《多岐川紗綾26歳会社員の悩み》  
 
 このことを話すと信じられないって返事がくるかもしれないけど、私と彼は、小さい頃はとても仲が良かった。  
 “さあや、さあや”って、後からちょこちょことついてきて、私に懐いて、私を頼ってきてくれた弟、龍也。  
 でも時が経つにつれ離れがちになった。  
 そろそろ姉離れかな、寂しいけど仕方ないかな、と思っていたら、口も聞かない疎遠状態にまでなってしまった。  
 それが、永く続いた。  
 話しかけても短い答えであしらわれたり無視だったり。ご飯を作っても食べてくれない。  
 何故なんだろう、どこが嫌われているんだろう、どの行動がいけなかったのだろうと悩んで悩みまくった。  
 でも答えが怖くて聞くに聞けなくて、結局まともな会話1つできないままだった。  
 そんなある日、急に流れが変わった。  
 ぶっきらぼうで冷たくて、寡黙だった弟が、  
「今迄、嫌っててゴメンな」  
 なんて言ってきてくれた。  
「また、紗綾といっぱい話とか、できるようになりたい」  
 とても嬉しかった。私も龍也と話ができるようになりたかった。  
 母は早くに死んでしまい、父も家にいない。この世界に姉弟2人きり。  
「俺間違えてた。本当は紗綾のこと大好きだったのに、嫌いだって思い込んでた。辛い思いさせて本当に、ごめん」  
 そうだったんだ。うん、いいのよもうそんなこと。昨日までの辛さなんか忘れて明日の幸せを考えて生きましょうね。  
「・・・世界を敵に回しても、俺、紗綾のこと必ず守るから」  
 そうよね、どんな世間の荒波だって2人で力を併せれば! ・・・・・・って、ん? ・・・・・・ねぇ、龍也?  
 セケンノアラナミ乗り越えるのに、別にわざわざ世界を敵に回さなくったっていいのよ?  
「俺、紗綾のこと、・・・大好きだから・・・」   
 ・・・うん、私も龍也のこと、大好きよ。  
「大切にするから」  
 ・・・・・・な、何だか雲行きが怪しくなってるのは気のせいかしら・・・・・・?  
「誰よりも愛してるから」  
 ・・・・・・って、・・・・・・え? ・・・あれ・・・?  
「・・・紗綾・・・」  
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 ・・・・・・何で、こんなことに、・・・・・・なっちゃったんだろ?  
 
 
 日曜日。天気も良いので早々に洗濯をすませ、掃除機を動かしていると電話が鳴った。  
「はい、もしもし?」  
『あ、すいません、あ、あの・・・・・・多岐川さ…っていうか、その、さ・・・・・・紗綾さん、ですか?』  
「・・・はい、そうですが・・・」  
『俺、その・・・、山崎といいまして、龍也・・・君と、』  
「山崎さん? あー、確か・・・弟と同じ大学の?」  
『は、はいそうです! 山崎です! お、覚えていてくれたなんて、俺!』  
『・・・やく用件いえタコ・・・』  
 違う声が聞こえた。一体何だろう? まあ、弟に用なんだろうけど。  
『タコゆーな! ・・・・・・あの、龍也・・・くん、は・・・そちらに?』  
「・・・はい・・・少々お待ちください」  
 2階の部屋に向かって声を掛けてみた。普通このくらいの声なら聞こえるはずだけど、何度呼んでも返事がない。  
 朝、出かけた様子はなかったし、玄関には靴もある。まだこの家に居るはず。  
 でもなんで家の電話にかけてきたんだろう? 携帯の方が確実でしょうに。・・・・・・それに・・・・・・   
 正直、弟とはあまり関わりたくない。・・・きっと、まだ怒ってるだろうし・・・  
 だからといって電話の主を邪険にするわけにはいかない。ここはやっぱり部屋まで行くしかないだろう。  
 電話の子機に切り替えた。話しかけて、すばやく逃げれば何とかなるだろう。うん。  
 階段を上がりかけると、1階の父の部屋から気配がした。でも今父は居ない。・・・もしかして、龍也、こっちにいるの?  
 恐る恐るドアを開ける。・・・当たりだ。ベッドから腕がだらん、と生えてる。  
「龍也・・・・・・ね、電話だよ。山崎さんから」  
 呼んでもベッドから出てこない。腕がぴくりとも動かないところをみると熟睡しているらしい。  
 でも油断は出来ない。寝たふりかもしれない。ここは慎重に行かないと。  
「ここに置くよ? 龍」  
 枕元に子機を置いて、ささっと離れようとした次の瞬間! 手首を掴まれ、あっという間にベッドの中に引きずり込まれた!  
 全身すっぽりと布団の中。まるで食虫植物に丸呑みされたみたいだ。  
「ん・・・何だよ山崎。・・・日曜日に」   
 がっちりと私の身体を組み敷しきながら、子機に向かってのんきな声を出す弟。  
 圧し掛かってくる体の感触は・・・・・・・・・・・・も、もしかして・・・ハ、ハダ・・・!!??  
 な、何してんのよ龍也!?  
 
