僕は喜多の手首を掴み、彼女のおなかの上にまたがった。  
「うわっ、てめ、いきなりなにすんだよっ」  
 当然、喜多は暴れて抵抗するが、やはり男と女では力が違う。その上、非常に不利な体勢である。喜多がどれだけ喧嘩慣れしていようと関係ない。  
 もがくものの、僕をどかすことはできなかった。  
「おい、こら。なんのつもりだ桐野」  
 ドスの効いた低い声で、喜多が僕を問いただす。  
「しつけだよ。好きな人に対する態度ってものがあるだろ」  
「あぁん?」  
「ほら、それだよ。そういうときはハイでしょ」  
「てめぇ……」  
 喜多の目が細められ、視線が僕を突き刺した。  
「僕だってそんな態度でこられちゃ好きなものも好きって言えないじゃないか」  
「え……? じゃ、じゃあお前もあたしのこと」  
「それは今後の態度しだいかな」  
「ど、どうすりゃいいんだよ」  
 喜多が僕のことを好きだというのはどうやら本当らしい。  
 実は僕は今までそれを疑っていた。  
 しかし、こんなことをされているにも関わらず、こちらの好意を匂わせただけで、こうまで態度がかわると信じざるをえない。  
 僕だって青春の真っ只中にいる健全な男子であるから、当然彼女は欲しい。  
 それが美人ならなおさらである。ただ、かなりのじゃじゃ馬であるということが問題ではあるけれど。  
「そうだな……まずはおしおきだな」  
 僕は手近にあった紐を拾い上げた。本を纏めるために使われていたものだ。  
 喜多が事態についてくる前に、僕は手早く作業を始めた。  
 まず喜多の両手を縛り上げ、次いで両足を縛る。  
 これで身動きがとれなくなった。できて這い回る程度だ。  
 
 僕が立ち上がり、喜多を見下ろすと、さすがに不安になったのだろう。  
「お、おい。なにする気なんだよ」  
「おしおきといえば決まってるだろ。お尻ペンペンだよ」  
 おもむろに喜多抱え上げると、椅子に座り、ひざの上に喜多をのせた。  
「おいコラてめぇ、馬鹿なことしてんじゃねぇぞ! 後で絶対コロスからな!」  
 喜多は身をよじるようにして脱出しようとするが、僕に抑えられているのでどうにもならない。  
 わめき声を無視して、僕は手を高く振り上げた。  
「ちょっと待てって、今なら許してやるから」  
 すぱぁん。  
 小気味良い音が図書室に響いた。  
「つぅ……コロス。絶対殺すからな」  
「ぜんぜん反省してないな」  
 僕は続けて二度、三度と喜多のお尻に手を振り下ろした。  
「おい桐野、やめろっつってんだろっ」  
 しかし、喜多は大して痛がるそぶりも見せずに、元気にもがきまわる。  
 そこで僕は気づいた。  
 そりゃスカート越しならそんなに痛くもないか。  
 僕の手が止まったのを勘違いしたのか。  
「よし。今なら半殺しで許してやる。早くあたしを降ろせ」  
 これだ。まるで反省の色がない。  
「本当は僕だって嫌なんだけど、これも喜多さんのためだから」  
 するすると手をスカートのホックにやる。  
 ようやく僕の意図を察したのか、喜多がこれまで以上にじたばたもがきだす。  
「おいっ! こらっ! なにする気だこの変態」  
 跳ね回る脚がスカートに引っかかって脱がしにくかったが、それでも僕はやり終えた。  
「……意外だ」  
「なっ、なにがだよっ!」  
「こんなに可愛らしいのはいてるとは思わなかった」  
 喜多の下着は可愛らしいレースのついた純白のものだった。  
 なんだかイメージにはそぐわない。  
 
