窓辺に立つ。眼下には夜景が広がった。
夏には花火、冬は空気のおかげで遠くまで見渡せる。
出る所に出れば、100万ドルの夜景と言う奴だろう。
でもここに立つと不思議と思い出すのは、
18までの殆どを過ごしたあの安アパートの事だ。
冬は隙間風に、夏は虫に苦しめられた。
洗濯機とテレビを一緒につけるとブレーカーが飛んだし、
電子レンジなんて者はアパートごとブレーカーが飛ぶという事で禁止されていた。
近くの工場からはいつも誰かが喧嘩をしている声が聞こえていて、
隣の八百屋からは安っぽい歌謡曲が一日中流れていた。
勿論、昔々の話じゃあない。ほんの10年から15年程前の事だ。
皆はテレビゲームを持っていて、テレビにはビデオデッキが付いてた。
夏休みにもなればクラスメイトの殆どは友達同士でディズニーランドに遊びに行ってた
だから、俺のあだ名は最初「貧乏」だったし、
それが縮まって「ビン」になったのもそれはしょうがなかったと言える。
だって皆がディズニーランドに行っている時に
俺ときたら近所の無料解放のプールしかなかったのだし。
無料解放のプールなんて物は幅10M、長さ25Mのでっかい穴ぼこに水が溜まってるだけで、
小学校の低学年ででもなけりゃ、恥ずかしくって行けたものじゃない。
だから俺は夏休み中、一人でそこに通っていた筈だ。