『って何してんだよ龍也!?』  
 電話の主のケンカ腰な質問に、私を見据えながらさらっと答えた。  
「何って、・・・いただいてるトコ」  
 いっ? イタダイテルてあなた何そんな・・・・・・  
『はあ? 何のんきに朝飯食ってんだよ!』  
 うまい具合に勘違いしてくれた。のはいいんだけど・・・・・・  
 朝から変なことしてないで、ちゃんと電話の人と話してよ、ねえ! ちょっと!!  
 ベッドから退場しようとあれこれ試みるものの、弟の身体はビクともしない。  
 迫りくる肩や胸を押し返して、改めて全裸だということが判明してしまった。・・・“戦闘準備完了”って、顔に書いてあるよ、龍也。  
 受話器を肩口で押さえ、私の服を脱がしに掛かる。当然の流れみたいに。  
「俺は食うものは食わないとダメなタイプなんだよ」  
 それでだからって、なんで私をっ、私を!?  
 電話相手にばれないように抵抗を続ける。だけど・・・・・・  
 ・・・何をしているのかばれたら大変だっていうのに、何で過激な行動しながら冷静に電話が出来るのよこの人は!!!  
 離しなさい! どきなさい! 人を朝食にするのは止めなさい!!  
『朝飯くらい抜いて来いよ』  
「昨夜食い損ねた。今食わないと気が済まない」  
 昨夜・・・ですかそうですか。・・・・・・それでだから私を食べる、と・・・・・・  
『途中のコンビニで買えばいいじゃねえか』  
「却下」  
 体格に差がありすぎて、どう抵抗してもあえなく失敗してしまう。まるで小包の包装を解くかのように無慈悲に服が奪われていく。  
「・・・で、何の用だよ?」  
『ざっけんな!! 学祭の準備! 8時に全員集合だったろうが!』  
「んー? そうだったか?」  
 露になった首筋に短いキスが降ってきた。会話の合間に良くそんなことが・・・って、だ、痕ついちゃうよ。やめてよ。  
 息遣いがすぐ耳元で聞こえる。短い髭がこすれてくすぐったいったら。  
 異常な光景と裏腹に電話の会話はつらつらと進んでいる。  
『携帯はどうした? 何度も掛けたんだぞ』  
 また違う声がした。さっきタコって言った人とも、山崎君とも違う。どうやら数人で集まっているらしい。  
「携帯? ・・・あー、2階。今俺1階」  
『・・・・・・ってるんですよーぅ。龍也クンのことぉー』  
 女の子の声も聞こえる。一体何人いるんだろう。  
 
