「♪俺は〜さすらいの〜」 
 
人間と異種族の移民が暮らす街、スターフィールドに一人の流れ者がやってきた。 
彼の身なりはいかにも丈夫そうな服に銃と刃渡り1メートル程の刀を持ち、その表情は自信に満ち 
溢れたような、世界をわが庭としている、という表現を顔で表しているという表現がふさわしい。 
年齢は30歳くらいに見える。変な歌を歌いながら歩いている。 
 
「…ほぅ、ここは珍しい街だなぁ。」 
 
男が街に入ると異種族が人間と当たり前のように共存している様子が目に飛び込んできた。 
男は雰囲気から事情を察し、止めていた足を再び動かし、歩き出し始めた。 
 
やがて街のカフェを見つけた男は店に入り、カフェのカウンターに座ってコーヒーを注文した。 
 
「………。」 
 
周囲を見渡した男は特に気になるものも見つからなかったようで、出されたコーヒーを飲んで 
黙っていた。 
すると、一人の女が店に入ってきて男の横に座った。 
 
「ん…?」 
 
女は見慣れない男を気にした。女は見たところ18歳くらいで、長い金髪に尖った耳を持ち、若干小柄な 
風貌をしていた。服装と外見から、男は彼女がエルフ族だとすぐに分かった。 
 
