1.
「あー、明日ですか……実は父方の祖父母の家に挨拶に行く予定でー」
「ふーん、そうなんだ」
意識はしなくても、私の声は冷たくなる。
その瞬間、電話の向こうで望月が震え上がるのが分かった。
「すいません……あの、三日以降なら開いてるんですけどね」
「いいわよ、別に」
「ほんと、すいません。今度妙高さんの好きなキノコ照り焼きスペシャル奢りますから」
「いいわよ、ほんと。気にしないで。じゃ、今年もよろしくね」
「あ、妙高さん――?」
私は望月近衛の返事を聞かず受話器を置いた。
これで全滅。
もともと、大晦日の夜に元日の初詣に誘うなんてのが無茶なんだけどさ。
私はアドレス帳を閉じ、部屋に戻ることにした。
そもそものきっかけは大晦日の夜、友人の古鷹青葉との電話だった。
かけたのは私だったけど、いつの間にか青葉の方が離してくれなくなった――年が明ける寸前まで。
あれは年が明ける五分前。突然青葉が口ごもるようになり……
「ごめんなっちゃん。十二時になったら創一郎くんに電話する約束なの、ごめんね」
ってわけ。
冷たいとは思う。でも当然だとも思う。
カップルになって初めて迎えるお正月。大事なイベントは全部クリアしていくべき。
でも、青葉の言葉で私は突然寂しくなった。
で、そんなわけで年が明けてから友達に電話しまくり、初詣に一緒にいかないかと誘ってみた。
それこそ同じ学校の友達から始まって、最後には創一郎の友人・初芝くんとか望月とかにまで声をかけてみたけれど。
まあ、結果はご覧の通り。
友達にはみんな振られちゃうし。
従兄の祐輔が我が家に引っ越してくるのは再来月だし。
うちにいるのは正月休みで安心して酔っ払ってるお父さんと、それに付き合うお母さんだけ。
今年のお正月は退屈な、本当に退屈なものになりそうだった。
明けて元旦のお昼。
とりあえずおせちとお雑煮、それにお年玉という大事なイベントを済ませた私は、出かけることにした。
別に用事なんてない。
いくらなんでもこんな地方のベッドタウンじゃ正月に開いてる店もないし――ひとりで初詣に行くことにした。
お母さんは何か不満げで、家にいなさいと言ったけど私は無視した。
家にいて、つまんないお笑い番組なんて見てたら、それこそ虚しくて死んじゃいそう。
そうそう、年賀状も私を家から逃げ出すきっかけだった。
だって当然その中には青葉や、彼氏の創一郎からのものもあるはずだから。
それを見たくなくて、私は年賀状に一枚も目を通さず外に出た。
向かったのは近所にある、小さな小さな神社だった。
普段なら子供の遊び場になって、時々爆竹なんかが破裂して、神主さんが怒って……
私と青葉は近くのお店で買ったアイスキャンデーを食べながらそれを笑って見ている、そんな場所。
でも今日はそんなこともない。
綺麗に掃除された境内は閑散としていて、冷たい風に枯れ葉が転がっているだけだった。
私は砂利を踏みしめる音を聞きながら、ゆっくりと歩いて行く。
おみくじやお守りを売っている小さな建物では、バイトの巫女さんが退屈そうにあくびしていた。
手水所で手を濡らし、ハンカチで拭きながら拝殿へ向かう。
お賽銭箱の前に立って、私はさて、と一息ついた。
何をお願いしたものか。
家族の健康? 学問成就? それとも……「今年こそ彼氏が出来ますように」?
何にしても、私は今の生活に不満はないと言えばないし、あると言えば不満だらけだった。
まあ、どうでもいいや。
私は財布から奮発して百円取り出すと、それを賽銭箱に放り投げた。
「何をお願いしたんですか?」
私が目を開けたとき、隣から不意に声をかけられた。
低い男の声。神主さんだろうか。
誰もいない神社に、女の子が一人。確かに声をかけたくもなるかもしれない。
「それは――」
声のした方に振り返りながら言いかけた私は、言葉に詰まった。
だってそこにいたのは、祐輔だったから。
2.