『つー訳でさ、今何時だと思ってんだよっっっ!!! そろそろ焦って支度とかしろよ!!』  
「んー」  
 電話主の怒声を聞き流しながらディープキス。うぐぐぐ・・・  
 フツーの会話しながら人襲わないでよ!! しかも全裸で!!!! ちょっともう、止めてよ!!!!  
 声を挙げて抗議した・・・ら、完全に電話の主に聞こえてしまう。荒げることなんてもっての他。不可。  
 まして、このまま事態が進行して喘ぎ声なんか上げてしまったら・・・?  
 ああ、あのとき子機をベッドに放り投げて逃げていればこんなヒレツな罠に・・・・・・、と、後悔しても後の祭り。  
 ブラウスは完全に除けられてしまった。ブラも、いとも簡単に外される。外し方、どこで習ったのよこの人は。  
 指が胸に懐いてくる。見た目は結構ごつごつしてる癖に的確に気持ちいいトコロを責めてくる。このギャップにいつも翻弄される。  
 反対の胸にも刺激を加えられる。熱い、熱い、・・・舌で。  
「・・・・・・っ!!」   
 声が漏れそうになるのを必死で堪える。涙が滲んでくる。  
 龍也と目が合うとヤツは満足そうに笑っている。ぺろ、と目元を舐めてきたと思ったら、子機を持ち直した。  
「上手いよ。紗綾」  
『何ぃーっ!? てめ紗綾さんのお手製食ってんのか!! そりゃコンビニは却下だよなちくしょー! よこせ! 弁当に詰めて持って来い!』  
『何だとぅ!? 俺も喰いてぇ!! 紗綾さ』  
「一口たりともやらん!」  
『だーっ! 龍也!!』  
 あーん! 龍也ぁ!!   
 
 着る時にも手のかかるスリムのジーンズ。ええい、これだけは奪われてなるものか!  
 ベルトを緩められても、負けじ! と両手でジーパンを押さえていると、敵は何を考えたのか、再び胸に襲い掛かってきた。  
 ふくらみをねっとりと舐め上げ、先端を甘噛みされる。濡れたところを吸い立てる。・・・わざと音を立てて。  
 強い刺激が体中を走りぬける。だ、だめ、こんなのだめ! それに何よりこの音! 聞こえちゃったらどうするの!!  
 攻撃を止めさせようと龍也の頭に両手で掴みかかった。・・・のがいけなかった。  
 私の手が離れた瞬間に、ボタンもファスナーも突破され、ぐっと手が入ってきた!!  
 ショーツを抉った勢いは、そのまま中奥まで突入してきた!!   
「あっ! や・・・」  
 その場所を捕らえた龍也の、深く息を漏らす声が聞こえた。肩も少し揺れてる。きっと笑っているんだ。絶対そう。  
 どーしてこんなに濡れているのかな? と言わんばかりに指がからかってくる。・・・・・・だ、誰のせいだと思ってるのよ!!!  
 とうとう、一番敏感な処の愛撫が始まった。  
「ああっ! ・・・あんんっ!」  
 痛いほどの刺激に声が出てしまった。・・・・・・しまった。  
「ん? どうした紗綾?」  
 突き入れた指を無尽に動かし、蜜を捏ね弄びながら白々しく聞いてくる。顔を見れば口の端が綺麗に吊り上がっている。なんて憎らしい。  
『紗綾さん? どうかしたんですか?』  
 わわ、山崎君? あ、わ、私のことなんて気にしないで。  
「・・・あぁ、ちょっと待て。・・・ほら」  
 何を企んだのか、ほいと子機をよこされた。咄嗟に両手で受け取り、その結果・・・・・・ジーンズの守りがガラ空きに!!!  
 し、しまった!!!  
「あっ・・・やっ」  
『紗綾さん? どうしたんです、大丈夫ですか?』  
 大丈夫じゃないです。今弟に襲われていて大ピンチなんです。・・・なんて言える訳がない。  
「・・・だ、い、じょうぶ・・・です。何でもないです、ぅ」  
 子機を落としかけたのを持ち直し、片手で攻防戦に出たけどもう遅かった。  
 あわれ、スリムジーンズは膝下まで下げられてしまった。ショーツごと。  
「龍也!! っと、と、・・・友達が待ってるのよ、早く支」  
 支度しなさい、と言いたかったのに・・・。  
 
