太陽がビルサの城壁を越え、ここ「ナイアのお店」まで光を投げかけてきた。真冬に比べれば  
日の出もずいぶん早くなってきたと思う。とはいえ、悠長にそれを味わってる余裕はない。  
なんたって住み込みの弟子だからね。師匠の雑用は全部俺の役目だ。魔導士の弟子といっても、  
普段やってることは弟子というよりただのお手伝いにしか見えないかもしれない。  
 いつものように朝市で買い出しを済ませ、商品の整理や店の掃除も終えて  
朝食を作っていると――二階へ続く階段からずるずると重い物を引きずるような音が  
聞こえてきた。まさか師匠が起きて‥‥いやいや、そんなことはないだろう。うん。  
あの師匠が朝食前に起きてくるなんて、そんな可能性を考える必要は‥‥やっぱり念のために  
見に行こう。  
 ‥‥目を疑った。  
「あの‥‥師匠?」  
「おはよう、ラート。‥‥何よその顔は」  
 いやその‥‥どんな顔をしてたのかは分からないけど、だいたいの想像は付く。  
だってそりゃ、師匠が早朝に起きてくるってだけでも珍事なのに――  
「えーと‥‥そのお召し物は一体‥‥」  
 そう。なんだか知らないけど、やたらと豪華な服を着てたんだ。胸元を隠す衣装は  
金糸の刺繍や宝石できらきらと飾られ、大事な部分を隠す腰布も半透明の薄布が何枚も  
重なり合ってる。髪や耳、首を彩る装飾品まで貴金属の細工物だ。でも露出度は相変わらず  
‥‥というか、いつもよりきわどいかも知れない。ちょっと背中側も拝見しますよ‥‥って、  
こ、これはっ。衣装の留め具や紐があるだけじゃないかっ。お尻さえ半分見えてるし‥‥。  
こういう衣装がびしっと決まるあたりはさすがナイア大先生、ってところだけど――  
「ふふん、似合うでしょ? ‥‥どうも反応が素直じゃないわね‥‥」  
「よくお似合いです、師匠‥‥でもその、なんでまた」  
「ああ、そういうこと? いきなりだけど、朝ご飯食べたら出発するよ。  
ルメクの泉で二、三泊の修行ね」  
「はいっ!? え、あ、‥‥ええぇ〜!?」  
 
 * * * * *  
 
 馬車がごとんごとんと揺れ、乗っている俺と師匠もそれにあわせて揺れる。  
のぞき窓からは御者のおじさんの背中が、その向こうには毛長馬のまだら模様が見える。  
周囲の砂にかき消されそうな街道が、白い線となって先へと続いている。  
「うー‥‥狭い‥‥」  
 師匠が文句を言ってる。まただ。  
「これしかなかったんだから文句言わないでください」  
「あーもう、うるさいな! あんたじゃなくて馬車に文句言ってんのよ!」  
 ――貨客馬車には何種類かある。人間やエルフみたいな二本脚の種族がたくさん乗れるものや、  
もっと大型の種族用の馬車、その他いろいろだ。師匠が乗るには大きめの、しかも座席のない型が  
一番具合がいいんだけど‥‥突然出発することになったわけだから贅沢は言ってられない。  
仕方なく、空いていた中型の馬車――六人が向かい合って坐る形式だ――を借りたんだけど。  
「あんたには分からないだろうけど、ほんとに窮屈なんだから‥‥身動き取れないじゃないの」  
 たしかに窮屈そうだ。床面だけじゃなくて座席にも師匠の下半身がのたくって  
大変なことになってる。‥‥俺も狭いよ、師匠。  
 外はまだ寒い。日も長くなってきたし、待ってもいない長い夏がやってくるのも  
そう遠い話じゃない。でも、朝夕はまだ冷える。遙か北の大山脈からは冷たい空気が流れ、  
ひやりと冷たい風となって地面を吹いてゆく。箱形の客車には風と砂を防ぐために  
厚手の布で内張がしてあるけど、すきま風を完全に防げるわけじゃない。  
 普段以上に薄着の師匠と横に並んで肌を寄せ合い、二人で一枚の毛布にくるまる  
――もちろん、蛇の部分にもちゃんと被せる。寒がりのくせにどうして厚着しないんだと  
聞いたら、それはラミアの文化なんだそうだ。曰く「厚着したり肌を隠したりするのは、  
半人前か自分に自信がないラミアね」とのこと。その理屈だと、師匠がいつも肌も露わな格好を  
しているのは当然なのかも知れない。けど‥‥寒いなら着込めばいいのに。  
 ぶつくさと文句を言いながらも、毛布の中で俺にすり寄ってくる。  
少し冷えてしまった肌を抱き寄せて俺の上着を毛布の中で掛けてあげると、何も言わずに  
素直にそれを受け入れる。香しい髪が鼻をくすぐる。上着をしっかり掛けるように装って  
師匠を強めに抱き寄せると、しっとりした肌や滑らかな鱗が密着する。  
昼間からこんなに密着できるなんて‥‥急な話だったけど、旅行で良かった。  
‥‥っと、旅行じゃなくて修行か。  
 
 勝手に幸せになっている俺とは関係なく、師匠は相変わらずぶつぶつ不平を言い、  
下半身を毛布の中でもこもこ動かしてる。これは‥‥どっちかというと、「狭い」とか  
「寒い」とかいう以前に「暇」なのでは‥‥。  
 ちらっと、御者の方を見てみる。人間のおじさんだけど、大きな帽子を目深にかぶって  
顔はよく見えない。おじさんからは後ろもよく見えない、はずだ。何より、こっちは客車の中、  
おじさんは外だ。‥‥少々声を出してもばれない、よな? ――って、俺は何をしようとしてる!  
だめだ、なんだか気分が妙に浮ついてる。子供じゃあるまいし、自制心、自制心っと。  
 
