その日は、午前中までは平凡な一日だと彼女は感じていた。
平凡でなくなった始まりは昼食後、体に違和感を覚え、トイレにたった。
下着を下ろし、トイレットペーパーを片手にしゃがみこもうとした時に気がつき、そのまま大慌てで保健室に駆け込んだ。
それが初経。中学1年なので、年齢的には珍しいことではないのだが、下着が汚れているのだから慌てざるをえなかった。
保健室でナプキンを貰い、ぎこちなくショーツに取り付け、落ち着いて午後の授業を何事もなく済ませ、家に帰宅。
それから、彼女の周りから彼女の考える「平凡」が消えていった。
「ただいま」と園丁やメイドに挨拶をする。
彼女こと天姫(あまき)の家は非常に大きい。いわゆる「お屋敷」である。
ただしこれは、彼女が生まれてから12年の間、耐えることなく存在した日常なので「平凡」の内、
下校の途中に女性のSPが付くのも、庭に花園や噴水つきの池があるのも、彼女にとっては「平凡」で、
母親の知華(ちか)が世界に名だたる会社群のほぼ「独裁者」であることも「平凡」ということになる。
天姫は毎日の朝食と夕食を母親の知華と二人だけで食べる。この家庭には父親はいない。
母親の知華は百を超える会社を背負っているはずであるのに、忙しいという様子を見せたことはなく、
必ず朝食夕食を天姫と食べ、話したい時に話すことができ、時には一緒に散歩や買い物、遊びに出たりすることもある。
不思議に思った事もあるのだが、実際にお屋敷は維持され、連れられて行った母の会社では社員達が母に頭を下げる。
一度、天姫はその事を知華に聞いてみたのだが、そのときの答えは
「ママはママだから大丈夫なのよ。それに、あなたもいつかできるようになるわ。」
という全く要領を得ないものだった。
いつも通りの夕食の食卓で天姫は初経が来たことを知華に告げた。
知華は少し驚いた表情の後、優しい笑顔で意外なことを言い始めた。
「おめでとう、天姫ちゃん!これであなたも一人前よ。」
ここまでは普通だろう。問題は次だ。
「もう“一人立ちできる”のだから、あなたに“自分の家”をあげなくっちゃね。えーと、どこがいいかしら?」
突然の話に頭が付いてゆかない天姫。どう答えたらいいのか考えているうちに、
「あら、決められないの?…そうね、最近はどこも環境がわるいものね。」
もはや、完全についていけない。
「あ、少し遠くなるけど出来かけの住宅地があったわね、まだ空いてる土地を買い取って公園をたくさん作って
道路に街路樹を多く植えるようにしてもらえば静かで落ち着いたお家にできるから。うん、そうしよう。」
何がなんだか分からない。そうこうする内に1ヶ月と半月が過ぎてゆき、
「さぁ!これが“あなたのおうち”で、私からの最後のプレゼントよ。アドバイスはできるけど、できるだけ自分で頑張ってね。」
と、可愛らしい一戸建住宅の前に一人で置いて行かれるまで、母親の行動の濁流に飲み込まれっぱなしだったのだ。
天姫は“自分の家”の玄関の前でしばらく呆然としていた。屋根の上に付けられた風見がからからと音を立てる。
12年間住んでいた家から放り出されてしまったのだから、そうならない方がおかしいだろう。
とりあえず天姫は家の中に入ることにした。
「お邪魔…えーっと、ただいま、かしら。」
当然、家の中には誰もいない。居間、客間、和室、ダイニングとキッチン、二階には寝室、
寝室には、“数時間前の自室”にあった家具が運び込まれていた。お気に入りのカーテンもしっかりと掛かっている、
しかしどうもおかしい。寝室の隣に、二つの部屋がある。中にはそれぞれ二段ベッドが二つづつ。
家自体も見た目は可愛らしいのだが全体的なつくりが大きく、一人で暮らすには広すぎる。