「あけましておめでとう」
いつも通り、優しく笑う祐輔が私を見ている。
驚いて言葉が出ない。口をぽかんと開ける私は、かなり間抜けだったと思う。
「……どうして?」
何がどうしてなのか。確かに祐輔がここにいていけない理由はない。
でもおかしい。
だって彼の家はここから特急に乗って三時間以上かかるんだから。
「ちょっと、用事があってね」
私の変な質問にも、祐輔は平然と答えた。
「用事って何ですか?」
重ねて聞く。元旦に一人で出かけてる私が聞くのも変な話だけれど。
「……おばさんから聞いてないの? 僕の母親が入院している病院は、この町にあるんだ。
僕がこっちに住もうと思ったのもそのせいなんだけど」
「入院、してるんですか?」
初耳だった。
思えば私は昔の祐輔を覚えてないどころか、今の祐輔のこともろくに知らない。
でも、それ以上のことを聞く勇気はなぜか無かった。
祐輔もこの話は終わったとばかりに私に微笑みかける。
「なっちゃんは? まさかひとりで初詣?」
「……そのまさかです。友達にみんな振られちゃって」
そう言うと祐輔はおかしそうに声を上げて笑った。
私はちょっとむっとした顔をする。でも祐輔はまだ笑ってる。
「ははは……そうか」
「そうです」
ひとしきり笑った後、祐輔は改めて私を見た。
「じゃ、今からデートしようか」
「は?」
何を言ってるんだこの人。
でも祐輔の目は真剣だった。顔は笑ってるけど。
「今初詣を済ませた人を誘うのはどうかと思うけど、隣町の本山大社に行こう……どう?」
「……センスないですね」
「ほっといてよ」
そう言いながらも、祐輔は私の答えなんか待つ必要もないって感じで私の手を取った。
そして、私もいつの間にか手を握り返していた。
本山大社は、先ほどの神社とは隔絶した混み具合だった。
家族連れや友達同士の若い集団、静かに散策する老夫婦。
参道の両側には無数の出店。食べ物の店から立ち上る煙には、こげた醤油のおいしそうな香りが混じる。
警察の人たちが交通整理に立っているけれど、みんなそんなのどこ吹く風だ。
まさにお正月。
思わず私は嬉しくなって祐輔の顔を見上げる。
見返す祐輔の顔もわくわくしてるのが分かる。繋いだ手も何だか踊ってる。
「なっちゃん、昔からお祭好きだもんね……覚えてる?」
「それくらい覚えてますよーだ」
軽口だって飛び出しちゃう。
さっきまでの憂鬱な気分が嘘みたいだった。
人の流れにあわせながら、私は周りの人たちを観察する。
私は晴れ着を来た女の子とそれに寄り添う男の子、という二人連れに目が行ってしまう。
きっと恋人同士なんだろう。
女の子は晴れ着姿に恥ずかしそうで、でも彼にもっとよく見てもらいたいのが手に取るように分かる。
男の子はいつもと違う彼女の様子に、ちょっと困ってる。素直にかわいいって言ってあげればいいのに。
普段はそれを羨望とも嫉妬ともつかない気持ちで見つめる私だけど、今日は違う。
何しろ今日は祐輔がいてくれる。
もちろん、彼は私の従兄。でもたぶん周りの人たちにはそんなこと分からない。
きっと私たちは……。
それが仮初めのものでも、そう周りに誤解されるってのは、悪くない気分だった。
そういう目で見ると、祐輔はなかなか悪くない顔をしてる。
頭は悪くないんだし、見た目も及第点。うん、青葉に紹介しても、恥ずかしくはないかな。
もしかして私は今年ついてるかもしれないな、なんて。
馬鹿なことを考えながら、でもその馬鹿な考えを愉しみながら私はうきうきと歩いていた。
