星のピラミッドは、もともと占星術のための天文台だった。  
 かつて占星術が秘儀だった頃の名残か、白のピラミッドに比べてはるかに入り組んだ構造になっており、またピラミッド自体も堅固なつくりになっているため、その気になれば下手な城砦なんかよりはるかに堅固な要塞となる。  
 内乱勃発直後に王弟派がこの星のピラミッドを真っ先に制圧したのも、その要塞としての有用性ゆえであった。  
 そして今、リュナ達はそこへと向かっている。  
 リュナとフィリーヌ、そしてアルヴェニス。ダイオニスの家で着替えた服のおかげで、一見しただけならただの旅人に見える。  
 ……もっとも、この戦乱の地で「ただの旅人」がいること自体が不自然ではあるが。  
 
 息も切らさずに山道を歩くリュナ。その後ろを、フィリーヌとアルヴェニスがついてくる。  
「……よくもまあ、それだけ元気に歩けるな」  
 アルヴェニスが、げんなりした顔で言う。  
 山歩きには慣れているカモシカ族とはいえ、そもそも道ともいえない道を歩いているのだから、普通は疲労がたまる。ましてや、リュナはロランとの戦いをこなしたばかりである。  
「ほんと。女性連れなんだからちょっとはゆっくりしてもいいと思うけど」  
 と、フィリーヌ。銃を杖代わりにして最後尾をついてきている。  
「……え? ああ、ごめん……少し休むか」  
 そう言って、リュナが足を止めた。  
「まったく、なんだよそのスタミナは」  
 アルヴェニスが、近くの岩に腰を下ろしながら言う。  
「リシェルちゃんと鍛えてる……ってわけでもなさそうだしな」  
「うーん……最近、忙しくてリシェルとはなかなか一緒に寝れないんだ」  
「かといって、別に普段から訓練してるようにも見えないし。最近デスクワークばかりだったじゃない、リュナ」  
 追いついてきたフィリーヌが、座り込みながらそう続ける。  
「……そうだなぁ……一応、昔の訓練の成果……なのかな」  
 ぽつりと、リュナが言った。  
「昔の訓練?」  
 アルヴェニスが問い返す。  
「エグゼクターズにいた頃? でも、その頃の訓練なら私も同じ様なことしてるけど……」  
 と、これはフィリーヌ。  
 エグゼクターズ。国際犯罪者討伐のために作られたカモシカ族の国営特殊警備隊である。  
 
 かつては陸の孤島に等しかったカモシカの国にも国際犯罪者の影が跳梁し始めることになると、従来の兵制では跳梁する国際犯罪者を追うことが困難になっていた。  
 そのため、従来の縦割り管轄による軍事体系とは分離した遊撃特殊警備隊の編成が急務となり誕生したのがエグゼクターズである。  
 管轄区域を問わず、国内における徹底追尾と殲滅を目的とした彼らの存在は、確かにカモシカ国内での国際犯罪者の駆逐に大きく貢献することとなった。  
 だがこうなると今度は、国境付近で仕事を行い、そしてそのまま国境を越えることで追尾を逃れようとする国際犯罪者が増加した。  
 そのため、先代の統治時代、エグゼクターズの越境権限を求めて近隣諸国との外交が繰り返された。  
 粘り強い外交の結果、越境権限は認められたものの、その代償として保有武力の大幅な制限と、近隣種族との多種族混合部隊への組織変更を求められることとなった。  
 結果として、エグゼクターズは従来に比べて少ない武力での戦闘を余儀なくされることとなり、そのため特殊訓練による個人戦闘力の強化が行われることとなった。  
 フィリーヌとリュナが知り合ったのは、その頃のエグゼクターズである。  
「確かに、あの頃の訓練は厳しかったけど……でもあれだったら、同じ訓練をしてるんだから私だってもう少しついていけるはずだけど」  
 そう、疑問を投げかけるフィリーヌ。  
「うーん……確かに、エグゼクターズ時代の訓練なんだけど……たぶん、僕の訓練はフィルは体験していないと思うよ」  
「どういうこと?」  
「うん……フィルとは、二年半ぐらい合わない時期があっただろ?」  
「そういえば、私が狙撃班に回されてからは手紙も交わしてなかったっけ」  
「うん。その直後、僕は獅子の国に飛ばされてね」  
「獅子の国?」  
 アルヴェニスが驚いたような声を上げる。  
 カモシカの国の少し南西、蛇の国より少し北にある獅子の国。広大な平野を有する強国である。  
「魔法を使えない、僕らカモシカが従来以上の戦闘力を有するにはどうすべきか。訓練による底上げでは限界が見え始めてた時に当時の上層部が目をつけたのが獅子の国の“気”だった」  
 
