妖精学者(フェアリードクター)という職をご存じだろうか?
読んで字の如く、妖精を研究する学者の事だ。
とはいえ、ただ伝承などを研究している文学者などではない。
イギリスやアイルランドなどには古くからいた、
妖精にまつわるトラブルを解決する職、それが妖精学者。
俺はその妖精学者を、ここ日本で務めている。
もっとも、世間的な俺の「社会的地位」は大学院生。
妖精学者も、まだまだ見習いでしかない。
そもそも妖精学者になったのも……
いや、この話は別の機会に話そう。
この「経緯」を話すにはあまりにも多くの「偶然」と「幸運」と、
それらを忘れてしまう程の「苦労」を語らなければならないのでね。
俺は「色々あって」の一言ですませるには厚みのありすぎる「出来事」を経て、
妖精学者として、イギリスから持ち込んだ洋館と京都から持ち込んだ日本家屋
が連なる奇妙な屋敷に住んでいる。
ここに住んでいる「人間」は、俺一人。
だが、住人はやたらに多い。
洋館と共にやってきた、ここではメイドをして貰っている家付き妖精のシルキ
ー。
俺が妖精学者になるきっかけを与える事になったピクシー。
日本家屋には日本妖怪に関して俺の先生とも言うべきジジイ、猫又も住み着い
ている。
他にも、多種多様の妖精や妖怪、果ては堕天使や悪魔までもが来客として多く
訪れる。
……今、ふと疑問に思っただろうか?
妖精学者を名乗りながら、妖怪や悪魔までもが屋敷にいる事に。
何の事はない。「妖精」も、イギリスから日本に渡れば「妖怪」と呼ばれる。
ただ地域と風土と宗教の違いで、呼び方が変わるだけで
妖精と妖怪,悪魔などにたいした差はない。
つまり、俺にとっては彼ら全てが友であり、そして仕事の対象となる。
前置きが長くなった。今日語る話の本題に入ろう。
屋敷の住人、ギリシャからやってきた仕立屋の話を。
「また太った。もう痩せろなんて言わないから、せめて今の体型を維持しなさ
いよ」
器用に二本の「脚」で俺の体を測定する女性が、両手でメモを取りながら何度
も聞いた愚痴を漏らす。
両手両足を使って、どうやって寸法を測っているのか?
立っていられないのではないかとお思いだろうか。
安心して欲しい。彼女は残った「四本の脚」でキチンと立っていられるのだか
ら。
「知ってるか? 人間も冬は冬眠するかのように冬支度で太りやすくなるんだぞ」
ちょいとした豆知識を口にした俺だが、
「はいはい、つまらない言い訳は結構。それを制御出来るのも人間の特徴でし
ょうが」
などとあっさり切り替えされるのは長い付き合いで判っていた事。
「もちろん、ニスロクの料理が美味しすぎるから、なんて言い訳も結構よ」
次に用意した言い訳も、先を越された。
地獄の料理長、ニスロクは月に一度程度の割合で料理の腕を披露しにやってき
てくれる。
その料理があまりにも旨い為に食べ過ぎているのは事実で、
それが原因で太っているのも事実ではあるが
おそらく皆同じ量を食べているはずだが、それが体に表れているのは
おそらく俺と猫又の爺さんくらいなものだ。
「私を見習ったら? どうよ、このプロポーション」
ぐっと胸を張る姿はセクシーだが、メモ帳片手にしてはちょいと間抜けだ。
しかし彼女の言うとおり、プロポーションは見事だ。
出るところは形を崩さずボリュームたっぷりに出ており、
くびれる部分はしっかりと細い。
本当に素晴らしい体型だ。少なくとも、上半身は。
「まあ、お前の場合は「入るところ」がそれだけ大きけりゃ……イタッ!」
「……つまらない事言うと刺すわよ」
「刺してから言うな!」
俺の視線が腹部……くびれた腰を境目に下、
上半身とほぼ同じ大きさのある「腹」の部分に移っていくのを目の動きで察し
