その兆候がいつからだったか、よく分からない。  
ただ、師匠がときどきもぞもぞしていたり、どうも下半身――師匠はラミアだから、  
下半身はもちろん大蛇なんだけど――を気にしていたりするのが目に付くようになったのは  
二日ぐらい前からだ。でも、不審な様子は、おとといにはせいぜい一日に四、五回だったのに、  
昨日は一時間に一、二回になってた。それが今日になると、それこそひっきりなしに  
下半身を気にしてる。単に気にしてるだけじゃなくて、こそこそと隠すように  
下半身をなでたりさすったりしてるし、柱の横を通るときにはその角に  
わざわざこすりつけるようにしてる。客の応対も露骨に上の空になってきたし、  
今だって――食事の最中でさえ、なんだか心ここにあらずといった感じだ。  
とてもじゃないが、いつもの食欲旺盛な師匠とは思えない。  
「あの‥‥師匠、どうかしたんですか?」  
「‥‥」  
 首をかしげたりしながら、黙々と食べている。‥‥聞こえなかったのかな?  
「‥‥師匠?」  
「‥‥あ、ああ、ごめん。いつものことだけどおいしいよ」  
 かみ合ってない答えを返してくる。‥‥全然聞いてないな‥‥。  
「そうじゃなくて。――どうかしたんですか? 最近ちょっと様子が変だから‥‥」  
「そ、そう? いつも通りじゃない?」  
 いやあの、どう考えてもいつも通りじゃないです。だいたいいつもは驚くほどの  
地獄耳なのに‥‥都合の悪いことは聞こえないふりをするけど。――なんてことを考えると、  
それだけで「何か失礼なこと考えてたでしょう」と詰問されるのが普通なんだけど、  
そんなツッコミさえ返ってこない。一応会話を続ける意志はありそうなものの、  
また下半身をさすってる。  
「‥‥痒いんですか?」  
「んぐ‥‥っ!? げほっ、ごほっ! な、何をいきなり‥‥ごほんっ!」  
 俺の言葉に口の中の物を一気に飲み込んだかと思うと、いきなりむせた。  
「いきなりっていうか‥‥今日なんか一日中下半身を気にしてたじゃないですか。  
今だって掻いたりしてるし‥‥」  
「うっ‥‥気づいてた?」  
 ‥‥師匠、バレバレです。  
「あんまり痒そうだから気になって――」  
「ううっ‥‥」  
 悔しそうな、というかむしろ恥ずかしそうに顔を伏せる。珍しい反応だ。  
少なくとも、めったに見られる反応じゃない。  
「ちょ、ちょっと待ってね。せ、説明は、その、後でするから‥‥うん」  
「‥‥はあ」  
 微妙に気まずい雰囲気になってしまった。師匠はその後もくもくと夕飯をお腹に押し込み、  
そそくさと二階に戻ってしまった。も、もしかして口にしちゃマズいことだったんだろうか‥‥。  
 
 * * *  
 
 皿洗いをすませてテーブルも拭いて、ゴミも片付けて、と。  
家事を終わらせて、とんとんと自分の肩を叩いてみる。さて、ここまではいつもと  
おおむね同じなんだけど‥‥どうしたものかな。「説明は後でする」と言ってたから、  
さっきの続きのでも聞いた方が良いんだろうか。あんなに痒そうだったし、  
もしかしたら何かの病気だったり‥‥もしそうなら大変だ。  
でも、あの反応を見るとそういう「一大事」じゃなさそうなんだよな‥‥。うーん。  
「ええい、悩んでてもしょうがない」  
 自分に言い聞かせるように独り言を言うと、俺は師匠の部屋に向かった。  
 
「師匠、入ってもいいですか?」  
「‥‥」  
 返事がない。  
「師匠! 入っていいですか!?」  
「‥‥あ、うん」  
 また上の空だったな‥‥。とりあえず許しがあったのでドアを開ると、  
師匠はベッドに腰掛けて、またしてももぞもぞとしていた。  
‥‥いいかげんバレてるんだから隠す必要もないと思うんだけど‥‥。  
 
「さっきの話‥‥続き、いいですか?」  
「あ‥‥うん‥‥」  
 いやだからその。俺から話せることじゃないんだから、師匠から話してくれないと  
どうにもならないんですが。しばし沈黙が寝室に立ちこめたけど、  
それに耐えかねたのかようやく師匠は俺の方を向き、口を開いた。  
「恥ずかしいから、あんまり言いたくなかったんだけど‥‥」  
 またしても沈黙。が、これはそんなに長くなかった。  
「その‥‥脱皮の時期なのよ」  
 
