見られている。  
私は今、複数の人達にじっと見られている。  
それも頭のてっぺんから足のつま先までじっくりと。  
そして特に、ブラウスとエプロンのデザインが胸を強調するものであったためか  
胸部への視線が多く注がれているのを私も実感している。  
恥ずかしい。これだけ多くの人にジロジロと見られながら堂々としていられるだけの度量を、私は持ち合わせてはいない。  
「少し屈んでみて」  
事務的な命令に、私は頬を赤らめながらも素直に従った。  
屈むことで、私の胸元、胸の谷間が少し見えてしまう。  
私が着ているのは、いわゆるメイド服。私にとっては仕事着であり日常着ともいえる服。  
しかし今着ているメイド服は、私が普段着ているものとは大きく異なっている。  
胸元が広く開かれたデザインのブラウス。  
仕事に適したデザインとは言い難く、これは接客用の、それも好色的な意味を込めたデザインになっている。  
このような服を着るなんて……ああ、顔から火が出る思いとはまさに今のような状況なのでしょう。  
「もうちょっとだけ屈んでみて」  
それでも、私への命令は下される。  
それでも、私は言葉に従いわずかに屈むしかない。  
それは私がメイドであるが故。  
「んー……」  
じっくりと、じっとりと、視線が私に注がれる。  
「ちょっと……んー、これはデザインが悪いと言うよりは、モデルの問題かしらね……」  
私にこのような格好をさせた上で、そのような発言を……  
恥ずかしさもあり、私はいつの間にか瞳を潤ませていた。  
「あっ、いや、そういう意味じゃないの。あ、姿勢は戻していいわ。ごめんね」  
あわてた様子で手を振りながら、服のデザイナー……アルケニーさんが謝罪と共に命令の撤回を言い渡してくれた。  
私はホッと胸をなで下ろしながら姿勢を正す。  
「なんて言うかな、このメイド服は「メイド喫茶用」にデザインした服だから……」  
慌てるアルケニーさんが、謝罪と説明を続けくれている。  
「現役がモデルになってくれればと思ったけど、良家のお嬢様とフランスの淑女では、  
メイド喫茶特有の「萌え」が出ないって意味ね。二人とも綺麗すぎるってことなの」  
もちろんアルケニーさんに悪気がないことなんて存じています。  
ただ私は、アルケニーさんを始め多くの人に見られていたのが恥ずかしかっただけで……  
特に、その……中には「ご主人様」もいらしたから、余計に……。  
「大丈夫ですよ。私も彼女も、アルケニーが仕事熱心なのはよく存じてますから」  
私と同様にちょっと恥ずかしいメイド服を着せられている先輩、ヴィーヴルさんが  
頭を下げ続けているアルケニーさんへ声をかけている。  
先輩が言うとおりアルケニーさんは仕事熱心で、  
服のこと、それも自分がデザインした服のことになるとちょっと周りが見えなくなるところがある様子。  
「ホントごめんね……」  
最後の言葉も謝罪でしめるアルケニーさんを見て、私は頬をゆるませていた。  
 
