「ふぁっ…あっ、ゆぅいちぃ……すきぃ…んっ、あんっ!」
今、俺の目の前で艶っぽく、それでいて十七才という年齢に違わず、かわいらしい様子で嬌声を上げている少女、遠藤綾音は俺の恋人で、
幼馴染みだ。
『あいのかたち』
思えば綾音とこういう関係になったのは、いつ頃からだっただろうか?
確か初めてのキスは小学生……いや違うな幼稚園の年長、五才のときだったか。結婚式ごっこで「えいえんのあい」を誓い合ったのが最初だな。
もっともそれは記憶を遡れる範囲内のことで、本当のファーストキスがいつだったのかは分からないけど。
初めて互いの裸を見せ触れ合ったのは……これは、はっきり覚えている小学校五年生だったな。
保健の授業で男女の体について学んだとき、いわゆる「女の子だけ視聴覚室に集まってください」的な教育
(どうでもいいが生理という問題は後々男にも深く関わるのだから最初にきちんと説明したほうがいいと思うのだが)
を一通り受け終わって、実際どうなっているのか見てみようという話になって……それが最初だな。
もっともこれも性的な興味感心、そして興奮を持ってという意味で、それ以前にもお互いの裸など飽きるほど見ていたわけだが。
そのときの綾音の反応は新鮮で刺激的だったなぁ。俺がちっちゃなふくらみに手を触れると、顔を赤らめて小さな喘ぎ声なんて漏らしちゃって、本当に可愛かった。今でも綾音は本当に可愛んだけどね。
ちなみに俺はそのとき初めて「ぼっき」という現象を体感した。
初体験、初めてのセックスはそれまでの経緯から考えると少し遅めだったな。高校に入ってからだ。
これは、やっぱりセックスは最低限義務教育を終えてからにしよう、という今時の若者にしては立派な(?)意見が一致していたからである。
ああ、初めてのとき綾音がちゃんと安全日を計算していて、膣内射精させてくれたことには本当に感動した。そんな綾音の気遣いに応えるべく、俺も精一杯優しく挿入を行ったのだが。
いやー、しかしあれは激しかったなー。多分もう二桁も半分以上過ぎた俺達の愛の儀式の中でも一、二を争うだろう。綾音が感じだしてからは本当もう信じられないくらいヤリまくったからな。
回数なんて覚えてない。気付いたら小鳥が鳴いてて朝だったってぐらいだ。連休中でよかったと思ったね。お互いの家族はその連休を利用して旅行中だったわけだし。
俺達はテスト勉強があるからと言って(もちろん大嘘)中村、遠藤両家の毎年の伝統をその日はキャンセルしてことに及んだのだ。
しつこいようだが本当に激しかった。やっぱりお互い溜まっていたんだな。しかしいくらなんでもヤリ過ぎた。連休明けの体育の授業、そろって筋肉痛でろくに運動もできなかったからな。
おかげでクラスメイトにみんなばれてしまって、比較的新しい友達には、
「え、俺遠藤狙ってたのにー、ショックー!」
なんて言われたりした。
自慢するが綾音はかなり、いや凄く、いや究極に、いや……ここらへんで止めておこうか。とにかく可愛いのだ。具体的にいうと某大手、アイドルプロダクションで一番可愛いといわれてる娘の倍は、いや十倍、いや百倍、いや……いい加減くどいか、ここらへんで止めときます。
昔からの友達は、
「えっ!お前らまだやってなかったの?」
とか言って意外そうにしていたな。そんとき俺は、
「失礼な!俺達は純粋なんだよ。ピュアなんだ。ピュ・ア」
とか言ってやったっけ。
後から聞いたんだけど綾音の方も何人かの女子から、
「えっー!中村くんと綾音そういう関係だったのー!中村くんいいなーって思ってたのに……あーマジショックなんけどー」
とかなんとか言われたらしい。俺としては綾音以外の女子とどうにかなる気なんて、さらさらなかったのだが、やっぱりもてることに悪い気はしなくてつい頬を緩ませてしまった。もちろんその緩みは綾音のかなり強い抓りのおかげで、すぐに引き締まったのだが。
初体験を終えてからは平均週二ぐらいのペースで交わり続けている。友達に、
「それほどやってるといくらなんでも飽きね?」
とか言われるのだが、とんでもない。むしろヤレばヤル程、綾音との行為はまるで酒や(飲んだこと無いけど)危ないクスリ(使ったこと無いけど)の依存性の如く俺を魅き付けるのだ。
