僕は薫の濡れている唇に触れた。
指で柔らかい感触を愉しむと、そのまま奥へ滑り込ませる。
こちらの意図を感じ取ったのか、無意識なのか。喜多は拒むことなく僕の指を受け入れ、舌を絡めてきた。
「んぁ……む……ぅ」
口腔をいじり、わざとぴちゃぴちゃと卑猥な音をたてると、薫は恥ずかしそうに目を伏せる。
そのくせ口の端からよだれがこぼれるのにはお構いなしだ。
指を引き抜こうとすると、それに追いすがるように顔を動かして離さない。
僕はその光景を見てにやりと唇を吊り上げた。
「それだけできれば練習はもういいよな」
「んぁ?」
なんのことかわからないという顔をする。
「いや、僕のほうがご主人様のはずなのに、奴隷を気持ち良くさせてばっかりはどうかなと思って」
薫が眉をひそめ、目の間に軽いしわをつくった。
僕がこういう言い方をするときは、たいていろくな目にあわないからだろうか。
指に吸い付いていた口を離し、僕に目で問いかけてきた。今度はなにをさせる気かと。
どこか挑むような目つきに、僕は嬉しくなってしまった。
我ながら歪んでいるなあ。
「僕は奉仕される側なんだ」
僕が立ち上がり、ベルトに手をかけ、ズボンをおろしはじめると、薫はさっと目をそらした。
トランクス一丁になると、僕はちらちらと横目でこちらを気にしている彼女に笑いかけた。
「これ脱がして」
「どれ」
わかっているくせに、仏頂面をしてわからないふりをする薫。
これ。とトランクスを指差す僕に、彼女の頬がぽっと染まる。
「じっ、自分で脱げるだろっ!」
「あのね、何度もいうようだけど僕がご主人様で……」
「あたしが奴隷なんだろっ! いい加減聞き飽きんだよ」
「すぐ忘れるみたいだから、何回も言ったほうがいいかなと。わかってるんなら早く」
胸をそらした僕を憎々しげに睨みながら、僕のトランクスに手をかける。
はっきり言って、僕のものはトランクス越しだろうがなんだろうが関係ないほど勃っている。そのせいで見事なテントが、いや、ここは自尊心を満足させるために富士山がと言っておこう、そそり立っている。
目のやり場に困りながら、目の前の布切れを脱がす勇気が出ない薫を真上から見下ろしていると、彼女の心が手にとるようにわかる。
ぐっと頭が僕の股間に近づくのが、気合を入れて脱がそうとしている瞬間。
その直後、すっと頭を引くのが、やっぱりできない。と怯えている瞬間。
肩に力を入れてなんとか勢いで脱がそうとするのだが、躊躇してしまい、やはりできない。
僕はにやにや笑いをかみ殺しながら、彼女の姿を愉しんでいた。
「そんな調子でフェラチオなんかできるのか?」
「フェッ、フェラ!」
「まさか知らない? 口で……」
「知ってるから黙れっ!」
「あ、知ってる? やったことはある?」
「あるわけないだろボケっ! いくらお前でも言っていいことと悪いことがあるぞっ」
「ないんだ。いやいや、心配はいらない。ご主人様自ら教えてあげようじゃないか」
不安なまなざしでこちらを見つめていた薫は、なにかを言いかけたのだが、かすかに唇を動かしただけで、きゅっと噛み締めると結局黙ってしまった。
「なに?」
「フェラ……あたしに、させるのか……?」
緊張した様子で、薫がごくりとつばを飲み込んだ。
「もう一回言って。今の」
「なにを?」
怪訝な顔をする彼女に、大げさなしぐさで目頭を押さえてみせる。
「フェラって。薫の口からそんな単語がでてくるなんて、僕は今猛烈に感動している。口を開けば死ねだの、殺すだの言っていた子が、フェラなんて卑猥な言葉を言うなんて! さあ、もう一回!」
「こっ、こっこっ……」
「え? なに? 聞こえないからもっと大きな声で」
「コロス! 絶対コロス!」
異様な状況での猛烈な羞恥心をごまかすべく、薫が罵詈雑言の限りを尽くして僕を脅しだした。
しかし、あくまで自分が口を滑らせたのが原因だけに、どうにも照れを隠しきれていない。
隠せていると思ってるのは本人ばかり。
それが可愛いところなんだが。
「ま、とにかく。トランクス脱がしてもらってそれで終わりなわけないだろ。当然、ご奉仕といえば古来からお口でのご奉仕と決まっていると民明書房の本にも載っていた」
「ウソつけっ!」
「あ、できないんだ」