「――はあ」  
「はあ、って、何よその気のない返事は!  
人がせっかく恥ずかしいのを我慢して白状したのに、もうちょっと気の利いたことぐらい  
言いなさいよ! だいたいそういうのを聞く、っていうのが無神経なのよ!」  
「え、あ、あう」  
 すいません、何を叱られてるのかよく分かりません。脱皮、といわれても  
「ああそうか、蛇だし」ぐらいにしか感じられないし‥‥その、恥ずかしいとか言われても  
全然イメージがわかないんだけど‥‥。  
「脱皮って恥ずかしいことなんですか‥‥?」  
 そう尋ねると、師匠は真っ赤になった。本当に珍しい。  
「は、恥ずかしいに決まってるでしょ!?」  
「いや‥‥あの、俺はラミアは師匠しか知りませんし、  
ラミアにとって脱皮がどういうものなのか、っていうのも全然知らなくて‥‥」  
「‥‥」  
 俺が正直にそういうと、師匠は目を丸くして黙ってしまった。  
そうか、当然知ってるものだと思ってたのか。あごに手を当て、顔を斜め下へ傾けて  
眉を寄せること数秒。ようやく視線だけを俺の方へ向け、どうにか口を開き、  
「説明‥‥要るの‥‥?」  
「お願いします」  
 
 説明を聞くのはなかなか大変だった。なにせ、すぐ黙ってしまう。  
その様子も合わせて察すると、どうも脱皮というのはとても「恥ずかしい」ことのようだ。  
とぎれがちな話を総合すると、大人のラミアというのは一、二年に一回ぐらいの頻度で  
下半身の脱皮をするらしい。もっとも、成長が早い子供のころはもっと頻繁だし、  
ケガなんかをした場合も早めに脱皮するとか。ともかく、脱皮の数日前から下半身が  
痒くなり、そしてどこか――たいていは上半身との境目、鱗が生え始めるあたりから  
古い皮が剥がれはじめ、そこから下半身すべての皮が「脱げ」る。  
それ自体はただの生理的なものだから不可抗力なんだけど、少なくともこのことを  
口に出したり、見られたりするのは「はしたなく」て「恥ずかしい」ことなんだそうだ。  
‥‥それで食事時に黙ってしまったわけか。  
 
「‥‥そういうことだったんですか。すいません、気づかなくて」  
「うん‥‥まあいいよ、初めてなんだし。‥‥で、いつまでここにいる気なの?」  
「へ?」  
 妙な答えが返ってきた。いや、その、普通夜に師匠の寝室を訪ねた場合、  
ほぼ間違いなくそのまま「夜のお楽しみ」になだれ込むんだけど‥‥。  
「だーかーら! あたしは今日は‥‥その、脱皮なの。だからさっさと出て行ってよ。  
場合によったら一晩中かかるんだから」  
「‥‥師匠」  
 出て行く代わりに、俺はずいっと近づいて、一言。  
「な、何よ」  
「俺、手伝います」  
 
 * * *  
 
 騒ぐ師匠を説き伏せるのは多少骨が折れたけど、無理じゃなかった。  
恥ずかしいとはいえ、やっぱり一人で脱皮するのはかなり大変らしい。  
それになんていうか‥‥「恥ずかしがる師匠」ってのがものすごく新鮮なんだよな。  
も、もちろんそんな不純な動機を口にしたりはしない。  
 