 ‥‥くうっ、胸が腕に当たってる‥‥。  
 
 * * * * *  
 
 ひたすら馬車に揺られ、尻が痛くなった頃‥‥ようやく目的地に着いた。  
出発がもっと計画的だったら日のあるうちに着いたのかもしれないけど、もう夜だ。  
 目的地に下りると、そこは小さな街だった。といってもビルサみたいな商業都市じゃなくて、  
物見遊山らしき人々がうじゃうじゃといる、という感じだ。夜だというのに人通りは  
絶えないらしい。  
「えっと‥‥観光地、なんですか?」  
「え? 知らないの? ここは温泉で有名なのよ。  
――ちょっとラート、な・に・を・見・て・る・の?」  
 明らかにいかがわしい商売を感じさせるおねえさんが手招きしてたのを一瞬見ると、  
いきなり頬をつねられた。痛いよ師匠。  
「‥‥とにかく急いで宿を探しましょ。修行はそのあとね」  
 というわけで宿を取り、結局その日は修行なんてしなかったことを付け加えておく。  
時間も遅かったし、何より夜は他にやることがある。  
 
 * * * * *  
 
 師匠と一緒に午前中の半ばまで休んだ後、師匠に連れられルメクの街中へ。  
ルメクはビルサにごく近い観光地だけあって、いろいろな種族がそこかしこにいる。  
人間もそれ以外の種族も浮かれた調子で歩き回り――出入りしているのは大きな建物だ。  
似たような外観で、入り口も大きい。由緒ありげな様子をわざわざ演出するような字体で  
医療神の祈祷文を掲げているところもある。  
「ルメクはこのあたりで唯一の温泉地でね」俺がきょろきょろしているのを見てか、  
師匠が口を開いた。「ああいうのはみんな公衆浴場なのよ。――入りたいの?  
だめ、ああいうのは男女別々だから楽しくないよ」  
 街は斜面になっているらしく、階段や坂道がずっと続いている。大通りは広場を抜け、  
更に高いところへと俺たちを導く。高所の方が旧市街らしく、進むにつれて歴史を  
感じさせる街並みになってゆく。いかにも古そうな石造りの住居が並び、下の方にあった  
雑然とした雰囲気はずいぶん薄れている。その先に、目指しているらしい建物が目に入った。  
やや大きめの神殿風の建物。白い石ががっちりと組み合わさった隙のない外観を、  
精緻な浮き彫りが隙間なく埋めている。列柱が短い参道を作り、その奥に暗い矩形が見える。  
「あれが例の聖地、ルメクの泉。昔から精霊が宿ってるって言われてる泉でね。  
めったに人は来ないから貸し切りのはずだし‥‥用件はさっさと済ませましょ。あ、その前に」  
 俺に持たせた荷物から小瓶を二つ取りだし、片方を俺に手渡すと自分はもう一方の中身を  
くいっと飲み干す。それに倣って俺もその水としか思えない液体を飲み干し――さっさと  
進み始める師匠をあわてて追いかけた。ろくに説明もないまま参道へ立ち入り、  
そして建物の入り口へ。規模の割に立派な入り口を通ると、すぐ脇に女性がいた。  
白い神官服をゆったりと身にまとい、顔はフードの影になってほとんど見えない。  
その神官が口を開く前に師匠は紋章のようなものを見せる――と、神官はうやうやしく  
頭を下げた。  
「水の精霊の御座所にて、この者に秘儀を伝授するため参りました」  
 師匠が珍しく丁寧な口調でそう告げ、荷物から一包みを渡す。と、女性神官は軽く頭を下げ  
胸元で印契を結び、そしてついて来るように無言で促した。それに従い、師匠と俺は  
奥へと向かう。いよいよだ。ついさっきまでただの旅行気分になっていたけど、  
神殿の荘厳な雰囲気のせいもあってか、何となく心が引き締まる。  
‥‥って、「秘儀の伝授」って何だよ。初めて聞いたぞ。  
 
 
 しゅるしゅると師匠が進む音と、こつんこつんという静かな足音が深い静寂の中に響き渡る。  
程なく、磨き抜かれた青銅の扉を前にして神官は足を止めた。そして通路脇の小部屋に  
案内すると、棚に用意された白い服をそれぞれに手渡す。‥‥着替えろ、ということらしい。  
さすがに人前なのでそれぞれ背中合わせになって服を着替える。  
なんというか‥‥この荘重を通り越して陰気な雰囲気をどうにかしてほしい。師匠の方を  
ちらっと見ると、案外まじめそうな顔をしている。役者だ。  
二人とも着替え終えたことを確認すると、女性神官は改めて青銅の扉の前に導き、  
低い声で祈祷文を唱え――おもむろに扉を開いた。  
 