「それぐらいできるっ!」
薫はさっと唇を引き結び、露骨にしまったという顔をした。
口は災いのもととはよく言うものだ。
それでは優しいご主人様が最後の一押しをしてあげよう。
「でも、トランクスも脱がせないのにフェラチオなんかできるのかなぁ。ま、口ではなんだかんだ言っても薫は結局、自分で言ったことも守れない女なんだろうなあ」
まったく感情のこもっていない白々しい言葉にさえ、彼女はすぐに反応する。
きっ、と眉をあげ、鋭い目で僕を睨み上げた。
このあたりの扱いやすさは天下一品だ。
「あたしをバカにすんじゃねぇ! 桐野がびくついてないか様子を見てやってたんだよ!」
おーおー。言ってくれる。
「別にあたしはいつだってできたんだ」
「じゃあ僕のほうは準備万端だから早く」
「……あ、あたしも女だ! やったらぁ!」
喧嘩じゃない。
「いくぞっ!」
威勢のいい掛け声とともに、薫がトランクスをずり下げる。
枷から解き放たれたように、勢いよく僕のものが外に飛び出した。
と、思う間もなく。
「おらっ!」
明らかにふさわしくないと思われる掛け声とともに――というか、フェラチオするのにオラはないだろ。悟空かっつーの――薫が僕の股間に向けて顔を動かす。
おそらく、僕のものをちゃんと見ていないだろう。見るとためらってしまうのをわかっているのだ。
そのまま大きくあけた口で、僕のものをくわえた。というより、収めたというべきか。とりあえず、口の中に入れたという感じだ。
そこからどうすればいいのかわからないのだろう。
本当に勢いだけだった。
まるで嫌いな野菜を食べる子供みたいだ。
両者の違いは、そのまま飲み込めるか、飲み込めないかだけである。
さすがに内心ため息をついてしまう。
もうちょっと侘び寂びというか、趣があってもいいだろうと思う。
が、過ぎてしまったことはしかたない。
気持ちを切り替えて、僕の股間に食らいついている薫を見た。
彼女は怒っているような、困っているような表情で、僕のものをくわえている。しかし、決して僕のほうを見ようとはしない。目だけは横を向いたままだ。
のどを動かすこともできないのか、どんどん唾液がたまっていくのを感じる。
彼女の舌はすくんだように奥のほうにやられていて、決して僕のものに触れようとはしない。
それでも、暖かく、柔らかな腔内は僕に十分に快感を与えてくれた。
腹に力を入れて、あれを動かすたびに彼女がびくりと驚くのが楽しい。
「こっち見ろよ」
僕の呼びかけにも応えない。
「僕の目をしっかり見て欲しいんだけど」
びくりと体を震わせたが、それでも彼女は僕を見ない。
「どうして見ないのかな」
僕は彼女の頭を押さえると、自分のものを心地よい口腔から引き抜いた。
元気なわが息子が跳ね、まとわりついた唾液を薫に跳ね飛ばす。
透明でわかりにくいが、軽い顔射気分だ。ぞくぞくする。
「これで口はあいたから返事できるよな」
「はっ、恥ずいからに決まってんだろ! このボケ!」
目の前にある僕のものを極力見ないようにしながら薫が答えた。それでもちらちらと視線がいっていて、そのたび必死に堪えようとしているのがなんとも彼女らしい。
「恥ずかしい? ご主人様に奉仕するのが恥ずかしいなんて情けない」
「うっせぇ! 恥ずいもんは恥ずいんだよ!」
「元気は有り余ってるのに。……仕方ないな。軽く口あけてみて」
「お、おう」
彼女が唇に隙間をつくった瞬間。僕は頭を掴むと、むりやりその隙間に自分のものをねじ込んだ。
「罰をあたえます」
「ん……んぇ! んむぉ!」
えづくような声でもがき逃れようとする彼女を押さえつけ離さない。
「噛むなよ」
そう告げると、彼女の意思などまるで無視して腰を動かす。
「うぇっ……ぇっ! んぐ、む……ぃっぐ!」
ぐちゅぐちゅと力づくで口の中をかき回すと、苦しいのだろう、目に涙がにじんできた。
だが、それにかまわず、さらに唇を犯し続けていると、少しづつ薫の様子が変化してきた。
苦しそうだった表情がしだいに恍惚としたものになってきたのだ。
「苦しい?」
「ふぐぅ……っ」
僕の問いかけにも息を漏らすだけで、答えようとする意思がみられない。
「ぁっ、あ……ぐぅ。ぃっ……んむぁ」
何か言おうとするのだが、言葉にならないようだ。