「あ、わたあめ。ね、買ってかって?」
「……今から参詣するんだけど」
こんな風に、ちょっと子供っぽいお願いもすんなり出来てしまう。
どうせ背伸びしてみても、祐輔にとって私は子供なんだから、たまには子供の立場を満喫してもいいよね。
困り顔の彼の手を取って、私は祐輔をわたあめ屋さんの方に引っ張っていく。
数分後には、私は大きなわたあめを満面の笑みを浮かべながらほおばっていた。
「何でわたあめってこんなにおいしいんだろう」
「うーん、やっぱり雰囲気だろうね。だってただのザラメもん、これ」
「そーいうロマンのないこと言ってると、もてませんよー」
そんなことを言いながら歩く。
苦笑する祐輔は、隣から私のわたあめを手でちぎっては自分の口に放り込んでる。
時々彼が取ろうとする瞬間、わたあめをさっと遠ざけてみたり。
こんな風にふざけながら食べると、「ただのザラメ」も天国みたいな味がした。
拝殿にたどり着いたときには、もうわたあめは綺麗に私たちのおなかに納まっていた。
巨大な賽銭箱が設置されていたけど、やっぱり今日の人ごみじゃ、なかなか前に進めない。
背伸びしたり、前の人の肩越しに様子を伺っていると、祐輔に突然肩を掴まれた。
驚いていると、私の体をコートで包むようにして、祐輔が私の後ろに立った。
彼の体が背中に密着する。
あたたかい。
まるで抱きすくめられてるみたい。
「時々後ろからお賽銭投げる人がいるからね。用心のため」
「あ……あ、ありがとう」
確かに、背の高い祐輔が後ろにいてくれれば安心だ。
でも、ちょっと恥ずかしい。
いくらカップルに見えるといっても、これはちょっと馬鹿っぽいかも……。
恥ずかしいような嬉しいような気分でいると、頭の上から祐輔の声がした。
「そう言えば、なっちゃんの七五三もここだったねえ」
「あー、あの写真の?」
こっくりとうなづく祐輔の顎の先が、私の頭に当たった。
わあ。こんなに近づいたの、初めてだ――。
「あのときも二人で飴食べたね。もちろんちとせ飴だけど」
「うーん、覚えてないですねー」
そう言いながら私はあの写真を思い出す。
三歳の私は、祐輔と嬉しそうに手を繋いで写真に写っていた。
こういう思い出話なら悪くない。それどころか、もっと聞きたいと思う。
あの時の私も、今の私と同じ気分だったんじゃないかな、って。ふと、そんな気がした。
三歳だって、立派なレディだ。かっこいい男の子と一緒で、悪い気はしない。
そして、十六歳はもっと立派なレディ。
素敵なエスコートつきのデートを楽しむことぐらい、とっくに知ってる。
ようやく私たちの番が回ってきた。さっきと同じ、奮発したお賽銭を放り込み、手を合わせる。
並んで手を合わせたとき、ちょっとだけ祐輔の方を見た。
かしこまった顔の祐輔を、私はその時初めて見た。
何を祈ってるんだろう。本気でそれを知りたいと思う。
でもその様子が余りに真剣だったから、私はあえて尋ねるのは止めておいたけど。
そんな風にお参りを済ませて、私たちは鳥居の方へと戻ることにした。
鳥居をくぐると、流石に人ごみはまばらになってくる。
ちょっとした開放感に、私は踊るようにくるっと祐輔の前に回った。
彼の両手を取って、ちょっと首を傾げてみせる。
「さて、これからどうしましょう?」
「あー。そのことなんだけど、実は……」
祐輔が少し困った顔をしたから、思わず私もつられる。
どうしたの? そんな言葉をかけようとしたとき。
「あ、羽黒ー、こんなところにいたー!」
後ろから女の人の声がした。
3.