 厚い扉の向こう、眼前に現れたのは大きな円形の泉だった。半球型の天井で守られた空間には  
湯気が立ちこめ、泉の正面奥には人間の手が加えられていない岩から水――というより  
お湯――が吹き上げている。泉の周囲は独特の石組みで隙間なく固められ、その中には  
どこまでも透明なお湯がたゆたっている。高い天井から差し込む明るい光の中、  
ただ水音だけが響く――なるほど、この神々しさ聖地と言うだけはある。指示に従い  
体を清めていると、神官が師匠に声を掛けた。  
「‥‥魔導の深奥を伝授されるとのこと。  
内容はお聞きしません、手順だけをお伝え下さい――承りました」  
 師匠がごそごそと耳打ちをすると、女性神官はこくりとうなずき、そして二人を  
泉のそばへと導く。  
「泉の中へ。‥‥汝らに精霊の加護のあらんことを‥‥」  
 温泉――もとい、泉の中に腰まで漬かって立っているところへ、彼女が壺にお湯をくみ、  
師匠、そして俺の肩にそのお湯を注ぐ。二度それを受けると、師匠は泉の中央へと進む。  
泳ぐように蛇身を左右にくねらせて、俺の手を引きながら――。  
 
 思っているより泉は広い。水の抵抗もあってなかなか進まないけど、どうにかたどり着いた。  
目の前に背の高い天然石がそびえ、その頂上から温かいお湯が蕩々と流れている。  
天井から差し込む光がその岩、そして師匠と俺を照らす。  
 師匠は俺の方を向くこともなく、ただ中央の岩だけを見つめて唇を動かした。  
「――力、感じるでしょ」低く囁くように、「目、閉じてごらん」  
 言われるままにまぶたを下ろす。水音と光だけが、俺の意識を占める――その中に、  
何か不思議な感覚があった。足下から湧き上がるような、何か――。  
魔導の修行をするときの要領で心を静めてゆくと、光の粒のようなものが全身と空間を取り巻き、  
流れ、たゆたっているかのような感覚。それに気付くと、その光の粒は染み込むように  
俺の身体に入ってくる。輝く粒が渦巻き、流れ、染み込み、溢れ‥‥。  
日常でも、そして修行の間も感じたことのない感覚に気を取られていると、  
ふと肩に触れるものが――。  
「‥‥!?」  
 それが師匠の手だと感じた直後、いきなり何かが唇に触れた。いや、「何か」なんて  
言わなくても分かってる。し、師匠の唇だ‥‥!  
「んん‥‥。っ、んは‥‥っ」  
 聖地のど真ん中でいきなり唇を重ねられ動転する俺に構わず、肩に腕を絡め、  
そして舌を絡めてくる。長い舌が俺の舌に巻き付き、口の中を隙間なく舐め尽くす‥‥。  
「‥‥ぷはっ‥‥」  
 息を継ぐと、師匠の微笑が目の前にあった。肩からお湯を掛けられたせいで  
白いローブが濡れ、肌が透けている。とびきり豊かな胸に布地が張り付き――うあっ、  
先が透けてる‥‥。  
「まだ伝授は終わってないよ‥‥。もっと、しよう‥‥」  
 何が何だか分からないうちにもう一度師匠の腕が絡みつき、唇同士が触れる。  
舌が絡まり合い、口の中を互いに舐め合う。腕にも力が入り、二人で抱きしめ合う。  
ひたすらに、口づけ。胸の膨らみが二人の間で形を変える。目を閉じると光の粒は  
嵐のように踊り、跳ね、奔流となって俺を満たしてゆくのが一層強く感じられる。  
きっと師匠も同じだろう、目を閉じたまま唇を貪り合う。これが聖地のお湯の中でなければ  
押し倒して本格的に絡み合っているんだけど、ただただ唇だけで交わり合う。  
全身全霊の、キス。師匠の体温が上がっているように感じるのは、お湯に漬かっているから  
だろうか。強く抱きしめあい、長い間唇を重ねて――ようやく、師匠が頭を引いた。  
そしてごく軽いキスを何度か落とし、数秒間見つめ合い――もう一度キス。それが済むと  
師匠は俺の手を引き、入り口の方へ向き直るとゆっくりと戻り‥‥あ、神官さんがまだいる。  
何か気まずいな‥‥。  
 
「伝授はとどこおりなく終わりましたか」  
「ええ。水の精霊に感謝を」  
 感情の動きを感じさせない声で尋ねる神官に、師匠は穏やかな笑みで返す。  
――これが、聖地でしたことの全部だ。な、何が「修行」で「伝授」だったのか  
さっぱり分からないんだけど‥‥。師匠にも聞いてはみたけど、意味ありげに笑うばかり。  
内容が内容だっただけに、教えてもらわないと物凄く気になるんだけどなあ‥‥。  
 