「まあでも……このデザインだと二人の「良さ」を邪魔してしまうのは事実ね。  
むしろ二人が普段着ているメイド服の方が人気を集めそうだし」  
デザイン面を言及しない、気遣った物言いながら問題点をきちんと指摘されているこの方は、本日のお客様。  
幾つもの風俗店を経営されるオーナー様で、本日は発注していた制服のご確認にいらしています。  
その制服は、経営店の一つである「メイド喫茶・フェアリーランド」の従業員さんが着られるメイド服。  
エプロンの肩掛け紐にはたくさんのフリルがあしらわれており、  
スカートは少し短め。代わりに足にはいているニーソックスは長めになっています。  
アルケニーさんがおっしゃるには、「ちょっとドロワーズを意識した」デザインだとか。  
しかしドロワーズというには胸部を意識したデザインになっており、そこがアルケニーさんなりのこだわりのようです。  
とりあえず、自分のことはよくわかりませんが、  
大人の女性である先輩が着ると、確かに色々と違和感がぬぐえません。  
それは普段のメイド服とあまりにデザインが違うことからくる違和感なのかもしれませんが。  
「でもさぁ、こーいう「淑女にロリメイド服」っていうのも「萌え」ない?」  
もう一人のお客様、モーショボーさんが意見を口にされる。  
彼女は元々モンゴル出身の方なのですが、今は秋葉原を中心に活動されているとか。  
それも彼女には、たくさんの……その、「Aボーイ」と呼ばれるような「お友達」がいらっしゃるようで  
彼ら向けの服装などには敏感なんだとか。  
そのような経緯で、オーナー様からご意見番として本日声をかけられたようです。  
「私が着れば一発で悩殺できるわ。ねえアルケニー、後でこれと同じの私用にも作ってよ」  
モーショボーさんの見た目はまさに少女という出で立ち。  
確かに今私が着ているメイド服は、彼女のような可愛らしい少女にこそ似合うと私も思います。  
アルケニーさんはモーショボーさんが言われることをすでに承知していたのか、  
出来ているから後で渡すとおっしゃっています。  
「で、アンタはどー思うのよ。自分で「ものにした」女達の、萌え萌えメイド姿は」  
「ものにしたってなぁ……」  
苦笑いを浮かべながら、ご主人様が指で頬を掻いてらっしゃる。  
わずかに頬が赤いのは、指で掻いているからではないと思うのですが……  
私の考えが正しいなら、恥ずかしいですが反面ちょっと嬉しいかも。  
「ともかく……なんだ。確かにモーショボーが言うように、  
「淑女にロリメイド服」ってのも「萌え」ではあるんだろうが……  
そもそも、従業員に「淑女」つーか、大人の雰囲気を持った人を雇ってるのか?」  
話を振られたご主人様は、オーナー様にそのまま話を振っている。  
「それは必要に応じていかようにもそろえられるわよ。私の人事能力をお忘れ?」  
この発言に、私を含め場の皆様が軽く笑い声を上げた。  
オーナー様は多くのお店を経営されているからか、様々なところから人を集める能力に長けておいでで、  
しかも適材適所、雇い入れた人がすべての能力を発揮出来るよう働ける場を確保する術にも長けていらっしゃる。  
それを皆さん知ってらっしゃるからこそ、ご本人の発言にそれはそうだねと笑われたのです。  
「店の傾向から、お客さんには少々ロリ系統に好みが傾いているのは事実だけれども、  
メイド長として一人、あと「姉属性」向けに二人働いてもらってるわ」  
私には「属性」というのがよくわかりませんが、どうやらオーナー様に抜かりはないご様子。  
「ならそうねぇ……せめてメイド長用に、もう一つ新しいデザイン起こしてみましょうか?」  
アルケニーさんの提案に、オーナー様は出来ればお願いねと頼んでおられます。  
 
「了解。それじゃ、次の試着……っと、ここからはアンタに用無し。部屋から出て行ってちょうだい」  
ご主人様に向けて、アルケニーさんはまるで犬でも追い払うかのようにシッシと手を振り退室を申し渡します。  
「ん? まだなんかあるのか……まあいいや。じゃあ俺はネコマタのじーさんと将棋でも指してるよ」  
ええ、あるんですよ。ある意味、ここからは私にも関係のある試着が……。  
ご主人様が部屋を出て行ったのを確認すると、アルケニーさんが嬉しそうに新しい服を取り出し始めました。  
本当に、服のことになるとアルケニーさんは嬉しそうです。  
そんなアルケニーさんと比例するように、私はまだ試着もしていないのに頬がどんどん赤く染まっていきます。  
もちろんアルケニーさんのように興奮しているからではなく、恥ずかしさから。  
ああ、この場にご主人様がいなくて本当に良かった。  
とはいえ、いずれは……というより、今晩お披露目することになるわけですが……  
そのことを考えるだけで、頬だけでなく顔全体が赤くなるのを自覚してしまいます。  
私に似合うと良いのですが……  
とりあえず、並べられるアルケニーさんの服の一つを手に取り、私は試着を始めました。  
 
