昨今、日本では血液が足りていない。  
献血に協力する人の低下と、血そのものの審査基準が上がった事が原因としてあげられている。  
これに対して、血液を必要としている人の数は増える一方だという。  
事実、今年は日本で必要とされている血の63%しか集められないと見立てが立てられている。  
日本の医療に今、深刻な影を落としている。  
その一方で、深刻なこの問題同様に悩まされている者達もいる。  
「血が不足しているのよ……「お客さん」の数を増やしたいのだけれども、  
なかなか「審査基準」を通過できる方が見つからなくて……」  
俺は今、堀之内に本店を構える風俗店「リリムハウス」、  
そのオーナー室にてオーナーである「クイーン」の話を聞いていた。  
ここリリムハウスは良心的な値段と接客で人気のある風俗店だ。  
だがこの店には風俗営業の他に「裏」の稼業を行っている。  
俺はこの「裏」の営業についてクイーンから相談を持ちかけられていた。  
「んー……ほとんど「献血」に近いからね、裏は」  
艶のある唇に豊満な胸。そしてスリットからチラチラと見える肉感的な太股。  
魅惑的な肢体に何度も目を奪われそうになるのを堪えながら、  
俺はオーナーから相談を受けた内容を唸りながら考え始めた。。  
「ええ。表はむしろ順風満帆。入れ込みすぎるお客様が増えて困るくらいなんですが……」  
ここリリムハウスが他の風俗店と違う最も大きな特徴は、従業員にある。  
オーナーを含め、全員が人ではない者……魔物なのである。  
しかも半数は店の名が示すとおり、リリム、つまり淫魔なのだ。  
淫魔は男性の精を糧としており、彼女達は店に出る事で糧を得るという、ある意味合理的な経営を行っている。  
むろん、一般の客には店の娘が淫魔であることは伏せているが。  
問題は「裏」の方。こちらの娘達が糧としているのは「精」ではない。「血」なのだ。  
 
「表のお客様は、店を経営しているだけで沢山いらっしゃいますけど、  
裏の方はごく限られた方しかお誘いできませんからね……絶対数がどうしても足りません」  
裏の娘達に血を提供する人達。それが裏の会員。  
表の客は従業員が精を糧にしているなど知らずとも、普通に「営業」していれば糧を得られる。  
もちろん、一般の風俗店に偽装している以上「風俗営業法」に基づき「本番禁止」ではあるが  
そこはそこ、色々と「隠ぺい」は出来る。  
しかし裏……血を求めている彼女達の場合、隠し立てが出来ない。  
血の摂取は色々方法があるが、首筋に牙を立てるにしても注射器で抜き取るにしても、  
あからさまに、相手に解ってしまう。  
その為、裏の会員になる者は、魔物を相手にしている自覚があり、  
かつこの事を口外しない者、という条件が必要になる。  
そして血の提供者となる会員は、血を提供する代わりにオーナーが集めた様々な情報や道具を手に入れている。  
その情報や道具はかなり高品質な為、必要とする者達からすれば血の提供だけなら安い物と喜ばれている。  
しかし、そもそもこれらの情報や道具を必要とする人達が限られている。  
人数が限られれば採取できる血も限られ、まさに日本での献血不足と同じ状況になっている。  
「そこで、VIPの会員から何名か、血の提供をして頂けないかと思いましてね」  
「VIPから?」  
VIPとは、表に通っていた客の中からオーナーによって選ばれた会員達の事。  
VIP会員になる条件はただ一つ。裏同様娘達の正体を口外しない事。  
どういった方法でオーナーが見極めているのかは詳しく知らないのだが、  
オーナーは客の中から「娘達の正体を知っても問題ない」と思われる者を選び、VIPに誘っている。  
VIP会員は娘達の正体を知っている為に、人間の女性には出来ない「プレイ」を楽しめるのだが……  
この事からたぶん、オーナーは客の「性癖」を見極めているんじゃないかと俺は思っている。  
 
「ええ。VIPの方達でしたら、裏の娘達についても口を閉ざしてくれるでしょうから」  
確かに、そこはVIPの条件になっているのだから問題はない。  