た彼女が
寸法を測っていた脚の先で、俺の肌を強く刺した。
彼女の名は、アルケニー。
女神アテナの呪いによって、上半身は人間のままだが
脚と下半身を蜘蛛の姿にされてしまった機織り娘である。
生まれついての姿ならともかく、彼女は元々が人間であっただけに
蜘蛛の下半身を酷く嫌っていた。
ただ、それも随分と昔の話。今ではすっかり慣れているどころか
下半身が蜘蛛である特性を生かす事にもなれ、楽しんでいる。
ただ単純に、俺が「嫌味」を言うのが気に入らないだけだ。
現に、今こうして体の特徴である「脚」を使って、俺を刺し「楽しんで」いる
のだから。
「直接肌を刺すなよ。今裸なんだからさ」
血が出るかと思ったが、多少赤くなっただけですんでいる。
さすがにそこまで本気で刺したわけではないようだ。
「ちょっと前にさ、「私、脱いだら凄いんです」ってCMでやってたけど」
脚で俺の胸と腹をタブタブと叩きながら続けた
「あんたの場合、「私、脱いだら凄いデブ」って感じよね」
高らかに笑う彼女の笑い声を聞き、刺されたところ同様多少俺の顔も赤くなる。
「人を裸にして笑い物にするなんて……酷い、酷すぎるわ!」
わざとらしいオカマ口調で、俺はサディストを非難した。
「しょうがないでしょ? 裸にならないと厳密な寸取りが出来ないんだから」
まだクスクスと笑いながら、仕立屋は弁明した。
彼女曰く、出来る限り着る本人に快適な服を作る為には、厳密な寸法を測る必要があるという。
確かにそうだろう。だからこそ、多少……
いや、本当に少ししか太っていない俺に対して、毎回彼女は服を作り直す。
それが彼女の「趣味」だというのもあるが、プライドもあるようだ。
ただ、それはセンチ単位の問題であって、ミリ単位の話ではない。
つまり、服まで脱ぐ必要はないはずだ。本来は。
「さてと、一通り遊んだし……最後の寸取りするわよ」
いつの間にか、彼女の脚がタンタンとリズミカルに動き床を鳴らしている。
彼女の癖、というよりは蜘蛛としての本能。
求愛の合図。
ペロリと舌なめずりをしながら、彼女は上半身を深く屈めた。
俺はというと、彼女が寸法を測りやすいように床に寝そべった。
「毎回訊くけどさ、「ここ」の長さを何の為に測るんだ?」
「毎回言うけどね、野暮な事は訊かないの」
少しふて腐れるように頬を膨らませる。膨らませた頬は、ほんのりと赤い。
「んっ……」
赤らめた顔を俺の股間に埋めるよう、深く下ろした。
その際、口には俺の「計測対象」を含んでいる。
赤く染まった頬が、内側からわずかに膨らんだ。
「……ちゅ……んっ……」
顔を上下に動かしながら、唇で「円周」をミリ単位で計るかのようにしっかりと、しかし優しく包む。
「ちゅっ……んはぁ……なんだか、「ここ」も太ってきたわね」
こちらが太る分には、とても嬉しそうだ。
そんな彼女の微笑みを見つめるだけで、俺の「計測対象」は一段と「太り」そうだ。
「めいいっぱい大きくしてくれないと、ちゃんとした寸法計れないからね」
片手で押さえながら、舌で根本から先までをゆっくりと「計測」していく。
僅かに聞こえる粘着質な音が、耳を通して俺の心を刺激し、
内側から計られている物を熱く大きくさせていく。
そして何度も根本から舐め上げ、
時折柔らかい唇で挟まれる刺激を外部から受け、
心も物も熱く高揚させていく。
「んふ……ん……くちゅ……」
再び口内による計測を始めた。
外周を包む唇の柔らかさに続いて、口内では舌によってまとわりつくように計測がされていく。
「ちょっ……それ以上続けると、「計測不能」になるぞ?」
俺の言葉に、彼女は残念そうに目尻を下げ計測物を放した。