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「あの……しっ、失礼します……」  
今夜は、待ち望んだ大切な夜。  
ご主人様と、二人きりで過ごせる大切な夜。  
ご主人様は昼も夜も多忙な方なので、こうして私のためだけに時間を割いてくれる日はそう多くはありません。  
ですからこのような日は本当に待ち遠しく、時が近づくにつれ胸の鼓動を早めてしまいます。  
ですが……今夜だけはちょっと、ちょっとだけ、いつもとは違う理由で鼓動を高鳴らせています。  
更に、待ち遠しかったはずの夜なのに、今日ばかりはご主人様の部屋にはいるのが僅か、ほんの僅かためらってしまいました。  
それは、今着ている私の「メイド服」姿を見られるのが恥ずかしかったから……。  
部屋の扉を少しずつ開きながら、私はおずおずとご主人様の前に姿を現す。  
やはりというか、ご主人様は「普段とは違う」私のメイド服に驚かれているご様子。  
しかしすぐに、満面の笑みを浮かべてくださる。  
「……ああ、あの後の試着って、これ?」  
私は無言で頷いた。  
もう一つの試着。それは、オーナー様が経営されているもう一つの店、「リリムハウス」向けの衣装。  
リリムハウスは女性が男性に様々な……その、「サービス」を行う店で  
そこで働く女性はもちろん、男性を喜ばせるための「オプション」も豊富なことでも知られているお店。  
そんなオプションサービスの一つ、「コスプレ」の幅を広げたい、というのがオーナー様のご意思のようで、  
アルケニーさんがそのためにデザインされた衣装を、私が試着させていただいています。  
今着ているのは、「一応」メイド服ということになっています。  
しかしメイド服と言うにはあまりにも……様々な箇所の露出が大きい服。  
まず生地自体がシースルーになっており、うっすらと私の肌が透けて見えてしまっています。  
そしてデザイン的に、胸部にははじめから覆い隠す布がありません。完全に露出しています。  
エプロンは胸の下から下げられているため、なおのこと胸を強調して見せています。  
そんなエプロンとヘッドドレスがあって、この服がかろうじてメイド服の面目を保っているという印象を与える、そんな服です。  
メイド服と言うよりは、ベビードールに近い気もします。  
「うん、よく似合ってるよ」  
ご主人様にほめていただいた。それは嬉しいのですが……  
「あの……似合っているというのは、その……」  
どういう意味でしょうか?  
このような淫らな服が似合う女。それはつまり、私自身が淫らな女に見えると言うことでしょうか。  
いえ、けしてそれを否定はいたしません。  
事実私はこうして、ご主人様との夜を心待ちにする淫らな女です。  
ですが、常にそう見られるというのは……やはり恥ずかしいのです。  
「それはね……」  
赤面する私に、ご主人様が私の腕を引きながら声をかけられます。  
「可愛くて、綺麗で……女性として魅力的だってことさ」  
ぎゅっと私を抱きしめながら、ご主人様が耳元でささやいてくださいます。  
ああ、至福の時。私はこうしてご主人様に抱きしめてもらうのがとても好きです。  
「そして……とてもエッチだ。それだって、君の魅力さ」  
エッチだとか淫らだとか……どうしてでしょう、  
ご主人様に言っていただくと、それは最高のほめ言葉に聞こえます。  
それだけではありません。私を心から熱くさせる、魔法の言葉でもあります。  
熱くなる身体が、より私を淫らにしていく。  
私はご主人様の首筋に唇を近づけ、そして牙を立てようと迫ります。  
ですが……私はそれを思いとどまりました。  
いつも私たちの夜は、私がご主人様の血を頂戴することから始まります。  
そもそも本来の目的は、ヴァンパイアである私にご主人様が血を提供してくださるという目的があってのこと。  
ただご主人様の血は特別で、私のような血を糧とする吸血鬼には「催淫効果」を発揮します。  
つまり……私はご主人様の血を頂戴することで、より淫らになってしまうんです。  
 
「……どうしたの?」  
いつまでも私が牙を立てないことを不審に思ったのか、ご主人様が声をかけてきました。  
私はそっと首筋から顔を離し、照れながらもご主人様をまっすぐに見つめて言いました。  
「あの……今宵は、このまま普通に、抱いていただけませんか?」  
私はご主人様をお慕いしております。  
ですが……ここ最近、悩むのです。  
私のご主人様に対する想いは、本物なのか、と。  
私はご主人様の血に救われて、ヴァンパイアになりながらも理性を保てる身になることが出来ました。  
ですが同時に、私はご主人様にすべてを捧げる子になりました。  
むろん、そのことを僅かにも後悔したことなどございません。  
ただ……私のこの想いも、結局はご主人様の血によって引き出された感情なのだろうかと、戸惑うのです。  
特にご主人様の腕の中にいる至福の時は、ご主人様から血をいただき淫らになっている時。  
つまり至福は血によってもたらされているのではと……思わずにはいられないのです。  
「私は……今の私のまま、ご主人様に抱いて欲しい……」  
疑念は常日頃から持っていました。しかしそれを確かめようと行動に移したことは今までありませんでした。  
なぜ今夜に限って、確かめようと思ったのかしら。  
これは、大胆なメイド服と、それを見てご主人様が言ってくださった魔法の言葉のせいかしら?  
ご主人様は何も言わず、そっと唇を近づけてまいりました。  
「んっ……」  
唇同士が軽くふれるだけで、私は電流が駆け抜ける衝撃を受ける。  
そして押し入れられる舌。ご主人様の舌が私の舌を求め、そして絡みついてくる。  
「くちゅ……ん、ちゅ……ん……んふ、ご、ご主人様……はん……ちゅ……」  
絡めては時折離し、そしてすぐにまた絡めてくる。  
寄せては返す波のよう。私の身体に走る甘美という名の衝撃にも緩急がつけられ、自然と私の目尻がトロンと垂れ下がってしまう。  
血を頂いた後の私なら、自分からご主人様を求めていたでしょう。  
しかし今宵はご主人様から私を求めてくださる。それがとても嬉しく、そして心地いい。  
 
