暗い、底。  
 白い砂地に、淡く落ちる泡の影。  
 薄墨色の周囲に中央はレンズのように白く輝き。  
 青い世界に微かな揺らぎを与える。  
 溺れゆく泡。  
 墜ちる影に、ゆらりと優雅な長いヒレを持った魚影が近づく。  
 次の瞬間、砂地に沈むはずだった影は海流に余波を残して消えていた。  
 
 幾重にも歪む遥か彼方の水面。踊る白い光。  
 だが、それもここまでは届かない。  
 目を覚まして、白い腕を伸ばすと、視界の片隅でさざめくように朱の長いヒレが揺れた。  
「誰?」  
 そう発して呼吸が出来ているのに気付く。  
 泡は口から吐き出される事なく、髪もふわふわと浮いていなかった。  
「落ちもののくせに元気だねえ」  
 くすくすと低い艶っぽい声が嗤う。  
 動かない体で首だけを向けると、鮮やかな赤黄色の肢体が目に入った。  
 背の高い人だった。  
 肌は白く、目は蒼い。唇はつややかで、やや口は大きめだった。  
 深紅の髪は固めてあるらしくつんつんに立っていて、それが背中まで続いていた。手  
 首の辺りには同じような色合いのヒレのような飾りをつけていて、身に纏った赤黄色のマーメイドラインドレスを引き立てていた。  
 ホルターネックの胸元は豊かに膨らんでいる割には、下半身がややスリムな気がしたけど。  
 きれいな、人だった。  
 足はドレスに隠れて見えない。  
 
 何故だか体がしびれていて、動かすのがつらかった。  
 唇を舐めて、だらしなくその人を見つめていると、また、その人が笑った。  
「拾う時に少々トゲがかすめてしまったようだねえ……」  
 ここは、どこだろう。  
 あたしは、なんでこんなところにいるんだろう。  
 上に見えるのは底が透明な水槽だろうか。  
 それにしては、どこにも照り返しがない。  
 ああ、そういえば、床が白っぽい淡緑色に光っている。  
 何の光だろ。  
「ここに来たらもう帰れないんだよ。わかっているのかい?落ちものっ娘」  
 落ちもの……?  
 体の感覚がようやく戻ってくる。  
 服が張り付いて冷たい。  
 ローファーを履いてたはずなのに感覚がない。  
 ハイソックスもほぼ脱げかかかっている。  
 な…んで?  
 なんで、あたし、濡れてるの?  
 ここは、どこ?  
「こんな妙な海藻を足に巻き付けて。ひれにひっかかるじゃないかね」  
 濡れたハイソックスが、ひっぱられて脱がされる。  
 何、で?  
 この人、傍に立ってるだけなのに。  
 立って…。  
 立って?  
 う、浮いてる?  
 違う、浮いてるんじゃない。スカートのひらひらした裾に見えたのは、あでやかなヒレだった。  
 足であるはずのそこは、優雅に揺れるヒレに囲まれて見えないだけ。  
 するどいトゲが、ヒレから伸びていた。  
 それがあたしの靴下を脱がした。  
 それを理解して、もう一度視線を戻して、見上げてみる。  
 やはり水底に沈んでいるような光のゆらめきを放つ天蓋だった。  
 
 ……天蓋じゃない。  
 数メートル上はほんとに、水なのだ。  
 あたしは、料理を運んでくる銀の盆にかぶさってる蓋のような僅かな空間に、そこだけ空気がある空間に、閉じこめられているのだった。  
「落ちものって意味、ようやく理解した?」  
 顔を覗き込まれ、視界のほとんどを赤黄色のヒレが埋める。  
 整った顔立ちに浮かぶ感情は、意地悪な好奇心。  
 あたしの上に寝そべるように空中に浮かぶその人は、優雅で、残酷に微笑んだ。  
   
