新たな街が完成しつつあり、人々の生活も軌道に乗り始めていた。 
そんな頃、街では人間と異種族の間で交流が進み、恋愛も見られるほどとなった。 
今回はそんな話の一つを紹介する。 
 
街で食堂の調理師手伝いをする少年エリックは今日も仕事が終わり、市場に向かっていた。 
エリックは街で一人暮らしをしている。18歳の若者で、若者らしい元気さが顔からあふれている。 
 
「今日はこれとこれ、ください。」 
 
「はい毎度!」 
 
市場で夕食の材料を買い込んで街を歩いていると道端に顔色の悪そうな女の子を見かけた。 
エリックは心配になり、駆け寄って話し掛けた。 
 
「どうしたの?気分が悪そうだけど?」 
 
女の子は見たところ17歳くらいといった感じで、それならエリックより1つ年下という事になる。 
口に牙が見える。それを見てエリックは彼女がヴァンパイアではないかと思った。顔色が悪く 
真っ青だが、顔立ちはかわいらしく美人だ。セミロングの髪をしたヴァンパイアは珍しい印象を 
受ける。やはり眼は緋い。が、怖さを伴った雰囲気ではない。むしろ温和な目つきであった。 
 
「あ…うぅ…」 
 
「?…君、ヴァンパイアかい?」 
 
「うん…あぁ…血が…おねがい…」 
 
ヴァンパイアの女の子はエリックに抱きかかった。 
 
「うわっ?ちょ…やめうわ」 
 
エリックが制止するのも聞かず女の子は我慢ができなかった為か、エリックの首筋に噛み付いた。 
 
「ひゃっ!?…っ…ぁ…っ?」 
 
エリックは血を吸われていた。実感としてすぐに分かったのだ。生命力が肩の噛まれているところから 
吸い取られて抜けていく感覚があったからだ。 
 
「あっ…やめ…っ…て…ぅ…」 
 
エリックは当初振りほどこうとしていたのだが血を吸われた為に力が抜け、女の子に抱きかかえられ 
だらしなく両手をだらんと降ろし、女の子にもたれかかる形になってしまった。 
 
「むぐ、むぐ…ほういいはは?(もういいかな?)ぷはっ。」 
 
女の子はエリックが死なない程度に留め、かつ自分が必要な分を吸うとエリックの肩から口を離し、 
フラッと倒れそうになるエリックを抱きかかえ支えた。 
 
「ほんとにごめんなさい!もう死にそうでどうしても仕方が…」 
 
血を吸い終わったクレアは元気になり、本来の性格を見せ始めた。素直で明るい印象がある。 
 
「ちょ…もうちょっとで三途の川を渡り切るところだったよ…ターンして戻ってこれてよかった…」 
 
「ほんとにごめんなさい。許して…」 
 
「ちょっと、とりあえずどうしてこんな事したのか事情くらいは聞かせてよ…」 
 
ヴァンパイアの少女は事情を話し始めた。彼女の名前はクレアだと言った。彼女は移民団と共に 
やってきたが、その理由は掃討隊により両親を失った為であったと言った。 
 
「でも、アタシは人間みんなを憎んでるわけじゃないんだけどね。」 
 
そして移民と共にやって来たはいいが生活の術を得られず文字通り路頭に迷っていたところ、エリック 
が声をかけてきて生命の危険を感じていたほどに限界で我慢できずに、という具合だったそうだ。 
 
「ほんとにごめんなさい。やっぱり悪い事してしまったんだから、保安官の所に行きますから…」 
 
彼女は申し訳なさそうな顔と寂しそうな顔を併わせたような表情でエリックに謝った。 
 
「事情は大体分かったよ。君を警察に訴えないでおくよ。君は、苦労したんだね…」 
 
エリックは今仕事をしているが、彼も両親を病気で失い、移民団と共にやってきて何とか仕事に 
ありつく事ができ、辛うじて生活しているという状態でクレアの事が人ごととは思えなかった。 
そういう事情をエリックはクレアに話した。 
 
