寄生  
 
「はぁ・・・はぁ・・・」  
 青年が雨が降りしきる森の中、息を荒げさせながら足を引きずって歩いている。  
雨によって濡らされ幾分泥で汚れているが、服の外見からその青年が良家の子息であることを想像する 
のはそんなに難しいことではないだろう。  
「もう少しです・・・確かこのあたりに洞穴があるのですが・・・ご主人様、もうしばしのご辛抱を。」  
 彼の体を支えている一人の女性。名前を由舞という。軽装のうえにそれが雨によって濡らされて皮膚 
にぴったりとくっついているので、彼女の豊満な体のラインがよくわかる。  
傍から見ていると、二人は雨の中を歩く男女にしか見えないが、由舞は人間ではなかった。  
 3年前、この青年がひょんなことからこの人間型魔族に遭遇し、そしてある契約を結んだ。 
以後、この由舞はこの青年に仕えることとなった。  
「あっ!あそこに洞穴がありますよ。ご主人様、入りましょう。」  
「・・・・・・・・・」  
 青年は声を発さずに、ただ首を前に振った。 
彼の体が弱りきってしまって声に出してこたえる余裕がなくなってしまったのだろうか?  
 二人は洞穴に入り、彼を壁にもたれ掛けさせると彼女は青年の前にかがみこみ、太ももの部分を見た。 
そこには青年の体内から傷という経路で出ようとする赤い血が、彼女が止血しようとして使ったと思わ 
れる白い布を赤く滲ませていた。  
 
 
 話は二日前にさかのぼる。青年は父の使いとして館から片道三日ほどかかる港町へ向かうように父に 
命じられた。これらはたびたび申し付けられていたことなので、青年はさほど気にもせず身支度を整え、 
由舞と共に館を後にした。出発一日目は何もおきなかった。そして二日目の昼、二人が洞穴に入る数時 
間前、青年は何者かの襲撃を受けることになる。  
 ちょうど雨がぽつりぽつりと地面に落ち始め、二人は濡れることを逃れるために木陰で雨宿りをして 
いた時、何者かが飛ばしたものが青年の太ももに刺さった。  
青年が刺さった痛みで、声を漏らしたことでそれまで雨に気をとられていて、敵の気配をたどることが 
できなかった由舞は自分たちが襲撃されていることに気づく。すぐさま、青年の太ももに刺さっている 
ものを抜き、これを飛ばされた方向を推測し、その方向に意識を集中させる。 
遠くに物音を立てる大きな物体を認識したら、即その物体のもとに猛進していた。追われる者は由舞の 
存在を知ると腰を抜かしてしまった。そのときの由舞は普段のおっとりとした表情ではなく、過去に記 
された書物に書かれている悪魔像に匹敵するぐらいの恐ろしさおよび冷たさを持っている容貌だった。  
「あ・・・あわわわ・・・」  
腰が抜けて逃げることもできない襲撃者にかまうことなく、由舞は手刀を彼に振りおろす。  
その軌道は美しい曲線を描き襲撃者の首に向かっていく、襲撃者の頭部は手刀の一撃で胴へ永遠の別れ 
を告げられることとなった。 
由舞は敵を処分したことを確認すると、主人である青年の元に戻っていった。 
彼女が戻るころにはすでに青年は吹き矢の毒で横たわっていた。  
 
「何・・・この毒は・・・」  
 洞穴の中、由舞は顔色の悪い青年を前にして先ほど彼の太ももに刺さられた吹き矢を見て困惑していた。 
彼女は毒薬に関する知識はかなりのものであったが、彼女はこの毒を判別することはできなかった。 
ただわかるのは、異常に即効性が高くきわめて危険な毒であることだけが青年の様子からみて明らかで 
あった。判別することができない以上、魔力によって解毒することもできない。  
「さすがに・・・・わからないんだな・・・」  
青年の力ない言葉が洞穴の中に響く。  
「よかったな・・・由舞・・・・これで契約が切れる・・・・僕が死んだら寄生の媒体となっている僕 
の体ごと・・・お前の体に取り込むといい・・・・」  
「そんなことは言わないでくださいまし!」  
由舞は涙を流して、青年の体に抱いた。青年はあまりの突然の行動にあ然としたが、やがて彼女の体を 
両腕で優しく囲んでいた。  
 契約__それは3年前はじめて二人が遭遇したときに交わした、由舞が青年に仕えるかわりに、彼女 
の体の維持に必要なエネルギーを彼の体に寄生することで受け取るというもの__これによって最初は 
ただ仕えていただけの由舞だったが、かいがいしくお世話していくうちにこの青年をいとおしく思えて 
くるようになっていた。  
「確かに解毒の方法はわかりません。ただ一つだけあります。ご主人様が助かる方法が。」  
そういうと由舞は自分の服を脱ぎ、その豊満な裸体を青年の目の前に晒した。  
 