 太腿を掴み上げられ無防備に晒された所に、弟が顔を押し付けている。  
「あんっ! ・・・ふ、ぁぁ」  
 堪えても声が漏れてしまう。暖かい舌が、生き物のように・・・・・・  
『さ、紗綾さん? 本当に大丈夫ですか?』  
「・・・・・・」  
 うまく返事が出来ない。  
 腰が浮かされてしまっていて起き上がることが出来ない。不安定な体勢にさせられて受ける刺激が、いやさらに私を追い詰める。  
 肩を捩じらせ押し寄せる快感に耐えて、呼吸を整える。は、早く返事しないと。返事しないと・・・。  
「あん・・・・・・だ、だ、い、じょう、ぶで・・・・・・ちょっと、・・・・・・その、コップ落っことしちゃっ・・・・・・・て」  
『コップですか? 大丈夫ですか? 怪我とかしたんじゃ・・・』  
 舐め上げられ、吸い立てられ弄ばれる。指が内壁への挿入を繰り返す。  
「大した、こと・・・、ぁ、ないですから・・・・・・」  
 もう駄目だ。これ以上は・・・・・!!   
「お・・・弟と・・・・・・、替わりますね・・・・・・」  
『あ、紗綾さん、ちょっと!』  
 子機を龍也に押し付けようとしたけれど、受け取るどころか熱心に舌と指を動かしている。  
「・・・・・・りゅ・・・っ! くっ! ・・・ふ・・・」  
 とうとうこみ上げてくる感覚が来た。来てしまった。  
 それに拍車を掛ける様に指の動きが激しくなる。・・・・・・絶対、感づかれた。  
 ・・・や、やだ、イキたくないよ。こんな・・・!!  
 触れて欲しくない場所をよりによって舌で弄ばれ吸い立てられて、止めが刺さってしまった。  
 感覚が振り回されて思うようにならなくなる。何も見えなくなって、心が何かに引っ張られて、・・・・・・奈落の奥底にまで突き落とされる  
「・・・・・・っ!!! ・・・ふ、ぁ、・・・はっ・・・ああ・・・・・・」   
 ああ。・・・・・・イッちゃった・・・・・・  
 熱く火照る身体からじわりと吹き出る汗。何もかもが麻痺してどうにも動けなくなる。自由がどこにも無い。  
 それをいいことに腕に残っていた服やブラも完全に脱がされて、ジーンズも布団と一緒にベッドから落とされた。  
『・・・そ、その、・・・紗綾さんだけに聞いて欲しいことが、あ、あるんですけど』  
 ぼんやりとした感覚を裂く音がした。  
 龍也が小さな袋からスキンを取り出しているところだった。・・・どこに隠してたのよこの人は・・・。  
 
「・・・・・・」  
 正気が戻りかけたところに、子機が再び話し始めた。  
『・・・・・・あ、あの紗綾さん、あの』  
「あ、は、・・・・・・はい・・・」  
 妙に緊張した感じだ。龍也もそれに気付いた。  
『龍也から聞いてると思うんですが、来週の土日、学園祭なんですけど、・・・もし良かったらその、紗綾さんも来てもらえませんか?』  
「・・・うん、・・・行こうと、思ってます・・・」  
 行かなかったら龍也に何企てられるやら。  
『で、も・・・もし、よ、良かった、っら、その後・・・なんですけど・・・・・・』  
「・・・・・・」  
『・・・・・・ふ、二人で、・・・・・・・・・・・・い、一緒に映画でも見に行きませんか?』  
「何で俺がお前と映画見に行かなくちゃならないんだ」  
『り、龍也!? いいいいつの間にてめぇ!?』  
『アンタも何女口説いてんだよ!』  
『うがっ!?』  
『俺にも言わせろ! 紗綾さぁん、好きだあー!!』  
『うるせぇ! 人の恋路の邪魔をするなあ!!!』  
『タコ!!』  
 電話の向こう側で突っ込みの嵐が吹きまくっている。女の子の笑う声もする。  
「恋路の邪魔ぁ? それは俺のセリフだっての。タコが!」  
 龍也まで子機に向かって悪態を吐いた。ん? 今、恋路のって・・・  
 ・・・ち、ちょっと! そのセリフは聞かれたらマズいんじゃ・・・!?  
 うろたえていると、明確な答えが来た。  
「電話、もう切っちまったから。心配ない」  
 
