・・・辺りには紅葉のもみじ。狂おしいほどの赤色。落葉で地面まで真紅のじゅうたんのようだ。  
でも、僕には、そんな幻想的な風景さえ、目の前の少女を前にしてはとりたてて美しいとは思えなかった。  
「秋ちゃん・・・。私、わたしね・・・?」  
赤く映えるワンピースをまとい、頬を赤く染める僕の幼なじみ。彼女が言うだろう言葉はほとんど僕はわかってる。  
(そうじゃないそうじゃない!彼女からじゃだめだろう!)  
だって、僕は男だから・・・。理由なんてそれだけだけど、僕には一番説得力があるように思えた・・・。  
「待って、僕から言うから・・・」  
ありえないくらいの心拍、意を決して、僕は告げる。  
「ずっと、ずっと前から、僕は、もみじのことが・・・」  
いい終わらないうちに、彼女に涙ひとしずく、僕の背中に、彼女の細い腕、目の前の彼女の唇。  
(僕は、僕は…)  
 
「美秋くん?ねえ、美秋くーん?」  
 
・・・え?  
「美秋くん、寝てちゃあだめじゃないの?」  
あれ?もみじのくちびる・・・。  
「・・・?どうしたの?そんなに惜しい夢だったの?」  
本当に疑問に思ってるのだろう、もみじは不思議そうな顔でぼくに訊く。  
(ああ、そうか・・・)  
ようやく目が覚めてきた。  
 
僕の名前は藤野美秋。今日は図書館で幼なじみで・・・僕のおもいびとの・・・藤野もみじと勉強のはずだった。  
そうだよな、僕がもみじとキスなんて・・・。  
「美秋くん、無意味におちこまないでよ。・・・ま、いっか。結構やったしね。商店街いこっか!」  
もみじはそれなりに勉強が進んだのだろう。僕は、そんなに進んでないけど、もう嫌になってしまった。  
「・・・そうだね。そうしようか・・・」  
 
・・・夏休み、そこらじゅうから蝉の声。意地悪な太陽のひかり、やけるような空気。でも。  
となりには、真っ白のワンピースを着たもみじ。長くて黒い彼女の髪がよく似合う。・・・すごく、かわいいと思う。  
彼女と居れば、暑さを感じない僕は、多分、彼女の熱でやられてる。  
 
(あーあーあー!違う違う、こんなこと考えてるのはまだ頭が眠ってるからだ!)  
いまどきこんな表現考えるのは夢見る文学少女くらいだよ!・・・と、否定しても、僕はそう思ってるんだろうな。はぁ。  
アイスでも食べようかな。やっぱり暑いや。そんなことを考えながら、夕方に二人で商店街を歩く。と、ふと、もみじが  
尋ねてきた。  
「ねえ、美秋くん。いったいどんな夢みてたの?やけに真剣な顔だったけど」  
 
うわぁあぁぁぁぁ!!言えるわけねーだろ!てか、いったいどんな顔してたんだよ!・・・あぁ、いかん!顔が熱い!  
「い、いや、まあ、なんだ、その、な?」  
だから、何言ってる!僕!こら、もみじ、そんな目で見るな!  
「もしかして・・・美秋くん、えっちな夢でもみてた?」  
「な、何てことを言うのだね?君は」  
おいおいおいなんだって?  
「友達が言ってたよ?・・・あーあ、女子高だとこんな話ばっかり。私までうつっちゃったよ。」  
ああ、なんだかなあ・・・。いや、そうじゃない!なんとか否定しろ!  
「いや、待つんだ。いいか、落ち着いて聞けよ、そうじゃない、僕は、もみじの・・・」  
「・・・」  
はっ!墓穴を掘った!なんてことを!いかん!なんとかするんだ、なんとか・・・。ああ、もみじが僕をジト目で、睨ん  
で・・・あれ、少し赤くなった?で、少し目を逸らす、やっぱりかわいい。そして、  
「まあ、いいか。」  
と、言ってくれた。よかった・・・。  
 
