そこは暗くて狭く、肺腑まで腐りそうな澱んだ空気で満ちており、女体とは対称的な、ごつごつとした硬い岩肌が剥き出しになっている。
そこは滝の裏に隠されていた洞窟で、敵対する大名の城へと続いている秘密の通路だという情報を掴んでいた。
その通路をまるで天女を思わせる、朱色のひらひらした道術衣を纏った2人の少女が歩いている。
髪を短く切り揃えた、くりくりとした丸い瞳が愛らしい双子の姉妹―――今は子供っぽさが抜け切らない風貌だが、将来は美しい女性になることは間違いない端整な顔立ちである。
「このまま行けば奴の城の中に出られるわね、マドカ」
「ついに決戦だけど……ちょっと不安かな。お姉ちゃん」
姉のカスミは妹のマドカを励ましながら洞窟を進む。
敵の大名は彼女たちの親の仇―――彼女たちこそ、その大名に逆らった罪で滅ぼされた道術使いの一族の、唯一の生き残り。
まだ術者としては未熟だが、そこは姉妹の連携で何とかフォローして、ついに仇討ちまで後一歩のところまできたのである。
しかし、
ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ…………!
ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち…………!
「えっ!? ま、まさか―――」
「何!? 何なの!?」
黒い奔流のように押し寄せてきたのは、何百何千という数の毒虫の大群だった。
前から、後ろから、姉妹を挟み打ちにするように、悪夢のような光景が近づいてくる。
「しまった、罠だわっ!」
「お姉ちゃん!」
「落ち付いて、まずは結界を……あっ、ああああああっ! こっちに来るなっ! きゃああっ!」
「いやああああああああっ! 止めて! 止めてぇ!」
全身に黒い雨が降りかかるように、羽を生やした蟲たちが姉妹の全身に飛び付いてきた。
肌が見えなくなる程の蟲が足からも這い上がってきて、美しい胴衣がみるみる蟲で黒く覆われていく。
姉妹の顔にも数匹がべったりと張り付いて噛み付き、蟲たちは胴衣を易々と食い破って直の柔肌に辿り付く。
「とって! これとってよ! お姉ちゃん! きゃあああ、ああああ――――――っ!」
「マド、カ……今、助けてあげるから……うぐうっ、ぐうう!?」