「思っていたよりはコレステロール値も中性脂肪も高くないわね。  
GPTやGOTも高くないから肝臓も健康みたい」  
ピンクのナース服を着た女性が、  
一枚の紙にまとめられた血液検査の結果数値を指差しながら説明している。  
「他も軒並み基準値の範囲内だから、血だけを見る限り健康そのものね」  
ナース服の割りにはやけに短いスカート。  
足を組んでこちらへ向き直ると、短いスカートの奥がハッキリと見えてしまう。  
スカートだけではない。必要以上に胸元も開いており、豊満な胸の谷間がよく見える。  
それもそうだろう。彼女は看護師ではないのだから。  
「健康なのはありがたい。それは良いとして、なんでそんな格好をしているんだよ」  
ナースのコスプレをしたその女性に、俺は当然の質問をぶつける。  
そもそも、ここは清潔感ある病院の診察室ではない。  
むしろ雰囲気は真逆。全体的に薄暗い室内には妖しげな瓶やらホルマリン漬けされた何かの標本やらが並んでいる。  
「あら、似合わない? 女医の方がお好みだったかしら?」  
ボンと白い煙を立たせ、女性は一瞬にして女医の姿に変わった。  
変わっていないのは女医の中身と、そしてスカートの短さと胸元の開き具合。  
「そういう問題じゃねぇだろ」  
からかわれているのは判っているが、突っ込まずにはいられない。  
「いつも言うけど、こう言うのは雰囲気が大事よ? 人が折角コスプレで悩殺してあげてるのに」  
「悩殺される必要はねぇだろ。今日は検査の結果を聞きに来ただけなんだから」  
釘を刺しておかなければ、このままズルズルと「雰囲気」をあらぬ方向に持っていき、  
気付けば二人でベッドの中、ということにしかねない。  
そういう女なのだ、彼女は。  
なにせ彼女は、性欲をこよなく愛する魔女なのだから。  
「残念ねぇ。これで今日二人が出かけていなかったら、  
女医一人とナース二人相手にあんな事からこんな事までプレイ出来たのに」  
「人の話聞いてないだろ」  
普段は老婆の格好をし、三人でここ魔女の館に住んでいるのだが  
ここにいない二人は今、「買い出し」の為にヨーロッパ各地をホウキで飛んでいる頃。  
残った彼女は留守番、というわけだ。  
俺はそれを知っていたからこそ、今日ここへ訪れた。  
前々から頼んでいた血液検査の結果を聞く為に。  
一人だけの今なら、結果を聞いた後……ということが無いと確信していたから。  
何故ならば、魔女達は「抜け駆け禁止」の約束を取り交わしているから。  
 
「まあいいわ。ええっと……そうそう、「もう一つの」検査結果だけどね」  
もう一つの検査結果。それが今日の本題。  
普通の血液検査だけなら、何も彼女達に頼む必要はない。  
ごく普通の医者が出来る検査を、好き好んで魔女に頼むなんて危険は冒さない。  
どうしても彼女達でないと判らないだろう検査をする為に、俺は頼んでいた。  
「こっちは予想通りだったわ。スパニッシュフライやベラドンナといった、  
私達が媚薬の生成に用いる材料の魔力だけが溶け込んでいたわ」  
医学的に行われる血液検査では判らない事。それは魔力の値。  
例えば彼女が口にしたベラドンナ。  
これはれっきとした茄子科の植物で、葉や根から摘出されるエキスには錯乱作用を引き起こす成分が含まれている。  
これだけなら今の医学でも調べられるのだが、  
ベラドンナには魔女が好む魔力成分も含まれている。これは医学で調べる事が出来ない。  
魔女の知識は、医学的な要素よりも魔力的な要素に強い。それを用いて媚薬を作るのだから。  
「血液でこれだから、おそらく唾液や精液も似たようなものね」  
彼女が言うには、この溶け込んだ「媚薬の魔力」は基本的に本人や普通の人に影響はないという。  
しかし血液や精子から精力や魔力を抽出して糧とする者、つまりヴァンパイアや淫魔には絶大な効果が現れるらしい。  