あー、悪い。上の表現忘れてくれ。綾音との行為を酒やクスリ等のマイナスイメージを持つものに例えるなんて、俺どうかしてたわ。
でも本当に依存性は凄いからな。いろんな事情が重なって二週間程できなかったときがあったのだが、発狂寸前になった。いや、マジで。
一人ですりゃーいいじゃん、とか思うだろ。でも違うんだ。綾音とのアレを体験したら一人でヤル気なんて兎の毛程もおきない。
綾音と交わったことの無い男には一生分からないことだがな。ああ、ちなみに綾音の事考えて一人でヤルやつ気をつけろよ。明日ぐらい家が全焼してるかも知れないからな。
まあ、なにより一人でやるなんて綾音に悪いしな。
嬉しいことに、いや当たり前のことにそれは綾音も同じだったようで、その二週間ぶりのセックスはそりゃあそりゃあ激しいものになった。
ベッドどころか家が軋み傾くぐらいの勢いだったからな。家の近所の人、数人が地震と勘違いして飛び出して来たぐらいだ。
例によってお互いの家族は旅行中、本当旅好きの人達で助かったぜ。いや、別にラブホでもいいんだけど、金銭的な面や時間制限、おちつき、その他諸々考えるとやっぱり我が家が一番なわけで。
あー、早く金貯めてマイホーム買いたいなぁ。
んっ?ああ、そうだよさっきの一、二を争う激しさのもう一つはこっち。
そういえばあんなこともあったなぁ………
「……………」
さっきからあたしは必死に腰振っているのに、裕一はどこかうわの空で中空をぼぉーっと、眺めている。他のところにはたいてい不満は無いのだが、裕一のこの癖だけはやっぱり許せない。
どうせ考えてることはいつも通りあたしとの「愛の遍歴」とかいうやつで、変な自問自答を繰り返してるだけなんだろうけど。いい加減、腰も疲れて来た。一旦動きを止め、
「裕一ぃ……他の女の子のこと、考えてるんじゃないでしょうねぇ?」
裕一のほっぺを少し強めに抓り、答えの解りきった質問をしてみる。裕一は、はっと我に帰ってあたしの目をじっと見た。
うー、かっこいい。もう反則!その目線だけであたしイっちゃいそうだよ。
「んなわけねぇだろ」
裕一の低くて渋い声。背中がゾクゾクする。
「じゃあなに考えてたの?」
「俺と綾音の愛の遍歴」
ほうら、やっぱりね。
予想通りの答えに満足したあたしは、裕一にさらなる快楽を求める。
「あたしちょっと疲れちゃったわ……今度は裕一が動いてよ」
「ん、分かった」
そう言って裕一はさっきのあたしが上に乗った状態から、身を起こし向かい合うようにした。
「ーーーっ!!」
挿入したまま体位を変えたので、あたしの敏感な部分がこすれて危うくイキそうになってしまった。そんなあたしの様子を見て裕一は意地悪そうに微笑む。
「ったく。座位にした途端これかよ。綾音、本当にこの体位好きだよな」
裕一の言う通りあたしは座位が大好きだった。
挿入の深さでいうと、ほぼ垂直に貫かれる騎乗位も好きなんだけど(あたしの方から激しく動けるし)こっちは密着度も高いし、何より大好きな裕一の顔が正面に、それもかなり近いところにくるのが堪らない。
ちなみに嫌いな体位はバック系全般。それを伝えると裕一は、
「なんでだよ。俺は結構好きだけどなバック系」
と不思議そうな顔をした。
「だって……大好きな、ダイスキな、だぁーいすきな裕一の顔、見れなくなっちゃうんだもん……」
「……あー!もう!可愛いなぁ綾音は!」
暫くの沈黙の後、裕一はクシャクシャっとあたしの髪を撫でながら言った。
裕一が誉めてくれた。頭を撫でてくれた。それだけであたしの心は幸福感で満たされる。
「分かった。綾音が嫌ならもうしない」
「あっ、でも裕一がしたいならいいよ」
「いーや、もう二度としない」
「いーってば」
「絶対しない」
「いいって」
「ダメ」
「いい」
「じゃあ五回に一回だけ」
「多いよ……十回に一回」
「六回」
「八回」
「「七回」」
声が被った。あたし達はくすくすと笑いあう。
「じゃあそれぐらいで」
「うん」
他愛ない、他人が聞いたら鼻で笑って呆れ果てるようなくだらなく、幼稚な会話。
でもそれはあたし達にとってはかけがえの無い大切な、大切な会話。一つ一つ積み重なってあたし達の今を創ってきたもの、これからのあたし達を創っていくもの。
そんなことを思っただけで、なんでこんなに……こんなに幸せな気分になれるんだろう?