まあ、僕のもので口中はいっぱいだろうから、当たり前といえば当たり前だ。
しかし、舌を動かすせいで、ちょうど愛撫されているような心地になってくる。
「偉いじゃないか。ちゃんできてきたぞ」
僕が髪を撫でてやると、歯が雁首を引っかいた。
褒めた途端にこのざまだ。
しかし、何度か突っ込むうちに、薫はタイミングがわかってきたのか、僕の動きに合わせて自分から頭を動かすようになっていた。
蕩けたようにうつろな半眼で、ただ僕の顔を見上げている。
心なしか、気持ちよさそうだ。
こんなにされても快感を得られるとは、感心してしまう。
「よし。お仕置きはおしまい」
とはいえ、あまりお仕置きにはならなかったみたいだが。
始めたときと同じように、頭を押さえペニスを引き抜く。
名残惜しそうに吸い付いてなかなか離そうとしないのを、むりやり出そうとすると、ちゅうちゅうはしたない音がした。
「フェラチオ好きになってくれたみたいでよかった。荒療治したかいがあるというもんだ」
僕がひとり悦に入っていると、ぼうっとした表情のまま、薫は僕の股間に釘付けになっていた。
今ならなんでも言うことをきく素直な子になっていそうだ。
……それはそれでつまらないのだが。
しかし、こんなチャンスはめったにない。素直に言うことをきく喜多薫なんて。
ちょっと試してみるか。
「三角座りして」
命令すると、薫はのろのろと気だるげに動き出した。
かわいらしくちょこんと三角座りをする彼女に、思わず笑みがこぼれてしまう。
体育の時間にはこんなふうに座っているのだろうか。
是非とも見てみたいものだ。体育が男女別なのがなんとも口惜しい。
ハーフパンツの薫もいいな。いや、ここは古式ゆかしくブルマか。
おっと、別の方向に行っていまいそうになった。
「よーし、そのまま後ろに倒れて」
ひざを抱え込んだまま、ぐらりと後ろに倒れこむ。
あまりに唐突だったので、慌てて背中を支えながら、ゆっくりと布団の上に転がす。
さて、ようやく準備完了だ。
「足開いて」
僕の言葉は届いていないらしく、ぼんやり僕を見つめる薫。
「全部見えるように足を開いて」
もう一度言うと、意思の光が切れ長の瞳にともった。
「……あぁ?」
軽く物騒な響きを帯びた返事が返ってくる。
「全部見えるように足を開いてって言った」
三度目か。そろそろお釈迦様でもきわどい回数になってきた。
「あんなむちゃくちゃしといて、またか!」
「あんな?」
「あ、あたしの口にむりやり……」
「なに?」
「あれを入れて……」
だんだん弱々しい声になってくる。
「あれ?」
「桐野のあれだっ!」
「だからあれってなに?」
「わかってるくせに言わすんじゃねぇっ!」
「はいはい。わかりました。ようするに僕のちんぽを薫の口に入れたのが……」
わざと下品に言うと、効果覿面。薫は驚きに目を見開いた。
「ちっ、ちん……!」
みなまで言わずに、なんとか最後を飲み込む薫。
「え? なんて?」
「う、うるせぇっ! 黙れ! コロすぞ!」
「僕の言うことをきかないからそんな思いをするんだ」
きこうが、きくまいが、どのみち彼女を苛めるのが目的だから、恥ずかしい思いをすることに変わりはないけど。
そんな僕の思惑を知らずに、薫が僕を睨みつける。だが、間抜けな格好のせいでまったく迫力がない。
「てめぇ……!」
「ご主人様は僕、薫は奴隷。どうする? 僕はもう命令したんだけど。脚を開いてって」
にっこり微笑みかけると、観念したのか、薫はゆっくりと脚を広げはじめた。
ぎしぎしと軋みが聞こえてきそうだ。
しかし、その遅さがまた興奮を煽る。
「おー。全部見えた」
ははぁ。脚がエムに見えるからエム字開脚か。
我ながら暢気なことを考えていると、愛しの彼女が噛み付いてきた。
「言うなボケっ! コロスぞ!」
ぷるぷると震えているのは怒りだろうか、それとも羞恥だろうか。僕としては見られる快感に耐えているというのが一番望ましい答えなのだが。
「いやいや。自分でじっくり見たことないだろ」
「黙れ! 死ねっ!」
だんだん言葉づかいがひどくなってきた。照れ隠しだと都合よく信じよう。信じるものは救われる。
第一、言葉とは裏腹にあそこは濡れていやらしくぬらぬら光っている。
