夜、不意に来客があるのは仕事柄良くあることだった。
ただ普段なら単なる訪問で、目的は座談だったり冷やかしだったりとたわいもないことが多い。
が、希に緊急を要する仕事絡みの訪問もある。
それは重々心得ている。しかし夜の訪問に驚くことはなくとも、
流石に一人の美しい女性が、身体中を縄で縛られ猿ぐつわまでされた別の女性を担いで現れれば、驚きもする。
「ドクター、あなたの血が欲しいの」
普段ならばもっと優雅に飾り立てた言葉で挨拶をする彼女が、
真剣な面持ちで切羽詰まった嘆願の言葉を口にしたことに俺は更に驚いた。
「ちょっ……なに、どうしたんだよ」
俺は驚きからまだ立ち直れぬまま、どもりながらも真偽を確かめた。
血が欲しい。その要求自体にはさして驚いていなかったのだが。
「この子……クドラクにやられたの。ほとんどヴァンパイア化してしまってる状態だけど……主人が、あなたの血なら助けられるかもしれないと……」
クドラクとは、スロヴェニア出身の吸血鬼。
そして彼女の言う「主人」こそ、そのクドラクの天敵であるヴァンパイアハンター、クルースニクの一人。
「俺の血が? いや、そういうことなら君の旦那の方が適任じゃないのか?」
クルースニクは産まれながらにしてヴァンパイアハンターとなる宿命を背負った人々。
それだけに、彼の血は対ヴァンパイアに特化した魔力を血にも秘めている。
俺も色々あって血に魔力がこもっている体質なのだが、彼の比ではないし、なにより彼の方がより適応していると思われる。
「主人の血では強すぎるのよ。ほぼヴァンパイアとなってしまったこの子では、おそらく……」
歯切れの悪いその言葉、俺は最後の意味までくみ取れた。
床に寝かされながらももがきあがくこの女性が彼の血を吸ったら、
おそらく全ての意味に置いて「死」が訪れることになるだろう。
ヴァンパイアになることも人としては「死」を意味するわけだが、
クルースニクの血を吸うことで訪れる死とは、肉体の崩壊と精神の成仏を意味する。
「お願い、あなたに「危害」を及ぼすようなことには絶対にならないと誓うわ。この子にあなたの血を吸わせてあげて……」
彼が何故俺の血が適任だと判断したのか……俺には解らない。
しかし専門家の診断だ。俺も一応専門家だが、広く浅い俺の知識より彼の特化した知識の方が的確な診断が出来るというもの。
「解った。じゃあ、その子の猿ぐつわをほどいてあげて」
覚悟を決め、俺は首を露出するために上着を全て脱ぎ準備した。
血を渇望し暴れる女性は、ようやく血にありつけると理解出来ていないのだろう。
猿ぐつわを外して貰えるというのに頭を振り回しまだ抵抗している。
完全に理性を失っている。血への渇望だけが全てを支配しているこの状況は、確かにヴァンパイアそのもの。
そもそも、ヴァンパイア……吸血鬼には二種類ある。
種族として生き、血を糧とする者。
アンデットとして動き、血を動力とする者。
前者は理性があり、血への渇望も理性で制御できる。後者は理性が無く、死した身体を保つために血を求め続ける。
むろん前者とて、理性で制御できても血への「欲望」を抑えようとしない者もいる。
その代表が、クドラク。
クドラクのような者は欲望の赴くままに人から血を吸い、吸われた者は眷属となる。
今ようやく口を自由にして貰ったこの女性も、クドラクの眷属になろうとしていた。
確かに一刻を争う状況のようだ。もはや彼女をクドラクに渡さないためには、俺が一肌脱ぐしかない訳か。