家政婦さんでも雇いなさい、ということだろうか?だとしても今すぐに雇うというわけにもいかないし、
支払うお給金等はどうしたらいいのか、…母親に聞くしかないだろう。
ちょっと少女には荷が重過ぎるようなことを考えながら、居間のテーブルの周りのソファに座り込む。
と、ごつん、と足の先に触れる物があった。
「?…何かしら、この箱。」
そう、リボンの掛かった、いかにも『プレゼント』な箱がテーブルの下に置いてあったのだ。
意外に重いその箱をテーブルの上に持ち上げてみると、封筒がはさんであることに気がつく。
「えーと…『最後のプレゼント・付録 母より』?」
天姫は急いで封筒を開封し、急いで中の手紙を取り出し、急いで広げ、急いで読もうとした…
が、書いてあったのはただの一文。
『急だったから戸惑っているかもしれないので、箱の中のジュースでも飲んでもちつけ』
(右下には餅を搗くキャラクターのイラスト入り)
思わず頭でテーブルを搗く天姫。
天姫の頭の中に母親に対して言いたいことが色々と溜まってきたのだが、
現在の母親は恐らくまだ車の中、忙しいはずなのにどういうわけか携帯電話の類を持っていないので連絡はつかない。
仕方がなく箱を開けてみる。
「あれ、このビンは…。」
天姫はその一升瓶の中の液体に見覚えがあった。
「わぁ!“誕生日ジュース”!」
説明しておくと、このジュースは毎年、天姫の誕生日だけに知華が作るもので、非常に美味しい。
「…でも、今日は誕生日じゃないのに?」
疑問に答える人間はいない、目の前の紙には『ジュースでも飲んで』と書いてある。
すこし悩んだあと、キッチンからコップを持ち出してきて、ジュースを注いだ。
ふわっとジュースの香りが立ち上る。
コップを持ち上げて、中で波打つ金色のジュースをしばし眺め、そして一口飲んだ、飲み込んだ。
しかし。
「げほっ!けほっ!けほっ。な、なにこれ。味が、濃いよっ。」
味が濃いだけではなく、舌がピリピリとして、なんとなく重たく感じる。薬や酒成分が混じっているような味もする。
あまりの味に視線がさまよった時に、箱のジュースの下になっていた場所にメッセージカードがあることに気がついた。
「うー、あー、『原液なので5分の1に薄めて飲むこと』…うえー!?もう!ビン自体に書いておいてりょ」
舌がピリピリして上手く回らない。体がふわっとして、立ち上がれない。
キッチンで、コップに残ったジュース原液をガラスポットに移し、ミネラルウォーターを加えた。
まだ口の中にはさっきの味が残っている上に、なんとなくふらふら、くらくらする。
「おかーさまっらら子供り何を飲ませへいたのよ。もう!」
まるで酔っ払ったような状態になり、ジュースを作った母親、ここにはいない者への文句を口にしながら
水割りしたジュースをコップに注いで、そのまま、一気に飲み干した。
口からのどにかけて広がる、甘くて爽やかな味。思わずため息が出てしまうほどの味。幸せの味。
飲み終え空になったコップを持ったまま、ちらりとガラスポットを見る。まだ数杯分はありそうだ。
「…甘いから太るぁよね。」
一度視線を泳がせたあと、もう一度ガラスポットを見る。
「あぁ、れも…もう…一杯うらいだいじょーぶあ。」
というわけで、もう一杯。軽くて円やかな味、不意に背筋がぞくぞくする味。愛すべき味。
「もー、もーいっぱい!これれおしまい!」
もうとまらない、次の一杯。嬉しくて楽しい味、幼児のようにはしゃぎたくなる味。命の味。
そして、本能の味。
三十分後、一升瓶の中身は3分の2ほどに減り、天姫はふらふらと空中を見つめていた。
(ずんっ)
体が支えられなくなってきたのでソファに寝転ぼうとして体勢を変える。
(ずくんっ)
ぼやけた視界に、玄関に繋がるドアが目に入る。
(どくんっ)
「らあ…、そーだ…。」
(どくんっ!)