割れ目の周りに生えている毛が、濡れているせいで余計に色濃く見える。
軽く突ついてやると、心地よい弾力が指先に伝わってきた。
ぺろりと指を舐め、彼女の味を楽しむ。
「こういうのをぐちょぐちょって言うんだろうなぁ」
「……んんんんっ!」
僕の露骨な表現に、なんだかんだ言って根がうぶな薫は、もはやなにも言えなくなったらしい。うめき声を食いしばった歯の隙間から漏らすだけだ。
僕は薫のあそこの温度がわかるぐらいに顔を近づけて、じっとそこを見つめた。
生々しい雌の匂いが鼻先を掠める。
「あ、ほくろだ。知ってた? こんなところにほくろがあるの」
恥丘の端に陰毛に隠れていた小さなほくろをつついてやる。
薫はびくりと背筋をそらせた。この調子でいったら随分と背筋が鍛えられそうだ。
「あっ、そんなとこ、さっ……触るなっ……」
自分の痴態を見まいと目をかたく閉じた薫が懇願してくる。
「触るなって言われてもな。わかってる? 薫は僕のものなんだから、自由にする権利は僕にあるんだ。だからこれも僕の」
ほころんでいる割れ目の奥からとろとろとあふれ出すものを指で救って舐める。その際に、わざとクリトリスを掠めるようにしてやると、
「んひっ!」
薫は敏感に反応して情けない悲鳴をあげた。
ひざを握り締めていた指にぐっと力を入れて、足を閉じまいとこらえている。
「でもあれだよな。命令でも、嫌だったら普通自分で足こんなに広げないよな」
僕がぽそりと呟いた言葉に薫が敏感に反応した。
「なっ! き、桐野が喜ぶから付き合ってやってるだけだ! あたしはほんとはこんなことしたくないっ!」
「ほんとに?」
「当たり前だボケっ!」
噛み付かんばかりの剣幕だ。でも、これが薄皮一枚のフリ――自分さえ騙すためのフリ――だということを、本人が知らなくても、僕が知っている。
「ほんとにそうかな?」
ぴちゃり。僕が触れるとそこは淫猥な水音をたてた。
「っぅ……! 当たり、前だっ」
責められると途端に、薫の声は弱々しいものになる。
自分でも情けない声をあげているのがわかるのだろう。悔しそうに僕を見上げている。
「でも……さっきよりも溢れてない? 愛液」
なんとなくだが、そんな気がする。
その証拠にシーツの染みがさっきよりもだいぶ大きくなっている。……と思う。
「てっ、てっ、適当なこと言うなっ!」
今にも泣きそうな顔で、それでも語勢は強いのが最後の抵抗というところか。
「本当は気持ちいいんじゃないの? ほら、これ見てよ」
僕はシーツを指で押した。すると、そこからじわりと染み出るものがあった。
「これ、どう考えても薫のだよな」
「ち……がぅ。あたしは、桐野が喜ぶから気持ちいフリしてるだけで……」
じょじょに歯切れが悪くなってくる。
「ほんとにフリ? 僕のため? 昨日はそう言ったけど……本当は自分が気持ちいいからやってるだけなんじゃないか?」
きっと今の僕はさぞかし邪悪な顔をしているだろう。自分の言葉に自分でもひどいやつだと思うぐらいなのだから。
「ちが……ちがう。あたしは……きり、のが」
訳のわからない恐怖に襲われているのだろう。今までの自分が自分でなくなりそうな。
薫の不安げな表情に心をときめかせながら、僕は優しく語り掛けた。
「やっぱり薫は苛められると嬉しい変態なんだ。だから昨日もお尻叩かれて気持ちよくなったんだよ。こんなふうに」
僕は太ももを軽く叩いてやった。ぱちんと小気味よい音がする。
「ひっ!」
悲鳴とは裏腹に薫のあそこから、小さくぴゅくっと愛液が噴き出した。
「こんなふうに足開いてるのも、はやく僕に入れてほしいからだろ?」
「ちが……」
「そろそろ素直に自分は変態ですって認めれば?」
「い、やだ……」
わかってはいたが、やはり強情な性格だ。体は素直なことこの上ないのに。
僕が次の一手をどうするかと思案していると、息の詰まったような、妙な声が聞こえてきた。
部屋には二人しかいないのだから、僕でないということは当然薫の声ということだ。
ふと目線を上げると、薫の顔が切なげに歪んでいる。
はじめは快感に耐えているのだろうかと思ったが、それは勘違いだった。
黙っていると、薫は突然しゃくりあげ、大粒の涙をぽろぽろこぼして泣き出したのだ。
慌てたのは僕だ。
なんで泣く?