「気?」  
「うん。努力もあるけど、やはり生来の素質に左右される魔法とは異なり、修行と訓練の成果として生み出される力だから、カモシカ族でも使えると思ったんだろう」  
「……それで、リュナが実験台にされたと?」  
「まあね。それで、僕を含めて……二十人くらいが、獅子の国のいろんな訓練組織や道場に派遣された。そこで修行して、気功を身につけられたなら、本格的にそこと提携するつもりだったらしい」  
「らしい……ってことは、誰も身につけられなかったってこと?」  
 フィリーヌが聞く。「少なくとも、僕は会得できなかった。でも、もしかすると会得できた人もいたのかもしれない」  
「どういうこと?」  
「僕が獅子の国から戻ってきてからしばらくして、百人規模でエグゼクターズから人が消えた。もしかすると……というのはある」  
「……なるほどね。で、リュナがこの山道で息も切らさないのはその頃の訓練の成果だと」  
「そうだと思う。気は会得できなかったけど、当時の道場での訓練は間違いなく今の僕の血肉になってるはずだ」  
「その頃の話は、あまり聞いたことがないな」  
「……まあ、自分から言うようなことでもなかったし」  
 アルヴェニスの言葉に、少し口を重そうにするリュナ。  
「休憩がてらに、その頃の話を聞かせてもらおうかな」  
「あの頃の話……か」  
 少し考えてから、リュナはぽつりぽつりとその頃の思い出を語り始めた。  
 
 僕が向かったのは、コウゼン師という武術家の人の道場だった。ずいぶん年配で……僕らで言えば60を超えていたと思う。  
 鬣は……正直、白髪交じりで、見た目は決して立派じゃなかった。すくなくとも若い人たちから比べるとね。  
 でも、動きは矍鑠としていて、年をまったく感じさせなかった。  
 僕はそこで二年ばかり修行していたんだけど、その修行の終わりごろ……つまり僕もそれなりに強くなった頃、僕が真剣を持って、コウゼン師が素手という形で試合をしたことがある。  
 ……まるで歯が立たなかった。動きは僕のほうが早いんだけど、動きがことごとく読まれてて、何しろこっちは真剣だから、一撃当てれば勝てるはずなのにその一撃がまったく当たりやしない。  
 で、こっちは簡単に一発当てられて、しかもその一発だけで肋骨折って、おかげで帰国が二ヶ月遅れたんだ。  
 まあ、そんな人が僕の師匠だった。  
 
 呼吸法とか気脈の流れ、あとは人体の動きとか、午前中にはそういうのを学びつつ、午後には訓練という感じだった。  
 学問といっても、当時は何でこんなのを学ぶのかって思うようなものもあってね。  
 呼吸法とか気脈なんてのは、なんとなくそれが気功につながるんだろうとは思ってたけど、地質学とか医学とか薬学とか、果てには哲学みたいなのまでやってたから。  
 まあ、今となってはそれらすべてが必要だったとわかるけど。……結局、暴力では武力を超えられないからね。  
 で、午後の訓練。これも、僕の予想してたのとはちょっと違ってた。  
 武器ってのは、あくまで腕の延長って考えなんだ。五体の動きを極めることで、その五体の延長である武器の扱いも極まるという理屈。  
 だから、いわゆる格闘家とはちょっと違う。素手が一番強いってわけじゃないんだ。拳や蹴りでも強いけど、武器を持つとさらに強くなる。  
 そういうわけだから、まず拳法から始まって、次に短剣、そして杖。それから刀、棍、そして棒と獲物を長くしていった。  
 だから、ありとあらゆる武器に熟練することになる。いわゆる、武芸十八般ってやつ。  
 ……僕の場合は、二年程度だから実際には極めきる前に帰国してしまったけど、中には五歳かそこらからずっと修行している人とかいて、こんなのはもう凄まじかったね。  
 本当に、あの国が好戦主義じゃなくてよかったと今でも思うよ。個人戦闘力でいえば、たぶん大陸でも屈指じゃないかな。  
 で、気功なんだけど……結局、僕は身につかなかったけど、これは種族としての適性もあるけど、やっぱり修行の密度と年月なんじゃないかな。  
 少なくとも二年じゃ無理だよ。  
 ただ、それを会得したら強い。発頚とか気弾とか、そういう力とは別の部分でだけど。  
 正しい呼吸法と気脈の流れに従うから、およそ疲労することがなくて、長期戦になればなるほど強い。  
 それにくわえて、相手の気脈を読めるようになると、次の動きが見えてくるから、相手の攻撃も簡単に避けられる。  
 コウゼン師との試合がまさにそんな感じで、こっちがどう動いてもまるで当たらなかったから。  
 で、朝から夕方までそんな感じで終わるんだけど、一日はそれで終わるわけじゃない。むしろ、そこから実戦訓練が始まるような感じなんだ。  
 