「いやでも、彼らはあくまで普通の人間ですよ? あなたの情報や道具は必要ないでしょう」  
オーナーが用意する情報や道具は、俺のように妖精や妖怪といった人間以外の者達を相手にしている者達が必要とする物ばかり。  
その為一般の人々には興味の有無はさておき使いこなせる物は一つとしてない。  
俺の意見にオーナーは最もですと頷きながらも、己の考えを話し始めた。  
「まずVIPの方々に血を無償提供して頂けるよう呼びかけます。  
もちろん一般の献血と同じく、これは任意ですが」  
なるほど。確かに、無償提供を呼びかけるだけなら問題ないだろう。  
事実、俺はよく血を無償提供している。  
俺はオーナーから情報や道具を得る事もあるが、  
大半、特に道具は別口で手に入れられるので無償提供が多くなっている。  
しかしこれだけでは足りないだろう。  
一般的な献血がそうであるように、無償提供は善意がないと難しい。  
だからこそ、オーナーは情報や道具を用意しているのだから。  
「それと、VIPの方に「吸血プレイ」のサービスも始めようかと思いましてね」  
「吸血プレイ?」  
反射的に尋ね返してしまったが、内容は想像できる。  
「そのままの意味ですわ。吸血の快楽を提供しようと。  
表やVIPがそうであるように、裏でも快楽との等価交換で糧となる血を分けて頂こうという事です」  
そもそも吸血行為には快楽が伴っている。  
単純に、貧血などで一瞬くらっとするあの感覚、それが快楽に結びつきやすいという事もあるのだが  
本当に快楽を感じていると言うよりは、行為そのものに淫靡なイメージがつきまとい  
精神的な快楽を得やすい為らしい。  
VIP会員達なら吸血プレイに興味を持ち、中にはハマる者も出てきそうなのは確かだ。  
しかし、問題がある。  
「プレイって事は、表と同じ「行為」もするって事だよな? それは大丈夫なのか?」  
呼びかけるのがVIP会員の者達なのだから、当然だろう。彼らだってそれを期待するはず。  
しかし血を必要としている娘達はその手の「行為」に必ずしも賛同できる者達ばかりではないはず。  
仮にそれでも構わないという娘がいたとしても、  
VIPまで上り詰めた客を満足させられるだけの「テクニック」があるとは思えない。  
俺はこの問題点を率直にオーナーへ伝えた。  
「心得ております。ですから、あなたに来て頂いたのです」  
ですから?  
なにかこう、嫌な予感……いや、けして「嫌」ではないが、こう……なんというか、「いつものパターン」が見えてきた。  
 
オーナーは軽く後ろを振り向き、一人の女性を呼び出した。  
後ろで待機していたのだろう。すぐにドアが開き、一人の女性が部屋に入ってきた。  
美しい容姿と背に生えるコウモリの翼。一見すると、表に務めるサキュバスかと思える。  
しかし交互に聞こえる重い足音と軽い足音が、サキュバスではない事を物語らせていた。  
片足は真鍮。片足は蹄。双方違う足はオーナーの横で揃えられ立ち止まった。  
「ご存じでしょうが、彼女はギリシャからこちらに訪れているエムプーサ。血と精を糧にしております」  
エムプーサはギリシャの夢魔にして淫魔。他の淫魔と違う点は、精だけでなく血も糧にしている点だ。  
オーナーの話では、普段は表で精を得ながら裏でも血を得ていたらしいのだが  
やはり血の方が圧倒的に不足になり「栄養バランス」が良くないそうだ。  
そこで、先ほどの「吸血プレイ」だ。  
エムプーサは本来この吸血プレイを行う淫魔なのだが  
無造作に人間を襲うのを止め、リリムハウスに身を寄せてから  
本来のスタイルで糧を得られないで困っていたそうだ。  
「今回の吸血プレイ導入には彼女の救済も含め、成功すれば色々と幅がきくと思うのですが……」  
二人の視線に、「色」が乗せられ始めた。  
「はいはい。つまり、俺に実験台になれと」  
「実験台なんてそんな。私としては「研修」にご協力いただければと思いまして」  
言い方が違うだけで、「やる」事は同じだろうに。とは思うが、むろん口にはしない。  