そんなにひどいことしたか?
……くっ。してないと言い切れない自分が憎い。
自問していると、彼女は足を押さえていた手を離し、顔を覆った。
それでも脚が開いたままになっているのは、僕の言うことを守っているのか、そんなことが気にならないほど切羽詰っているからなのか。
とにかく理由を尋ねなければ。
「なんで泣くんだ」
しかし、ぐずるばかりで答えるそぶりもない。
僕は濡れた頬に手を添えると、もう一度問いかけた。できる限り優しい声で。
「なんで?」
弱々しく僕を見つめると、薫は震える唇で答え始めた。嗚咽まじりではあったが。
「っ……ぇぐっ、だ、だって、えっ……っ、へ、変態だとっ、……んっ、桐野に、ひっ、く、ぐすっ、桐野に……嫌われるっ……」
今なら世界あいた口が塞がらない協会主催世界あいた口が塞がらない選手権で日本ランキング、いや世界チャンピオンも夢じゃないぞ。
彼女は今までの僕の仕打ちを受けてきてノーマルだとでも思っていたのだろうか。
己のことを雌奴隷呼ばわりするような相手は変態だと認識すべきだと思うのだが、これはもしかして愛の力というやつだろうか。
……ともかく、自分がアブノーマルなのがだめだと思っている彼女の勘違いを正してやればいいだけだとわかった僕は、胸を撫で下ろした。
僕はそういう変態が嫌いじゃないよ、と伝えれば事態は解決するのだから。
まあパラダイスオーケストラとマグロの、といった類の変態でなければ問題ない。
薫の濡れた頬をぬぐってやる。
「僕は薫が変態でもいいんだけど」
薫がおどおどとこちらを窺うような反応を見せた。
「ほ、ほんとか……?」
「もちろん。さっきも言っただろ。好きだって」
「桐野ぉ……」
今度は感動の涙で、彼女は瞳をうるうるさせている。
すがるような声で名前を呼ばれ、背筋に得体の知れない快感が走った。
心が高ぶる。
「もうそんな風に勘違いされないように、いい加減ちゃんと薫を僕のものにしないとな」
僕は勢いに任せて言い放つと、薫にのしかかった。
「桐野!」
「できるだけ力を抜いて」
「おっ、おう」
返事をしたものの、彼女の体は明らかに力が入りすぎて強張っている。
「全部僕に任せればいいから、楽に」
こくりとうなずくも、やはりカチカチのままた。
「大丈夫か?」
「桐野に任す、桐野に任す……」
消えそうに小さな声でそれだけを呟き、まぶたをおろしている。長いまつげが小さく震えていた。まだ先ほどの雫が残っている。
拳をぎゅっと握った手を胸元で合わせて固まっている姿は、なにかに祈っているようにも見える。
「……いくぞ」
なるようになれと、半ばやけくそで僕は自分のものに手をそえ、彼女の秘所に合わせた。
先端が濡れるのを感じると、そのまま勢いよく腰を沈める。
一息に入ってしまうほうが痛みは少ないだろうと考えたからだ。
「っ……!」
未知の体験への恐怖からだろうか、薫が息を吸い込む音が妙にクリアに聞こえた。
外があれほど潤んでいたから入りやすいだろう、と思っていた僕の考えはあっさりと覆された。
彼女の中は入り口からきつかった。
僕の侵入を拒むように狭く、きゅうきゅう僕を締め付けてなかなか奥へ行かせない。
「ぃっ……!」
かすかな呻きが薫の噛み締めた唇から漏れる。
その瞬間、僕は素早く息を吸うと、力を込め一番深い部分へ自身を押し込んだ。
まだ何も通ったことのない場所を、きちきちの淫肉を押しのけて通る。
きっと名器というやつなのだろう。
一度進入を許したそこは、まるで僕のすべてを吸い取ろうというように、怪しくうごめき、僕のものに絡みついてくる。
しかし、経験のない今は持ち主に苦しみを与えているだけだった。
「……桐野、桐野、桐野……」
薫が、まるでそれを唱えれば破瓜の痛みがなくなるというように、僕の名前を呼び続ける。
いつのまにか、僕の首に彼女の腕が回されていた。
かなり強い力で抱きつかれているのに、気がつかなかったとは。
僕もかなりいっぱいいっぱいだったらしい。
彼女の気性のように、中は熱かった。
つながった部分から、体温が伝わってこちらの温度まで上がりそうだ。
「全部入ったぞ」
そう告げても、薫は懸命に瞳をとじて、痛みに耐えているだけだ。
目じりには涙が光っている。
「我慢できなかったら言えよ。すぐに抜くから」
「い、痛くない……」
薫は顔をゆがめて、呻くようにそう言った。見るからに痛々しい。
これで平気なんだと思うやつがいたら、そいつの顔を見てみたい。
「そんな苦しそうな顔してて、痛くないとか信じられないって」
「ほ、ほんとだ……バ、カ。全然……痛くないから、う、ごけ……」
「こんなときにまで意地張らなくてもいいから。抜くぞ」
僕が体を動かそうとすると、薫がしがみついてきた。
「だ……めだ」
「なんで!?」
「桐野が、イッて、な……いから」
喋る薫の瞳から涙がぽろぽろとこぼれた。
それを見た僕の胸がきゅっと締め付けられる。
なんでこいつはこんなに必死なんだろう。
「あたしのことはいいから」
「ほんとに無理しなくていい」
「大丈夫……って、言ってるだろ……ボケ」
本当はよほど痛いのだろう。涙で顔を濡らしながら笑おうとする薫が愛おしくてたまらない。
ああ、ちくしょう!