 * * * * *  
 
「‥‥はぁぁ‥‥きもちいい‥‥」  
 湯気の中に響く声。お湯に漬かったまま師匠がため息をついた。‥‥といっても、  
それはお風呂が快適だという意味とは少し――というかだいぶ違う。  
「んあっ‥‥そう、そこ‥‥っ。んんっ‥‥!」  
 風が吹くと同時にのけぞり、びくっと震える。まぁ‥‥その‥‥露天風呂なんだけどね‥‥。  
神殿から出るとさっさと宿を探し、それから今に至る、というわけ。ルメク市街に隣接した高台、  
その風景が良いところには温泉宿が並んでる。部屋数も少ないし値段もかなり高いんだけど、  
露天風呂付きの宿もある、ってわけだ。しかも俺たちが泊まった宿は、どうやら今日は  
他の客がいないらしい。それはそれで経営が心配な気もするけど、内装もきれいだし、  
これは日によるということだろう。で‥‥二人っきり、他の客もいない、開放的、  
しかも非日常。やることなんて一つしかないでしょ、と力強く言われてしまっては異論もない。  
 そんなわけで、俺は風呂の縁に背を預けて、ナイアさんを後ろから抱える。おっぱいを  
下からすくい上げ、先端を指先で弾きながら耳元に息を吹きかける。長い蛇身はうねうねと  
お湯の中をくねり、体に合わせて時々震える。胸の下を指先でつぅっとなぞると、  
息が少し詰まると同時にお湯が波立った。細い指先が後ろ手に俺のたかぶりを握って、  
上下に優しくしごいてくれる。お返しはもちろん、心を込めた愛撫だ。湯煙の中、  
きれいな瞳が俺を見つめ――軽いキス。  
 ナイアさんは修行だなんて言ってここへ来たけど、きっと旅行自体が目的だったんだろう。  
ま、俺も最初から旅行気分だったからそれは全然構わないし‥‥日のあるうちから  
こうやってたっぷり楽しめるのも、非日常ならではの経験だ。いつもなら商品を配達したり  
客の相手をしたりしてる時間なのに、二人で風呂に漬かって――なんて。開放的でもあり、  
少し背徳的でもある。一言で言えば「最高だっ」なんだけどさ。  
「はぁ‥‥ん‥‥。ほんとにおっぱいが好きね‥‥」  
「ナイアさんも好きでしょ? 揉まれるのって」  
「ふふ、もう‥‥。気持ちいいわ、もっと‥‥揉んで‥‥」  
 下から持ち上げるようにしたり、ぐいっと揉み込んでみたり。固くなった乳首を指先で  
小刻みに弾くと短い吐息が漏れる。強めに指を食い込ませてあげると、首を反らして  
俺に頭を預ける。  
 お湯で暖まったせいなのか声も視線もとろんとして、妙に色っぽい。  
今のナイアさんを見て、一体誰が大魔導士だなんて思うだろうか。――いや、まあ、  
普段から魔導士らしくはないけど。  
「ねえ‥‥そろそろ、来て‥‥」  
 とびきり甘い声でのおねだりに、俺が抵抗できるはずもなく。ルメクの街を見下ろしながら、  
ばしゃばしゃと水音を響かせる。その伴奏に淫らな声が主旋律を載せ、午後の光を浴びながら  
狂い合う‥‥。  
 
 * * *  
 
「はぁん‥‥ラート‥‥」  
 お湯の中でたっぷりと楽しんだ後、風呂の横に敷かれた簀の子の上に並んで転がっていた。  
板の下にはわざわざお湯を流してあるらしく、寝そべっていても体が冷えることはない。  
まったく、宿賃が高いだけあって無駄に凝った設備だ。  
 俺の腕を枕にして、ナイアさんが寄り添う。広々としているおかげで下半身もだらんと  
伸ばせるから楽そうだ。濡れた体を撫であいながら、視線が交錯するたびにキス。  
たっぷりかき回したり突き上げたりしたところも、くちくちと小さな音を立てていじる。  
もちろん、ナイアさんの指先は俺のをしっかり掴んでる。一度欲望を吐き出したとはいえ  
それはまだまだ元気で、早くも次の刺激を欲しがっている。  
 
「あ‥‥ん‥‥。あ、そうだ」  
 ふと、何かを思い出したようにナイアさんが顔を上げた。  
「体、洗ってあげるよ」  
「え‥‥っ?」  
 ナイアさんが、俺を? 驚く俺には構わず体を起こし、いそいそと風呂場の隅へ行き――  
すぐに桶のようなものを持って戻ってきた。  
「さっき珍しいものを見つけたのよねー。これ、知ってる?」  
 桶の蓋を開け、得意げな師匠。のぞき込むと――  
「何ですか、これ‥‥?」  
 わずかに緑がかった液体が、とろんとろんと溜まっている。水のような雰囲気ではなく、  
見た目はどちらかというと油のような粘りを感じさせる。でも油臭さはなくて、草のような匂い。  
‥‥少なくとも俺の知識の範囲外だ。  
「シュマ液っていうんだけど、そういう名前の植物から取れる液を原料にして作ってあるのよ。  
――ん? ああ、使い途は今から教えてあげる」  
 俺が知らないというと妙に嬉しそうな表情を浮かべ、液面を指先で撫でる――とろり、と  
液がまとわりついた。指を開くと、指の間に緩い膜ができるほどだ。それを見せつけて  
にっと笑うと、シュマ液まみれの手が俺の股間へ――。  
 にゅるり。  
「‥‥っ!」  
「ふふ‥‥気持ちいいでしょ」  
 な‥‥っ、これ、ちょっ‥‥! ほ、ほんとに手なのか、この感触!?  
 すうっと眼を細めると、にちゅっ、ぬちゅっと音を立てるようにして、ナイアさんの手が  
上下する。ぎちぎちに張り詰めた亀頭を指先で絡め取り、カリ首の溝を指の腹でなぞる。  
ひねりを加えて勢いよくしごかれるけど、粘液のおかげで痛みの代わりに快感が直撃する。  
「んっふふ‥‥聞くまでもない、って感じね。腰を浮かせちゃって‥‥。  
ほらほら、もっと感じなさいよ。腰を打ち上げて、びっくんびっくんしながら  
ぶちまけてごらん‥‥なんてね‥‥」  
 冗談めかした口調を装うけど、冗談になってない。目は笑ってるけど、その妖艶な光は  
ふざけてるときの瞳じゃない。  
「‥‥でも、まだだめよ。もっといっぱい感じさせてあげる」  
 耳元で囁き頬に軽い口づけをすると、ナイアさんの顔が俺の股間へと向かってゆく。  
か、覚悟しておかないと――  
「ぅあっ‥‥っく‥‥!」  
 唇が軽く触れたかと思うと、熱い口内に一息で呑み込まれる。根元まで呑み込み、  
口の中で舌を絡ませる――ナイアさん一流の技だ。ラミアの特徴だという長い舌が、  
竿に絡みつき巧みに締め上げてくるかと思うと、今度は亀頭を頬の内側にこすりつける。  
頭全体でひねるようにして、チンポへの刺激が平坦にならないように工夫する――その工夫は  
いつもながら変化に富み、冷静に耐えるなんて俺にはできない。思わず歯を食いしばり、  
うめき声を漏らしてしまう。それを上目遣いの微笑で確認すると、攻めはますます激しく  
なっていく。膝を掴んで脚を大きく広げさせると、玉の下辺りから鈴口までをゆっくりと  
舐め上げ、指先で亀頭を撫でながら今度は竿に舌を巻き付けて――。唾液だけでも  
気持ちよすぎるのに、今日はそれにシュマ液のぬるぬる感が加わって殺人的な快感だ。  
早くも肉棒は限界まで反り返り、欲望を吐き出そうと震え始めている――俺がそれをやっと  
意識できたとき、不意に快感が途切れた。  
「ふふっ、もうちょっとでイくところだったでしょ‥‥。だめ、我慢しなさい。  
それにしてもこんなにカタくなって‥‥すてきよ、ラート」  
 にっ、と微笑み肉棒に頬を寄せて口づけ。ううっ‥‥寸止めか‥‥。  
 