 師匠がベッドにうつぶせになると、俺はその上にのしかかるようにして手伝う。  
腰のあたり、鱗の生え際辺りを見ると、なるほど、古い鱗が浮きあがっているのが分かる。  
「始めるよ‥‥いい?」  
「早く‥‥してよ‥‥」  
 なんだかいやらしい口調。  
 カリッ。  
「っ!!」  
 びくんっ、と体が震える。剥けかけている鱗を引っ掻いて、とっかかりを作っただけなのに。  
「い、痛かった?」  
「‥‥大丈夫よ‥‥。‥‥ねえ、あんまりゆっくりしないで」  
 そっか。日焼けの皮を剥がすのと似た感じなのかな?  
「じゃ、いきまーす‥‥」  
 ぺり。ぺりぺり‥‥。  
 かさつく古い皮を剥がしてゆくと、その下から傷一つ無いみずみずしい鱗が現れてくる。  
まだ水分をたっぷり含んでいるからだろうか、今までよりもほんの少し色が濃いような気もする。  
慎重に、でもある程度の早さで、少しずつ皮を剥がしてゆく。皮が剥がれてゆくにつれて、  
新しい鱗がますますきれいに視界を占めてゆく。  
「あっ‥‥う‥‥ん‥‥。思ったより、うまい、ね‥‥」  
 ‥‥あんまり色っぽい声を出さないで欲しいんだけど‥‥。  
こっちもなんだかムラムラしてしまう。  
「破れないように気を付けてね‥‥半端に残ると剥がすのが大変なのよ」  
「気を付けます‥‥あ、ちょっとこの辺を浮かして」  
 ゆっくり、慎重に。かつ、時々大胆に。靴下を裏返しに脱ぐように、皮を剥いてゆく。  
手元には透明な鱗の筒が残り、そして師匠の真新しい下半身が次々に現れてくる。  
‥‥きれいだ。つやつやの鱗が、ランプの光を受けてきらきらと光る。  
古い皮を引っ張ると師匠は少し息を詰まらせ、ときどき深い息を吐く。  
 
 * * *  
 
「ふぅ‥‥」  
 結構緊張する。もう一時間ぐらいたってると思うけど、まだ全体の四分の一ぐらいしか  
剥けてない。いったん手を離して肩をほぐしていると、師匠も大きく深呼吸をした。  
「なかなか上手じゃない、ラート。ほらほら、あんまり休んでないで続けてよ」  
 その言葉に促されて、作業を続ける。徐々にコツをつかんできたらしく、  
最初のころよりは早くなってきた。ぺりぺりと剥く。きれいな鱗が出てくる。  
師匠が息をつく。――その吐息も、なんだか少し早くなってきた気がする。  
 ‥‥。  
 あ、いや、その、そんなことを気にしてる場合じゃなかった。集中、集中‥‥。  
 ぺり。ぺりぺり。  
「‥‥ぁっ‥‥」  
 聞こえない聞こえない。  
「ぁ‥‥っ、はぁ‥‥ん」  
 聞こえない聞こえない聞こえない。  
「ラー‥‥ト‥‥あぁっ!」  
「し、師匠‥‥お願いですから、その、あんまり色っぽい声を出さないでくださいよ‥‥」  
「いいじゃない‥‥気持ちいいんだから‥‥んっ、そこ‥‥丁寧にね‥‥あ‥‥ぁんっ!」  
 ううっ‥‥我慢我慢。襲いかかりたくなるけど、もし途中で手を出したら  
張り倒されるに決まってる。気合いで音を遮断して、なんとか目の前の作業に集中する。  
蛇の部分も半ばを過ぎて、後半に入ってくると少しずつ細くなってくる。  
そうすると皮を剥くのも少し簡単になってくるから、作業もはかどってきた。  
‥‥よく考えたら、前半は確かに自分じゃやりにくいかもしれないけど――  
「師匠、ここまできたらあとは自分でできるん――」  
「嫌、ってこと?」  
 皆まで言う前にじろりと視線が返ってくる。  
「いえ、喜んでお手伝いさせていただきます」  
 ‥‥我ながら弱いなあ‥‥。って、だいたい師匠も最初は自分でやるって  
言ってたじゃないか。勝手なんだから‥‥。  
 