で、安心したのが悪かった。調子に乗って、僕は言ってしまった。  
 
「腕、組んでみない?」  
なんてことを。  
 
言ってしまったものは仕方ない。なんとか冷静に、男らしくだ。なんとかなる。  
もみじを注視する。さっきよりも少し恥らう。かわいい。そればっかりだが仕方ない。が、もみじは、言葉ではなく、行動  
で応えてくれた。僕の右腕に抱きつく、という行動で。  
 
「・・・いい?」  
少し恥ずかしいのだろう、小声でつぶやく。僕としても、当たり前だろ!なんて答えるわけはないから  
「うん・・・」  
と、呟く。・・・胸、あたってるよ・・・。やっぱりやわらかいな・・・。  
「アイス、食べようか・・・?」  
照れを隠すように僕は聞いた。もみじはうなずいてくれた。  
二人とも赤くなりながら商店街を歩く。もみじは僕の腕にしがみついたまま。第三者が見れば恋人に見えるかな?  
・・・何をやってるんだろうね、僕らは。  
 
「藤野じゃん!よう!夏は暑いねえ・・・、って、おっと。邪魔するとこだったか。悪い悪い!」  
・・・あはは。だいさんしゃだ。いやあばつぐんのたいみんぐだなあ。  
「あ、いや、そうじゃな・・・」  
「じゃあな!仲良くやれよ!」  
言うまもなく去ってしまった。うわあああ、なんてこった・・・。  
「えーと・・・もみじ?」  
「・・・」  
ああ、うつむいちゃったよ・・・。いやや、なんとか、雰囲気を回復せねば!気を利かせろ!美秋!  
「とりあえず・・・、アイス食べて帰ろうか?」  
「・・・うん」  
・・・もっと頑張ろうよ、僕・・・。  
 
 
 結局、僕たち二人、バスで帰る。混んでいるわけでもないけど、二人がけの席に二人で座り、とりとめのない話をして、 
同じバス停で降りて、また明日、なんて言って家に入る。  
 鍵を開けて、もみじの家から少し離れたところにあるアパートに入る。僕の自宅である。我が藤野家は、ちょっとした  
地主だ。古い農家らしい。このアパートも藤野家のものだという。もみじの家が本家筋で、もみじの母さんのかえでお  
ばさんが長女、僕の母である夕美(ゆみ)が次女。もみじの父さんは入り婿、という形になる。  
   
 僕はこのアパートで母さんと二人で暮らしている。父親はいない。死んだわけではない。母さんの大学時代、上京し  
ていたときに付き合ってた男らしいが、母さんが妊娠したとたん、逃げ出した、ということだ。当然、大問題になったのだ  
が、母さんは僕を生んだ。母さんは城都市に戻り、就職。この部屋を借りて、働きながら、僕を育てた。とはいえ、母さ  
んが仕事のときは、僕は本家に預けられた。だから、もみじとは長い付き合いになる。  
 
「そんなに、長いのか・・・」  
改めて考えると、すごいことだと思う。と、いうかほとんど兄妹の域に達しているかもしれない。もみじが僕のことを慕っ  
てくれるのも無理はないのかもしれない。  
「じゃあ、僕は、もみじのことをどう思っている?」  
もみじのことは好きだ。これは偽らざる本心だ。でも、女の子として好きなのか?多分、そう。好かれているから好きな  
のではないか・・・?そんなことは、無い、多分。いや、どうなんだろう?どうしたんだろう、僕は。今日は何かおかしい。  
もみじのことを意識しすぎだ。いつもならばもみじから腕を組まれる事はあっても、自分から組むことはなかったはずだ。  
・・・理由はわかっているんだ。図書館で見た、あの夢。あの夢が、今日まで延ばしてきた僕の想いの回答を、出させよう  
としているに違いない。  
「今日はまた、随分とお悩みのようだな?少年よ。」  
「・・・母さん。」  
 