「・・・・・いきなり何を・・・・・」  
 裸体で彼に寄ってくる由舞を青年は制した。彼とて若い男、こんなに胸、尻、ふとももと肉つきのい 
い女性を見て欲情しないはずがなかった。  
「我慢しないでくださいね。」  
由舞は彼がとめるのを振り切って、彼を裸にするように服を脱がしにかかる。青年は抵抗したが毒に侵 
されているため手足に力が入らない。みるみるうちに青年の服は剥ぎ取られ、彼も由舞の前に裸体を晒 
すことになってしまった。  
「ご主人様、ご立派なモノをお持ちですね・・・」  
由舞は青年のそそり立つ男性器を見て悦の表情を浮かべていた。由舞の胸の突起物で彼の皮のかぶった 
モノを弄ってやると、青年は艶っぽい悲鳴を上げた。  
「冗談・・・だろ?・・・こんな状況で・・・」  
「冗談ではありません。私のナカはまだ濡れてないのでちょっと痛いかもしれませんが。」  
青年を仰向けに押し倒した由舞は興奮しながら、彼の男性器を自分の女性器に近づける。  
彼のモノの先端が彼女の膣の入り口に接触しただけで、彼は再び声を上げる。  
「ご主人様、やっぱり初めてなんですね。」  
「やめてくれ・・・お願いだから・・・」  
「これもご主人様を毒から助けるためです。いきますよぉ。」  
 由舞は腰を深く下ろし、青年の男根を自分の膣内に受け入れた。そして、由舞は腰をめいいっぱい振 
ることで男根と膣を激しくこすり合わせる。  
「さあ・・・いっぱい出してください。」  
「うぁ、動かないで・・・」  
 
 青年は毒が回って動けないので、この性交の主導権は彼の体の上にまたがって腰を振っている由舞に 
ある。性交によって興奮した彼女の脳が膣内の体液を分泌するように生殖器に指令をだす。それによっ 
て出された由舞の愛液で、彼女の膣内の摩擦係数が減り、青年の上で腰を振る由舞の体の動きが激しく 
なった。由舞に乗っかられている青年は次第に快楽を享受していくようになっていた。由舞の膣の中で 
上下に動く胸や下腹部を見て興奮したからであろうか。  
「もう・・・でちゃうよ」  
「出してください。私の胎内にいっぱい出してください。」  
 由舞は青年が射精が近いと知ると、腰を思いっきり深く下ろし青年の亀頭にある割れ目を彼女の子宮 
の入り口に近づけようとした。その上、自分の上半身を彼の上半身に密着させる。  
 由舞は自分の膣内に熱い体液が放たれたことを自ら認識する。その熱は彼女を絶頂に達する引き金と 
なるには十分であった。しばらくした後、由舞は上半身を起こして、  
「どうでしたか?ご主人様。」  
しかし、彼は全く答えない。動かない。呼吸もしない。  
「今度は私の胎内に寄生してくださいね。」  
そうすると彼女はある魔術語の詠唱を始める。  
 
 由舞と性交した後、彼はどこかわからないところに飛ばされていた。周りが赤色の囲まれた洞窟のよ 
うな空間。しかし、その壁から粘液らしきものが分泌されており、洞窟全体がかすかに振動していた。  
「さっきの洞穴と違う・・・」  
逃げようとしたが、前後ともに外界への出口らしきものが見つからないので、どっちに逃げたらいいか 
わからない。そして彼の体が何物かによって引っ張られているような気がした。その引っ張られている 
力が次第に強くなっていき、彼は抵抗できずにその力によってその洞窟の奥へ奥へと導かれることになる。  
「やはり、ぼくは死んでしまったのだろうか。」  
奥に引っ張られていくと、青年は前に粘液まみれの壁があり行き止まりを示して、いや前方の壁には小 
さい穴が見えた。  
「あの穴の先には天国があるんだろうな。」  
彼を引っ張る力は増し続け、彼の目の前にある粘液によってグロテスクな輝きを出している壁が猛スピ 
ードで近づいてくる。  
 彼の体は穴の中にめり込んでしまった。そしてなお何かの力が彼をその穴の奥へ奥へと引き込もうとする。  
「苦しい・・・けど・・・気持ちいい・・・」  
穴の中は狭くかったが、壁は柔らかくここの壁でも粘度の高い分泌液を出しているので彼の体は穴の壁 
によって何者かに抱かれている気がした、まるで先ほどの性交で抱かれた由舞のような。快楽を感じる 
反面、彼は壁に包まれているため息ができなかった。  
何も見ることができなかった。それでも引っ張られる力は止む様子を見せない。  
 
