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「門の所でうろついてるからさ、不審者かと思っちゃった」  
「そういうこと言うか、お前」  
そんな軽口を叩きながら、俺と那智子は缶コーヒーを飲んでいる。  
場所は、青葉と那智子の通う、聖マリア・マッダレーナ女子高等学校の前。  
自動販売機で買ったコーヒーを片手に、学校前のバス停のベンチに座っている。  
「望月くんなら、怪しまれないんだけどねー。北星だし、アンタと違ってかっこいいし」  
「はいはい」  
適当に相槌を打ちつつ、俺はコーヒーを飲む。  
出来れば、早いところ那智子をここから追っ払いたいのだが、今のところそれは失敗していた。  
「それにしても、青葉に話なんて、珍しいね。電話とかじゃ、駄目なの?」  
並んで座りながら、那智子はさらに聞いてくる。  
その質問が一番辛い。言いよどむ俺の顔を、興味津々といった風に那智子が覗き込む。  
そんな俺たちの前を、マッダレーナの生徒が不思議そうな顔をして通り過ぎていった。  
セーラー服姿の那智子と学生服姿の俺が並ぶ様子は、この場では少し目立っている。  
あ。もしかして、それを見せびらかすために那智子は俺と時間つぶししてるのか?  
いや、そんなことよりも。  
青葉が出てくる前に、早く那智子を帰さなくては。  
「まあ、ちょっと大事な話があってな」  
俺は視線をそらしながら、もうほとんどなくなりかけているコーヒーを飲む。  
俺がここに来たのは、もちろん青葉にこの前の暴言を謝るためだ。  
あの、文化祭の日から既に一週間。  
見栄のせいで俺は誰にも相談できず、悶々と悩んだすえ、ようやく勇気を振り絞る事が出来た。  
まあ、そういうわけだ。  
「大事な話、か……相変わらず、あんたたちって秘密主義よね」  
「秘密主義?」  
「なんかさ、青葉と話してると時々思うんだけど、昔の事とか、あんまり私とか初芝に話さないでしょ?」  
そんなつもりはないんだが。少なくとも和馬には色々話している。  
青葉と那智子だって付き合いは長い。青葉が何を隠しているかは知らないが、秘密主義ってことはないはずだ。  
俺が不服そうな顔をしたからか、那智子は例えば、と一言おいて話し始めた。  
 
「……聞いたんだけどさ。青葉のファーストキスの相手って、御堂なんだって?」  
「ぶっ」  
驚いてむせる俺。冷やかすように那智子が俺の顔を覗き込む。  
「青葉から、聞いたのか?」  
「うん。これだって、この前聞いたところ。私結構ショックだったな。ま、小さい頃の話だから時効かな?   
あんたが最初の相手なんて、青葉かわいそうだしさ。望月もショック受けると思うなー」  
那智子はいつもより少し饒舌で、実は一番気にしているのはコイツじゃないかって気がした。  
「幼稚園の頃の話だ。もう、昔のことだよ。青葉だって、この前まで忘れてたみたいだし」  
自嘲気味に言いながら、俺はコーヒーの缶をもてあそぶ。  
不意に静かになったので、俺は那智子の方に目を向けた。少し不機嫌な顔が、そこにある。  
「それ、信じてるの?」  
「それって……青葉の言った事か?」  
俺がうなづくと、那智子はさらに眉間にしわを寄せて俺を見つめる。  
「女の子が、そんなこと忘れると思う?」  
「だって、もう十年以上前の……ままごとの時の話だぞ」  
「バカね」  
そう言って那智子は手元の缶に目を落とした。  
俺はそんな那智子を見つめている。  
「きっかけがどうだって、最初のキスなら、忘れないよ。少なくとも、私は絶対忘れない」  
呟くように言われて、俺は返す言葉が分からなかった。  
そうだろうか。それは、那智子の感傷じゃないんだろうか。  
そうだとしたら、青葉は何で『もう忘れちゃったよ』なんて言ったんだろう。  
黙り込む二人の間を、秋風が通り抜けていく。  
風に転がる枯れ葉を追って、動かした視線の先に、俺は小さな人影を見つけた。  
―――望月近衛の姿を。  
「あれ、望月じゃ……」  
俺が驚きの声をあげても、那智子は平然としている。  
「ああ、そうね。もうそろそろ青葉も部活終わるし、迎えに来たんじゃない?」  
「いつも、来てるのか?」  
その質問に、那智子はちょっと考えるふりをしてから答えた。  
「んと、私の知ってる限りじゃ週に一、二度かな。……何? まさか焦ってんの?」  
「べ、別に焦ってるわけじゃ」  
 
