雨の日に、傘もささずに、佇む美女がいることがありますが、
決して声を掛けてはいけません。
何故なら…
『蛇の目のお迎え』
ざぁざぁと降りしきる雨の中を歩く青年。
彼の名は、そうKとでもしておこう。
彼は今からその人生において最も不可解な体験をする。
Kは専門学校の帰り道、人気のない土手を歩いていた。
長く雨に降られるのを嫌って、近道を使用したためである。
そうして、家まで後半分という所で奇妙な女を見つけた。
その女は喪服と、背中まで届く黒髪を、雨に晒して佇んでいた。
傘を風邪に飛ばされたのかなと、Kは考えた。
家までは後半分だし、美人っぽいし傘を譲ろうかと思い声をかけた。
「どうしました」
その声が聞こえたのか女はこちらを向いて微笑んだ。
Kは喜んだ、文句なしの美人だったからである。
だが、Kの喜びはすぐさま困惑へと変わった。
女がいきなり胸元に手をやると、左右に開き、胸を綻び出させたからである。
それは大きくもなく小さくもなく、正に美乳というのに相応しいものだった。
それを女は自らの両手でぐにぐにと揉みしだく。
Kは混乱していた。
露出狂だろうか、彼は、そのような輩とは、関わりたくないと、思っていた方であるが、
雨の中で見せ付けるように自慰をする女から彼は目が離せなかった。
ひとしきり揉んで、気がすんだのか女は両手を止め、今度は屈んで喪服の裾を持ち上げた。
そこには、雨と、汗と、股間から溢れ出る愛液で、しとどに濡れた下半身があった。
そうして女は初めて口を開いた。
「抱いて…みたい?」
Kは迷わず頷いた。
喪服の美女が見せる痴態に、彼の息子は当に屹立しており、自らを鎮めるための場を求めていた。
Kはふらふらと歩き、美女に近づき、その熟れた体を貪ろうと手を伸ばした。
触れるか、触れないかの刹那。
「だめよ」
と一言残して女は消えた。
後には元気よくなった息子を持て余すKの姿があったという。
【妖怪ファイル ナンバー02 濡れ女】
雨の日に現れる妖怪。
その姿は大抵、喪服の美女。
ただし、目元に泣きボクロがあったり、幼な妻風だったり、という差違はある。
性質としては、雨の日に現れ、彼女がいない男の前で自慰をし、男をその気にさせといてから、
忽然と消えてしまうという、大変質の悪い妖怪である。
男性諸君は雨の日に佇む喪服の女性を見たら注意。
据え膳を目の前で下げられてしまうぞ。