ようするに、俺は血や精子を糧とする者達にこれらを吸わせるだけで魅了させてしまうらしい。  
ただこの魔力、鮮度が命らしく、体外に出てしまうと急速に効力が無くなるそうだ。  
これで納得出来る。今までリリムハウスに輸血した俺の血を飲んでも平気だった店の娘達が  
直接俺から血や精子を飲んだとたんにおかしくなった訳が。  
「おめでとう、これであなたは立派なヴァンパイアキラーにしてサキュバスキラーね」  
「それ、「キラー」の意味が違うだろ」  
そもそも、彼女達が俺を「落とす」為にあれやこれやと媚薬を俺に盛り続けた事が、俺をこんな体質にしたのだから  
おめでとうも何もあったものではない。むしろいい迷惑だ。  
「まあ、基本的には無害だから気にしなくても大丈夫よ。そもそもあなたには妖精学者として血に魔力が込められていたから  
そこに媚薬効果がプラスされただけ、という感じね」  
摂取して「落ちた」吸血鬼や淫魔などにも媚薬効果以外に悪影響はないらしい。  
それを聞いて胸を撫で下ろした俺に、なにやら「企んでいます」といった笑顔を向ける。  
「ところで、今回の検査料って訳じゃないんだけどね……」  
「純真な青年をいいように弄んでおきながら、どの口が検査料とか言い出すかね」  
自分で「純真」とか言い出すのもなんだが。  
「まあまあ。ただちょっと協力して欲しいだけよ。実験にね」  
魔女の実験。それが真っ当な物ではない事など誰の目にも明らか。  
俺は眉間にしわを寄せ、あからさまに怪しんだ。  
「あなたの新鮮な血液が、吸血鬼や淫魔以外にどんな影響を与えるかを調べたいの。あなたにとっても重要な実験だと思うけど?」  
確かに、興味はそそられる。自分の「異常」な血液が、他にどんな影響を与えてしまうのか  
これは俺自身知っておかなければならないだろう。  
 
「そこでね、あなたの血で「アルラウネ」を育ててみたいのよ」  
アルラウネとは、「マンドラゴラの根」という意味のドイツ語。  
ようするに、マンドラゴラそのものの事だ。  
マンドラゴラも魔女が好む材料の一つで、やはり茄子科のれっきとした植物。  
日本では曼陀羅華(まんだらげ)やチョウセンアサガオの名で知られている。  
しかし魔女の言うマンドラゴラは一般に知られている植物の事ではなく  
死刑台の下で死刑囚の涙と血、あるいは精子で育った魔力的な植物のこと。  
根が人の形をしており、引き抜くと奇声を上げ引き抜いた者を狂い殺す危険な植物である反面  
魔力的な材料としてはかなり高品質なことでも知られている。  
そのマンドラゴラ、アルラウネを、死刑囚の血ではなく俺の血で育ててみたいとのこと。  
血を成分に育つとはいえ植物であるアルラウネ。果たして影響はあるのか? そういう実験だと彼女は言う。  
余談だが、魔女達はマンドラゴラの中でも材料として使うには育ちすぎた、  
比較的自ら自由に動き回れるマンドラゴラをアルラウネと区別して言い分けている。  
「知ってると思うけど、私達はマンドラゴラの栽培もしているのよ」  
なにやら奥で準備を始めながら、女医の格好のままでいる魔女が説明を続けている。  
「普段は自分達の血や、血に変わるマンドラゴラ用の肥料とかで育ててるんだけどね」  
そういう肥料もあるのか。なんだか魔術方面も色々と進歩しているようで。  
「必要な血の量って、そんなには要らないのよ。ちょうどこの銀杯一杯分くらい」  
そう良いながら、彼女は俺の目の前に小さめの銀杯とナイフを置く。  
「というわけで、ちょっとその銀杯に血を注いでくれる?」  
気軽に注げと彼女は言う。  
もしかして、置かれたナイフを使って自分でやれと?  
時折漫画やアニメで、自らナイフで指や手首を切り血を垂らすシーンなどあるが  
あれをやれと言われてすぐに出来るか?  
