――――事件は防音室で起きた。犯人はあなた達の中にいる。いるってことに私が決めた。
俺は昔から頭が悪かったが、『くれは』のワトソン役を始めてから更に悪くなった。
歩けば壁にぶち当たる。まともに物事を考えられない。見るもの全てが平面的で奥行きが無い。
完全に社会不適合。だから、もし俺以上に頭が悪い探偵『くれは』の下で働いていなければ、
俺は今年の冬を生き抜けなかったに違いない。今頃、どっかの橋の下で土に戻っていたかもしれない。
――くれはは探偵としては最低だ。
まず、依頼を受けると俺を連れて現場にいく。そこで検分する振りをしながらしばらく時間を潰す。
依頼者に電話をする。トリックと犯人を適当に告知する。そして時間を戻す。適当な告知を現実の
出来事にしてから、元の時間に戻る。後から調べる警察によって、くれはの『名推理』が的中していることが
証明される。お金が入る。また依頼が舞い込む。そしてまた在りもしないトリックを捏造する……
……正直、くれはがいなければ世の中はもっと良くなると思う。もっと明るい日本になったと思う。
でもそんなことを言ってもくれはは現実にいるし、そのお陰で俺もこうして生きていられるからしょうがない。
――事件はある家電企業の中で起きた。
たった2日間の内に5件もの感電事故死が発生した。最初の事故を起こしたのは新入社員だった。
夜8時過ぎ、一人で過電圧試験をしているときに250Vの電源を素手で触り、運が悪いことに一撃で脳がやられた。
これはこの企業にとって不幸な事故だった。サービス残業、素人に高電圧を扱わせる杜撰な環境、……
そんなことが表沙汰になれば企業のイメージが損なわれる。そして翌日、管理職が必死に会議している時に、
2、3、4、5と同じような事件が起こってしまった。
2日目に起こった4つの事故は、1日目同様に感電事故であったが、被害者は新入社員ではなかった。
なかには技師クラスのベテランもいた。4つの事故は12時の昼休みを挟んでから発生し始め、5件目の事故が
終了したのは定時を30分過ぎた6時のことだった。あまりに次々と事故が発生するため、もはや誰もこれを
事故とは思えなかった。事故ではなくて、これは『事件』だと誰もが思った。
――そして誰もが想像した。狂気の無差別殺人者が社内を闊歩している。
……よし、探偵に頼もう。
「清涼院流水って知ってる?」
知りません。くれはが運転する車の中で俺はうねうねと律動する電線をぽけーっと眺めている。
あと一時間でいいともが始まるような午前、そんな時刻のくれはは28歳程度の年齢であり、
眼鏡をかけていてインテリそうで2次元に例えればRODの読子に似ていた。これが夜になるに従い、
どんどん若くなる。ピーク時には2次元で例えれば天上天下の棗真夜(子供)に似る。性格も似る。
だからもう事件の真相は適当にこんな感じでまとめてしまうのじゃよ、と最後にはなってしまう。
「変な作家でねー、めちゃくちゃな事件をめちゃくちゃに解決すんのー。変な探偵集団が出てきてさ」
電線がくねくねする。映画のフリッカーみたいに電信柱がちらつく。俺は何も考えたくない。
後部座席で寝転んだまま適当にうんうんとくれはに相槌を打つ。電線が脇に逸れていく。能天気な冬晴れ。
ぼんやりした頭で起き上がる。農家の納屋が見える。その奥に車が密集している駐車場。その隣にある3棟の建物。
――何この中途半端な国立大学ふざけてるの? でもくれはに引っ張られて建物に近づくにつれ、いかにも民間企業的な
体育会系な俺を完全否定するような社会性の匂いがぷんぷんと漂ってくる。全力で帰りたくなる。
嫌なことはぼんやりとしたモヤの中に隠れていく。もはや言葉の切れ端しか頭に残らない。
「ここは第一技術開発棟」「本社は長野県」「普通なら高電圧を触っても死なない」「この土日で解決してくれ」
「本当は外部の人間は入れないのだが、例外的に許可する」「でも写真は撮るな」「社員の名簿」
「おお、広いなー。漫画でしか会社って知らないから」
くれはは誰もいないオフィスを走る。あほか。そんなのどうでもいい。2chで言えばスレ違いだ。
パチパチと照明を点けまくる。薄暗かったオフィスが昼間の明るさを取り戻す。ここで日夜社員が頑張っている。
俺はそんな日常を勝手に妄想しながらくれはに向かって歩く。書類、書類、申請書、回覧、回覧。うぎゃー。
くれはがオフィス中央の大きなテーブルに腰かけて言う。「でもさ、学校みたいな息苦しさがあるね」
テーブルに仰向けに寝転ぶ。くれはの短い髪。コートの隙間からセーターを通して見える柔らかそうな曲線。
俺はくれはのテーブルの椅子に腰掛ける。くれは女体盛り。サラリーマンだけはできないな俺。仕事はできるかも
知れんけど、こういう社会性がだめだ。くれはが食われた、という感じの仰向けの脱力感のまま、顔だけ俺に向ける。
「……本当に社内に殺人鬼がいると思う?」
……いると思う。たぶん。それは、きっと俺のような奴がここにいて、追い詰められたんだと思う。