「手と口だけじゃもったいないな‥‥胸も使ってあげる」  
 何がもったいないんだかよく分からないけど、何をしたいかはよく分かる。  
ビンビンになった男根を大きな胸で挟んで、不敵な笑みを浮かべる。  
「どう? いつもより気持ちいいでしょ‥‥。ぬるぬるして‥‥んっ‥‥あん‥‥」  
 左右から押し寄せる乳肉の圧迫感‥‥それは時々味わわせてもらえるけれど、  
今日はそれどころじゃない。左右の胸を互い違いに上下させると、亀頭も竿も  
ぬるんぬるんっと暴れ、そのたびに耐えられないほどの快感が湧き上がる。  
一瞬でも気を抜けばイってしまう‥‥なのに、ナイアさんは長い舌まで使って俺を攻める。  
肉棒が挟まった深い谷間に舌先を差し込み、鈴口や裏筋をちろちろとなぶる。  
腰や脚が震えるけど、隠すことなんてできやしない。眼にいたずらっぽくも  
いやらしい笑みを浮かべ、顔を上げてくすくすと笑うナイアさん。  
 
「っく、はっ‥‥!」  
「ふふふっ、イってもいいよ‥‥。  
あたしの胸に、顔に、いっぱいぶちまけてごらん‥‥ほぉら‥‥!」  
 迫力のある少し低めの声が耳に届いたとたん、一気に攻めが強くなる。  
紅い唇がにぃっと歪んで俺を誘い、豊かすぎる乳房が俺のを呑み込む。  
自在に動く乳房の感触が、粘液に乗って俺を攻める。時々鼻から抜ける気だるい吐息に、  
俺の心が食べられてゆく――!  
「く、ぁ、あ‥‥っ!!」  
「んぁっ!」  
 ぐっと眼を閉じた瞬間、火花のようなものが見えた‥‥気がする。爆発的に堰が切れ、  
快感が精液と混じり合い、噴き出す。盛大に吹き上げたそれは勢い良くナイアさんの顔に当たった。  
頬や唇、髪にまでにびたびたと張り付き、薄紅色に染まった肌を白く彩る。よほどの濃さなのか  
ぷるぷると塊になって頬をゆっくりと滑り落ち、あごを伝って乳房にまで垂れる。  
それが白い糸を引いて落ちる一方で、追加が何度も打ち出され、次々に顔や胸に掛かってゆく。  
ナイアさんは避けようともせずに、飛び散る白濁液を悠然と受け止める。  
「んはぁん‥‥。いっぱい出たじゃない‥‥師匠の顔をこんなにして、悪い弟子ね‥‥」  
「ご‥‥ごめんなさい‥‥っ」  
 まだ体の内から衝き上げるような快感に、思わず声が詰まってしまう。顔や耳、  
首が焼けるように熱い。きっと真っ赤になっているんだろう。ナイアさんは俺の目を  
見つめたまま唇の端でわずかに笑い、顔を汚した粘液を指先で掬う。見せつけるように  
糸を引かせて丹念にぬぐい取り、それを胸元へ運び――塗りつけてゆく。  
「あっ‥‥ん‥‥。こんなにたっぷり‥‥」  
 特濃の精液をすり込むかのように、乳房に塗りたくる。はち切れそうに熟れた肉の果実は  
白く濁った液体で覆われ、嬉しそうにてらてらと光った‥‥。  
 