「…いってこなきゃ。」
(どくっ、どくっ、どくっ、…)
天姫はふらりと立ち上がって、ドアを潜り抜け、玄関に向かった。
「気持悪い、邪魔ね。」
玄関で屈みこみ、スカートはそのままに、ショーツだけを脱いで、フローリングの床に投げ捨てた。
ショーツが落ちた時、水っぽい音が聞こえた。
気にせずに靴を履いて外に出る。まだ昼、太陽がまぶしく輝いている。
入った時のままポケットに入れていた鍵で玄関を閉めた後、天姫は足元の影を一瞬見て顔を上げた。
「ほぼ南。」
一言呟いてから周りを見渡し、ある方向で視線を定めた。
「ここから南西、距離は2.3km」
何故そんな事が分かるのか、まだ天姫自身にはわからず、微かな恐怖を感じた。
しかし、それが“今狙っている目標”であることだけは分かっていた。
「逃げないでねっ!」
そのまま、天姫は猛然と走り始めた。
今まで、天姫は運動オンチもいい所だった。
一通りのボールが直撃し、一通りの運動器具から落下し、競技とあれば常に最下位だった。
では今、屋根や塀、果ては電線の上までをも走り、跳んでいるのはどういうわけなのか、
天姫は、半分その事に不安を感じ、また半分でそんな事はどうでもいいと思っていた。
目的まであと300m、250m、200、150!、100!!
丁度そこで屋根や塀が切れ、この先の“足場”の無い状態になった。公園である。
足場である屋根の残った距離は徐々に縮まってゆく。
屋根の先に、木はある。しかし木を足場にすれば派手な音がする。
他人にこんな事をしている自分を見て欲しくない。
地面を走れば、人目に付く。
それはこれからする事の障害になりうる。
もう足場となる屋根はない。走っている勢いは殺せない。
屋根が尽きる。足が空を切る。思わず目を閉じる。足の下には何も無い。
(見られたくない!)(目立ちたくない!)
天姫の耳に、何か、機械の出す低音のような音が響いた。
目を開けると、茂みの中にいた。周りを見回すと、“目標”が近くに居る事を感じた。
何が起こったのか気になった。が、目的を果たす事の方が先だ。
茂みの隙間から“目標”を感じる方向を確認する。その視線の先にいたのは、おとなしそうな幼い少年だった。
考えをまとめるために心の中で呟く。
(顔や肉質は悪くないけど、わたしより1つか2つも若い。まだ役に立たないかしら…。)
まずは相手に対する悩み、そして、
(切羽詰ってるとはいえ、先に調査するべきだったわね。)
後悔が滲む。一度、視点を落としてため息をついた。
「…まぁ、いいや、今は間違いなくチャンスだし、今を逃すと“自分以外”に取られるかもしれないし。」
自分に言い聞かせたあと、乱れたロングの髪を手櫛で簡単に整え、茂みから出て、少年へと近づいた。
「キミ、ちょっと一緒に来て。」
このご時世には少し直球すぎる誘いだったのだが、少年は素直に従った。
ただし「素直」という言葉に「正気を失っている場合も含む」という付け足しが必要であるのだが。
そのまま二人は公園外れのトイレへと歩いていった。
女子側の洋式の個室に二人で入る。
便座の蓋の上に座らせられた少年の目には理性の光は無く、天姫が服を脱ぐのを、とろんとした瞳で見つめていた。
天姫は続いて少年の靴を脱がせて、被服を剥ぎ取り、そのまま少年の幼いものにキスをして、頬張る。
少年がか細い声を上げる。声が聞かれてはまずい。
先ほど脱がせたズボンの中にあった下着を丸めて、持ち主の口の中にねじ込む。これで安心。片腕で少年の腰を抱く。
少年のものを愛撫するのに専念する。次第に天姫自身の雌の部分が焦れったくなってきたので、片手の指を滑り込ませる。
そんな事をするのは始めてなのに、指先は動き方を知っていた。
一度、奥から粘液を絡め取り、滑らかになった指先で敏感な部分を擦り上げる。快感の初体験に体が痙攣する。
今度は奥の方が刺激を求める。べとべとになった人差し指を管に突きこみ、中で指を曲げて掬い上げる。
まだ足りない、中指も中へ、管は二本の指を優しく咥え込む、そのまま掻き回す。一端引き抜いてもう一回突き込む。
トイレの中に布に遮られた少年の微かな呻き声と、粘っこい液体の音が響く。