まあ、既に一肌脱いでいるわけだが。
「ぐっ!」
解き放たれた女性は、まだ足が不自由だというのに構わず俺へと向かってきた。
そして髪を振り乱しながら、俺の肩口に鋭い牙を起て噛みついた。
覚悟して待っていたとはいえ、やはり力強く噛みつかれてはうめき声も出てしまう。
女性はそんな俺に全く構うことなく、傷口からあふれ出る血をずるずると飲み続けていた。
まるで野獣だ。事実ヴァンパイア化すると野獣と変わらぬようになってしまうのだから、致し方ないのか。
一瞬、くらりと頭が揺れた。急速な出血に、意識が僅かに飛んだようだ。
「これ以上は危ないわね。もう充分でしょ? 放してあげて」
諭すように耳元で囁き、ハンターの妻が連れ込んだ女性を俺から引き離した。
そして俺の傷口に軽く手を当て、なにやら唱え始める。
傷口が燃えるように熱くなり、俺は再びうめき声を上げた。
だが熱さは一瞬。既に冷めた肩口に手を当てると、深々と開けられた牙の跡はすっかり無くなっていた。
「あっ……あっ……わっ、私……」
先ほどまでの、野獣のような雰囲気は完全に消え失せている。どうやら理性を取り戻したらしい。
それはつまり、クドラクの眷属になることを免れた証でもある。
ひとまずは安心。
しかし、これが必ずしも「良い結果」と言えるかどうかは……。
「私……血を……」
そう、彼女は血を吸った。それは普通の人間がすることではない。
彼女はもうすでに、ヴァンパイアになってしまっていた。
血を吸うという行為は、彼女がヴァンパイアへと変貌した決定的な行動。
もし彼女を人間に戻すなら、誰かの血を吸う前に処置をすべきだった。
だが、彼女にその準備を整える暇はなかった。
だからせめて、クドラクの眷属に成り下がることだけでも食い止めようとした。それが俺の血を吸わせるということ。
クルースニクとしてこの決断をし妻に任せたのは断腸の思いだっただろう。
「今縄を解いてあげるから……ドクター、後はお願いね」
俺に? 彼女は俺に、ヴァンパイアとなってしまったことを説明してやれと言うのか?
いや、確かにそれも俺の仕事だろうが……丸投げされても困る。
「いや出来れば、君も残って一緒に説明してあげて欲しいんだが……」
そもそも、ここに連れてきたのは彼女で、連れてこられる前までのことは彼女の方が詳しいだろう。
むしろ説明は彼女がした方が的確なはずなんだが……。
「やーねぇ。私に見ていろって言うの? ドクターって見られながら「する」のがお好みだったかしら?」
ん? なんか話がおかしくないか?
眉間に皺を寄せている俺を見て、彼女は苦笑しながら言った。
「自分の血が、どんな力を持っているかお忘れ?」
……ああ! そうだ、そういうことか!
俺は彼女の言葉と、そして紅葉し息を荒げているヴァンパイアの女性を見て思い知った。
催淫効果か。俺の血が持つ特性で、吸血鬼と淫魔にのみ効くあれか。
そうだよ、彼女はヴァンパイアとして俺の血を吸ったのだから、当然その効果が現れるわけで……
しかもかなりの量を飲んだはず。となれば、それはもう……ああ、なるほどね。
などと感心してる場合か、俺。
「それじゃ、よろしくねドクター。明け方までは続けてそうだから……そうね、昼頃に主人とまた来るわ」
来たときとは裏腹に、普段の明るく妖艶な笑みを浮かべ、消えるように部屋を出て行った。
そして残された二人は……。
「えーっと……どう説明すればいいのかな……」
今あなたは淫乱になっています……なんて説明できるか?