「はぁ‥‥んっ‥‥ほら、こんなに汚れちゃった‥‥。ね、ラート‥‥洗って‥‥」  
 吐息を漏らしながら胸を揉んで見せていたナイアさんは、そう言いながら  
さっきの桶へと手を伸ばした。両手でたっぷりすくうと、首をのけぞらせて胸元へシュマ液を  
流す――とろりと流れゆく液体に、肌はますます艶を増して輝く。ある程度肌になじませると、  
おもむろに俺の隣に仰向けで転がった。  
「ほら、洗ってよ。隅から隅まで、きれいにね」  
 みごとなおっぱいが、たゆんと揺れる。俺はまだ少し脱力気味の体を起こし、弾む胸元に  
手をやる。と、こびりついていたはずの白い液が、シュマ液に絡め取られるようにして  
脇へ流れた。でも‥‥洗うこと自体はたぶん問題とされてないんだろうな‥‥。  
膝で師匠の腰辺りを挟み込み、両手を使って胸を揉む。にゅるにゅるの触覚が妙に心地良い。  
乳首の上を揉むと、尖った感触が手のひらをつうっと滑る。揉み上げ、揉み込み、きれいに洗う。  
「は、ぁんっ、‥‥そう、っ‥‥」  
 嬉しそうな微笑が時にはのけぞり、可愛い吐息を漏らす。その唇があまりにきれいで、  
思わず重ねようとすると――  
 ずるんっ!  
「うわっ‥‥っと、ごめんなさい」  
 簀の子の上まで流れていたシュマ液に手が滑り、思わず倒れ込んでしまった。もう少しで  
頭がぶつかるところだ。  
「ふふっ、滑るから気をつけてね‥‥んん‥‥んっ」  
 微笑む唇をついばみ、舌を絡め合う。少し俺自身の味もしてしまうけど、そんなことは  
どうでも良かった。さっきまで俺の手が揉みまくっていたおっぱいは、俺の胸との間で  
むにっと形を変えている。よく知っている、それでいてたまらない感触。だけど、  
今日はひと味違う。ぬめぬめの粘液が二人の間の滑りを良くし、そのことでいつもでは  
味わえない感触になってる。‥‥そうだ、これを生かそう。  
 唇を離し、とろんとしながらも期待に満ちた視線を感じながら、少し体を浮かし、ずらす。  
膝でナイアさんの腰をしっかり挟んで――  
 にゅるんっ!  
「あんっ!」  
 ナイアさんの上半身の上を、俺の上半身が勢い良く滑った。おっぱいがぎゅっと押しつぶされ、  
俺の大して厚くもない胸板に反発する。  
「ナイアさん‥‥体全部で洗ってあげるよ」  
「えっ、ちょっと‥‥んあっ!」  
 
 首筋を舐め上げ、耳を噛む。もう一度上体を引いて胸を揉み、そしてまたその上を滑る。  
脇の下も、胸も、全部ぬめぬめになっている。それを俺の体が隙間なく洗ってゆく。  
指と指を絡み合わせてこすり、背中にも手を回して撫でる。唇を重ね合わせたまま腰を  
左右に振ると、胸やお腹が粘液とともにぐちゅぐちゅとぬめる。  
「ぁ、はぁんっ! は、あん、‥‥あぁん‥‥。あ、っく、こすれて‥‥」  
 チンポはガチガチのままナイアさんのあそこを摺り、裏筋が突起を刺激するたびに  
嫌らしい喘ぎが漏れる。何度も体をこすり合わせ、キスをし、抱き合う‥‥。  
「こっちも洗ってあげるからね」  
 シュマ液をたっぷりとすくって、何度も俺の体や脚に掛ける。そしてナイアさんの腰を、  
今度は後ろ向きに膝で挟んで‥‥さっきと同じ要領で体を滑らせる。鱗が粘液に包まれ、  
てらてらと光る。それを両腕で抱きしめて、粘液ごと全身で洗う。普段ならこんな勢いで  
こすり合えば痛いだろうけど、これなら全然問題ない‥‥いや、むしろ気持ちいい。  
「‥‥どう?」  
「あ、うっ‥‥あん、気持ち‥‥いいよ‥‥」  
 よかった。その返事に調子に乗り、ぬるぬると蛇の下半身を抱きしめながら  
先の方まで滑ってゆく。途中からは体を起こし、尻尾の方をたぐり寄せて粘液を塗り、  
洗い、舐める。徐々に細くなっていき、最後はすっと尖って終わる、ナイアさんの尻尾。  
その先を口に含んでくちゅくちゅとしごき、そしてまた逆方向へとさかのぼる。  
ナイアさんは顔だけを上げて俺を見つめ、時々大きく息をつく。視線を交わしながら蛇身を  
抱きしめ、鱗の隅々まで粘液が行き渡るように愛撫しつつ上半身へ向かってゆく。  
 蛇の下半身が太くなり、ようやく鱗が終わる辺り‥‥もう一度そこにたどり着いた。  
きれいな肉の花びらが息づき、何かを欲しがるように身をよじっている。  
「ナイアさん‥‥ドロドロになってるよ、ここ」  
「‥‥あんたが塗ったからでしょ‥‥あっ‥‥はぁっ‥‥!」  
 意味もなく強がるナイアさん。バレてるのになあ。徹底的に舐め、吸い、指でかき回し――  
腰を浮かせて涙声になりながらナイアさんが否定をやめるまで、ほとんど時間は掛からなかった。  
 
 * * *  
 
「あぁ、はぁ、はぁ、‥‥あはぅ‥‥! ‥‥っ、ラート‥‥お願い‥‥」  
 胸を大きく上下させながらとぎれとぎれに、  
「早く‥‥抱いてよ‥‥前戯じゃなくて‥‥!」  
 半開きの唇にそっと挨拶をして、臨戦態勢のままお預けをくらっていたそれを  
ナイアさんの大切なところにあてがい――ぬめる体を抱きしめながら、衝動のままに貫いた。  
 
