「ちょっと何なの、このいいかげんな報告書は! もう少し、ましなのにしなさい!再提出!」  
「は、はい!」  
年下のわたしの叱責に縮み上がる中年の刑事。  
 
わたしの名は澤崎祐華、この八王子中央署の署長なの。年齢は24歳よ。  
えっ?  
なんでそんな小娘が警察署長なんかになれるのかって?  
 
フッ、当然の疑問ね。  
その理由は、このわたしが選ばれた超エリートだからよ。帝都大学法学部を主席卒業。キャリア試験もトップで合格。  
すでに出世街道を驀進することは約束されてるのね。  
ここの署長を一年間務めたら、また本庁に呼び戻される予定なの。  
 
ついでに教えてあげると、わたしって、すれ違うと誰もが振り向く美貌とプロポーションの持ち主。  
まあ、完全無欠の女性ってわけ。  
あまりに完璧すぎて、男が近寄ってこれないってところが少し難点かなあ。  
 
まあ、いいわ。  
わたしにつり合う男なんて、そうそう居るものじゃないってわかってるから。  
ひょっとしてまだバージンか、ですって?  
レディに対して、そんな品のない質問するものじゃないわよ。  
 
それにしても、ここの署員の無能ぶりにはイライラするわね。  
どうせお飾りのキャリアだ、機嫌とっとけばいいって態度が見え見え。  
そうはいかないわ。  
 
だってわたし、ゆくゆくは史上初の女性警視総監になるつもりだから。  
ここの署長として、ちゃんと実績作って本庁に凱旋するの。  
女だからって、舐められるわけにはいかないのよね。  
 
毎日のように、年上の部下たちを厳しく叱り飛ばす日々が続く。  
あいつらったら、わたしのことを陰で鬼だとか、ヒステリーだとか言ってるみたいね。  
うー、ちょっと、腹立つわ。  
なんとなく退屈な日々が続いていた。そう、あいつが現れるまで……  
 
 
「まあ! 何よこの写真は!」  
ある日、署長室にわたしの怒声が響き渡った。  
低俗な写真週刊誌に、わたしの写真が載せられていたのだ。  
 
そんなに怒るからには、もちろんちゃんとした写真ではない。  
「エリート美人署長、不覚の(恥)写真撮られちゃった!」  
などと煽情的な見出しが付いた、わたしのいわゆる'パンチラ'写真だった。  
 
ある屋外でのイベントに賓客として列席した時、一番前の列で椅子に腰掛けていたのだが  
ついつい太股が緩んだところを、すかさずスカートの中を盗撮されてしまったのだ。  
パンチラといっても小さな白い三角形が写っているだけで、羊頭狗肉の類だったが、わたしの下着が公衆の目に  
晒されてしまったことに変わりはない。  
 
実名は出してないし、顔にはモザイクがかかっている。しかし、わたしを知っている人間が記事を読めば、わたしの事だと  
判る様になっていた。  
抗議しようにも、逆さ盗撮とかではなく、自分の油断だからできない仕組みになっていた。  
「自分はこんなに無防備で、市民の安全が守れるんですか?」  
などと茶化した記事が憎たらしい。  
 
(いや〜ん……悔しい!!)  
わたしの胸に、やり場のない怒りが込み上げてくる。  
怒りと恥ずかしさで、顔が真っ赤になっていた。  
そして、そのまま署員たちの所に向かう。  
 
「ざまあみろ、祐華のやつ威張り散らしてるから、こんな写真撮られるんだ」  
「全くだ。バチが当たったんだよ」  
「しかし、エッチな写真だな。オカズにしとこ」  
「バカか、祐華で抜けるかよ」  
署員たちは、日頃陰ではわたしのことを署長とよばず、名前で呼び捨てにしていた。  
 
勝手な噂話に興じていた部下たちは、突然鬼のような形相をして現れたわたしにシーンとなる。  
「そこ!散らかしてないで片付けなさい!」  
「私語しないで、ちゃんと働きなさい!」  
怒りをぶつけどなりちらすわたしに、何の罪もない部下たちはビクビクする。  
 
「しょ、署長、今日は新人の刑事が赴任のあいさつに来る事になってますが……」  
ノンキャリで叩き上げの中年の副署長が、オドオドした口調で申し出た。  
「ああ、そうだったわね」  
署長室にもどったわたしは、今日から配属になる新人刑事の身上書を手に取った。つい今しがたまで怒り心頭だった  
わたしはそれを見て、ついクスッと笑ったのだった。  
 
星川ルイン 25歳 男性  
(クスッ、変な名前ね)  
新人刑事の名前を知ったわたしは、思わず笑ってしまった。  
 
(使える男だといいんだけど、あまり期待できそうもないなあ)  
部下は皆、自分の出世の手駒としか考えていなかったわたしは、能無し揃いの中央署署員たちにイライラしていたのだ。  
(ルイン、ルイン、それにしても宇宙人みたいな名前ね)  
わたしは、ついさっきまでの怒りをすっかり忘れてしまっていた。  
 