 僕が感慨にふけっていると、喜多は恥ずかしさと怒りのせいだろうか、耳まで真っ赤になっていた。  
「コロス! 絶対コロス」  
「はぁー。まだ反省が足りないみたいだな」  
 僕はやれやれとばかりに肩をすくめた。  
 ぱちぃん。  
 先ほどよりも透き通った気持ちのよい音がして、ぷるぷると白いお尻が揺れる。  
「っっつぅ……コロス」  
 歯を食いしばりながら喜多がうめいた。  
 やはり遮るものがなくなったからだろうか。ダメージは大きいようだ。  
「あれ? まだそんな口をきくんだ」  
「え? ちょっ、待てっ!」  
 喜多の制止を無視して、僕は続けて二度、三度と手を振り落ろした。  
「ちくしょぉ……」  
 肉体的な痛みよりも、精神的な屈辱感がつよいのか、喜多はうっすらと涙目になっている。  
 それを見た僕は少しかわいそうになってきた。  
 第一、僕のことを好きと言ってくれているのだ。  
「大丈夫? ごめん、ついやりすぎたかもしれない」  
 急に態度を軟化させた僕を、喜多は眉を寄せていぶかしむ。  
「こ、今度はあたしをどうするつもりなんだよ」  
 普段強気な彼女がおびえた様子でいるのは妙な興奮を僕に与えた。  
 もっと彼女をいじめたいと思ってしまったのだ。  
 だが、口から出る言葉はまるで違う。  
「僕は喜多さんをいじめたいんじゃないよ。僕もこんなことするのは嫌なんだけど、好きな人を少しでもまっとうにしてあげたいんだ」  
 いじらしいことに喜多は好きな人の部分でぴくりと体を反応させた。  
「や、やりかたがあるだろっ! あたしを放せっ!」  
「ほら、その態度。それが改まるまではやめられないな」  
 僕はきゅっと尻たぶをつねった。  
「痛っ!」  
 限界まで白いお尻をつねり上げると、ぱっと離す。  
 真っ赤になっている部分を優しくなでた。  
「大きいからつねりがいあるね。えっとこういうのなんていうんだっけ……ああ、安産型だ」  
「うっせぇっ! 余計なこというなっ。コロスぞ」  
 
「すぐ殺す、殺すって。そんな言葉遣いはよくないな」  
 僕はまたお尻に触れた。  
「ひっ」  
 それだけで喜多は小さく悲鳴を上げる。  
 そのときだ。  
 僕はふと自分の太もものあたりが生暖かいことに気づいた。  
 ちょうど喜多の腰を乗せているあたりだ。  
 はじめは体温が伝わっているのかと思ったがどうも違う。  
 湿っぽいのだ。  
 まさか! おもらし!?  
 だが、落ち着いて観察してみるとどうも様子が違う。  
 もしそうだとすれば、さすがに喜多のほうにもなにか変化があるだろう。  
「じゃあなんだ?」  
「なにがだよ」  
 知らずに声が出ていたらしい。喜多が尋ねてきた。  
「いや……このあたりがなんか濡れてるみたいで」  
「うわっ、ばかっ! どこに触ろうとしてんだよっ! こ、こういうことはもう少しあとでだ、お互いの気持ちを確認して、もっとよく知り合ってから……」  
 僕が自分の太ももに手をやると喜多がこれまでで一番激しく暴れだした。  
 なにやってるんだよ。と言いかけて、僕はようやく気づいた。  
 我ながら危ないところだった。  
 僕のひざの上に乗っているのは喜多の腰、つまり股間だったのだ。  
 となると、やはりおもらし……か?  
 僕が考え込んだまま動きを止めていると、跳ね回る喜多のせいで、勝手に喜多の太ももの付け根に指が触れてしまった。  
 自己弁護になってしまうが、決して触ろうとしたわけではない。本当に。  
「ぅあっ! さ、触られたっ! 変態! 痴漢! 絶対コロス!」  
 めちゃくちゃ言う喜多をほって、僕は自分の指をぼんやりと見ていた。  
 なんだか濡れている。  
 ふんふんと匂いを嗅いでみる。  
「このバカっ! 嗅ぐなっ!」  
 