「部屋は用意してございます。さあ、「お客様」をご案内して」  
俺はエムプーサの後に続いてVIPルームへと向かった。  
色々と、複雑な思いを抱えたまま。  
 
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「あっ、あの……よろしくお願いします」  
VIPルームに辿り着くまで終始無言だった彼女が、やっと口を開いた。  
オーナーであるクイーンの話によると、店では評判の「明るく積極的な娘」らしいのだが  
今の彼女は、もじもじと恥じらうばかりで、暗くはないが明るいというにはちょっと違う印象を受ける。  
おそらく、色々と吹き込まれているのだろう。  
彼女と俺は初対面だが、彼女は俺が何者かを聞いている。  
その「何者」をどう聞いているかが問題なのだが……。  
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。普段お客さんと接しているようにしてくれればいいから」  
そう言われても、簡単に緊張が緩むわけではない。彼女ははにかみながら再び口を開く。  
「いえ、あの……あなたの事は色々と「噂」を聞いてましたから、その、嬉しくって……」  
ああ、そういう事か。なんだか、「噂」が流れている時点でどうにかならないものかと  
俺は苦笑いを浮かべながらこめかみを指でかいていた。  
彼女の緊張は不安ではなく、期待からくるものなのだ。  
それもそうか。俺が相手でないにしても、久しぶりに「吸血プレイ」を堂々と行えるのだから  
それに「噂」の俺が相手となれば、期待も膨らむというもの。  
しかしなんだ……自分で言うのも情けない話だが、  
俺は肥大した噂通りの男ではないのだがなと、むしろ申し訳なく思ってしまう。  
数多の女性を相手にしている。その事実は否定しないが、だからといって、  
特別な「物」や「技」を持っているわけではないのだが……  
そういったものを期待されていたらどうしようと、今度は俺が不安で緊張してしまう。  
「クイーンとは事前に「プレイ内容」を話していたのですが……まずはその通りにしてよろしいですか?」  
俺は「研修」の相手として担ぎ出されはしたが、この手の事にはとんと疎い。  
その事を彼女に伝え、何かあったらその時に話しかける事にした。  
「そうですよね、「こんな所」に来る必要なんて無さそうですし」  
それは「噂」から推測してる?  
「でも経験は豊富のようですから。お客様としての経験が無くても、男性としての意見が聞ければそれで」  
うーむ、やはり噂で判断されているよなぁ……やはり過大に期待されているのかな。  
しかしとりあえず、最初は口数が少なかった彼女が、  
徐々にオーナーの言う「明るく積極的な娘」を取り戻してくれているのは嬉しいが。  
「ではまず血液の方を調べますね。服を脱いでこちらにおかけ下さい」  
血を吸う相手の血を先に調べるなんて、本来はあり得ない話だ。  
本来の献血で先に血を調べるのは、血液型の確認と、その他様々な調査をする為だが  
それは血を糧にしている彼女達には関係ない。  
血液型で飲んではいけない型があるわけでもなく、  
何らかの病原体が混同していたとしても、彼女達の身体に悪影響はない。  
彼女達は血液の「色」や「味」で、提供者の「調子」を見るのだ。  
どれくらいまでなら、吸って問題ないか。その判断をする為に採血を行うのだ。  
俺は全裸になり、小さな椅子に腰掛けた。  
既に全裸であった彼女はテキパキと慣れた手つきで、腕にゴムチューブを巻くなど採血の準備を進めていく。  
「んー……そうだなぁ」  
俺は注射器を片手に持ち採血をしようとしていた彼女に声をかけた。  
「人によるけど、ナースのコスプレとかしていた方が良いかもね」  
行為はまさに医療行為そのものなのだから、ここで「ナースプレイ」を楽しむのも悪くはないのではと、俺は提案した。  
全裸に注射器よりも、ナースコスプレに注射器の方が逆に興奮できる人もいるはず。  
「あっ、そうですね。さすが……」  
さすが? さすが、何だ?  
