本来の妖精学者……本家ケルト地方の妖精学者は、  
イメージで言えば「僧侶」とか「仙人」のような生活をしており  
人々から奇妙な、おそらく妖精の仕業と思われる難事件の相談を持ちかけられると  
蓄えた知識の一部を授け助ける、といった者達の事を言う。  
ハッキリ言えば、俺は妖精学者を名乗ってはいるが、本家の生活とはほど遠い。  
館に住み、肉を食べ、妖精だけでなく妖怪や悪魔達とも親しい。  
更に、最近では「妖性学者」だとか「妖に精を与える学者」だとか……いや、強く否定できないが……  
ともかく、本家の方々から見れば俺は異端どころか全く別の者に見えるはずだ。  
特に、本家の方々から見て信じられない事を俺は今している。  
妖精学者とは真逆の存在。敵対すべき者達と言っても良い、魔女達と俺は話し合っている。  
「理論上は、これで大丈夫なはずだがのぉ」  
魔女の一人が、ドイツから届けられたサングラスを手に持ち話し始める。  
「ルビーの魔力は存分に引き出されておるな。「呪い」を封じ込めるには充分だと思うが……」  
もう一人の魔女が、サングラスのレンズに使われているルビーを触りながら魔力鑑定を行い、その結果を口にした。  
「確証はない……と?」  
俺は三人の魔女に向け疑問を口にする。そして三人は黙って頷いた。  
「なにせ、呪いが呪いじゃ。お主のおかげで緩和されたとはいえ、かの女神アテナの呪い。わしらでは計り知れぬ」  
もっともだ。彼女達の知識は……使われる方向に問題があるとしても……非常に豊富で頼りになるが、  
それは俺や彼女達「人間」レベルでの話。  
まあ、悪魔レオナルドの加護を受けた彼女達魔女を「人間」として良いかは疑問だが、  
少なくとも女神の呪いとなれば、我々の範疇をとうに超えている。  
「まあ、成否の確認はすぐに出来るがの」  
彼女達特有と言っていい、引きつる下卑た笑いが漏れ出す。  
「これを、愛しいメデューサにかけさせて見つめて貰えばええ。なに、美女に見つめられるなら石になっても本望じゃろ?」  
「おーおー、それはそれは醜い石像が出来上がるの。なに、骨は拾ってやるで、安心せい」  
「石になっては骨も拾えんぞ?」  
ヒャッヒャッヒャッ……と、申し合わせたような笑い声が室内に響く。  
人ごとだと思いやがって……だがしかし、彼女達の言う事は間違いではない。  
 
メデューサの持つ石化能力中和。  
その方法として俺がアメリカのヒーローコミックを見て思いついた解決策が、このサングラス。  
コミックでは、目から熱光線が出続ける主人公が  
レンズ部分にルビーを使用したゴーグルで光線の出力を調整していた。  
メデューサの石化能力は、視線による呪い。  
視線を合わせた途端に、相手を石化してしまうという物だ。コミックの光線とは全く違う物。  
だが、ルビーとゴーグルというアイデアは使える。  
そう思い、俺は魔女にルビーが持つ魔力の可能性を聞き出し、  
それを参考に、ドイツに住むドワーフたちの協力でサングラスを作って貰った。  
そのサングラスが完成し、ドイツから届けられたのだ。  
この理論は、あくまで俺のアイデアから始まった事。根拠は正直ほとんど無い。  
故に、最終的には「人体実験」しか無いのだ。  
むろん、贄となるのは俺しかいない。  
まあ……万が一失敗した場合の保険は用意してある。用意してあるが……。  
「ところで青年。今日は特別に「石化出張治療サービス」が格安で提供できるが、どうじゃ?」  
「おお、それは便利。して、その御値段は?」  
「なんと、三人相手に「たった」三日三晩の相手でOK!」  
「ほー、それはそれはお得じゃのぉ」  
「今なら精力剤三日分もサービス!」  
どこのテレショップだお前ら。  
とりあえず石化については心配ないが、「命」の保証はないなぁ……などと俺は頭をかかえてしまう。  
「なに、いくらわしらでもルビーの魔力生成に手は抜いておらん。いずれにせよ試すしかあるまい」  
そこは彼女達の言葉を信じるしかない。  
「……じゃあまー、とりあえず行ってくる」  
魔女達の住処を離れ、俺は屋敷へと足を向けた。  
 