とは言ったものの、俺は明らかに動揺していた。  
これじゃ、青葉に謝るどころじゃない。  
いや、望月にここにいる理由を聞かれたら、どうする?  
俺は考えるより先に行動に出ていた。  
ぱっと立ち上がると、望月がやってくるのとは反対の方へと走る。  
そして、静かに電信柱の陰に身を隠した。  
「ちょ、ちょっと!?」  
那智子が慌てて俺を追ってくる。  
「何で隠れんのよ」  
「静かにしてろ」  
那智子もつられて、俺と同じ電信柱の陰に隠れるはめになった。  
俺はそっと顔を出して、望月の様子を伺う。  
奴は校門の前で来ると立ち止まり、腕時計に目をやった。  
帰路に着くマッダレーナの生徒たちが、望月の姿を見ては、うっとりとした表情で通り過ぎていく。  
彼女たちと視線があえば、望月は軽く会釈を返す。すると誰もが恥ずかしそうに慌てて足を早めるのだった。  
そんな光景がしばらく繰り返された。  
「やっぱ、もてるわねー」  
「……キザなやつ」  
「あら、嫉妬してんの? ムリムリ、御堂じゃ勝負にもなんない」  
「うるせえって」  
俺は声をひそめながら、言い返す。  
「まあ、いいじゃん。どうせ付き合ったり結婚できる相手は一人だけなんだし。  
大勢にもてるより、誰か一人に愛されるほうが幸せだよ?」  
那智子がそう言いながら俺の肩を叩いた。  
「那智子……?」  
俺がその言葉の意味を問い返そうとしたとき、那智子があっと小さな叫び声を上げた。  
「青葉、出てきた」  
慌てて、俺は校門の方へ注意を戻し、那智子との話はそれっきりになった。  
 
「もう、帰れって」  
「なんで」  
「いいから帰れ」  
小声で言い争いながら、俺と那智子は、望月と青葉の後を尾行している。  
なぜこんなことを始めてしまったのか、俺にも分からない。  
でもとにかく、俺は今、望月と青葉の関係を少しでも知りたかった。  
しかし、那智子がなおも俺に付き合ってくるのは意外だった。  
「ねえ。なんでこっそり後をつけたりするの」  
「うるさい。那智子、帰れ」  
何度目かのやりとりがあった後、那智子は不意に黙った。  
「……青葉と何かあったんだね。望月くんのこと?」  
図星だった。  
俺は那智子を無視するように、黙って足を早める。  
「青葉に、何か言ったの? 何したの?」  
後ろから投げかけられる那智子の問いを無視して、俺は青葉たちを追った。  
いつの間にか日は傾き、青葉たちの姿も夕闇に紛れている。  
そのおかげか、俺たちの尾行が気づかれることもなかった。  
気が付けば、俺たちは駄菓子屋「チチヤス」がある三叉路まで戻ってきていた。  
一方の道を行けば俺の通う泰山高校、もう一方を行けば泰山寮や青葉の家にたどり着く。  
だがその時、ふいに青葉が望月に何かささやくのが見えた。  
望月は青葉の声にうなづくと、「チチヤス」の店先にいつもある、古ぼけたベンチへと青葉を誘う。  
日に焼け、かすかにアイスクリーム会社のロゴが読み取れるベンチに、青葉は腰を下ろす。  
そして望月は、自販機で買った缶コーヒーか何かを青葉に渡しながら、その隣に座った。  
 