まあ、これで「噂」の内容にひどい着色が加わっているのがよく解った。  
いやもう、俺は何も否定しないよ……。  
 
「では失礼して……」  
僅かに採血した血が貯まっている注射器を光にかざしながらのぞき見る彼女。  
そしてあーんとベロを出し、直接注射器から口へピュっと血を射出させた。  
この光景に、ちょっとしたエロスを感じてしまったが、  
それを「今後もやった方が良い」とアドバイスすべきかどうか迷った。  
これ以上、俺は「噂」の変態度を増したくはないよ……。  
「ん!」  
突然、彼女が驚きの声を上げる。  
「えっ? なに、どうかした?」  
俺の血に何かあったのか? 恐る恐る、俺は尋ねた。  
「この味……そうか、この人だったのね……」  
独り言を呟く彼女。  
何があったのだろう? 俺の血に、何か特別な物でも混じっていたのか?  
少なくとも、彼女の表情から危険な物では無さそうだとは解るが……  
むしろその表情が恍惚としている方が気になる。  
「……あっ、ごめんなさい……異常があるとか、そういうことじゃないから」  
慌てて俺をなだめるも、嬉しそうな表情は変わらない。  
気になるが、今それを追求するのも好ましくないだろう。  
とりあえず俺は「研修」らしく、一つ別の事を尋ねる事にした。  
「もしここで、「吸血プレイ」するには問題があると判断した場合はどうするつもりなの?」  
プレイを楽しみに来た客が無理を告げられればショックだろう。  
そのフォローをどうするのか。これはキチンと決めておいた方が良い。  
「その場合は、通常の「VIPプレイ」に切り替えます。もちろんその場合「チェンジ」もありですね」  
まあ、他で我慢して貰うのが妥当か。  
「それと、これはプレイの有無に限らず、初めてのお客様にはプレイが出来る血液の維持……  
ようするに健康な血液を作る方法をレクチャーする事にしています」  
レクチャーの内容は、健康ブームでよく耳にする「サラサラ血液」の作り方や  
貧血,血液不足の改善などをするとのことらしい。  
まぁ、基本は「規則正しい生活と食事」という健全な生活をおくれというアドバイスになる。  
ある意味、不健全である風俗店で聞かされる内容ではない気もするが、  
大切な事なので店の方針として必ずアドバイスする事にしたそうだ。  
「血液チェックに問題なければ、この後は「血液プレイ」に移ります。  
とは言っても、やる事はほぼ通常通りなんですけどね」  
ようするに、「表」での通常業務中のどこかのタイミングで「吸血」が加わるだけ、との事。  
「その吸血のタイミングって、客側は選べないのか?」  
彼女の話によると、タイミングは従業員によって「癖」があり、基本的には「お任せ」になるらしい。  
しかしこだわる客もそのうち出てくるだろうから、リクエストに応えるようにするかどうかは今後検討するとの事。  
「あと、吸う「場所」も基本的に首筋になりますね。肩とか腕とか、出来ないわけではないんですが、  
首筋の方が効率もよく失敗が少ないんですよ」  
慣れている場所という意味もあるが、心臓と脳に近い場所なので最も「クラッと来る場所」であり、  
それはつまり、快楽に結びつきやすい場所なのだそうな。  
「それに首筋の方が、どことなくエッチっぽいでしょ?」  
クスクスと笑う彼女がこの時、どことなく妖艶に見えた。  
「私なら、「これ」の最中にでも出来ますよ。試してみます?」  
手でわっかを作るように軽く握り、口元に運び前後に動かしてみせる。  
クスリと笑う口元に、ぞくりとさせられる。  
お互い裸ではあったのだが、これまでにあまり「色香」を感じるようなやりとりがなかっただけに  
彼女が見せる「淫魔」の一面が、より俺には刺激的だった。  
俺は「研修」として今回は見送ろうと申し出たが、  
これはこれで試してみたいと思う俺は、やはり噂通りの男なのだろうか。  
「じゃあ、とりあえず普段通りに始めますね。さっ、行きましょうか」  
いつの間にか口調がフレンドリーになっている事に今更気付きながら  
俺は彼女に手を引かれながら、バスルームへと向かった。  
 
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軽くシャワーで汗を流した後、俺は彼女に導かれるままに  
バスルームに敷かれていたマットの上に横たわった。  
彼女は桶にお湯を入れ、そこにローションの原液を注ぐ。  
両腕で回すようにお湯と原液をバシャバシャと音を鳴らしながらかき回していく。  
その姿と音が、これから行われる事を想像させ俺を興奮させた。  
「普段は羽根と足を隠しながらやるんですけどね。このままでいいでしょ?  
