奮発して、露天風呂備えつきの部屋にしてよかったとしみじみ思う。  
ぐったりと横たわるもみじを抱き上げて外へ出る。もみじは力ない笑顔を見せる。  
本当に無茶をする。先ほどまでのもみじの様子を思い出しながら、ふと思った。  
 
 
「今日はここまでにしようか?」  
もみじが落ち着いたころを見計らって尋ねた。これ以上もみじが痛がるのは忍びなかったから。けれど。  
「・・・っ!」  
その言葉を否定するように。もみじは抱きしめる両手に力を込め、脚を僕の腰に絡みつかせる。これ以上はきっと言ってもきかないだろう。  
「・・・このまま、するよ?」  
こうなった以上は僕も決心しなければならない。繋がったままもみじを布団に横たえる。  
苦しげな、満足そうな笑みだった。  
もみじの中はきつかった。僕が動くたびに。もみじは辛そうに息をつめる。もみじの苦し  
げな様子は僕の精神を萎えさせたが、それと同時にそんなもみじを美しく感じる僕もいて、  
その双方とも関係なしに僕の身体は快感に震えていた。  
「くっ・・・んくっ、っつ!」  
なにより僕は、もみじを傷つけることに慣れていなかった。もみじが痛がることが、  
そのまま僕の痛みとなって僕を苦しめた。  
「もみじっ、やっぱり僕は・・・!」  
言い終わらぬうちに、もみじは僕の唇に指を押し付ける。  
「だめ、美秋くんと繋がることが、私のしあわせ。だから、・・・つっ、この痛みも、全てが、  
わたしのしあわせ・・・。よしあきくんは、私をしあわせにしなきゃだめだから・・・  
やめちゃ、だめ・・・。」  
 
この行為が始まったときから、わかってたことだった。結局僕は、自分が痛みを感じる  
ことが怖かっただけだった。けれど、いま身体が感じている快感は、もみじに苦痛を与  
えて得たものだと思うと、僕はおとこと言う生き物を憎まないわけにはいかなかった。  
もう、何も考えたくなかった。  
僕は、僕の大好きなもみじのことだけで頭をいっぱいにして僕をもみじに打ちつけ続けた。  
腰から直接伝わった刺激に任せて、僕はもみじの中で果てる。  
「よしあき・・・くん・・・。」  
急速に空白になる頭の中で、もみじの呟きが聞こえた。  
 
 
露天風呂は、当然ながらそんなに大きくなかったが、二人が足を伸ばして入るには十分な大きさだった。  
まずは体を洗わなければと思う。汗とかナニとか諸々の体液を吸った布団を思い出し、  
寝るときどうしようか不安になったが、後のことは後で考えようと思う。  
「もみじ、もう一人でだいじょぶ?」  
腕の中のもみじに聞く。焦点の合わない瞳を向けて小さく首を振る。  
「美秋くんのせいで体に力が入らないよ。ねえ、美秋くんが私の体洗ってよ。」  
本当に、楽しそうに言う。力が入らないなんて多分嘘だろう。でも、それでもよかった。  
シャワーの前に腰を下ろす、ひざの上にもみじを座らせた。もみじは本当に柔らかかった。  
鏡に映った二人を見て赤面、二人とも生まれたままの姿だった。この姿のまま、二人絡  
み合ってたことを今更痛感する。鏡の中のもみじの照れ笑い、かわいいと思った。  
もみじが僕に何事か耳打ちした。願っても無い、というか魅力的な提案に鼓動が一気に  
早くなった。言い出した方も、提案されたほうも真っ赤になって、恥ずかしいので行動に移った。  
ボディーソープを手にとって、両手ですり合わせ泡立たせる。鏡に目を移せば、もみじが  
期待に満ちた瞳で見つめていた。  
泡だらけになった両手を、逡巡のうちにもみじのお腹に持っていった、  
「ひゃ!」  
「わっ、ごめん!」  
「いや、ちょっとびっくりしただけだから、続けて?」  
お腹に置いた僕の手に自分の手を重ねて。もみじの肌はすべすべで、触っただけで溶けそ  
うな繊細さを僕に伝えた。二人の手が通った跡に真っ白な泡を残して、二人は作業に没頭する。  
「・・・はふぅ、美秋くん・・・。」  
熱い吐息、身体全体で僕に伝える。二人の手がもみじの胸に到達する、僕の記憶にあるなによりも柔らかで。  
 