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メデューサは今、屋敷の一室に居を構えている。彼女はギリシャからアルケニーと共にこちらへ移り住んでいるのだ。  
しかし、屋敷を自由に徘徊できないでいる。  
他の住人や来客と出会い頭に見つめ合ってしまう、という事故を防ぐ為に。  
それでも彼女は、今の生活に満足しているという。  
暗い洞窟の奥底で一人寂しく生活していた頃に比べれば。そう彼女は言った。  
とはいえ、そもそも彼女がこのような生活を強いられているのは  
全て女神アテナの一方的な嫉妬によるもの。彼女は犠牲者に過ぎないはず。  
不憫でならない。そんな彼女をどうにかしてあげたいとあれこれ手を尽くしている。  
今回のサングラスが上手くいけば、彼女の自由はかなり取り戻せる事になるだろう。  
「本当になにからなにまで……感謝の言葉も、もはや出尽くす程でございますが、まだまだ足りませんね」  
サングラスを手に取り、メデューサは頭を垂れている……と思われる。  
俺はまだ、彼女の姿を直視していない。背中越しに彼女の言葉を聞いている。  
「いや、まだ早いよ。成功するかどうかはこれからだから……」  
そう、これからだ。俺は装った冷静な言葉とは裏腹に、  
早鐘のように高鳴る鼓動をどうにか沈めようと必至になっている。  
石化しても大丈夫なように、保険はかけてある。  
とはいえ、やはり石化されるのは正直怖い。  
それでも彼女の為ならば……これも妖精学者の仕事なのだから。  
「……どうぞ」  
短く、準備が整った合図がなされた。  
いよいよ、いよいよだ。  
俺はゆっくり振り返る。視線は、下に向けたまま。  
まず、彼女の下半身……蛇の胴が見えた。  
そして蛇と人との境目となる腹部に視線が移り、徐々に上へと上げられる。  
何も身につけていなかった、ボリュームある胸部で一瞬視線が止まるが、すぐに少しずつ上へと映す。  
綺麗に整った顎が見えた。潤んだ唇が見える。気品ある鼻筋が見え、そして……  
 
「……あの、大丈夫ですか?」  
俺は固まっていた。  
いや、石化したわけではない。  
赤いサングラス越しでも判る、美しい瞳に魅入られていたから。  
こんなにも綺麗な瞳は、そう見た事はない。  
彼女の瞳にはまだ魔力が残っている。人を魅了する魔力が残っているとしか思えない。  
女神アテナが嫉妬した女、メデューサ。その理由が今判った気がする。  
美しい。本当に彼女は美しかった。  
髪の毛は無数の蛇になっているままだが、  
それすら彼女の魅力を全て損なわせるには至らない。  
むしろ何か、人にはけしてあり得ない魅力すら髪の蛇からも沸き立っているのではとさえ思う。  
「……ああ、大丈夫。うん、石化は……無いみたいだね」  
やっとの事で、俺は言葉を絞り出した。  
魅入られたまま、俺は彼女の呪いを封じられたかどうかの実験をしている最中である事すら一瞬忘れてしまっていた。  
「ああ……本当に、本当に……うぅ」  
彼女は両手を口元に当て、はらはらと涙を流し始めた。  
今彼女は生きた人間と視線を合わせている。  
神話の時代を飛び越えるほど長きにわたって彼女を苦しめていた呪縛が、解かれた瞬間だった。  
涙は止め処なく溢れている。だがそれを拭おうとはしなかった。  
もう、片時も視線を外したくない。涙で視界が揺れる中、彼女は俺を見つめ続けていた。  
そして俺も、彼女の瞳に釘付けになっている。  
見つめ続ける二人。時すら止め、悠久の中見つめ続けている。そんな錯覚すら感じる程長い長い間見つめ続けた。  
それでも石化はしない。しかし俺は動けなかった。  
そんな俺に、彼女の方から寄り添ってきた。  
両手を伸ばし、俺の頬にあて、顔を恭しく近づける。  
「見ている……瞳を、見ているのですね私は……」  
彼女の問いに答えようとした時、俺はそっと瞳を閉じてしまった。  
唇に温もりを感じたから。  
「……人がこんなにも温かいものと、久しぶりに実感しました」  
微笑むその笑顔は、まさに女神のよう。  
俺は彼女に笑顔を取り戻してあげられた。こんなにも嬉しい事は他にない。  
 