突然ヴァンパイアになってしまって、理性を取り戻したら欲情している。普通なら混乱しているはずだ。
が、それは第三者的な見解のようだ。どうやら彼女、取り戻した理性はすでにまた飛んでいるようだ。
血の渇望から精の欲望へ。
彼女は自由になった四肢で床に四つんばいとなり、いわゆる「女豹のポーズ」でこちらに顔を向けている。
見つめる瞳は潤み、妖しいまでに魅惑的だ。
そして彼女はまた野生に戻ったかのように、それこそ女豹のように俺へ飛びかかってきた。
「んっ! くちゅっ、くちゅっ……ん、ふわぁ、んっ……くちゃ」
俺を押し倒し、彼女は夢中で俺の唇に自身の唇を押し当て、舌をベロベロ舐め回す。
およそ「キス」というよりは、犬がじゃれて口を舐め回すような仕草。
かなり興奮しているらしい。そして……これは推測でしかないが、彼女はあまり男女の営みに関して知識がないような気がする。
知識がないと言うよりは、経験がないと言うべきか。
理性を失い興奮していたとしても、知識や経験が行動を決定づけるものだ。
興奮しているなら尚更、羞恥心無くより精に直接的な行動をとると思われる。
なら普通、先に襲うのは唇よりは直接的な肉棒ではないか?
よく見れば、彼女は若い……16,7に見える。
もし俺の見解が正しいのなら……いいのか? このまま続けてしまって。
「ふぅ……んっ、んんっ……ぴちゃっ……ふぇっ、んっ……くちゅ」
唾液の音に、僅かに嗚咽が交じり始めた。
よく見ると、彼女は泣いていた。身体の内から溢れる性欲に瞳を潤ませているだけでは無さそうだ。
そして彼女は腰を俺の股間に押しつけ、もどかしそうに、しかし激しく動かしている。
解らないのだ。彼女は欲情しながらもその処理をどうすれば良いのかが解らないでいる。
それが辛いのだろう。
これもまた、俺の血が招いたことか。なら……ちゃんと責任をとってやらなければならない。
俺は彼女の髪を優しく撫で、そして軽く頭を引き寄せ唇を強引に重ねた。
そして俺は彼女の口へ舌をねじ込み、激しく動く彼女の舌に絡みつかせた。
「んふっ……くちゅ……んっ、くちゃ……」
辛そうな瞳がトロンと垂れ下がり、そして舌は不器用ながら俺の舌に合わせて動くようになった。
「……全部任せて。俺が責任持って……その、してあげるから……」
彼女は息を荒げながら、僅かに微笑んだ。
多少なりとも、俺の誠意が伝わっただろうか。彼女は俺から離れてくれた。
「服を脱いで」
言われると彼女は落ち着き無く慌てながら服を脱ぎ始めた。
そして俺も、まだ脱いでいなかったズボンと下着を脱いだ。
さて、では改めて彼女を……と思った矢先、彼女は屈み込み俺の肉棒に迫ってきた。
「ちょっ……と、んっ……」
躊躇無く、彼女は俺の肉棒を掴み、そしてそれを口に運びくわえ込んだ。
耳年増な年頃なら、フェラという行為があることは知っているのだろう。
そしてそれをそて上げるのがよいと、彼女は吹き込まれていたのかもしれない。
それとも単純に、欲情した本能が加えさせただけかもしれない。
ともかく、経験がないのに代わりはないようで、彼女はただくわえて舐め回すだけ。
それでも激しい舌使いは俺を興奮させるのに充分なのだが。
「歯を立てないようにして、軽く前後に……そう、うん、気持ちいいよ」
俺はフェラのやり方を細かく丁寧に教え込んだ。
どうせなら、お互いが気持ち良くなるに越したことはない。
調教しているようにも思えてきたが、肉体的なことだけでなく、感情面でも彼女を気持ち良くしてあげるなら、キチンと教えてあげるべきだろう。
奉仕するのもされるのも、肉体と精神で「いく」事が大切なんだと、俺は「奉仕の達人」からそう聞かされていたから。
教え子は俺の指導をよく聞き、完璧ではないが懸命に尽くしてくれている。
その様子が俺の心を熱くさせ、むろん下半身をも熱くさせていった。
彼女も奉仕しながら片手で股間をまさぐり、より興奮の度合いを増している。
「そろそろ……逝くよ」
さて、俺は何処に出すべきか?