 * * *  
 
「うう、痒いよ‥‥」  
「あと少しだから我慢してください。‥‥っと、あとちょっと」  
 本当にあと少しだ。尻尾の先の尖った部分にさしかかってきたから、  
もう終わる‥‥ほら、もうこれで――  
「――はい、終わりまし‥‥あっ!?」  
 ぺりっ!  
「あちゃ‥‥すいません、少しだけ鱗が‥‥」  
「ちょっと何やってんのよ! あーあ、二枚だけ残って‥‥やっかいなのよ、  
こういう残り方をすると‥‥。ちゃんと剥がしてよ」  
「すいません‥‥」  
 師匠の言葉通り、尻尾の先には二枚だけ古い鱗が残ってしまった。  
まあ、ちょっとひっかいて剥がせばすぐだよな‥‥っと、あれ? うまく爪に引っかからない。  
「ちょっ‥‥と‥‥早く、しなさいよ‥‥っ!」  
 あれ? あれ? なんで剥がれないんだ!? 爪で引っかけようとしても、  
なぜかするりと行きすぎてしまう。もうちょっと強くひっかかないと‥‥大丈夫かな?  
「ちょ‥‥っ、はぁっ‥‥!  
さっさと、しなさい‥‥ああっ‥‥!! き、傷がついちゃうでしょ!? もっと優しく‥‥」  
 強めにひっかいたら怒られた。でもおかげでとっかかりができたみたいだ。  
これで剥がせる‥‥  
「‥‥っと、よし!」  
「んうっ!」  
 ぺりっ、という小さな音と同時に、師匠は少し身体を震わせた。はぁ‥‥疲れた‥‥。  
「終わりましたよ、師匠」  
 ベッドの脇には大量の抜け殻が散らばってる。相当な量だ。  
透明でかさついたそれとは対照的に、ツヤツヤとした尻尾がベッドの上にのたくってる。  
ベッド脇のランプの光がその一つ一つの鱗に反射してきらきらと光る。  
いつも師匠の顔や上半身の美しさに目を奪われていたけれど、まさか下半身も  
こんなにきれいだったなんて‥‥。少し上気した師匠が、新しくなった下半身を  
ゆっくりとなでている。  
「痒いの、収まりましたか?」  
「あ、うん‥‥一応ね。ありがと」  
 少し顔を赤らめて微笑んでくれた。‥‥ダメだ。俺。もう限界。  
「ナイアさん――!!」  
「ちょっと、いきなり‥‥! んっ、んんぅ!」  
 一気に押し倒して唇を奪う。あまりの唐突さに抵抗らしい抵抗もない。  
細い手首をまとめて押さえ込み、服の上から胸を揉む。柔らかいのに見事な弾力が  
手のひらへ跳ね返ってくる。ぐっと揉み込むと吐息が鼻から漏れる。  
唇を離すと、かすかな喘ぎが甘い響きと一緒に溢れた。  
「ナイアさん‥‥これは何?」  
 胸の一点を指でなでながら、そう言ってみる。  
胸だけを覆い、背中で結んだ布きれ――これが今日のナイアさんの「服」だ。  
その服の一点が、下から押し上げられてツンと浮き出している。円を描くように  
そこを指先でなで、軽く弾きながら詰問する。ぴくん、と身体を震わせながら、  
ナイアさんは濡れた瞳で俺を見つめ、かすかな声で喘ぐ。  
「あんなに色っぽい声で喘ぐから‥‥我慢できないよ。  
でもナイアさんも興奮してたんでしょ?」  
「‥‥だって‥‥気持ち、よかった‥‥から‥‥」  
「偉そうに弟子に手伝わせながら、気持ちよくて喘いでた?」  
 いつになくしおらしいナイアさんを、わざわざ嫌味に問い詰めていく。  
これがいつもなら、「だ、誰がよ!」とか「うるさい!」とか言って怒ってみせるんだけど  
‥‥今日はこくん、と顔を赤らめるばかり。信じられないくらいおとなしいなあ‥‥。  
いつもの積極性の権化のような師匠とはまるで別人だ。  
‥‥脱皮したら性格まで変わるんだろうか。まさかね。  
 と、そんなことを考えながら、ナイアさんとしばし見つめ合う。  
互いの吐息が触れあうくらいまで顔が近づき――  
「‥‥ラート‥‥!」  
 