 通話ランプが確かに消えている。・・・緊張が解けてほっと息をついた。  
「・・・そう。良かった・・・」  
 ・・・陽射の下、弟の身体が露になっている。・・・私もだけど。  
 引き締まった体躯。整った輪郭。どこに出しても恥ずかしくない外見。  
 時間も、状況も忘れてホレボレと見蕩れてしまう。浮かべる微笑はまるで天使のよう。そして・・・  
「ああ、本当、良かったな」  
「え!!?? ちょっ、な、ななな」  
「何って、紗綾の朝ごはん。やっとありつけるぜ。ああ良かった良かった」  
 ・・・再び圧し掛かられてやっと事態の深刻さを思い出した。  
「や、あ、やだぁっ! やっぱり全然良くなっ!!」  
 一難去ってまた一難。今更な抵抗もむなしく悪魔の檻の中に囚われてしまった。ぐっと脚を開かれて・・・  
「いただきますっと」  
 龍也が、私の中に入ってきた。  
 
「わ、ちょっ・・・、りゅ、・・・あああっ! あん! あぁ・・・りゅ、うやぁ」  
 裂かれる感覚に強烈な圧迫感。実際裂かれはしないものの・・・・・・!!  
 息もできないくらいに押しつぶされて、抱き締められて、乱されて・・・。全てが龍也に奪われていく。  
「・・・ふー、いいよ、紗綾」  
「・・・・・・」  
 ・・・あんなに痛かったのに、今はそれ程でも無くなっている。もう血も出ない。それどころか・・・  
 こんなに辛くて苦しいのに、その中に何だか、別の感覚が疼いてくる。凄く・・・・・・その、“甘い”って、いうか、・・・・・・  
 ・・・って、駄目! 溺れてしまったら駄目なのよ私!!   
「う・・・ううぅ・・・」   
「何うろたえてんだよ、今更」  
「ああっ」  
 逃げようとするのを腰を掴まれて引き戻され、より深く繋がってしまった。  
「・・・それとも」  
「・・・?・・・」  
 見れば悪戯っぽく笑っている。何か思いついたような・・・、何だか、・・・・・・嫌な予感が・・・・・・  
「今自分から腰振ろうとした?」  
 
「!? ち、ちが!」  
「嬉しいな。・・・じゃ、早速」  
「きゃ!?」  
 嫌な予感は大当り。あれよというまに体勢を変えられてしまった。  
「これもすげ、気持ち良いんだぜ?」  
 上体を起こして抱き締めあう格好になった。・・・やだ、恥ずかしいよ。こんなの。  
 しかも、さっきよりも、・・・・・・お、奥に・・・・・・  
「あぁ・・・ん」  
「じゃ、・・・いくぞ」  
 慣れない体勢に戸惑う間もなく身体を突き上げられた!  
「!!」  
 今迄と全く違う刺激が全身を襲う。粉々に砕かれてしまいそう。  
「ほらっ、良いだろ?」  
「や、あっあっ! いやっ!! 駄目ぇ!! 動、かないでっ」  
「・・・ああ」  
 龍也にきつくしがみ付き、行為を止めさせた。・・・とても耐えられない衝撃だった。  
 涙ぐんで肩で息していると、ごつごつした手がお尻を撫でてくる。そして、余裕の無い私に対してとんでもない事を要求してきた!  
「じゃ、やってみ」  
「!? なっ」  
「動いて。今の感じで。ゆっくりでいいから」  
 な、な、ななな何を言い出すのよ!!! この人はぁ!!!!  
「で・・・きるわけ、ないじゃな、そんなこと!」  
「そんなことないって。気持ち良かったろ?」  
「・・・・・・ぜ絶対、無理・・・・・・」  
 今顔面蒼白になっているのか紅潮しているのか、自分でも分からないくらいに動揺しているところに、強烈な追い撃ち。  
「でも紗綾が動いてくれないと、・・・終わんないぜ?」  
「!?」  
 背中に絡み付いてくる腕は、まるで蛇のよう。  
「それとも・・・夜までこのままでいる?」  
 
 龍也の凄く意地悪な顔。・・・・・・やだ、こんなこと。言いなりになんかなりたくない! ・・・・・・でも・・・・・・  
「・・・・・・」  
 体の奥で、異物が熱を放っている。囚われて、身体が震えて、疼いて疼いてたまらない。とても無視できない、熱。  
「ほら。・・・紗綾」  
 あやす様な声で誘い、そして鋭く追い詰める。・・・これは何? 一体何の催眠術? ・・・・・・どうしてだろう、もう、逆らえ、ない・・・・・・  
「・・・ん・・・」  
 息を吐いて、瞳を閉ざして、・・・龍也の肩をぎゅっと掴んだ。・・・その時!  
 