「あ、あ、あぁぁあっ!! そ、そこ、えぐれて、すご‥‥い‥‥っ!! あっはぁあっ!  
もっと、――っくぅう!!!」  
 ‥‥ナイアさんの感じ方は普通じゃなかった。絶叫に次ぐ絶叫――普段から喘ぎ声は  
大きいけれど、それどころじゃない。出せる限りの声量で快楽を表現し、のたうち、絡みつく。  
煮崩れたようにぐちょぐちょのあそこは、俺にすがりつきながら震えっぱなしだ。  
「ぁぁあああああぁあっ!! はぁっ、あっ――っくぁぁあああぁぁあっ‥‥!!」  
「はっ、っく、ぁ‥‥すご‥‥。ナイアさ、ん‥‥もうちょっと、静かに‥‥っ」  
「そ、そんな、の、むり、ぃ‥‥っ、っくぅううっ!!  
ら‥‥らー、と‥‥っ!! んああぁああっ!!!」  
 目に涙さえ浮かべ、顔を左右に振ったかと思うとまたしても絶叫。粘液まみれの手が  
俺の腰に絡みつき、二人の腰がぴったりとくっつく。この密着度が最高だ。  
ぎゅっと抱きしめかえすと淫らな乳房が吸い付くようにまとわりつくし、そして何よりも――  
「っ、ナイアさん‥‥すごいよ、思いっきり巻き付いて‥‥そんなに気持ちいい?」  
 そう。ラミア特有の半身が俺の太股から下にからみつき、強く巻き付いている。普段なら  
大けが必至だ。実際、感じすぎたナイアさんに締め上げられて丸一日ベッドから  
動けなかったことも前にある。でも、今日はそれも解禁だ。シュマ液のおかげで、  
思い切り締められてもにゅるっと滑るからね。  
 
 たまらない密着感――ナイアさんの本気の抱擁だ。しがみつく爪が背中に食い込み、  
太い蛇体は俺の脚を抱きしめながらもうねうねと動く。そのたびに太股や膝裏、ふくらはぎに  
鱗がこすれる。内ももをぬるぬると摺りあげたり、両足をまとめて締め付けたり‥‥  
シュマ液独特のねばりやぬめりと相まって、その感触は脚への愛撫だ。  
同時に、それはナイアさんへの愛撫でもあるらしい。膝やかかとでくりくりと押すと、  
それだけで反応が跳ね上がる。熱い抱擁と愛撫、とろけきった美貌、それに途切れることのない  
よがり声。にちゃにちゃという音も交えて、ますます激しく愛し合う。  
 ――がたんっ。  
 唐突に何かの音が響いた。視線を音の方へずらすと桶が倒れている。暴れる尻尾が  
当たったんだろう、中に入っていたシュマ液の残りがこぼれていた。  
かなりの量を使ったとはいえ、ちょっともったいないな‥‥。行儀の悪い尻尾を片手で捕まえて、  
「あーあ、まだ残ってたのに。ナイアさんがこぼしたんだから‥‥お仕置きだよ」  
「え‥‥あ、っや、やめっ、そん――なっ‥‥ひぃいっ、っく、かはっ‥‥ぁっ!!」  
 先を軽く咥えて、ナイアさんに見せつけながら尻尾をしごく。細かい鱗を指の腹や爪先で  
感じながら、しごきあげ、噛み、舐める。本来ならちょっとした隠し味程度の愛撫にしか  
ならないんだけど‥‥燃え上がりすぎてるせいか、それとも状況のせいか、その反応は物凄い。  
煮詰まった芯がきゅうきゅうと締め付け、熱いおつゆが泉のようにあふれ出す。  
「ひっ、は、――っ、あ、あ、ぁぁあっはぅっ‥‥!! あ、あぁ、ゆ、ゆる、して‥‥!」  
「だーめ」  
 こりっ!  
「あぁぁああああああっ!!! ぃ‥‥っく‥‥っぁああああぁああっ‥‥!!!」  
 尻尾を噛みながら両乳首をくいっとつまみ上げ――その刹那、背中を弓なりに反らして  
ナイアさんは一気に達した。  
 叫び続ける唇を塞ぎ、俺の猛攻が始まる。締め上げる蛇身を感じながら、  
腰の動きで奥を突く。不規則に震える肉襞を掻き分けながら、ぬるぬるになった体で  
絡み合いながら。眉根を寄せて絶叫し続け、全身で快楽を味わい、表現するナイアさん。  
余裕を装うこともせず、両手と下半身で俺を全力で抱きしめる。それに応えて俺の腰も暴れる。  
技なんかない。強弱や速度に変化も付けず、がむしゃらにナイアさんを貪る。  
快感は股間からだけじゃない。全身から湧き上がってくる。ぬめり、すべる肌の感触、  
鱗の感触。悶え狂いながらも俺の口づけを求めるいやらしい唇、舌。胸板を撫で、  
尖った乳首で責め立てる乳房。何もかもが気持ちよく、何もかもが愛おしい。  
「あ、あ゙、ひぅっ――くああぁぁ‥‥!! ああっ、はぁああぁぁぁあんっ!!!!」  
 脳裏に閃光が走った。視界が揺れ、五感が震えた。渾身の絶叫を頭の芯で聞きながら――。  
 
*  
 
 ナイアさんの体に倒れ込み、しがみついたまま‥‥どれだけの時が経ったのか、  
きっと二人とも分かってなかったと思う。どうにか呼吸が落ち着き、顔を上げて‥‥  
偶然なんだろうか、ほぼ同時にナイアさんも目を開けた。――眼が、合う。とろけきった、  
それでいて澄んだ瞳。  
「ラート‥‥」  
 ぎゅうっと抱きしめあい、また、口づけ。全身の抱擁が解けるまで、  
さらに時間が掛かったのは言うまでもない。  
 