 俺の名を呼んだかと思うと、ナイアさんが一気に絡みついてきた。首と背中に腕を回し、  
全身を俺にすり寄せてくる。でっかいおっぱいが胸に押しつけられてむにゅっと形を変え、  
お腹も、腰も、真新しくなった蛇の下半身も全部俺にぴったりとくっつく。  
暖かく柔らかなナイアさんを全身に感じながら、その細くくびれた腰を抱き、  
そして強く唇を重ねた。そのとたん、ナイアさんの長い舌が待ちかねたように俺に襲いかかり、  
俺の口内を激しく愛撫し始める。俺の舌に巻き付き、絡め取り、口の中の隅々まで  
丁寧に舐めてゆく。それを追いかけて俺も舌を動かすが、まるでついて行けない。  
「‥‥ぷはっ‥‥ナイア‥‥さん‥‥っ、ちょっ‥‥!」  
 どうにか息を継ぎ、猛攻をしのぐ。でもそれはほんの一時的なもの。  
いつの間にか下着の中に潜り込んできた指先が、さっきから勃ちっぱなしのモノに絡みつく。  
指先だけを使って根元から先端まで、包み込むように絡ませながら何度も上下させてゆく。  
一切力は入っていないのに、強烈に気持ちいい。思わず呻いてしまったその声に、  
さっきまでのしおらしさとはまるで無縁の笑みを見せるナイアさん。  
‥‥襲いかかったのは俺なのに。軽々と手玉に取られてしまったのが情けなくて、  
腹立たしくて、俺は自爆覚悟でその唇にもう一度襲いかかる。  
‥‥あっさり撃破されたのは言うまでもない。  
「んむ‥‥はむ‥‥ん‥‥。んん‥‥っ。‥‥はぁっ‥‥。  
ふふ、キスと指先だけでそんなに感じてていいの‥‥?」  
 わざわざ甘い吐息を混ぜながらの口づけがようやく一息つくと、発情しきった瞳に  
妖しい笑みを浮かべてそう言う。かと思うと、そのきれいな唇が俺の唇にもう一度触れ、  
そして耳と首筋に柔らかい刺激を与え、歯で甘い攻撃を加えてくる。彼女の頭を抱き寄せ、  
身体をまさぐりあい、互いに余計な布をはぎ取ってゆく。ベッドの上で横に並び、  
甘い吐息と言葉を交わしながら、さわさわと身体に触れあう。  
 不意に身体を起こしたかと思うと、ナイアさんは俺の股間の方に頭を向けた。  
――当然、俺の目の前にはじゅくじゅくに濡れそぼった秘裂があり、  
そしてその下には真新しい鱗に覆われたつややかな下半身。  
だけどそれに見とれている暇はなかった。熱くぬめった感触が股間に直撃し、思わず震える。  
「んぐ‥‥んぅ、ぷは‥‥。ふふ、もうギンギンになってる‥‥すてきよ、ラート」  
 横になったまま顔を持ち上げ、艶然と笑う。ぬるぬるとした感触が上から下へ、  
下から上へと移動し、かと思うと先から根元まで一気に粘膜に飲み込まれる。  
頭が上下に動き、そしてその間も指先が股間の周辺を丁寧になぞってゆく。  
太ももの付け根あたりを軽くひっかくようになでられると、情けないほど腰が跳ね上がる。  
そんな俺の反応を横目で見つめながら、ナイアさんの口撃はますます激しくなってゆく。  
長い舌をサオ全体ににゅるにゅると巻き付けながらも唇は先端だけを咥え、  
粘膜で亀頭やカリを責めあげる。そうかと思えば裏筋を唇と舌を使って  
いやらしく舐め上げたり、おいしそうに口いっぱいに頬張ったりする。  
「んぶ‥‥ぅ、れるっ‥‥はぁん‥‥。おいしいわ、あんたの‥‥。  
ふふっ、どう? イきそう?」  
「っく、うぁ‥‥っ! まだ、まだ大丈、夫‥‥くぁうっ!」  
 強がってみた瞬間に鈴口を吸い上げられる。や、やばい。このままだとあと二十秒ももたない。  
力が抜けてしまった腕に意識を戻し、手近にあった下半身をぐいっと抱き寄せ、  
そして割れ目を舐め上げて――  
「ひぅっ!?」  
 ピクンと強く震え、唇や舌の動きが止まる。ここぞとばかりに肉の突起を舌で転がし、  
秘裂全体に舌を這わせて舐め上げる。ピクッ、ピクンッっと全身を震わせ、  
肉棒を頬にすり寄せたまま荒い息をつき始めた。――反撃成功!  
「どう、気持ちいい?」  
「んあう、はぁっ! ああう、んっ、ちょっ‥‥と、あぁっ!!」  
 甘い喘ぎが溢れる。ガチガチになった俺のモノを掴んだまま、ひくひくと震えてる。  
どうだ、俺の舌技も捨てたものじゃ‥‥あれ? よく考えると変だ。今、俺はナイアさんに  
声を掛けて、そして反応を見ている。つまり、アソコを舐めている最中じゃない。  
なのにナイアさんは震えて、喘いでる。‥‥なんで?  
「あ、あう、お願い、下半身、触られたら‥‥!」  
 ‥‥そうか。なるほど。ほほう。つまり、こういうことですか。  
「脱皮直後で、まだ鱗が柔らかくて‥‥感じすぎる?」  
「――あぁああっ!! くぁっ、や、やめっ、ひぁうっ!!」  
 すうっ、と鱗をなでると、信じられないくらい見事な応えが返ってきた。  
 
