さて、俺こと俺田俺介の珍妙な恋愛劇は一応の決着を見た。  
俺はとんでもない方法で片思いの相手をゲットし、往く先は順風満帆に見えた。  
「兄ちゃんー電話ー」  
弟の声が俺を呼ぶ。誰だよ、せっかく人があははと笑う斧使い相手に極限の緊張感を味わってる時に。  
言っとくがな、今の俺の研ぎ澄まされた神経なら如来神掌の会得だって難しくない、ありえねー技を見せてやるぜ。  
「誰からだ弟よ、申してみよ」  
口調もまさに荘厳そのもの、ぶっちゃけ惚れるぜ俺だけど。  
「兄ちゃんの彼女ー」  
ハイ、すぐ行きます。  
「お電話代わりました俺です俺俺」  
「・・・えっと、詐欺?」  
うん、やっぱりイイ。しーなサン最高。  
実を言うとしーなサンとはあの時以来会ってなかったりする。あの後学校は創立記念日やら校長誕生日やらで自主的にセルフゴールデンウィークに突入。二人は照れちゃってなんか距離を取っちゃうような甘すぎる関係なのだ。  
そりゃ東方先生も夢枕に立って「甘いぞぉぉぉ!」と仰られる訳だ。はい、解っていますとも、王者の風ですね。  
「ぉーい、俺田くん。聞いてる?」  
「もちろん、東方は赤く燃えてますよ先生!」  
「何言ってるか解らないよ」  
「遺言だよ、じゃなかった。ちょっと思考が飛んでました。具体的には東方に」  
「まあいっか、今から俺田くんのおうちに行っていい?」  
 
 
 
!?  
 
 
 
しーなサンが、俺の家にですか?  
まあ確かに事を起こしたのは我が家ではありますが、いや、悩むまい。俺としーなサンは恋人同士だ、何を迷う!  
「どーぞどーぞ、来ちゃってくださいよ!赤い薔薇の花を部屋中に一杯敷き詰めておくんでシルクのベッドで朝まで愛し合いましょう」  
まさにインマイドリーム、イエスだね!  
「すっごく気持ちはうれしいんだけどね」  
余談ではあるが、我が家の電話は玄関先にある。「もう、来ちゃってるんだ」  
えっ?  
ガチャッ  
「こんにちは、元気かな?」  
来た。  
「・・・・・・・」  
「どうしたの、俺田くん?」  
あれ、なんか知らないけど涙が・・・  
「えっ、えっ、何で泣いちゃうの」  
なんか、素直に感動した。久々に会うのが嬉しい。  
「というわけで、えいっ!」  
久々の手甲発動。あっと言う間にしーなサン幼女に。  
「きゃっ!びっくりしちゃうよっ!」  
「いいからいいから、まずは部屋にご案内ですよ」  
ていうかひ○らしつけっぱなしだけど気にするもんか、部屋は片付いてるからいいもんね。  
と言うわけで、俺はしーなサンを抱えて部屋に一目散なのだった。  
 
「っと、改めましていらっしゃいませしーなサン。ようこそ我が家へ」  
「呼ばれなくてもきちゃったけどね、今日はご用があったんだよ」  
ちなみに目の前のしーなサンは10歳程度、このぐらいにキュッと来る人たちも多いんじゃなかろうか。  
いわゆる魔女っ子年代。知らないって?当然、作ったの俺だし。  
「ていうか、ご用の前にちょっとふいふいさせてもらっていいですか?最近しーなサン分が足りなくて」  
「ダメだよ」  
即答された。仕方ないかな、昔俺こういうキャラ出してなかったし。  
「・・・目に見えて消沈してるところ申し訳ないけど、ご用の前にふいふいしていいですか?」  
前言撤回、そういえばしーなサンも見かけによらず意外にこっち方面の思考の持ち主なのだ。  
「もちろん、ドンと来てください」  
この間わずか0.05秒、ヨロシク勇気。  
「じゃあ、遠慮なく・・・」  
すっくと立ち上がる。  
「お兄さま、だぁい好き」  
「のうふぇおぅぅぃ!」  
意味不明の奇声が口をつく、なんだって、完全に不意打ちだ。  
「あっ、効果絶大だね、どうせやるならサービスした方がいいかなって思ったの」  
「ぜぜぜ全然OKっす鍛えてても回避不能っすむしろ妹になってください」  
「あはは、無理だよ。だって私俺田くんのお嫁さんになるつもりだもん♪」  
ああああああああ、死ぬ、萌え死んでしまう!なんて恐ろしいんだ、リミッターを外したしーなサンは・・・ッ!!  
「んーっ、俺田くんの匂いだよ。ちっちゃいと存分に甘えられて楽しいなぁ」  
俺に抱きついて顔をうずめるしーなサン。大丈夫、俺はそれ以上に幸せ。  
 