さすがにいきなり口内射精はまずいだろう。となれば顔射? いやそれもどうか……などと迷っている暇はなかった。
俺の顔が歪み、彼女も俺の言葉の意味を理解したのか、頭と舌の動きをより激しくしてきた。
「っ……出る!」
俺は慌てて肉棒を彼女の口から引き離した。その直後に俺は白濁液をぶちまける。
顔の外に向ける間もなかったため、結局顔射をしてしまった。
全てが初めてづくしであろう彼女にとって、射精の瞬間を見るのも、出された白濁液を見るのも初めてだったろう。
僅かに驚いた顔を見せた彼女は、顔にこびりついたその液を指ですくい、ペロリと舐めた。
「……おいしぃ」
本来、精子はそう旨い物ではないと聞く。だが興奮状態の彼女には、初めて味わう精子に別の旨味を感じているのだろうか。
「あの……もう、私……」
奉仕によってほんの僅か落ち着きを取り戻したのか、彼女は俺に飛びかかってから初めて言葉を口にした。
しかし落ち着いたのはあくまで、言葉を口に出来るようになった程度。彼女の中でくすぶる疼きはむしろ高まっている。
「ごめんなさい、私どうしたらいいのか……でも、我慢出来ないんです……」
息を荒げながら、彼女はいじり続けていた股間を開き俺に見せつける。
そこは既にぐしょぐしょと音を立てていた。どうも彼女は、もう軽く何度か逝っているのだろう。
「私、初めてだから……はしたない……けど……あの……」
頬を興奮と羞恥で赤く染めながら、彼女は懇願している。
淫乱な処女。話せるようになって羞恥心がわき始めているが、欲情と比べれば微々たる物。
俺はそっと近づき、その頬に軽く唇を当てた。
「大丈夫だよ。俺が全部、してあげるから……」
そして今度は唇に軽く重ね。髪を撫でる。
彼女は微笑んでくれた。彼女を淫乱にした張本人である俺に。
むろん彼女はその事実を知らないのだから、知っていたら微笑んでくれたかどうかは解らない。
だがそれでも、彼女の笑顔それだけで、俺の罪が許された、そんな気になってしまう。
俺は彼女を抱きかかえ、ベッドまで連れていく。
そしてゆっくり彼女をその上に横たわらせ、そして両足を開かせた。
期待と羞恥で俺を見つめる彼女。その瞳が俺の心を釘差し、肉棒をいきり立たせる。
ヴァンパイアの心臓に杭を打ち込む代わりに、俺は彼女の陰門に杭を深々と突き刺した。
「んあぁああ!」
ずぶ濡れだった陰門は素直に杭を受け入れた。その感触はまるで熟女のそれ。
しかし彼女は間違いなく処女だった。
杭を打ち込んだときに彼女は、苦痛と快楽で声を上げ、そして淫汁と共に血が流れ出てきた。
それは彼女が処女だった証。そして彼女が「生きている」証でもあった。
アンデットとしてヴァンパイアになったならば、血は流れないはず。
彼女は種族としてヴァンパイアに転生できた。俺はその証を見て再び胸を撫で下ろした。
そしてなお、彼女をヴァンパイアとして生かすことを選んだ責任を感じていた。
ヴァンパイアとして生きるより、人として死んだ方が良いと思う人は沢山いる。
彼女が今の淫乱状態から回復し、改めて自分の状況を理解したとき……彼女は俺を怨むかもしれない。
それでも俺は、クルースニクと同じく、「死」よりは「生」を選ぶべきだと思う。
死んでは何も出来ないが、生きていれば、生きることで出来る何かを見つけられるから。
例えば、珠玉の悦楽を感じることとか……。
「んっ、あっ、いい、きもちいい、です……ん、わ、わたし、はじめて、なのに……んっ、ふあぁ!」
彼女は今、「生」の中で「精」の悦びを感じている。生きていなければ味わえない悦び。
怨まれても良い。それでもせめて今は、彼女に悦んで貰えることだけを考えよう。
「すご、い、んっ! はあぁ……きもっ、ち、きもち、いい……です……んっ、んっ!」
途切れ途切れに、彼女は悦びを口にしている。