 いきなり子機が鳴り出した!!!  
 
「!!」  
「!?」  
 龍也が顔をしかめた。  
「っ・・・キツい。締めんな、紗綾」  
「・・・!」  
 ごめん、と言うこともままならない。パニックになってしまってどうすることも出来ない。  
「紗綾っ!」  
 龍也の苦しそうな声。でもどうしたらいいのか分からない。  
「・・・うう・・・」  
 唯一の良策、と、身体を離そうとすると、それは龍也自ら阻止してきた。  
「・・・ったく、しつけーな!!」  
 龍也が子機をとった。繋がったままで。  
『お前な、話途中で切ってんじゃねえよ! 兎に角直ぐ来い! 今来い!』  
「山崎・・・殺すぞてめぇ」  
『・・・何逆ギレしてんだよキレてえのはこっちだよ』  
 お互いの、少しの身動ぎがそのまま刺激になってしまう。その度・・・声が、声が!!!  
「まだ何か用事かよ!」  
『ああ! オメーにゃあ日頃から・・・・・・』  
 何を話しているのか分からない、聞こえない。  
 声を堪えることしか考えられない。押さえなくちゃ、何とかして、押さえなくちゃ!  
 
 ・・・どのくらい時間が経ったのだろう・・・  
『・・・・・・だー、もう、早くメシ食って来いよ!』  
「二度とかけてくるな!!」  
 憎憎しげに子機を放り投げるのを見て、漸く話が終わったのが分かった。  
「・・・・・・」  
「んのタコが・・・余裕なくなっちまったじゃねえかよ!!」  
 言うが早いかベッドに強く押し付けられた。・・・余裕が無いのは私も同じ。  
「・・・何枕なんか抱いてんだ?」  
 偶然手に当たった枕を咄嗟に抱きしめて、さっきからずっと口に押し付けていたのだ。ぎゅうっっと。  
「・・・・・・」  
「もう、声出していいぜ? ほら」   
「・・・っ・・・・・・!! くぅ」  
 やっぱり駄目。声を出す訳にいかない。だって・・・  
 さっき掃除してたとき、窓はどうしていただろう? たぶんどこかを開けたままだ。もし、その窓から外に聞こえてしまったら? ・・・・・・他人に気付かれしまったら?  
 とても声なんか、出せない。  
「声、聞かせろよ、紗綾・・・」  
 龍也の髪が揺れるたび、私も揺れる。強い刺激に苛まれる。  
 凄く硬い、大きいモノが、何度も私を突き上げる。十分奥に当たっているのに尚も深く入ろうとしてくる。  
「そんなモン、・・・抱きつく相手が違うだろ!」  
 枕を奪い取られても、尚も縋る対象を求め、・・・龍也にしがみ付いた。他に方法が無かった。  
 掻き乱してくる律動に身も心も壊れそうだ。  
「・・・っ! !! っくぅ! ・・・っひう、ぅ!」  
 決して声を漏らすまいと、必死で、口を押し付けた。その場所がどこなのか考えていられなかった。  
「たく、強情だな。・・・痕つけんなよ。ばれたら恥ずかしいだろ」  
「・・・・・・」  
 もう、何も聞こえない。何も見えない。感じられるのは激しい突き上げだけ。  
 そして・・・・・・、強い痺れに襲われて、最後のしがみ付く力さえも尽きてしまった。  
「・・・ふっ! くぅ!! ・・・あぁ、・・・さあ・・・や・・・」  
 弟が絶頂に達したときには、私の意識はとうに途絶えていた・・・。  
 
