「もう限界だわ!!」 
 
森の中から声が聞こえてきた。声の主は若いエルフだ。 
 
「どうして人間たちは私たちを目の敵にしようとするの!?」 
 
もう一方から声が聞こえた。こっちの声の主はドライアード(木の精霊)だ。 
 
この世界は人間が剣や銃で戦いが幾度も繰り返されている。彼女たち異種族は”人間に対し有害と 
なり得る”という理由のみで掃討対象となっていた。力の強い者たちは対抗するが、力なき者たちは 
一方的に抹殺されるのであった。ただ抹殺されるだけではない。異種族の掃討と銘打っておきながら 
異種族の女を強姦したりしている。単なる自己満足の虐殺に過ぎなかった。 
 
一方、ここラクスターの街ではそんな理由で兵隊が駐留し、常に街に兵士がいる。街の住人たちは 
息苦しかった。兵士たちは気が荒く、住民たちにとっても歓迎される存在ではなかった。 
 
住民たちは意外にもモンスターたちをそんなに敵視していない。何故なら、この街でモンスターに 
襲撃されたという話はほとんど無く、それゆえ畏怖の念というものも無いからである。 
 
ある日の事、街の工場作業員サイモンの息子アルフレッドが森で行方不明になった。サイモンは息子が 
帰って来ないことを心配し、街の外に探しにでかけた。森の方へ向かい10分ほど歩いていくと微かに 
誰かの話し声が聞こえてきた。サイモンは声の方向へ向かって急ぐと、アルフレッドが誰かと話を 
しているのを見かけた。相手はエルフの少女だった。サイモンは珍しい光景を目の当たりにし、しかし 
そのまま放っておくわけにもいかないのでとりあえず声をかけてみた。 
 
「アル!こんな所にいたのか!」 
 
サイモンの声にビクッ!としてエルフたちは慌てふためく。サイモンは場を落ち着かせる為に続けた。 
 
「あぁ、心配するな。私は君たちに危害を加えない。」 
 
本当?という怪訝な表情をエルフの少女が見せる。しかしアルフレッドが説得した。 
 
「大丈夫だよ。僕の父さんさ。」 
 
エルフの少女はおそるおそる話し掛けた。 
 
「は、はじめまして…私エレン。」 
 
サイモンは自分が怪しい者ではないという事を話し、エレンは自分たち異種族が人間たちに迫害されて 
いる現状を話した。 
 
「…なるほど、それで警戒してたのか。確かに他所の国じゃモンスターが人間を襲うって話は聞くが 
この近辺ではそういう話は無いものな。まぁ私たちに警戒感が無いのはそのせいだけどね。」 
 
「でも、人間たちは…!」 
 
「あれか。つい半年ほど前だったかな。国王の勅令でモンスターを討伐せよ、という通達が出されてね、 
軍隊がそこらじゅうを荒らしまわり始めた。何故突然そんな通達を出したかは私たちの知る由ではない 
が、ともかく現状は私や君が知る通りだ。」 
 
サイモンは少し黙り、続けた。 
 
「実のところ、私たちは無理にそんな事をする方針には賛成していない。それ以上に兵士たちが街で 
我が物顔でウロついているのが迷惑この上ないのもあるんだがね。」 
 
「私たち、本当は人間と仲良くしていきたいって思ってたのに…」 
 
「私は国の方針からすれば異端なのかもしれんが、思うところは君たちと同じさ。」 
 
エレンが話を続けようとすると、向こうから別のエルフたちが現れた。 
 
「あっ!人間っ!」 
 
「エレン、危険よ!こっち来なさい!」 
 
「待って、話を聞いてよ!」 
 
エレンはアルフレッドと手をつなぎ、他のエルフたちを説得した。他のエルフたちはその様子を見て 
驚いたが、説得を受けて落ち着くこととなった。そしてアルフレッドがサイモンを呼んできて 
総勢8名が即席会議で話し合いを始めた。 
 
「………事情はよく分かりました。人間云々は別にして、少なくともあなた方は私たちに敵意が無い 
ということは理解しました。」 
 
「知らなかったわ、近くの人間たちがそんなに私たちに対してどうとも思ってなかったなんて。」 
 
「軍隊、ね…」 
 
その場にいた8人は少し黙り込んだ。軍隊、国、という自分たち一個人の力ではどうする事もできない 
相手に解決策など思いつくはずがなかったからだ。 
 
「…まてよ、…うん、そう言えば…」 
 
サイモンは独り言を言い始めた。 
 
「父さん、どうしたの?」 
 
「あぁ、うん。この前な、新大陸の話を聞いたんだ。開拓移民とか何とかの話もあってな。 
街の住人たちも今の国には嫌気さしてるから移民団に参加するかもしれないだろう。もっとも、 
掃討作戦で今の街は立ち退きが決まってるから強制かもな。」 
 
「で、それが何?」 
 
「私たちの街の住人たちはモンスターに対して敵対感は特に無い。」 
 
「もしかして、それって…」 
 
「国を出て新しい土地で生活もいいかな、とは考えていたが…あなた方、異種族との共存を掲げる街 
など、前代未聞かもしれないな。私は大いに結構だと思う。街の住人たちには聞いてみるが、多分 
私と同じ意見だろう。あんな国では先が知れているからな。」 
 