「お礼を兼ねて……お願いがございます」  
不意に、彼女が申し出てきた。  
「抱いて……下さいませんか? どうか、人の温もりを思い出させて欲しいのです」  
断る理由など何処にあろうか? 俺は返事をする代わりに、今度は自分から唇を重ねていった。  
「んっ……」  
軽く重ねられた唇から、蛇のように舌を伸ばし彼女の唇へと割って入れる。  
待ち受けていた彼女の舌と絡ませ、湿った音を響かせる。  
「あっ……んふ……」  
吐息が時折彼女の口から漏れる中、  
互いの舌はまるで蛇同士が絡み合うようにせわしなく動き、しかし密着したまま離れない。  
二人は自然と、抱き合っている。俺の手は彼女の後頭部へと回っていた。  
そこには、無数の蛇が待ちかまえている。  
だが構うことなく、俺はその蛇の群れへと指をかき入れた。  
普通に髪の毛を指ですくうように、指の間に細い蛇たちを挟み軽くなでる。  
噛まれる事はなかった。むしろ、蛇特有のぬめり気が指に心地良い程。  
感触だけの判断だが、蛇たちも心なしか撫でられ喜んでいるような気がする。  
「あっ! んん……」  
俺は指と舌の感触を名残惜しみながらも離し、舌と唇はそのまま首筋に吸い付いた。  
そしてゆっくりと肌から唇を離さずに、下へと移動させていく。  
「ああ、そこは……んっ!」  
ふくよかな胸。唇はその先端にまで到達し、舌は頂をチロチロと舐め回す。  
そしてもう片方の乳房には、俺の片手。その手の上には、彼女の手も重ねられている。  
「いっ……あん、はぁ……」  
俺の手よりもむしろ、彼女の手が強く強く握られている。  
彼女の手から伝えられる要求に従い、俺は大きく派手に乳房を揉みほぐす。  
一方唇と舌は、細かく敏感に刺激を与える。  
「はあ……ん、ああ!」  
左右全く対照的な刺激が与えられ、彼女の喘ぐ声も短く切られるようになってきた。  
 
身体を支えていた腕にかかる重みが徐々に増してきた。立っているのが辛くなってきたようだ。  
俺は掛かる重みに逆らわぬよう、ゆっくりと彼女を寝かせていく。  
それと同時に乳房を掴んでいた手を離し、人と蛇の境目へと動かした。  
そこには、しっとりと濡れた秘所が。  
「ああそこに……そこにあなたの「蛇」を……」  
もう迎え入れる準備は整っている。  
だが、逸る気持ちを抑え、俺はまずもっと細い「蛇」を一匹、探り入れる。  
「あはぁ!」  
くちゅ、という湿った小さい音は、彼女の喘ぐ声に消された。  
俺は指を一本、入り口の探索に向かわせている。  
軽くなで回すだけでも、次々と奥から蜜があふれ出る。身体はもう、待ちきれないようだ。  
「お願い致します……もう……もうこれ以上、切なくさせないで……」  
そして心も、待ちきれない。  
むろん、俺も。  
指を離し、俺は腰を持ち上げゆっくりと彼女の腰の上へと動かす。  
自分で自分の「蛇」を掴み、進むべき所へと導いた。  
まるで蛇だけが石化したかのように固い。ここまで固くなっている事に自分で驚いている。  
「ああ!」  
俺は一気に腰を下ろした。その時、俺は何か「引っ掛かるもの」を感じた。  
「え?」  
この感触は、もしかして? いやしかし、そんなはずは……  
「ふふ……今驚かれている通りですわ」  
チラリと繋がったままの「結合部」を見る。そこからは、大量の蜜と同時に鮮血が混じっていた。  
「ありがとうございます。私を「女」にしていただいて……  
さあ、このまま私にどうぞ至極の「快楽」を……」  
疑問は残る。だが、今それを考える時ではない。  
彼女を「女」にした責任を果たさなければ。  
 