こうまで言われたら言うとおりにするしかないじゃないか。
それに、心配している僕の心とは裏腹に、体は今も僕を締め付ける薫でイキたいと感じている。
「もうなにを言ってもイクまでやめないからな」
にっ、とおかしそうに薫が笑った。
「こっ、ち、のセリフだ、バカ。桐野がイクまで、離さ、ねぇからな……」
きつい締め付けに耐えながら、僕はゆっくりと腰を前後に動かし始めた。
僕がピストンすると、薫が眉をしかめ、のけぞる。
そのたびに、僕の良心がわずかに悲鳴をあげたが、すぐに彼女から与えられる快感に打ち消される。
苦しそうな薫には申し訳ないが、僕は蕩けそうだった。
とても初めてとは思えない反応で、小さく細かいひだに包まれ、優しく愛撫されているような心地を味わったかと思うと、穴全体で痛いぐらいに締め付け、強い摩擦で強引に快楽に引きずり込もうとする。
出したくても、あまりにきつい締め付けで出させてもらえないのではないか、と思うほどだった。
雁首が彼女の中をえぐり、道をつくっていく。
やがて、ちゅくちゅくと、僕のものに押しのけられ溢れた愛液が卑猥な音を立てだすと、僕の腰は滑らかに動き出した。
そして、その音がぐちゅぐちゅに変わるのはすぐだった。
僕が夢中で腰を動かしていると、次第に薫の様子も変化しだした。
回数を重ねるごとに、わずかずつではあるものの、痛みが薄れてきているらしく最初ほど苦悶の色は見られなくなっている。
「痛くないか?」
「最初から痛くないっつってんだろ」
声に張りが戻っている。
どうやら、だいぶましになったみたいだ。
頬も上気している。
「ふぅん。やっぱり変態だから気持ちよくなるのも早いのか」
変態、の部分で今まで以上にあそこがきゅっと締まる。
「あっ、あたしは……」
「変態だろ」
断言してやると、薫が、ぐっ、と言葉につまる。
彼女は僕に密着すると胸元でささやいた。
「お前のせいだからな」
顔は見えないがきっと、怒ったような、拗ねたような顔をしているに違いない。
「最初から変態の素質があったんだって」
また締め付けが強まった。
どうやら苛めるほどにあそこの反応が良くなるらしい。
まったくやっかいな相手だ。
「違うっ!」
「僕のせいか。よし、それじゃあ変態にしてしまった責任をとろう」
いきなり僕は彼女の乳首をつねり上げた。
「ひっ……ぃいい」
甲高い声で鳴くのと同時に、淫らな動きで肉穴全体が蠕動して僕の射精を誘った。
彼女の反応に僕は満足する。
「ひっ、ひきょ、うらぞ」
薫は一発でとろとろになってしまった。
相変わらず、胸が弱い。
しかし、今回はそれが幸いしたようだ。
破瓜の痛みよりも胸からの快感のほうが強いらしい。
これでクリトリスを責めたらどうなるだろう。
そんな誘惑にかられたが、さすがに処女をなくしたばかりの秘所に刺激が強すぎるのも心配だ。
この楽しみは次回に取っておくことにしよう。
僕は頭を切り替えると胸を吸った。もちろん腰の動きは止めない。
彼女の薄い胸の先端を舌で弾くと、薫は悲鳴を漏らした。
いや、もう喘ぎ声と言っていいかもしれない。
「はひっ、あ、っあ……き、りのっ! 気持ち、いいか?」
「すごくいい。気持ちいい。薫はどう?」
「す、すごひっ。きりろが、中に、中に、入っれるっ!」
必死で答えを返す彼女が、僕の背中に爪を立てた。
ぎっ、ぎ、ぎぎぎ、と僕の皮膚を引っかいていく。
普通なら飛び上がるように痛いのかもしれないが、今の僕には痛みさえ心地よかった。
精一杯僕に尽くそうとする彼女のために、僕もできる限りのことをして悦ばせてやりたい。
思い切り乳首を吸い上げて、引っ張れるだけ引っ張ると、ちゅぽんと小気味いい音をたてて離れる。
「ひぃっ……いあい、痛いけろ、きもちいひっ!」
「痛いのに気持ちいいなんて、やっぱり変態だよな」
彼女の唇をむさぼるようにキスをしながら言うと、薫はうっとりとした表情でそれを受け入れた。