そこにいたのはジーンズを履いた、髪の長い女性だった。
すらっとしていて、背は私よりもずっと高い。祐輔より高いんじゃないかって思うくらい。
くっきりした眉毛に、鋭い眼光。でも、怖いくらい美人だった。
「何してんのよ、探したんだから」
「いや、ちょっとね」
「あー、何? 可愛い女の子連れてさ。彼女? 愛人?」
含み笑いで近づいてくる彼女を、祐輔は鼻で笑った。
それだけで、この二人が長い付き合いなのが分かる。
「そんなわけないだろ。 こちら、妙高那智子ちゃん。話、したよな?」
「あー、羽黒の従妹の子ね。はじめまして、高校の同級生の千代田千歳です」
千代田さんは愛想よく私に頭を下げた。
突然の乱入者に私はあっけにとられている。
「面白い名前だろ? 学校じゃ『チィチィ』って言われているんだよ」
「やーめーてーよ。おっさん俳優のあだ名じゃあるまいしー」
そう言って千代田さんは祐輔を小突いている。
でも慣れているのか、祐輔は笑いながらそのパンチを軽く手で受け止めていた。
「もう初詣済ませちゃったの? 何よ、待っててくれたっていいじゃない」
「何言ってんだよ、約束の時間までまだ三十分もあるぞ」
「あー……そうだっけ?」
千代田さんはそう言われると途端に頭を掻いてそっぽを向いた。
子供っぽい仕草だけど、綺麗な人がやると妙に色っぽい。
「大体、わざわざ人を呼び出しておいて、その言い草はないだろ」
「だって羽黒、年末こっちに来るって言ってたでしょ。ついでよ、ついで」
「何のついでだよ」
「あんたはもう大学決まってるじゃん。たまには受験生の息抜きに付き合ってよ。実家に戻っても勉強三昧でさあ」
わざと疲れた声を出す千代田さんに、祐輔はやれやれと頭を振っている。
「千代田の偏差値なら確実に合格圏じゃないか。そんなに焦ることないだろ」
「おぉ、その大学に推薦で入っちゃった人は、やっぱ余裕よねー」
ぽんぽんと、まるで漫才みたいに続く掛け合いに、私は口を挟む余地がない。
いつの間にか、私は祐輔の手を離してしまっていた。
いや祐輔が軽く動いた拍子に、私の手は自然に祐輔の手を離してしまっていた、というのが正しい。
傍観者になって、私は祐輔と千代田さんの会話を半ば呆然と見守った。
なんだ。
私は、ただの時間つぶしだったのか。
そう思った瞬間、心に大きな穴が開いたような気がした。
まるで、ハートの真ん中を大砲で撃ち抜かれたみたいな、そんな感じだった。
時々千代田さんに叩かれながら、祐輔は楽しそうに会話を続けている。
口ほど困った様子もないし、それどころか口元はかすかに緩んでいる。
(何よ)
なぜだか知らないけれど、私は瞬間的にここから駆け出してどこかに行きたくなった。
二人が気づかないうちに走って、走って。
駅まで走って、家に帰って、そのままベッドに飛び込んでしまいたい。
そう思った私が半歩後ろに下がったとき、やっと二人は私の方に振り返った。
「――あ、ごめんごめん。とにかく、そういうわけだから、祐輔ちょっと借りるね」
そう言って小首を傾げる千代田さんは本当に綺麗で。
私は言葉もなくうなづくしかなかった。
そうだよ。
私はただの従妹だもん。
向こうに先約があるなら、譲るのが筋ってもの。
さらに二、三歩後ずさる。
「なっちゃん、ごめんね。また埋め合わせはするから。お父さんお母さんによろしくね」
祐輔の顔を見れない。
お願いだから、早くどっか行っちゃってよ。
自分から去るの、とっても辛いんだから。
……でも、二人は私を見つめるのを止めてくれなくて。
耐え切れなくなった私は、挨拶もせず、踵を返して走り出していた。
――結局、私は夕方まで家に帰らなかった。
駅前で開いてるゲームセンターを見つけて、お年玉を五千円も無駄使いした挙句、ようやく私は家路に着いた。
はああぁ。
力ないため息しか出ない。