「ふいふい〜♪・・・ところで俺田くん?」  
気持ちよさそうに頭を動かしていたしーなサンが話を切り出す。  
「なんか気持ちいいからこのまま本題に入っちゃうけど。今日泊まっていいかな?」  
「気持ちいいのでもっと動いてください」  
「そうじゃなくて、宿泊だよ宿泊」  
・・・・・・ええっ!?  
「ととと泊まるってウチにですか!?」  
「そう、俺田くんハウスだよ、実はね」  
と言って一枚の紙を取り出すしーなサン。  
・・・ホークス応援セール?ホークスってもうダイエーじゃないよな。  
「えっと、ソ○トバンクが俺んちとどんな関係?」  
「違う違う、注目して欲しいのはココ!」  
卵ひとパック超絶特価。おひとりさま1パックまで。  
よく見たらウチの近所のスーパーである。って何でダイエーでもないのにホークス応援してるんだよ。謎すぎるぜスーパーさざなみ。  
「そこ、ウチと反対方向で朝から並びにくいの。ほかに泊まるところが無かったからお願いしにきたんだよ」  
さもなくば徹夜だった、としーなサン。徹夜組はマナーを守って、コスプレでの入場はご遠慮ください。スーパーさざなみ。  
「と、その前に疑問があるんだしーなサン」  
「何かな俺田くん?」  
「しーなサンハウスって、良家じゃなかったの?」  
「違うよ」  
衝撃の新事実。隊長、取り越し苦労は実在しました!!  
 
「違っ、ち、違うの?じゃああのお迎え黒塗りは?」  
「あれはお父さんの趣味なんだよ。職業執事だし」  
きっとお父さんが外国の方なんだろう。そんな気がする。  
「何となく納得した。そもそもハーフで良家って設定も結構無理あるし」  
「なんか、失礼な事言われたよ。でもね、私普通だから立派なお家に住んでる俺田くんにちょっと距離感じてたんだ」  
「・・・・・ホントにそんな所まで俺とそっくりなのね」  
「え、じゃあ俺田くんもこんな大きな家なのに普通系なの?」  
「財産はじいさんが一代で築いて一代で使ったから。親父もどこに居るかわかんないし、むしろ貧乏かも」  
そうなのだ。俺の親父である俺田俺俺は、ある日突然「俺は親父の跡を継ぐぞ!」と言い出して家を飛び出した。  
今はどこに居るのかさえわからない。  
「あれ。なんか、しんみりしちまった」  
「うん、設定語りが多くなっちゃったね。」  
そういう観点か。  
「と言うわけで、お世話になります俺田くん!」  
「喜んで喜んで、丁度暇だったし」  
○ぐらしでガタガタ震えてる最中だったのは内緒だ。  
「じゃあ、折角だしご飯でも作っちゃおうかな。しーなサンのご飯は美味しいヨ!」  
むしろしーなサン自体を食べたいんですが。  
「じゃあ、元に戻しちゃいますよ。・・・あれっ?」  
おかしい、全然反応しない。  
「・・・もしかして、壊れたのかもね」  
「何でそんなに冷静ですかしーなサン・・・って、壊れただってええええええええうおええ!!」  
 

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