 気が付くと父の部屋でベッドに寝かされていた。全裸で。  
 あれ私、確か掃除してたはずなのに? ・・・・・・と、ここまで寝ぼけてやっと我に戻った。全ては事が済んだ後。  
 布団は龍也が掛けてくれたんだろうか。  
「りゅ・・・、・・・や?」   
 かすかな音が廊下から聞こえる。たぶん、洗面台で髭でも剃ってるんだ。  
 1階と2階を幾度か往復して・・・  
「紗綾、玄関掃除機出しっぱなし。人来たらどうすんだよ」  
 弟が悠々と部屋に入ってきた。反対にベッドから動けない私。疲労感倦怠感が酷くて指先も動かせません。  
「・・・・・・」  
「何だよ、まだ寝てんのかよ」  
「・・・・・・だ・・・・・・」  
 ・・・誰、の、せい、だ・と・・・お思いですかー!! って、・・・ちょっと、笑ってるでしょ、今!!  
「あー、あー、まだ寝てていいさ。はは。・・・んじゃちょっと行って来るわ。タコのやろ、秒単位でメール送ってきやがる」   
「・・・・・・」  
「夜には帰る。晩飯、アジフライな」  
 ベッドに屈み込まれても私は横を向いたまま。視線を合わすのも億劫。そんな私の心情を、知ってか知らずかお構いなしか。  
「・・・さあや・・・」  
 まるで恋人にするみたいに頬にかかる髪をかきあげて、下顎を捉えて自分に向かせると唇を重ねてきた。優しく、深く。  
 離れ間際、耳元に囁く言葉は・・・。  
「昨夜みたいに部屋に鍵かけてんじゃねえぞ?」  
 
 颯爽と家を出て行く龍也。・・・中学、高校とそうだったけど、弟は大学でも物凄い人気らしい。  
 まあ、一般的に言うところの“イケメン”だし、ね。小さい頃なんか、本当、お人形さんみたいだったし。  
 今だって読モなんかをちょくちょくやってるらしいし。店が開けるねってくらいチョコもらった事だってあったし。  
 正直に白状すればそりゃ、私だって密かに好意持ってましたよ? 疎遠状態がもどかしいほどに。ああ、カッコいいなあって。  
 でもね?   
 その“イケメン”にどんなに一途に想いを寄せられていても(それは凄く光栄で嬉しいけど)、どんなに激しく求められても(それは物凄く嬉し・・・っていうか何ていうかその・・・)・・・・・・  
 
 私達“姉弟”なんですけど!!  私、“お姉ちゃん”なんですけど!!!  
 
 この関係はどうにも宜しくない。絶対宜しくない!!  
 冒頭16行目までは順調だったのよ! 誤解と苦難を乗り越えた麗しい姉弟愛で締めくくれたのよっ!! それなのに!!  
 昔から我を通すタイプではあったけど、どうしてこんな方向に突き抜けてきちゃったのよ!?  
 ・・・・・・一体全体、何が何だか本当に分からない・・・・・・  
 ああ天国のお母さん、私は育て方を一体どこで間違えたのでしょうか???  
 
 《紗綾・・・・・・あなたの育“て”方は間違ってなんかないわ。ただ龍也が育“ち”方を間違えただけなのよ。オホホホホ・・・・・・》  
 
 聖母のように微笑む母の幻が微妙な責任転嫁をして掻き消えていく。・・・あぁお母さん。それじゃ何の解決にもなってないですぅ・・・・・・  
 神も仏も助けちゃくれない。この事態で助けなんか求めたら、2人仲良く火あぶりになっちゃうし。  
 滂沱の涙が頬を伝う。・・・いっそ涙の川で溺れてしまえたら。  
 私はただ、口も聞かない疎遠状態さえ解消できれば、それだけで良かったのに・・・・・・それなのに・・・・・・  
 ああ、こんなこと・・・・・・、こんなこと・・・・・・  
「・・・・・・みのもんたにも相談できないよ・・・・・・」  
 
 多岐川紗綾26歳会社員の悩みは、・・・・・・・・・当面暫く解決しそうにない。  
 

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