答えは決まってる。愛してるから。世界中の誰よりも裕一のことを愛してるから。
「裕一……」
「んっ?」
「愛してるわ」
「俺も綾音のこと愛してるよ」
あたし達は抱き合った。強く、強く、互いの骨が軋む程。そしてまた、
「愛してるわ」
「愛してるよ」
その言葉を口にする。
他人はこんな軽々しく愛してるなんて言い合うあたし達を訝しむかもしれない。でも仕方がない。愛してるって気持ちが溢れて、どうしようもないのだから。
それにあたし達の愛は決して軽々しいものなんかじゃない。
だいたい結婚して、愛を誓い合うカップルの付き合いがどれ程のものだと言うのだ。その伴侶に注ぎ込む愛がどれ程のものだと言うのだ。せいぜい十年。何人かと付き合った後、適齢期になったから。そんなのは愛じゃない。
あたし達は違う。生まれてから十八年近く、ずっと同じ相手に愛を注ぎ込んで来た。狂おしい程愛おしい幼馴染みに。
歪んだ価値観だと言われてもいい。馬鹿な奴らだと蔑まれてもいい。あたし達は知っているから。愛でるべきたった一つの、あたし達だけのあいのかたちを。
あいのかたちは一つじゃない、なんてどこかのお偉いさんが遺した箴言なんて知ったこっちゃない。
あたし達のあいのかたちはこの一つだけ。愛する人と幼馴染みとして育んできた、そしてこれからも永遠に育んでいくこの一つだけ。
愛を言葉にしてから、綾音は俺にしなだれかかるようにして密着して黙っている。またきっと俺との愛の深さを感じたりしているのだろう。
「ねぇ、キスしてぇ」 綾音の甘い声、そして髪から漂う鼻孔をくすぐる甘い匂い。それにうっとりしながら、俺は綾音の上唇をくわえる。
はむ。
続いて下唇を。
はむ、はむ。
決していきなり舌を入れたりしない、お互いまるで壊れやすい宝物を扱うよう、唇を求めあう。
「うっ…はぁん…はぁっ、ゆういちぃ……」
「綾音、…ふぅ、はぁっ…はぁー……」
「舌……ちょうだい」
十分唇の感触を楽しんでから舌をからめる。ここからは激しい。ハリウッド映画など比べものにならないほど、深く激しいディープキス。
歯列、歯茎、頬の裏、相手の口内を余すとこなく愛撫する。舌が激しく絡み合い、二人の境界線が無くなったかのように動き回る。ときに垂れる唾液に赤い色が混じる程、俺達は激しくキスをする。
「うぅんっ!はぁんっ!あっ……」
「んうっ…くっ……」
くちゃ、くちゅっ、くちゃっ………
ディープキスの音がさして広くない俺の部屋に響く。
二人の唾液が混ざりあい、泡立つ。
キスに没頭しすぎて呼吸がおろそかになる。そうしてお互い酸欠気味になり、ぼぉーっとしてきたところでやっと唇を離す。二人の間をつぅーっと糸が引き、カーテンの隙間から差し込む夕日によってそれは紅く煌めいた。
そして綾音は微笑む。いつもと変わらない。いつまでも変わらない無邪気な顔で。
「ふふっ……やっぱり裕一のキス最高だよ」
「俺も最高……そろそろ動くか?」
「うん。また二人一緒にイこうね」
俺は綾音の背中に手を回し、しっかりと抱き締める。綾音は俺の頭に手を巻き付けるようにして、頬と頬を接触させた。綾音の長い黒髪が鼻をくすぐってこそばゆい。
「綾音、髪の毛くすぐったい」
「あっ、ごめん、ごめん。……よっと」
綾音は一旦俺から手を離し、手首に巻いてあったゴムで髪をまとめ上げた。
「ポニーテール萌えっ!」
「ポニーテール萌え萌えっ!」
そんな意味不明な会話をしつつ先の体勢に戻る二人。
「じゃあ、動くぞ」
「うんっ!」
俺は腰を軽く浮かせるようにして前後上下に振る。俺のものが綾音の膣内を掻き回すと同時に、凄まじい快楽が襲ってきた。綾音の膣内は、もうありえない程の締め付けで俺をぎゅうぎゅうと圧迫する。