「私たちも、今のままじゃ命が狙われる危険に怯えながら生きていかなきゃいけないなんて嫌だしね…」 
 
「私たちも聞いて回ってみましょうか?」 
 
「………。」 
 
「どうしたの、父さん。」 
 
「アルよ…ふと思いつきで言い出した事だがな、これは何かとんでもない大事じゃなかったか?」 
 
「かも…。でも、面白そうだよ。ねっ、エレン。」 
 
「そうかも…今よりはずっといいかも。アルフレッドだって一緒にいてくれれば…」 
 
その日の夜、街では酒場で話が盛り上がっていた。 
 
「やぁ。」 
 
サイモンが酒場に入り、右手を挙げて挨拶した。 
 
「サイモン、せがれは見つかったんだな?」 
 
「あぁ。…っと、それより、話があるんだが…」 
 
「何だ水くせぇ、何でも言ってみろよ。」 
 
「ここじゃ、な…」 
 
サイモンは兵士の方を目配せしてから、自分の胸元に親指を向けた。 
 
「…わーった。おーい、勘定頼むわ。」 
 
サイモンは何名かを呼び出して自宅に連れて行った。自宅に着いて鍵をかけ、窓を閉めた。 
 
「ここまでやるってなぁ何かよっぽど大事な話らしいなぁ。お前さんらしくないってーか…」 
 
「兵士どもに聞かれたくねぇってこったぁな?」 
 
「そうだ。君らならこの話を理解してくれると思ってね。」 
 
「かぁーっ!!さすがだねサイモン。俺らの事をそこまで…」 
 
サイモンは普段以上に、いや、これまで見せた事の無い真剣な表情をした。その表情を見た町人たちは 
黙り、表情を引き締めた。 
 
「…本題に入ってくれや。」 
 
サイモンは移民の話を持ち出した。 
 
「俺も行こうかと思ってたんだが、お前さん、その程度じゃここまで真剣な顔はしねーよなぁ?」 
 
「あぁ。重要なのはここからだ。」 
 
サイモンは昼にあった出来事を丁寧に説明し、理解を求めた。 
 
「………なーんだぁ、そんな事か。」 
 
途端に町人たちの表情が緩み、一人がサイモンの肩を叩いた。 
 
「そんな、って問題無いのか?」 
 
「俺たちぁ何もねぇぜ。街の他の者に聞いたって多分理解は得られるだろう。向こうだって俺たちに 
危害を加える事は無いって断言してんだろ?」 
 
「じゃぁ…」 
 
サイモンはホッとした。 
 
「あぁ。だが問題は軍隊、国だな。」 
 
「鬱陶しい連中だな。」 
 
「俺たちの移民は掃討作戦で街全体を焦土にするとかわけ分からん事言い出してやがったから国の公認 
で行けるし、もっとも、移住先がどんだけ過酷な土地かは分からんが…体のいい、島流しかな。 
だが、こうなってきたら話は面白くなってきたなぁおい?」 
 
町人たちはすぐに地下で連絡を取り、賛成多数で了承した。移民団結成にこっそり参加させる事に 
決定した。 
 
一方、モンスターたちも人間たちの考えを理解し、地下での連絡結果を受け取り、決意を固めた。 
 
移民団出発当日 
 
船には多くの人が乗っていた。貨物倉庫の中は軍隊も一度チェックした後はノーチェックだったので 
モンスターたちは移民団たちの手引きを受け、こっそり紛れ込んだ。国外脱出は成功である。 
 
「出航するぞー!」 
 
6日後、移民団は新天地に到着した。新天地は平原と近くに森があるところであった。しかしそれ以外 
には何も無く、文字通り一からの出発であった。 
 
「ほんとに、こりゃ体のいい島流しかもしれんな…厄介払いの上、島流しだとは揶揄されていたが 
これほどまでとは…」 
 
「しかし、我々は歴史に無い試みを始めることができる。」 
 
「そうですね。人間の皆さん、よろしく。」 
 
「こちらこそ、よろしく。」 
 
移民団は新天地に立ち、人間と異種族の共存という前代未聞の試みを開始する決意を互いに握手しあう 
ことで固めることとなった。 
 
木を切り、家を建て、道路を作り、野良仕事が続くが充実した感があった。また、この街は国王による 
統治ではなく、市民の代表に市長を決めて、法律による統治を行うと取り決めがなされた。 
憲法が決められ、各種族ごとに適用される準憲法が決められ、確実に人間と異種族との共存が図られる 
様子を見せていった。 
 
2ヶ月が経った頃、街はある程度完成しつつあった。人間が約500人、異種族が約200人(?)、計700人 
ほどの小さな街である。 
 
「市民の代表者を決めないといけませんな。」 
 
「街の方針を舵取りする重要な仕事ですが…こういった制度は初めて目にする事になりますよね。」 
 
こういった話が出始めた。そろそろ市長を決めなければならなくなったのである。 
市民選挙を行った結果、エルフの女性であるスフィアが市長に選ばれることとなった。 
 
「えーっと、私で大丈夫なんでしょうか?とりあえず、まだこの街は開拓中ですので、皆さん協力して 
人間もエルフも多種族も争うことなく共存し、街を発展させていきましょう。私も頑張ります。」 
 
演説は拍手で賛同された。人間の側としても人間ではなく知識・見識豊富なエルフに委任したと 
いうのは意外かと思ったが異論は特に無く、早くもここに共存と統合が見られ始めていた。 
 
そして1年後、街はある程度出来上がってきた。 
街では人間と異種族が極めて何の隔たりも無く生活している。時折、人間と異種族との間で恋愛なども 
見られるほどであった。街はこれからも発展を続けていく。 
街の名前は、移民団の代表者の名前を取って、「スターフィールド」と名付けられた。 
 
プロローグ 終

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