 * * * * *  
 
 さわやかな夕風が吹いた。そういえば露天風呂だったんだっけ‥‥。絡み合う二人には  
そんなことはどうでもよくて、はっきり言って忘れてた。風呂に漬かってシュマ液のぬめりを  
流しながら空を見ると、もう星がかすかに輝き始めてる。  
「星‥‥出てるね」  
「しょっちゅう見てるじゃない」  
 ま、そうなんだけど。天体観測は魔導の基礎だからね。でも――  
「‥‥研究とか別にして、星を見るのって‥‥久しぶりね」  
 なんだ、ナイアさんも同じか。  
「‥‥きれいね、こうして見ると‥‥。ん‥‥。お風呂はあったかいし、  
弟子は気持ちよくしてくれるし、星はきれいだし‥‥さいこー‥‥」  
 
 背中を風呂の縁に預けて、大きく伸びをするナイアさん。  
おっぱいがゆさっと揺れる‥‥どうしてもそれに目を取られるあたり、  
俺はやっぱりすけべだと思う。そんな俺にちらっと視線を向け、  
「こら。そこで『君の方がもっときれいだよ』とか何とか言いなさいよ」  
「はい!? ‥‥えー、あー、き、君の方がもっときりゅ」  
「ぷっ。そこで舌を噛まないの」  
 楽しそうに笑う。うー、そういうふうに格好を付けるのは無理だよ、俺‥‥。  
 
 空を見ていると夕焼けはどんどん暗くなり、群青色の部分が多くなってくる。  
地平線に沈んだ太陽が赤い光りを少し投げかけていたけれど、それもずいぶん弱くなってきた。  
もう夜か。修行が終わってからずっと、してたのか。――って、修行‥‥そうだ、あれって  
何だったんだ。  
「あの‥‥師匠。これって‥‥修行しに来た、んですよね?」  
「んもぉ‥‥。裸の時に『師匠』とか言わないの。  
――で、修行がどうしたって? ああ、意味ね‥‥知りたい?」  
 そりゃ、知りたいです。泉に入ってキスするだけなんて――  
「ふふっ、気付いてるかと思ったのに‥‥。  
言ったように、あそこは精霊力が物凄い密度に集ってるところなのよ。それは感じたでしょ?」  
「はい‥‥。何か光みたいなのが見えた気がします」  
 ぱしゃっ、と音を響かせて、ナイアさんが自分の肩にお湯を掛ける。  
すべすべの肌が濡れ、光る。  
「言わなくても精神統一もできたみたいだし、なかなか上出来じゃない。  
――細かいことはもっと勉強して修行してもらわないと教えられないんだけど、  
精霊力をたっぷり体に取り込むと魔力とかと融合するのよ。で、それを肌や心を通じて  
交換しあうと、お互い御利益があるってわけ。‥‥言っとくけど、これは秘密よ。  
あたしの最新理論が成し遂げた研究成果なんだから」  
 師匠らしくもないわけの分からない説明。なんだか何かをわざと隠してるような、  
そんな言い方だ。俺の顔が疑問符で埋め尽くされてるのを見てくすっと笑うと、  
ナイアさんは唇を耳元に寄せ、  
「‥‥精力、強くなったと思わないの? あたしも‥‥すっごく気持ちよかったよ‥‥」  
「そ、それが目的っ!?」  
「そーよ。だ・か・ら、もう一回ぐらい‥‥できるでしょ? ‥‥ふふ‥‥」  
 いたずらっぽい笑みが一瞬で色気たっぷりの顔になり‥‥絶え間ないキスの後、  
いやというほど絡み合ったのは言うまでもない。  
 
 * * * * *  
 
 名所巡りみたいなこともしながら、約一週間の楽しい修行を終えてビルサに戻った。  
最初の予定だとせいぜい二、三日程度しか店を空けないはずだったのに、  
気がつけば予定を越えていたんだけど‥‥もちろん詳しいことは誰にも秘密だ。  
なんたって秘儀の伝授だったんだから。まあ、秘儀だから教えられないというより、  
内容が内容だから、と言った方が正確だけどさ。  
「臨時休業のお知らせ」と書いて入り口に張り紙をして出たんだけど、帰ってくると  
そこには見知った字が「もっと計画的に休んでくれ!」と叫んでいた。出入りの問屋だな、  
あの字は。  
 
 旅行気分にいつまでも浸っていられるわけもなく、帰った翌朝からはいつもの生活だ。  
早くに起きて、店番をして、ご飯を作って。――晩飯の後、がしゃがしゃと皿を片付けながら、  
突然思い出した。  
「あの‥‥師匠?」  
「んー?」  
「ルメクで使ってた、あのシュマ液っていうやつ‥‥あれって何だったんですか?」  
「ふふっ、何よ、片付けながらそんなこと思い出してたの? すけべなんだから‥‥」  
 振り返るとにやにや笑う師匠と目が合った。うっ‥‥否定できない。  
しどろもどろになっていると、  
「――あたし達はああいう使い方をしたけど‥‥本来は体を洗ったり、  
洗い物をしたりするときに使うのよ。布にしみこませて体をこすったりね」  
「洗い物‥‥」  
 そうか、それで俺の出した白いやつとかもあっという間に流れていったのか。  
そんな便利なものが‥‥。服や皿の汚れもきっと簡単に‥‥いいなあ、欲しい。  
「でも高いよ、あれは。‥‥あたしも欲しいなあ‥‥」  
 流し目でつぶやく師匠は、どう考えても本来以外の用途で欲しがっているようだけど‥‥  
後で貯金を確認しておこう。手の届く値段でありますように。  
 
 
(終)  
 

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