「うっ…うっ!綾音の膣内、いつもどうりあったかくって、ぬるぬるで、凄くきつくて……気持ちいいよ」
あまりの快楽の奔流によって情けない声が出てしまった。
「あっ!あたしもっ……裕一の、お、おちんちん硬くて大きくて、あたしの一番気持ちいいところにあたるのっ!いいっ!気持ちいいよぉ〜」
「綾音!あやねっ!はぁっ、はあっ……」
「裕一!ゆぅいちぃ!あんっ、ふわっ!あっ……!」
俺達は涙を唾液を垂れ流しながら醜く、美しく、その矛盾する二つの要素を孕みながら快楽の海に溺れる。
二人の結合部からはずちゃ、ぐちゃっといった、おおよそ上品とはいえない音が漏れ。ベッドは激しい動きでギシギシと音をたてる。
俺達は絶頂を求めさらに激しく腰を振り、互いの性器をすりあわせる。
「綾音、すっ、すごいよ!ヒダが絡み付いて……くうっ!もう射精るっ!」
「だっ、だめっ!もう少し、ああっ!も…う少し…あんっ!」
「くうぅぅぅっ!」
綾音の要望に応えて射精を必死でこらえ、さらに激しく腰を振る。
「あっ、くる!あ、あたしももうっ、ふぅっ!おっ、奥で、裕一!一番奥に射精してぇ!」
俺は綾音の一番奥に自分の分身を叩き付ける。
その瞬間綾音の膣内が痙攣したように引き攣った。その最後の攻撃を受け俺は綾音の一番奥に射精した。
「くうううっ!」
「ああんっ……」
どくんっ!どぴゅっ!びゅるっ!びゅるるるっ………
大量の精液が俺の先端から綾音の膣内に注ぎ込まれていく。
「あっ…熱いよぉ……はっ、はぁっ。ゆういちぃ……」
綾音はすっかり上気した顔で俺を見つめている。恍惚としたその表情は綾音も達したことを示していた。
俺達はもう一度強く抱き合いキスをした。
そして――
――未だ猛々しくそそり立つものを引き抜いた。
「えっ………」
綾音は信じられない事が起きたかのような驚きの表情を浮かべている。
そりゃそうだ。俺達は一回達したぐらいじゃあ決して満足しない。安全日のときは繋がったまま二回、三回と行うのが常だった。
「あ、れっ?ゆ、裕一……どうしちゃったの?」
「…………」
俺は応えない、応えてやらない。
「ひょっとして疲れちゃった?じゃあまたあたしが上に……」
四つん這いで近づいてくる綾音を手で制した。
「えっ!」
驚愕の表情。
「だめっ!今日はこれでおしまい」
なるべく感情を押し殺し、冷たく聞こえるように言う。
「なっ、なんで裕一だってまだそんな大きくなってるじゃない。ほっ、ほら、そのこはピクピクしてあたしの膣内に入りたがってるよ」
「綾音のおまんこも俺の欲しそうにヒクヒクしてるよ」
「う、うん。だからほら早く、早く入れてよ。お願い」
そう懇願する綾音の声は涙声で、俺を上目づかいで見つめる瞳には涙が溜まっていた。
「だめ」
まだだめ。もっともっと焦らす。
「!?」
さすがにこれほど焦らしたことは初めてだったので、綾音はかなりショックを受けているようだ。まあ、俺の思惑なんてとっくにばれているかもしれないが。
「そっ、そうか!口、口でして欲しいんだよね?裕一フェラ大好きだからなぁ。やだなぁー、そうなら早く言ってよ。じゃあ……」
俺の醜悪なものに桜色のぷるんっとした唇を近づける綾音の両肩を掴み、その動きを止める。そしてじっと瞳を見つめる。
「だめ」
その言葉を聞いた瞬間、綾音はついに泣き出してしまった。
「うっ、うっ、う〜〜〜〜っ」
ダイヤモンドより綺麗な瞳から美しく輝く涙がこぼれだす。
「えぐっ、ひっ、ひぐっ、やぁ、やぁだぁ!これでおしまいなんて言わないでよぉ。ゆういちぃ、だ、大好きだから。あ、愛してるから。もっといっぱい、いっぱいしてぇ。お願い、お願い……」
声を震わせて繰り返す綾音。
やべぇ、やべぇって。もう可愛過ぎる。小さい頃から何度も見てきた泣き顔なのになんでこんなに新鮮で可愛く見えるんだ?
