「早苗っ!」  
僕は、どこまでもどこまでも追いかけてた。  
なぜか僕を避けて通る…。  
夜中に僕の部屋を外から見てるのを、  
僕はカーテンの隙間からこっそり見てた。  
 
「やめて……信也」  
薄暗くて、よく見えないが、シルエットは早苗そのものだった。  
ポニーテールがゆらりとゆれ、僕を一瞬見たのが分かる。  
「どうして、どうして逃げちゃうんだよっ!  
……絶対様子が変だ……早苗、答えてくれよ……」  
本当に心細かった。お前が学校休んでるのも、お前のうちにいってもいなくて。  
一日一回だけ届くメールが頼りだったから。  
「……もうだめなの、貴方に、貴方には、もう……会えないよ……」  
もう、ボロボロで、泣きそうなくらいに脆い彼女の声が聞こえた。  
なぜ、そこまで、彼女を追い詰めるのか……見当もつかない。  
「……もうそこに、君はいるじゃないか、早苗」  
僕が一歩踏み出そうとしたとき、月の光が、森を照らした。  
月に写った早苗の体は、獣のような毛が生えていて…・・・もう、両腕は、  
人というよりは、大きな犬……狼のような……そんな感じだった。  
両耳も毛で覆われてしまっていて、大きく尖ってしまっていた。  
服も、何日も変えていないようで、薄汚れて、擦り切れてしまっていた。  
 
「……信也……ダメだよ……私、もうすぐ、完全に人じゃなくなっちゃう  
だから、信也に会うの、拒んでた……、なのに」。  
 
僕は唖然としていた……けれど、ここで引いたら、一生会えなくかもしれないから……  
「そんなの……そんなの、関係ないっ!」  
僕は大きくもう一歩、彼女の元へ歩を進め……  
 
「来ないでッ!!!」  
大きく開いた口、そこに鋭い牙と歯たちがギラリとして、  
決意がなければ……彼女がじゃなければ、逃げてたと思う。  
 
でも、君だったら、僕は……殺されてもいいから。  
だから、逃げないで……ひと時でもいい、僕は君に触れたい。  
 
 
 

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