しばらくすると天姫は口の中にその味を感じた。大丈夫。もう使える。
次の行動に移るため、少年のものから口を離し、がばっと体を起こした。快楽が突如絶たれて目を開ける少年。
天姫の細くて白い腕が少年の首に絡みつく。濡れた秘所を少年のみぞおち辺りにこすり付け、
そのまま腰の辺りまで持ってゆくと、小柄なお尻のくぼみに少年の幼く硬くなったものが触れた。
天姫は腰を捻って骨盤周辺の角度を変え、少し体を落として、それの先だけを自分の中に受け入れた。
(へぇ、痛くないんだ。)
もうすこし楽な姿勢に出来ないかと腰を捻ると、それは微かな音を立てて自分の体から抜けてしまった。
やり直し、痛くないことが分かったので、今度は一気に腰を下ろす。今度はしっかりと咥え込んだ。
少年のものは指ほど強くは無いが、自分の意識の外のものなので異物感があり、それが新しい欲感をもたらした。
くわえ込んだものが外れないように少しずつ腰を振る。次第に振り幅が大きくなる。
刺激と欲感を求めるうちに振りが大きくなりすぎて、引き抜けてしまう。それも刺激をもたらす事を理解する。
三度、体の中に少年のものを呑み込む。これも刺激。腰をぐりぐり押し付け、引き上げ、揺らす。
分泌物で二人の下半身が濡れきった頃に、天姫は胎内に微かな熱と微かな圧力を感じた。
しかし、まだ足りない。もっとたくさん欲しい、もっと奥に欲しい。
少年の腰を抱いて、持ち上げる。少年の口をふさぐ布を排し、自分の口で覆う、後ろの壁にもたれかかり、
足を開いて胎をお腹の前にまで突き出し、その先端にある嘴状の秘所の管の中に少年のものを咥える。
天姫は自分の姿や動かせる場所に疑問を抱いていなかった。
(今、目の前にある最高の快楽が手に入るんだったらなんだっていい。)
胎をゆらゆらと揺らして、少年のものに精を吐き出させる。一度吐き出させてもまた次の精を求め、激しく責める。
次第にちゅぶっ、ちゅぶっ、という生々しい音だけが大きく響くようになる。
大きくなった音と逆に天姫の胎内に流れ込む精の量が減っていった。
(この子の命に関わるかしら?)
少年の首筋に手を当てる。
(…まだ大丈夫ね、ちゃんと脈をうっている。)
唇で少年の舌の感触を楽しんだあとで、口を離す。少年は開放された口を使って荒い息をつきはじめた。
(でも長くは保たない。)
首筋に片腕を絡め、両腕で少年の体を抱きしめ、片手を少年の足の付け根に伸ばす。腕の数に気を止める事は無い。
(最後に残ったのも出して貰うわ。)
天姫の細い中指が少年の排泄器官に滑り込み、内臓の壁を抉るように動いた。
「うぁあうぅーーーーーーーー!!!」
少年が悲鳴を上げる。体はがくがくと震え、目は見開かれる。
同時に天姫の胎内に熱い精が放たれた。
汗や自身の精液、天姫の愛液に塗れてひくひくと痙攣する少年を便座カバーの上に寝かせ、
そこで天姫はやっと少年のものを解放する。少年のものの先端から、天姫の開いた嘴のような生殖器の先端まで粘液が糸を引いた。
天姫が胎を正しい位置に戻すと、生殖器の先端から微かにこぼれた何らかの液が床に新しい液溜まりをつくる。
(この子、明日明後日まで自分では立てないわね。)
天姫は少年のシャツをタオル代わりにして汗や体液を拭い。それから服を身に着けた。ショーツは…家に置いてきたっけ。
(精を提供してもらった分、誰かに見つけてもらえることを祈ってるわ。)
服を着たあとであることに気がつき、脱ぎなおす。脱いだ所でシャツの背中側を首の穴から大きく破く。
(まぁ、親が見たら悲しむかもしれないけどね。)
天姫は破いたシャツに袖を通し、上着を手に持ち、トイレの外に出た。
そして強い西日に目を細めたあと、ヴゥンという低音が響かせて天姫は空へ舞い上がった。
立ち並ぶ家がミニチュアのようだった。高層ビルの窓から眺めた時、飛行機から眺めた時にも見た記憶がある。
しかし開放感が違う。天姫は自らの翅で跳んでいるのだから。不意に笑いがこぼれる。
大人しいお嬢様として過ごしてきた12年の間には、そんなに激しく大きく笑った事は無かった。
視界に風見の着いた大きく可愛らしい家が目に入る。苦労して走ったのに、空ならこんなに近い。また笑いたくなる。
