシェルが体を近づけたように思った。
「……よし、そのままゆっくりと体を寝かせろ。ゆっくりとだぞ」
かすかに恥じらうような表情でそう言うアンシェル。
わけがわからないまま、言うとおりにゆっくりと頭を下ろす。中庭の芝生の感触が……伝わる前に、なにやら柔らかいものの感触が頭に伝わった。
「……!?」
驚くような表情のレーマ。それが、膝まくらだと理解するのに、数秒かかった。
「主人に膝まくらさせるペットなど、おまえくらいのものだ」
照れたようにそういうアンシェル。真上から見つめる表情は、少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
「……すみません」
「謝るな。私にそうしたいと思わせたのはお前の努力だ」
「……強くなるため、ですから」
「ああ。……わたしを、守るためにな」
「はい」
「本当に、強くなってくれないと困る」
アンシェルの表情が、照れたようなものから、少し毅然としたものに変わった。
「……わかっています」
レーマも、少しまじめな顔で答える。
「さっき、美しい女性が来たが……その人に言われたのだ。私達の仲がよすぎると、誰かにさらわれることもあると」
「……」
「あの人は、カモシカの角にコウモリの羽を持っていた。彼女がどうして、そんな姿になったのかはわからないが、きっと……彼女自身の経験が、そういわせたのだと思う。だが……」
アンシェルの表情が、一瞬だけ泣きそう担っているのが見えた。
「だが…・・・私は、絶対に……お前と離れたくない。仲も悪くなりたくない。そんなこと……絶対に嫌だ」
「……」
「……だから、お前は強くなれ。私を……いや、私たちを守り抜け」
「はい」
「私たちとは、おまえ自身も含めてだぞ」
「……はい」
「わかったら、ゆっくり休め」
「……ゆ、ゆっくり、といっても……」
太股の柔らかな感じが気になって、なかなか休めない。
「無理にでも休め。私は……お前の寝顔を見たいのだ」
アンシェルが、また頬を染めて、そして呟くようにそう言った。
その夜。
客人が来るということで、リシェルが腕を振るった夜食は、いつものように美味しかった。
いろいろと天然なところもある少女だが、こと料理の腕に関しては一流だと誰もが思う。
「今日は、久しぶりにリシェルと一緒に夜をすごすとするか」
リュナが、そういって妻を連れて寝室へと戻る。
「私は……レーマ君をさらっちゃおうかな」
フィリーヌが、立ち上がりながら妖艶な笑みを浮かべてそう言う。
「さ、さらう?」
突然の言葉に、驚くレーマ。その横で、アンシェルも驚いたような困ったような表情をしている。
「ふふ……冗談よ。彼はアンシェルちゃんの大切な人ですものね」
「た、大切な……その、あの……」
困惑するアンシェル。その表情を見て、フィリーヌが微笑む。
「私は、今夜は一人で静かにすごすわ。ちょっと疲れちゃったし」
「そ、そうですか……その、おやすみなさい……」
なんとか、それだけを口にするアンシェル。
「おやすみなさい」
フィリーヌは、手を振って自分の部屋へと去っていった。
「……」
残ったのは、アンシェルとレーマ。変な沈黙が流れる。
「……れ、れーま……」
沈黙に耐えかねたように、アンシェルが口を開く。
「はい」
「その……私たちも、寝よう」
「そうですね」
「それで……その……」
「何ですか?」
「……」
何かを言おうとして口ごもるアンシェル。かすかに、頬を染めて恥らうような表情をしている。
「昔みたいに、一人で眠るのは心細いですか?」
わざと、そうレーマが言う。
「子供のころ、おばけが怖いって騒いで、一晩中僕が同じ部屋にいたことがありましたよね」
「……そ、そんなこともあったな……」
「人さらいが怖いんでしたら、一緒にいてあげてもいいですよ」