「ああ! ん、はぁ……ん、んん、ふあっ、ああ!」  
とても初めてとは思えぬ程、彼女の「中」は良く滑り、程良く締め付ける。  
俺は初めてだという危惧を忘れ、無我夢中で腰を動かした。  
その腰に、彼女の下半身……蛇の胴が乗せられる。  
「いっ、ん、あっ!……ん、んん、はぁっ、いい!」  
彼女の腕が俺を抱き寄せ、豊かな胸がつぶれている。  
腰に乗せられた蛇の胴は、その重みでより奥へ奥へと俺の蛇を送り込もうとする。  
「いい、行きます、わた、私、初めて、なのに……いい、あっ、いき、行きます!」  
俺ももう限界だった。より一層二人は密着し、しかし腰は激しく動き、  
頂点へと二人で駆け上がろうともがいた。  
「ん、あっ、いあっ! はぁっ、い、いく、いきまっ、はっ、んはぁ、あ、あっ、はあぁ!」  
奥へ流される、白濁の液。二人は抱き合い結合したまま、しばし動かなかった。  
「ありがとうございました……これほどの喜び、もう私には与えていただけないものかと……」  
女性の喜びを知る前に、呪いをかけられた悲しきメデューサ。  
そんな彼女の呪縛を解き、喜びを与えてあげられた俺はなんと幸せ者か。  
だが……  
「あの、さ……」  
俺の言葉は、彼女の唇で遮られた。  
「野暮は申さないで下さいませ。さあ、宜しければ今一度私に至極の歓喜を……」  
今度は俺から彼女の言葉を遮り、そして二人の腕は強く強く互いを抱き寄せていた。  
 
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「おや、色男。入り用は精力剤じゃろ?」  
ヒャッヒャッヒャッ……と、待ちかまえたかのように魔女三人が俺に笑いかけた。  
俺はサングラスが上手く機能した報告をしに、魔女達の住処に訪れていた。  
メデューサに自由を取り戻してあげられたのも、間違いなく彼女達の協力あっての事だから。  
「……まあ、先に礼を言わせてくれ。ありがとうな」  
妖精学者とは敵対関係にあるはずの彼女達。  
しかし俺にとって彼女達は、仲間だ。  
例え、普段あれやこれやと「イタズラ」される仲だとしても。  
「いやしかし、なかなか良い「もの」を見せて貰ったのぉ」  
ん?  
「それにしても驚いたぞ。彼女が「初めて」だったのはわかっとったが、ああも感じるとはのぉ」  
んん?  
「そこはほれ、あの娘も一人が長かったのぉ……「一人遊び」もお盛んだったんじゃよ。  
身体だけは出来あがっとった、というわけじゃ」  
んんん?  
「そんなあの娘が最初に選んだのが、こやつか。  
ヒャッヒャッヒャッ、それはもう「癖」になって止められなくなるのではないか?」  
んんんん?  
「おーおー、その通りじゃろうて。じゃから、四度もやりおったわけじゃろう?」  
ちょっと待て……何故知っている?  
「お前ら……まさか……」  
見れば、三人が囲んでいる丸テーブルの中央には大きな水晶玉。  
あれは遠見の水晶……遠方の様子をのぞき見する為の水晶。彼女達御用達のアイテム。  
「ルビーの魔力生成はわしらが行ったんじゃ。その魔力を水晶で探るのは容易いな事じゃて」  
「なーに、お主の「やる事」などお見通しじゃて。これも魔力生成の代金と思うてゆるせ」  
「もう見た後じゃて、許すも何もあったものではないがのぉ」  
ヒャッヒャッヒャッ……三人の笑い声が室内に木霊する中、俺はその場にガックリと膝を着き手を地に付けていた。  
敵だ。やはり魔女は、妖精学者にとって敵でしかない。  
俺は諸先輩達の警告を改めて思い知った。  
 

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