「んっ! ご主人様、そんな急……ふあぁ!」  
不意に、ご主人様の手が短いエプロンとスカートをかき分け、  
下着を着けていなかった私の秘所へと届いてきました。  
くちゅりと、指先が触れるしめった音がします。  
ああ、なんということでしょう……私は本当に淫らな女です。  
ご主人様に求められ、抱擁と接吻だけで私は自ら濡らしてしまうような女なのです。  
でも、ああ、ご主人様の指先がなめらかに私の淫核を突き淫唇をなで回してくださる。  
それだけで、私は更に淫らな唾液を淫唇から溢れさせてしまいます。  
小さな音はやがてぐちゃぐちゃと大きな音へと移り変わり、その音は耳から私を犯していく。  
「こんなに濡らして……とてもいやらしいね。でも、それが嬉しいよ」  
ああなんと言うことを。ご主人様の囁きが更に耳を、そして脳を犯していく。  
私はいやらしい女。でもご主人様はそんな私を好いてくださる。  
恥ずかしさが快楽に変わる。私はもじもじと腰を動かしながらよりご主人様の指を求めてしまう。  
そして徐々に、ああなんということでしょう、私はせっかくのご好意である指を、  
それだけでは物足りないと思うようになってしまう。  
「ご主人様……あの……」  
私は言葉で最後まで告げられず、そっとたくましくなられたご主人様の陰茎に触れてしまう。  
それだけではない。私は大胆にもその陰茎を軽くなで回し、後生ですからと願い出てしまう。  
ご主人様は迫る私の両肩をそっと押し倒し、優しくベッドに寝かせてくださった。  
そして足を開き、濡れに濡れた私の淫唇へとたくましい陰茎を近づけていく。  
それを凝視しながら、私は口にこそ出さないものの早く早くと待ちきれずに念じてしまう。  
「んあぁあ!」  
いよいよ、ご主人様の陰茎が私の中へと押し入った。たまらず、私は大きな歓喜の声を上げてしまう。  
「あぁ……ん、あっ! んっ、ご、ごしゅじん、さま……ん、あぁ! い、いい、きもち、いい、ですぅ……んっ! はぁあ!」  
続けざまに、私はご主人様の動きにあわせるかのように小刻みに切れる言葉を発しながら、  
身の内から湧き上がる快楽を隠さず言葉にして漏れ出し始めた。  
ああ、今ならわかる。  
私はご主人様を愛していると。  
けして肉体的な快楽を感じているからではない。  
湧き上がる想いは、確かに肉体的快楽もある。  
しかし同時に、私のご主人様への愛も、沸々と湧き出しているのがわかる。  
これはご主人様から血を頂いた後でも感じている想い。私は血の力なくしても、愛する気持ちを持っている。  
それが嬉しい。私はちゃんと、このお方を愛しているのがわかる。それが嬉しい。  
そして、私はご主人様の愛も感じられる。  
数多の女性と関係を持ちながらも、この方はちゃんと私にも愛を注いでくださる。  
少なくとも、今このときには私に向けて注いでくださっている。  
肉体関係だけで愛を語るのはおかしいと、笑われる方もいるでしょう。  
ですが私には、愛を感じられる。  
それが勘違いだとしても……それでもいい。  
少なくとも、私はこの方を、ご主人様を愛している。それだけは真実。  
「ごしゅじん、さま、お、おしたい、もうして、おります……あっ、ふあぁ! ご、ごしゅじ、ん、さま……あぁ! ごしゅじんさま!」  
お互いに同調する腰の動きが早まる。絶頂が間近である証。  
「い、あっ! いい、ごしゅじ、ごしゅじん、さま……いきます、いきます! ごしゅじんさま、いきます!」  
同調していた動きが止まる。ご主人様が顔を僅かにしかめる。そして私は……甘美の歌を大声で張り上げていた。  
「ああ……ご主人様……私……」  
息絶え絶えに、私はうわごとのような言葉を発しながら、さわやかな風のような余韻に身をゆだねていた。  
「良かったよ、とても」  
そっと抱擁。そして頬に接吻。続けて発せられたご主人様の言葉に、紅潮している頬を更に赤めてしまう。  
「次は大胆に、君から奉仕して欲しいな。いつものように」  
私の頭を軽くなでながら、ご主人様は私の顔を自ら首筋に近づける。  
「愛してるよ。どんな時の君だってね」  
ご主人様は、何もかもお見通しでしたのね。恥ずかしい限りです。  
私はそんなご主人様のご好意に甘え、そっと牙を首筋に立てた。  
 