「……そ、そんなもの……怖くは、ないが……」
何かを変に意識しているらしく、いつになくアンシェルの口がどもる。
「……その、たまには二人でいるのも、悪くはないだろう」
たまにはも何も、ほとんどの時間をアンシェルとレーマは一緒にすごしている。
夜だけは、別々の部屋で眠るが、それも別々に部屋を用意されている以上は当然のことだと思う。
「その、お前がどうしてもと言うなら、一緒に夜をすごしてもいい」
消え入りそうな声で、そう言うアンシェル。どうしてもなんて言った覚えはないが、相手の喜ぶような答えを言うのも、ペットの仕事の一つではある。
「じゃあ、そうしますか」
はっきりとした口調で、そうレーマは答えた。
子供のころから剣一筋で、色恋と無縁だったアンシェルは、性感に弱い。
ちょっとでもつよい快感を与えると、大声を上げて身悶えることは、洞窟で思い知っている。
屋敷内だと、気をつけないと周りで寝ていたり、あるいはふたりだけの夜の営みを行っている人たちの迷惑になる。
レーマは、いくつかの小道具を用意すると、アンシェルの部屋に向かった。
アンシェルは、椅子に座って待っていた。
「……来たか」
声が、わずかに上ずっている。
「じゃあ、はじめますか」
「はじめる?」
「ええ。とりあえず、ふたりでお風呂に入りませんか」
「……ふ、ふたりで……」
月明かりの下でも、アンシェルがうつむき、恥ずかしげに頬を染めたのがわかった。
「はい。お風呂で体をあっためれば、少しは気分がリラックスしますよ」
そういって、アンシェルの肩に手をかける。どっちがペットでどっちが主人かわからないほど、アンシェルはおとなしくその手に身をゆだねていた。
帯を解き、服の留め紐をほどく。そして、するりと上着を脱がせる。
服を脱がせる途中で、アンシェルの素肌にレーマの指がふれるたびに、彼女はぴくんと初々しく反応する。
時折、わざと指で肌を刺激する。
「んっ……」
アンシェルの口から、かすかな呻きが漏れる。そんな姿を少しだけ堪能しながら、レーマはアンシェルの服を手際よく脱がせていった。
上着を脱がせるとスカート。そして下着。
やがて、アンシェルは全裸になり、その素肌が月光に照らされる。
レーマがいつみても、アンシェルの裸身は美しい。
決して胸が大きかったり、尻が大きかったりするわけではないが、均整の取れた体つきである。
「……少し、寒いな」
そういって、アンシェルがかすかに震えた。
「すぐに、お風呂であったまりますよ」
そう言って、レーマも服を脱ぎ始めた。
全裸の二人が、小さな湯船で身を寄せ合っている。
もともと一人用の浴槽に、二人ではいること自体間違っているのかもしれない。
が、しかしもしも、一組の男女が否応なく肌を寄せ合える大きさとしてこの浴槽になったのだとすれば、それはそれで芸が細かい。
「……」
アンシェルは言葉少ない。裸身を見られているということが、必要以上に彼女をしおらしくしているらしい。
「……あっ……」
突然、アンシェルが声を上げた。
レーマの腕が、アンシェルの腰に伸び、アンシェルの半身を自分の足の上に乗せた。
アンシェルは、抵抗もせずなすがままになっている。お尻の柔らかい感触が、足に乗ってきた。
すでに肉棒は硬くなっているが、まだ挿入には早い。
湯船の中で、抱っこするような形にアンシェルを膝の上に載せると、そのままアンシェルの脇の下から手を伸ばし、両手で左右の胸を柔らかく揉んだ。
「ひゃんっ!」
驚いて立ち上がろうとするが、小さな浴槽が邪魔ですっと立ち上がれない。レーマはかまうことなく、アンシェルの左右の乳房に手を這わせる。
「あ……やめっ……いやっ……まだ……」
甘い声が、アンシェルの口から流れる。「いや」という言葉にも、拒絶の意志はない。