その方が隠す事に気を回さないでプレイに集中できるから、お客様ももっと気持ち良くなれるよ」  
出来上がったローションをそのまま両腕ですくい、胸元に塗り込みながら彼女が尋ねてきた。  
コウモリの羽根、そして真鍮で出来た片足と蹄の付いた片足は、彼女が人間ではない事を示すには充分な物。  
表で客を相手にする時は当然これらを己の魔力で隠すのだが、VIP相手の時は隠さない事が多いらしい。  
「今日は好きにしなよ。何かあったらその時に言うから」  
寝そべっている俺の上に覆い被さろうとしている彼女に向けて、俺は言った。  
「ありがと。それじゃ、たっぷりサービスしてあげますね」  
たわわな胸から糸を引きながら、ローションの雫が俺の身体に落ちてくる。  
その後を追うように、彼女の胸が俺の身体に押しつけられる。  
「んっ……どう? こういうの初めてなんでしょ?」  
身体を大きく前後に揺さぶりながら、尋ねてきた彼女。  
身体と共に彼女のふくよかな、ローションをたっぷりと塗られた胸が俺の身体をなでるようにこすりつけられる。  
ぬるりとしたローションの感触と、暖かく弾力のある胸の感触が心地良い。  
「ああ、気持ちいいよ……」  
俺の言葉に満足げな微笑みを携えると、その微笑みを携えた唇を、言葉を放った俺の唇に重ねてきた。  
「ん……表では別料金だけど、サービスね……んっ……ちゅ……」  
自分から求めるように絡む舌では、サービスという言葉に真実味はこもらない気はする。  
しかし俺はそのサービスをありがたく受け入れ、俺からも舌を絡ませていった。  
彼女はこすりつけてきた胸の動きを止め、僅かに身体をずらし、俺の股に太股を押しつけてくる。  
ひやりとした感触が、俺の愚息に与えられる。股の間に入れられた足は、真鍮で出来た足。  
真鍮の冷たさに愚息が驚き一瞬身を縮めるが、ローションが塗りつけられた真鍮製の太股が愚息を擦り叩き起こす。  
人肌ではあり得ない滑らかさ。新鮮な感触に愚息は大満足し、その身を一気に膨れ上がらせた。  
「あら、もうこんなにして……ふふっ、我慢出来ないのかしら?」  
舌なめずりをしている彼女こそ我慢出来ないのではないか? とは思ったが口にはしなかった。  
胸を押しつけたまま身体をゆっくり反転させ、舌なめずりした唇で、今度は愚息をくわえ込んだ。  
「ちゅっ、んっ……くちゅ、んふっ……ん、んん……」  
大きく開いた股を俺の眼前に見せつけながら、頭を上下に激しく動かしている彼女。  
見せつけられている股間からは、愛液が溢れローションと混じりながらしたたり落ちてくる。  
「んっ! あ、そんなイタズラしちゃ、ん!」  
誘っておいてよく言う。俺は指で陰核や陰門をいじりる事で、否定の言葉に込められた彼女のリクエストに応じた。  
指には絡みつくように愛液とローションが注がれ、それは指から掌、腕へと巡り、肩にまで垂れ流れてくる。  
同時に、陰門とその内側のヒダが差し入れられる指をぎゅっと圧迫し、放そうとしない。  
放そうとはしないが、愛液とローションで濡れ濡れになった指は易々と内ヒダの中を行き来する。  
軽く指を曲げ、俺は彼女の頭よりも激しく動かしていく。  
「くちゅ……んん! ちゅ……あはっ、んっ! んちゅ……」  
指の動きに時折反応しながらも、負けじと彼女は俺の猛る息子を必至に唇で、舌で、しごき上げていく。  
「くっ、そのままだと、そろそろ……」  
淫魔のテクニックに、俺はそろそろ屈すると根を上げた。  
「いいわ、このまま出して。飲ませて……ん! くちゅ、ちゅ……」  