 暗黒の中、一人おびえる青年。これまで彼の周りにはいつも由舞がいた。契約で由舞が青年に寄生す 
ることで彼のエネルギーを彼女に与える代わりとして、いつも側にいてくれた。こんなに一人が怖いも 
のだとはじめて知った。彼は壁によって苦しめられている中、必死になって口を動かそうとした。彼が 
発そうとした言葉は  
『由舞・・・どこだい・・・』  
『ここですよ・・・ご主人様・・・』  
由舞の声が聞こえた。すると突然彼は、狭かった穴の中から開放され光の中に包まれる。  
しかし光が強すぎて何も見えなかった。ただ感じるのは、自分の手や足が分解されている感触だけ。 
痛みは感じないただなんか解かされている感触を感じるだけ。 
そして胴体や頭も解かされた。最終的には彼の意識までとかされてしまった。  
『・・これ・・・死・・・・・由舞・・・・僕・・・・天国に・・・導いて・・・・くれ』  
 
「いいえ、ご主人様は天国に行きませんよ。ふたたびここに帰ってのです。  
 ・・・・私の胎内に寄生して私の子として産まれてくるのです・・・」  
 
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
ここは・・・どこ・・・  
広い空間・・・天国じゃ・・・ないよね・・・・  
 
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
どうして・・・僕は壁にへばりついているのだろう・・・  
動けない・・・でもあたたかいから・・・いいや・・・  
 
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
周りにある・・・壁は一体なんだったんだろう・・・  
暖かくて・・・柔らかくて・・・  
 
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
下にある穴・・・そうかあそこから・・・入ってきたんだ・・・  
上にも穴があるけど・・・どちらにも寒気を感じる・・・  
 
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
由舞は?  
 
ドクン・・・ドクンドクン・・・ドクン  
 
あれ、由舞って・・・・誰だったかな・・・  
 
ドクンドクン・・ドクンドクン・・ドクンドクン・・ドクンドクン・・  
 
確か・・・僕と契約した・・・魔族で・・・  
僕の・・・母?あれ・・・  
 
ドクンドクン・・ドクンドクン・・ドクンドクン・・ドクンドクン・・  
 
もうわからなく・・・なってきた・・・・  
とりあえず・・・この柔らかい壁に・・・・守られて・・・  
もう少し・・・眠るとしよう・・・・  
ドクン・・・ドクンドクン・・・ドクン  
・・・ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・  
・・・ドクン・・・ドクン・・・  
 
体に・・・なにかが流れ込んでくる・・・これは・・・  
由舞が食べた果物なんだろうか・・・  
由舞が動いている・・・・  
暖かい液体に包まれていてもそれは僕にとっても運動となっている・・・  
 
・・・・ドクン・・・ドクン・・・ドクン  
 
この空間に閉じ込められてからもうどれ位経ったのだろうか・・・  
ここが何か狭くなっている・・・ような気がする・・・・  
いや自分が大きくなったのだろう・・・  
液体の中でも体を少しだけだが動かせるようになっていた・・・  
でも、そうすると由舞が痛そうな声を上げる・・・  
僕は由舞を悲しませないために・・・・ここから出ないといけない・・・  
かつて僕が入ってきた門の外は・・・由舞の中とはちがいすごく寒い気がする・・・  
でも、由舞を苦しめないためには・・・・  
僕はかすかに動ける腕を使って・・・・自分の頭の上にある穴を・・・  
大きく広げようとした・・・  
 
由舞・・・母さん・・・僕・・・産まれるよ・・・  
 
「ん!!んあ!!ああ!!」  
 由舞は体のすべてを晒しながら大きくなったお腹を洞穴の天井に向けて、必死に痛みに耐えている。 
彼女は陣痛に耐えていた。かつてこの魔族の主人だった人間が由舞の子として産まれ変わる瞬間である。  
 この9ヶ月間、魔術によって彼は形を変えられ胎児として彼女の胎内に寄生していた。  
胎内で胎児が大きくなるごとに彼女の腹は醜く膨らんでいった。 
しかし、彼女はそんなことは全く気にしていなかった。むしろ喜んでいた。自分の胎内で愛する人を育 
てている、愛する人が自分の養分を吸っている、愛する人が自分の子宮壁を押し広げていると思うとす 
べていとおしく思えた。  
 
オギャアオギャアオギャア  
 9ヶ月彼女の胎内に閉じ込められていた胎児が泣き声をあげて、彼女の下の口から完全に排出された。  
 由舞は羊水まみれの胎児を抱き上げて、泣き叫ぶ胎児にいった。  
「どうでしたかご主人様、私に寄生した感想は?  
 二人で寄生しあっていつまでも一緒にいましょうね。」  
end  
 

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