生きているからこその幸せ。一時の快楽でも、喜びがそこにあるならば、それは幸せなのだと思う。
俺は出来る限り彼女が幸せでいられるように、激しく杭を打ち付けていく。
「いやっ! なんか、くる、く、る……んっ、ふわぁ! いっ、きもっ、いっ、いく、いっちゃ……んっ、んっ、ふあぁあ!」
半開きの口から余韻の声を漏らしビクビクと身体を震わせ、彼女は絶頂へと辿り着いた。
処女だった彼女が、こうも早く逝けるとは……恐るべきは俺の血か。
いや、まだ俺の血がもたらす効果はこんなのもではないだろう。
「なんか……んっ、私、なんでこんなに……」
彼女は無意識に、手を再び股間へと伸ばしていた。
そして陰核に触れた時、彼女は自分が何を始めたのかを理解した。
理解しながら、彼女は自分の手を止められなかった。
「どうなっちゃったの、私……」
絶頂を迎えたことで、欲情は納まらないもののまた理性を取り戻したようだ。
そしてまた、混乱し始める。
どうなったのか。それを説明しても今の状態では理解できないだろうし、理解したところでやはり混乱に陥るのは間違いない。
「怖がらないで。全部俺がしてあげるから……」
何度も俺は同じようなことを言っている。そしてその都度彼女は微笑んでくれる。
充分に理解しているとはとても言えない。しかし気持ちだけは伝わっている。そう思う。
ただ彼女の幸せのために。そんな俺の気持ちは、伝わってくれている。そう信じたい。
「あの……お願いして、いい……ですか……」
潤んだ瞳と高揚した顔。それでお願いされては、首を縦に振るしか俺に選択肢はなくなってしまう。
「抱いて……抱きしめて、貰えませんか?」
俺は言われるまま、彼女を抱き上げ膝で立ちながら強く彼女を抱きしめた。
「ああ……嬉しい……夢、だったんです。こうして男の方に、強く抱きしめて貰うことが……」
たわいもない夢。しかしとても暖かで淡い夢。
少女から大人へと駆け上がる途中。そんな彼女が抱いていた理想の異性交遊が、この抱擁なのだろう。
そんな可愛らしい女性を、俺は淫乱にした上で、処女を奪ってしまったのかと思うと……。
「まだよく解りませんが……あの、私……」
自虐的な思いに駆られていた俺に、彼女は恥ずかしげに声を掛けてくる。
「あなたで……その……良かった……こんなに、優しく暖かい人で……」
ぎゅっと、俺の背に回された彼女の腕に力がこもった。
こんな俺で良かったと、彼女は言ってくれた。
俺は彼女を救う気でいたが、救われているのは俺の方だ。
微笑む彼女、その唇を、俺はまた奪いにいく。
愛おしい唇を奪いに。
「んふ……んっ、ちゅっ……くちゅ……」
舐め回すだけから始まったファーストキス。二度目は理性を保ちつつも積極的な、大人の味。
「このまま……抱きしめたままで、あの……して……貰えますか?」
唇から糸を引きつつ放し、彼女はお預けになったままの二度目をせがみ始めた。
俺は立ち膝からあぐらに切り替え、慌てる彼女をなだめながら導いた。
「んっ!」
がくりと落とした腰に、深々と杭が差し込まれる。
そして誰に教わるでもなく、彼女は腰を振り始めた。
一度膣の快楽を覚えれば、腰は本能で動くのだろう。
「ふっ、深い……んっ、い、さっきより、も、いい、気持ち、いい、です……んっ、んあっ、んっ!」
あぐらを掻きながらでは難しいが、俺も懸命に腰を動かす。
そして俺は揺れる彼女の頭を軽く抑え、サードキス。
「んふ、ふぁ……んっ、くちゃ、ちゅ、ちゅくっ……ん、きす、きすって、こんなに、きもちの、いい、もの、だったんです、んっ! ね……あっ! ふぁ……ん、くちゅ、ちゅ」
全てを快楽へと結びつけやすい今の彼女ならば、何をしても気持ちの良い物になりそうだ。