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「良い顔をなさって……昨夜はとてもすばらしい夜になったご様子ですわね」  
さわやかな朝に、先輩が声をかけてくださった。  
私は自分でも、終始にやけているのを自覚していただけに、先輩の指摘がとても恥ずかしかった。  
「ふふ……悩んでいたことも吹っ切れたのではなくて?」  
先輩の指摘に、私はにやけた顔も硬直し目を見開いて先輩を凝視してしまった。  
普段私は先輩に甘えされていただいています。色々と悩みを聞いてもらったこともあります。  
しかし昨夜の……ご主人様への愛については、ずっと胸のうちに秘め続けていたはず。そのつもりでした。  
「そんなに驚かれなくてもいいのよ。なんとなくね、わかるのよ。私も似たような悩みを持っていたから」  
具体的にどのような悩みかは公言されません。  
しかし私たちは共通の悩みを抱えていたと、経験者からは悟られていたようです。  
「大切なのはね、あの方をお慕いするようになったきっかけでも、経緯でもないの。  
今ある、感じている、あの方への想い。それだけは誰がなんと言おうとも、本物だから。それを大事になさい」  
先輩の力強い言葉に励まされ、私は大きくうなずき答えた。  
「はい、もちろんです。私はご主人様を、ずっと、ずっと、愛していきます」  
 
 
  おまけ 
 
 
「ねぇ……今夜は私の番なんだけど……」  
アルケニーが新作のデザイン画を描きながら、ソファで横になっている俺に語りかけてきた。  
「あー……わかってるよ」  
だるさの抜けない、しまりのない声で言葉を返す。  
「……別に私はいいわよ? 糸もどうにかなるから……」  
俺を気遣っているのか、今夜俺との予定をキャンセルしてもいいと申し出てくれる。  
まあ……まさに精も根も尽きかけている俺を見たら、さすがに引くよな。  
いやはや、昨晩は激しかったな……いつもよりたくさん吸われたし。  
血も、白いのも。  
そりゃあ、さすがに俺でもぐったりするわな……でもまぁ、それなりの成果も当然あったわけで。  
「いいご身分よねぇ……ハーレムのご主人様は」  
うう、嫌みとも嫉妬ともとれる言葉が胸に突き刺さる。  
まあ、本人は「嫌み」はともかく「嫉妬」は無いと言い切るんだろうが。  
「まったく……あなたの身体は、あなたのものだけじゃないのよ? いろんな意味でね」  
あきれた顔で俺を見下ろしていた彼女は、その顔を下ろし、不意に唇に唇を重ねてきた。  
「今夜は休みなさい。私ならいいから。  
その代わり、自分のメイド達の前でそんな醜態さらすんじゃないわよ?  
自分のせいじゃないかって心配させるようなら、ご主人様失格よ?」  
ごもっともで。だからこそ、俺は自室でも居間でもなく、アルケニーの部屋で横になっている。  
「その代わり……んふふふ……埋め合わせはいずれたっぷりね」  
……なんでしょうか、この悪寒は。  
あー、まあそれも仕方ないか……。  
「とりあえず眠ってなさい。さすがに寝込みを襲いはしないから」  
やられたらたまらんぞと思いながら、俺は鉛筆を走らせる音だけになった部屋で、静かに目を閉じていった。  
 

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