 その空間のどこかで、こぽこぽという音がしていた。  
 それ以外はまったくの静寂。衣擦れの音さえしない。それもそのはず、相手はほとんど衣装を身に纏っていない。  
 髪に見えた部分はほとんどヒレで、つんつんして見えたのはトゲだった。手首の飾りもヒレ。  
 ホルターネックのドレスも、よくみると膝下で足ヒレに覆いかぶさるように終わっていた。  
「落ちものは拾い主のもの。つまり落ちものっ娘は、このファルムのもの。妙な海藻っきれもね」  
 ファルムと名乗ったその人がつまみあげていたのは、あたしの紺のハイソックス。  
「…靴下」  
 あたしは抗議を込めて、かすれた声で呟いた。  
「……なんだい?いきなり口をきいたと思ったら。醜く乾いた唇を永遠に塞いでやろうか?」  
 確かに喉は渇いていた。  
 なんだか口の中がしょっぱい。  
 
 それでも相手を睨んだあたしの態度に、美しい赤黄色のヒレとトゲを身に纏うその人は、大仰に顔をしかめて見せた。  
「……いやだねえ。この肢体に巻き付いた他の海藻も剥いでしまおうか?」  
「やっ」  
 思わず身を縮めて丸くなる。ファルムが指差していたのは、あたしの制服だった。  
 横向きにはなれたが、未だ体は微かにしびれていた。それになんだか体が重い。起き上がるまでには至らない。  
「落ちものは、纏う色彩が少ないから、陸の奴等のように服に凝るというけどねえ」  
 爪のように指の上に手首のヒレから持ってこられた赤いトゲが、あたしのヘソ辺りに伸びて、セーラー服の裾をめくる。  
 キャミソールも一緒に引き上げられてすっかり冷えた青白い肌があらわになる。  
 不思議とその方が肌が温かく感じられた。  
 そういえば、くしゃみも何もしていない。  
 けっこう、ここはあったかいらしい。  
「この下の腰ヒレに見えるものは……どれ、ああ、ここでひっかけてあるのだねえ」  
「ちょっ、やめ」  
 手で押さえようとしたが遅かった。ファスナーの方が上になっていたため、容赦なく紺プリーツスカートのファスナーが降ろされ、ショーツが見えた。うう。今日は白だ。絶対透けてるう。  
 だんだん体の自由は利くようになったのに、体が持ち上がらない。  
 ここは…。  
 もしかして、水圧?  
 瞬きして辺りをきょろきょろと見回すあたしに、頭上から声がかかる。  
「この腰ヒレもとりはずしできるのかい。ふふ……落ちものは面白いねえ」  
 その声と同時に腰の下に何かが潜り込んだ。  
 
 足?  
 ちがう、ヒレ…ひゃっ!  
 体が突然持ち上げられたように空に浮く。  
 ふわふわとプリーツスカートが水に舞って、そのまま容赦なく相手のトゲによって脱がされた。胸を腕を交差させて押さえる。ちょうど水中に立っているようにあたしは浮かび上がっていた。  
 相手と視線が合う。  
「なんだか……ヒレもないつるつるの脚っていうのも、そそるねえ……」  
 目つきが、さっきまでのいたぶりや好奇心とは違っていた。  
 そう、例えるなら欲情。  
 欲情?  
「その白い布っキレの下に透けてるのはなんだい?髪と同じ色だねえ……」  
 いたずらをしかけるようにトゲではない指が、あたしの股間に触れた。  
「え?あっ」  
 あたしは慣れない感覚に戸惑いながらも泳いで逃れようとするが、すでに腰に手を回され、ファルムは背後にまわっていた。  
 透けてる、あそこって……その、下の毛のことだよね?  
「んっ」  
 なんだかぬるぬるしてるものを塗り付けられているような感じ。  
 そして、体の力が別の意味で抜ける。  
 こすりつけ、すりあげ、かすめるように優しく股間を撫で、いじくる指の動きに、だんだん相手に身を任せるように寄りかかってしまう。  
「……いいこだね。そのままいいこでいればトゲもささるまいさ」  
 腰に回っていた腕がそのまま腹をはい上がり、セーラー服をめくりあげる。キャミも一緒に巻き上げられて、お気に入りの白いブラがあらわになる。  
「ヒトの胸飾りはおもしろいねえ」  
 愉しそうな声とともにぶらがそのまま上にずらされ、胸があらわになった。  
 あたしは恥ずかしくて目を閉じる。  
 いつのまにか股間の指の他に、お尻の方にも圧迫感を感じるようになっていた。なんだか、硬くて熱っぽい。こんなヒレ、あったかな……。どうでもいいやあ……。なんか気持ちいいんだもん。  
 