俺ももう我慢の限界だ。
「わかったよ。じゃあ十秒数えたらしてやる」
綾音はぱあぁぁっと表情を明るくして微笑んだ。そして元気良く、まるで無邪気な子供のように、
「うん」
と頷いた。
「いーち、にーぃ、さーん」
明るい微笑みと共にカウントが始まる。
「ごーぉ、ろーく、しーち」
期待の笑いと共にカウントが続く。
「きゅーう、じゅっ!」
満面の笑みと共にカウントが終わる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ふぇっ」
「冗談だよ」
綾音の顔が再び崩れる前に言って、唇を重ね、押し倒した。
そして、俺の焦らし攻撃によってぬれそぼったそこに、限界まで張り詰めたものを挿入する。あっというまに奥までたどり着き先程以上の快楽に襲われる。
「はぁ、やっぱり焦らしたから最高!綾音もそうだろ?」
「うんっ!」
笑顔で応える綾音、しかしその瞳には喜び以外の感情があることも、俺は勿論気付いていた。
「ーーってんなわけないでしょ!」
「ははははっ……いででで」
目の前で微笑む裕一のほっぺをおもいっきり抓ってやった。あたしは焦らされるのは好きだけど、今日のはいささか長過ぎた。裕一の演技力も手伝って本当に今日はもうおしまいかと思ってしまった。だからさっきの涙は半分は演技、半分は本気だ。
「でもやっぱり今最高に気持ちいいだろ」
「うっ……」
図星だった。そうなのだ結局のところあれはセックスを楽しむための演技。裕一はあたしが本当に哀しむことなんてするわけないのだ。
でもそれでも騙されそうになってしまう。いっけんおかしく聞こえるかもしれないが、その矛盾こそがあたし達のセックスを何倍も気持ち良くさせてくれるエッセンスなのだ。
それはこの長い付き合いがあり、幼い頃から互いの性格を熟知しているからこそ出来る、幼馴染み、いやあたし達特有の楽しみ方だ。
それは分かってる。分かってるけどやっぱり今日のはちょっと酷かった。
今度何らかの復讐を……そうだ!フェラのとき裕一の手を後ろに縛って、舌と手でいきそうになる寸前までやってあげて、寸止め。これを何回も繰り返してやろう。小さい頃のようにわんわん泣かしてやるんだ。
「綾音……なんか恐いこと考えてるだろ?」
エスパーかあんたは。
まあ、あたし達の間ではテレパシーなんて当たり前なんだけどね。
「そんな、おこんなよ……綾音だって感じてんだろ?ほら、乳首だってこんなにかたくして……うんっ、綾音また少し胸大きくなったか?」
裕一は優しくあたしの胸を愛撫しながら、聞いてきた。
「うん。やっとDカップになったよ。裕一がいっつも揉んでくれたおかげだね」
「うーん。よっ、うん。おー!」
あたしの胸を色んな角度から揉んだり押したりする裕一。
「ちょっと、そんなにされたら、感じちゃうよ……」
「いい感じだな。これがベストだ。これぐらいならパイズリもできそうだし」
「んっ……はぁっ、そ、そう?ならもうこれ以上大きくならないわね」
「何故に?」
「わかってるでしょ?だってあたしの体は裕一のためだけにあるんだもん」
そうあたしの体は裕一のためだけにある。そして裕一の体はあたしだけのためにある。今も、これまでも、これからもずっとそれは変わらない。
裕一はふっと笑った。
「そうだな、じゃあそろそろ激しく動くぞ」
裕一はあたしの乳首にむしゃぶりつき、腰を激しく振り始めた。裕一の手が二人の間に滑り込み、あたしの敏感な部分に触れる。
乳首、クリトリス、膣内、最強の三点攻めだ。
「あっ、ああんっ、いいっ、裕一!いいっ!」
自分の膣内にもう一つの鼓動を感じる。熱くって激しいもの、しかしそれでいてそこにあるのが当然であるかのようなもの。
「うっ、うっー!いいよー!膣内も、おっぱいも、全部、全部気持ちいいっ!」
「お、俺も、綾音ぇ……ふっ、ふっ」
裕一があたしの入口から奥まで何度も、何度も往復する。裕一の先端が、ひっかかりが、熱い棒があたしの敏感な部分を何度も、何度も刺激する。
「ひっ……気持ちいいよおっ!なっ、なんで?なんで?裕一のおちんちんこんなにっ〜〜〜っつ!!」
あまりの気持ち良さに声が出せなくなる。裕一はそんなあたしの顔を見て、
「はぁっ、あ、綾音の感じてる顔、す、すごく可愛い!やべぇってそんな顔されたら俺もう、射精しちゃうって。綾音の膣内に、膣内にっ!」
さらに激しく動き出す。
「も、もう変になっちゃうよぉ。だめ!だめぇ!なんかくるっ!!」
あたしはもう頭で考えることすらあまり出来ない。それでも裕一をもっと楽しませるため、自身ももっと気持ち良くなるため必死でろれつの回らなくなった口を開く。