「署長、連れてまいりました」  
所長室をノックした副署長が、新人を連れて入ってきた。  
タコみたいな宇宙人でも現れるのではないか、と思っていたわたしの前に登場したのは、  
スラリとした長身のイケメンだった。  
 
「初めまして、今日から配属になりました星川ルインです」  
イケメンの新任刑事は、はきはきした口調であいさつをした。  
「わたしが署長の澤崎よ」  
これが、あいつとの初対面だった。  
 
(結構カッコいいけど、中身はどうかしら?)  
わたしは、彼の顔をにらむように見つめた。  
大抵の男は、若くて美しいわたしにそんな視線を送られると、動揺するかオドオドし出すのだった。  
 
ところが、このルインという刑事の表情は微動だにしなかった。  
それどころか、彼の大きな瞳は、わたしの心の内を見透かしてしまうかのようにすら思えた。  
焦ったわたしは  
「驚いた? こんな小娘が署長で?」  
と質問を浴びせた。  
 
「いいえ、署長がお美しいだけでなく、大変有能である事はうかがってます」  
「まあ、お上手ね」  
そつのない答えだった。  
 
「変わったお名前ね」  
「はい、気に入っております」  
なかなか隙を見せない新人が、だんだんわたしは小憎らしくなってきた。  
 
「期待してるわよ、ルイン君」  
年上の彼を、わざと名前で君付けで呼んだ。  
「ご期待に沿えるよう、頑張ります」  
ルインはそう答えた。  
 
 
「どういうことなの!何も手がかりがないって!」  
ある日の捜査会議、わたしの怒鳴り声が響き渡った。  
(うわ……また、祐華のヒステリーが始まったよ……)  
列席する署員たちは、一斉に眉を顰めた。  
そんな中、あいつだけは相変わらずクールな表情を崩さない。ほんとに憎たらしいわ。  
 
退屈を感じるほど、何事もなく過ぎていた署長としての日々。  
そこに突然、奇怪な事件が沸き起こったのだ。  
八王子中央署の管内で、若い女性の謎の連続失踪が発生したのだ。  
みな独身で、綺麗な女性ばかりだった。ある日突然、忽然と姿を消し行方は全くわからなかった。  
 
「既に、五人の女性が行方不明になってるのよ。それなのに何もわからないなんて!」  
拉致誘拐の線で捜査が行われていたが難航していた。  
「懸命に捜査しておりますが、何せ何も物証がないもので……」  
副署長が弁解する。  
 
「探し方が悪いのよ!もっと一生懸命やりなさい!」  
わたしの叱責で、会議は終わった。ほんとに能無しばかりだわ。腹立ちが収まらない。  
被害者は気の毒だけど、わたしにとってはチャンスだった。この事件を解決して手柄を立てて本庁に凱旋よ。  
そして、この時まで気付いていなかった。  
被害者は若くて、美人の独身女性。わたしもその範疇に入るってことを。  
 
その夜署長官舎の寝室、わたしはパジャマ姿でベッドに入った。  
「まったくう、使えない連中ばかりなんだから」  
成果無しの捜査会議をまだ、憤っていた。  
 
その数時間後、わたしは熟睡中だった。  
突然、口に何かが貼り付けられる感触で目が覚める。  
「ううっ……」  
声が出ない。口を大きなガムテープで塞がれてしまったのだ。  
 
見回すと、黒覆面をした大柄な男が五人もいた。  
(な、何者なの!)  
わたしは驚愕した。セキュリティー万全のはずの署長官舎にこうも易々と忍び込むなんて只者ではない。  
そして、更に身体を押さえられ顔にガムテープを貼られ、目も塞がれてしまった。  
(い、いやっ!何をするの!)  
何も見えなくなったわたしは、恐ろしさに身体が震えた。  
 
バタバタともがくだけしかできない。  
「八王子中央署署長、澤崎祐華だな?」  
リーダー格らしい男が言ったが、もちろん答えることなどできない。  
身体に、バチバチッと音を立てるスタンガンが押し当てられた。  
わたしは、そのまま気を失ってしまったの。  
 
 
拉致されてから、どのくらい経ったのだろう?  
ようやくわたしは、ハッと目を覚ました。  
「こ、ここはどこかしら?」  
そして、立ち上がろうとしたができなかった。  
 
「ああっ!」  
思わず悲鳴を上げる。  
わたしは、台の上に仰向けに寝かされ、両腕両脚を大きく広げられて縛り付けられていたのだ。  
手首足首を太い繩で、ガッチリと固定されていた。身動き一つできない。  
そして、わたしが身に付けているのはブラジャーとパンツの下着二枚だけであった。  
 
「こ、こんなのいやっ!」  
わたしの心の中に恥じらいの感情が湧き上がる。プライドの高いわたしにとって、こんな恥ずかしい姿を晒すことなど  
絶対に耐えられない。  
そして、これからどんな目に遭わされるのか、言い様のない不安に駆られた。  
 