母さんが帰ってきた。・・・もう、そんな時間か。  
「いや、別にたいしたことじゃないよ。」  
母さんに口出しされても、こんなのは恥ずかしいだけだ。そう思っているのに、母さんはため息をつきこう告げた。  
「たいしたことじゃない・・・わけないでしょーが!あんたがそんなに考え込むようなことは、もみじちゃん以外にはなに  
もないでしょ!」  
晩ご飯の準備をしながら、核心をついてくる。どうしてわかるのだろう?  
「図星、って顔ね。そのまんまの意味よ、あんたが悩む事はもみじちゃんのことだけ。・・・子供の頃からそう。バレンタイン  
で初めてもみじちゃんからチョコをもらったとき・・・」  
「か、母さん・・・。そんな昔のことやめてくれよ・・・」  
うあうあうあ、思い出すだけで恥ずかしい。たしか、ホワイトデーにお返しするものと知ったときに、お返しを何にするか  
決めるのに、何日間も悩んだんだっけ。  
「毎日のように私と二人で買い物に行って、結局、あんたがアクセサリーを選んだのよねー。」  
母さんが楽しそうなのは、キャベツを切る軽快な音のせいだ。  
「子供にあげるには少し高かったはずだけど、どんなのだったっけね?」  
忘れるわけがない。真紅のもみじのブローチ。数千円したはずだ。幼かった僕には、すごい大金に思えたのだが、こども  
の僕は最後まで譲らず、結局、ホワイトデーにもみじに渡せたのだった。・・・けど、母さんに話す必要も無い。  
「さあ?忘れたね。それに、別にもみじのことを考えていたわけじゃないよ。」  
と、答えてみても、僕の性格のせいだろうか、ひどく嘘っぽく聞こえるのが自分でもわかった。母さんも察したらしく僕の目  
から真意を探ろうとしている。・・・やっぱりだめか。  
「わかったわかった、母さんの言う通りだよ。もみじのことを考えていたさ。」  
あからさまにニンマリとする母さん。だから嫌だったのに・・・。  
 
「はは、まあ、そう拗ねるな、美秋。悩む、っていうのは若いときの専売特許さ。うらやましいねえ。・・・それに、そんなに  
考え込むくらい、もみじちゃんのこと、大切に思っているんだろ?」  
途中から、やけに真剣な声になったことに少し驚きながらも、そう、と答える。  
「だったら、それでいいじゃないか。美秋がもみじちゃんのことを本気で想っているのなら、それが全てのこたえ。人を  
愛する理由を探すなんて、バカのする事さ。・・・美秋、よく覚えておきな。女を本気で愛せない男に、価値なんてひとつ  
も無いんだからね・・・。」  
そう告げる母さんの背中はやけに悲しげで、凛々しくもあって、多分、この言葉は母さん自身の体験によるものなのだろう。  
それきり、母さんは何も言わなかったけど、僕には、もうこれ以上の言葉は必要無かった。  
「・・・ありがとう。」  
母さんは返事をしなかったけど、もしかしたら、泣いていたのかもしれない。  
 
 母さん、ありがとう。僕は迷わないよ。僕は、もみじのこと、愛しているから・・・。  
僕は、一つの決心をした。  
 
 
美秋くんとバス停で別れて、家まで歩く。自分の家の門から玄関までの坂道を登り、ただいま、と告げてまっすぐに  
私の部屋へ。荷物も片付けないで、ベッドに寝転がる。今日一日と、美秋くんのことを思い出す。  
 美秋くんは、高校に上がって、自分の事を僕、と言うようになった。中学時代、バカにされないように俺、と言ってい  
たけど、高校に入って気負う必要がなくなって僕、に戻った。私にはよくわからないけど、そうなんだって。私は、今  
のほうが美秋くんらしくて好きだけど。・・・そして、私は彼の事を秋ちゃん、と呼ばなくなった。恥ずかしいから、っての  
もあったけど、なにより、彼の事を男の子だってだって、ちゃんと認識できるから。  
「美秋くん・・・」  
そう呟くだけで、胸の奥が苦しくなる。仕方がなくって、枕を抱きしめる。この想いは、いつからはじまってたんだろ?  
 気が付けば、彼は私のとなりにいた。秋ちゃんにはお父さんがいないから、やさしくしてあげなよ。いつも私は言っ  
て聞かされていた。意味はよくわからなかったけど、私は美秋くんに優しくしたつもりだった。そして、美秋くんが私に  
返してくれる、優しさが、大好きだった。少し大きくなって、よしあき、という名前の漢字が他の子と少し変わってること  
に気付いた。気になって、夕美さんに聞いてみたら、ちょっと迷ってから答えてくれた。  
 