漫画やアニメのように、平気な顔でそんな事出来るわけがない。  
かさぶたを剥がすようには簡単に出来ないだろう、普通。  
「冗談よ。ちゃんとこっちで採血するから」  
いつの間にか再び露出度の高いナース服になった魔女が、俺に大きめの注射器を見せた。  
またからかわれた事に腹を立てながらも、俺は少しホッとしていた。  
魔女はまるで本物の看護師のように慣れた手つきで、俺の腕をまくりゴムバンドをかけ、そして静かに注射針を刺した。  
検査の採血とは違い、一度に銀杯一杯分、だいたい200mlの血を一度に抜き取る。大きい注射器で目一杯といったところだ。  
量としてはごく一般的の献血では少ない方だが、それを一気に抜き取られるのは気分的にも全身の力が抜けるような感覚になる。  
血を抜き取った彼女は俺にアルコールを湿らせた脱脂綿を渡し、銀杯に抜き取ったばかりの血を注いでいく。  
普通血は外気に触れるとすぐに凝固していくのだが、銀杯には魔力が込められており、血の凝固を防いでいる。  
まるで聖杯に注がれたワインのようだな、と不意に思えたが  
これの用途はそんな神聖な者ではない。邪悪な魔女の実験材料なのだから。  
「それを持って、ついてきてね」  
魔女は中身を若い女性のまま、しかし服装だけを普段着ている「いかにも魔女」といった出で立ちに戻し、館の外へと出て行く。  
向かう先はもちろん、マンドラゴラ畑。  
 
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畑は魔女の館からほど近い場所にあった。畑としては随分と小さく、四畳半程度。  
流石に処刑台は置いていないが、周囲には「結界」が張られていた。  
「音漏れ防止と侵入者防止の役割があるの。と言っても、侵入を防ぐのは人より獣だけれども」  
獣の侵入を防ぐのは、野犬や猪が誤ってマンドラゴラを掘り出してしまわない為、という事らしい。  
ちなみに、魔女達は普段結界の外から魔法を使ってマンドラゴラ引き抜く為、安全にこの危険な植物を扱えるらしい。  
「ちょうど真ん中当たりに、他より育ちすぎているマンドラゴラがあるの判る?  
アレはもうアルラウネになっているだろうから、アレにその血をかけてくれる?」  
俺は念のためにと、暖房用耳当てに魔法を掛け耳栓代わりにした物をつけ、結界の解かれた畑へと足を踏み入れた。  
畑の中央まで進み、再度結界が掛けられたのを確認してから、俺は指定されたマンドラゴラに自分の血をドポドポとかけた。  
……特に変化はない。まあ、すぐに結果が判る実験でもないだろう。  
俺はとりあえず畑から出る為に、魔女に結界を解いて貰うよう振り返り合図を送ろうとした。  
様子がおかしい。魔女がなにやら慌てている。  
大声を出して叫んでいるようだが、結界と耳当てのせいで全く聞こえない。  
どうも身振りから、後ろ後ろと言っているようだ。  
何事かと又振り返ると、何事かなっていた。  
俺は自分には聞こえない驚愕の声を上げる。  
目の前に、女性が立っているではないか。何時どこから入ってきた?  
いや、入ってきたのではない。元から「ここに」いたのだ、彼女は。  
血のように全身が赤く、所々土まみれ。頭には植物の葉が生えている。  
間違いない、彼女はアルラウネだ。俺の血をきっかけに、自ら這い出る程に急成長したアルラウネだ。  
これが実験の結果?  
そしてこれは、実験の成功? 失敗?  
いずれにしても、ジリジリと近づくアルラウネに、ただならぬ危機感を俺は覚えた。  
が、逃げようにもまだ結界は張られたまま。  
首だけ振り返り魔女の姿を探す。  
彼女は何か機械をセットしている。  
それはビデオカメラ。そしてその隣には、同様の機能を持つ水晶球まで三脚に乗せられている。  
片手でOKのサインを送る魔女。  
ああ、そういう事ね。俺はまたまたハメられたのね。  
 
首を元に戻す。目の前には間近に迫ったアルラウネが。  
蔓のように伸びる指が俺の耳当てに触れ、それをつまみ俺の頭から外した。  
マンドラゴラの悲鳴は抜いた直後に上げられる。自ら這い出てきたアルラウネは、もう悲鳴を上げたはず。危険はない……はず。  
しかし不安は残る。案の定、アルラウネは悲鳴のように甲高い声を上げ、俺の耳にそれを届ける。  
咄嗟に耳を塞ごうにも、いつの間にかガッチリと蔓の指で腕ごと身体を縛られ耳をふさげない。  
アルラウネの声を聞いた俺は、狂う事も死ぬ事もなかった。最初の産声では無かったから効果がなかったのか?  