玄関前に降り立ち、ドアを開けた。
「ただいま。」
家に帰った安心感からか、体に大きな疲れがのしかかってきたのでそのまま自室のベッドに飛び込んだ。
闇の中で天姫は目を覚ました。何か痛みが走ったような気がしたからだ。
ここは何処だったか、今は何時ごろなのか、いつ眠ってしまったのか。
一つ一つ記憶を辿る。その内に自分がしたことと自分の体についてのことを思い出した。思い出してしまった。
「あ…ああ…いやあっ!!」
毛布を跳ね飛ばし、壁際に後退りした。ベッドの前に鏡台があった。そこに自分が映る。
「嘘!嘘!嘘よ!わたし…嫌ぁぁぁあああああああっ!!」
体中ががくがくと震える。震える自分の体を見て、痙攣する少年の姿を思い出す。罪の重さに涙がぼろぼろとこぼれる。
気がついてみると下半身は裸だった。布団に入る前にスカートを脱いだ、そのずっと前にショーツを投げ捨てた。
天姫のまだ未熟な性器から、雌と雄の臭いが立ち上り。それが天姫のパニックに拍車をかける。
「嫌!嫌っ!…助けて!あんな…あんな…う…うう…う!?」
不意に、体に激痛が走る。
「痛っ!痛いっ!」
一瞬、天姫は罪に対する罰をうけているのかと考えた。しかしその考えも痛みにかき消される。
痛みは下腹部からのようだった。うつぶせになり両手で臍から下の辺りを押さえる。
何も考えていられない。ただひたすらに痛みが走る。しばらくすると痛みに加えて、胎内に異物感を感じた。
痛みの中心に少しでも近づけようとでもしていたのか、天姫の両手の指が膣口にねじ込まれる。
ひときわ大きな、裂けるような激痛で体が跳ね、腕はバネ仕掛けのようにベッドに叩き付けられた。
痛みに小ぶりなお尻が高く突き上げられた時に、ベッドの上に何かが転がった。
痛みが治まった。いや、まだ微かに痛む。
天姫は肩で大きく荒い息をしながら、傍に転がる“それ”を見た。
薬ビンぐらいの大きさのクリーム色のカプセルのようなもの。なぜか涙が溢れる。なぜか愛しい。
また痛みが走る。しかしさっきほどのものではない。
天姫は謎の物体の向こうにある鏡台の鏡にお尻越しに覗き込む自分の顔を見た。と、痛みが酷くなる。
痛みを堪えるために四つんばいになる、痛みの中、今度は股越しに鏡が見えた。
そして鏡は膣口からそれが産み出される瞬間も天姫に見せた。
そこで理解した。ああ、こういうことだったんだ。
その感情に反応したかのように、3,4本目の腕が体の支えに加わり、
見えないけれど、額には触覚が、背中には翅があるようだ。
そして股の辺りから胎がずるりと生える。胎の先端の産卵管から新たな卵がこぼれおちる。
それから天姫は5つの、計8個の卵を産んだ。
胎と翅と触覚をだしたまま、4本の腕で体育座りをして、ベッドの上に並べた自分の卵を眺めていた。
何も起こることは無いかと思い始めた夜が明け始める頃に変化が起きた。
卵にシルエットが映る。不可思議なラインが変動し、何か整った形になる。
と、一つの卵の先が弾け、そこを潜り抜けて現れたのは触覚と翅と四本の腕を生やした小さな少女だった。
天姫は妖精のようなその少女を招きよせ、抱きしめた。
そういえば、学校の送り迎えの時に自分を守ってくれた女性SPは、
また家の管理をつかさどる執事長の女性は、母に付き従う女性秘書は、皆どこと無く母親の知華に似ていた。あれは、
『そういうことです、女王(クイーン)。』
心の中に声が響く。妖精のような少女をみる。このおちびさんが語りかけているようだ。
『私達は女王の手、私達は女王の力、そして女王の知識は私達の知識であり、逆に私達の知識は女王の物なのです。』
声が響くたびに母親の偉大な理由を理解した。また自分も努力次第でそうなれる事を感じた。
もう、恐怖は感じない。この卵達や、おちびさんの父親である少年に対する罪悪感は少し残ったが。
他の卵からもおちびさんが生まれ始める。そろそろ朝。
明日は、9つに増えた体で何をしよう?
「もしもし、お母様ですか?…はい、大丈夫です。…はい、やっと慣れてきました。ふふふ、手の数が多いですから。
…そうです、はい、そうです、8人もいます。…はい、ではまた。」