母さんは、しばらく親父と二階に残るそうだ。  
なんだかんだで愛し合ってる二人だから、久々に二人っきりになるのもいいと思う。新たな兄弟が誕生するかもしれないけど。  
そして俺の方は三階の攻略である。次の相手もしーなサンだが、ここで説得して連れて帰れればこっちのものである。  
・・・絶対飽きるまで帰らなさそうだけど。  
 
勢いよく三階のバトルフィールドに突入する俺、何でもきやがれってんだ!  
そんなやる気充分の俺の眼前に飛び込んできたモノは  
 
制服亀甲縛りで天井から吊り下げられてるしーなサンだった。  
しかも制服は今各界で話題のリリアン88女学院の制服。  
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩くのがここでの嗜み。  
もちろん、亀甲縛りで吊り下げられるようなはしたない生徒は存在しようはずもなく。  
 
イルヨー  
 
「ようし冷静になれ俺。そうだ、これが今回の戦法に違いない」  
うん、すでに激しい倒錯攻撃により俺のハートはボロボロだ。  
ねえ、もうゴールしていいかな?  
「ふええええええぇ、俺田くーん!!」  
泣いた。  
はて、これはどう云うことか?  
本気で嫌がってるのか、うーむ。  
「って、悩んでる場合か!今降ろしますよしーなサン!!」  
「助けてよぉ、怖かったんだよぉ」  
「くっ、堅っ。誰だ玉結びなんかした奴!」  
「やりながらでいいから聞いて欲しいんだよぉ」  
 
とれねー、ああもうイライラする。俺をイライラさせるなぁ!  
このままイライラすれば全裸男から蛇デッキをもらえる。  
「ふぇ、お願いだから聞いて欲しいんだよぉ」  
しーなサンマジ泣き。しまった、放置するところだった。  
人それを『本末転倒』と言う、貴様に名乗る名など無い!  
「っと、しーなサンは何でこんな目に?」  
「俺田くんの偽物が出たんだよ」  
話を総括するとこうだ。  
しーなサン三階の戦いの準備中。今回の種目はガチバトル、俺ヤベー。  
そこに俺登場、でも何か様子おかしい、第一蝶ツエー。あっというまに組み伏されるしーなサン、偽物と密着。羨ま、いや許さん。  
そこでしーなサン俺が偽物である事に気づく。決め手はメカ線と球体関節。  
「つまり、言うなればメカ俺が出たんですね」  
こんな事が出来るのは奴しか居ない。  
「そう、それでこの有様なんだよ。怖かったよぅ」  
と、そこにガラスを豪快に破る音。  
「あ、あいつ!あいつだよ俺田くん!」  
なるほど、その侵入者はまさに俺だった。それ以上にメカだった。  
だがどうする、毎度の事ながら勝てる確証が全く無い。メカだから多分手甲も通じないだろう。  
どうする、とりあえずガラスの破片を利用してしーなサンを助けるか?  
そうすれば二人掛かりだ。  
ならば先ずは奴を引きつけなければ。しーなサンを拘束するに留めたなら、狙いは間違いなく俺!  
 
覚えている読者諸兄は非常に少数派だと思われるが、俺は足が凄く早い。  
だが、奴は俺と同じ能力を持っているに違いない、偽物メカのお約束だ。  
「付いて来れるか、このスクラップ三太夫!」  
最初からトップスピード、言うなれば縮地。  
俺の計算では、先手を取った分数瞬のアドバンテージが得れる筈だ。  
チャンスはそこである。  
「って嘘っ!!」  
余裕で付いて来やがった。確かに喧嘩が俺より強い時点で気づくべきである。  
豪快に殴り飛ばされる俺、いきなり万策尽きた。  
「ぐぇ、いてててて・・・」  
奴との距離は約5メートル。ガラス片はそこからさらに3、しーなサンはさらに2。簡単にどうにかなる距離じゃない。  
「ちょっとぐらい考える時間は稼げるか」  
流石に長距離攻撃はしてこないだろう。  
「・・・発射」  
ふいにこっちを向いた奴の顔から光線が迸り、タイルの床を溶かす。  
「そんなんアリかよ・・・」  
イヤ、メカだからアリなんだろう。  
いよいよどうにもならなくなってきた。どうにかビームには当たらないが、いつまでもやれるもんじゃない。  
いつまでも、出来ると思うな主人公。  
ヤバい、不吉すぎるぞ。こんな所で主役交代ですか。まだ童貞なのに。  
「諦めちゃダメだよぉ、俺田くーん!」  
イヤ、すんません。もう流石に勝てる気がしません。  
俺の心の一番大事な部分が折れかかったその時だった。  
「待つがいい、そこの不届者!」  
 