「へ、へんらいれも、いいっ! 桐野が好きなら……それれもいいっ!」
やばい。
今の叫ぶような薫の言葉に、一気に僕の快感が高まった。
これまで感じたことのないような心地よさが僕の脳みそを溶かす。
ついでに僕のどこかのネジも一本すっ飛んでいってしまったらしい。
体が勝手にゴール目指して突き進んでいく。
今まで以上に激しく突き入れると、薫はひぃひぃと泣くような声でそれに応えた。
「あっ、っつ、はぁっ、ん……強すぎっ、るっ、もっろ、ゆっくり……し、て」
「さっき言っただろ。なに言っても止めないって」
息も絶え絶えな彼女の言葉も聞き入れない。
ただぐちゅぐちゅの彼女のあそこをかき回す。
もう薫は口を閉じることもできずによがっている。
「ひっ……っ、あぁぁぁ、っはぁん、っく」
痛いぐらいに尖っている先端を無理やり胸の中に押し込むようにぐりぐりとこね回す。
と、薫の全身が硬直した。
「あぐっ、あ、ひっ、いぃっ! き、り……のっ!」
僕の背に回されていた足もぴんと伸ばされ、のけぞったあごががくがく揺れている。
穴の中すべてが僕のものを愛撫し、締め付け、吸い込んだ。
「もうだめだっ!」
絶叫すると、僕は一気に自分のものを薫の中から引き抜こうとした。
しかし、彼女の媚肉がそれを許さない。
僕はそれを強引に無視して体を起こそうとしたが、それを見計らったように薫が僕を引き寄せた。
「いやらっ! このまま一緒に……っ」
かすれる声で言うと、薫は気を失ってしまった。
まずいとはわかっているのだが、もうなにも考える力がなくなっている。なにより限界だった。
誘うように動く淫肉の望むまま、一番深くまで突き入れた瞬間、亀頭が膨れ精液が噴き出した。
求められるままに、僕は彼女の中に射精した。
びゅくびゅくともの凄い勢いで彼女の中を満たしていくのがわかる。
精液が発射されるたびに、僕のすべてが、薫に吸い取られてしまうような錯覚を覚えた。
それほど、すばらしい快感だった。ただ気持ちいい。
僕は欲望をすべて吐き尽くすと、ぐったりと気絶している彼女の上に力なく倒れこんだ。
やってしまったという思いはあったが、そんなものどうでもいいほど疲れていたのだ。
なんとか萎えたものを引き抜き、ごろりと転がるように彼女からどくと、投げ出されている手を握る。
柔らかく、ぬくい。
それを嬉しく思いながら、僕は目を閉じた。
僕が意識を取り戻した――たんに起きたとも言う――のは夜中だった。
時計の針は三時を回っている。
疲れ切って二人とも全裸で寝てしまったが、夏でよかった。
起き上がって隣を見ると、喜多が可愛らしい寝息をたてている。
頬が緩む。
よほど疲れているらしく、目を覚ます気配はかけらもない。
シャワーでも浴びようかと思ったが、まだなんとなくだるいせいで面倒だった。
喜多にタオルケットをかけてやろうとして、ふと気づく。
彼女が固く僕の手を握り締めていることに。
さっき寝てしまう前に自分からつないだと思うのだが、喜多がそれに応えるように、固く握り返してくれているのが幸せだった。
結局、手を離すのが惜しくて、なんとか足でタオルケットを取り寄せると、また眠った。
もちろん、手はつないだままで。
翌朝は大変だった。
全裸に気づいて大騒ぎする喜多。
横にいた僕の裸に気づいて大騒ぎする喜多。
シーツがバリバリで大騒ぎする喜多。
昨夜のことを思い出して大騒ぎする喜多。
それを宥めるのに僕は大変しんどい思いをした。もしかすると、昨夜よりも。
「女の子は大変だよな」
ひと段落して、僕達はリビングに降りた。
そこで、コーヒーを口にしながら言うと、喜多はきょとんとした顔をした。
異物感があるのだろうか。彼女はしきりに下半身を気にしながら僕に問いかけた。
「なにが」
「この状況わかってる?」
二人の初めての共同作業を終えた翌日。