「お風呂なんですから、汗をちゃんと洗わなきゃだめですよ」
そう言って、愛撫の手を全身に広げる。ときにくすぐるように、時に揉むように、強く、あるいはやさしく。
「や……いや……だめっ……」
かすかな声で、抵抗の意氏を伝えようとするが、火照った体と熱っぽい表情では、その言葉に何の説得力もない。
しばらく愛撫を続けると、アンシェルは抵抗の言葉すら出なくなり、妹に似たとろんとした表情で愛撫に身を任せるようになった。
「じゃあ、そろそろこっちも洗わないと駄目ですね」
そう言って、右手を恥部に潜り込ませる。
「……あぁんっ……」
恥部の中への刺激に、恍惚の声を漏らすアンシェル。湯船の湯に負けない暖かいものが、後から後からあふれてくる。
「アンシェル様。可愛いって、言ってもいいですか」
耳元で、そう囁く。
「……あ……あぁっ……う……うん……あんっ……」
快感に意識を混濁させられながら、それでもなんとか返事をする。それを聞いて、レーマは少し微笑み、そして耳元で囁いた。
「可愛いですよ、ご主人様」
その言葉に、朦朧とした表情で恍惚の笑みを浮かべているアンシェルの頬が、かすかにまた赤くなる。
レーマの指は、恥部の中を複雑な動きでこする。そのたびに、アンシェルの口からは快楽の声が漏れ、体はぴくんぴくんと耐えかねて身悶える。
「あ……ああぁぁぁ……」
恍惚の表情のアンシェルから、しばらくして長いあえぎ声が漏れた。それと同時に、全身の力がすっと抜け、レーマにもたれかかるようにしなだれてきた。
それにあわせ、恥部からは、どっと何かがあふれてきた。
「……」
力なく天井を見つめるアンシェル。どうやら、指だけで最初の絶頂を迎えてしまったらしい。
湯船からアンシェルを出すと、ぐったりとしたアンシェルの体をタオルでぬぐう。今のアンシェルは、一人では立つこともできない。
そして、自分もタオルで肌をぬぐうと、全裸のままのアンシェルをうつぶせにベッドに寝かせた。
「えーと……」
持ってきた小道具の中から、細い縄を取り出す。そして、手際よく後ろ手に縛り始めた。
「……な……何を……」
少し、驚いたような声のアンシェル。だが、力の抜けた体では抗いようがない。
レーマは、アンシェルの両手を後ろ手にしばりあげると、ついでに小道具の中からタオルを取り出し、アンシェルの口にかませた。
「……んっ……」
少しだけ、抗議するような目でレーマを見るアンシェル。そんなアンシェルに、レーマは言う。
「アンシェル様、ちょっと暴れちゃうんで……今日だけは縛っちゃいますね」
「ん〜……」
猿轡をかまされた口から、言葉にならない声が漏れる。
「やさしくしますから、大丈夫ですよ。それに、こういうのもいいものだって、リシェルさまも言ってましたし」
「ん〜……」
まだ少し納得できいないような目のアンシェル。
「じゃ、はじめますね」
アンシェルの目での抗議を無視して、縛られた少女にレーマは愛撫を始める。
縦長のへそに舌を這わせながら、右の指でかすかに横腹をくすぐる。その間に、左手はアンシェルのお尻に伸び、柔らかな肉を撫でる。
「んっ……んん〜っ……」
くすぐったいような恥ずかしいような感情に、アンシェルがくぐもった声で抗議するが画、縛られていては抵抗できない。
それをいいことに、乳首、太もも、首筋、そして恥丘と舌で次々とアンシェルの弱点を刺激する。
「んんっ……ん〜っ……んん……」
力の入らない体で身もだえ、暴れるアンシェル。しかし縛られた裸体は言うことを聞いてくれず、抗議の声も猿轡に阻まれて届かない。
かすかに、目に涙が浮かんでいる。それを指でぬぐうと、レーマは耳元でささやいた。
「こんなアンシェル様も、可愛いですよ」
そう言って、頬にキスをした。
「んん……」
睨み付けているようで、もっと何かを求めているような、複雑な表情の目がレーマを見つめる。