 よくわからない匂いだが……まさか。  
 僕はぐっと喜多を押さえつけた。  
 そしてじっと喜多の下着を見つめた。  
 白い下着だが、股間の部分が濡れているせいで色が変わっているのがわかる。というよりも、うっすらと透けて包み込んでいるものがなんとなく見えている。  
 これはエロい。  
「喜多さん……濡れてる」  
「ああん?」  
 どうやら喜多自身は気づいていないらしい。  
「だから濡れてるって言ったんだ」  
「なにが?」  
 僕は声をひそめて喜多の耳元でささやいた。  
「喜多さんのア・ソ・コ」  
「はっ!?……ぅぅうぅ」  
 喜多の顔色がいっぺんに変わった。茹蛸よりもまっかっかだ。  
 予想もしていなかった僕の言葉に、絶句して口をぱくぱくさせて、うめき声ともつかない音を喉からだしている。  
「なっ、なっ、なに言ってんだよテメェ! わけわかんねぇこと言ってんじゃねえっ! なんであたしがぬ……濡れなきゃならないんだよっ!」  
 途中口ごもったものの、羞恥心よりも怒りが勝ったらしい。  
 論より証拠だ。僕は喜多の股間に指を伸ばした。  
 狙いはもちろん染みになっている部分だ。  
 くちっ。  
「ふぁっ!」  
 びくりと背筋をそらせ、喜多が甲高い声をあげる。  
 自分がだした声に驚いている喜多の眼前に、僕は濡れた指先を突き出した。  
「ほら。これ見てみなよ」  
「こ、こんなのお前のインチキに決まってるだろ。あたしは信じないぞっ!」  
 現実を受け入れられない喜多が頭をぶんぶん振ってわめく。  
 僕はもう一度喜多のあそこに指を伸ばした。  
 今度は濡れて薄く透けている布地に浮かび上がっているラインにそって指を這わせる。  
「……っあぁぁっ」  
 唇をかみ締めてなんとかこらえようとするものの、かすかな嬌声が喜多の口の端から漏れる。  
 
「僕の指見て。濡れてるだろ」  
「ちくしょう……なんで? 」  
 普段は強い意志の光を宿している切れ長の瞳にうっすらと涙を浮かべて、喜多がつぶやいた。  
 それは僕に対する問いではなく、純粋に不思議だったのだろう。自分の体なのに自分に理解できないことが。  
 以前なにかで見たか、聞いたかしたが、人間の脳は不思議なもので苦痛や恐怖、羞恥などの負の感情がある一定レベルを超えると、それに対抗するために、それらの感覚をわざと快感に誤認するらしい。そうすることによってその己の精神の安定を守ろうとするのだそうだ。  
 おそらく、今の喜多にもそれに似たことが起こっているのだろう。  
 わけのわからない状況から自分を守るために、脳が誤作動を起こしたのだ。  
 だが、僕はそんなことを言うつもりはまるでなかった。  
 現在僕の心を占めているのはただひとつ。喜多をもっといじめてやりたい。  
「僕の思い当たることはひとつかな」  
「なんだよ……?」  
 震える声をだしながら喜多は僕を見上げた。  
「喜多さんは好きな男にいじめられて喜ぶマゾなんだよ」  
 喜多の潤んでいた瞳が大きく見開かれ、涙がポロリとこぼれる。  
「え?」  
「いじめられるのが嬉しいんだ。喜多さんは」  
「そんなわけねぇだろ」  
 威勢のいい言葉の内容とは裏腹に、弱々しい声だった。  
 もう一押しか?  
「じゃあ、どうしてお尻叩かれたのに、あそこを濡らしたの?」  
「……」  
 いつもの鋭い瞳は無く、ふらふらと頼りなく喜多の視線がさまよった。  
「いじめられるのが嬉しいんだよ。こんな風にっ!」  
 僕は止めとばかりに、喜多のお尻をひっぱたいた。  
「ぁぁあ」  
 尻たぶがふるふると小さくゆれた。  
 しかし今までと違い、喜多から悲鳴が上がることは無い。  
 喜多の顔が惚けたように緩んでいる。  
 いつものきつい表情もいいが、この顔もなかなかいい。  
 おそらく僕しか見たことがないだろうから。  
 
「ちょっと気持ちよかったんじゃない? 今の声、なんか嫌がってるような感じじゃなかったよね」  
 僕は優しく語りかけながら、すべすべとした丸いお尻を撫でた。  
 叩きすぎたせいだろうか、少し熱い気がする。  
 再び、喜多のあそこに指を伸ばす。  
 そこは先ほどよりも濡れていた。  
 薄い布地越しに、指を動かす。  
「っ……ぁぁ。くぅぅっ、さ、触るな」  
「止めていいの? こんなに気持ちよさそうなのに?」  
 僕の指が動くたびに、喜多の意思とは関係なく喜多の体の奥からどんどん熱い蜜が溢れてくる。  
「そっ……それでも……」  
「ああ、そう」  
 僕は冷たく言うと、ぴたりと動きを止めた。指は喜多に触れたままで。  
 僕が簡単に言うことを聞いたのは予想外だったのか、喜多はしばし呆然としていた。  
 が、すぐにもじもじと内股をこすり合わせ始めた。  
 当然だが、僕はそれには気づかないふりをする。  
「どっ、どうして急にやめたんだ」  
「だってかわいい女の子にやめてくれって言われたから」  
「……かわいい……」  
 ぽそりと呟くと、喜多は少し嬉しそうな顔をした。  
 この期に及んで、まだ僕の言葉が嬉しいらしい。  
 もうとっくに好意なんてものはどっかにすっ飛んでしまっていると思っていたが、女というものはわからない。  
 喜多がぶんぶんと頭を振った。  
「そんな言葉でごまかされてたまるかっ!」  
「いや、僕の正直な気持ちだよ」  
「だったらいいんだ。さっさとあたしを放せよ」  
 ほっとしたように喜多が僕に言った。  
 その言葉に安堵だけではなく、残念そうな響きがあったのは僕の願望だろうか。いや、そうではないはずだ。  
「それはできない」  
「てめぇ・・・」  
 