街灯がぽつり、ぽつりと灯りをともしていく。  
俺はその光を避けるようにして、そっと青葉と望月に近づいた。  
さっき望月が飲み物を買った自販機の陰から、そっと二人の様子を覗く。  
「ねえ、やめようよ。盗み聞きなんて、趣味悪いよ」  
那智子が背後でささやくが、俺はちょっと首を振って、その言葉を無視した。  
「チチヤス」の前の街路灯が、青葉と望月を照らし出している。  
缶に書かれた「U○Cコーヒー」の字が読めるぐらい近い。そこで初めて、二人の会話が聞こえてきた。  
 
「……今日は、ごめんね。急に呼び出したりして」  
缶コーヒーには手もつけず、青葉はそう言った。  
「いや、別に気にしてないよ。学校、すぐ隣なんだし。古鷹さんに会えるなら、僕も嬉しいし」  
「ありがとう」  
短い沈黙が流れた。  
望月は青葉を急かしもせず、手の中で自分の缶を転がしている。  
「……あのね」  
「困ってる事があるんなら、何でも言ってよ」  
「分かるの?」  
びっくりしたように、青葉が目を見開いた。  
「だって、古鷹さん最近元気ないし。それぐらい、僕でもすぐ分かるよ」  
「そんなに私、変だった? ……最近」  
戸惑う青葉の声に、望月はうなづく。  
「先週あたりから、急に元気がなくなったみたいに僕には見えたけど……。  
もしかして、相談って御堂くんの事じゃないの?」  
「……な、なんで」  
「先週、泰山の文化祭だったでしょ。だから御堂くんと何かあったんじゃないかって」  
そう言ってから、望月は小さくごめん、と呟いた。  
青葉はそろえた膝の上に固く結んだ手を置いて、それをじっと見つめている。  
「……先走るつもりはないんだけど、つい、ね」  
構わない、とでも言うように、青葉は首を振った。  
お下げ髪が、それにつれてふわりと揺れた。  
「それで?」  
「……」  
青葉は口の中で二言三言、なにかもごもごと呟いてから、急にはっきりとした声で言った。  
「創一郎くんがね。私に『望月くんと付き合っちまえ』って」  
その瞬間、俺の体がびくり、と跳ねた。  
「え?」  
さすがの望月も、意表を突かれて尋ねなおす。  
……そして、那智子も。  
「御堂。あんた、青葉にそんなこと言ったの?」  
俺は那智子の方を振り向きながら、おずおずとうなづく。  
 
とたんに、那智子の眉間に細いしわが寄るのが見えた。  
「なんでそんなこと、急に」  
「しっ」  
小さな声で那智子を遮り、俺は青葉と望月の会話に注意を向けた。  
「なんで御堂くん、そんなこと言ったの?」  
「あのね……」  
青葉はそう言ってから、はっとして周囲を見回した。俺は慌てて頭を引っ込める。  
誰かに聞かれるのを恐れるように、青葉は望月の耳元にそっと顔を寄せた。  
「あのね、なっちゃんがね……創一郎くんの事、好きなの」  
声をひそめる青葉。だが、耳をすませば俺にも、那智子にもはっきりとその声は聞こえた。  
俺は、振り向く事が出来なかった。  
青葉が秘密を打ち明けた瞬間、那智子が息を呑むのが聞こえたから。  
「……ほんとに?」  
「誰にも言わないでね。私となっちゃんだけの秘密だから。  
私ね、なっちゃんに相談されて、こっそり応援してたんだ……二人がうまくいくように」  
……突然、俺の制服の袖を、那智子の手がぎゅっと握った。  
振り返る俺。  
目を伏せた那智子が、黙って俺の袖を引っ張っている。  
無言でここを離れようと言っているのは俺にも分かったが、那智子も動こうとしなかったし、俺もそうだった。  
「そうか。それで初めて遊園地に行ったとき……」  
望月が初めて合点がいったようにひとりごちる。青葉はまた黙ってうなづいた。  
「ごめんね。でもそうでもしないと創一郎くん、なっちゃんと遊びに行ったりしないから……」  
頭を下げながら、さらに青葉は話し続ける。  
「私ね、なっちゃんが創一郎くんのこと好きだって言ってくれて、とっても嬉しかったの。  
だって、初めのころ、あの二人喧嘩ばっかりしてたんだよ……創一郎くんはなっちゃんをからかうし、  
なっちゃんはなっちゃんで、創一郎くんをすぐに怒るし……なっちゃん、創一郎くんのこと嫌いだと思ってた。  
だからね。本当は創一郎くんの事好きだって言ってくれて、嬉しかったの。  
私は、創一郎くんのことも、なっちゃんのことも大好きだから……」  
確かに、初めて会ったころ、俺と那智子は顔を合わせれば言い争ってばかりいた。  
そして青葉は、俺たち二人の間に挟まれて、いつも悲しそうな顔をしていた。  
でもいつしかそれが、俺たち三人の付き合い方みたいになってた。それでいいんだって、思ってた。  
 
