とあるアパートの一室に、一人の男と一人の少女がいた。
男はトレーナーにトレパン、少女はテレビのリモコンの格好をしている。
「8・・4・・・」
男は床に寝そべりテレビを見たまま少女に命令する。少女は命令どおりにチャンネルを変えていく。
少女はその格好のとおり、リモコンとして作られリモコンとしてこの家で使われているのだ。
「Jリーグ」
男が寝そべりながら言った。
「・・Jリーグ、ですか・・・?」
少女は困ってしまった。
Jリーグの意味は理解できる。しかし具体的に指示されないとどのチャンネルにあわせれば良いか判らない。番組表をみて番組を探すのは使用者の仕事だ。
「・・・Jリーグ」
再び男がいった。
「あのー、スミマセン、もう少し具体的にお願いします・・・。せめてチャンネルの番号を・・・。」
少女が困ったように言う。すると男は溜め息ついて呟いた。
「もうそろそろ買い替えるかなぁ・・・」
少女はドキッとした。
買い替えるということは自分はお払い箱だ。そうなれば型の古い自分は、他に貰い手もなく捨てられ、夢の島にでも埋められるだろう。
それだけは嫌だ。
「・・・Jリーグ」
「Jリーグですね!」
少女は慌てて番組表を取りJリーグを放送している局を探しチャンネルを合わせた。
Jリーグの試合も終わりかけたころ、男が口を開いた。
「エマニエル夫人」
「エマニエル夫人、エマニエル夫人」
少女は番組表からエマニエル夫人の映画を探す。しかしどの局でも放送していなかった。
「スミマセン、エマニエル夫人はどこもやっていません」
少女がそう言うと男はめんどくさそうに体を起こし床に置いてあったビデオを差し出した。
「えっと、ビデオですか?」
「そうだ」
「・・ちょっと待ってください。あの、私は一応テレビのリモコンとしてこちらにお世話になっています。ビデオとなってくると、その、私の管轄外といいますか、私の仕事の範囲をこえてしまっているのですが・・・。」
「それに、一応、えっと、テレビのリモコンとしての誇りも有りますので・・・」
「・・・もう一回だけ試すか。これでダメならもう買い替えよう。」
「そんなッ」
「エマニエル夫人」
「はいっ!エマニエル夫人!!」
少女はビデオをつかむとデッキに入れ再生ボタンを押した。
「エマニエル夫人、どうぞッ!」
「まだいけるじゃん」
男は呟いた。