「だって僕は正直な気持ちだったけど、喜多さんは正直になってないじゃないか」  
「あぁ?」  
 喜多がいぶかしげに眉を寄せる。  
 このきれいな、気の強そうな顔を困らせてやりたいと思うのは、決して僕が変態だからではなく、思春期にありがちな青少年の複雑なリビドーからだ。……と思う。  
「ほんとにやめて欲しいの?」  
「あたりまえだっ、このボケっ!」  
「やめて欲しいんだったら、こんな風にもじもじしないよね」  
 もぞもぞと動いている喜多の下半身をさする。  
 それだけで喜多は目をつむり、声をあげた。  
「ひぁっ」  
「ほら」  
「い……今のは違うっ!」  
「ウソはよくないと思うよ」  
 喜多は僕の口調からなにか感じ取ったのだろう。身を硬くして罰を待った。  
 期待には応えなければならない。  
 僕は勢いよく喜多のお尻をひっぱたいた。赤くなっている部分を狙ったからさぞ痛いだろう。  
「くぁぁぁっ!」  
「今、ちょっと叩かれるの期待したでしょ」  
「するかっ」  
「またウソついた」  
 その言葉に敏感に反応した喜多が再び体を強張らせた。  
 だが、今度はなにもしない。  
「……え?」  
 拍子抜けした声が喜多の唇から漏れる。  
「叩かれるの喜ぶ相手を叩いてもおしおきにならないから」  
「わけわかんねぇこといってんじゃ……」  
 僕は怒りでこみ上げる感情をごまかそうとしている喜多の言葉をさえぎった。  
 
「今、期待してなかったって言える?」  
「してるわけ……」  
「本当に?」  
「……」  
「叩かれて気持ちよくなかった?」  
「……」  
「よくないって言い切れる?」  
「……」  
 この状況で、矢継ぎ早に降ってくる質問に答えられるわけがない。  
 喜多は混乱しきってまともじゃいられないだろう。  
 ここで僕が決め付けてしまえば、それが救いの手になり、喜多の答えになる。  
「よくないわけないよね。ほら、こんなに濡れてるんだし」  
 僕は喜多の秘部を触り、濡れた指先をその眼前に突きつけてやった。  
「なかなか強情だな。さすが。……よし。じゃあこう考えよう。今気持ちいいのは仕方ないんだ」  
「なん……だって?」  
 うつろな瞳で喜多が反応を示す。  
「こんな風に縛られてたら、いくらなんでも僕に逆らえない。だから仕方なしに僕の言うことが当たってるふりして、感じてるふりしてるんだよ。ね、喜多さん?」  
 
「ふ、り?」  
「そう、ふり。だから叩かれて気持ちよくなっても仕方ないんだよ」  
「ほんとに?」  
「本当だって。だから好きな男にいいようにされて、いじめられて気持ちよくなってるのは全部喜多さんの演技なんだ」  
「演技」  
「だから……」  
 ぱぁん!  
 喜多のお尻を叩いて、もう聞きなれたといっていい音を鳴らす。  
「ひっ!」  
「こんなことされて気持ちいいのも仕方ないことなんだ」  
「……」  
「好きな男が、僕が喜ぶから、わざと喜んでくれてるんだよね?」  
「……」  
「喜多さんは僕の奴隷だよね?」  
「……」  
「ね?」  
「……ああ」  
 どこか安堵したような声。聞き逃してしまいそうなかすかな声を僕は聞き逃さなかった。  
 僕は心の中で歓喜の声をあげ、今すぐ走り出したいのを必死でこらえる。  
 ここが肝心の場所だ。  
「返事はああじゃないだろ?」  
「……はい」  
 

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