こんなことなら、家でおとなしくテレビでも見てればよかった。
そもそも、祐輔に会ったのが失敗。
だって、あんなに楽しかったはずなのに、もう今じゃ嘘みたいに思い出せない。
わたあめの味も、苦い。
従妹だからって、酷いじゃない。
血がつながってると言っても、私だって女の子なんだ。
優しくされたら嬉しいし、放り出されたら寂しい。そんなの当たり前なのに。
時間つぶしなら、時間つぶしと先に言ってくれれば、あんなにはしゃいだりしなかったのに。
そしたら、今だってこんなに……。
目頭が熱くなって、私は力強く私は目を拭った。
ぽつりぽつりと街灯が灯っていく住宅街を、とぼとぼ歩く。
時々どこかから漏れてくるおいしそうな夕飯の匂いが、私にはひどく残酷に思えた。
やがて、私の住むマンションが見えてくる。
誰もいない管理人室の前を走りぬけ、エレベーターに飛び込む。
気ぜわしく、何度も四階のボタンを押す。
ドアが開き、廊下を通って、ペンキを塗り直したばかりの我が家のドアの前に立った。
コートのポケットから鍵を取り出し、静かに開ける。
「こんな時間まで、何してたの!」
お母さんはたぶんそう言って怒るだろう。それもまた、憂鬱だった。
「こんな時間まで、何してたの?」
私を迎えたのは、予想したとおりの言葉だったけれど、そのトーンは穏やかなものだった。
いや、それどころか、それはお母さんの声ですらなかった。
「ゆうすけ……さん?」
私は台所から顔を出した彼を、朝会ったときと同じくらい間抜けた顔で見つめていた。
とっくりセーターにジーンズのラフな格好で、手にはビール瓶を握っている。
「おーい、祐輔くーん、那智子帰ってきたのかー? ちょうどいい、お酌させよう。
こんな遅くまでひとりでふらふらしてた罰だ」
奥から酔っ払ったお父さんの声がした。どうやら、二人で飲んでいるところらしい。
「祐輔さん、どうして……」
「何言ってるの。私が『今日は祐輔くん来るから家にいなさい』って言おうと思ったら、もうあんた家を飛び出してたんじゃない」
「僕、年賀状にもちゃんと書いておいたんですけどね」
祐輔の陰から、今度はお母さんが顔を出した。二人は困った子だとでも言いたげに、顔を見合わせている。
「ほら、早く着替えてきなさい。晩御飯出来てるから」
そう言うとお母さんはおせちの入ったお重を持って居間の方に去って行った。
残されたのは祐輔と、私。
「……なんで」
「ん?」
「なんで、千代田さんと一緒じゃないんですか?」
そう言われても、祐輔は私の言ってることが分からないといった表情だった。
やがて何かに気づいたのか、祐輔は肩をちょっとすくめる。
「アイツ今晩は彼氏と過ごすんだってさ。全く、いい時間つぶしに使われたよ」
そう言って少し怒った顔を作ってみせる。
正直、呆れた。
――だって、それはあなただって一緒でしょう?――
でも、その言葉をぐっと飲み込み、私は笑顔を作る。
「とりあえず約束通り、今日の埋め合わせしてくださいね」
「え? あ、うん、いいけど……」
「じゃあ、はい」
私は黙って手を伸ばす。
いぶかしげな顔をする、祐輔。
「お年玉。とりあえず五千円でいいです。あなたのせいなんですから」
「は? いや、意味がわかんない」
「わかんなくてもいいですから、約束ですよ?」
「え、は、ちょ、ちょっと。なっちゃん? なっちゃーん!?」
戸惑う祐輔を残して、私は笑いながら自分の部屋に戻った。
うん。今年の元日はいい一日だった。
それもこれも、あの神社に最初にお参りしたせいかな。
だって、本山大社みたいに大勢にいっぺんにお願いされたら、神様だって大変じゃない?
でも多分、今日あの神社でお願いしたのは私ぐらいのもの。きっと神様も最優先で願いを聞いてくれたんだ。
そう。
私はあの小さな神社でお願いした。
「どうか、祐輔と仲良くなれますように」って、ね。