しかしキスの快楽は肉体的な物だけではない。心の快楽も兼ねているはず。俺はそう思っている。
そしておそらく、彼女もそう思ってくれているのだろう。
「ふわぁ! ま、また、きた、くる、ね、んっ! こんど、は、ひゃあ! いっ、いっしょ、いっしょ、に、おね、んっ、いあぁ!」
彼女の初絶頂時、あまりに早くて俺は逝けなかった。
今度こそは逝って欲しいと、彼女は願っているのだろうか。
少なくとも、彼女に言われるまでもなく、俺も今回は絶頂に達しそうだ。
「いっ! ん、す、すき、すき、すき、んっ、んはぁ、す、すき、す、き、あはぁ、んっ!」
快楽故なのか、唐突に、しかし連呼で、彼女は俺への好意を口にし始めた。
それが本心かはよく解らない。興奮が口を動かしているだけなのかもしれない。
しかし「今」彼女が想う気持ちに偽りはない……のかもしれない。
「ああ、良いよ。好きになって、好きでいて欲しいよ。俺も、好きだよ」
俺の言葉にも偽りはない。少なくとも今は。
俺は女性を抱きしめているときは、本当にその女性だけを愛しているように心がけている。
多くの女性を相手にしている俺だが、この一時一時を大切にしたい。
一瞬の想いでも、偽りはない。
それが好意を持ってくれる女性への礼儀だと、俺は思っている。
「うれし、んっ! いっ、いく、もう、いく、から、ふあ! いっしょ、いっしょ、に、いって、いく、いく、いく、いく、いっ! んっ、あ、あ、あぁあ!」
彼女の腰が止まり、ぎゅっと膣が閉まる。と同時に、俺は勢いよく彼女の中へと白濁した液を射出していた。
俺の首に手を回し、彼女は息荒げに余韻を味わっている。
俺は片手をベッドにつき、片手を彼女載せに回したまま息を整えていった。
「私……どうしちゃったんだろう……でも、なんか……幸せです」
歯を見せながら微笑む彼女。そこには鋭い牙が二本。
彼女ははたして、自分がヴァンパイアになったことを知っても幸せでいてくれるだろうか?
俺はまた、ぎりりと心臓を自虐で痛めていく。
しかしそんな自虐も、長く続かない。
「あの……もういちど、その……いい、ですか?」
言葉は遠慮がちに丁寧。しかし行動は別。
彼女はゆっくり俺にしだれ掛かり、そのまま俺ごと横たわる。
そして繋がったままの腰をゆっくりと、徐々に激しく、動かし始めた。
まだまだ、媚薬効果は消えないらしい。
そう、ヴァンパイアの夜は長いのだから。
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「すまなかったな。改めて、礼を言わせてくれ」
あれから数週という時が流れ、俺はクルースニクからの礼を受けていた。
彼は彼の妻が約束したように、その日の昼に一度俺の下へ訪れてきたのだが、
魔女の軟膏やら秘薬やらを服用しながら朝まで付き合った俺に、まともな面会は出来なかった。
その後はヴァンパイアになってしまった彼女へ経緯の説明をしたり、
彼女の両親にも同じ説明をしたりと、色々と後処理に追われ、まともに話が出来ない状況だった。
落ち着いた今、こうしてゆっくりとお茶を飲みながら話が出来るようになっていた。
「いや、これも俺の仕事だし……」
妖精学者として、俺は出来ることをしたまで。そして彼も、クルースニクとしての宿命に従ったまで。ただそれだけだ。
「ま……本人も両親も、思いの外納得が早くて良かったよ」
本人については、俺と一夜を過ごしている間に、ゆっくりと、事態を理解し始めていたそうだ。
彼女は吸血鬼クドラクにさらわれ、そして血を吸われた記憶を持っていた。
その後に起きた血への渇望も、その渇望が納まった時の状況も。
だから俺からの説明で骨が折れたのは、淫乱になっていたことくらいだった。
両親の方は、そもそもクルースニクである彼に娘を助けてくれと依頼したのがその両親であったため、