「美秋が私のおなかの中にいたとき、私はもみじちゃんの家に住んでいたのよ。そのとき、ちょっとした悩みがあってね。  
無駄に過ごしていたんだけど、その年の秋は、とても綺麗で。ほら、もみじちゃんの家、お庭には楓とかばかりでしょ?  
・・・それを見てたら、私、バカみたいに思えて。だから、つまり、美秋には人の心を洗ってしまうような、そんな人になっ  
て欲しいって思ったの。本人には、私は綺麗な秋が好きだからって言ってるけどね。」  
 きっと、夕美さんはおなかの中の美秋くんのことを悩んでいたに違いない。このころは大変だった、お母さんがそう言  
ってた。でも、そんなことは関係なく、私は美しい秋に見惚れるように、美秋くんに恋してた。  
 
「ね、今日ね、美秋くん、私の夢を見てたんだって。どんな夢だったんだろうね?」  
ベッドの上の犬のぬいぐるみに話し掛ける。いくつもあるぬいぐるみは、全部美秋くんのプレゼント。夕美さんによると、 
いつも美秋くんが悩みながら買ってくるんだって。ぬいぐるみ売り場で独り悩む美秋くんを想像して、すこし可笑しくなる。  
それから・・・今日は、彼のほうから腕を組もうって、言ってくれた。いつもは私から。私の胸が彼に触れて、赤くなって目を  
逸らす、彼を見るのが好きだった。それに、私も、彼に触れられるのが嬉しかった。  
 ここまで考えて、もう、胸の痛みは耐えられなかった・・・。  
 真っ白なワンピースの肩紐をずらす。すぐに私の胸はあらわになる。今日は下着なし。ちょっと冒険。すでにかたい胸の  
てっぺんを指で刺激しながら、胸を揉む。  
「ふあぁ・・・美秋くぅん・・・」  
確かに、女の子の胸はやわらかいけど、なんで男の子はこんなものに興味があるんだろう?平均よりすこし小さめの  
私ので、美秋くんは、よろこんでくれるかな?なんて、情けない声を出しながら考えてしまう。気付けば、ベッドのぬいぐるみ  
たちが私を見ている気がして、恥ずかしくなる。思わず、枕を抱いて顔を隠すけど、布団に胸が擦れるのが気持ちいいこと  
に気付いて、枕に顔を隠したまま、シーツに胸をこすりつける。  
「わ、わたし、わたしい・・・」  
 
こうなるともう止められない。体が燃えるように熱くなり、腰の辺りなんて焼けてしまうほどになってくる。股間に手をの  
ばす。下着の上からでも濡れているのがわかる。割れ目に沿うように指をあて、何度も何度もすりつける。  
「はふぅ、はぁっ・・・ひゃあ・・・」  
指も濡れてしまい、下着は私自身の中に食い込んでいく。  
「はひゃっ・・・!」  
私のいちばん敏感な部分に触れてしまう。もう、自分で自分をコントロールできなくなり、そこばかりせめてしまう。  
「はふっ、ふわぁぁ、よしあきくん、よしあきくぅん・・・!」  
ひきずりこまれるような性感を観じながら、そのままベッドに突っ伏す。  
「何やってんだろ、わたし。」  
いつもの虚無感。私、またこんなことを・・・。乱れた服を直すこともなく、のろのろと机に向かい、私の一番のたからもの  
・・・真っ赤なもみじのブローチ・・・を取り出す。私の胸に押し当てる。素肌にブローチがひんやりと感じる。  
「美秋くん・・・」  
いつになったら、こいびととして、わたしを求めてくれる?  
 
いつになったら、わたしを、抱きしめてくれるの?  
   
 切なくて、私はまた、ベッドに身を沈めた・・・。  
 
 

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