唯一自由に動かせる首を動かし、辺りを見回す。  
わたしの載っている台を中心に、部屋の床に魔法陣のような不気味な図形が描かれていた。  
(い、一体どうなってるの?)  
頭が混乱してしまう。  
その時、部屋の扉が開いて、数人の男たちが入ってきた。  
 
男たちは皆、チベット僧のような衣装に三角の頭巾を被っている。  
不気味な連中だ。何かの宗教団体なのだろうか?  
だがわたしは、自分の恥ずかしい姿を知らない男どもに見られたくない、という気持ちの方が強かった。  
必死でもがいたが、戒めはビクともしなかった。  
 
私が縛られている台を男たちが取り囲んだ。  
「われらのアジトにようこそ。澤崎署長」  
リーダー格らしい、小太りで髭もじゃの男が話しかけて来る。  
 
「誰なのあなたたちは?放しなさい!」  
恥じらいをこらえて、わたしは言い放った。いつもの強気の口調は失わない。  
「我等はバロル教団。わがホーリーネームはジーダ。面白いモノをお見せしよう」  
ジーダと名乗る男は、部下に目配せした。  
 
屈強な男たちが何かを担いで部屋に入ってきた。  
大きな魔法陣の五角形の頂点に、わたしを取り囲むようにそれを立てる。  
わたしは、思わず息を飲んだ。  
五本の十字架に、誘拐された美女たちが全裸で磔にされていたのだ。  
 
しばらく彼女たちを見回したわたしは、何かがおかしい事に気付いた。  
みなピクリとも動かないのである。  
「彼女たちに何をしたの!」  
わたしはジーダに叫んだ。  
 
「さすがは有能な署長だ。よく気付いたな、この女たちはもう生きてはおらん。殺したあと磔にして冷凍保存していたのだ」  
ジーダは、冷酷な事実を簡単に言ってのけた。  
驚愕したわたしは  
「ひどい! 何のためにそんな事を!」  
と食ってかかった。  
 
「フフフ、教えてやろう。これから、われらの王サタン様の降臨の儀式を行うのだ」  
(サタン様!? 降臨の儀式!? こいつら悪魔崇拝の団体なのね!)  
わたしはすこしずつ事情が飲み込めはじめた。  
 
「魔法陣の完成のためには、六人の女が必要なのだ。もっとも美しく知性のある女をセンターに据えねばならん。  
祐華君、君が選ばれたのだよ。サタン様にささげる生け贄としてふさわしい女性だ」  
やっぱり、わたしが美しいから----などと喜んでいる場合ではない。  
馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ!  
生け贄ですって!? 冗談じゃないわ!  
 
ジーダは、立て続けにわたしに非常な宣告を下した。  
「いけにえは綺麗な身体でなければならん。邪魔な布きれは剥ぎ取らせてもらう」  
下着しか身に着けていないわたしを、全裸にするつもりなのだった。  
 
室内には十人ほどの男がいた。こんな連中の前にわたしの裸体を見せるなんて御免だ。  
「い、いやっ! やめなさい!」  
抵抗の意思を示そうと叫んだが、ムダだった。  
 
ジーダは片手にナイフを持ち近づいて来た。  
「やめなさい!か。自分の立場もわきまえず、高飛車な女だ」  
まず、わたしのブラジャーにナイフを差し入れた。  
「ううっ!」  
縛られて、何もできないわたし。できるのは呻く事だけだった。  
 
ブチッという音と共に、わたしの両乳房が露わになってしまった。  
残るはパンツ一枚だけである。全裸にされるなんて絶対に嫌っ!こんな脚を広げられた姿で脱がされては、女性の一番恥ずか  
しいところが丸見えになってしまう。  
激しく焦ったが、どうしようもない。  
そして、わたしに残された最後の砦に、ナイフが差し込まれた。  
 
(ああ……い、いやっ!いやっ!)  
 わたしは心の中で絶叫した。でも声には出さない。敵に許しを請うことなど、わたしのプライドが決して許さなかった。  
また、そんな事をしてもムダだと判っている。  
 
 ジーダは、わたしを辱める事を楽しんでいるかのように、好色な、いやらしい眼つきでわたしの半裸の全身を見回した。  
 そして、ナイフを使って手際よく最後の一枚を破り取った。  
「アア……」  
 小さく呻くわたし。とうとうオールヌードにされてしまったのだ。しかもX字形に両腕両脚を拘束されたままである。  
 あまりの屈辱に全身が紅潮する。  
 
 だが、わたしに加えられる恥辱はこれで終わりではなかった。  
 またも、ジーダが告げた。  
「生け贄に捧げる前に、清めの儀式を始める」  
「清めの儀式ですって?」  
 
 すぐ殺されるのではないかと怯えていたわたしは、それを聞いて少しホッとしたのだが、甘かった。  
 ジーダが続ける。  
「そうだ、この女どもはすべて受けておる。サタン様に捧げる前に我等全員と交わるのだ」  
「なんですって!」  
 彼の言葉を聞いて震え上がった。わたしの事を輪姦しようというのだった。   
 
 

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