――そうと分かれば、今日しか味わえない快感ってやつをナイアさんに  
きっちり教えてあげないとね。ベッドの上でうねうねとくねっている下半身を抱き寄せ、なでる。  
腰の辺りから、ゆっくりと手のひらを這わせて。  
「あああっ! お、お願い、やめっ、っくあああっ!!」  
 俺のモノをしゃぶるのはもちろん、掴むことさえできずに悶える。  
 するり。するっ。――丁寧に、隅々までなでてゆく。ときおり円を描くように、  
あるいは波の模様を描くように指先を動かすと、ますます喘ぎが激しくなる。  
ベッドにうつぶせになった上半身はべったりと汗がにじみ、腰を浮かせたり、  
のけぞったりしながら休みなく喘ぎ、悶える。俺はベッドの上で四つんばいになり、  
ナイアさんのいやらしい下半身を片っ端からなでる。  
「ああぅっ!! あはぁう、ひぅうっ!! ――っは、くは、っ、あっはぁああぁああ!!!」  
 喘ぎ、悶え、何かを言おうと唇を動かしたその瞬間。ひときわ大きく叫ぶと  
全身をがくがくと震わせ、ナイアさんは突っ伏した。開いた唇から溢れたよだれが  
シーツにシミを作り、汗だくになった身体には髪が張り付いている。  
その身体をなまめかしくくねらせながら、放心状態の目でぼんやりと俺を見ていた。  
――俺の中で、何かが爆ぜた。  
 
 汗でしっとりとぬめる肩をつかみ仰向けにすると、ぐしょぐしょに濡れたところに指をやる。  
指を少し入れただけでも、中の肉襞が物欲しそうにすがりついてくる。それを確認すると、  
膝で蛇を抱えるようにして俺はナイアさんにのしかかり、はち切れんばかりになった分身を  
淫裂にあてがい――力強く、貫いた。  
「んっはあぁあ!! ああっ、す、すご‥‥い‥‥!」  
 腰を少し動かしただけで、ナイアさんは感極まったように喘ぐ。  
ベッドに突っ張った俺の腕に白い腕を絡ませ、なまめかしい喉をそらせながら、  
激しく悶える。爪を腕に食い込ませ、眉を寄せながらも必死に俺を見つめたまま、  
息を詰まらせ、かと思うと快感を爆発させながらよがり狂う。肉襞は俺の剛直を奥へと  
引きずり込もうとすがりつき、離すまいとして絡みつく。  
そして淫らな蜜を溢れさせ、もう「濡れている」なんて表現じゃ追いつかないほどだ。  
「ラート、ああ、すごい、すご‥‥すぎるぅ‥‥!! だめ、ああ、また、イく、あはぁっ!  
こ、こんなに、早く――だめ、だめ、もう、あ、あぁぁああっ!!」  
 必死に言葉を紡いでいたナイアさんが、またしてもイく。  
俺の腕を掴む力が抜けたのをいいことに、俺はベッドに肘をついて体を支える。  
胸板に巨乳が密着し、コリコリに堅くなった乳首が押しつけられる。そして‥‥耳元で囁く。  
「もっとイかせてあげるよ‥‥。もっと、もっとね。ナイアさん‥‥!」  
 同時に、腰を打ち下ろす。感極まった嬌声。  
 いつもなら下半身が俺の足に絡みついてくるんだけど、今日はそれさえ上手くできないらしい。  
だったら、今日は今日の快感を思いっきり感じさせてあげなきゃ。  
‥‥のたうつ蛇の下半身を右手で掴み、左腕で体重を支えながらピストン運動を続ける。  
つるつるの鱗をさすり、しごき上げる――その先端までビクビク震え、全身が快楽にむせび泣く。  
「ひぃいいっ! お、おねが‥‥い‥‥!! し、ごか、ない、で‥‥!  
っく、あひっ、はぁぁあっ!! ――ひっ!!  
そ、そこ、やめっ――ぁっぁああああああぁぁあ!!!!」  
「すごいよ、ナイアさん‥‥またイったの?」  
 じゅぶっ、ぱちゅっ、っといやらしい音を響かせながら腰を動かす。  
突き上げられる快感、全身に触れる感触、そして敏感すぎる鱗のせいで狂いまくるナイアさん。  
そのあまりのいやらしさに、俺はたまらずキスをする。必死に喘ぎ悶える唇をふさぐと、  
それでも俺に舌が絡みついてくる。  
「‥‥ん、んんっ‥‥! ぷはっ、あっはあっ!!  
ラート、好きよ、ああ、だめ、また――!!」  
 キスの途中で音を上げたかと思うと、甘い睦言――そして声にならない絶叫。  
すがりついたままビクッビクッと震え、荒い息をつく――だめだよ、まだ休ませないから。  
優しく丁寧にキスをすると、ナイアさんが大きく息をしながらも妖艶に微笑んだ。  
 
