「すっかり遅くなったな」  
宏は帰り道を急いでいた。もう、すっかり春めいているのだが海沿いのこの村は夜が  
早い。夕刻の今でも、辺りには人影が無くひっそりとしている。ここは漁で生計が成り  
立っている村なので、朝と夜が早いのである。故に、中学校で野球部に入っている宏  
は少し帰りが遅くなると、寂しい海沿いの小道を歩くことになる。あいにく、同じ方向へ  
共に帰る友人が無いので、いつも一人きりだった。  
 
「ずいぶん凪いでるな」  
港に泊めてある漁船は、ぴくりとも動いていなかった。潮風も無い。しかも、ずいぶんと  
潮が引いているようだった。宏も漁村の子である。こんな事は珍しいと、奇怪に思った。  
と、その時──  
「おや?」  
薄暗くなった海岸沿いの小道を、不意に白い影が横切った。夜が早いこの村で、今の  
時間から海へ行く人間などはいないはず。海が荒れていれば、船の心配をして港を見  
に来る者もいるが、今日はまれに見る平穏ぶりである。宏は身を硬くして、その白い影  
を追った。  
 
「密猟者かな・・・こいつは、ほっとけないぞ・・・」  
ウニが採れるこの漁村には、不埒な輩が時折それを狙ってやってくる。宏の顔に緊張  
の色が浮かんだ。携帯電話などは持っていないので、宏は密猟者かどうかの判断が  
ついたら、その足で漁協へ駆け込むつもりだった。野球部で鍛えた足だ。走る事には自  
信がある。万が一にも、密猟者ごときに捕まるおそれはなかった。俺だって漁村の子、  
海を守る義務があると、宏は己を奮い立たせて白い影を追うのであった。  
 
「洞穴へ入っていく・・・密猟者じゃないのか?」  
白い影は海──正確には、海沿いをひたひたと歩いていった。そうして、岸壁に波が  
穿った大きな洞穴へ消えていったのである。その行動からして、密猟者ではないよう  
だが、怪しい者である事には間違いない。宏は自分も洞穴へ近づき、その正体を暴こ  
うと決めた。というか、知りたくなったのである。この時間に、ここへ来る人間の目的を。  
 
「くそっ!ずいぶん、浜を歩きなれてるな・・・あっという間に見失った」  
洞穴はずいぶん深く、潮が引いている今はどこまでも奥に続いてるように見える。白い  
影はその中を、明かりも無しにすたすたと歩いて行った。浜っ子を自認する宏でさえ、  
気をつけていなければ、転んでしまいそうだというのに。こうなると、影の正体は村の人  
間である可能性が高い。よそ者ではとてもじゃないが、ああまで軽やかには歩けまい。  
しかし、そうと分かっても宏は戻らなかった。村人であれば、いかなる理由でここに来た  
のかを知りたかったからだ。  
 
「はあ・・・はあ・・・どこまで行ったんだろう。しかし、暗いな」  
ものの三十秒しか歩いていないのに、その間がまるで永遠のように長く感じる宏。闇は  
人の感覚を狂わせ、心を惑わせる。まして、宏はまだ中学生である。はっきりいって、こ  
の闇が恐ろしかった。そうして、いつしかあの白い影の元へ縋りつきたくなっていた。あ  
れは紛うことなく人である。それもおそらく、村人だ。村人ならば、誰一人知らぬ顔はない。  
宏はその心細さから、一刻でも早く白い影に追いつきたいと思っていた。それほど、この  
闇は濃い。そして、入り口から十五メートルも歩いたところで、急に穴の中が明るくなった。  
 
(あっ!)  
ぴたっと宏の体が硬直した。明かりの正体は焚き火だった。しかし、宏がその場に立ち  
尽くしたのは、それに驚いたからではない。煌々と焚かれた火の傍らに、素肌をさらした  
女とそれに絡みつく大きな蛸が居たからだった。  
 
(あ、あれは!漁協に勤めてる、川添さんちの美由紀さんだ!)  
宏の膝が震えている。白い影の正体は女だった。しかも、彼自身も良く知る顔なじみの  
人物だった。美由紀は今年三十歳になる人妻で、宏のことを幼い頃から可愛がってくれ  
た、姉貴分のような存在である。その美由紀が、大蛸に襲われている。いや、犯されてい  
るのだ。  
「ああ・・・いいわァ」  
美由紀は地べたに寝転がり、片足を高く上げている。そこへ、大蛸の足が何本も忍んで  
いた。美由紀が着ていたと思われる白い衣服は、まるで蛸が剥いだようにあちこちへ投げ  
出されている。宏の目から見れば、美由紀は蛸に犯されているという表現が、まさにぴった  
りと当てはまった。  
 
(何をしてるんだろう、美由紀さん・・・)  
焚き火の炎が揺れると、絡み合う女と蛸の影が同じように揺れる。浜風が洞穴を侵してい  
るのだ。それが時折、命を吹き込むように炎を燃え上がらせてくれると、艶かしい美由紀の  
裸体が宏の目に飛び込んできた。  
「ああッ!ひいッ・・・」  
美由紀は唇をきつく噛み、何かに耐えているような素振りを見せた。腰を浮かせ、いやいや  
と頭を振る。その仕草が、宏の目にはとてつもなく淫らな物に見えた。  
 
