「まさか衆人環視の中であんなことするなんて・・・。」  
一緒にベンチに腰掛けるもみじに言うわけでもなく、呟いた。  
「だ、だって・・・。」  
なにか反論しようとしたのか、それでも言葉を見つけられずにことさら顔を赤らめて、  
もみじはうつむいてしまった。  
 
長いキスが終わり、現実に引き戻された直後、僕は多くの視線に気づいた。そして周りの  
ひとたちに見られていたという事実がいよいよ自覚となって僕を襲ってきた。  
すぐに視線から逃げることだけを考え、それでもぼんやりとぼくを見つめるもみじの手を  
引いて駆け出していた。都合よく、浜辺に広場があったところで、いまこうやって休んで  
いる。  
 
「ずっと、多分最初から最後まで見られてた・・・。」  
絶望的な気分になりながら、やはり口に出さずにはいられなかった。頭をかかえる。  
「い、いまさら言ったってしょうがないじゃない。ね、美秋くん。」  
「・・・。」  
まあ、それでも。つないだままの手から伝わるもみじの感触は、これで本当にぼくだけ  
のものになったわけで。  
「私、嬉しかったよ。美秋くんに好きっていってもらえて。」  
恥ずかしそうに、それでも笑顔を見せて語りかけるもみじを見て。改めて僕が手にした  
存在を確かめたくて。いいよね?と目だけで尋ね、手を離してもみじの腰に回し、  
一瞬の躊躇を経て、触れて、僕に引き寄せた。もみじは少しだけ驚いたような顔をしたけ  
ど、静かに目を閉じた。僕ももみじにならった。  
 
ただ静かに、互いの存在を確認しあった。もみじはあたたかかった。もみじを感じると  
同時に、今日気づいてしまった静かな衝動が体のなかから湧き上がるのに気づいた。  
もみじの舌が僕に入ってくる前に、僕はもみじから離れた。少し不満そうな彼女の表情  
から、もみじもまた、僕と同じ感情を持っているのだろうと確信できた。  
「むー、なんで止めちゃうの?」  
だって  
「今そうしなきゃ、僕ももみじも止められないでしょ。」  
恥ずかしいこと言わせないで欲しかった。女の子に好きだって言うのも、こんなこと言う  
のも僕は始めてなんだ。  
にわかに慌てたもみじの様子から、僕の言葉の意味とこれから言うであろう言葉を察した  
ことがわかった。けど、僕自身が言いたいことに合う言葉を見つけるのは難しかった。  
「だから・・・えーと・・・。」  
ここにきて躊躇してる場合じゃないのに、なかなか言葉が出ない。もみじを見た。その瞳  
が宿す感情は期待か不安かはわからないけど、僕の大好きなもみじだから、僕の気持ちを  
素直に表せばいいのかな、って。決心した。  
「もっと、もみじと近づきたい・・・。」  
だから  
「僕は、もみじを抱きたい。」  
 
ホテルの部屋に戻るまでのことはよく覚えていない。もみじが僕の言葉に無言で頷いた  
あと、手をつないでひたすら歩いた。言葉をかけることはできなかった。繋いだ手に汗  
がにじむ。これは誰の汗だろう。フロントに行っても手を離さずに切羽詰った顔で鍵を  
受け取る僕たちを見て、ホテルの人は一体どう思っただろう。もうわけがわからずいっぱ  
いいっぱいの頭の中で、そんなことばかりが頭の中に現れては消えていった。  
鍵をあけて部屋に入ったとき、二人同時に安堵の息をついた。なんだか可笑しくて二人し  
て苦笑した。電気をつけて部屋を見てみると、布団が並べられて敷いてあった。  
ご丁寧に、と思うより先にそこで行われる行為に思考が向いたことに若干の嫌悪を覚えた  
けど、まあ今はそれくらいもみじのことに頭が支配されているんだろうと自分を納得させる。  
「ね、美秋くん。電気、消して欲しいな。」  
やや緊張した面持ちで僕を見つめる。こういうときのもみじには従わないといけない。  
黙って電気を消す、と。  
「えへへー・・・、ん・・・。」  
思いっきり緩んだ顔で笑ったあと、僕に飛びつきキスをした。突然だったけど、僕は  
もみじを受け止めて、目を閉じた。なぜかそうしなければならない気がして、もみじを抱  
きかかえたまま布団の上に腰をおろした。僕の胸にもみじが体をあずける形になって、左  
手を後ろに回して上体を支えた。  
「ほんとうに、ふたりだけだね・・・。」  
どこか遠くを見るような目で、でもしっかりと僕を見据えて呟いた。ほぼ真っ暗な夜の空  
から月の光がやさしく僕たちを包んでいた。ざあ、という波の音は相変わらずで、この世  
界に僕たち二人だけを残したかのように、この部屋は存在していた。  
 