大事にしすぎ、という声と共にもみじの手に力が込められる。もみじの胸が、より強く僕の手を押し返す。  
胸の蕾を指先で撫でると同時に、もみじは僕のひざに乗せた腰を前後に擦り付け始めた。  
ぬるぬるとした液体がその跡を残す。  
「んく、ね、さっき一番汚しちゃったとこ、まだ?」  
湧き出る情欲の色を隠そうともせず、もみじは僕に次を促す。  
「しみたりしないの?」  
「・・・!つまらないこと聞かな「ふぅ・・・ん、美秋くん、もう少いの、ばかぁ・・・。」  
怒られた、素朴な疑問だったんだけど。  
「じゃあ、いくよ?」  
手を重ねたまま、その場所へと手を持ってくる。そこからはもみじ自身の体液と、僕の  
出したのと、わずかな血の跡と。全てを包み隠すように、そっと手を置いた。  
「ひぅ・・・、ん、そのままゆっくりね・・・。」  
さっきから命令されっぱなしな気もするけど、それくらいがいいのだろうと気にしないことにする。  
「はぅ、いいよ、美秋くん。ふぁ、はふ・・・。」  
もみじの嬌声に、さっきからもみじのお尻に押し付けている僕のがどんどん大きくなる。  
「も、もみじ!」  
せっけんでそこはきれいにしても、後から新しい液を出してちゃ仕方が無い気もするけど。  
そんなことも忘却の彼方に飛ばしてしまうほど、僕はもみじの身体に夢中になっていた。  
もっと触れたい、もっともみじの声を聞きたい。もみじも、そんな風に思ってくれているんだろうか。  
「ちょっと、美秋くん、手、早すぎ・・・!」  
「ごめん、もみじ、止められない!」  
下に当てた手と共に、胸においていた手を激しく動かす。むさぼるように、揉みしだく。  
「きゃうっ!」  
指で胸の硬いところを引っかいた瞬間、胸を反らせひときわ高い声を出した。  
もっと、聞きたい。  
下に回した手と共に、反応のあった場所を重点的に触る。僕の希望通りの声をもみじが  
挙げるのを聞いて、僕はとても幸福を感じる。  
「もみじ、大好きだよ。」  
この先何度言うかわからないけど、今はとても伝えたかった。  
「はぅ、美秋くん、よしあきくん、〜っ!」  
ピン、と身体を硬直させた後、ずるずると体が落ちてくるのを抱きとめる。  
「美秋くん・・・。」  
泡だらけの体を抱いて、二人一緒にシャワーを浴びた。  
ぼんやりした頭の中で、お互いの唇を、確かに感じた。  
 
「ね、美秋くん。」  
二人で入るに十分なお風呂の中で、それでも僕たちは抱き合って入っていた。  
「例え一回だけだとしても、子供ができる可能性は十分にあるんだよ♪」  
満面の笑み、しかも音符付きで言う。  
「覚悟はできてはいるけど、でもどうなるんだろ・・・。」  
さすがに本当にできてしまったとなってはただ事じゃなくなるとは思う。  
「大丈夫だよ、夕美さんだって美秋くんを産んだのは18でしょ?」  
ほんの少し詰め寄って。その口調からは穏やかならざるものを感じた。  
「・・・こだわるね。」  
言ってから失敗したかとも思ったけど、それ以上はなにも言わなかったのでほっとする。  
「・・・夕美さん、あんなに綺麗なんだもん。」  
聞こえないことにした。  
「それより、本当に体は大丈夫なの?随分痛そうだったけど。」  
「美秋くんのばか。そういうことは聞いちゃだめなの!」  
「いや、本当に心配なんだってば。」  
「もう・・・しょうがないんだから。」  
怒ったような、嬉しそうな顔を見せ、その後に僕の胸に顔を伏せた。  
「痛かったけどね、でもそんなことより美秋くんにされることが重要だから。嬉しかった。でも・・・。」  
ほんのり赤みを帯びた、いたずらっぽい笑みを向ける。  
「十数年分の私の想い、これくらいじゃまだ足りないんだからね・・・?女の子は男の子より大人なんだから。」  
「え、それって・・・。」  
いつごろから僕を男として意識していたのだろう。  
「さあ、どうでしょう?」  
もはや何度目かもわからないキスをした。脳が溶けるかと思うほどの甘さだった。  
「それじゃ、続きしよっか?」  
お腹がすいたんだけどね、などと言えるはずもなく。  
そうして、僕たちは結ばれた。  
 
 
 
 
   おまけ 
 
 
 
 
「そろそろかな・・・。」  
私、藤野もみじは美秋くんの部屋で一緒に寝ていた。  
旅行帰り、疲れたとの名目で美秋くんの家に一休みしにきたと言うのに。  
「美秋くん、そのまま寝ちゃうんだもん。ばか。」  
熟睡する美秋くんに呟く。もう、倦怠期の夫婦じゃあるまいし。  
まあ、用事はそれだけじゃないんだけど。  
部屋の扉を開けて居間に出る、家主にして美秋くんの母親、夕美さんがいた。  
「・・・お帰りなさい、もみじちゃん。」  
「夕美さんも、おかえりなさい。」  
二人とも表面上は平穏、けれど伝わってくる空気はとてもぴりぴりしたものだった。  
きっと私も無意識に威圧しているんだろう、少し申し訳ない。でも。  
「もらっちゃいます、美秋くん。」  
思えば、私は一番、この人が羨ましかった。美秋くんの信頼を一身に受けて、ひとつの疑いもなく頼られて。  
私は、美秋くんにとってそんな存在でありたかった。  
美秋くんを愛するのは私だけでいいし、美秋くんは私にだけ愛されればいいの。  
「・・・。」  
夕美さんは、何も言わず顔を背けた。寂しげな色を浮かべた横顔が綺麗だった。  
大人の女性の美しさ、まだ私には無い。ずるい、と思った。  
私も、大人になったら夕美さんみたいになれるだろうか。  
「もみじちゃん、美秋のこと、好きよね?」  
答えるまでもなかった。視線で伝えた。  
「・・・なら、いいわ。」  
息子の幸せを願う母親の顔だろうか、私にはあんなに綺麗にはなれない。  
「美秋のこと、よろしくね。・・・また後でね。」  
微笑んで、ご飯の準備にとりかかった。  
後ろで、美秋くんが起きた気配。  
 
美秋くんのこと、好きだから。  
 
部屋に戻る、この手で抱きしめるため。  
 
 

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