「もう、もうちょっと我慢出来ないの?」
無理な話だ。なにせ仕立屋の寸取りは精密できめ細かく、的確だ。
長い事俺の体を隅々まで計り続けているだけに、「コツ」を知り尽くしている。
そんな彼女の計測に、俺は長い事耐えられない。
申し訳ないと思う心が、顔に出たのだろうか。
俺の顔を見つめていた彼女が仕方がないわねと微笑んだ。
「それじゃ、次はここで……」
少し前進し、彼女はまた深く身をかかげた。
ふくよかで弾力のある、大きな計測器。
胸部についた二つの豊かな計器が、俺の物を計る為に押しつけられた。
「んっ……少しは、楽しませてよね」
俺も出来れば長く楽しみたい。
彼女は柔らかく心地良い計器を外側から両手で挟むように押しつけ、
そして体ごと大きく揺すった。
先ほどまでの計測とは違う、全体を包むこの計測もまた心地良い。
懸命に体をゆする彼女の仕草が愛おしく、
見ているだけで嬉しさと熱さがこみ上げる。
直接感じている物もまた、懸命な計測と感じる摩擦に熱く大きくなっていく。
「なあ……変な事訊いて良いか?」
もっと長く感じていたい。
俺はわざと意地悪な質問をする事で、気を紛らわし延命する策に出た。
不思議そうに俺を見つめる彼女が何をと尋ねる前に、俺は質問をぶつけた。
「俺は一人で「計測」するのに手を使うけど、お前はどうしてるんだ?」
一瞬、彼女の動きが止まった。
そして恥ずかしそうに視線を大幅にそらし、
真っ赤に頬を染めながらゆっくりとまた動き出した。
「……どうしてそんな事を訊くのよ」
「いや、素朴な疑問」
それと延命策と、ちょっとした羞恥プレイ。
彼女の体は、人のそれと違う。その為、手は届かず脚も構造上難しい。
そういう状況で、どうしているのだろうというのは本当に素朴な疑問であった。
と同時に、なんとなくこうしてるのではという「方法」は思いついている。
しばらく黙ったまま体を上下に揺すっていた彼女だが、口の方もようやっと動き出した。
「机とか……柱とか……あっ、あまり痛くないように、角の丸いのを選んで……」
そこでまた、口の動きは止まってしまった。
しかし、情報としてはこれだけで充分。
予想通りであった。彼女は机や柱などの角にこすりつけて計測をしているらしい。
予想通りだっただけに、安易にその姿を想像出来る。
故に安易に、興奮してしまう。
延命策のつもりが、どうやら逆効果になりそうだ。
だが、効果があったのは俺だけではない。
「もう……変な事訊くから、我慢出来なくなってきたわよ……」
ぷくりと頬を膨らませるその顔が、可愛らしい。
「悪い悪い、こっちもほぼ最大級だ。そろそろ最後の計測に入ろう」
俺の言葉に、恥ずかしそうに、そして嬉しそうに、こくりと頷く仕立屋。
俺の体に乗りかかっていた彼女は一度体を離し、
そして今度は逆に彼女が床に仰向けで寝そべった。
「来て……恥ずかしい事言わせたんだから、いつもより大きいのを計らせてよ」
六本の足の付け根。そこより僅かに下、そこが最後の計測場所。
俺の質問がよほど恥ずかしかったのか、
心なしかいつもよりそこはしっとりと濡れ、
そして大きく突き出しているようだ。
彼女の計測器は、人と蜘蛛の特徴を兼ね備えている。
普段は体の中に仕舞われ外側からは全く見えないが、
興奮するとパックリと開き、突き出すように出てくる。
ここまでは蜘蛛の特徴。そして肝心なところ……感度や中の具合などは人のそれ。
肝心な部分が人と同じで良かった。もしそこまで蜘蛛と同じならば、
俺は手に自ら出した白い液を乗せ、
彼女の中に突っ込むという行動をしなければならないのだから。
「……それはそれで、プレイの一つになりそうだけど」