「実戦訓練?」  
 怪訝な表情で、フィリーヌが聞く。  
「ああ。夕方になると、僕らはもうバテバテになって部屋に戻るんだけど、そのまま寝るわけにはいかないんだ」  
「どうして……って聞くのも変よね。それが実戦訓練なんだから」  
「まあ、そうだね。……もっとも、実戦訓練といっても文字通り、武器を持って殴りこまれるってわけじゃあない」  
「じゃあ、何?」  
「獅子の国の場合、女性も強いんだけど……獅子の国の女性は、夜行性なんだ」  
「夜行性……」  
 アルヴェニスが、変に納得したような顔でうなずく。  
「うっかり眠ろうものなら、そのまま骨までしゃぶられてしまう」  
「た、食べられるの?」  
 驚いたように聞くフィリーヌ。  
「もちろん、文字通り食べられるわけじゃない。……いや、ある意味では文字通りか」  
「つまり、夜這いをかけられる……と」  
「そういうことだ。そして、不幸にして餌食になったが最後、翌日は午前中いっぱい足腰が立たない。もちろん、翌日も普通に訓練はある。だから、食われないようにしないと悲惨だった」  
「リュナも食べられたの?」  
 その問いに、ため息をついて答えるリュナ。  
「……ああ、何度かある。次の日は悲惨だった。疲れ果てているから訓練は散々だし、さらに……」  
「さらに?」  
「ライオンは死肉に群がる、って言ってね。ひとたび餌食にされた被害者には、次の日には少なくとも三人がかりで襲われる」  
「…………」  
「無理にでも夜までに体力を回復させて、その夜はどっかに逃げておかないと、その次の日は本当に生ける屍になる」  
「……嬉しいような辛いような……」  
 アルヴェニスのつぶやきに、リュナが反論する。  
「あの修行の中で襲われるほうの身になってみろ。間違ってもそんな感想は持てなくなる」  
「……その表情みるだけで、本気で嫌だったのがわかるわ」  
 フィリーヌが言った。  
「ああ。で、しかも問題なのは……」  
「問題なのは?」  
「コウゼン師に、娘がいたんだよ」  
 
 コウゼン師には、年の離れた一人娘がいた。噂では養女だとも聞いたけど、その辺は詳しくはわからない。  
 名前はファリィ。コウゼン師の娘だけあってめっぽう強くて……僕は試合とか組手とかで18回ほど手合わせをしたけど、1勝16敗1分けという散々な戦績だった。  
 最後の最後に一勝したけど、それだってもしかすると最後に花を持たせてくれただけかもしれない。  
 この子に目をつけられたら大変だった。  
 とにかく格闘術では相手にならない。あっという間に押し倒されて、気がついたら組み敷かれてるって感じだった。  
 そして組み敷かれたら、もうどうにもならない。あっという間に身包みはがされて、後はおいしく食べられるだけだった。  
 下手に暴れても、文字通りおもちゃにされるだけって感じで、それこそ相手の掌中で思い通りに弄ばれて、こっちがバテるまでさんざんに遊んでから食べるんだ。  
 ……さっき、午前中に習う学問には変なのもあるって言ったけど、房中術とかもあるんだよ。  
 ファリィの場合、武術も体術も学問も図抜けた成績を残してたけど、それは房中術でも同じだった。  
 ……翌日になったら、向こうは顔つやもよく元気いっぱいなんだけど、こっちは誰かの肩を借りなきゃ立てないほどだった。  
 元気印つきの美少女格闘娘に夜這いをかけられるとかいうと、まあそれだけで羨ましがる人はいるんだけど、正直やられた方はたまったものじゃない。  
   