「でもね。創一郎くんは、怒ったの。私が、二人が仲良くなるようにしてたのを知って。  
……そんなの、『余計なお世話だ』って」  
そこでまた、青葉は黙り込んだ。  
そう。  
俺は確かにそう言った。余計なお世話だって。  
でもそれは、言葉どおりの意味じゃない。俺は、青葉にそんなことして欲しくなかった。  
なぜって、俺は……。  
「古鷹さんが、陰でこそこそしてたのが、御堂くんの気に入らなかったのかな」  
望月は淡々とそんな事を言った。  
「たぶん、そうだと思う。私の事、お節介だって。だから、私にも余計な世話を焼いてやるって言って……」  
「だから、僕と付き合えって?」  
こくり。青葉の頭が動く。  
青葉も望月も、一言も発しないまま、しばらく静かな時間が流れた。  
急に、青葉が口を開いた。  
「私、どうしたらいい? これがきっかけで、なっちゃんと創一郎くんが喧嘩したら……。  
私、なっちゃんになんて言ったらいいの? 私、なんて謝ったらいいの?」  
膝の上の小さな握りこぶしが、さらに固く握られる。だが、望月は答えなかった。  
「……どうやったら、創一郎くんに許してもらえるの……?」  
俺が、青葉を許す?  
なんで、そんなこと思うんだよ、青葉。  
俺が酷い事言ったのは、おまえが悪いからじゃないんだぞ?  
俺が……俺が馬鹿で、卑屈な奴だから。おまえに、八つ当たりしただけなんだぞ?  
小さいときもそうだったじゃないか。  
俺が青葉をいじめて、青葉が泣いて、陽子さんが怒って……最後はいつも俺が謝っただろう?  
それを、いつも泣き笑いの顔で許してくれたじゃないか。  
今度だって、謝るのは俺なんだ。青葉じゃないんだ……!  
俺は、声にならない声で叫んでいた。青葉には決して届かない声で。  
 
 
震える青葉の肩に、望月はそっと手を置く。  
青葉は、膝の上に視線を落として、必死で何かをこらえるように見えた。  
「古鷹さん」  
望月の優しく澄んだ声に、青葉ははっと顔を上げる。  
「古鷹さんは、悪くないんだよ」  
「望月くん……」  
泣きはらしたように赤い目をしながら、青葉は望月を見つめる。  
その顔は、全てを吐き出して、何かさっぱりとした顔にも見えた。  
ためらうように、青葉が微笑みを浮かべる。  
そうだよ、青葉。  
お前は悪くない、望月の言うとおりだ。  
俺が許さなくたって、望月が許してくれたら、それでいいだろう?  
そうやって望月を好きになれば、いい。  
ようやく、俺はそこを離れる決意をした。  
後は那智子だ。望月は青葉の面倒を見てくれたんだ。那智子の事ぐらい、俺だけで何とかしてみせる。  
そう思って振り向こうとしたとき、思いがけない望月の言葉が聞こえた。  
「御堂くんだって、それぐらい分かってる」  
「え……」  
思いがけない言葉に、青葉の目が泳いでいた。  
望月は、青葉の両肩をそっと掴むと、言い聞かせるように言った。  
「古鷹さんは、御堂くんの事が好きなんだね」  
はっと息を呑んだのは、俺の後ろにいた那智子だった。  
言われた当人は、突然のことに何を言われたのかも分かっていないような顔だった。  
「本当は、御堂くんに言って欲しかったんだ。僕と付き合うなって。  
だから、『付き合え』って言われてショックだったんだね」  
我に帰った青葉は、強く首を振る。  
「違うよ。私は……みんな、仲良くして欲しいだけ。創一郎くんも、なっちゃんも、望月くんも」  
「本当に?」  
望月の言葉に、青葉は何度もうなづく。  
「じゃあ、御堂くんと妙高さんがお付き合いしても、平気なんだね?」  
 