いや、効果はあった。ただそれが普通のマンドラゴラやアルラウネとは違う効果。  
ドクンと、心臓が高鳴る鼓動が聞こえる。そして息が荒くなってきた。  
そう、俺は興奮し始めてきた。  
催淫効果。媚薬の魔力を秘めた俺の血を啜ったこのアルラウネは、あろう事かその媚薬効果をキチンと吸収している。  
細く伸びる指が、器用に俺のベルトを外していく。そしてその指は既に固くなった俺の肉棒に絡みついてきた。  
硬めの指がするすると動き、肉棒に刺激を与える。多少の痛さもむしろ新鮮な刺激となってより肉棒を固くさせる。  
不意に、唇にも感触が。アルラウネが唇を重ねてきた。  
指同様人のそれよりは硬めなのだが、不快感はない。  
そしてやはり硬めながら柔軟な舌が、俺の口内へと侵入してくる。  
彼女と俺の唾液がにちゃにちゃと音を立て、俺の唇と舌をむさぼるアルラウネ。  
次第に、俺も彼女の唇と舌を求めていた。  
彼女の唾液は甘かった。成分的に樹液に近いからだろうか?  
彼女が唇を放した。互いの唇が唾液の糸で結ばれている。その色が少し黄色い。やはり樹液に近い唾液のようだ。  
俺を縛る指が少しきつくなる。アルラウネがぐっと俺を引き寄せているのだ。  
ふと下を見れば、最大級に大きくなった俺の肉棒。そして黄色い愛液で濡れた彼女の陰門。  
肉棒に絡みついた指をほどき、すぐさま腰を俺に押しつけ陰門に肉棒をくぐらせるアルラウネ。  
甲高い奇声が彼女から発せられた。言葉を話せない彼女の、これがあえぎ声なのだろう。  
さらに力が込められる指。いや、もう腕と言うべきか。密着する程に俺は縛られたまま抱きしめられている。  
俺の胸に彼女の胸の感触。人の胸より感触は硬いが、柔軟性はあるのか豊満な胸は俺に押しつけられ変形している。  
再びの接吻。押しつけられる胸。縛る指と腕。そして激しく動く腰。  
俺は舌以外動かせない、立ったマグロ状態。自由を奪われながら全身に走る快楽はあまりにも心地良い。  
何よりも、彼女の中。やはり硬い感触をもちながら、細かい突起が肉棒に絡まるようで、  
これがまた今まで感じた事のない快楽を与えてくれる。  
このまま、俺は彼女に取り込まれてしまうのではないのか?  