「ああ・・・狂いそうよ。あたし、どうなってしまうのかしら・・・」  
美由紀の体は大蛸の八本の触手で、がんじがらめとなっていた。ある触手は乳房をきつく  
絞り、またある触手は肉付きの良い腰を撫でさすっている。しかもそれは、まるでヒヒ親父が  
若い女を手篭めにするかのような動きで、人間の女を犯しなれているように見える。宏はそ  
の中でも、美由紀の股間部分を這いずり回る触手がもっとも気になっているらしく、目を皿  
のようにしてそこばかりを見つめていた。  
 
(す、すごいな・・・美由紀さん、気持ち良いんだな。あんなに蛸の足が濡れてる)  
吸盤が吸い付くのか、女穴を出入りする触手は何とも表現し難い肉音を放つ。ぬちゅッ・・・  
ぬちゅッと、濡らしたゴムを肌へこすりつけるような、淫猥極まる音色がリズム良く刻まれる  
のである。それと同じく、美由紀の体にもいやらしいビートが刻まれた。今や、女と大蛸は  
一心同体になったといってもいい。  
「ああ・・・こ、こっちもお願いよ」  
高ぶった美由紀が四つんばいになり、尻を高く上げた。すると、蛸はその桃尻を覆うように  
身を寄せた。そして、触手が美由紀の尻穴へも深々と埋められていく。  
「ひい───ッ!」  
がくん、と背をそらし、身悶える美由紀。見れば、触手は野太い根元まで菊門へ埋められ  
ていた。その太さを別の何かに例えると、ジュースのペットボトルが妥当と言えるだろうか。  
そんな逸物に尻穴を拡張され、美由紀は今際のような叫びを断続的に上げた。  
 
「ああッ!こ、壊れる!で、でも、いいわ・・・ああ、ジンジン来ちゃう・・・」  
美由紀は狂ったように頭を振り、女穴、尻穴それぞれに激しい責めを受けて泣いた。それも、  
歓喜ゆえの女泣きである。二つの穴を人外の者に犯され、嬉しい悲鳴を上げているのだ。  
しかし、彼女の欲望はこれにとどまらず、  
「たッ、叩いて!あたしのお尻を、叩いてちょうだい・・・思いっきりお願い・・・」  
そう言って、更なる辱めを求めて尻を振った。蛸は人語を解するのかそれに呼応し、空いてる  
触手を大きく振りかぶると、美由紀の桃尻めがけて振り下ろす。  
 
「あーッ!あーッ!」  
ぴしん、ぴしんと肉を打つ音が、洞穴の中に響き渡った。人が、女が蛸に辱められ、喜  
んでいる。その、人が人の尊厳を打ち捨てたような姿に、宏は驚くと共に怪しい気持ちに  
も包まれてしまう。艶めく三十路女が、蛸の触手で尻を打たれる姿は、あまりにも艶めし  
い物だったのだ。それは結果として、少年を性の目覚めへと導いてしまう。  
(ああ・・・チンポが硬くなって・・・い、いってる?俺、オナニーもしてないのに、いってる!)  
気がつけばズボンが濡れていた。宏は蛸に犯される美由紀を見て、激しく射精していた  
のである。これは彼にとって、初めての経験だった。  
 
「うふん・・・ふん・・」  
美由紀の声が低くこもりだした。大蛸の動きが、緩急をつけたものに変わっている。八本の  
触手はそれぞれが役目を担い、乳首を吸盤で責めたりクリトリスを意地悪く擦ったりしてい  
た。その姿はまるで、打ち据えた獲物をゆっくりと味わっているように見える。この場合、人  
間の女が獲物である。それも、男を知った極上の人妻熟女だ。  
(ああ・・・お、俺は、どうしたらいいんだ!)  
目の前で犯される美由紀と、犯す大きな蛸。そして、間抜けにも射精してしまった自分しか、  
この場にはいない。かと言ってあの場へ乱入し、美由紀の体にまとわりつく蛸を引っぺがす  
自信は無かった。どうすればいい──その言葉だけが、頭の中を巡る。と、その時だった。  
 
「あッ!」  
宏は美由紀と目が合ってしまった。知らぬ間に体が前のめり、彼女の視界に入っていたの  
だ。だが、美由紀は何も言わず、黙って立ち尽くしている宏を見つめると、  
「うふッ・・・」  
艶かしい笑顔を見せて、ぬめる大蛸の体へ自らすがり付いていった。そして──  
「いいわあ・・・あなた。あたしを、このまま竜宮城まで連れてって・・・」  
騎乗位のごとく大蛸にまたがり、腰を振ったのである。  
 
「わあーッ!」  
宏は走り出した。あれほど慎重に入ってきた来た洞穴を、こけつまろびつ駆けていった。  
膝小僧をぶつけたが、それにも構わず宏は走る。そして、浜まで戻るとあたりはすっかり  
暗くなっていた。  
 
「美由紀さん!」  
通いなれた小道には誰もいない。ただ、阿呆のように叫びながら走る己の姿があるだけ  
だった。宏は泣いている。人が人外に犯される光景を見て、泣いた。しかし、その涙の理  
由が分からない。  
「美由紀さん!美由紀さん!」  
好きだった訳ではない。ただ、彼女が大蛸にまたがった時の淫らな笑顔が、頭の中にこ  
びりついて離れなかった。宏はカバンも放り出して、自宅へと駆けていく。もう、家へ帰る  
事しか考えていなかった。  
 
 
これは後で知るのだが、美由紀の家は海女の出だという。それがどう大蛸と関わってく  
るのかは分からないが、宏はそれを聞き何となく頷いたそうだ。そしてそれ以後、美由紀  
の傍らには決して寄り付かなくなったと、村の誰かが不思議そうに語った。  
 
おしまい  
 

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