周りを見回す。企業スローガン。目標達成シート。進渉報告会議。自己目標。チーム目標達成率。
いやいや、わかるよ。成長、利潤、民間企業、お客様のために。でも、俺には全然向いてない。
くれはは俺以上に頭が悪くて社会不適合だ。だから似たようなことを考えていたのかもしれない。
くれはのセーターの窪み、それはちょうどヘソの上辺りだったのだが、そこらへんをこねこねと指でなぞって
いるうちに、会社内恋愛ってエロいかもしれない、と思い付いてしまった。そしたら、そのまま指が昇っていき、
気付いたらその柔らかな丘に到達していた。その間、俺をじーっと見つめていたくれはは何を考えたか、
俺ののんびりとした指先を手ごと掴み、自分の胸元にぐいぐいっと押し付けたのだった。むにゅ。
そしたら、俺としては立ち上がり、テーブルの上のくれはの両胸を両手でぎゅーと揉みつぶすしかない。
まあ、ブラジャーとセーターの上からだから、柔らかなおっぱい、という感じは無い。胸を中央に押しつぶしたまま、
だいだいここら辺かなというしこりを親指でさわさわと刺激する。
会社のテーブルの上、真昼間、上司と部下、……劣化AVの安いシチュエーションか?
けど、安ければ安いほど、元々生きてる価値もないような激安人間の俺らにはちょうどいいのかもしれない。
気持ち抵抗するように俺の腕を腕で掴んで、薄目で許しを乞うかのような表情で俺を見るくれは。こういうときは、
キスしてやると非常に喜ぶ。くれははキスが好きな女だ。キスだけでいいです。セックスとかはいらないです、とか
思ってる女だ。俺は更に乱暴に胸を揉みくちゃにしながら、ゆっくりと唇を近づけてやる。やったー、という無言の
笑みが俺の下にある。んー。でも俺はいじわるをする。その薄く開いた唇の上に涎を垂らしておしまいにする。
「……や、ちょ、ちょっと」
あーうざい。俺は夜のくれはが好きだ。昼のくれははその胸と尻とまんこがあればいい。
年甲斐も無く女子高生のようなチェックのスカートを履いている。くれはの胸をいじりながら、もう片方は
その女子高生の中に侵入する。
布を一枚くぐれば、そこにはくれはの体温が広がっている。もったいぶって太腿のすべすべ感を味わう。
だいたい太腿を触れば俺には時間がわかる。2時ちょい。18歳程度の身体。まさに女子高生。それくらいの
ご都合的展開なら許されると思う。ブレザーの中の太腿は俺のいたずらを嫌がる。ぐいっと挟む。肉に挟まれる。
俺は弾力ある胸から手を離して、くれはの口元に指を持っていく。いつものやつをやれ。くれははキスしてくれなかった
恨みをここで晴らそうと顔を横に向ける。あーうざい。「キスしてやるから」と俺は言って、肉に挟まれたまま親指を
伸ばして布を上から割れ目をくいくいと突付いてやる。そのときにじとりと湿ってるのを感じる。変な液でてるよ。
くれはが俺の指をしゃぶり始める。俺の左手を両手で支えて、まず人差し指の爪先だけ口に含む。じゅり、じゅり、
と舌で指先を撫で付け、きゅっと、真空にする。つぱ。涎の海の中に指が沈む。と次の瞬間には人差し指全体が
生暖かいくれはの中に入り込んでいる。じゅぱ、じゅぱ……深いストローク。とっても気持ちいい。たかが指なのに。
次は中指を、としている間、俺は俺でくれはの割れ目に直接触れている。じっとりと湿った布キレが邪魔臭い。
布キレを横に丸めて置いておくために小指と薬指が使えない。でも人間良くしたもので、実際にいい動きをするのは
残りの3本なのだった。ぬちりと開いたくれはの割れ目は変な温度の粘液に満ちている。実は俺はこれが気持悪い。
でも量が多いのはいいことだ。親指の腹でくれはの敏感なしこりをもったいぶりながら撫で付ける。マルチタスクじゃない
他の指はくれはの粘液の中でそのびらびらのカスをこすり落とすような動きをしながらふやけていく。きもい。
「にゃぁ、あー」
指をしゃぶりながら意味のわからない言葉発するくれは。服の上から俺の半勃起を手コキし始める。
え? 何探偵が手コキしてんの? 俺はくれはの中に指を入れてしまう。くれは指を締め付ける肉壁がエロいよくれは。
不器用な慌しい手つきでチャックが下げられ、股間がヒヤリとした瞬間には俺のペニスが握られている。
指じゃつまらないよー、と上半身をねじって身体を起こしてズルリと皮を剥いて口に含む。邪魔っていう感じで
俺の右腕が蹴り飛ばされて、くれははテーブルの上に正座する。でも正座だとペニスの位置が低いから女の子座りになる。
女子高生のチェックのスカートから覗くその白い太腿に変な粘液が付着している。改めて口に含む。くれはのフェラチオ。
じゆ、じゆと、先程の指より全然太くて本物な肉の棒を、顔を前後に動かしてストロークを重ねる。手持ち無沙汰なので
髪の毛を撫でてやるが、これはAVの劣化コピーっぽいな、と思ってやめる。じゅぱ、じゅぱ、一旦口から離してその
先端をちろちろ舐める。痺れるような射精感。再び口に含もうとするくれはの顔をガッと押さえる。
――はい?