ヴァンパイアが実在するところから説明する手間だけは省けた。
しかし依頼は半ば失敗し、娘がヴァンパイアになってしまった事への失意と憤りは当然沸き起こった。
クルースニクが依頼を受けたときは既にクドラクにさらわれた後で、既に娘の血は吸われている可能性の方が高く、事実そうだった。
それを頭で解っていても、理不尽だが怒りをハンターにぶつけてしまう。
こればかりは致し方のないものだと、俺達は覚悟していた。
そんな両親の怒りを沈めたのは、ヴァンパイアになった当人。
自分はヴァンパイアになってしまったけれども生きている。むしろ死んでしまうところだったのを助けて貰ったのだと。
最終的には、娘がどう変わろうとも生きていてくれたことに感謝された。
生きてさえいてくれれば、希望はあるのだからと。泣きながら、頭を下げられた。
良かった。俺は、彼女を救えて本当に良かったと心から思う。
「ところで……本当に良いの? それで」
ハンターの妻が、お茶のお代わりを注いでいるメイドに話しかけた。
「ええ……私、幼い頃から「初めての殿方」と添い遂げるようにと厳しく躾られてましたから」
その話になると……俺は心が痛む。
「好きだと、言ってくださいましたしね」
ああ、さらに心が痛む。
なんか前にも同じ様な展開で、メイドを雇うことになったなぁとか思い出しつつ、
俺はしくしく痛む胸を押さえていた。
メイド服を着たヴァンパイア……彼女はいわゆる「良家」の中で育てられたお嬢様。
それはそれは、クドラクが目に付ける程に才色兼備で貞操観念の強い娘さんだった。
そんなお嬢さんを淫乱にした上なにからなにまで奪った俺は……責任をとれと言われて当然なわけで……。
しかし俺にはその……色々事情があって……どうにか断れないかと思案していたところ、思わぬ所から助け船が出された。
「添い遂げる、いい言葉だわぁ。女はやはり、一途なのが一番よ」
微笑むハンターの妻。その笑みにはキラリと二本の牙が輝いた。
そう、彼女もヴァンパイアなのだ。
彼女も昔、クルースニクに助けられたがヴァンパイアに転生してしまった一人。
その時はクルースニクの血でアンデット化を防いだらしいが、それ以後彼女は、恩人に報いると言い張りずっと彼について回った。
その結果が薬指に光る指輪、と言うわけ。
そのヴァンパイアの先輩が、後輩に俺の事情を説明し、彼女を納得させようとしてくれた。
「同感です。考え方は人それぞれでしょうが、好いた殿方に付き添うのは、女の幸せだと私も実感致しておりますし」
そしてもう一人、助け船を出した当人がケーキをテーブルに置きながら話に加わってきた。
彼女もメイド。フランス出身のヴィーヴル。
色々あって彼女も俺に付き添う事を選び、ここでメイドをしている一人。
ヴィーヴルは後輩に、自分の経緯と俺の事情を話し、そして自分と同じようにメイドにならないかと誘った張本人。
そして今こうして、ヴァンパイアのメイドが働いている、ということに繋がる。
「先輩方には感謝しております。色々ありましたが……私は今、幸せです」
微笑む彼女を見ていると、これで良かったのだと思えてくる。
生きていれば、どこかに幸せは必ずある。彼女はそれを、見つけることが出来たのだから……それでいいのだろう。
「まあ……一番苦労するのはあなたですものね。夜のローテーションとか、色々と」
ぼそりと、メイド長のシルキーがスコーンを起きながら俺に囁いた。
そうなんだよねぇ……どーしようかねぇ……ホント。
同性からしてみれば、ただ羨ましいだけなのだろうが……これはこれで色々苦労があるんだよ。
などと、誰にも言えない愚痴を心中で呟きながら、
しかし幸せそうな彼女の顔を見ていると、その苦労も悪くないと思えてくる。
そうだな……同性が羨むこととは別に、確かに俺も幸せだ。