「ひゃ、ら、なかれっ、なかでだしてぇ!いっぱい、いっぱいだしてぇ」
「うっ……射精るっ!射精るっ!!」
裕一があたしの膣内で大きく脈を拍った。
「ーーーー!!」
音にすらならない声を上げてあたしは絶頂に達した。おなかの中に裕一の熱い精液がどくどくと流れ込んでくる。
意識が、遠のいてい、く…………
「さっ、最高……綾音大丈夫か?」
裕一の呼びかけによってあたしは意識を取り戻した。一瞬気を失ってたような気がする。
「ふあっ……らっ、大丈夫かなっ?もう一回ぐらいなら……」
今日はもう無理っぽかったけど裕一のために強がってみる。でもこういうときはたいてい………
「そうか……俺も今日はもう無理っぽいわ」
前後の会話は噛み合っていない。でも会話が噛み合ってないからこそ心はしっかりと通じ合う。そんなありえないパラドックスが、あたし達の間には確かに存在する。
裕一はイったばかりで敏感なあたしを刺激しないよう、ゆっくり萎んだものを引き抜いた。
「ふぅっ」
息を吐きながら、ボフッという音をたててあたしの隣に倒れ込む裕一。
「今日もよかったな……綾音は?」
「へっ?ああっ、さいこー」
まだ頭が少しぼぉっーとする。
「親が帰ってくるまで時間あるし。少し寝ていくか?」
「ううん、もう……大丈夫。それより……ねっ、あれして」
こういう時間制限があるとき寝てしまうのは少し勿体ない。裕一の腕の中で眠るっていうのは、すごい幸福になれるんだけど今はこっちが優先。
「わかった」
裕一が頷いて、布団を二人に被せる。そしてほとんど頭までそれをかぶり、中でいちゃいちゃする。
これは小さな頃からの習慣だった。本当に覚えてないぐらい小さな頃からの。多分お昼寝したときにはじめたんだと思う。
あたしはこの瞬間が大好きだった。もちろん裕一と繋がるのも大好きだけど、このまったりとしたなんともいえない雰囲気はやっぱりすごく好きだ。
「裕一、大好き」
あたしは裕一の髪を、頬をなでながら裕一の鼻やおでこに軽くキスをする。
「綾音、大好きだよ」 裕一はあたしを抱きながら優しく髪を撫でる。その黒くて長い髪はあたしの自慢。裕一がいつも、
「綾音の髪さらさらでつるつるで気持ちいい……」
こう言って褒めてくれるから。
あたし達は欲望を吐き出した後、いつもこうやって甘い言葉を囁きながら永遠と布団の中で過ごす。
喧嘩したとき、なにか嫌な事があったときもいつも布団に入っていちゃいちゃする。すると嫌な事とかもたいてい忘れることができて、いつもの二人に戻れるのだ。
「んっ、そろそろ時間だな」
俺は時計(綾音から誕生日プレゼントとしてもらった一流ブランドのもの)を見て。両親の帰宅時間が迫ってきてることを確認して言った。
「んっ、分かったわ」
綾音は布団から出ると用意してあったバスタオルを手にとり、それで体を隠しながら、綺麗にたたんであった服を着る。
綾音はセックス以外のときは裸を見せたりしない。むしろ極力それを避ける。そんな少し古風なところも俺が綾音を好きな理由だ。
んっ!なんか今違和感があったな……そうか俺が綾音を好きな理由なんて存在しない。強いて言えば綾音が綾音だから好きなのだ。
そんな古風な綾音が好きだ。
これなら問題ないよな?まだ少し変な気もするけどこれ以上の表現は思い付かねぇや。おっと俺も服着ねぇと。
「どう?」
制服を着替え終わった綾音は俺の前でくるっとターンをして見せた。
制服の着こなしは完璧、白い学校指定のニーソックス。これ以上ないほどの絶妙な長さのプリーツスカート。県内でも可愛いと評判なちょっと変わったデザインのセーラー服。胸のリボンは蝶々結びにされている。
「完璧、さすが二年連続、ミス清白学園優勝者」
「ふふ、ありがと。まだ時間大丈夫?」
「ああ、後十分ぐらいなら」
「そう。なら少し話しましょ」
綾音は俺が腰掛けているベッドに並ぶように座った。
「そういえば……今日本当に膣内射精して大丈夫な日だったっけ?」
「大丈夫よ。裕一も知ってるでしょ?」
「まあ、そうなんだけど……ほらちょうど去年の今頃、<生理が来ないの事件>があっただろ」
「ふふっ、あれねー。結局ただの生理不順だったけどね」
「笑い事じゃねーよ。俺あんとき親父さんへの挨拶の言葉も考えたんだぜ」
「大丈夫よ。大丈夫。それに万が一赤ちゃん出来ても今ならおっけーじゃない?」
「何故に?」
「だって今九月でしょ?二人ともほとんど推薦で東都大の合格決まってるようなもんだし、大学入ったら両親にちゃんと話して同棲するって決めてたじゃない」