「だ、誰だ!!」  
そんな俺にビーム発射。  
「おわった、あぶねえじゃねぇか馬鹿!」  
あのメカ野郎、いつか倒す、絶対倒す。  
と、そこにまたもガラスが破れる音、そして人影。  
大事にしよう学校の備品、3階まではまだ学校。  
「そこな若者、君が俺田君か?それともあの目からビームを出す奇人が俺田君か?」  
「いや、おっさんは目からビームを出すのが人間に見えるのか?」  
そう、窓ガラスを割って入ってきたのはおっさんだった。  
つややかな金髪を、立派・・・とは天地がひっくり返っても言えないようなバーコード頭にし、燕尾服を纏った。  
そう、バーコードと執事、言うなればバーコードバトラーってのがこのおっさんの第一印象だった。  
「ふむ、失礼。ならば君が俺田君であって、あの君に似た木偶人形がお嬢様をあのような目に?」  
「お嬢様?しーなサンの事か」  
「左様」  
・・・はて、なにか食い違ったぞ。  
しーなサンの家は親父が執事であり、決して本人が金持ちと言うわけじゃない。  
じゃあこのしーなサンを『お嬢様』と呼ぶのは誰なんだ?  
まてよ・・・家が執事?  
「お嬢様ー!!不肖シンエモン・ベルモンド、僭越ながら助けに参りましたぞぉ!!!」  
「お父さんったら、その呼び方やめてよぉ!」  
・・・お父さん、そうか、おとうさんか。  
「・・・しまった」  
彼女の父上をおっさん呼ばわり、これは大変なことを。  
「えっと、どこから突っ込んでいいか判りませんけど、おっさん呼ばわりしてすいませんでした」  
「いや、よろしいのですよ俺田様。私こそお嬢様の思い人と知らずのご無礼、お許しください」  
うわ、めっちゃ腰低いよしーなサン父。こんなんでいいのか彼女の父親って。  
「・・・しかし、このような相手に梃子摺る御仁、私はまだまだ認めるわけには参りませんな」  
・・・前言撤回、先は厳しそうだ。  
 
「俺田様、お手本をお見せしましょう。お嬢様を頼みましたぞ」  
お手本、つまり奴を倒してくれるってことか。  
普通なら無理だ、と止める所なのだがそこはしーなサン父。  
多分強いと思う、いや絶対強い。  
「援護は要りますか?」  
「否、あのような木偶に負けるようでは、ベルモンド家の男児の恥」  
刹那、しーなサン父の姿が消える。  
「っん!!!」  
そして一瞬にして移動、メカ俺におもいっきり崩拳を叩き込んだ。  
あの身のこなし、相当な功夫を積んでいるに違いない、やはり執事というものは万能たるべきなのか。  
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ・・・・俺田様、呆けている場合ではありませぬ、早くお嬢様を!」  
そうだった、今なら楽勝で10メートルを詰め、さらに縄が解けずにイライラする時間までオマケに付いてくる。  
俺はしーなサン父に負けるまいと神速を発揮した。  
「・・・ほぉ」  
さて、何の障害も無くしーなサンの所にたどり着く。  
「さて、今解きますよ・・・・・くおおおおお、イライラする!!!」  
「俺田くん、縄が解けないならうまく緩めるといいと思うよ?」  
そうか、ここでしーなサンを幼女にすればいいんだな。  
なんて都合のいい。  
「でもお父さんが見てらっしゃるのに、リリアンの制服脱げちゃいますよ?」  
「ぶー、リリアンじゃなくて、エリアンだよ?」  
そうだった、うっかり間違えていたことを読者諸兄にお詫び申し上げます。  
「とにかくだよ、早く助け出してくれると嬉しいな」  
「ううむ、じゃあやりますよ?」  
やると決めたらためらわない、なんだかんだ言って二人ともコレが好きなんだ。  
・・・・ダメダメだ、俺たち。  
ともあれ小さくなったしーなサンは見事にするりと縄抜け、俺は戦力を立て直すに至った。  
さぁ待ってやがれメカ野郎、しーなサンのお父さんがきっとキサマを地獄に送るぜ!!  
「・・・俺田くん」  
あ、スミマセン、だからそんな哀れむような目で見ないで!  
 
 
 
《前回までのあらすじ》  
家業の道具屋を継ぎたくなかった俺は退屈な街の中毎日スケボーで憂さを晴らしていた。そんなある日、空からロボットに乗った可愛い女の子が???  
「俺田くん、嘘ばっかりつかないの」  
「ごめん、あまりにも久しぶりだったから」  
そんなこんなで現在俺たちはしーなさんちのお父さまが俺似の無敵ロボットをボコるのを目下見物中であって。  
「ハッ、セイッ、とぁぁぁっ!」  
「何かさ」  
「目の前でスクラップにされてく俺を見てると、ちょっとさ」  
「確かに」  
そう、いくら偽者とはいえ目の前で徹底的に破壊されてるのはまさに俺。  
あっ、いま腕が飛んだ。  
「ううう、俺田くんバラバラだよう」  
「偽者だと判ってても涙を誘うのは何故だろう」  
当然といえば当然か、そう考えるとジェット?リーやヴァンダムはすさまじい精神力である、まさにヴァンダボー。  
「というわけでお父さん、あとよろしくね」  
「承知しました」  
「あの???これから俺の見せ場が始まるんですけど」  
「だって、もうやる事ないでしょ?」  
ごもっとも。  
というわけで、俺たちはさらに上に向かうのだった。  
「でも、わたし戻って来たんだからもう放置でいいはずだよね」  
ところが、違うのだ。  
俺の想像が正しければ今回裏で手を引いてる、っていうか五階のボスやってるのは  
「おそらく???奴だ」  
「?」  
「というわけで二人力を合わせればプリ???じゃなかった、あと二階分ぐらい楽勝ですよ」  
「なんだかわからないけど、がんばろうね!」  
 
 

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