 リュナの脳裏に、その頃の記憶がよみがえる。  
 道場に入門してから一年。その頃にはリュナも、道場内でそう弱いほうではなかった。  
 吸収力があり、理論と武術を着実に身に着けたリュナは、身体的ポテンシャルの高さ……具体的には、スピードとリーチに勝ることを生かし、道場でも中堅クラスにはなっていた。  
 入門後一年程度でそのクラスに到達するのは滅多とないことでもあり……そのせいでファリィに狙われる羽目になった。  
 ときどき、道場内で試合がある。そんなときに、ファリィが悪戯っぽい目でリュナを見ていると、決まって相手はリュナだった。  
 いくら強くなったとはいえ、リュナがファリィの相手になるわけがない。文字通りボロ雑巾のようにされて医務室につれて行かれるのがいつものことだった。  
 
 そして、自室に戻るとそのまま寝台にぶっ倒れるしかない。  
 そんな日の夜に何が起こるか、頭では嫌というほどわかっている。逃げなきゃならないという警告が頭の中ではガンガンと鳴り響いている。  
 しかし立てない。全身の筋肉が痛んで、動くに動けないのだ。  
 そうしているうちに、日が落ち、夜になる。  
 暗い寝室の中に、やがて危険な気配が近づいてくる。  
 逃げなきゃという警報音はさらに高まるが、体のほうはまるで動かない。  
 やがて扉が、音もなく開き、人影が近づいてくる。  
「元気?」  
 わざとらしく聞いてくる声の主は、確認するまでもない。そもそもその声を聞き間違えるはずもない。  
「……元気なわけないだろう」  
 返事をする。じっさい、元気ならとうに逃げている。  
「みたいね。どう? 痛い?」  
「痛いに決まってる」  
「むぅ〜……」  
 ぶっきらぼうな答えに、口を尖らせるファリィ。  
「何よぉ、人がせっかく心配して見舞いにきてあげたのに〜」  
「心配するぐらいなら最初から殴るな」  
「だって、試合だもん仕方ないじゃない」  
「手加減というものがあるだろう」  
「手加減したら修行にならないじゃない。お互いが全身全霊を尽くして闘うのが試合の醍醐味なんだから」  
「だったらせめて、俺より強い相手を選べばいいだろう」  
「あら、そんなに私と戦うのがいや?」  
「嫌だ」  
 きっぱりと言う。  
「ふーん……そんなこと言うんだ」  
 
「毎回毎回、ボロ雑巾にされるほうの身にもなってみろ」  
「そうやって、みんな強くなるのよ」  
「毎回毎回これだと、強くなる前に死にそうなんだがな」  
「泣き言いわない」  
 そういいながら、リュナを寝台に押し倒す。  
「痛っ……」  
 筋肉が悲鳴を上げる。  
「そんなに、痛そうにしないの。男の子なのに」  
「痛いんだから仕方ないだろう」  
「痛くても我慢するのが男の子でしょ」  
「……男の子ってなぁ」  
 その当時、リュナは18歳。まあ男の子には違いないが、一応ファリィよりは外見的には年上に見える。  
「ほら、治療してあげるから」  
 そう言いながら、服を手早く脱がせる。  
「あんたの治療は、次の日に足腰立たなくなるんだが……」  
「長引くよりマシでしょ」  
 そういいながら、服を全部剥ぎ取り、包帯も取る。  
「……絶対、楽しんでるだろ」  
 リュナの言葉に、自分を服を脱ぎかけてるフィリィが答える  
「うん」  
「……あっさり言うなよ」  
「だって、楽しいもん」  
「……こっちは生き地獄だ」  
「なによぉ」  
 そう言いながら、動けないリュナの上に乗りかかる。  
 柔らかい肌の感触が、直に伝わってくる。  
「リュナはカモシカなんだから、おとなしく餌になっちゃえばいいの」  
「餌にされるほうの身になってみろ」  
「やだ」  
 そう言いながら、唇を重ね、舌を絡めてくる。  
 