 と、その時、股間の指がショーツの下に潜り込んで直接皮膚に触れた。同時に耳にねっとりとした感触。  
 あたしは後ろから抱きしめられ、ファルムの腕の中で股間をいじられ、胸の先を指で転がされ、耳をしゃぶられ、ぴくぴくと水揚げされた魚の様に跳ねていた。  
 あたしの中から滲み出てくるさらさらとした水をすくい上げ、周りに塗り付けるようにファルムの指が動く。先程まで背中に感じていた豊かな胸の圧迫が少し減り、そのかわりにお尻の割れ目に棒のようなものが押し付けられ徐々に、こすりつけるように出し入れされた。  
「あっ、あ………やっ、なんかあたるう」  
 そういいながらもあたしは脚を閉じ、股間に▽の隙間があくだけになる。そこを気持ちイイものがこすりあう。  
「そうかい?」  
 指がするりとショーツから抜け、ショーツの上からクリをいじりはじめる。それと同時に熱くて硬いものが股間にしきりとこすりつけられ、行き来した。  
 あたしは自分で指を噛み、こらえていたが、自然と声が漏れる。  
「はあっ、……なんか、きもちいよお……」  
 ファルムの全身がぞくっと震えた。  
 ショーツの股間に当たる部分をいきなりずらし、あっついものが、あそこの入り口に触れた。  
 押し込むように入ってきて、あたしは、痛みに大きく体を反り返らせた。  
「やっ、いたっ、いたいっ、やめてよおっ」  
 両腕はいつの間にかファルムにしっかりと握られ逃げられない。  
 あたしは前のめりに崩れ落ちて、ファルムの加重とともに、膝が砂にのめりこんだ。  
 焼けつくような痛みがお腹の入り口に拡がる。  
 苦しんで悶えるあたしに、ファルムが他のとは違う色のトゲを刺した。  
「……これで、すこしは苦しくなくなるよ」  
 ちくっとしたのもつかのま、なんだかほんのり体が熱くなった。  
 
 焼けつく痛みが、少し、退いて。  
 あたしは吐息をついた。  
 体の力が、緩む。  
 そこを、一気に貫かれた。  
 脳天にかちっとフラッシュがほとばしる。  
「あっ、あぁ……はあっ………」  
 熱い塊がお腹の中をかき混ぜるように押し入ってくる。  
 両腕を後ろから掴まれ、腰は深々と相手の太股の上に密着している。  
「……おや、最初から全部飲み込むとは、貪欲な落ちものだねえ」  
 妙に冷静な艶やかな声が、耳元で囁かれた。  
 あたしは自分の痴態に、かあっと頬を赤くする。  
「けれども、この感触……イソギンチャクよりねっとりと締め付ける。なかなかの掘り出し物だね」  
 ぐちゅぐちゅと腰から音が漏れる。  
 ファルムが動く度にあたしの喉から、信じられないような甘い嬌声が上がる。  
 太股を粘液が伝っていく。  
 もう、ファルムもあたしもぐちょぐちょで腰が繋がってしまったように溶けている。  
 きもち、いい……、きもちいいよお…。  
「どうだい?落ちものもイイものだろう?」  
「はあっ、なんか、きもちいいのお……もっとしてえ」  
「ほんとに貪欲な小娘だね」  
 舌なめずりが聞こえる。  
 そして再度耳をねぶられた瞬間、あたしは身を反り返らせてイってしまった。  
 軽い脱力感の後に、ぱんぱんとお尻に打ち付けるファルムの腰の音を聞いてしまう。  
 それを自覚するとまた感覚が蘇ってきた。  
「ふぁっ、もぉ、もぉ、らめっ、らめらよお……」  
 