「んっ、そりゃそうだな……でも赤ちゃん出来たら今みたいにはいっぱいできないぞ」
「うっ、それは辛い……」
「だろ」
「……でもそれなら裕一がちゃんとコンドーム着ければいいじゃない。膣内射精してもいいよって言うといつも以上にはりきるくせに」
「それは確かに……」
「でもまあできたらできたでいいわよ。遅かれ早かれ結婚はするんだし」
「それもそうだな……おっ、そろそろやばい」
俺がそう言うと綾音は立ち上がり、机の上の鞄を取った。
「送っていくよ」
俺も立ち上がる。
「送ってくって……家隣よ。いいわよ」
「いや送る」
「じゃあお願い」
いつもどおりの応答を終えて、俺は綾音の手を握り部屋を出る。階段を降り玄関へ。そして綾音の家までの十数歩を二人で歩く。
「ありがと」
「どういたしまして」
「じゃあいつもの」
「ああ頼む」
「愛してるのキス」
ちゅっ。
「ありがとうのキス」
ちゅっ。
「また明日のキス」
ちゅっ。
綾音は俺の唇に三回、軽くキスをした。
「じゃあね」
「じゃあな」
綾音が家に入って完全にドアが閉まるのを待って俺は自分の家に帰る。
自宅に着き二階に上がると、意外なことに一人の少女が俺を待っていた。
「まっ、舞!おっ、お前、今日部活で遅くなるって……」
「それがちょっと怪我しちゃった子がいてさー、顧問の先生が病院まで付き添って私達は解散ってわけ」
「そっ……そうか。その子は?」
「んっ、たいしたこと無いってさ。結局ただの捻挫。それより兄貴ぃ……」
ここで舞はにこぉっと不気味な笑顔を作り、俺が恐れていた事を口に出した。
「今日は激しかったねっ」
「ぐうっ……」
「はいっ」
舞は右手を差し出した。口止め料要求のポーズ。俺は財布(綾音が誕生日プレゼントにくれた若者に人気のブランドのもの)から千円札を一枚抜いて妹の手の上にのせてやった。
「毎度ありっ!……しっかし兄貴と綾姉ぇ本当仲いいよねぇ。聞いてたこっちが赤面しちゃったよ」
「まあな。でも舞と亮太も仲いいだろ」
「なっ!私と亮太はそんな関係じゃないよ。あいつはただの……ただの幼馴染みなんだから」
舞は最初怒ったようにして大きな声を上げたが、最後の方はなんだか寂しそうだった。
「ふーん。まあいいや。そこ通してくれ」
「だめぇっ!追加料金」
「はぁ?」
「いいからよこす!明日買いたいCDが発売されるの思い出した」
「おいおい、いい加減にしろよ。お兄ちゃん怒っちゃうぞ」
「俺と綾音の愛の遍歴」
うっ。
「七回」
ううっ。
「ポニーテール萌えっ!」
うううっ。
「生理が」
「わかった!わかったよもう!」
俺はもう一枚舞の前にお札を差し出した。
「足りない」
「へっ?」
「アルバムだから」
「…………」
「ベッドの中でいちゃいちゃ」
「どうぞ」
さらに二枚差し出した。野口英世と夏目漱石混合の四枚の千円札を受け取り、舞は自分の部屋へと意気揚々引き返して行った。
それをただ呆然と見送る俺。なんかみじめだ。
「ふうっ」
部屋に入り溜息一つ、しかし壁薄いのかなぁ?あそこまでよく聞こえてたなんて………
「あっ!」
ベッドの中でいちゃいちゃなんて言ってねぇぞ。あの小娘覗いてやがったな。そういやぁ今日は鍵確認すんの忘れてた。
くそうっ。
妹を怒鳴りに行こうと思ったがやめた。後で何言われるかわからんしな。
ベッドへとダイブする。綾音の匂いがした。すごく、すごくいい香り。綾音と赤ちゃんの話をしていたからでもないが俺は二人の未来に思考を巡らせる。
まあ間違いなく俺達は結婚するだろうな。これは決して子供の甘い憧れなどでは無い。もはやそうなることが決まっているのだ。それこそ俺達が生まれたときから。
無論俺達の関係は全くの順風満帆といったわけではなかった。それなりに嵐あり、大波ありだった。二人の大好物「ベッドでいちゃいちゃ」でも修復できないときも何度かあった。
でもそれは乗り越えてきた。だからこれからも乗り越えていける。それほどに俺達の十八年は重く尊い。
もし二人が別れることがあればそれはまさしく「死が二人を別つ」場合しか……いや俺達の関係は死ですら別つことはできないだろう。
俺達は片方を失うようなことがあったらすぐさま後を追う。死んだ人は生きている人の死を望んじゃいないなんて、そんなエゴイズム俺達には通用しない。
綾音に何かあったら俺は迷わず死を選ぶ。そしてそれは綾音も一緒だろう。
何故なら俺達は愛し合っているから。そしてまたあの言葉を呟く。
「おかえり、ねーちゃん」
あたしがリビングに行くと、亮太が一人でテレビを見ていた。
「ただいま」
「そーいえば、ねーちゃん宛に手紙きてたぞ」