「あなたも苦労したんだね…」 
 
「エリック。エリックって呼んで。」 
 
「分かったわ、エリック。アタシもクレアって呼んで。」 
 
「OK、クレア。とりあえず…これから家に帰るから…もしよかったら一緒に来ない?」 
 
「いいの?あ、さっきアタシが血吸っちゃったんだっけ。まだ体調悪くない?責任持って看病しないと…」 
 
「もう何とか大丈夫だけど。」 
 
「よかった…じゃ、じゃぁ…いいかな?」 
 
二人はエリックの自宅に着いた。エリックの家は街の中心部から少し離れた小さなアパートで、 
正直、ボロい。4軒連なっているがエリック以外はまだ他に住人は住んでいない。 
板切れの表札に「Eric Raswel(エリック・ラズウェル)」と彫られてあり、インクで書かれていた。 
 
「よいしょ…っと。まずはご飯にしよっか…クレアは普通の料理は食べられるの?」 
 
「うん、血じゃないと摂れない栄養分もあるけど、それ以外は普通の食事からも摂れるよ。」 
 
「そっか。じゃ早速作るね。」 
 
エリックは流石に料理人補助というだけあってか、料理は上手で早かった。 
 
「はい、お待たせ。」 
 
「ありがとう…アタシ、今までこんな風に人にやさしくしてもらった事無かったっけ…」 
 
ふとクレアは目頭が熱くなる。エリックはクレアの肩をやさしく撫でた。 
 
「でもエリック、アタシにここまでやさしくしてくれて、ほんとにありがとうね…」 
 
「…君だったから」 
 
エリックは顔を赤くして照れて、目を逸らしながら言った。 
 
「えっ…?」 
 
「君だってやさしいとこあるよ。それに、すっごくかわいいし、何て言ったらいいんだろ…その、 
君に初めて会った時に何か運命的なものを感じちゃって…」 
 
「エリック…」 
 
「クレア、もしよかったら、その…僕と一緒に暮らさないかい?」 
 
「エリック、それってもしかして…アタシが好き、って事?」 
 
「君に惚れたよ。僕じゃ、だめかな?」 
 
「ううん、アタシこそエリックにひどい事しちゃって、でもエリックやさしくて、アタシ、初めて 
人のあたたかさを教えてもらったわ。アタシがエリックを好きって言う権利があるかどうか 
分からないけど、アタシもエリックが好き。」 
 
「クレア…」 
 
「エリック、ありがとう。これからもよろしくね。」 
 
翌日… 
 
エリックは今日は仕事が休みだった。エリックはクレアと街の市場に買い物に出ていた。 
 
「よぉエリックよぉ、今日はデートかい?」 
 
市場の行きつけの店の店主が声をかけてきた。店主は50代の朗らかな男だ。 
 
「うん。」 
 
「初めまして、クレアっていいます。」 
 
「ほぉー、ヴァンパイアの嬢ちゃんかぃ?エリック、かわいい彼女見つけたねぇー。」 
 
エリックは少し照れた。 
 
「ちょいと待ちない、ほれっ、こいつぉ持ってきな。ささやかなお祝いじゃい。」 
 
店主はパンを2つエリックに渡した。 
 
「ありがとう、おっちゃん。」 
 
市場を歩いていて、クレアがエリックに言いだした。 
 
「何か、やっぱり恋人同士に見えちゃうんだね…」 
 
「うーん、でも、悪くはないね、こういうのも。」 
 
「ほんとに恋人同士だもんねっ!」 
 
クレアはエリックと腕を組んで肩に寄り添った。 
 
「ちょ、ちょっと…これは人前じゃ恥ずかしいよ…」 
 
「でも、悪くは無いでしょ?」 
 
「まぁ、ね…」 
 
エリックは顔を赤くして答えた。 
 
「クレア、その…あれだ、血が足りない時は言ってくれたらいいから、ね。 
他の人を襲ったりしちゃだめだよ。」 
 
「はいっ!」 
 
エリックは幸せそうな表情を見せていた。クレアはエリック以上に幸せそうな表情を見せていた。 

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