 なんだかんだ言いながらも、ファリィは可愛い顔つきをしているし、プロポーションもいい。  
 抱きつかれ、舌を絡みつけられると、男としてはやはり悪い気はしない。  
 体は動かないが、舌くらいは何とかなる。  
 軽く舌を絡ませ、こちらからも唇を吸うと、ファリィもさらに情熱的に腕を絡み付け、肌を摺り寄せてくる。  
 直接、肌に触れてくる胸のふくらみの感触が心地よい。  
 しばらく舌をからめ合わせ、やがて離す。  
「さっきまで嫌がってたくせに」  
「悪いな、これでもいちおう男だ」  
「あ、開き直った」  
「悪いか」  
「悪い」  
 ファリィが言う。  
「素直じゃない男は嫌われるぞ」  
「素直じゃないから男なんだよ」  
「何よ、それ」  
「女にはわからん」  
「あ〜、それ、男女差別だ」  
 そう言いながら、また唇を重ねてくる。  
 寝台の上で、互いに体を重ねたまま、また舌を絡みつかせる。  
 冷たかったファリィの肌が、少しづつ熱を持ち、汗ばんでくるのがわかる。筋肉痛でほとんど動かない腕を、少々無理に動かし、背中と首に回す。  
 つんと、乳首が硬くなったのが肌に伝わる。  
「……おまえ、本当に……なんていうか、好きだよなぁ」  
 唇を離して、リュナが言う。  
「悪い?」  
 甘い声で、ファリィが言う。  
「……悪くはないが」  
「リュナにも、責任はあるんだよ」  
「何のだよ」  
「言わない」  
「言わなきゃわからないだろう」  
「言わなくてもわかるのが男の子でしょ」  
「なんだよ、それ」  
 
 言葉を重ねながら、互いの感情を確かめる。  
 なんだかんだ言いながらも、お互い、相手のことを悪くは思っていない。  
 ある程度、互いに気を許しあい、ある程度の言葉や行動が許されるぐらいの関係。  
 嫌がるそぶりが許されるぐらいには、互いのことを悪しからず想っている関係。  
 そしてそれを、お互いに分かり合っている。  
「そろそろ、入れるよ」  
 ファリィが、そうリュナに言う。  
「ん? ああ……」  
「なによぉ、その気のない返事」  
「いや……いつも、お前がリードしてるよなぁと思ってな」  
「だって、いつもリュナったら自分からは動かないし」  
「動けないんだよ、いつも誰かさんにボロボロにされるから」  
「リュナが強くなればいいのよ」  
「そんなに強くなれりゃ苦労はしない」  
「なれるわよ、きっと」  
「……簡単に言うな」  
「大丈夫よ。わたしが太鼓判押すんだから」  
「そりゃあ、期待できるな」  
 かすかに笑って、リュナが言う。  
「でしょ」  
 可愛い笑顔を見せて、ファリィがリュナの上に乗る。  
「……っ……」  
 締め付けられるような感触。全身の筋肉が悲鳴を上げるのに、腰だけが勝手に動く。  
「あっ……はぁ……んっ……」  
 腰を浮かせながら、ファリィは恍惚の表情で声にならない声を上げる。  
「お、おい……っ……」  
 ファリィの動きが激しくなるにつれて、締め付けてくる力も強くなる。  
「こ、こっちはけが人なんだぞ……っ」  
 そう言っては見るが、その声が聞こえたようには見えない。  
「あ……っ、あっ、あんっ、ひああんっ!」  
 リュナの声なんかまるで聞こえていないように、ファリィはますます腰の動きを激しくすると、そのまま声を上げて果てた。  
 