一晩経ったのに、女の子はまだあそこを気にしている。
「わ、わかってるよ。あの、は、初たいけ……」
喜多の声は徐々に小さくなって、最後の方は僕には聞こえなかったが、状況は理解しているようだ。
「そう。その初体験」
「でかい声で言うなっ!」
僕に飛びかかろうとした喜多を制して、僕は言葉を続ける。
「昨日すごく痛そうだっただろ」
「ぜんぜん痛くなかった!」
「……まあ、それでもいいけど。なんか、聞いた話によると処女膜があるのって人間と、あと、確かモグラ……だったか。だけらしいんだ。
他の動物にはないから、別になくてもいいものなんだと思う。それで、そんな無くてもいいものでこんな大変な思いしなくちゃいけない、女の子は大変だなあと」
ところが、僕の感想にたいする喜多の返事は予想外のものだった。
「けっこうバカだな桐野も」
あきれたような顔で僕を見つめる喜多を、僕は呆然と見返す。
そのまま、一口、二口とコーヒーカップに口をつける喜多を見つめていると、視線に気づいた彼女が言った。
「あんまじっと見んなよ。なんか恥ずいだろ」
「え? あ……ゴメン。でも、どうして僕がバカなんだ」
「あったらあったでそれはいいだろ。別になくても困んねぇけど」
「処女膜が?」
「あったらどんな女でも好きな男にあげられるもんが一つはできんだろ。一回だけだけど」
「……」
さらっと言った彼女の晴れやかな顔に、僕は見惚れてしまった。
まっすぐこちらを見つめる視線に射抜かれてしまったようだ。
なんだか照れくさいのに、目をそらすことができない。
感嘆してしまったのだろうか。
「ああ……確かに」
確かにそんな風な考え方もあるかもしれない。
僕はバカ面下げてそう言うと、ごほんと咳払いをして気持ちを切り替えた。
「それじゃあ……謹んで喜多さんの処女をいただきました。大変結構なお味で、まことにありがとうございました」
僕がぺこりと頭を下げると、喜多は猫のようにしなやかな動きでテーブルを飛び越えて僕に飛び掛ってきた。耳まで真っ赤に染まっている。
「おわっ! なんでいきなり!」
「そういうことを……でかい声で言うなっつってんだろうがっ!」
彼女は僕にのしかかりながら、手近にあったクッションを引っつかむと、僕の顔面に押しつけた。
「おい! にやにやすんな、気持ち悪いだろうが」
ぱしんと頭をはたかれた。
先週のことを思い出していたら、つい顔にでてしまったらしい。
「なにが運命だっつーの。キモイこと言うな」
それを信じた女の子もいるんですが。
「だから、僕と喜多は運命の出会いだから、別に落とし方なんかない」
僕は何気ないフリをしてこちらの様子を窺っている喜多に、ぱちりとウィンクをした。
椅子でゆらゆらと船をこいでいた彼女が体勢を崩す。
「けっ! オマエはそうやって狭い心で幸せ独り占めにしてるがいいさ、バカくせぇ」
結局、広尾はあきれ果てて自分の席に戻っていった。
どうせ一時間目が終われば、また同じようなことを言いにくるだろうが。
「今日も元気かー。絶好の勉学日和だな」
先生が相変わらずのでかい声とともに教室にやって来た。
教壇に立ち、教室を見回す。
「おっ、喜多。最近は遅刻もせんと真面目にやっとるようだな」
声をかけられても、じろりとにらみ返すだけで、喜多は返事をしない。
先生のほうも友好的な対応は期待していなかったらしく、いつものようにホームルームを始めだした。
僕だけが、彼女が遅刻しない理由を知っている。
僕と一緒に登校するためだとは、先生は夢にも思うまい。
……危ない。また頬が緩むところだった。
金曜日の朝。
いつものような段取りで喜多が土手で僕を待っていた。
学校に向かう道すがら、彼女は言った。
「お、お前はさ。普段はあたしのことを名前で呼んだりしないのか? いや! 別にあたしが呼んで欲しいとかそういうわけじゃねえから勘違いすんなよ」
まったく。
やれやれだ。