出す前にせめて、彼女にそれなりの満足を俺は指を止めることなく、むしろ激しく動かしていく。  
出し入れするよりも、折り曲げた指先を激しく動かし、膣内の「弱点」を攻め続ける。  
しかしそれでも淫魔のテクニックの方が上。  
 
「出る、くっ!」  
白濁液を、俺は彼女の喉奥へと激しく流し込んだ。  
「いっ!」  
それと同時に、俺は愚息の根本に激しい痛みを感じた。  
痛みに驚いた為か、底に貯まっている白濁液ももっと飛ばそうと愚息がビクビクと脈打つ。  
そしてドクドクと白濁液と、そして「血」が流れていく。  
「ごめんなさい……その、我慢出来なくて……」  
謝りながらもしかし、彼女は白濁液と血を飲むのを止めはしなかった。  
吸い取られる二種類の液。  
俺は愚息の口と、そして噛まれた根本からくる痺れるような感覚……いや「快楽」に酔った。  
それはそのまま「態度」として愚息に現れる。  
「すごい、まだこんなに……」  
一度はしぼんだ愚息は、すぐに又膨れ上がっていた。  
「さすが……噂通り……」  
あーもー、好きに噂垂れ流してくれ。  
「とりあえず、止血しますね。そうしたら……」  
彼女はそそくさと密着していた身体を起こし、俺の股間に正面から向き直る。  
牙を立てた愚息の根本を丹念に舐め、唇をあて、そして強く吸い付いた。  
癒しの魔法効果なのだろうか? 軽い痺れは収まり、血も止まったようだ。  
「あの、本当ならもう一度シャワーを浴びて、それからベッドでするんですが……」  
股間に手を当てながら、もじもじと説明する彼女。  
言いたい事はもう俺に伝わっている。  
「いいよ、俺も我慢出来そうにないし」  
むしろ流れとしてはこの方が自然な気さえする。  
俺は半身を起こし、手を広げて彼女を迎える姿勢を整える。  
瞳を輝かせ満面の笑みで、彼女はそそくさと俺に近づきまたがる。  
彼女は俺の愚息を握り、自ら股間へと導く。俺は支えるように彼女の体に手を回した。  
「んっ!」  
一気に腰が落とされる。そして愚息は全身を彼女の膣へと埋めていく。  
俺は両手を彼女の背に回し、強く抱きしめる。  
たわわな胸が俺の胸板に押しつけられ形を変える。  
揺するように俺は腰を動かし、そして彼女は激しく腰を振るう。  
 
「あっ、いっ、ん、あっ、い、いい、ん、あっ、あはっ、ん!」  
あえぎ声を細かく刻みながら、彼女は声高に快楽の歓喜を歌う。  
歌が紡ぎ出される度に、愚息を包む膣はキュウキュウと締め付けられるが、  
それが二人の動きを妨げる事はない。それほど膣の中は内から外から、滑っていた。  
それでも愚息への圧迫は確かにある。そして圧迫だけではない感触も、膣の中には隠されていた。  
「どう、です、か、私、の、中、は」  
名器、という言葉一つでは語れない。これが淫魔の膣かと、俺と俺の愚息は驚かされていた。  
細かいヒダが全体を包み、かつくびれを無数のヒダが優しく撫でていく。  
愚息の先端は膣の奥に当たり、「粒」のようなものが刺激してくる。  
にもかかわらず、全体の圧迫は強い。特に愚息の根本を締め付ける陰門は力強い。  
「最高だよ……とても、気持ちいいよ……」  
ずりずりと下に敷いたマットから音を立てさせ、俺は力強く抱きしめながら可能な限り腰を揺らした。  
「あ、あなたの、も、いいわ、とって、も、あっ! いい、いい、よ、ん!」  
抱きしめられ大きくは動かない腰を、彼女はそれでも強く強く振るう。  
「ダメ、もう、私、あっ! 欲しい、の、い、いい、で、しょ? ん、あっ! ふぁ!」  
何を欲しているのか、瞬時には理解できなかった。  