「ん・・・。」  
どちらからともなく、また口付けを交わす。口を割って入り込んだもみじの舌をただ  
受け止めるしかできない僕だけど、交わらせた舌を絡み合わせることで互いの感情を交換  
するような。もみじの、僕のことが好きだっていう気持ちを受け止められるようなそんな  
気がして嬉しかった。  
「んちゅ・・・む!ふはぁ・・・はぅ・・・!」  
もみじが舌を引き抜き、急に甘い声を出し始めたのは僕が右手で彼女の胸をこねまわし  
ていたからだった。そのとき初めて、僕が彼女の胸に触れていることに気づいた。  
誰と比べたわけでもないけど、もみじの胸は小さめではある。それでも、そのやわらかさ  
は僕に安心を与えてくれた。  
ずっとそうしていたかったけど、耐えられずに、もみじが僕に倒れこんできた。僕の胸に  
もみじの胸を押し付けるようにしてきたからそのまま胸を触ることができず、両手を  
もみじの背中に回し、もみじを上にして寝転がることにした。  
「どうしたの?」  
と、とりあえず訊いてみる。  
「だって、胸が甘くて、甘すぎて、耐えられなくて・・・それで・・・。」  
と、耳が痺れるほど甘ったるい声でささやくけど、その間にも微妙な加減で胸を擦り付け  
るのは正直というかかわいいというか。うん、やっぱりかわいいな。  
ただ、かわいいというだけでは満足できず、やっぱりもみじに触りたいと思い、彼女の  
スカートに手を伸ばすことにした。僕の胸に体をあずけたひざ立ちの状態だったので、  
ふともも裏側でひらひらしてるスカートの端の真下に手を置いた。少し汗ばんでじっとりし  
た肌を味わいながら、スカートの端と一緒に手を少しずつ上に移動させる。  
「ふ、ふあぁ・・・。」  
手が感じる感触が肌とは明らかに違う薄い布にかわったとき、その部分がふるっと震え、  
もみじは声を漏らした。先ほどから変わらずに耳元で発された声、息が耳はおろか脳さえ  
痺れさせる。たまらずに何度もその行為を繰り返す。十分に触ったあと、直接そこを自分の目で見たくなった。  
スカートを背中に寄せて、そこを覆うという役目を終わらせた。  
すらっと伸びた白い脚と、その白い肌の色をうっすらと透かした、控えめなレースの下着が露わになった。  
下着を外気に触れさせ、緊張で震えた様子が、ちょっと涼しげに思えた。  
もっともっと知りたくて、白の輪郭からしっかりわかる割れ目にそって指を沿わせようとして、  
腰に手を当てた瞬間だった。  
 
 
どん!ぱらぱらぱら・・・。  
 
 
その音が花火かどうかなんて関係なかった。その音は僕たち二人だけの世界を終わらせた。  
その音は僕たちにとってそれ以上の意味を持たなかった。夢から現実に引き戻されるように。  
世界の空気が変わり、僕に覆いかぶさるようにして下着を露わにしたもみじと、  
もみじを抱きとめ、腰に手を回す僕だけが取り残された。急に頭の中がクリアになる。  
いままで消えかけていた藤野美秋という自我が頭をもたげた。それと同時に、この状況に  
恐怖を覚えた。  
 
僕が、もみじと、性的行為をする。  
 
ずっと幼馴染だった、ずっとずっと好きだったもみじ。ついさっき恋人になった、もみじ。  
そんなもみじとその行為をすることで、その長かった関係を壊してしまうようで。  
僕にとってなにより大切なものだったその関係が失われそうで。  
僕たちがなにか別のものになってしまいそうで  
いや、そんな理屈抜きで。  
 
怖かった。ただ、怖かった。  
 
もみじと目が合った。  
全身の血の気が失せた。  
「うわぁっ!」  
もみじを払いのけ後ろに下がった。背中に壁が当たる。  
「ご、ごめん!本当にごめん!!」  
もみじの顔をみた。不安そうな顔をしていた。僕は、ごめん、ごめんとしか言葉にできなかった。  
そのうちにもみじの顔を見られなくなった。  
何に謝っているのかもわからぬまま、ごめん、と繰り返すことしかできなかった。  
 
ふと、ほほにもみじの両手がそえられた。ぽうっと、暖かくなった気がした。  
もみじを見る。諦めているような、安心したような、そんな色が見えた。こんな僕でも  
もみじの感情を読むことはできた。  
「ね、秋ちゃん。大丈夫だから。安心していいから。だから、泣かないで?」  
「え?僕は、泣いてなんか・・・。」  
いないよ、と言おうとして。頬に冷たいものが伝っていることに気づき。自分が泣いてい  
ることに気づいてしまった。泣いていることがわかれば、あとはもう止めることはできなかった。  
「ごめん、もみじ。僕、怖くて。ごめんね、本当にごめん・・・。」  
伝えたいことは山ほどあった。でも、言葉にならなかった。悔しくて、情けなかった。  
もみじの困ったような笑顔は、涙でにじんでいた。  
「言わなくてもいいから、ね?秋ちゃん。ちょっとだけ残念だけど、そんな秋ちゃんだから、  
私は大好きなの。ありがとう、秋ちゃん。それだけ私を大切に想ってくれたんでしょ?」  
おまじない、という声が聞こえたか聞こえないか。もみじは僕にキスをした。  
もみじが僕の中へすっと入ってくるような、もみじの優しさが僕を満たすような。そんなキスだった。  
 
どちらともなく唇を離して。  
「落ち着いた?」  
僕は頷いた。恥ずかしくて、顔を合わせられそうになかった。  
「秋ちゃんはね、難しく考えすぎるの。私は秋ちゃんが大好きだし、秋ちゃんは私のことが好き。  
なら、それでいいじゃない。ね?」  
「そう・・・なのかな・・・?」  
「そうだよ。でも、嬉しかった。秋ちゃんが、そんなに私を想ってくれて。それに・・・。」  
赤や燈の光がもみじを照らす。今更気づいたけど、花火はまだ続いていた。  
「わたしも、秋ちゃんと、えっちなことしたいし・・・。」  
もみじは視線を泳がせた。顔が赤く見えたのは、多分花火のせいじゃない。  
「その前にさ・・・。」  
もみじを抱き寄せる。  
「呼び方。どうにかならない・・・?」  
「・・・泣き虫の秋ちゃんだから、どうでしょう・・・?」  
二人分の心音がきこえて、重なった。かたさを残した僕たちだけど、今度は、流れに委ねることなく、からだを重ねたい。そう思った。  
 

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