「え、なに?」  
 いつもの作業に追われている中、不意に何かの反応を感じた私は、戦慄にも似た寒気を覚えて肩を抱いた。  
 周囲を見るが何もない、ならば何に私の意識が反応したのか・・・・・・唾を飲めば、喉の渇きを感じた。  
「・・・・・・・・・・・・」  
 神経を集中させ、異常を感知すべく体中の細胞を先鋭化させるが、気配を見つけることは出来ない。  
「・・・・・・気のせい、かしら・・・・」  
 自身を安堵させるために呟いた、その瞬間、脇腹を何かが掠めていく感触に短く息を吐いた。  
「・・・・っ! な、なにっ?」  
 確かに今、何かが脇腹を掠めた。  
 しかし慌てて首を振っても、私の視界に入る異常はない。  
 何が・・・・・・慄然として背筋を震わせるが、どんなに目を凝らしたところで気配はなく、それはイコールで異常は見当たらない、ということに他ならない。  
「ひゃっ!」  
 瞬間、首筋を何かが掠め、思わず身を竦めれば、次の瞬間には何かが股の間を抜けていった。その際に内股を擦られ、更に次の瞬間には背中をなぞるように掠めていった何かに、私は震えを抱く。  
(な、なに、何が起きてるの・・?)  
 恐怖に煽られて無様に首を振ったところで、私の目に何かを発見することはできない。  
「・・駄目、落ち着きなさい・・」  
 私は首を左右に振り、深呼吸をする。  
 
 大丈夫、触れた感触から大きさは手の平、もしくはそれより小さいものだと判明している。威力にしたところで、触れているというのに傷をつけることもできない。それは非力である、ということだ。  
 落ち着いて対処すれば、十分に対応できる程度の、些細な問題でしかない。  
 私は整った息を保ちながら周囲をゆっくりと見渡し、それから手を差し伸べて空間を探る。もしかしたら私の目には見えない、それぐらいの速度で動いているかもしれない。  
「きゃっ!」  
 また、何かが掠めた。今度は背後から腕と胴の間を抜けていくような感じで、それなのに私の目には何も映らない。  
(・・どういうこと・・?)  
 何か特殊な、私の目では感知することもできない存在なのか・・・・・・額に汗を浮かせて息を呑むが、冷静さは徐々に失われている。  
「あっ!」  
 耳を掠めるように何かが通り過ぎ、驚きと反射で目を閉じ体を竦めれば、次の瞬間にはお腹をなぞるようにして何かが飛来した。思わず反応して震えるお腹に意識をやれば、次の瞬間には腋の下を  
何かが掠める。  
「・・ぁっ」  
 正体不明の何かは、まるで私の弱い部分を知っているように、そこを掠めていく。  
 油断しているわけではない、意識をはっきりと持ち、警戒を怠っていないにも拘わらず、何かは姿も見せず、私の体をなぞった。  
 足首を何かが掠め、ぞわりとした感覚に細かな息を漏らせばうなじを何かが掠め、「ひゃんっ」と声を漏らせば胸の突起をなぞるように何かが掠め、「ぁっ」と呻けば肩甲骨の辺りを何かが掠め、「やぁっ」と身悶えれば唇を何かが掠め、「はぁ」と息を吐けばお尻を何かが掠め、「あぅっ」と喘げば股間をなぞるように何かが掠め──  
 
「やぁ、は、ぁんっ、や、やぁ、やめ、ぇ、はぁん、あん、あっ、ああ、はぁっ・・・・!」  
 
 ──火照った体の敏感な部分を、何かが掠めては私を苛み、そして執拗な責めに段々と私は声を大きくして、喘ぎによって突き出された舌を何かが掠めた時、遂に私は絶頂に達してしまった。  
 
「や、ぁあ!」  
 
 頭の中が弾けて真っ白になる感覚とともに急速な気だるさが体に広がり、それでも掠めていく何かは消えることなく──  
 
「やぁ、も、もう、だめぇ、やん、はぁ、イ・・った、ばかり、ぃ・・!」  
 
 ──不意に私は、つい先日、バグの発見から主がセキュリティソフトを外してしまったことを思い出して、納得した。  
 
「あ、ぅあ、あん、はんっ・・や、やぁ、ま、たぁ、イッ・・やぁ!」  
 
 この姿の見えない何かこそ、噂に聞くスパイウェアで、それが今、無防備な私を侵していっているのだ、と──。  
 

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