「もうちょっとだけ、気持ちよくしてから」
そう言って、じらすようにアンシェルの全身の性感帯に舌と指で刺激を与える。
桃色の乳首を軽く吸い、舌先で転がすと、大きくのけぞって快感に耐える。
うなじにキスをして、背中を手のひらでくすぐると、身をよじって悶える。
おへそから胸の谷間に向けて舌先を動かすと、くすぐったげにぴくぴくと反応する。
太股を撫でると、もっと奥を刺激してほしいように、少しだけ足を広げる。
いろんな反応を楽しみながら、縛られた無抵抗なご主人様をいじめる。
ただ一箇所、敏感な部分だけを避けるように。
「んん〜っ……」
快感にあえぎつつも、じれったそうな声。太股の付け根の大切な場所からは、すでに液体が流れ始めている。
「じゃ、そろそろいいですか」
「んん……」
じれったそうな声と目。それを確認すると、レーマはアンシェルの中に肉棒を挿入した。
「んんっ!」
猿轡で塞いでいる口から、それでもちょっと大きい声が漏れる。
はじめはゆっくりと、そして徐々に激しく。
くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃと、そこから淫靡な音が聞こえる。それにあわせて、アンシェルの体が大きくはねる。
が、縛られていることと、柔らかなベッドの上ということも合って、さほど大きな音は出ない。
猿轡の下からのうめき声だけは少し大きいが、それでも外に聞こえるほどではない。
「んん……」
アンシェルの目には涙。しかしそれは嫌悪の涙ではなく、快楽と愉悦の涙。その表情は、苦痛や悲しみではなく、悦びが浮かんでいる。
「すみません、もう……出しますね」
十分に相手を愉悦の極みに運んださせたころには、レーマも耐え切れなくなっていた。なんだかんだ言っても、レーマも自分が思っているほど性体験が豊富なわけでもない。
「んんっ……」
「ん……」
二人の声が重なる。果てるのは今度もほぼ同時だった。
「……ひどい男だ」
縄を解かれ、猿轡を解かれたアンシェルがそう抗議する。その肌はまだ火照り、汗をかいている。
「すみません」
「……いやな記憶を思い出しそうになった」
その言葉に、しまったという顔をするレーマ。考えてみれば、アンシェルは一度敵兵に捕まり、輪姦されたことがあるのだ。
「……だが、お前の顔を見ていると忘れられた。縛られていても、お前になら……」
一瞬の間。
「……おまえになら、何をされてもいいような気になっていた」
「……」
返答に困るレーマ。
「本心だ。おかしなことだがな」
「……可愛かったですよ、アンシェルさま」
ようやく、そう口にする。
「可愛い……か」
少し、目を伏せるアンシェル。
「嬉しいな」
しばらくして、そう言ってアンシェルはレーマを見つめる。その目は、熱っぽく潤んでいた。
「……今夜は……もっと、そう言ってほしい。そしてもっと……私を……」
「わかりました、ご主人様」
レーマは、アンシェルに唇を重ねた。
その頃。
「ああっ……ああ……いや……」
甘いあえぎ声が、牢獄の片隅から絶え間なく聞こえている。
声の聞こえる牢屋を見ると、一人のカモシカ族の少女が、全裸にされて十字架に縛られている。
身に着けているものは黄金のティアラと、水晶のネックレス。
はじめはドレスらしきものを着ていたのだろうが、それは引き裂かれ、今は拘束具のまわりに絹の布切れが引っかかっているに過ぎない。
そして、その裸体にむらがる無数の緑色の触手。十字架の足元には、拷問植物の毒々しい丸い姿が見える。
昼夜を問わず責められる少女を無言で見つめる、若い男。角も尾もない……「落ちもの」らしい。
「正直に白状していただかないと困りますな、女王陛下」
男は、嗜虐的な笑みを浮かべて、そう口にした。
(Fin)