「それは……」  
そう改めて問われて、青葉は口ごもった。  
それはかつて、俺が和馬に問われたのと全く同じ内容だった。  
『望月と青葉が付き合っても平気か?』と。  
あの時、俺は平気だと言った。でも、今は。  
「御堂くんと妙高さんが、二人だけで遊びに行っても?  
古鷹さんの前で手をつないでも平気?  
二人だけの秘密を作って、古鷹さんにも内緒にしても、平気なの?  
古鷹さんがそれを尋ねて、『二人だけの秘密だよ』って言われても、平気なんだね?」  
追い詰めるような望月の言葉に、俺は思わずその場に飛び出しそうになる。  
「それは……」  
青葉が言うべき言葉を探して、頭を振る。  
ほんの一呼吸ためらってから、青葉はきっぱりと言った。  
「それは……そんなの、イヤ……」  
青葉が答えた次の瞬間、俺の体が不意に引っ張られた。  
よろけるように自販機の陰から飛び出す俺と……那智子。  
四人の視線が交差する。  
「青葉っ」  
普段の那智子からは想像も出来ないような力で、俺は那智子に引きずられていた。  
「な、なっちゃん!?」  
驚いて立ち上がる青葉と望月。  
噛み付くように、青葉の顔を睨む那智子。そして立ちすくむ俺。  
四人が、凍りついたように対峙した。  
「何で、創一郎くんとなっちゃんが……」  
「青葉」  
那智子の冷たい声が、青葉の声を遮った。  
「やっぱり、青葉も御堂の事が好きだったんだね」  
「ち、違うよ。今のは」  
青葉の訴えを拒絶するように、那智子は首を振った。  
「……なっちゃん、あのね」  
「そんなの、ずるい」  
 
那智子の言葉に、青葉はまた声を失う。  
「ずっと二人でいて、いっぱい思い出があって、いいところも悪いところもみんな知ってて……。  
それで、いつの間にか好きになってたなんて、そんなの私認めないから」  
那智子の声が震える。  
「ずるいじゃない。私が御堂と会った時には、もう私の入る隙間もなかったなんて。  
そんなの、ずるい……そんなのずるいよ!」  
那智子が俺の方を振り返ったとき、その目が涙に濡れているのを、見た。  
ぱっと那智子の腕が俺へと伸びる。  
不意の事で俺は自分がどうなったのか分からなかった。  
気がつけば、那智子の両腕が俺の首に絡まり、俺は那智子に抱き寄せられていた。  
「私は、御堂が好きだもん。だから……青葉になんか、渡さない」  
逃げる暇も、なかった。  
俺の唇に、ふんわりと柔らかな感触が当たる。  
「なっちゃん……!」  
青葉の声も、今の俺には遠いところから聞こえるようだった。  
俺と那智子は、キスしていた。  
鼓動の音さえ聞こえるんじゃないかと思うぐらい、体を寄せ合って。  
俺の髪をいとおしむように、那智子の指が絡みついてくる。  
文化祭のとき知った、那智子の髪の匂いが再び俺の鼻をくすぐった。  
初めての那智子の唇は、温かくて、ほのかに濡れて……少し涙の味がした。  
(続く)  
 
 

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