あれは六年前。僕が小学五年生から六年生へあがる時の事だった。  
 
 
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三学期の終業式も終わり、今日から春休み。  
そして、いつもの様に隣りの家へ。  
と、お目当ての三人は玄関先で待っていてくれたらしく  
「ごめんね。待たせちゃった?」  
 
三人とも元気がなさそうに見えたのもつかの間、謝って下を見たら靴の紐がほどけていた。ちょっと待ってて、と直していると  
 
「しゅうじくん」  
 
いつもと違う、弱々しい冬華お姉ちゃんの声がした。  
 
「な、なに?」  
 
その声に驚いて前を向き直すと、夏実ちゃんと春菜ちゃんが、冬華お姉ちゃんの後ろで、冬華姉ちゃんの手を握りながら俯いていた。  
 
「・・・わたしたち、また会えるよね?・・・」  
 
僕は最初、冬華お姉ちゃんが聞いてきた意味がわからなかった。だって、六年生になっても、また4人で一緒に登校するものだと思っていたから。  
 
「ぇ? なんで?また一緒に学校に行くんでしょ?また会えるよ。春休みも一緒に遊ぼう?」  
 
冬華お姉ちゃんは首を横にふった。  
 
「ぇ? 違うの?」  
 
今度は縦に。  
 
「学校行かないの?」  
 
今度は横。  
 
「じゃぁ、一緒に遊ばないの?」  
 
縦。  
 
・・・ん?あれ?良く分からない。学校に行くのに、一緒に遊ばないなんておかしいな。どうしたんだろう。  
・・・あっ、そうだ。  
 
「冬華お姉ちゃんは中学校だから?」  
 
・・・あれ? 返事がない? それに、後ろの2人・・・  
 
「ねぇ、夏実ちゃん、春菜ちゃん、なんで泣いてるの? 誰かとケンカしたの?」  
 
僕の声に、反応したかの様に、2人は揃って泣き始めてしまった。  
 
 
「えっ? なにっ!? 僕なんか悪い事した!?」  
 
「ううん。違うのっ! しゅうじくんが悪いんじゃないのっ!」  
 
冬華お姉ちゃんは、首を横にふるふる。長い髪がふぁさふぁさと揺れた。  
 
良かった、僕が悪くなくて。だっておばさん、怒ると怖いんだもん。  
 
「じゃぁ、誰なの? 誰が悪いの?」  
 
長い髪がさっきの動きでまだ揺れていた。返事はなかった。  
 
僕がどうすれば良いのかわからないまま頭を抱えていると  
おばさんが出て来て、事情を説明してくれた。  
 
おばさん達四条家は、実家へ戻って暮らす−−−そのほかにもいろいろと説明してく  
れたけど、僕にはわからない事だらけで、よくわからなかった。  
 
でも、これだけはわかった。  
 
−冬華お姉ちゃん達と離ればなれになってしまう事−  
 
その事が分かった途端、涙が溢れて止まらなかった。  
 
「なんでっ? なんで行かなくちゃいけないのっ?」  
 
僕は泣きじゃくりながらおばさんに聞いた。  
おばさんは何も言わずに僕を抱きしめ「ごめんね」と言いながら、謝った。  
おばさんは怒ると怖いけど、とても優しい人だった。だけど、今は優しくなかった。  
でも、温かかった。  
 
結局、あのあと僕達は、僕のお父さんが来るまで泣いていた・・・・・  
 
 
 
・・・数日後。  
 
僕は、空っぽになった四条家の前で、3人とお別れの挨拶をしていた。  
 
「ひぐっ・・・しゅ、しゅぅじおにいちゃん。 これ。」  
 
1つ下の春菜ちゃんが泣きながら、両側の一房だけちょっと長い髪を垂らし、その小さな手を僕の前でひろげた。いつも所々はねている髪も、今日は元気がなかった。  
 
その小さな手の中にあったのは、小さな桜の花びらを幾重にもあしらった指輪だった。  
 
「ぁ、ありがと」  
 
僕は泣きながら、その小さな手からその指輪を受け取った。 泣き顔を見られたく  
なくて、僕は下を向き、歯を食いしばって嗚咽をこらえた。  
 
「しゅ〜じくん、 はい」  
 
次は、同い年の夏美ちゃんが、胸のあたりまである髪で顔を隠しながら、手をひろげた。  
その手には、ひとつ大きなひまわりをあしらい、まわりを花びらで散りばめられた指輪がちょこんと、のっていた。  
 
最後に冬華お姉ちゃんが、腰のあたりまである長い髪を揺らしながら  
 
「しゅうじくん、はい、これ」  
 
全体に柊の花をあしらった、派手ではなく、むしろ、淑やかさのある指輪が、その手にのっていた。  
 
「ねぇ、しゅうじくん。 かお、あげて?」  
 
僕は頷き、ごしごしと涙を拭いて ゆっくりと顔をあげた。  
 
冬華お姉ちゃんは、「わたし、お姉ちゃんちゃんだから」と、一生懸命なみだを流さないように我慢している様だった。  
 
 
そして、僕も順番にプレゼントを渡した。  
 
 
春菜ちゃんには、桜の花びらが散りばめられたブレスレット。  
 
夏美ちゃんには、ひまわりの花をあしらった、華やかなネックレス。  
 
冬華お姉ちゃんには、雪の結晶をあしらった透き通ったイヤリング。  
 
 
全部、おもちゃじゃなくて、お父さんに頼んで、ちゃんとしたものを買った。  
 
 
「ほら、みんな車に乗って」  
 
運転席からおばさんの声。  
 
「いやっ! 行きたくないっ!」  
 
春菜ちゃんが僕の服を掴み、言った。  
 
「わたしもいやっ! やだっ!」  
 
夏美ちゃんも一緒に掴んで言った。  
 
「わたしも嫌だよっ!だけど・・・だけど行かないとお母さん困っちゃう」  
 
2人はしぶしぶ頷き、手を離した。  
 
「しゅぅじおにいちゃん、また遊ぼうね?」  
 
ちゅ。 右の頬に柔らかいものが押しつけられた。  
 
「しゅ〜じくん、元気でね?」  
 
ちゅ。 今度は、左の頬に。  
 
「しゃうじくん、また会おうね?」  
 
ちゅ。 最後は おでこに。  
 
 
僕は大きく頷いた。  
あまりの嬉しさと、悲しみのせいで、涙が溢れて止まらなかった。  
 
そんな僕に、3人は笑ってかえしてくれた。  
 
・・・僕は気付いた。 泣いてる顔と、笑っている顔がとても似ていることに。  
そして、その表情は、とても可憐で清麗で、とても綺麗だった。  
 
 
 
3人は車にのった、そして車が動き始めた。  
 
「しゅぅじおにいちゃんっ! 絶対遊ぼうねぇ〜っ!」  
 
「しゅ〜じくんっ! 絶対戻ってくるからっ!」  
 
「しゅうじくんっ! また会おうねぇ〜っ!」  
 
車窓から顔をだし、手をふってくれた。  
 
「うんっ!絶対っ! 絶対だよ〜っ!」  
 
僕は必死になって追いかけた・・・・・  
 
 
 
・・・・・4人は海外へ旅立っていった・・・・・  
 
 

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