亮太に差し出された手紙を受け取る。
「なんだろう?……あっ!」
それはあたしと裕一が大好きな女性ソロシンガーのシークレットライブのチケットだった。
「やった!当たった!当たった!」
携帯(裕一からもらったお揃いのストラップ付き)を取り出して、短縮の0のボタンを押そうとしたが、少し考えて思い止まった。どうせ明日会うんだし、いきなり目の前に突き出して裕一の驚く顔を見てやろう。
「まーた、ねぇちゃん顔にやけてるよ。裕一兄ちゃんのこと考えてたろ?」
「うん!考えてた」
「……そこまでおおっぴらにのろけられると冷やかす気にもならないね」
亮太はふぅっと大袈裟に溜息をついて、肩をすくめた。
「それに髪形、朝と変わってるし……またヤッてきたんだろ?」
「えっ!?」
あたしは慌てて頭の後ろに手を伸ばす。
「あっ!」
さっきポニーテールにして、そのまま帰って来てしまったのだ。
「ち、違う。これは今日体育の授業があったからその時に……」
「はい、はい。でも気をつけてくれよ。俺この年でおじさんになるのは嫌だぞ」
「亮太!」
あたしが少し大きめの声を出すと、亮太は一目散に二階へと駆け上がって行った。
「まったく……」
つけっぱなしになっていたテレビを消してあたしも自分の部屋に向かう。
クローゼットを開けて制服をハンガーに掛ける。その時、
「あっ!……裕一のでてきちゃった」
ショーツを脱ぐと裕一の精液がぬとーっとあそこから糸を引いた。これをそのまま洗濯機にほうり込むのは抵抗がある。
「お風呂に入ったときにでも洗えばいいか」
一人呟き、下着も取り替えて部屋着を着た。そのままベッドへと寝転がる。ベッドの周りに配置されたぬいぐるみ(主に裕一がUFOキャッチャーで取ってくれたもの)を手で弄ぶ。
裕一と赤ちゃんの話をしていたからでもないけどあたしは二人の未来に思考を巡らせる。
「赤ちゃんか……どうしようかな」
思えば裕一との出会いも赤ちゃんの頃だった。
もともとあたし達の親同士が大学のサークル仲間。ほとんど同時期に結婚、妊娠して病室も同じで、なんとあたし達のベッドも隣どうしだったというから驚きだ。もちろん誕生日も近くて、あたしの方が三日ほど早い。昔はそれで、
「あたしの方がお姉さんなんだから言うこと聞きなさ〜い!」
とか言っていばってたっけ。
う〜ん。考えれば考えるほど、思い出せば思い出すほど、なにか感じてしまうものがある。
個人的には好きな言葉じゃないけど、やっぱり運命というのはあるのかな、と思わされてしまう。
「運命か……あたしと裕一がこうなるのはやっぱり運命だったのかな?」
でも運命よりも、なによりも大事なものがある。それはあたしが裕一のことを愛しているという気持ち。そして裕一があたしのことを愛しているという気持ち。
そう、あたし達は愛し合っている。馬鹿なのろけかと思われるかもしれないがあたし達には自信がある。
あたし達の愛は世界中の他のどんなカップルよりも深いと。そう思わせるほどあたし達の十八年間は重く尊い。
あたし達の愛はたとえ死ですら引き裂けないだろう。死んだ人を永遠に思い続けるなんて、そんな歪んだロマンチシズムなどあたし達には通用しない。
もし裕一に何かあったらあたしはもう生きていけない。あたしにとって裕一が世界そのものなのだ。そしてそれは裕一にとっても同じだ。
裕一が死んだらあたしも死ぬ。あたしが死んだら裕一も死ぬ。
何故ならあたし達は愛し合っているから。そしてまたあの言葉を囁く。
「綾音、愛してるよ」
「裕一、愛してるわ」
fin.
おまけ 『ちいさなあいのかたち』
部屋の中に入って、兄貴から巻き上げた四千円をしまおうと、机の上の財布を手に取る。そのとき机の本棚に置かれた写真立が目に入った。
飾られているのは私と亮太の写真。小学生の修学旅行のときのものだ。くっついて二人とも照れ臭そうにしている。
二人が触れているのと反対側の肩には数人ぶんの手が押し付けられていて、無理矢理にくっつけられたようになっている。もちろんその手はおせっかいな友人達のものである。
「写真の中ではこんなにくっついてるのにね………」
私は少し自嘲気味に笑った。そして言葉を紡ぐ
「兄貴達と私達は違う………」
手を伸ばしてその写真にそっと触れる。
「恋人同士になんて、なれないよ………」
鼻の奥にツンとした感覚、しばらくして視界がぼやけた。頬に何か液体が伝う。
「泣けちゃうほど、好きなのに、ね」
写真立に指をかける。
その指を引くと写真立はゆっくりと倒れパタンと音を立てた。
その小さな音は、私の中だけでやけに大きく響いていた。