そう感じさせる抱擁と快楽に、俺は限界へ登り詰めようとしていた。  
それを告げようにも、彼女は唇を放さない。  
しかし彼女も察しているようだ。腰の動きがより激しくなっている。  
彼女も感じているのだろうか? それを訊く事は叶わないが、もしそうならせめて一緒に……。  
やがて、はてた。彼女の中にドクドクと注がれる精液。  
彼女も腰をピタリと俺に付けたまま動きを止め軽く痙攣している。良かった、彼女も感じてくれていた。  
そしてしばらく後に、また腰が動き出す。  
状況は変わらない。俺は動けないまま快楽を与えられ精液を搾り取られていく。  
これを俺が意識を失いそうになる直前、四回くらい繰り返したところで結界を解き飛び込んできた魔女に止められるまで続いた。  
 
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普通にマンドラゴラを……まあ、「普通に」マンドラゴラを栽培しようなんて輩はそういないが……  
マンドラゴラを育てるのに必要な血は、発芽する時だけで充分。  
しかし発芽後も血を与えれば与えるだけ、高品質なマンドラゴラになるらしい。  
それともう一つ。マンドラゴラは血だけでなく精液も養分にする。  
当然発芽の際に必要とするのも精液で良い。  
「この子は発芽の際に、あなたの精液を使ったのよ」  
大人しくなったアルラウネの頭を撫でながら、魔女がとんでもない「種」明かしを語り始めた。  
どうやって俺の精液を? という質問を俺はする気になれなかった。  
そうだろう? いくらだって心当たりはあるのだから……。  
「あなたの精子から産まれたのだから、そういう意味ではこの子はあなたの「娘」も同然ね。おめでとう、パパ」  
「パパ言うな……」  
まあ、俺の「血」も受け継いでいるわけだから……いやいや、そういう問題じゃないだろう。  
「でもね、始めから狙って行った実験じゃないのよ。あなたの精液を発芽に使ったのも、「手近で気軽に摂取出来る精液」というだけで、他意はなかったの」  
手軽に摂取される俺って……。  
彼女の話では、俺の精液からマンドラゴラを発芽させたところ、どれも高品質な物に育つ事に気付いたらしく、  
もしかしたら、俺の「魔力」に関係があるのかもと興味を持ち始めたらしい。  
その頃になって、俺がリリムハウスでエムプーサやサキュバスを血や精液で魅了しているという事を知り、俺の血と精液に何かあると睨んだ。  
そしてついに、俺の方から血の検査依頼が。これはもう、鴨がネギを背負ってきたも同然。  
「正直、こんな結果になるとは思ってなかったわ。あはは、実験って結果が出るまで判らないものねぇ」  
先ほど軽く調べてみたところ、このアルラウネは「品種改良」によって産まれた「亜種」」のようなものらしい。  
普通アルラウネにまで育った物でも、動き回る以外特にマンドラゴラと変わりはない。  
そもそも、アルラウネにまで育ってもさして大きくは成らず、せいぜい猫程の大きさにしかならない。  
ところが俺の血と精液によって改良されたこのアルラウネは大人の女性ほどの大きさがある。  
しかも元々あるマンドラゴラとしての媚薬成分以上に高濃度な媚薬成分を持っている。  
それが彼女自身の行動にも影響を与え、精液を求めるアルラウネになった……ということらしい。  
彼女が普通のアルラウネよりもかなり大きくなったのは、媚薬とは関係ない、俺が持っている元々の魔力に関係があるらしい。  
つまり、このアルラウネは様々な偶然的要因が重なって産まれた希少種なのだ。  
「とりあえず、偶然が重なったところまでは認めよう。だけどさ、咄嗟に用意したビデオとか、あれはどう説明するんだよ」  
予想外と言う割りには手際が良すぎるだろう。  
俺の抗議を、魔女は笑って答える。  
「それはもう、あなたが絡む事だもの。「こんな事もあろうかと」と思って用意しておいたのよ。あはは、本当に予想外ながら期待を裏切らないわぁ」  
なんだよその、どっかの宇宙船乗組員みたいに周到な準備は。  
「ところで、この子はどうするの? まさか、材料にしろなんて言わないわよね? ここまで育っちゃったのに」  
ニヤニヤしながら意地の悪い魔女は俺に尋ねる。  
「……とりあえず、リリムハウスに預ける。このままだと色々と「危険」だろ」  
一度「こと」を始めれば、止まる事を知らないアルラウネ。ここは「プロ」の手によって色々と「躾」をしてもらう必要がありそうだ。  
「ふーん……まぁそれしか無いわねぇ」  
どこかつまらないといった反応。まあ大方、「俺が引き取る」といった答えを期待していたのだろうが、  
流石に彼女もこのままが危険なのは承知しているのだろう。つまらないながら納得はしたようだ。  
「まぁいいわ。こっちとしてもまだ色々と調べる余地があるし。なにより、「観察記録」が残ってるからねぇ。二人が帰ってきたら、じっくり検討しなくっちゃ」  
下卑た笑い。また俺は弱みを握られたのか。  
魔女に何かを頼むのは必ず大きなリスクを伴う。例え簡単な血液検査でも。  
そもそも騙されやすい自分も自分なのだが……不思議そうに俺の顔をのぞき込むアルラウネをチラリと眺め、大きく溜息をついた。  
俺に足りないのは、たぶん学習能力だ。  
 

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