だが彼女の顔が近づくに連れ、自分の「立場」を思い出す。俺は軽く首を右に折り、迎える準備を整えた。  
「くっ!」  
強烈な痛みが俺に襲いかかった。  
二本の牙が、俺の左首筋に突き立てられた痛みだ。  
痛みに驚かされ、一瞬だけ愚息が縮まるが、それは刹那の事。すぐに元の、いやそれ以上に愚息は膨張し始める。  
「おいし、ん、これ、これが、欲しかっ、た、んっ、ちゅ……ん、あっ! ちゅぱ……ん、あはっ!」  
ドクドクと脈打つ事に血が溢れていくのが解る。それを無我夢中で吸い続ける彼女。  
それでも腰の動きは止まらない。  
喉の渇きと性への欲求を同時に満たしていく彼女は、それでもまだ足りぬと吸い続け腰を振る。  
それは俺も同じで、腰は止まらず、血が流れ出る事で徐々に意識が遠のく「快楽」に溺れていた。  
「いって、わたしも、もう、あっ! ちゅっ、ん! ぷはぁ、ん、いっ、て、ね、おねが、い」  
言われるまでもない。もう限界だ。  
もうろうとした意識の中で、高まる快楽の頂点が見えてきた。  
「あっ、ああ……」  
出る。そう声に出したかったが声にならなかった。  
抱きしめていた腕も、いつの間にかだらりと力無く放されていた。  
今俺を支えているのは、僅かな意識と、強く求める彼女の腕。  
「あっ、きた! いい、いっぱい、んっ! ちゅ、くちゅ……んん!」  
勢いよく膣の中へと吐き出される白濁液。そして勢いよく口の中へと吸い出される血液。  
頭の中を快楽の二文字で埋め尽くされたまま、僅かに残っていた意識も消え失せた。  
 
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目を覚ました時俺は、オーナールームのソファーに横たわっていた。  
気付き半身を起こそうとするも、思うように力が入らず起こせない。  
すぐ傍にいたオーナーが気付き、俺を支えるように起こしてくれた。  
「ごめんなさいね、大丈夫?」  
妖艶ながら優しげな顔が、心配そうに眉をひそめ俺を見つめながら声をかけた。  
「大丈夫……まあ、予想通りだったし」  
ひたすら何度も頭を下げているエムプーサには黙っていたが、俺もオーナーも、こうなる事は予測済みだった。  
吸血プレイにおける最大の欠点は、従業員側が制御できず血を吸いすぎてしまうかもしれない危険性が伴っていた事。  
そこでオーナーは終始俺達の「プレイ」を監視していた。そして危険だと判断したらすぐに止めさせるよう身構えていた。  
結果としてオーナーの危惧は的中してしまい、俺が気を失った直後に部屋へと飛び込んだらしい。  
「ごめんなさい、私夢中で、その、ごめんなさい!」  
大丈夫だよと俺は声をかけ、彼女を落ち着かせた。  
「やはり吸血プレイは慎重にやらないとダメかしらねぇ」  
良いアイデアだと思っていただけに、オーナーは落胆していた。  
それは俺も同じだった。妖精学者として、俺は人と人でない者達との共存を望んでいる。  
その共存に一役買うだろう、オーナーのアイデアが失敗に終わった事は残念でならない。  
「あの……こんな事になってしまったのに私が言うのも何ですけど……大丈夫だと思いますよ、吸血プレイ」  
続けたい我が儘で言っている様子はない。むろん意地でもない。根拠ある意見として、彼女は言葉を続けた。  
「たぶん私が暴走しちゃったのは……お客様の「血」の為じゃないかなと……」  
「俺の血?」  
そういえば、彼女は俺の血を確かめる為に試飲をした際、強烈な反応を示していたが、それと関係があるのだろうか?  