「ん……」  
 ぱたんと、そのままリュナの上に倒れこむ。  
「お、おい……」  
「ん〜……?」  
 とろんとした目で、リュナを見るファリィ。  
「ん、じゃない……勝手にイクなよ……」  
「え……?」  
 まだ、意識がぼうっとしているらしい。  
「一人だけ満足して、こっちは生殺しのままかよ!」  
 じっさい、リュナの方は途中でファリィがイったせいで、中途半端なままで終わらされている。  
「あ……」  
 ようやく、意味がわかったらしい。  
「……でもぉ……立てないもん……」  
「口でいい、口で! とにかく生殺しだけは勘弁してくれ……」  
 その言葉に、ちょっと驚いたような表情を見せるファリィ。  
「口って……その、それって……ひどくない……?」   
「夜這いかけてきて勝手に果てるほうがひどいだろう」  
「うぅ〜……リュナ、弱いくせに強引なんだからぁ……」  
「お前に強引とは言われたくない」  
「むぅ〜……」  
 ちょっと拗ねたような声を上げると、ファリィは力の入らない体の向きを変えて、リュナの肉棒をくわえる。  
 それにあわせて、リュナもファリィの秘部に舌を這わせる。  
「ゃんっ!」  
 ぴくんと、体を震わせて肉棒から口を離すファリィ。  
「な、何すんのよっ……」  
「いや、一人だけ気持ちよくなるのも気の毒だし」  
「い、いいよっ、そんな……あんっ……」  
 言い終わるより先に、再びリュナの舌がファリィを責める。  
「ち、ちょっと、ずるいよ、リュナぁ……」  
 少し泣きの入った甘い声で訴えるファリィ。  
 
「そっちが勝手にイくからだろ?」  
「そんなぁ……ひどいよ、リュナぁ……」  
「ちゃんと満足させてくれたら、やめてやってもいいけど……な」  
「……わかったよぉ……だから、ちょっとだけ許して……」  
 そういって、ファリィは再び舌を這わせた。  
 一度果てたことで、余分な力が抜けてちょうどいい感じになっている。唇と舌で丁寧に刺激を加えてゆく。  
 いったい、誰に仕込まれたのだろうと時々思う。そんなときに、ふと嫌な想像もしてしまうが、それを頭から振り払う。この瞬間だけは、そんなことは関係ない。  
「……んっ……」  
 限界が近づき、少し、声が漏れたのが耳に届いたのか、ファリィの動きが少しだけ激しくなる。  
 どくんと、何かがこみ上げてくる。そしてそれが、一気に吹き上げた。  
「ん……」  
 飲み込みきれずに、すこしだけファリィの口元から白濁したものがこぼれる。それを、シーツでぬぐう。  
「リュナぁ……出しすぎだよぉ……」  
「ファリィのせいだな」  
「なんでだよぉ……」  
 言いがかりのような言葉に、抗議の声を漏らすファリィ。  
「ファリィみたいないい女に襲われたんだ、当然だろ」  
「いい……女? ほんとに?」  
「そんなことで嘘は言わない」  
「ほんと?」  
「本当だ」  
「……リュナぁ……」  
 嬉しそうな声が聞こえる。  
「とはいえ」  
「何?」  
「明日は……お互い足腰立ちそうにないな」  
「大丈夫だよっ。明日も、がんばろうねっ」  
「……元気だな、おまえは」  
「うんっ。リュナにいい女って言ってもらえたし、元気元気っ」  
「そ、そうか……」  
 リュナの方は、明日の朝、一人で立てる自信は全くなかった。  
 
 
「……おい、どうしたよ遠い目をして」  
 アルヴェニスの声で、我に返る。  
「え? ああ、いや……いろんな意味で鍛えられたなぁ、と」  
「いろんな意味で、ね……」  
「ファリィとも、何だかんだあったけど、結局いまだに連絡取り合ってるしな。もっとも、向こうはつまらん殺し合いにコウゼン師の技を使ってはほしくないらしい」  
「気持ちはわかるわね」  
「そうだな。……さて、そろそろ行くか。そろそろ歩き出さないとまずいだろう」  
「そうだな。おかげでよく休むことができた」  
「シャリア様の身に何か起きてなければいいが。それにリシェル達ともできるだけ早く合流したい」  
「どのみち、急がないとね」  
「ああ」  
 三人は、再び歩き出した。  
 星のピラミッドへの道は、まだすこしある。  
(FIN)  
 

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