っていう顔が生意気そうな女子高生なので俺は顔射という嫌がらせも考えるが、そもそもまだ射精したくないという
思いと、胸から始まった絡みなのでせっかくだから、とパイズリしてくれと言ってみる。日本語が破綻しているという
自覚をいつも抱いている。「一応、脱ぎたくない」とくれはは言った。
いやいや、むしろ 服 の 上 か ら が い い。
セーターがちくちくした。想像と違った。ごめん。やっぱいいわ。
――テーブルの上で大きく太腿を開く。チェックのスカートを上に捲る。意味の良くわからない濡れた布を横にずらす。
くれはの口が割れ目の襞の奥に見える。ぬるぬるとした粘液を含んでいる。きもい。俺はその穴にペニスを導き、挿入する。
挿入しようとした。
くれはの若返りは唐突に発生する。先程、唐突に女子高生になったのと同様に。棗真夜(子供)になった。
まあ、でも、今はエロの流れだし俺もやりたいし、と腰を前に突き出すが、残念ながらくれはの閉じた割れ目の上を
なそるだけだった。くれははその年齢相応の性欲しかないので痛いのは非常に嫌がる。けれど、くれはも俺も中途半端だ。
どうしたものか。どうしたものか、と考え始めた時点でもうぐだぐだになっている。
持ってきた手提げから真夜用の服を取り出す。
ぬぎぬぎ。
――――「事件は防音室で起きた。犯人はあなた達の中にいる。(いるってことに私が決めた)」
くれはは時間を戻す。俺はくれはと一緒に時計を狂わすたびに頭が悪くなっていく。事件当日の夜。
防音室で試験をしている社員がいた。別に音を遮断する必要がある試験ではなかった。その男はここが好きだった。
ここで仕事をすると、会社の音がしなくて心地よかった。本当は音だけじゃなく、全てを遮断したかった。
くれはは男の前に突如、登場する。「この世界の真理を教えてあげましょう」くれはは男を連れてビックバン前夜のまで
遡る。男は見てしまう。『神』というラベルが貼られた『アレ』を見てしまう。そして、時を遡るという行為の本当の
意味を知ってしまう。それでも男はぎりぎり理性を保とうとする。男は目をつぶって情報を遮断する。
そこでくれはが横から囁いて止めを刺す。男は次の瞬間には防音室を飛び出している。その牙がまず新入社員に襲い掛かった。
「まず、神は世界を作りました。その前に言葉を作りました。でも、言葉は時間が無ければ在りえませんでした。
――なぜなら、言葉は左から右に流れて初めて言葉になるからです。
『言葉』は『こ→と→ば』という流れがあって初めて言葉になるからです。そうですよね?
流れというのは時間が無ければ生まれません。だから、神は言葉を作る前に、それ以前に『時間』があったのです。
では、『時間』はいつ発生したのか。
あなたが今見ているのは『無』です。『無』という『空間』ではありません。『空間』すら無いのです。
エントロピーとか神とかも存在しない『無』です。なにせ『時間』も無いんですからね。
ところが、何がどうして、『時間』が発生した。
そしたら、『時間』をパラメータに持つ『言葉』やら『世界』やらがその一点から一気に拡散して発生した。
では、その何がどうして、は一体なんなのか。
ねえ。
目を開いてくださいよ。
しっかりと、見てくださいよ。
――『あなた』なんですよ。
あなたが望んだから、今こうして世界はあるんです。
だから、『あなた』は『時間』なんだ。『神』なんだ。『言葉』なんだ。『世界』なんだ。
だから、今、や る べ き こ と を や り な さ い」
――――俺は思う。
くれはが殺人鬼なんだ。
そして、くれはが事件を解決する。つまり自作自演。
でも、じゃあ、くれはの人生ってなんなんだろうか。と、俺は考えたくなる。
そうするとくれはは怒って言う。
「ばか。そんなこと考えてる時間がもったいないよー」
――――――――――――――――――――――――おわり