 * * *  
 
「っく、あはっ‥‥! すご‥‥い‥‥!! 突いて、攻めて‥‥ああっ、んうぅううっ!!  
いい、いいわ、ラー‥‥ト‥‥!! ねぇ、ここも――ひぃぃっ!!  
んあっ、くぅっ、ぁああぁああ!!!!」  
 ピストン。愛撫。甘い言葉。最初は強烈すぎる快感に少し抵抗していたナイアさんだが、  
徐々に積極的に下半身の愛撫を求めるようになってきた。俺が触りやすいところに  
蛇をくねらせ、俺もそれに応じてしごき、なで、そして舐める。先の方へ向かって  
しごいてゆくと身体を俺に密着させて悶え、逆になで上げると上半身をのけぞらせて喘ぐ。  
時には弾む乳房を揉みしだき、手のひらでたっぷりとその量感を楽しむ。  
もう、何をしてもナイアさんは感じ、悶え、イく。最高だ。本当に。  
「あ‥‥ぁぁ‥‥ぁあああ‥‥っ!!」  
「ナイアさん‥‥好きだよ‥‥」  
 思わずそう言ってしまう。――返事は、絶頂の喘ぎ。  
 ナイアさんはもう完全に沸騰してる。でも、俺だってそうだ。  
俺だってもう、二回も射精してしまった。でも萎えない。今のナイアさんを前にして、  
萎えるなんて想像もつかない。がむしゃらに腰を振り、全身でナイアさんを愛し、味わう。  
ベッドがギシギシと泣き言を言ってる。――好きだよ、ナイアさん。  
だからもっと、もっと‥‥!  
 
「ああ、はぁあっ、い、い‥‥! んあっ、あぉっ、ああぁぁあ‥‥!!  
も、もう、だ、め‥‥! 墜ち、る‥‥!」  
 さしものナイアさんも汗だくになり、ろれつも回らなくなってきた。  
それでも、いや、だからこそ俺に必死にすがりついてくる。普段は勝ち気で、いいかげんで、  
わがままなナイアさん――そのナイアさんにとって俺が「何」なのか、  
十分すぎるほどに伝わってくる瞬間。それを意識してしまうと、  
もう俺も我慢できなくなってきた。下腹部に熱く、しびれるような感触が高まってくる。  
「あぉおっ、くはっ、ああっ、ひぃ‥‥っ!!」  
 猛烈な勢いでふくらむその感覚を必死にこらえ、一瞬たりとも休まず攻め寄せてくる肉襞を  
突き上げ、細い腰を腕で強く抱き、そして尻尾の先を口に咥え――噛んだ。  
「あああぁぁぁああああーっ!!! あ、あぁぁあああっ、あっはあぁぁぁあ‥‥っ!!!!」  
「っくぅうっ!!」  
 ブビュウッ!! ドビュゥッ、ドクッ、ドクンッ、ビュクッ‥‥!!  
 ものすごい絶叫。そして、訳が分からないほどの快感。頭が真っ白になった瞬間、  
三度目とは思えないほどの量が一気に吹き出し、ナイアさんの中を満たしてゆく‥‥。  
腕ががくんと崩れて、香しい髪の匂いが鼻をくすぐる‥‥。  
はぁ‥‥はぁ‥‥さすがに‥‥こたえたかな‥‥。  
 ナイア、さ‥‥ん‥‥愛‥‥してる‥‥よ‥‥。  
 