「見慣れない人ね。どなた?」 
 
「俺に聞いてんのかい?俺は、ロバート。ダイヤモンドコーストのロバートだ。」 
 
ダイヤモンドコーストとはほとんど知る人もいない小さな港町のことである。 
 
「ロバート…ふぅん。私はルーシー。見ての通り、エルフの魔術師(見習い)よ。」 
 
”見習い”の部分は小さな声だったがロバートにはちゃんと聞こえていた。しかし彼は特に気に留めない。 
 
「それにしてもロバートって、どっかで聞いた名前なんだけどな…思い出せないな…」 
 
ルーシーは一人で考え込んで思い出そうとするが、ロバートはそれについては気にもしない。 
 
「お前さんは何やってんだい?」 
 
「私は仕事で近くの調査をしてるの。大学と市の共同調査プロジェクトでこの一帯を調査してるのよ。 
そのプロジェクトの一員としてね。」 
 
「ほーぅ。この辺は何か面白いことでもあんのかい?」 
 
「うーん、まだ調査を始めたばかりだから何とも言えないわ。ただ度々襲撃を受けて大変だけどね。」 
 
「襲撃?」 
 
「えぇ、そうよ。野生化したモンスターやモンスターの山賊団やら何やらね。」 
 
ルーシーは目を閉じ、ため息をつきながら言う。 
 
「…強ぇのかい?」 
 
「私達がそんなに強くないから苦労するわ。」 
 
「案内してくれるか?退屈しなくて済みそうだ。」 
 
「えぇっ?アナタが?ま、まぁアナタがそう言うなら…」 
 
「よし。店主、勘定。」 
 
そう言ってロバートは3クラウン(通貨単位)をカウンターに置いてルーシーと一緒に外に向かった。 
 
… 
 
「この辺りかい?」 
 
1時間ほど歩いて街の郊外に案内されると、ロバートは辺りを見渡した。 
 
「!おい、気をつけろ。既に囲まれてる。」 
 
「えぇっ!?どうしましょう…私とアナタ2人で勝負にならないわよ…」 
 
ルーシーは弱気がなったのも無理も無い。いつもは護衛の兵士やらが30人くらいの団体で行動している 
のに、今回はたった2人だからだ。 
 
「グヘヘッ、キサマら、俺様の今日のエサにしてくれるぜ…」 
 
岩陰からヌッと現れたモンスターたちは藪から棒に言い放った。 
 
「…何だ、雑魚か。」 
 
ロバートは呆れ果てて言った。 
 
「な、何だとテメェ!ブッ殺してやる!!」 
 
「おーおー、さっさとかかって来い。」 
 
いきり立つモンスターを尻目にロバートは相手にもしない様子を見せる。 
 
「グヘヘ…死ぬ前に名前だけは聞いてやる。キサマ、名前は何だぁ!」 
 
「ロバート・コンシナ…だ。冥土の土産に覚えていけ。」 
 
言い終わると同時にロバートは掌から閃光を放ち、瞬時にモンスターの一団は消滅した。 
 
「フン、この程度か。」 
 
「ロバート…思い出したわ、アナタ、”流れ星のロバート”ね?」 
 
「通り名を知っててくれてるたぁ光栄だね、嬢ちゃん。」 
 
「噂に聞いた事があったもの。プロのトレジャーハンター、用心棒、その他いろいろな仕事をこなす 
超一流のプロで、そんな流れ者がいるって聞いた事があるから。」 
 
「その通りだ。そして、今もあても無い旅を続けている。」 
 
… 
 
「どうして旅を続けているの?」 
 
二人は街に戻り、カフェで話を始めた。 
 
「人生とは何か、答えを見つけたくてな。」 
 
「この街で答えを探したらどう?いろんな人がいるし、丁度いいかも知れないわよ。」 
 
「まぁ…今はどっかに落ち着く考えは無いんでな。所詮は単なる根無し草だしな。」 
 
「何でお前さんはそこまで俺にこだわる?」 
 
「私は…」 
 
ルーシーは目をつぶって少しの間黙り、強い意志を持った目で語り始める。 
 
「強くなりたい。アナタみたいに。」 
 
「何でだ?単に強くなるだけならそこまでこだわらなくてもいいはずだが?」 
 
「私は昔、山奥の村にいたの。平和に静かに暮らしてたけど、その村が山賊団に襲われて… 
私は一命を取り留めたんだけど、他の、人たち…が…」 
 
言い終わらぬうちにルーシーは泣き始めた。しばらくしてルーシーは言った。 
 
「その時の山賊団だって、私にもっと力があればみんなを死なせずに済んだのに…」 
 
「そこまでお前が背負い込むこったぁねーだろ。お前の責任じゃねーんだ。」 
 
ロバートはルーシーの肩をポンと軽く叩き、ルーシーをなだめる。 
 
「そんなこんなでいろいろあって、この街に流れ着いたわけよ。ねぇ、お願い。私、アナタと一緒なら 
少しでももっと強くなれると思う。私もアナタと一緒についていっていいでしょ?」 
 
ルーシーの懇願をロバートは困った顔で見る。 
 
「理屈が通ってねぇ気もするが…それ以上に俺は自分のことで精一杯なんだ。俺はお前が思っている程 
強い人間じゃねぇ。お前を連れて行くと必ずお前に不幸をもたらす事になる。」 
 
「そんなこと無いわ!」 
 
「何故無いと言い切れる?」 
 
「じゃぁどうしてアナタも言い切れるの!?」 
 
「………。」 
 
「ほら、そうでしょ!」 
 
「…何年一緒に行動する気だ?」 
 
「え?…それは…」 
 
「人間はな…」 
 
ロバートはため息をついて続けた。 
 
「たかだか60年〜70年生きられりゃ上等ってとこだ。俺はもう30だ。あと30年くらいしか生きられねぇ。 
お前さんはエルフだからまだあと300年以上は生きられるだろう。分かるか?お前の一生のほんの一瞬 
みたいな時間だが、俺にとってはそれはすべてなんだよ。」 
 
「だったら、最期まで一緒に居てあげるから、お願い…」 
 
「分かっちゃねぇな。俺が死んだ後、お前は…何だ?その後のお前の一生において俺は何だってんだ? 
その後のお前さんの300年、俺はお前の何だってんだ?」 
 
「…ごめんなさい。私、自分勝手なことばかり…」 
 
「人間の脆さを恨むぜ、俺ぁよ。」 
 
そう言うとロバートは目を閉じ、奥歯を噛んだ。 
 
「だが、お前さんも変わり者だな。こんな流れ者にそこまで興味を持つたぁな。…分ぁーった。」 
 
そう言うとロバートは立ち上がり、ルーシーを連れて外に出た。 
 
「いいか、とりあえず短期集中でお前さんの力をある程度にまでは高めるようにしてやるよ。」 
 
「あ、ありがとう、ロバート…」 
 
「俺もお人好しだよな…」 
 
ロバートは独り言を呟くが、彼の心中にもさまざまな迷いがあった。 
 
… 
 
2週間後、ルーシーはかなりの力を身につけることができた。過酷な修行にルーシーは何度も音を 
上げそうになったが、そのたびに耐えて乗り越えた。 
 
「ありがとう、ロバート。」 
 
「そんだけ力量ありゃぁ一通りの事ぁできんだろう。後は適当にやっとけ。」 
 
「ねぇ、ロバート。ロバートの旅が終わったら…私、ロバートと一緒に暮らしてもいい?」 
 
唐突にルーシーはロバートに言う。修行を通じ、ルーシーはロバートに好意を寄せていた事を彼女は 
ロバートに告白した。ロバートも薄々気づいていたので驚きはしなかった。 
 
「…前にも言っただろ。たかだか30年くらいしか無ぇんだぜ?」 
 
「それでも、私、ロバートと一緒に居たいの!」 
 
「………。」 
 
「旅が終わったら、この街に戻ってきて、お願い!ねぇ、私、ロバートと一緒に…」 
 
ルーシーは言葉にもならない言葉で涙を流しながら訴える。ロバートは彼自身も安住を求めている事に 
気が付いていたのだが、彼はまだ未知の可能性を求めたく思う意志、いや、彼の人生の哲学の前にその 
感情を必死に押し殺す。しかし彼は自分の意思に反し、ルーシーに言った。 
 
「…旅が終わったら、な…」 
 
言った自分で”俺がこんな事を言うとは”、とロバートは少し驚いてしまった。 
 
「私、待ってるから…」 
 
ロバートはこの街に来てから確実に自分の人生の在り方について考えが変わったと自覚していた。 
しかし、ロバートは人生の目的を見つけたのかもしれないと思ったが、さらに納得のいく答えを求め 
旅に出る事を決意し、街を出た。 
 
「スターフィールド、か…。答えが見つからないまま年くっちまったらダイヤモンドコーストに戻って 
のんびりしようかと考えてたが、あの街が俺の探す答えに近いのかもな。また、戻るか…近いうちに。」 
 
彼は今までに無かった感情があったことを自問自答で確かめ、彼はあても無く再び流れていった。

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