「あの、お客様はこれまでに色んな「薬」を飲まれてますよね?」  
薬とはむろん、俗に言う薬物……麻薬などの事ではない。  
俺は妖精学者として、薬草学の勉強を続けている。  
その課程で自分が作り出した薬草を飲んだりするのは日常茶飯事。  
これだけではなく、俺は何かと魔女達に騙され彼女達が作る薬を飲まされたり  
場合によっては薬草学の師匠である堕天使ストラスからも一服盛られる事もしばしば。  
ほぼ毎日何かの薬を口にしている俺は、ある意味で、薬漬けの身体と言っても過言ではないが……。  
「献血して貰っていた血をみんなで飲んでいた時から、私達の間で「噂」になっていたんです。すごい血だって……」  
献血に協力する者達は、クイーンと面識があり従業員の正体を知っている者達。  
そしてクイーンの提供いる物を欲する者達。それはつまり、一般の人々とは違う職に就いている者達ばかりといえる。  
退魔師や陰陽師、魔術師や、中には彼女達と敵対するはずのヴァンパイアハンターまでいる。  
そんな彼らの血は、一般の人々と比べ「魔力」が多く含まれた上質の物らしい。  
それと比べ、俺の血はむしろ一般人の血に近く、魔力はさほど含まれていない。その時点で俺の血は、むしろ目立っていたらしい。  
そしてそれ以上に、俺の血は魔力の代わりに様々な「薬草」が溶け込んだ、  
濃厚な「成分」が含まれていて美味だ、とエムプーサは指摘した。  
「献血して保存された血は、新鮮な血より「成分」がどうしても薄れるんですけど、それでも強烈な「味」が、お客様の血には残っていたんです」  
もしこの「味」を新鮮なまま、つまり生で飲めたらどんなに素晴らしいか。  
そんな事を仲間達と放していたらしい。  
そして彼女は憧れていた「新鮮な血」を飲める機会を得た。  
あの時彼女が興奮していたのにはそういう理由があった為らしい。  
「つまり……相手が俺だったからテンションに歯止めがきかなくなっただけで、一般の客相手なら大丈夫じゃないか……って事?」  
エムプーサは大きく頷いた。  
「なるほど……判りました。ですが、やはり慎重にならざるを得ませんね。  
もう少し別の方に協力して頂いて、研修を重ねてみましょうか」  
折角のアイデアが無駄に終わらなかった事を、まずクイーンと俺は安堵した。  
 
「あの、それで、その……」  
ホッとした二人をよそに、まだ落ち着けないエムプーサがもじもじと身体を揺すりながら俺に尋ねてきた。  
「わっ、私をその、あなたの館に置いて頂けないでしょうか?」  
「えっ? いやちょっとまって、そんな急に言わ……」  
突然の申し出に、俺は戸惑った。  
この戸惑いを拒絶と受け取ったのか、彼女は慌てて俺にしがみつき、泣きながら懇願した。  
「お願いします! もう、あなたでないとダメなんです!「あの血」を飲んでしまったら私、もう戻れません!」  
どういう事だ?  
彼女が何を言っているのか、俺にはサッパリ理解できない。  
「……ああなるほど、そういう事ね」  
ポンッと手を打ち、クイーンが口を開いた。  
その動作、その言葉。どこか白々しい……。  
「血に溶けた薬草の成分じゃないかしら? あなたが自分で作り飲んでいる薬草はともかく、  
「飲まされている」方の薬に催淫剤や媚薬の成分が多分に含まれていたのでは?  
その効果がこの娘に出てしまったのかも」  
俺はクイーンの推測に納得した。納得しながら、俺はどうするべきか悩んだ。  
まさかこんな所でこんな形で、魔女達の「イタズラ」が尾を引いて効力を発揮するなんて……。  
しかしそれなら、時間が経てば効果は消えると思うのだが……それを説明したところでエムプーサのこの乱れようからして納得はしてくれないだろうなぁ。  
「宜しければ、私からもお願いしますわ。この娘を幸せにしてあげて下さいませ」  
計ったな。俺はクイーンが「ここまでの経過」を見越していた事に今気付いた。  
血に残された薬草の効能も偶然ではなく、俺が知らぬ間に魔女達によって操作されていた可能性もある。  
むろん、クイーンがそれに関与していた可能性も。  
そもそも、この店は表も裏も、娘達が糧となる精や血を提供し続けてくれる「パートナー」を常に募集しており  
パートナーを見つけた娘達を店から巣立たせ、フォローを続ける役割も担っている。  
今回「吸血プレイ」のアイデアが浮かんだ時点で、  
クイーンは「ついでに」俺を使って一人「巣立たせる」計画も並行して進めたに違いない。  
「まあ……拒む理由は無いから問題はないけど……」  
俺の言葉を受け、抱きつく腕に力を更に込める新たな同居人。  
さて、みんなにはどうやって説明したら良いんだろうか。  
嫌われる事はけしてないだろうが、「夜」をどうするか、この課題はかなり大きくなりそうだ。  
こうして、俺の「噂」には新たな、そして大きく脚色された逸話がまた一つ追加されていくのである。  
 

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