 * * * * *  
 
 ガラァァン‥‥ガラァン‥‥ガラァァン‥‥  
 ‥‥うるさいな‥‥なんだよ‥‥。ああ、そうか‥‥時計塔か‥‥。  
 ‥‥時計塔!?  
「うわっ、寝過ぎたっ!!」  
 街中に響き渡る鐘の音は、つい最近中央広場に建った機械仕掛けの時計塔の音だ。  
豪商たちがこのビルサ市の象徴にしようと建設したらしい。定時に鐘が鳴り響き、  
おかげでそれなりに生活の役に立っている。って、そんなことは今はどうでもいいんだ。  
朝にアレが鳴るってことは、つまり朝市はもう始まってる。大急ぎで行かなきゃ。  
ナイアさんは‥‥熟睡中か。かわいい寝顔だけど、今はそれどころじゃない。  
着替え着替え――!?  
「いだっ、いだだっ!!」  
 こ、腰がっ。筋肉痛かよ‥‥。しかたないか、昨日あれだけ激しかったんだから‥‥。  
うっ、股間ががびがびだ。あーあ。  
 
 * * *  
 
 買い出しを終え、とりあえず自分の朝食を先に済ませて。店先の掃除は‥‥終わった。  
棚の拭き掃除、商品の補充‥‥できてる。なんだよ、急いだおかげでいつもより早く  
用事が終わってるじゃないか。あとは師匠が起きるかどうか‥‥無理だろうなあ‥‥。  
一応起こしに行くか、と階段に向かった矢先に、それが聞こえた。  
「ああーっ!!」  
 なんだなんだ!? いきなり二階から悲鳴。師匠の声だけど‥‥もう起きたのか、珍しい  
――じゃなくって。ばたばたと階段を駆け上がり、寝室に飛び込んで――  
「どうしたんですか師匠!?」  
「ラート!! あんたねぇ、いくらなんでもして良いことと悪いことがあるでしょ!?」  
「え!? 俺ですか!?」  
 なんで起きた瞬間俺が怒られなきゃならないんだっ?  
「これよこれ、見なさいよ!! あんたのせいだからね!!」  
 ものすごい剣幕でそう言うと、尻尾の先をずいっと俺の目の前に突きつける。一体何が‥‥  
「あ‥‥歯形‥‥」  
 尻尾の先、まだぴかぴかのつやつやな鱗に‥‥その、歯形が。やばい‥‥。  
「脱皮したての鱗はまだ柔らかくて、傷が付きやすいって言ったでしょ!?  
もぉお、これで次の脱皮まで消えないのよ、これ‥‥」  
 恨みがましく文句をいうナイアさん。とりあえずその場でしつこく罵倒され、  
さらに昨日の抜け殻の掃除がまだできてないことをなじられ、つ  
いでに俺が先に食事を済ましたことまで文句を言われた。くっそー‥‥。  
 
 * * *  
 
「ふぅ、おいしかった」  
 湯浴みをしたあと、朝からなかなか豪快な量の食事をたいらげ、  
ようやく師匠は言葉を口にした。さっきまで黙りこくってたんだから、  
機嫌はいくらか良くなったん――  
「あ、ラート」  
「な、なんでしょう」  
 機嫌が良くなってますように‥‥。  
「さっきは‥‥ちょっと悪かったね。夜にはしゃいでたのはあたしも同じなんだし‥‥」  
 ‥‥もしかして朝だから機嫌が悪かっただけなのか。  
「それにしても、ほんとに激しかったよね‥‥。あたし失神しちゃったのよ、最後」  
「‥‥たぶん俺も、です」  
「へぇ? 珍しいじゃない、あんたが伸びちゃうなんて。  
歯形が付いたのは不本意だけど‥‥でも‥‥ふふ、本気で最高だったわ。ありがと」  
 立ち上がると、師匠は俺の頬に軽く口づけをしてくれた。  
その一瞬でどやされていた不満がすっ飛んでしまうんだから、我ながら現金だ。  
「さっきの歯形ですけど‥‥見せてもらえます?」  
「え? いいけど‥‥」  
 きれいな鱗に、ほんの小さな歯形。ラミアが誰にも見せない脱皮、  
その時にしか付けられない――俺だけの印。俺とナイアさんをつなぐ、秘密の印。  
‥‥そう思うと、なんだか胸の底から熱くて‥‥思わず、俺はそれにキスをしてしまった。  
 
 ――ぱーん!!  
 
 ‥‥左頬の真っ赤な手形は、昼過ぎまで消えなかった。  
 
 
(終)  
 

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