 懇願すると、少し湿り気を帯びた声が返ってきた。  
「じゃあ、出してくださいってお願いするんだよ?」  
「んっ、ふぁ、らぁしてぇ、くらひゃい……」  
 我慢できなくて、おねだりの言葉がろれつの回らない唇からついて出る。  
「よくできました…っ」  
 深くえぐりこむようにさし貫いた熱い塊が、びくっ、と震え、どくどくと震えながらゆっくりと引き抜かれた。  
 あたしはその感覚にも再度いってしまい、戒めを解かれた両腕とともに砂の上に倒れ込む。  
 ショーツはどろどろのぐしょぐしょで、中からあふれ出るものでおもらししてるように熱かった。  
 
 中、出し、されちゃった………。  
 
 それが、あたしの反転する前の最後の意識だった。  
 
 
「おや……起きたかい」  
 目が覚めたのは、珊瑚に囲まれた豪華な天蓋つきの寝台の上だった。  
 あたしは気怠い体をシーツに放り出したまま、薄目を開けて自分の髪を撫でる相手を見た。  
 上半身裸で、下半身はあたしにもかかっているシーツの下に消えている。トゲは見当たらず、あたしに触れる面はヒトと同じような白い肌とやわらかく漂う赤黄色のヒレだけだ。  
 さっきのファルムによく似ていたけど、全く胸が無かった。  
 兄妹かなんかかな……。  
 う………あたしのえちいとこ、見てたのかなあ…。  
 ほんのり頬が染まったのか、その人は機嫌よさそうに笑った。  
「おや、……精を交わしたのを思いだしたのかい?」  
 つるりと何も身に付けてない尻をなでられ、あたしはびくっと海老ぞりになった。  
 え?ショーツは?  
「あれは洗濯に回したよ。……あんな匂いの染みついたものをいつまでも履かせておくわけにもいかないからね」  
 ……あの。あなたは……?  
「まだわからないって顔しているね。じゃあこれじゃどうだい?」  
 その人が指を鳴らす。  
 その途端、その人の胸が思いっきり膨らんだ。  
 その姿……っ!  
 たわわな爆乳を妖艶に押さえながら、ファルムが嗤った。  
「浮き袋の擬態程度で驚くとは、落ちものの小娘には知恵がないねえ……」  
 そりゃ驚くって。  
 尻をなでられる度に先程の余韻に身をよじるあたしを眺めながら、ファルムは呟いた。  
「このファルムの精をたっぷりやったんだ。名はシロにしようかね」  
 え、そんなあたしにはちゃんとした……ちゃんと、し、た?  
 固まったあたしを見て、ファルムが溜め息をつく。  
「……この海の底に来る前にかなりの距離を空中から落下したようだからね。記憶が飛んでもしかたないねぇ」  
 枕元のサイドボードに用意してあった飲み物を与えられ、喉の渇きをいやす。  
 その間も落ち着かせるように再度頭を撫でられ、あたしは、なんだか涙腺が熱くなるのを感じた。  
 あたし、落ちもの……なんだ……。  
 
「……困ったね。ヒトはなんで涙ってやつが出るのかね。そんなに泣くと、もう一度鳴かせるよ?」  
 あたしは飲み終わると器を返して、寝台に倒れ込んだ。  
 頬を何かが伝った。  
「泣いてっ、泣いてないもん……」  
 ファルムは拭いはしなかった。  
 その代わり、低く脅しめいたからかいの口調で告げた。  
「…そんなに鳴かせて欲しいかい?」  
「…もう腰がたたないもん」  
 あたしは呟くとシーツにくるまって丸まる。  
「やわな小娘だね」  
「しらない」  
 相手の胸に頭を押し付けて、あたしは再度呟いた。  
「知らないもん……」  
 ファルムはそれ以上何も言わず、あたしはまた眠りについた。  
 

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