ぽつりと、言葉を漏らしてしまった。
聞き取れなかったのか、不思議そうに、そしてはやくしてと見つめる彼女。
これ以上は待たせられないし、俺も待てない。
まずは愛らしい唇に俺の唇を重ね、軽く、しかしディープなキス。
そして俺は顔を彼女の胸にまで下げる。
そうすると、ちょうど下半身が「良い位置」に到達しているのだ。
「あんっ!」
胸に顔を埋めながら、俺は大きく深く、突き刺した。
それがまるで合図かスイッチか、
同時に彼女は六本の脚で俺の体をガッチリと挟み込む。
「んはぁ……いい……んっ……」
大きく俺が腰を動かすと、それに合わせたように彼女の脚が、
まるでもっともっとと急かすように締め付ける。
束縛されているのは体だけではない。
柔らかくも大きな胸に、俺は顔を挟まれている。
それを彼女は両手で更に外側から押しつけてくる。
上手く身動きが取れない。それでも俺は懸命に腰を大きく動かし
そして舌で彼女の胸を舐め、歯を立て軽く噛む。
「あっ、大きい……いつもより、いい……あん、んんっ!」
先ほどの妙な質問と妄想の為か、それともこなれてきた経験か。
彼女の言うように、今日はいつもよりも激しい気がする。
それだけに、到達も早そうだ。
埋めたままの顔では、それを彼女に伝える術がない。
どうにか耐え、この幸福な計測を長続きさせなければ。
「ダメっ、なんか……今日は、んっ! もう……イク、出る!」
耐えられないのは彼女も同じだ。ならば、出来る限り同時に……。
「イクっ、出るっ、出ちゃう! あっ、ダメっ!」
二人とももう限界だ。
証拠に、俺の計られている物も彼女の「腹」も、最大級に膨らんでいる。
「出るっ、あっ、はあぁぁぁっ!」
シュルシュルシュル
俺の中から彼女へと愛の証が注がれていくのと同時に、
彼女の「お尻」からは、大量の「糸」が噴出されていく。
「あっ……はあ……また、こんなに出ちゃった……」
脚の束縛から解放された俺が顔を上げると、
幸せそうな笑顔が俺の瞳に眩しく映し出されていた。
「そろそろ春物の服を作らないと」
吐き出された糸を束ねながら、仕立屋が言った。
彼女は自分で糸を吐き、それを紡ぎ、服を作るのに使っている。
今し方吐き出した糸はもちろん、
これだけでは足りぬので、後でまた糸を継ぎ足しながら
機織り機で見事な生地を作り出す。
蜘蛛の糸はとても丈夫で、
下手なブランドの服など足元にも及ばぬ程丈夫な生地になる。
そしてなにより、彼女は自信でデザインまで手がけるのだが、
このセンスがやはり素晴らしい……らしい。
正直、ファッションに疎い俺には、何がどう素晴らしいのか判らないのだが
そんな俺が彼女の仕立てた服を着ていくと、
必ず「おしゃれな人だ」と思われるようだ。
まあ、俺は彼女が屋敷に着て以降、彼女が作った服以外着ていないのだが。
「ねえ、春らしく明るい色にしようか?」
笑顔で尋ねられても、ファッションセンスが皆無の俺にはどう答えて良いか困る質問だ。
「……もう、判ったわよ。また「お任せ」でいいわけね?」
俺は大きく頷いた。
「はあ……いっつもそれなんだから」
腰に手を当て溜息をつきながら、彼女の口は続いた。
「せめて、作った服を長持ちさせられるようにコロコロ体型を変えないでよね。これでも大変なのよ? 作るの」
そうは言っているが、俺は彼女が半分嘘を付いているのを知っている。
確かに、服一着を作るのでも大変な作業だ。
だが、彼女はそれを趣味とし楽しんでいるのだから、大変な事ばかりではない。
だから彼女は、俺の体型が大して変わらなくても「変わった」と難癖を付けて服を作ろうとする。
寸法を測るところから、彼女の服作りの「楽しみ」が始まっているのだから